説明

超音波診断装置

【課題】高調波画像を表示する場合に、ユーザーが装置由来の高調波成分の発生の有無及びその程度を認識できるようにする。あるいはそれが自動的に軽減されるようにする。
【解決手段】振幅計測部46は複数のアナログ受信信号を参照し、それらを閾値と比較することにより過大振幅の発生量を計測する。実際には、発生の回数がカウント値として計測される。状態判定部48はそのカウント値が一定の値を超えた場合に、画像上において装置由来高調波成分が表れていることを判定し、またその度合いを判定する。その判定結果は状態信号として表示処理部40へ出力される。表示処理部40は状態信号に基づいて装置由来高調波信号の発生事実及びその程度をインジケータとして表示する。状態信号に基づいてビーム偏向角度が自動調整されるようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に関し、特に、高調波画像を表示する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、生体に対する超音波の送受波により超音波画像を形成する装置である。高調波成分表示機能を備えた超音波診断装置において、生体からの反射波は複数の振動素子にて受波され、これにより複数の受信信号が生じる。複数の受信信号に対する整相加算処理によりビームデータが構成される。そのビームデータ内に含まれる高調波成分が抽出され、それによって高調波画像が生成される。生体組織での反射時に生成された高調波成分が画像化される場合と、生体内に注入された造影剤での反射や造影剤の破壊で生じた高調波成分が画像化される場合と、がある。前者はティッシュ―ハーモニックイメージングであり、後者はコントラストハーモニックイメージングである。高調波成分を抽出するための方式として、フィルタ法、パルスモジュレーション法、パルスインバージョン法、等が知られている。
【0003】
受信信号に含まれる高調波成分のレベルは、一般に、基本波成分のレベルに対して数十dB程度小さいので、高調波画像を形成するためには、受信信号全体の利得を大幅に上げる必要がある。しかし、生体内における臓器表面等の強反射体からの反射波が受信されると、受信信号の振幅が局所的に過大となって受信信号の振幅が飽和しつまり受信信号が歪むことになる。例えば、増幅後の受信信号の振幅がA/D変換器の入力レンジを超えると、あるいは、増幅器の線形動作域を超えると、そこで受信信号が歪み、装置内において高調波成分が生じてしまう。かかる高調波成分は、生体内の組織又は造影剤で生じた生体由来高調波成分とは区別されるべき余計な高調波成分であって、装置由来高調波成分と言い得る。
【0004】
装置由来高調波成分が生じると、高調波画像上に生体由来高調波成分と一緒に装置由来高調波成分も反映されてしまい、誤認等を生じさせる。例えば、造影剤の画像化に際しては、生体組織が画像化されないことあるいは強調表示されないことが望まれるが、組織境界等の強反射部位が存在すると、それが高調波画像上に現れることになり、あるいは、それが強調表示されてしまうという問題がある。その結果、そこに造影剤が存在すると誤認するおそれがある。受信部においては、複数の受信信号が整相加算されるので、個々のチャンネルで生じた高調波成分も加算されて、高調波画像上においてそれがアーチファクトとして現れるのである。これを防止するために個々のチャンネルでの利得を低く抑えると、生体由来高調波成分を十分に画像化できなくなる。
【0005】
上記の問題は高調波画像の表示時において特に問題となるが、通常の超音波画像(基本波成分画像)を表示する場合においても装置内での受信信号の飽和は回避すべき問題である。なお、受信信号が飽和した場合には個々の山状波形がクリップされて、受信信号が矩形波に近づくことになる。これを周波数軸上で見るならば奇数次高調波成分の増加として捉えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−135705号公報
【特許文献2】特許第4557579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、受信信号に含まれる基本波成分と高調波成分の比を演算し、その比に基づいて利得を調整する超音波診断装置が開示されている。この装置は高調波画像の生成を行うものではなく、基本波成分と高調波成分の比を利用するのはサイドローブ低減のためである。特許文献2には、超音波診断装置において、増幅器の前段に低域周波数成分を低減するフィルタ(HPF)を設けることにより、基本波成分を減衰させて受信信号の歪みを防止する技術が開示されている。いずれの文献にも、装置内高調波成分の発生の可能性を表す情報を検出してそれを活用するような考え方は記載されていない。
【0008】
