説明

超音波造影描画装置

【課題】生体組織の応答信号に含まれる高調波成分と造影剤の応答信号に含まれる高調波成分とを弁別して抽出する。
【解決手段】送信部20は超音波ビームを同一方向に時間間隔をおいて複数(M、但しM≧2の自然数)回送信する機能を有し、各回の超音波信号はそれぞれ周波数がf1、f2、…、fn、…、fN(但し、N≧2の自然数)のN個の波形を連続させてなり、f1乃至fNの平均周波数をfとしたとき、f1乃至fNの周波数分布幅Δfは、超音波照射フォーカスの深度に応じて0.0f乃至0.4fの範囲内で可変設定されてなり、かつそれらの各回の信号は極性反転に関して互いに非対称となるように送信され、受信部30は複数(M)回の超音波信号の応答信号を整相処理する機能と、整相処理された応答信号を加算又は減算処理して生体組織の応答信号を減弱する機能とを有してなるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波造影剤を用いて血流分布情報等の診断に必要な情報を描画する超音波造影描画装置に係り、特に造影剤の分布を鮮明な画像として描画可能にする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織中の血流分布情報を計測する方法として、超音波造影剤を用いた超音波造影描画方法および装置が検討されている。例えば、非特許文献1に記載されている。超音波用の造影剤は、一般に、生理食塩水等の媒液に多数の気泡を混入して形成される。気泡は、例えば、不活性ガス(C,C10など)を蛋白質膜あるいは脂質膜で覆って形成される。気泡の粒径分布は、例えば、ガウス正規分布になっており、平均粒径は数μmである。
【0003】
このような造影剤は、一般に、静脈から生体内に注入される。生体内に注入された造影剤に超音波ビームを照射すると、その音圧が低い場合は気泡が変形し、その変形に伴う音響情報が反射信号に混ざって、超音波の応答信号として放射される。また、音圧が高い場合は気泡が破壊され、強い音響情報が放射される。すなわち、超音波造影剤は超音波の照射に対して非線形応答を示し、基本周波数fの超音波を照射した場合、応答信号には基本周波数成分fに対応する信号の他に、2倍周波数の高調波成分2fの信号が含まれると言われている。
【0004】
そこで、従来、中心周波数が2fの比較的狭い帯域通過フィルタを用いて2fを抽出し、これによって組織の応答信号の基本波周波数成分fを減弱することにより、造影剤の存在を検出することが行なわれている。つまり、2fの有無が造影剤の有無に対応し、2fの大小が造影剤の空間的密度分布に対応するので、組織のどの部位に造影剤が流入するかを描画することができる。
【0005】
ところで、造影剤を用いた描画法においては、造影剤が静脈に注入されてからの時相によって初期と後期に大別される。初期は、静脈から注入された超音波造影剤が血液循環によって診断対象たる肝臓などの組織に流入する時相とされている。また、後期は、造影剤を静脈から注入後3〜8分後で、組織内に流入ないし分布した超音波造影剤が血流循環によって組織外に十分に流出すると想定される時相である。初期時相では、一般に、造影剤を破壊しないが十分な高調波を生むような超音波音圧(例えば、MI:メカニカルインデックス=0.2)、が用いられる。後期時相では、殆どの造影剤は組織から流出しているが、一部は組織内にトラップされる。このトラップの有無は、組織の疾患部と健常部で異なるとされる。この後期時相で、造影剤を破壊するような高い音圧(例えば、MI=約0.8以上と言われている。)の超音波を照射すると、造影剤が破壊される際に強い反射信号を生ずる。そこで、これを検出することによって、造影剤がトラップされている領域、つまり疾患部と、トラップされていない領域、つまり健常部とを弁別でき、診断に資することができる。
【0006】
一方、帯域通過フィルタを用いずに、造影剤応答信号の周波数に関する非線形性を利用して高調波を抽出する方法として、従来、特許文献1、2に提案されている。これらによれば、生体内に第1の超音波信号に基づく超音波パルスを照射してその応答信号を受信した後、短い時間間隔をおいて第1の超音波信号の極性を反転した第2の超音波信号に基づく超音波パルスを照射してその応答信号を受信する。そして、それらの受信信号を加算することにより、応答信号中の基本周波数成分fに対応する成分を除去して、高調波成分2fを強調することにより、高い精度で造影剤を検出することができるとしている。
【0007】
また、特許文献3には、第1の超音波信号を信号レベルが正の一定値となる期間tと、信号レベルが負の一定値となる期間tとが、この順で続く波形を有するものとし、この第1の超音波信号を時間軸について反転した波形を有する第2の超音波信号とすることが提案されている。これによれば、第1と第2の超音波信号に基づく超音波パルスの対称性を高めて、基本波成分(線形性成分)の信号を減殺することができるとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ウルトラサウンド イン メディシン アンド バイオロジー(Ultrasoundin Medicine & Biology)、Vol. 26, No. 6, p.965, 2000年、"UltrasoundContrast Imaging: Current and New Potential Methods: Peter J. A. Frinking et al."
