説明

超音波診断装置

【課題】ユーザ操作の負担を軽減しつつ胎児に対して適切な視線方向を設定する。
【解決手段】羊水領域抽出部30は、受信信号に基づいて形成される三次元空間のボリュームデータ内において、羊水に対応した複数の羊水領域を抽出する。基準羊水特定部40は、各羊水領域の大きさに基づいて複数の羊水領域の中から視線の基準となる基準羊水領域を特定する。視線方向設定部50は、特定された基準羊水領域を通り胎児に向かうように視線方向を設定する。表示画像形成部60は、設定された視線方向に沿って胎児を映し出した三次元表示画像の画像データを形成する。これにより、視線方向を設定するためのユーザ操作の負担を格段に軽減しつつ、胎盤などにより隠されること無く胎児の顔などを極めて明瞭に映し出すことが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に関し、特に胎児を映し出した表示画像を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
胎児を含む三次元空間に対して超音波を送受することにより得られるボリュームデータに基づいて、胎児を立体的に映し出した三次元の超音波画像を形成する技術が知られている。例えば、特許文献1には、ボリュームレンダリング法によって三次元の超音波画像を形成する技術が示されている。ボリュームレンダリング法によれば対象組織等をその表面から内部に亘って透過するように映し出した表示画像を形成することができる。
【0003】
胎児の顔などを映し出した三次元画像を形成する場合には、ボリュームレンダリング法における演算開始位置を例えば羊水内に設定して視線方向を決定することにより、比較的ノイズが少ない画像を得ることができる。
【0004】
ところが、胎児の顔などは子宮壁や胎盤などに接していることが多く、良好な画像を得るために、例えばユーザがトラックボールなどの操作デバイスを利用して、羊水を通るように視線方向を変更するなどの手間を必要としていた。また、特許文献1に記載の技術においても、胎児の向きなどを把握するために球や三角錐などのパターンをユーザが入力するなどの手間を要していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−288964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した背景技術に鑑み、本願の発明者は、胎児を映し出した表示画像を形成する技術について研究開発を重ねてきた。特に、三次元画像の形成に利用される視線方向の設定に注目した。
【0007】
本発明は、その研究開発の過程において成されたものであり、その目的は、ユーザ操作の負担を軽減しつつ胎児に対して適切な視線方向を設定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的にかなう好適な超音波診断装置は、胎児と羊水を含む三次元空間に対して超音波を送受するプローブと、プローブを制御することにより前記三次元空間から受信信号を得る送受信部と、受信信号に基づいて形成される前記三次元空間のボリュームデータ内において、羊水に対応した複数の羊水領域を抽出する羊水領域抽出部と、各羊水領域の大きさに基づいて複数の羊水領域のうちから視線の基準となる基準羊水領域を特定する基準羊水特定部と、特定された基準羊水領域に基づいて視線方向を設定する視線方向設定部と、設定された視線方向に沿って胎児を映し出した表示画像の画像データを形成する画像形成部と、を有することを特徴とする。
【0009】
望ましい具体例において、前記羊水領域抽出部は、複数のボクセルで構成されるボリュームデータ内の各ボクセルのボクセル値に基づいて羊水に対応した複数の羊水ボクセルを識別し、複数の羊水ボクセルからなる塊を前記各羊水領域として抽出する、ことを特徴とする。
【0010】
望ましい具体例において、前記羊水領域抽出部は、前記ボリュームデータに対して設定される探索方向に沿って探索開始側から胎児側へ向かって各ボクセルのボクセル値と閾値とを比較し、複数の羊水ボクセルからなる塊のうち最も探索開始側の塊を前記各羊水領域として抽出する、ことを特徴とする。
【0011】
望ましい具体例において、前記基準羊水特定部は、前記ボリュームデータに対して設定される選択領域内で最もボクセル数の多い羊水領域を前記基準羊水領域とする、ことを特徴とする。
【0012】
望ましい具体例において、前記視線方向設定部は、前記基準羊水領域内から胎児側へ向かうように前記視線方向を設定する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、ユーザ操作の負担を軽減しつつ胎児に対して適切な視線方向を設定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。
