説明

超音波診断装置

【課題】超音波診断装置において、高調波成分検出処理後に生じる残留基本波成分を適応的に低減できるようにする。
【解決手段】残留基本波成分低減部26は、高調波成分検出部24から出力される検出信号に対して選択的に残留基本波成分低減処理を適用する。検出信号中における2次高調波成分に対して残留基本波成分が相対的に大きな場合に、基本波成分を抑圧する処理が実行される。2次高調波成分に対して残留基本波成分が相対的に大きくない場合にはそのような低減処理は実行されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に関し、特に、高調波成分を画像化する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断の分野において、高調波イメージング法が普及している。すなわち、生体組織の非線形性や造影剤の非線形応答に由来する高調波成分を画像として表示するものである。高調波イメージング法としては、受信信号からフィルタによって高調波成分を取り出す方法(フィルタ法)、振幅を変えつつ同一極性で2回の送信を行って得られた2つの受信信号を利得を調整した上で差分する方法(パルスモジュレーション法)、位相反転関係をもって2回の送信を行って得られた2つの受信信号を加算する方法(パルスインバージョン法)、等が知られている。いずれの方法も、基本波成分を除去しつつ高調波成分(二次高調波成分)を抽出、画像化するものである。
【0003】
しかしながら、上記の高調波成分に基づく高調波画像においては、モーションアーチファクトという固有のフラッシュ現象が生じることが知られている。すなわち、2回の送信の間における組織やプローブの動き(特に心筋の動き)に起因して2つの受信信号の加算処理や減算処理において基本波成分が十分に除去されず、残留基本波成分が生じて、それが断層画像上においてアーチファクトとして現れるものである。この場合、残留基本波成分のパワーは周期的に変動するので、画像上ではフラッシュの形態で残留基本波成分が現れる。これは画像診断上の障害となり、あるいは、観察者に不快感を生じさせる。なお、基本波成分は二次高調波成分に対してそもそも強大なパワーを有している。
【0004】
上記のモーションアーチファクトを低減する方法が特許文献1に開示されている。この従来技術では、高調波成分検出処理(2つの受信信号の加算処理等)の後において、それにより得られた検出信号中の残留基本波成分を閾値と比較し、閾値よりも残留基本波成分が大きい場合には検出信号に対してフィルタリングを施して残留基本波成分を低減するものである。つまり、必要に応じて二段階のフィルタリングを施すものである。同文献には、検出信号中からの残留基本波成分の取り出し方等について具体的な記述が認められないが、同文献の図9において閾値と基本波成分との関係が示され、第0026段落において基本周波数ω1のパワーと閾値の比較が記載されていることから、検出信号から残留基本波成分だけが抽出されていると理解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-165796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように理解される従来技術において、残留基本波成分と閾値との比較は絶対的な比較であり、二次高調波成分と残留基本波成分の相対的な関係、つまりそれらの大小関係が考慮されていない。残留基本波成分がある程度存在していても二次高調波成分のパワーがある程度大きければ残留基本波成分を低減させなくてもよい場合でも残留基本波成分が閾値よりも大きければ一律にそれを低減させているのである。また、二次高調波成分及び残留基本波成分の両方が低いレベルの場合においては相対的に見て残留基本波成分の低減が望ましいにもかかわらずそれを行えないという問題も指摘され得る。閾値が深さ方向に固定的に設定されるならば浅い領域と深い領域とで動作が異なってしまうという問題も懸念される。
【0007】
なお、信号のスペクトル上において残留基本波成分と高調波成分とが部分的にオーバーラップしているような場合に前者の全部を一律に除去すると、後者の一部も常に除去されてしまい、高調波画像の感度低下、分解能低下という別の問題が生じる。よって、モーションアーチファクトがあまり目立たないような状況では高調波検出処理で生じた検出信号に対して更なるフィルタリングを施さない方がよい。
【0008】