本発明の目的は、高調波画像中に生体で生じた高調波成分以外の高調波成分が反映されている場合においてそれをユーザーに知覚させ、あるいは、それが抑制されるようにして、高調波画像を的確に診断できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る超音波診断装置は、超音波の送受波により得られたアナログ受信信号を増幅する増幅器と、前記増幅器から出力されたアナログ受信信号をデジタル受信信号に変換する変換器と、前記デジタル受信信号に含まれる高調波成分に基づいて高調波画像を形成する高調波画像形成部と、前記変換器に入力される前の段階で前記アナログ受信信号を参照することにより、前記高調波画像中に生体内で発生した生体由来高調波成分の他に超音波診断装置内で発生した装置由来高調波成分が含まれる可能性の有無又は程度を示す状態信号を生成する状態信号生成手段と、を含み、前記状態信号が表示処理及びビーム走査制御の少なくとも一方で利用されることを特徴とするものである。
【0010】
上記構成によれば、アナログ受信信号の参照によって、望ましくはその振幅の参照によって、受信信号処理回路、特にアナログ受信信号処理回路への過大入力で生じる信号歪(高調波)の発生可能性の有無あるいはその程度を評価し、それを表す状態信号を表示制御又はビーム走査制御で利用することが可能となる。装置内での高調波発生を防止する方式としてユーザー操作方式と自動的なビーム走査方式とがあげられる。前者の場合、ユーザーに対して過大信号が発生している事実あるいは程度を報知するのが望ましく、後者の場合には過大信号が軽減あるいは消失するように装置動作条件が変更される。ビーム偏向角度をマニュアルで変更することも可能であり、状態信号に応じてそれを自動的に変更することも可能である。ステアリング走査(偏向走査)を行えば、反射条件を変更しつつもほぼ同様の走査エリアに対してスキャンを行える。
【0011】
複数の受信チャンネルに対応する複数のアナログ受信信号の内で、1つのアナログ受信信号を参照してもよいが、より多くのあるいは全部のアナログ受信信号を参照するようにしてもよい。状態の評価は、特定ビーム、特定深さ、フレーム等を単位として行える。過大信号の発生量として閾値を振幅が超えた頻度(回数)を求めるのが望ましいが、他の計測を行うようにしてもよい。頻度を利用すれば画像上での目障り度合い(発生面積)を評価することが可能である。なお、アナログビームフォーマーが設けられる場合、整相加算後のアナログ受信信号を参照するようにしてもよい。デジタルビームフォーマーが利用される場合、受信信号参照ポイントとして、プリアンプの前段又は後段、可変利得アンプの前段又は後段等をあげることができる。ダイナミックレンジ(あるいはその上限)が絞られる直前において振幅の参照を行うのが望ましい。
【0012】
望ましくは、前記状態信号生成手段は、前記アナログ受信信号に対して過剰振幅値の発生量を検出する検出手段と、前記過剰振幅値の発生量に基づいて前記状態信号を生成する手段と、を含む。望ましくは、前記増幅器は、初段増幅回路と、その後段に設けられ受信点深さに応じて利得が可変設定される可変利得増幅回路と、を含み、前記検出手段は、前記可変利得増幅回路と前記変換器の間から取り出されるアナログ受信信号を参照する。受信点は受信ダイナミックフォーカスが適用される場合における受信フォーカス点である。
【0013】
望ましくは、前記状態信号に基づいて前記装置由来高調波成分が含まれている可能性の有無又はその度合いを視覚的に表すインジケータを表示する表示処理手段を含む。望ましくは、前記インジケータは前記高調波画像と共に表示画面上に表示され、前記高調波画像の動的な変化に伴って前記インジケータの表示内容が動的に変化する。インジケータが文字等の表示、グラフ表示、等であってもよい。
【0014】
望ましくは、前記インジケータを見たユーザーによって操作される入力手段であって電子リニア走査される超音波ビームの偏向角度を変更する入力部を含む。
【0015】
望ましくは、前記状態信号に基づいて電子走査される超音波ビームの偏向角度を可変設定する走査制御手段を含む。望ましくは、前記走査制御手段は、前記偏向角度を試行的に可変した場合における前記状態信号の変化に基づいて最良偏向角度を決定する決定手段と、前記偏向角度の試行的可変後における前記超音波ビームの偏向角度として前記最良偏向角度を設定する設定手段と、を実行する。望ましくは、第1の偏向角度の設定で取得された高調波画像と第2の偏向角度の設定で取得された超音波画像とを合成して合成高調波画像を生成する手段が設けられ、前記合成高調波画像が表示される。
【0016】
