説明

超音波診断装置

【課題】連続波を利用して各位置から生体内情報を抽出するにあたり、各位置を選択するための新しい信号処理を実現する。
【解決手段】相関処理部30は、連続波の受信信号に対して、周期性に基づいた相関処理を施すことにより、生体内の各位置に対応した受信信号を得る。相関処理部30は、送受信信号の周期に応じた長さのディレイラインを備えている。ディレイラインは、1ビット期間ごとに段階的に入力される受信信号を1ビット期間ずつ段階的にずらして遅延しつつ8つのタップT1〜T8の各々から各ビット期間に対応した信号を出力する。ディレイラインの各タップから出力される各ビット期間に対応した8つの信号は、各々に対応した位相変換部において位相を調整(シフト)される。位相調整された8つのビット期間に対応した8つの信号が加算部において加算処理される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に関し、特に、連続波を利用する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置の連続波を利用した技術として、連続波ドプラが知られている。連続波ドプラでは、例えば、数MHzの正弦波である送信波が生体内へ連続的に放射され、生体内からの反射波が連続的に受波される。反射波には、生体内における運動体(例えば血流など)によるドプラシフト情報が含まれる。そこで、そのドプラシフト情報を抽出して周波数解析することにより、運動体の速度情報を反映させたドプラ波形などを形成することができる。
【0003】
連続波を利用した連続波ドプラは、パルス波を利用したパルスドプラに比べて一般に高速の速度計測の面で優れている。こうした事情などから、本願の発明者は、連続波ドプラに関する研究を重ねてきた。その成果の一つとして、特許文献1において、周波数変調処理を施した連続波ドプラ(FMCWドプラ)に関する技術を提案している。
【0004】
一方、連続波ドプラでは、連続波を利用していることにより位置計測が困難である。例えば、従来の一般的な連続波ドプラの装置(FMCWドプラを利用しない装置)では、位置計測を行うことができなかった。これに対し、本願の発明者は、特許文献2において、FMCWドプラにより選択的に生体内組織の所望の位置からドプラ情報を抽出することができる極めて画期的な技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−253949号公報
【特許文献2】特開2008−289851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2に記載されたFMCWドプラの技術は、それまでにない超音波診断の可能性を秘めた画期的な技術である。本願発明者は、この画期的な技術の改良についてさらに研究開発を重ねてきた。特に、連続波を利用して各位置から生体内情報を抽出する技術に注目して研究開発を重ねてきた。
【0007】
本発明は、その研究開発の過程において成されたものであり、その目的は、連続波を利用して各位置から生体内情報を抽出するにあたり、各位置を選択するための新しい信号処理を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的にかなう好適な超音波診断装置は、周期性を備えた連続波の送信信号を出力する送信処理部と、前記連続波の送信信号に対応した超音波を生体に送波して当該生体から超音波を受波することにより連続波の受信信号を得る超音波送受部と、前記連続波の受信信号に対して、前記周期性に応じた変換処理を施すことにより、生体内の各位置に対応した受信信号を得る受信処理部と、前記各位置に対応した受信信号に基づいて生体内情報を得る生体内情報取得部と、を有することを特徴とする。
【0009】
上記構成において、周期性を備えた連続波とは、例えば一定の繰り返し周波数で位相または周波数を変化させる連続波であり、具体例を挙げると、周波数変調処理や位相変調処理やデジタル変調処理などを施された連続波である。また周期性に応じた変換処理とは、例えば連続波の受信信号の中から特定の周期性を備えた信号を抽出する処理であり、具体的には、送信信号の変調処理と対照的な(例えば変調処理と正反対の)変換処理を施して特定の周期性を備えた信号のみを変調前の信号状態に戻す処理などが含まれる。
【0010】
望ましい具体例において、前記送信処理部は、周期的な変調処理を施された連続波の送信信号を出力し、前記受信処理部は、連続波の受信信号に対して当該変調処理と対照的な変換処理を施してから、当該変換処理後の信号を周期方向に加算処理することにより、生体内の各位置に対応した受信信号を得る、ことを特徴とする。
【0011】