本発明の目的は、高調波成分検出後において検出信号中に含まれる残留基本波成分を高調波成分との関係を考慮しつつ適応的に低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る超音波診断装置は、超音波の送受波により得られた受信信号に対して高調波成分検出方式に従った高調波成分検出処理を適用することにより検出信号を出力する検出手段と、前記検出信号から生成された互いに異なる第1参照信号及び第2参照信号を参照することにより、前記検出信号中の二次高調波成分に対する前記検出信号中の残留基本波成分の相対的強度を判定する判定手段と、前記残留基本波成分の相対的強度が大きくそれが第1比率条件を満たす場合には前記検出信号中の残留基本波成分を抑圧することによって生成された狭帯域信号が出力されるようにし、前記残留基本波成分の相対的強度が小さくそれが第2比率条件を満たす場合には前記検出信号がそのまま出力され又は前記検出信号中の広帯域成分に相当する広帯域信号が出力されるようにする選択的低減手段と、前記選択的低減手段の出力信号に基づいて超音波画像を形成する画像形成手段と、を含むことを特徴とする。
【0010】
上記構成において、検出手段は、受信信号に対して高調波成分を検出(抽出)する処理を適用し、これによって検出信号を出力する。高調波成分検出方式としてパルスインバージョン法が採用されている場合、高調波成分検出処理では、第1送受信(正相送信)によって得られた第1受信信号と、第2送受信(逆相送信)によって得られた第2受信信号とが加算処理される。この他にはパルスモジュレーション法その他がある。この検出処理は、基本波成分をキャンセルし、生体側由来の高調波成分を増強する処理である。もっとも、基本波成分は本来的に強大な成分であり、それが部分的に高調波帯域まで及んでいることもあり、また、キャンセルを行っても実際には完全にはキャンセルされないので、大なり小なり残留基本波成分が高調波成分検出処理の結果として生じることになる。そのような残留基本波成分が生体等の動きによって変化する場合、上記のモーションアーチファクト(フラッシュ)として画面上に現れる。そこで、判定手段がそのような残留基本波成分が画像化される可能性を判定する。詳しくは、検出信号の参照によって、二次高調波成分に対する残留基本波成分の相対的強度が判定され、望ましくは、当該相対的強度の大小によって残留基本波成分の抑圧の有無あるいは程度が判定される。この場合、単純に残留基本波成分の絶対的な大きさを参照するのではなく、二次高調波成分との比較において残留基本波成分の大きさが評価されるから、残留基本波成分の抑圧が必要な場合にそれを実行することが可能であり、つまり過度の抑圧を防止可能である。選択的低減手段は、残留基本波成分の相対的強度が大きい場合(第1比率条件が満たされる場合)、高調波画像上において組織あるいは造影剤に比べてモーションアーチファクトが顕著に表示されることを防止するために、検出信号中の残留基本波成分を抑圧することにより生成された狭帯域信号を出力する(狭帯域は広帯域に対する相対的概念であり、望ましくは二次元高調波帯域である)。一方、残留基本波成分の相対的強度が小さい場合(第2比率条件が満たされる場合)、高調波画像上において組織あるいは造影剤に比べてモーションアーチファクトが目立たないから、検出信号をそのまま出力しあるいは広帯域信号を出力する。この場合、不必要に帯域制限が行われないから有効な信号成分をより画像化して画質を高められる。例えば、条件次第では、高調波成分の一部が基本波帯域まで及び、狭帯域処理を適用すると当該部分まで抑圧されてしまうが、広帯域処理であれば当該部分までを画像化の対象とすることが可能となる。
【0011】
本発明によれば、高調波成分の大きさとの相対的関係において残留基本波成分が許容できる範囲内か否かを判定でき、あるいは、当該成分の影響度を評価することが可能である。よって、状況に相応しい信号処理を行って超音波画像(高調波画像)の画質を高められ得る。判定結果に応じて複数の通過帯域のいずれかを選択するようにしてもよいが、通過帯域の大きさを連続的に可変するようにしてもよい。変形例としては、複数の通過帯域を通過した複数の信号のブレンド処理において重み付けを変化させる態様があげられる。
【0012】
検出信号から生成された第1参照信号及び第2参照信号は両者の比較によって二次高調波成分に対する残留基本波成分の相対的強度の判定を行えるものである。第1参照信号が二次高調波成分(狭帯域信号)であってもよく、第2参照信号が検出信号それ自体又は両帯域に跨る広帯域成分を有する広帯域信号であってもよい。あるいは、第1参照信号が基本波成分を有する狭帯域信号であってもよく、第2参照信号が検出信号それ自体又は両帯域に跨る広帯域成分を有する広帯域信号であってもよい。あるいは、第1参照信号が第二高調波成分を示す信号であり、第2参照信号が基本波成分を示す信号であってもよい。各種の組み合わせが考えられる。
【0013】
望ましくは、前記高調波成分検出処理は、第1送受信条件で得られた第1受信信号と、第1送受信条件とは異なる第2送受信条件で得られた第2受信信号と、を用いた加算処理又は減算処理である。パルスインバージョン法においては通常、2つの受信信号が加算処理され、パルスモジュレーション法等においては利得調整の上で2つの受信信号が減算処理される。