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5632277号
【特許文献2】米国特許第5706819号
【特許文献3】特開2000−300554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した従来の技術は、いずれも造影剤に起因する高調波成分2fを抽出又は強調することについては有効である。しかし、組織の応答信号に含まれる高調波成分が造影剤の応答信号に含まれる高調波成分に比べて無視できない程大きい場合については配慮されていない。
【0011】
すなわち、従来の造影剤検出の鍵である非線形現象は、造影剤以外に、超音波が組織内を伝播するのに伴っても生じる。この場合も、照射した超音波の基本周波数fの2倍周波数の高調波成分2fが発生する。特に、組織の応答信号に含まれる高調波成分2fの信号は、深度が深くなるにつれて、つまり伝播長が増大するにつれて強度が増す。そのため、組織応答信号の高調波成分2fが造影剤の応答信号に含まれる高調波成分2fの信号に比較して、同等レベルあるいは大きなレベルになると、造影剤検出の妨げになる。例えば、肝臓内の血流のように組織内に埋没した血管内の造影剤を検出する際に、造影剤と組織との両方から2fの高調波成分が放射されるから、造影剤の存在を誤って検出するおそれがある。つまり、2fの高調波成分を強調する従来技術では、生体組織の高調波成分2fを弁別できないから、造影剤の高調波成分の検出精度が低下し、造影画像の鮮明度を向上させることができない場合がある。
【0012】
そこで、本発明は、生体組織の応答信号に含まれる高調波成分と造影剤の応答信号に含まれる高調波成分とを弁別して抽出することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
まず、本発明の解決原理について、図2を参照して説明する。図2は、超音波照射に対する造影剤と組織の非線形応答を詳しく調べた結果であり、組織中に分布した造影剤に超音波を照射した場合の応答信号のスペクトラムを模式的に示している。同図の横軸は周波数を、縦軸は各成分の信号強度を示している。また、同図(A)は探触子に近い比較的浅い部位からの応答信号、同図(B)は探触子から遠い比較的深い部位からの応答信号を示している。それらの図から判るように、浅い部位と深い部位のいずれの場合においても、造影剤の応答信号1は、基本周波数fに対応する基本波成分に加えて、広い周波数帯域にわたる高調波成分が含まれている。一方、組織の応答信号2は、基本周波数fの基本波成分2aと2倍高調波2fの高調波成分2bとに分かれて現れている。そして、浅い部位の場合は、高調波成分2bはそれ程強くないが、深い部位になると極めて強くなり、造影剤の応答信号1の信号強度よりも強くなる。これは、前述したように、組織の応答信号に含まれる高調波成分2bは、超音波が組織内を伝播する際の非線形効果によって生ずることから、探触子から離れた深い部位になるにつれて伝播長さが増大するからである。したがって、従来技術のように、一律に高調波2fの成分を抽出して、造影剤の応答信号を強調しようとしても、浅い領域を除いては、組織の高調波成分2fが強調されてしまうので、造影画像の鮮明度を向上させることができない。
【0014】
ここで、図2の考察から導き出される事項を整理する。
(1)造影剤の応答信号の周波数成分(非線形応答)は、2fに局在せず、広帯域に分布する。この傾向は、送信する超音波信号の周波数スペクトラムが広い程顕著である。
(2)造影剤の応答信号は、造影剤の径に強く依存しており、造影剤の自由共振周波数fRで著しく強調される。なお、前述したように、造影剤は粒径分布を有するから、広い範囲の周波数帯域で高調波が現れる。
(3)造影剤の応答信号の基本波成分は、組織の応答信号の基本波成分に劣らず強い。
(4)組織の応答信号の高調波は、超音波音圧の強さによらず比較的2f付近に局在している。
(5)組織の応答信号の高調波は、比較的低い超音波音圧の場合、及び浅い部位の場合は、造影剤の高調波成分に比べ大幅に弱い。
上記(1)〜(5)の考察に鑑み、本発明は次の特徴を有する解決手段によって、上記の課題を解決するものである。
【0015】
(第1の特徴)