受信信号を参照する場合、その高調波(特に三次高調波)成分を参照してもよい。関心領域内限定で受信信号の参照を行うようにしてもよい。ちなみに、深さ方向に複数の区間が設定される場合、各区間ごとに状態信号を生成する基準値あるいは閾値を個別的に設定するようにしてもよい。なお、ビーム走査制御に代えて、あるいは、それと共に、状態信号に基づいてアナログ受信信号の利得を適応的に制御する手段を設けてもよい。その場合に、可変利得増幅回路の利得(深さ軸方向の利得カーブ)を変更するようにしてもよい。また、そのような利得調整を行った場合に、後段において利得を補償することも可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高調波画像中に生体で生じた高調波成分以外の高調波成分が反映されている場合においてそれをユーザーに知覚させ、あるいは、それが抑制されるようにして、高調波画像を的確に診断できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る実施形態の原理を説明するための説明図である。
【図2】本発明に係る超音波診断装置の第1実施形態を示すブロック図である。
【図3】第1実施形態における表示例を示す図である。
【図4】本発明に係る超音波診断装置の第2実施形態を示すブロック図である。
【図5】組織の境界面と超音波ビームとの関係を示す図である。
【図6】基本リニア走査と偏向リニア走査とを示す図である。
【図7】関心領域の設定を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1には、本発明に係る実施形態の原理が概念的に示されている。図1において、符号10は受信信号を表している。この受信信号は生体に対して超音波を走査し、生体内からの反射波を受波することによって得られたものである。受信信号には高調波成分(生体由来高調波成分)が含まれている。その高調波成分は、具体的には、生体組織での超音波の反射時に生じたものであり、あるいは、生体内に入れられた超音波造影剤での反射時あるいはその破壊時に生じたものである。この受信信号に対しては、符号12で示されるように、アナログ信号処理が適用される。この場合において、受信信号の振幅が過大となって、それが信号処理レンジあるいは各回路の入力レンジを超えた場合、各回路上において信号が歪み、すなわち装置由来の高調波成分が発生してしまう。したがって、アナログ信号処理を経た受信信号には、生体由来高調波成分に加えて、装置由来高調波成分が含まれる可能性がある。そのような受信信号に対してはデジタル信号変換処理が適用された上で、各種のデジタル信号処理が適用される。
【0021】
以上のような信号処理を経たデジタル受信信号から、符号14で示されるように、高調波成分が抽出される。例えばバンドパスフィルタを利用して2次高調波成分等の高調波成分が抽出される。近時、パルスモジュレーション法やパルスインバージョン法によって高調波成分が抽出されており、そのような技術をもちろん利用可能である。抽出された高調波成分に基づいて符号16で示されるように、超音波画像(Bモード断層画像)が形成され、それが画面上に表示される。
【0022】
抽出された高調波画像には、上述した生体由来高調波成分の他に装置由来高調波成分が含まれる可能性があり、それが画像診断上の障害となったり誤認の原因となったりする可能性がある。そこで、本実施形態においては、アナログ信号処理回路に過大振幅をもった信号が生じていることを検知し、装置由来高調波成分の発生可能性の事実及びその程度を表す信号を生成するようにしている。それを以下においては状態信号と称している。
【0023】
符号18で示すように、そのような状態信号に基づいて表示画面上において状態表示を行うことが可能である。すなわちユーザーに対して装置由来高調波成分の発生やその度合いを定量的に表示するものである。このような表示を参照すれば、高調波画像上に本来評価すべき高調波成分ではない高調波成分を含有していることを認識することが可能である。また、本実施形態においては、符号20で示されるように、状態信号に基づいてデータ取得条件の変更が実施されている。具体的には、ビーム偏向角度が変更され、いわゆるリニア偏向走査が実施されて、生体組織境界面と超音波ビームとがなす角度が可変されている。後に説明するように、境界面に対して超音波ビームが直交した時において最も強い反射が得られるため、ビーム角度を偏向すれば、過度に強い振幅に対して弱め操作を適用することが可能となる。その場合において状態信号を参照しつつビーム偏向角度の調整を行えば最適な偏向角度を自動的に見い出すこと等が可能となる。もっとも、状態表示に基づいてユーザーによってマニュアルでビーム偏向角度を可変設定することも可能である。
【0024】
図2には、第1実施形態に係る超音波診断装置がブロック図として示されている。この超音波診断装置は生体の超音波診断を行うものであって、病院等の医療機関に設置される。本実施形態においては、上述したように生体組織あるいは生体内コントラスト剤の高調波画像が生成されている。
【0025】