【0014】
望ましくは、前記第1参照信号は前記検出信号中の二次高調波成分を示す信号であり、前記第2参照信号は前記検出信号それ自体であり又は前記検出信号中の基本波成分及び二次高調波成分の両者を示す信号である。第1参照信号が上記狭帯域信号に相当してもよい。第2参照信号が上記広帯域信号に相当してもよい。
【0015】
望ましくは、前記選択的低減手段は、前記狭帯域信号に対して利得調整を適用する。狭帯域信号と高帯域信号とで利得が異なるなら、両者の利得を揃える利得調整を適用するのが望ましい。この構成によれば、例えば、1フレーム内あるいは1ビーム内において抑圧低減処理の内容あるいは条件をリアルタイムで切り替えるような場合に切り替え時点で利得が変化してしまう問題を解消できる。利得調整は所望の段階において行える。
【0016】
望ましくは、前記第1参照信号は前記検出信号中の基本波成分を示す信号であり、前記第2参照信号は前記検出信号それ自体であり又は前記検出信号中の基本波成分及び二次高調波成分の両者を示す信号である。望ましくは、前記選択的低減手段は、前記検出信号中の残留基本波成分の相対的強度に応じて帯域特性を可変させる可変フィルタを備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高調波成分検出後において検出信号中に含まれる残留基本波成分を高調波成分との関係を考慮しつつ適応的に低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1に示す高調波成分検出部の構成例を示す図である。
【図3】スペクトルとフィルタ特性との関係を示す図である。
【図4】図1に示した残留基本波成分低減部の第1の構成例を示す図である。
【図5】図4に示した構成例における動作条件を示す図である。
【図6】図1に示した残留基本波成分低減部の第2の構成例を示す図である。
【図7】図6に示した構成における動作条件を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1には、本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態を示されており、図1はその全体構成を示すブロック図である。図1に示す超音波診断装置は医療の分野において用いられ、生体に対する超音波の送受波により超音波画像を形成するものである。本実施形態においては超音波画像として特に高調波画像が形成されている。
【0021】
図1において、プローブ10は超音波を送受波する送受波器である。プローブ10は複数の振動素子からなるアレイ振動子を備えており、そのアレイ振動子によって超音波ビーム12が形成される。超音波ビーム12は電子走査され、これによってビーム走査面14が形成される。電子走査方式としては電子セクタ走査、電子リニア走査等が知られている。プローブ10が2Dアレイ振動子を有していてもよい。
【0022】
送信部16は送信ビームフォーマーであり、本実施形態においては、高調波画像を形成するために、1つのビームアドレス毎に2回の送受信が実行されている。1回目の送信においては正相条件の下で送信信号18がプローブ10に対して供給され、2回目の送信時においては逆相条件の下で送信信号20がプローブ10に対して供給される。したがって、プローブ10は、1回目の送受信において、送信ビームを形成し、生体内からの反射波を受波する。これによって複数の受信信号が受信部22へ出力される。2回目の送受信においても同様であり、送信ビームが形成されると、生体内からの反射波がプローブ10によって受波され、これによって複数の受信信号が受信部22へ出力される。ちなみに、第1回目の送受信が完了した後に第2回目の送受信が実行されている。このような過程が各ビームアドレス毎に実行されることになる。位相が180度異なる2つの送信信号を順次送信するのは、受信信号処理において基本波成分をキャンセルし、高調波成分(特に2次高調波成分)を抽出するためである。パルスインバージョン法ではなくパルスモジュレーション法等の他の方式が採用される場合には、その採用された方式に従った送受信が実行されることになる。
【0023】
受信部22は受信ビームフォーマーであり、入力される複数の受信信号に対して整相加算処理を実行し、これによって整相加算後の受信信号すなわちビームデータを生成し、それを出力する。2回の送受信に対応して各ビームアドレス毎に2つのビームデータが出力されることになる。
【0024】