【図2】関心領域設定部における関心領域の設定を説明するための図である。
【図3】羊水領域抽出部における羊水領域の抽出処理を説明するための図である。
【図4】探索方向範囲の制限を説明するための図である。
【図5】視線方向の設定を説明するための図である。
【図6】表示部に表示される表示画像の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。プローブ10は、対象組織を含む領域に対して超音波を送受波する超音波プローブである。プローブ10は、超音波を送受する複数の振動素子を備えており、複数の振動素子が送受信部12によって送信制御されて送信ビームが形成される。また、複数の振動素子が対象組織を含む領域内から得られる超音波を受波し、これにより得られた信号が送受信部12へ出力され、送受信部12が受信ビームを形成して受信ビームに沿ってエコーデータが収集されメモリ等に記憶される。
【0016】
プローブ10は、超音波ビーム(送信ビームと受信ビーム)を三次元空間内において走査して立体的にエコーデータを収集する三次元プローブが好適である。例えば、一次元的に配列された複数の振動素子(1Dアレイ振動子)によって電子的に形成される走査面を機械的に動かすことにより超音波ビームが立体的に走査される。また、二次元的に配列された複数の振動素子(2Dアレイ振動子)を電子的に制御して超音波ビームを立体的に走査してもよい。
【0017】
三次元空間内において超音波ビームが走査されてエコーデータが収集されると、その三次元空間に対応した三次元データ空間を構成する複数のボクセルについてのエコーデータ(ボクセルデータ)がメモリなどに記憶される。複数のボクセルデータで構成された三次元データ空間はボリュームデータと呼ばれる。そして、そのボリュームデータに対して、関心領域設定部20以降の各部において各種の処理が実行される。
【0018】
本発明における好適な対象組織は胎児であり、本実施形態では、胎児と羊水を含んだ三次元空間から得られるボリュームデータに基づいて、例えばボリュームレンダリングを利用して胎児の顔などを映し出した表示画像が形成される。そこで、表示画像が形成されるまでの各種の処理について説明する。なお、図1に示した部分(構成)については、以下の説明において図1の符号を利用する。
【0019】
図2は、関心領域設定部20における関心領域の設定を説明するための図である。関心領域設定部20は、ボリュームデータに対して三次元の関心領域を設定する。その設定においては、例えば図2に示すような表示画像72が形成されて表示部70に表示される。
【0020】
図2の表示画像72は、互いに直交する三断面の断層画像、つまり、断面A,断面B,断面Cの断層画像と、三次元画像で構成されている。そして、各断面内にはその断面内における三次元関心領域の境界が表示される。つまり、断面A内に境界22Aが表示され、断面B内に境界22Bが表示され、断面C内に境界22Cが表示される。三次元関心領域は、これら三断面内の境界22A〜22Cによって形成される立体形状である。例えば、図2の例においては、三断面内において各々が矩形の境界22A〜22Cにより、直方体の三次元関心領域が設定される。なお、三次元関心領域の形状は直方体に限定されず、その他の立体形状であってもよい。
【0021】
また、三断面内の境界22A〜22Cは、例えばユーザ操作に応じて、その位置や大きさなどが調整される。例えば、ユーザは、断面A,断面B,断面Cの断層画像を見ながら境界22A〜22Cの位置や大きさを調整し、胎児などが入るように三次元関心領域内を設定する。
【0022】
三次元関心領域が設定されると、図1の羊水領域抽出部30は、三次元関心領域内のボリュームデータを構成する複数のボクセルデータを閾値により二値化する。母体内においては羊水内に胎児が存在し、さらに胎児の近傍に胎盤なども存在している。そして、胎児や胎盤からは比較的大きなエコー値(ボクセル値)が得られ、羊水から得られるエコー値(ボクセル値)は比較的小さい。そこで、羊水領域抽出部30は、胎児や胎盤のボクセル値と羊水のボクセル値との間に適宜に設定された閾値により、複数のボクセルデータを二値化処理し、胎児や胎盤のボクセル値と羊水のボクセル値とを識別する。
【0023】