アレイ振動子22は、図示されていない超音波プローブ内に配置されている。このアレイ振動子22は、本実施形態において直線的に配列された複数の振動素子24によって構成されている。本実施形態においては、電子リニア走査が適用され、アレイ振動子22により形成された超音波ビームが電子的に直線走査される。これにより2次元のデータ取込領域(ビーム走査面)が形成される。もちろん、本実施形態において3次元空間内において超音波ビームが走査されてもよい。また、他の電子走査方式が適用されてもよい。
【0026】
送信部26は送信ビームフォーマーであり、複数の振動素子24に対して遅延処理された複数の送信信号を供給する。これによって送信ビームが形成され、生体内の各深さから反射信号(エコー)が生じてそれが再び複数の振動素子24によって受波される。これによって複数の受信信号(アナログ受信信号)が生成される。
【0027】
受信部28は受信ビームフォーマーであり、複数の受信信号に対して整相加算処理を実行する。具体的には、受信部28は、複数の受信チャンネル処理回路30を備えている。各受信チャンネル処理回路30は、上流から下流にかけて設けられた、プリアンプ(初段アンプ)30A、可変利得アンプ(TGCアンプ)30B、フィルタ(ハイカットフィルタ)30C、A/D変換器30D、遅延器30E等を備えている。ここで、フィルタ30Cは必要に応じて設けられるものであり、また他の回路が設けられることもある。A/D変換器30Dは、アナログ受信信号をデジタル受信信号に変換する回路であり、それがフィルタ30Cの前段に設けられてもよい。遅延器30Eは、FIFOメモリにより構成されている。そのような受信チャンネル回路の構成は一般的なものである。加算器32は、遅延処理後の複数のデジタル受信信号を加算する回路であり、これによりデジタル信号としてのビームデータが得られる。そのビームデータは信号処理部34へ出力されている。可変利得アンプ30Bは受信点深さによって利得を可変可能なアンプである。
【0028】
信号処理部34は、検波器、利得調整器、対数変換器等の各種の信号処理回路により構成される。信号処理後のビームデータは高調波抽出部36へ出力される。この高調波抽出部36は例えば高調波成分を抽出するバンドパスフィルタによって構成される。パルスモジュレーション法やパルスインバージョン法が適用される場合、時分割で取得された複数のビームデータ間において所定の演算が実行され、これによって高調波成分が抽出されることになる。抽出された高調波成分(これも受信信号であると言い得る)はデジタルスキャンコンバータ(DSC)38へ入力され、そのDSC38において各ビーム上の高調波成分がマッピングされ、Bモード画像(高調波画像)が生成される。その画像データは表示処理部40を介して表示部42に送られる。表示部42においては高調波画像が表示される。
【0029】
本実施形態においては状態信号生成部44が設けられている。その状態信号生成部44は本実施形態において振幅計測部46と状態判定部48とにより構成されている。
【0030】
振幅計測部46は、複数の受信チャンネル処理回路30から取り出される複数のアナログ受信信号に基づいて過大振幅を計測するモジュールである。本実施形態においては、全ての受信チャンネルからアナログ受信信号が取り出されているが、1つのアナログ受信信号あるいはいくつかのアナログ受信信号を参照するようにしてもよい。また、本実施形態においては、可変利得アンプ30Bとフィルタ30Cとの間からアナログ受信信号が取り出されているが、プリアンプ30Aと可変利得アンプ34との間やその他の箇所からアナログ受信信号を取り出すようにしてもよい。
【0031】
振幅計測部46は、複数のアナログ受信信号に基づいて振幅を評価する。本実施形態においては、個々のアナログ受信信号に対して所定の閾値との比較が行われ、閾値を超えた場合に後段の状態判定部48に対してパルスが出力されている。この場合において、所定のビームだけについて振幅計測すなわち過大信号のカウントを行うようにしてもよいし、ある一定の深さだけについてそのような計測を行うようにしてもよい。あるいは特定のフレームに対してそのような計測を行うようにしてもよい。更に、後述するように走査面上に設定された部分領域(関心領域ROI)だけについて評価を行うようにしてもよい。
【0032】
状態判定部48は、振幅計測部46から出力される、過大信号発生頻度を表す値(カウント値)を所定の値と比較し、所定の値よりもカウント値が大きくなった場合には装置由来高調波成分の発生可能性がある状態であると判定する。具体的には、所定の値よりも超えたレベルに応じて不要高調波成分発生状態の度合いを判定している。その状態の有無及びその程度を表す信号が上述した状態信号である。カウント値と所定値とを比較すれば瞬時に過大振幅が生じた場合にそれを無視することができる。
【0033】