高調波成分検出部24は、第1回目の送受信で得られた第1受信信号と、第2回目の送受信によって得られた第2受信信号との間で加算処理を実行し、これによって高調波成分を検出(抽出)する。その手法は公知である。高調波成分検出方式にしたがった高調波成分検出処理が実行されることになる。高調波成分検出部24は専ら高調波成分を主体とする検出信号を出力することになる。すなわち、2つの送受信の間において組織の動き等があった場合にはそれが残留基本波成分として検出信号中に表れることになり、それが画像上においてモーションアーチファクトとして表れることになる。それを低減するために本実施形態においては残留基本波成分低減部26が設けられている。
【0025】
残留基本波成分低減部26の具体的な構成例については後に図4及び図6を用いて説明する。この残留基本波成分低減部26は、2次高調波成分の大きさと基本波成分(残留基本波成分)の大きさとを比較し、残留基本波成分の相対的強度が大きいと認められる場合に当該成分の抑圧処理を実行するものである。逆に言えば、残留基本波成分の相対的な強度がそれほど大きくない場合には、過度の抑圧を防止するために、入力される検出信号をそのまま出力しあるいはその内で広帯域成分を出力成分として出力する。残留基本波成分の低減処理が実行される場合、基本波成分を抑圧する処理が実行され、すなわち二次高調波成分を中心とした狭帯域成分の抽出処理が実行され、これによって狭帯域信号が出力されることになる。残留基本波成分の低減の有無に応じて出力信号のレベルが異なることを防止するために、両者の利得を揃える利得調整処理が実行されるのが望ましい。すなわち、本実施形態においては、リアルタイムで送受信を行いながら、リアルタイムで残留基本波成分低減処理が選択的に適用されており、すなわち1ビーム中においてあるいは1フレーム中において動的に低減処理の有無が切り替えられることになる。その場合においても利得差によって画像が劣化しないように利得調整が実行されている。
【0026】
検波部28は、RF信号としてのビームデータをベースバンド信号としてのビームデータに変換する検波処理を実行するものである。すなわち、本実施形態においては高調波成分検出処理及び残留基本波成分低減処理はRF信号に対して適用されている。
【0027】
検波後のビームデータは画像形成部30へ送られる。画像形成部30は、信号処理部及びデジタルスキャンコンバータ(DSC)により構成され、画像形成部30によって複数の処理が適用されたビームデータから表示画像が構成される。そのデータは表示部32に送られ、表示部32には高調波画像が表示されることになる。なお、図1においては、ドプラ信号処理モジュール等については図示省略されている。表示部32に3次元画像が表示されてもよく、その場合においては高調波成分に基づく3次元画像が表示されてもよい。
【0028】
制御部34はCPU及び動作プログラムによって構成され、図1に示される各構成の動作制御を行っている。特にパルスインバージョン法に基づく送受信制御を実行している。入力部36は制御部34に接続されている操作パネルである。操作パネルはキーボードやトラックボール等の入力デバイスを備える。そのような入力部36を利用して残留基本波成分低減処理における切り替え条件や低減度合い等をユーザーによって定めるようにしてもよい。
【0029】
図2には、高調波成分検出部24の構成例が示されている。第1回目の送受信によって生成された第1ビームデータ42はラインメモリ38に一時的に格納される。一方、2回目の送受信によって得られた第2ビームデータ44が入力されると、ラインメモリ38から第1ビームデータ42が読み出され、それらの2つのビームデータが加算器40において加算処理される。これによって上述した検出信号すなわち2次高調波成分を含む信号が生成されることになる。各ビームアドレス毎にこのような処理が繰り返し実行される。
【0030】
次に、図3を用いて残留基本波成分低減部26の作用について説明する。図3において、(a)には上述した高調波成分検出処理を行う前の受信信号スペクトルが示されている。そのスペクトルは、具体的には基本波成分100と2次高調波成分102とを含むものである。3次以上の高調波成分については図示省略されている。この例においては、基本波成分100の一部分と2次高調波成分102の一部分とがオーバーラップしている。高調波成分検出処理においては、条件を異ならせて取得された2つのビームデータにおいて加算処理等を行うことにより、基本波成分100を相殺し、2次高調波成分102を取り出すことが可能である。そのように取り出されたものが検出信号である。
【0031】