生体との間で超音波を送受信する超音波探触子と、該超音波探触子に超音波信号を送信する送信部と、前記超音波探触子により受信された超音波の応答信号を処理する受信部と、該受信部で処理された前記応答信号に基づいて断層像を作成する描画部とを備えてなり、前記受信部は、前記応答信号の中から特定の周波数成分を抽出するフィルタを有し、該フィルタの通過帯域幅は、前記超音波探触子に送信された前記超音波信号の平均周波数をfとしたとき、0.8f乃至2.5fの範囲内に設定されてなる超音波造影描画装置とする。
【0016】
すなわち、造影剤の応答信号は広い周波数帯域に分布しており、かつ信号強度も広い周波数帯域にわたって高いことに鑑み、従来のように、2fに限ることなく広い周波数帯域0.8〜2.5fにわたる応答信号を帯域通過フィルタで抽出する。これにより、造影剤の応答信号を組織の応答信号に比べて相対的に強調することができる。特に、比較的弱い音圧の場合(初期時相)は、組織の高調波成分2fは無視し得るので有効である。
【0017】
ところで、高い音圧の場合(後期時相)は、組織の高調波成分2fを無視できなくなることがある。この場合は、帯域通過フィルタの帯域幅を0.8〜1.8fにして、組織の高調波成分2fを除去するのが好ましい。つまり、従来技術の専ら強調対象であった高調波成分2fを除去又は減弱することに、本発明の他の特徴がある。なお、この場合、2f付近に分布する造影剤に係る高調波成分の減弱を伴うが、0.8〜1.8f付近の幅広い周波数帯域に分布している造影剤の応答信号を抽出しているので、前記の減弱を補って余りある。
【0018】
また、浅い深度部位と深い深度部位で組織の高調波成分2fの強さが変わる。そこで、超音波ビームの深度部位に対応する応答信号の時間位置を割り出し、設定された深度より深い深度の応答信号については、高調波成分2fを減弱するようにフィルタの通過帯域幅をリアルタイムで切り替えることが望ましい。なお、高調波成分2fを減弱するフィルタとしては、帯域通過フィルタによる他、中心周波数が2fの帯域除去フィルタを用いることができる。
【0019】
さらに、f付近に存在する組織応答信号の基本波成分は、人体の呼吸や拍動に伴う成分も含んでいて造影剤画像においてアーチファクトとなる場合がある。この場合は、フィルタの通過帯域幅をやや狭めて1.2〜1.8f設定することが好ましい。
このようにして組織の高調波2fと造影剤の応答信号に含まれる高調波とを弁別することができる。そして、弁別して抽出された造影剤の応答信号の高調波により造影剤を検出して描画することにより、従来に比べて、造影画像のSN比の改善を図ることができる。
【0020】
(第2の特徴)
前述したように、本発明の第1の特徴は、造影剤の応答信号成分を強調して抽出するために、受信部のフィルタの通過帯域幅を広げたことにある。第1の特徴の効果をさらに助長するためには、造影剤に照射する超音波の周波数を広帯域にすることが好ましい。つまり、送信部は、複数の周波数成分を有する超音波信号を超音波探触子に送信するように構成することが望ましい。この場合において、超音波信号は、異なる周波数の波形を連続させた波形を有するものとすることができる。なお、いずれの場合も、平均周波数fは、組織及び装置に適した周波数を選択する。
【0021】
すなわち、造影剤はその粒径分布に対応して、分布した自由共振周波数を有するから、照射超音波の周波数スペクトラムを広い帯域に分布させることによって、より多くの造影剤が応答し、造影剤の応答信号そのものが増強される。その結果、組織の応答信号はf及び2fを中心とするのに対し、造影剤の応答信号は一層広い周波数帯域にわたって強いレベルで現れるので、組織の高調波と造影剤の高調波とを一層弁別し易くなる。
【0022】
(第3の特徴)