望ましい具体例において、前記送信処理部は、周期的な変調パターンに基づいて変調処理を施された連続波の送信信号を出力し、前記受信処理部は、連続波の受信信号に対して当該変調パターンと対照的な変換パターンに基づいた変換処理を施す変換部と、当該変換処理後の信号を周期方向に加算処理する加算部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
望ましい具体例において、前記受信処理部は、互いにパターンをずらした複数の前記変換パターンに対応した複数の前記変換部と、各々が対応する各変換部から得られる変換処理後の信号を周期方向に加算処理する複数の前記加算部と、を備え、各時刻ごとに目標位置に対応した各加算部を選択して当該各加算部から加算処理後の信号を得ることにより、複数の時刻に亘って当該目標位置に対応した受信信号を得る、ことを特徴とする。
【0013】
望ましい具体例において、前記生体内情報取得部は、複数の時刻に亘って得られる目標位置に対応した受信信号からドプラ情報を抽出することを特徴とする。
【0014】
望ましい具体例において、前記受信処理部は、生体内の複数の位置に対応した受信信号を取得し、前記生体内情報取得部は、複数の位置に対応した受信信号に基づいて生体内の組織を映し出した超音波画像を形成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、連続波を利用して各位置から生体内情報を抽出するにあたり、各位置を選択するための新しい信号処理が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。
【図2】余弦パターンAと正弦パターンBから得られる送信信号の時間変化波形を示す図である。
【図3】相関処理部における処理を説明するための図である。
【図4】特定の深さに対応した受信信号の位相パターンを示す図である。
【図5】位相変化量を制御するための相関処理部の変形例を示す図である。
【図6】位置選択部における位置選択処理を説明するための図である。
【図7】直交検波回路の挿入例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。送信用振動子10は、生体内へ超音波を連続的に送波し、また、受信用振動子12は、生体内からの超音波の反射波を連続的に受波する。このように、送信および受信がそれぞれ異なる振動子で行われて、いわゆる連続波による送受信が実行される。なお、送信用振動子10は複数の振動素子を備えており、これら複数の振動素子が制御されて超音波の送信ビームが形成される。また、受信用振動子12も複数の振動素子を備えており、これら複数の振動素子により得られた信号が処理されて受信ビームが形成される。
【0018】
送信ビームフォーマ(送信BF)14は、送信用振動子10が備える複数の振動素子に対して送信信号を出力する。送信ビームフォーマ14には、合成処理部24から連続波の送信信号が供給され、送信ビームフォーマ14は、その送信信号に対して、各振動素子に応じた遅延処理を施して各振動素子に対応した送信信号を形成する。なお、送信ビームフォーマ14において形成された各振動素子に対応した送信信号に対して、必要に応じて電力増幅処理が施されてもよい。こうして超音波の送信ビームが形成され、二次元平面内で又は三次元空間内で送信ビームが走査される。
【0019】
送信ビームフォーマ14に供給される連続波の送信信号は、正弦パターン処理部22Bと余弦パターン処理部22Aと合成処理部24によって形成される。
【0020】
正弦パターン処理部22Bは、RF波発振器20から得られるRF波(搬送波信号)に対して、正弦パターンに基づいた処理を施す。一方、余弦パターン処理部22Aは、RF波発振器20からπ/2シフト回路21を介して得られるRF波(搬送波信号)に対して余弦パターンに基づいた処理を施す。
【0021】
そして、正弦パターン処理部22Bと余弦パターン処理部22Aから出力される2つの信号が合成処理部24において合成され、所定の位相パターンを備えた連続波(位相シフト連続波)が形成される。この位相シフト連続波の形成にあたっては、互いに相補的な関係にある2列の数値パターンが利用される。つまり正弦パターン処理部22Bにおいて正弦パターンが利用され、余弦パターン処理部22Aにおいて余弦パターンが利用される。
【0022】
2列の数値パターンである正弦パターンと余弦パターンは次式により定義される。次式において、aが余弦パターンであり余弦関数から得られる。一方、bが正弦パターンであり正弦関数から得られる。また、Nはパターン長を示す自然数であり、iはパターンを構成している各数値(各符号)の番号である。ちなみに、Nは任意の自然数かつ偶数であり2の累乗に限定されない。
【0023】
【数1】

【0024】
正弦パターン処理部22Bは、RF波発振器20から得られるRF波(正弦波)の振幅を正弦パターンに従って変化させる。一方、余弦パターン処理部22Aは、π/2シフト回路21を介して得られるRF波(余弦波)の振幅を余弦パターンに従って変化させる。そして、正弦パターン処理部22Bから出力される連続波と、余弦パターン処理部22Aから出力される連続波が合成処理部24において合成され、次式に示す連続波の送信信号が形成される。