(b)には残留基本波成分があまり含まれていない検出信号のスペクトルが示されている。ここで、符号104Aは残留基本波成分を示しており、それは中心周波数f0を中心として一定の範囲にわたって存在しているが、その振幅すなわちレベルはあまり大きくはない。符号102Aは2次高調波成分を示しており、それは中心周波数2f0を中心として一定の範囲に広がっており、そのレベルは相対的に見て大きい。すなわち、この(b)に示すような2つの成分の大小関係に着目した場合に、残留基本波成分104Aは相対的に見て小さいために、それが画像化されたとしても顕著なモーションアーチファクトとして表示されることはないものと認められる。そこで、高調波成分をより多く画像化するために、符号106Aで示されるようなフィルタ特性が選択され、そこを通過する成分の全部を用いて高調波画像が生成される。フィルタ特性106Aは広帯域特性であり、基本成分及び2次高調波成分の全体にわたる帯域を有している。この場合、検出信号をそのままスルーすることにより広帯域信号を生成するようにしてもよいし、図示されるように広い幅を持ったフィルタ特性106Aを利用して広帯域信号を生成するようにしてもよい。ちなみに、(b)に示すスペクトルは例示であり、これは以下に説明する(c)に示すスペクトルについても同様である。
【0032】
(c)にはモーションアーチファクトが大となるような検出信号のスペクトルが示されている。符号104Bは基本波成分を示しており、その振幅は比較的に大きい。一方、符号102Bは2次高調波成分を示しており、基本波成分104Bと2次高調波成分102Bとを比較した場合、前者の方がやや大きくなっている。例えば、前者の方が後者の半分位のレベルであったとしても、残留基本波成分の画像化はモーションアーチファクトという問題を生じさせるから、そのような成分を抑圧することが望まれる。そこで、本実施形態においては、符号106Bで示すようなフィルタ特性が選択され、すなわち2次高調波成分を中心として抽出するバンドパスフィルタが利用され、これによって残留基本波成分104Bが大幅に低減される。このような狭帯域のフィルタ特性を利用して狭帯域信号が生成され、それは専ら2次高調波成分から構成されるものである。本実施形態においては、このように2段階のフィルタ特性が選択的に採用されているが、連続的にフィルタ特性を可変するようにしてもよい。それも段階的なフィルタ特性の選択の一態様と言い得る。
【0033】
図4には、図1に示した残留基本波成分低減部26の第1構成例が示されている。検出信号は第1フィルタ46及び第2フィルタ48に入力される。第1フィルタ46と第2フィルタ48は並列的に設けられており、第1フィルタ46は符号46Aで示すような広帯域の通過特性を有しており、第2フィルタ48は符号48Aで示すように狭帯域の通過特性を有している。第1フィルタ46を通過した信号成分は広帯域信号と称することができ、すなわちそれは基本波成分及び2次高調波成分の両方に跨がった広帯域成分からなるものである。広帯域信号は比較器50に入力される。その入力信号はSとして示されている(SはF(基本波成分)と以下のHとを加算したものに相当する)。また当該信号はセレクタ52の一方の入力端子にも送られている。
【0034】
第2フィルタ48が有する通過特性は符号48Aで示す狭帯域特性であり、これによって2次高調波成分を中心として信号成分が抽出されることになる。それは狭帯域信号と称することができる。その狭帯域信号は符号Hで示すように比較器50に入力され、またセレクタ52における他方の入力端子に入力されている。
【0035】
比較器50においては図5で示すような条件にしたがってセレクタ52の動作を選択している。具体的には、Sがn・Hより大きい場合に(第1比率条件が満たされる場合に)、第2フィルタ48からの出力信号が選択されるようにしている。この場合に、残留基本波成分が大きく抑圧されることになる。一方、Sがn・H以下の場合には(第2比率条件が満たされる場合には)第1フィルタ46の出力信号すなわち広帯域信号が選択されるようにしている。nは1より大きい値を持つ係数であり例えば2といった数値が与えられる。この条件によると、残留基本波成分が2次高調波成分とほぼ同じレベルに到達すると残留基本波成分に対する抑圧処理が実行されることになる。
【0036】
図4に示す構成例においては、第1フィルタ46から出力される広帯域信号が比較器50における第1参照信号として利用されており、また第2フィルタ48から出力される狭帯域信号が比較器50における第2の参照信号として利用されている。セレクタ52においては広帯域信号及び狭帯域信号のいずれかが選択されている。もちろん両者がブレンドされるように構成してもよい。図4に示す構成例では第1フィルタ46が存在していたが、検出信号をそのままスルーさせ、それを広帯域信号として利用するようにしてもよい。すなわち検出信号をそのまま比較器50の一方の入力端子に与え、またセレクタ52の一方の入力端子に与えるようにしてもよい。本実施形態において、比較器50は状態判別器として機能しまた帯域選択制御器として機能している。
【0037】