本実施形態においては、その状態信号が表示処理部40へ出力されている。表示処理部40は、図3に示すような表示を行う処理部である。すなわち、超音波画像とグラフィック画像とを合成し、その合成画像を表示部40に出力している。
【0034】
図3に基づき表示処理部の作用を説明する。表示画面100内には超音波画像としての高調波画像102が表示されている。ちなみに符号104は超音波ビームを表している。本実施形態においては電子リニア走査が適用されるため、超音波ビーム104は図3において水平方向に平行移動走査されることになる。図3に示す例では、高調波画像102は例えばいずれかの血管(頚動脈等)105を表した画像であり、そこには血管105についての前壁の境界106Aと後壁の境界106Bとが表れている。ちなみに、ここにおいては前壁の方が高輝度に表示されている。そこで過大振幅が発生している可能性が高い。
【0035】
表示処理部は、表示画面100上に、超音波画像102と共に状態信号に基づくインジケータを表示している。インジケータは、本実施形態において、グラフ110と文字表示108とからなり、ここで文字表示108は装置由来高調波成分の発生を表す文字によって構成されている。上述したカウント値が一定の値を超えた場合に、そのような文字表示108が行われる。またそのような状態において、所定の値を超えたレベルつまり度合いがグラフ110として表示される。それは棒グラフに相当するものであり、過大状態が発光セルの個数として表されている。
【0036】
したがって、ユーザーは、図3に示すようなインジケータを参照することにより、高調波画像の観察にあたって、本来的な組織由来の高調波成分であるのか、あるいはそれ以外の装置由来の高調波成分が混入しているのか、また混入しているならばその度合いを直感的に理解し、画像診断に役立てることが可能となる。
【0037】
ちなみに、図2において、制御部50は図2に示される各構成の動作制御を行う制御部であり、それはCPUと動作プログラムにより構成されている。制御部50には操作パネル等によって構成される入力部52が接続されている。ユーザーはその入力部52を利用して、インジケータを見ながらビーム偏向角度を調整することにより、つまりインジケータ上において過大振幅が最低になるようにあるいは消失するようにビーム偏向角度を調整することが可能である。また他のパラメータを操作するようにしてもよい。超音波プローブの当接位置や当接角度を可変することにより過大振幅が発生している状態を解消あるいは軽減することも可能である。
【0038】
いずれにしても、上述したような状態信号を表す表示を行えば、本来的な高調波であるかあるいはそれ以外の要因による高調波であるのかを定量的に認識して、ユーザーの便宜を図ることが可能となる。
【0039】
図4には、第2実施形態に係る超音波診断装置がブロック図として示されている。図1に示した構成と同様の構成には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0040】
この図4に示す構成例においては、状態判定部48から出力される状態信号がステアリング制御部54へ出力されている。このステアリング制御部54は、リニア偏向走査を行うものであり、特にその偏向角度の設定を行っている。
【0041】
具体的には、不要高調波成分の発生可能性が検知された場合、ステアリング制御部54がビーム偏向角度を変える制御を実行する。それとともに、試行的なビーム偏向角度の可変を行ったところでの最良の偏向角度が自動的に判断される。すなわち過大振幅が生じない、あるいは過大振幅が最低となる偏向角度が自動的に見いだされ、当該偏向角度が実際に超音波診断を行う際の偏向角度として設定される。図5の(A)には生体中の境界面56に対して送信波58が垂直に入射し、これによって垂直方向に反射波60が生じている様子が描かれている。一方、図5の(B)には境界面に対して送信波62が斜めに入射し、これによって斜め方向に反射波64が生じている様子が描かれている。超音波の性質上、一般に、境界面と超音波ビーム軸とが直交した場合に強い反射波が生じる。つまり、反射波60と反射波64とを比べた場合、他の条件が同一であっても、反射波60の方が強いものとなるのである。この性質を利用して過大振幅の抑制を行える。この場合において、複数の偏向角度を選択し、それらを順番に設定することによりビーム偏向角度の異なるフレームを順番に生成するようにしてもよい。そしてそれぞれのフレーム毎に形成された高調波画像を合成して合成高調波画像を生成するようにしてもよい。このことが図6に図示されている。
【0042】
図6において、符号102は超音波ビームを傾けないで行った基本走査を表している。符号114及び符号116はそれぞれ超音波ビームを傾けて走査を行う偏向走査を表している。それぞれの走査により1つのフレームが構成され、すなわちそれぞれの走査毎に高調波画像が生成される。それらを合成することにより合成超音波画像が作成される。この場合において、ビーム偏向角度として上述のように過大振幅が生じない、あるいはそれが最低となる最良の偏向角度を設定するのが望ましい。図6においては3つのフレームが合成されていたが、少なくとも2つのフレームの合成が行われるのが望ましい。