上記の第1、2の特徴は、超音波ビームの1回の照射により受信される応答信号に基づいて造影描画を行なう場合を対象とする。しかし、本発明の第1、2の特徴は、超音波ビームの1回照射方式の造影描画に限られるものではなく、次に述べるいわゆる2回照射方式(又は複数回照射方式)の造影描画法にも適用できる。特に、複数回照射方式は、造影剤の移動や破壊による消滅をリアルタイムに検出して描画する場合に有効である。つまり、造影剤の移動や消滅を検出する場合、移動前と移動後又は消滅前と消滅後の2つの画像が必要になる。しかし、1回照射方式により造影剤を描画する場合、2つの画像の時間間隔が1フレーム時間間隔(10〜20ミリ秒)で制限される。したがって、血流速度が速い部位や、造影剤の破裂を検出する場合は、複数回照射方式が好適である。複数回照射方式は、極めて短い時間間隔で超音波ビームを同一方向に2回以上照射し、各照射に対応する応答信号を比較して、所定の時間間隔内に造影剤がその超音波ビーム上から移動したか、あるいは造影剤が破壊して消滅したかを、それらの応答信号を比較することのより検出することができる。
【0023】
具体的には、送信部は、超音波ビームを同一方向に時間間隔をおいて複数(M、但しM≧2の自然数)回送信する機能を有し、各回の超音波信号はそれぞれ周波数の異なる波形の継続よりなり、かつそれら各回の信号は極性反転に関して互いに非対称となるように送信されるものとする。これに合わせて、受信部は、複数(M)回の超音波信号の応答信号を整相処理する機能と、整相処理された応答信号を加算又は減算処理して生体組織の応答信号を減弱する機能を有して構成することを特徴とする。この場合において、前記各回の波形のそれぞれの平均周波数fを等しくすることが最も好ましい。
【0024】
これによれば、従来の2回照射方式に比べて、生体内に照射する超音波の周波数帯域が広がるので、造影剤の応答信号に含まれる高調波成分を、広い周波数帯域にわたって強めることができる。これと同時に、造影剤の応答信号の周波数スペクトラムも周波数偏移し、加算又は減算処理することによって、1.2f乃至1.8f付近の帯域に広く分布することになる。その結果、生体組織の応答信号に含まれる高調波成分と、造影剤の応答信号に含まれる高調波成分とを弁別できる。そして、弁別された造影剤の応答信号の高調波により造影剤を検出して描画することにより、従来に比べて、造影画像のSN比の改善を図ることができる。
【0025】
例えば、加算又は減算処理して得られる造影剤の応答信号の周波数スペクトラムは、1.2f乃至1.8f付近の帯域で強調され、2f付近ではむしろ減弱される。したがって、応答信号を広い周波数帯域にわたって受信処理することにより、造影剤の応答信号SN比を高めることができ、造影剤の応答信号を選択的に描画することができる。
【0026】
また、上記の送信部の構成は、超音波ビームを同一方向に時間間隔をおいて複数(M、但しM≧2の自然数)回送信する機能を有し、それぞれ周波数がf1、f2、…、fn、…、fN(但し、N≧2の自然数)のN個の波形を連続させてなり、f1乃至fNの平均周波数をfとしたとき、f1乃至fNの周波数分布幅Δfは0.0f乃至0.4fの範囲内に設定されてなり、かつそれら各回の信号は極性反転に関して互いに非対称となるように送信するようにすることが好ましい。これによれば、一層、造影剤の応答信号成分を強調することができる。また、周波数分布幅Δfの制限は特にないが、好ましくは0.1f乃至0.4fの範囲とし、さらに0.2f乃至0.3fの範囲にすると、回路構成上から実用的である。
【0027】
なお、上記各回の波形を形成する単位波形は、正弦波の半サイクル、1サイクル以上を用いることができる。また、逆に1/4サイクル、1/8サイクルのように細かくしていき、ついには周波数が連続的に増減するチャ−プ波形を用いてもよい。チャープ波形の場合は、事実上1回目の照射波形の開始位相が異なるが、その振幅が開始波形から後続の波形に向かって漸減するチャープ波形、つまり振幅強調型のチャープ波形が本発明には好適である。これによれば、2回の照射間の造影剤の周波数スペクトラムの差を、振幅強勢によりさらに強調することができる。
【0028】
また、上記各回の波形を、周波数fと振幅Aと開始位相θとを規定するコードf(A、θ)によって設定し、f1(A1、θ1)<f2(A2、θ2)<…<fn(An、θn)<…<fN(AN、θN)のN個の波形を連続させてなり、振幅をA1=A2=…=An=…=AN、位相をθ1=θ2=…=θn=…=θN=0°(又は180°)に第1波形を設定する。一方、f1’(A1’、θ1’)>f2’(A2’、θ2’)>…>fn’(An’、θn’)>…>fN’(AN’、θN’)のN個の波形を連続させてなり、振幅をA1’=A2’=…=An’=…=AN’に、位相をθ1’=θ2’=…=θn’=…=θN’=0°(又は180°)に第2波形を設定することが好ましい。つまり、第1波形と第2波形は、周波数列の増減関係を互いに逆にし、開始位相は同一にし、振幅は同一でも異ならせてもよい。この場合は、整相処理された応答信号を減算処理して生体組織の応答信号を減弱する。