【0025】
【数2】

【0026】
正弦パターンと余弦パターンの具体例は次のとおりである。パターン長を8(N=8)とすると、数1式から、余弦パターンA(数3式)と正弦パターンB(数4式)が得られる。
【0027】
【数3】

【0028】
【数4】

【0029】
余弦パターンAと正弦パターンBを構成する各数値(各符号)は、単純な2値符号とは異なり、−1と+1との間で離散的な値をとる。また、余弦パターンAと正弦パターンBを利用して形成される送信信号(数2式)の振幅は常に1となり、送信信号の振幅が時間的に変動しないことがわかる。
【0030】
余弦パターンAと正弦パターンBを数2式に適用して得られる送信信号は次式のようになる。
【0031】
【数5】

【0032】
図2は、余弦パターンAと正弦パターンBから得られる送信信号の時間変化波形を示す図である。つまり、図2に示す送信信号は、数5式で表現される信号である。図2に示す送信信号は、余弦パターンAと正弦パターンBを合成して得られる位相パターンに従って位相を変化させ、その位相パターンを繰り返すことにより得られる連続波(位相シフト連続波)となっている。
【0033】
図1に戻り、受信ビームフォーマ(受信BF)16は、受信用振動子12が備える複数の振動素子から得られる複数の受波信号を整相加算処理して受信ビームを形成する。つまり、受信ビームフォーマ16は、各振動素子から得られる受波信号に対してその振動素子に応じた遅延処理を施し、複数の振動素子から得られる複数の受波信号を加算処理することにより受信ビームを形成する。なお、各振動素子から得られる受波信号に対して低雑音増幅等の処理を施してから、受信ビームフォーマ16に複数の受波信号が供給されてもよい。こうして二次元平面内で又は三次元空間内で走査される送信ビームに対応した受信ビームが形成され、受信ビームに沿って受信RF信号が収集される。
【0034】
相関処理部30は、受信ビームフォーマ16から得られる受信RF信号(連続波の受信信号)に対して、周期性に基づいた相関処理を施すことにより、生体内の各位置に対応した受信信号を得る。相関処理部30は、送受信信号の周期に応じた長さのディレイラインを備えている。例えば送信信号のパターンが先に説明した具体例のとおりパターン長8(N=8)であれば、8ビット長の遅延時間を備えたディレイラインが利用される。
【0035】
ディレイラインは、1ビット期間ごとに段階的に入力される受信信号(受信RF信号)を1ビット期間ずつ段階的にずらして遅延しつつ、8つのタップT1〜T8の各々から各ビット期間に対応した信号を出力する。そして、ディレイラインの各タップから出力される各ビット期間に対応した8つの信号は、各々に対応した位相変換部において位相を調整(シフト)される。さらに、位相調整された8つのビット期間に対応した8つの信号が加算部において加算処理される。
【0036】
図3は、相関処理部30における処理を説明するための図である。図3には、パターン長が8の位相シフト連続波を利用した場合の具体例が示されており、図3における「連続波の符号」と「連続波の位相」は図2の位相シフト連続波(送信信号)に対応している。また、図3における「位相変換部のシフト量」は、図1の相関処理部30が備える位相変換部による位相の調整量(シフト量)である。
【0037】
さらに、図3には、ディレイラインから位相変換部へ出力される受信信号(φ1〜φ9)の位相が示されている。ディレイラインには、送信された位相シフト連続波に対応した受信波形が入力される。図3に示す受信信号(φ1〜φ9)の位相は、図3の上段に示した「連続波の位相」を1ビットずつ段階的にずらした場合の位相に対応している。
【0038】
図1の相関処理部30が備える位相変換部は、ディレイラインの8つのタップの各々から出力される信号(1ビットの受信RF信号)に対して、図3に示す「位相変換部のシフト量」だけ位相変換処理を施す。これにより、受信信号(φ1〜φ9)の各々について、図3に示す「シフト後の位相」が得られる。そして、図1の相関処理部30が備える加算部は、位相変換部から出力される8つの信号を加算処理する。これにより、受信信号(φ1〜φ9)の各々について図3に示す「加算器出力」が得られる。
【0039】
図3に示すように、受信信号(φ8)の場合に、シフト後の位相が全て0に揃えられるため、加算器出力が極大値8となる。これに対し、他の受信信号(φ1〜φ7,φ9)の場合には、シフト後の位相が揃えられていないうえに、互いに位相がπだけずれた信号同士の組み合わせが存在してそれらが互いに相殺され、加算器出力が0となる。
【0040】