【0043】
図7には関心領域(ROI)118の設定が示されている。図7に示す例では、複数のフレームのいずれにも含まれる領域として関心領域118が設定されており、そこにおいて過大振幅の発生度合いが評価される。すなわちフレームの全体に亘って過大振幅の評価を行うのではなく部分的な領域に対して評価を行うものである。画像表示にあたっては、関心領域の部分だけを拡大表示するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
22 アレイ振動子、28 受信部、30 受信チャンネル処理回路、32 加算器、34 信号処理部、36 高調波抽出部、40 表示処理部、44 状態信号生成部、46 振幅計測部、48 状態判定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波の送受波により得られたアナログ受信信号を増幅する増幅器と、
前記増幅器から出力されたアナログ受信信号をデジタル受信信号に変換する変換器と、
前記デジタル受信信号に含まれる高調波成分に基づいて高調波画像を形成する高調波画像形成部と、
前記変換器に入力される前の段階で前記アナログ受信信号を参照することにより、前記高調波画像中に生体内で発生した生体由来高調波成分の他に超音波診断装置内で発生した装置由来高調波成分が含まれる可能性の有無又は程度を示す状態信号を生成する状態信号生成手段と、
を含み、
前記状態信号が表示処理及びビーム走査制御の少なくとも一方で利用される、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記状態信号生成手段は、
前記アナログ受信信号に対して過剰振幅値の発生量を検出する検出手段と、
前記過剰振幅値の発生量に基づいて前記状態信号を生成する手段と、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記増幅器は、初段増幅回路と、その後段に設けられ受信点深さに応じて利得が可変設定される可変利得増幅回路と、を含み、
前記検出手段は、前記可変利得増幅回路と前記変換器の間から取り出されるアナログ受信信号を参照する、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1記載の装置において、
前記状態信号に基づいて前記装置由来高調波成分が含まれている可能性の有無又はその度合いを視覚的に表すインジケータを表示する表示処理手段を含む、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項4記載の装置において、
前記インジケータは前記高調波画像と共に表示画面上に表示され、前記高調波画像の動的な変化に伴って前記インジケータの表示内容が動的に変化する、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項5記載の装置において、
前記インジケータを見たユーザーによって操作される入力手段であって電子リニア走査される超音波ビームの偏向角度を変更する入力部を含む、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項1記載の装置において、
前記状態信号に基づいて電子走査される超音波ビームの偏向角度を可変設定する走査制御手段を含む、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項7記載の装置において、
前記走査制御手段は、
前記偏向角度を試行的に可変した場合における前記状態信号の変化に基づいて最良偏向角度を決定する決定手段と、
前記偏向角度の試行的可変後における前記超音波ビームの偏向角度として前記最良偏向角度を設定する設定手段と、
を実行することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項9】
請求項7記載の装置において、
第1の偏向角度の設定で取得された高調波画像と第2の偏向角度の設定で取得された超音波画像とを合成して合成高調波画像を生成する手段が設けられ、
前記合成高調波画像が表示される、ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−352(P2013−352A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134631(P2011−134631)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】