図6には図1に示した残留基本波成分低減部26の第2の構成例が示されている。この構成例において、検出信号はフィルタ54に入力されている。このフィルタ54はこの例では符号54Aで示すように基本波成分を抽出する特性を有しており、抽出された基本波成分Fと検出信号Sとが比較器56において比較される。図4に示す実施形態では2次高調波成分が参照されていたが、図6に示す例では基本波成分が参照されている。しかしながら、これは実質的には2次高調波成分と基本成分との相対的な比較に相当するものである。比較器56はSとn・fとを比較し、その比較結果をフィルタコントローラ58へ与える。フィルタコントローラ58は図7に示す動作条件にしたがって可変フィルタ60における通過帯域の制御を実行する。図7に示すように、Sがn・Fよりも大きい場合に(第2比率条件が満たされる場合に)、広帯域特性が選択され、すなわち図6に示す可変フィルタ60に対して広帯域を通過させる特性が設定される。一方、図7に示すように、Sがn・F以下(第1比率条件が満たされる場合には)である場合には、狭帯域特性が選択され、すなわち図6に示す可変フィルタ60に狭帯域の通過特性が設定されることになる。この場合においては残留基本波成分が大きく抑圧されることになる。
【0038】
以上のように、検出信号における一部分の成分とそれ全体あるいは他の成分との比較により、残留基本波成分の相対的な大きさを評価して、それに応じて画像化する信号の帯域を選択するように構成するのが望ましい。従来においては絶対的な評価が行われていたが、本実施形態においては相対的な評価に基づいて抑圧の有無あるいは程度が切り替えられるから、残留基本波成分が目立つ場合にそれを抑圧できるという合理的な処理を実現でき、逆に言えば、残留基本波成分が目立たないような場合には、必要な信号成分を効果的に利用して超音波の高調波画像を生成できるという利点が得られる。
【符号の説明】
【0039】
10 プローブ、24 高調波成分検出部、26 残留基本波成分低減部、28 検波部、30 画像形成部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波の送受波により得られた受信信号に対して高調波成分検出方式に従った高調波成分検出処理を適用することにより検出信号を出力する検出手段と、
前記検出信号から生成された互いに異なる第1参照信号及び第2参照信号を参照することにより、前記検出信号中の二次高調波成分に対する前記検出信号中の残留基本波成分の相対的強度を判定する判定手段と、
前記残留基本波成分の相対的強度が大きくそれが第1比率条件を満たす場合には前記検出信号中の残留基本波成分を抑圧することによって生成された狭帯域信号が出力されるようにし、前記残留基本波成分の相対的強度が小さくそれが第2比率条件を満たす場合には前記検出信号がそのまま出力され又は前記検出信号中の広帯域成分に相当する広帯域信号が出力されるようにする選択的低減手段と、
前記選択的低減手段の出力信号に基づいて超音波画像を形成する画像形成手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記高調波成分検出処理は、第1送受信条件で得られた第1受信信号と、第1送受信条件とは異なる第2送受信条件で得られた第2受信信号と、を用いた加算処理又は減算処理である、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の装置において、
前記第1参照信号は前記検出信号中の二次高調波成分を示す信号であり、前記第2参照信号は前記検出信号それ自体であり又は前記検出信号中の基本波成分及び二次高調波成分の両者を示す信号である、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1記載の装置において、
前記選択的低減手段は、その出力信号に対して利得調整を適用する、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1又は2記載の装置において、
前記第1参照信号は前記検出信号中の基本波成分を示す信号であり、前記第2参照信号は前記検出信号それ自体であり又は前記検出信号中の基本波成分及び二次高調波成分の両者を示す信号である、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項5記載の装置において、
前記選択的低減手段は、前記検出信号中の残留基本波成分の相対的強度に応じて帯域特性を可変させる可変フィルタを備える、ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−103001(P2013−103001A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249558(P2011−249558)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】