図2に示す位相パターンを繰り返し送信して受信信号を得る連続波の送受信では、生体内の深さに応じて受信信号の位相が異なり、さらに、複数の深さからの受信信号が同時に受信される。例えば図3に示す受信信号(φ1〜φ9)が混在した受信信号が得られる。図1の超音波診断装置では、相関処理部30において、図3を利用して説明した処理が実行されるため、受信信号(φ1〜φ9)が混在した受信信号の中から、位相変換部のシフト量に対応した受信信号(φ8)を選択的に抽出することができる。つまり、パルス圧縮と同様な原理により、位相変換部のシフト量に対応した深さからの受信信号を選択的に抽出することができる。
【0041】
なお、位相変換部におけるシフト量を固定した状態で複数の時刻に亘って連続波の受信信号を処理する場合には位相変換部のシフト量に対応した深さが時刻によって変化する。例えば、ある時刻1において深さd1から図3の受信信号(φ8)が得られたとすると、時刻1から1ビット期間後の時刻2において、1ビット期間分だけさらに深い深さd2から図3の受信信号(φ8)が得られる。つまり、位相変換部におけるシフト量を固定した状態では、時刻1で深さd1の受信信号が選択的に抽出され、時刻2で深さd2の受信信号が選択的に抽出される。すなわち、選択される深さが時刻によって変化する。この現象は、パルス波を利用した受信信号の取得と同様である。
【0042】
したがって、図1の超音波診断装置において、位相変換部におけるシフト量を固定した状態で複数の時刻に亘って各位置の受信信号を選択的に抽出することにより、例えば、各位置において抽出される受信信号の振幅の大きさに基づいて、Bモード画像と同等な超音波画像を形成することが可能になる。さらに、Bモード画像と同等な超音波画像を形成する場合において、周波数依存減衰(FDA)の補正や深さ依存減衰の補正(TGC)などBモード画像の形成において周知の技術を適宜利用してもよい。
【0043】
なお、位相変換部における位相変化量を複数の時刻に亘って常に同一の深さに対応するように各時刻ごとに制御して、複数の時刻に亘ってその同一の深さに対応する受信信号を選択的に得るようにしてもよい。
【0044】
図4は、特定の深さに対応した受信信号の位相パターンを示す図である。例えば、特定の深さd1に対応した受信信号が、時刻1において、図4に示す位相パターンであるとする。この位相パターンは、図2に示した送信信号の位相パターンである。連続波の送信信号は、図2に示した位相パターンを繰り返すため、特定の深さd1から得られる連続波の受信信号もその位相パターンを繰り返す。
【0045】
そのため、図4に示すように、時刻1から1ビット期間後の時刻2においては、時刻1の状態から1ビット分(1パターン分)だけずれた位相パターンとなり、さらに1ビット期間後の時刻3においては、時刻2の状態から1ビット分(1パターン分)だけずれた位相パターンとなる。このように、特定の深さd1に対応した受信信号の位相パターンは、1ビット期間ごとに1ビット(1パターン)だけずれる。
【0046】
したがって、複数の時刻に亘って特定の深さd1に対応する受信信号を選択的に得るためには、1ビット期間ごとに位相変換部における位相変化量を特定の深さd1に合わせて変化させればよい。
【0047】
図5は、位相変化量を制御するための相関処理部30の変形例を示す図である。図5に示す相関処理部30は、図1の相関処理部30の変形例であり、図5においても、受信ビームフォーマ16から受信RF信号(連続波の受信信号)が相関処理部30へ送られる。
【0048】
ディレイラインは、1ビット期間ごとに段階的に入力される受信信号(受信RF信号)を1ビット期間ずつ段階的にずらして遅延しつつ、8つのタップT1〜T8の各々から各ビット期間に対応した信号を出力する。こうして、8ビット期間に対応した8つの信号(8パターン分の受信信号)がディレイラインから出力される。
【0049】
図5に示す相関処理部30は、8つの位相変換部と8つの加算部を備えている。各位相変換部は、ディレイラインの8つのタップの各々から出力される信号(1ビットの受信RF信号)に対して、P0からP7の位相量だけ位相変換処理を施す。また、各加算部は、対応する位相変換部から出力される8つの信号を加算処理する。
【0050】
図5の位相変換部1の位相量のパターン(P0,P1,P2,・・・,P7)は、図1に示した位相変換部と全く同じパターンである。したがって、図3を利用して説明したように、受信信号(φ1〜φ9)が混在した連続波の受信信号の中から、受信信号(φ8)が選択的に抽出される。つまり、図4に示す例において、時刻1における位相パターンの受信信号が抽出される。
【0051】
次に、図5の位相変換部2の位相量のパターン(P7,P0,P1,・・・,P6)は位相変換部1のパターンを1パターンだけずらしたものである。したがって、この位相変換部2の位相量のパターンにより、図4に示す例において、時刻1から1パターンだけずれた時刻2における位相パターンの受信信号が抽出される。