図3は、羊水領域抽出部30における羊水領域の抽出処理を説明するための図である。羊水領域を抽出するにあたって、まず、三次元関心領域内のボリュームデータに対して探索方向32が設定される。探索方向32は、例えば、プローブ10の側から出発して三次元関心領域内を通りプローブ10から遠ざかる方向に設定される。なお、例えばデフォルト設定された方向、例えば初期設定された視線方向に沿って探索方向32が設定されてもよいし、探索方向32をユーザが設定できる構成としてもよい。
【0024】
図3(A)は、探索方向32の設定例を示している。図3(A)には、ボリュームデータ内のある断面(例えば直交三断面のうちの断面A)と、その断面内における探索方向32が示されている。探索方向32は、例えば互いに等間隔に平行にボリュームデータ内を埋め尽くすように設定される。図3(A)には、複数の探索方向が破線で図示されておりそのうちの1本が実線矢印で示す探索方向32である。羊水領域抽出部30は、各探索方向32に沿って並ぶ複数のボクセルデータ(エコーデータ)を閾値により二値化処理して羊水領域を探索する。
【0025】
図3(B)には、図3(A)の探索方向32に沿って並ぶ複数のボクセルデータ(エコーデータ)のエコー値が示されている。羊水領域抽出部30は、探索開始側(原点O)から胎児側へ向かって設定される探索方向32に沿って各ボクセルのボクセル値(エコー値)と閾値αとを比較する。そして、閾値αよりもエコー値が小さいボクセルからなる塊のうち、最も探索開始側の塊を羊水領域として抽出する。つまり、探索開始側から探索方向32に沿って、次々に各ボクセルのボクセル値(エコー値)と閾値αが比較され、閾値αよりもエコー値が小さい一連のボクセルが羊水領域とされ、閾値α以上となるボクセルが出現した場合にそのボクセルが胎児の表面と認識される。そして、その胎児の表面よりも奥(探索方向32の先)に存在する閾値αよりも小さいボクセルは羊水領域とされない。これにより、胎児の表面よりも奥に存在する胎児内のシャドウなどが羊水領域から除外される。
【0026】
さらに、胎児と胎盤などが接している場合でも、探索方向32に沿って羊水領域を的確に抽出するために、探索方向32の範囲を制限するようにしてもよい。
【0027】
図4は、探索方向32範囲の制限を説明するための図である。図4には、図3(A)と同じ断面とその断面に設定された探索方向32が示されいる。図4においては、さらに、探索終了線34が示されている。探索終了線34は、探索開始側から探索方向32に沿って、次々に各ボクセルのボクセル値(エコー値)と閾値αを比較する際の終了時点を示す線である。つまり、探索方向32に沿って羊水に対応するボクセルが探索されるものの、探索終了線34の位置に達すると、羊水に対応するボクセルが検出されたか否かに関わらず探索が終了する。
【0028】
これにより、例えば、胎児と胎盤が接していて、胎児と胎盤の間の羊水が検出できない場合でも、探索終了線34の位置で探索が終了するため、胎児内のシャドウなどが羊水として誤って認識されることを回避することができる。そのため、探索終了線34は、胎児と胎盤の間の羊水が探索範囲に入る程度に設定されることが望ましく、例えば、探索方向32の全範囲(画像端から画像端まで)のうち、探索開始側の画像端から数パーセント程度の位置に探索終了線34が設定される。もちろん、探索終了線34の位置をユーザが調整できるようにしてもよい。
【0029】
図3と図4を利用して説明した探索方向32は、例えば互いに等間隔に平行にボリュームデータ内を埋め尽くすように設定される。羊水領域抽出部30は、各探索方向32に沿って、三次元関心領域内のボリュームデータの全域に亘って、羊水に対応したボクセル(羊水ボクセル)を識別する。
【0030】
さらに、羊水領域抽出部30は、複数の羊水ボクセルからなる塊を一つの羊水領域として抽出する。例えば、三次元関心領域内のボリュームデータ内においてラベリング処理を実行し、互いに隣接する複数の羊水ボクセルを一つの羊水領域とし、ボリュームデータ内において複数の羊水領域を抽出する。
【0031】
複数の羊水領域が抽出されると、図1の基準羊水特定部40は、各羊水領域の大きさに基づいて複数の羊水領域のうちから視線の基準となる基準羊水領域を特定する。基準羊水特定部40は、例えば、各羊水領域を構成するボクセル(羊水ボクセル)の個数をカウントし、最もボクセル数の多い羊水領域、つまり羊水量が最大である羊水領域を基準羊水領域とする。
【0032】
なお、基準羊水特定部40は、三次元関心領域の全域に亘る複数の羊水領域から基準羊水領域を特定してもよいし、三次元関心領域内に選択領域を設定して、その選択領域内における複数の羊水領域から基準羊水領域を選択するようにしてもよい。例えば、三次元関心領域のプローブ10側から1/3程度の領域が選択領域とされる。もちろん、選択領域の位置や大きさをユーザが調整できるようにしてもよい。
【0033】