【0052】
同様に、図5の位相変換部3の位相量のパターンにより、図4に示す時刻3における位相パターンの受信信号が抽出され、図5の位相変換部4の位相量のパターンにより、図4に示す時刻4における位相パターンの受信信号が抽出される。このように、図5の各位相変換部とそれに対応する加算部により、図4に示す時刻1から時刻8の各パターンの受信信号、つまり特定の深さd1から得られる受信信号が抽出される。なお、図4の時刻9においては、受信信号の位相パターンが時刻1と同じパターンに戻るため、時刻9の受信信号は、図5の位相変換部1と加算部1により抽出される。
【0053】
このように、図5に示した8つの位相変換部と8つの加算部により、複数の時刻に亘って、特定の深さ(例えば深さd1)に対応する受信信号を抽出することができる。図5の位置選択部は、8つの加算部から出力される信号を適宜に選択する。
【0054】
図6は、位置選択部における位置選択処理を説明するための図である。図6における加算部1出力は、図5の位相変換部1と加算部1において抽出される信号を示している。先に説明したように、図5の加算部1において、図4に示す時刻1における位相パターンの受信信号が抽出される。つまり、図5の位相変換部1と加算部1により、時刻1において深さd1の信号が抽出される。また、位相変換部1の位相量は固定されているため、1ビット期間後の時刻2では、1ビット期間分だけさらに深い深さd2の信号が抽出される。このように、選択される深さが時刻によって変化するため、加算部1出力が図6に示すようになる。
【0055】
図6における加算部2出力は、図5の位相変換部2と加算部2において抽出される信号を示している。図5の加算部2において、図4に示す時刻2における位相パターンの受信信号が抽出される。つまり、図5の位相変換部2と加算部2により、時刻2において深さd1の信号が抽出される。また、位相変換部2と加算部2により選択される深さが時刻によって変化するため、加算部2出力が図6に示すようになる。さらに、図6の加算部3出力から加算部8出力には、図5の加算部3から加算部8において抽出される信号が示されている。
【0056】
各加算部から出力される信号は図6に示すとおりであるため、複数の時刻に亘って例えば深さd1に対応した受信信号を得たい場合に、位置選択部(図5)は、図6に矢印で示すように、時刻1において加算部1の出力を選択し、時刻2において加算部2の出力を選択し、時刻3において加算部3の出力を選択し、この一連の選択を矢印に沿って進め、時刻8において加算部8の出力を選択した後、時刻9において再び加算部1の出力を選択すればよい。
【0057】
なお、複数の時刻に亘って例えば深さd2に対応した受信信号を得たい場合には、時刻1において加算部8の出力を選択し、時刻2において加算部1の出力を選択し、時刻3において加算部2の出力を選択し、この一連の選択を順次進めればよい。もちろん、複数の時刻に亘って、深さd3から深さd8のいずれかを選択するようにしてもよい。さらに、同時刻に複数の深さを選択し、複数の時刻に亘ってそれら複数の深さの選択を続けるようにしてもよい。
【0058】
以上のようにして、図5に示した相関処理部30の変形例により、複数の時刻に亘って特定の深さに対応した受信信号を抽出することが可能になる。そこで、複数の時刻に亘って得られる特定の深さに対応した受信信号に基づいて、例えば特定の深さにおけるドプラ情報を得るようにしてもよい。
【0059】
ドプラ情報を得る場合には、例えば、図5に示した8つの加算部の後段に、各加算部ごとに直交検波回路を設け、各加算部の出力を直交検波処理すればよい。その直交検波においては、例えばRF波発振器20(図1)から得られるRF波とπ/2シフト回路21(図1)から得られるπ/2シフトされたRF波を参照信号とする。そして、図5の位置選択部において、特定の深さから得られる直交検波後の受信信号が選択され、位置選択部の後段にFFT処理部(高速フーリエ変換処理部)などを設けて、直交検波後の受信信号からドプラ信号を抽出すればよい。
【0060】
図7は、直交検波回路の挿入例を示す図であり、図5に示した8つの加算部の後段に、各加算部ごとに直交検波回路を設けた具体例を示す図である。図7において、各加算部の後段には、2つのミキサ32I,32Qが設けられている。ミキサ32Iには、参照信号として、RF波発振器20(図1)からRF波が供給され、ミキサ32Qには、参照信号として、π/2シフト回路21(図1)から、π/2だけ位相をシフトされたRF波が供給される。
【0061】
ミキサ32I,32Qは、対応する加算部から得られる加算処理後の受信RF信号と参照信号とを乗算処理する。この結果、ミキサ32Iから同位信号成分(I信号成分)が出力され、ミキサ32Qから直交信号成分(Q信号成分)が出力される。そして、2つのミキサ32I,32Qの後段に設けられたLPF(ローパスフィルタ)34I,34Qにより、同相信号成分および直交信号成分の各々の高周波数成分がカットされ、検波後の必要な帯域のみの復調信号が抽出される。
【0062】
FFT処理部(高速フーリエ変換処理部)36は、LPF34I,34Qから得られる復調信号(同相信号成分および直交信号成分)の各々に対してFFT演算を実行する。その結果、復調信号が周波数スペクトラムに変換される。さらに、周波数スペクトラムに変換された復調信号からドプラ信号を抽出する。
【0063】
そして、位置選択部は、図5の位置選択部と同じ処理を実行し、8つの加算部に対応した8つの信号を適宜に選択する。これにより、連続波を利用して特定の深さ(目標位置)からドプラ信号を抽出することが可能になる。さらに、直交検波処理することにより、ドプラ信号の極性(受信用振動子12に近づく向きか、または、受信用振動子12から遠ざかる向きか)を識別することが可能になる。
【0064】
なお、図5に示した位置選択部までの処理をRF信号で行い、位置選択部の後段に直交検波回路を設けて、特定の深さから得られる受信RF信号を直交検波処理して、ドプラ信号を抽出するようにしてもよい。
【0065】
また、図6に示すように、各時刻ごとに複数の加算部から複数の深さに対応した受信信号を得ることができるため、例えば、各時刻ごとに、複数の深さに対応した受信信号の振幅の大きさに基づいて、Bモード画像と同等な生体内の組織を映し出した超音波画像を形成してもよい。
【0066】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した本発明の好適な実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【符号の説明】
【0067】
22A 余弦パターン処理部、22B 正弦パターン処理部、24 合成処理部、30 相関処理部、50 画像形成部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期性を備えた連続波の送信信号を出力する送信処理部と、
前記連続波の送信信号に対応した超音波を生体に送波して当該生体から超音波を受波することにより連続波の受信信号を得る超音波送受部と、
前記連続波の受信信号に対して、前記周期性に応じた変換処理を施すことにより、生体内の各位置に対応した受信信号を得る受信処理部と、
前記各位置に対応した受信信号に基づいて生体内情報を得る生体内情報取得部と、
を有する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記送信処理部は、周期的な変調処理を施された連続波の送信信号を出力し、
前記受信処理部は、連続波の受信信号に対して当該変調処理と対照的な変換処理を施してから、当該変換処理後の信号を周期方向に加算処理することにより、生体内の各位置に対応した受信信号を得る、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波診断装置において、
前記送信処理部は、周期的な変調パターンに基づいて変調処理を施された連続波の送信信号を出力し、
前記受信処理部は、連続波の受信信号に対して当該変調パターンと対照的な変換パターンに基づいた変換処理を施す変換部と、当該変換処理後の信号を周期方向に加算処理する加算部と、を備える、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波診断装置において、
前記受信処理部は、
互いにパターンをずらした複数の前記変換パターンに対応した複数の前記変換部と、
各々が対応する各変換部から得られる変換処理後の信号を周期方向に加算処理する複数の前記加算部と、
を備え、
各時刻ごとに目標位置に対応した各加算部を選択して当該各加算部から加算処理後の信号を得ることにより、複数の時刻に亘って当該目標位置に対応した受信信号を得る、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記生体内情報取得部は、複数の時刻に亘って得られる目標位置に対応した受信信号からドプラ情報を抽出する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記受信処理部は、生体内の複数の位置に対応した受信信号を取得し、
前記生体内情報取得部は、複数の位置に対応した受信信号に基づいて生体内の組織を映し出した超音波画像を形成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−34650(P2013−34650A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172934(P2011−172934)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】