基準羊水領域が特定されると、視線方向設定部50は、基準羊水領域に基づいて視線方向を設定する。
【0034】
図5は、視線方向の設定を説明するための図である。図5には、胎児や胎盤を含んだ三次元関心領域22内の具体例が示されている。視線方向設定部50は、基準羊水領域内から胎児側へ向かうように視線方向を設定する。例えば、基準羊水領域の重心点AGを通り三次元関心領域22の中心点RSを通る直線に沿って、重心点AGから中心点RSの向きに視線方向が設定される。これにより、例えば、胎盤などを避けつつ胎児に向けて視線方向を設定することが可能になる。
【0035】
図1の表示画像形成部60は、設定された視線方向に沿って胎児を映し出した表示画像の画像データを形成する。表示画像形成部60は、例えば、図5のように設定された視線方向を基準とし、この視線方向に対して平行に複数の視線方向を設定し、各視線方向ごとに例えばボリュームレンダリング法を適用して、胎児を立体的に映し出した三次元画像の画像データを形成する。なお、例えば図5のように設定された重心点AGを起点として、胎児側に向けて複数の視線方向が設定されてもよい。表示画像形成部60において形成された画像データに対応した表示画像は表示部70に表示される。
【0036】
図6は、表示部70に表示される表示画像72の具体例を示す図である。図6に示す表示画像72は、互いに直交する三断面の断層画像、つまり、断面A,断面B,断面Cの断層画像と、三次元画像で構成されている。なお、各断面内にはその断面内における三次元関心領域の境界が表示される。
【0037】
本実施形態においては、羊水を通って胎児に向けて視線方向が設定されるため、図6に示す三次元画像のように、例えば、胎盤などにより隠されること無く、胎児の顔などを極めて明瞭に映し出すことが可能になる。さらに、本実施形態においては、視線方向を設定するためのユーザ操作の負担が格段に軽減され、望ましくは、視線方向に係る設定処理の全てを装置が行うことも可能になる。
【0038】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【符号の説明】
【0039】
10 プローブ、30 羊水領域抽出部、40 基準羊水特定部、50 視線方向設定部、60 表示画像形成部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胎児と羊水を含む三次元空間に対して超音波を送受するプローブと、
プローブを制御することにより前記三次元空間から受信信号を得る送受信部と、
受信信号に基づいて形成される前記三次元空間のボリュームデータ内において、羊水に対応した複数の羊水領域を抽出する羊水領域抽出部と、
各羊水領域の大きさに基づいて複数の羊水領域のうちから視線の基準となる基準羊水領域を特定する基準羊水特定部と、
特定された基準羊水領域に基づいて視線方向を設定する視線方向設定部と、
設定された視線方向に沿って胎児を映し出した表示画像の画像データを形成する画像形成部と、
を有する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記羊水領域抽出部は、複数のボクセルで構成されるボリュームデータ内の各ボクセルのボクセル値に基づいて羊水に対応した複数の羊水ボクセルを識別し、複数の羊水ボクセルからなる塊を前記各羊水領域として抽出する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波診断装置において、
前記羊水領域抽出部は、前記ボリュームデータに対して設定される探索方向に沿って探索開始側から胎児側へ向かって各ボクセルのボクセル値と閾値とを比較し、複数の羊水ボクセルからなる塊のうち最も探索開始側の塊を前記各羊水領域として抽出する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記基準羊水特定部は、前記ボリュームデータに対して設定される選択領域内で最もボクセル数の多い羊水領域を前記基準羊水領域とする、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記視線方向設定部は、前記基準羊水領域内から胎児側へ向かうように前記視線方向を設定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−17669(P2013−17669A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153612(P2011−153612)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】