【0029】
また、好ましくは、第1波形と第2波形は、周波数fと振幅Aと開始位相θとを規定するコードf(A、θ)によって設定され、第1波形はf1(A1、θ1)<f2(A2、θ2)<…<fn(An、θn)<…<fN(AN、θN)のN個の波形を連続させてなり、振幅がA1=A2=…=An=…=ANに、位相がθ1=θ2=…=θn=…=θN=180°に設定され、第2波形はf1’(A1’、θ1’)>f2’(A2’、θ2’)>…>fn’(An’、θn’)>…>fN’(AN’、θN’)のN個の波形を連続させてなり、振幅をA1’=A2’=…=An’=…=AN’に、位相をθ1’=θ2’=…=θn’=…=θN’=0°に設定する。この場合は、整相処理された応答信号を加算処理して生体組織の応答信号を減弱する。
【0030】
ここで、第1波形は開始位相が180°であるから立下り(負極性側)から開始するので、低い周波数f1<fNから連続する波形とし、逆に、第2波形は開始位相が0°であるから立上り(正極性側)から開始するので、高い周波数fN’>f1’から連続する波形とすることに特徴がある。すなわち、立下り波形で超音波を照射すると造影剤の気泡が膨張から変形開始するので、応答信号の周波数分布は平均周波数fよりも低めの周波数側に偏移する。一方、立上り波形で超音波を照射すると造影剤が収縮から変形開始するので、応答信号の周波数分布は平均周波数fよりも高めの周波数側に偏移する。したがって、第1と第2の波形のコードを上記のように設定することにより、造影剤の応答信号の周波数分布を一層広げて、一層、造影剤の応答信号成分を強調することができるという格別の効果がある。
【0031】
上記の場合において、f1乃至fNとf1’乃至fN’の周波数分布幅ΔfとΔf’を、それぞれ超音波照射フォーカスの深度に応じて0.0f乃至0.4fの範囲内で可変設定することが好ましい。また、これに代えて、f1乃至fNとf1’乃至fN’の周波数分布幅ΔfとΔf’を、造影剤の注入後所定時間、例えば2分間は0.0fに、2分経過後は0.0f乃至0.4fの範囲内で可変設定することができる。
【0032】
この第3の特徴において、受信部は、生体組織の応答信号が減弱された応答信号の中から特定の周波数成分を抽出するフィルタを有するものとし、このフィルタの通過帯域幅を平均周波数fを基準として、0.8f乃至1.8fに設定することが好ましい。これによれば、加減算処理で残った組織の高調波2fをさらに除去して、造影剤の信号成分を強調できる。また、フィルタの通過帯域幅を1.2f乃至1.8fに設定することが好ましい。これによれば、先に述べた基本波周波数f近傍に現れるアーチファクトを抑制することができる。さらに、フィルタの通過帯域幅を、応答信号の深度あるいは照射する超音波音圧に応じて、可変設定することができる。例えば、深度が浅い部位あるいは初期時相のときは、フィルタの帯域通過幅を広くし、深度が深い部位あるいは後期時相のときは、フィルタの帯域通過幅を狭くすることができる。
【0033】
以上の説明においては、超音波探触子に供給する超音波信号の波形について述べたが、本発明は造影剤そのものに照射される超音波音圧の波形についても成立する。つまり、最近の超音波探触子の周波数応答特性は、中心周波数に対して比帯域60%以上であれば、超音波信号の波形の理論がそのまま音響的波形の理論に当てはまることを確認している。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、造影剤の応答信号に含まれる高調波成分を、生体組織の応答信号に含まれる高調波成分と弁別して相対的に強い信号として抽出できるから、造影剤描画の鮮明度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1実施形態の超音波造影描画装置の全体構成図である。
【図2】本発明の造影剤応答信号を高い割合で抽出できる原理を説明するグラフである。
【図3】本発明の第1実施形態に係る超音波の送信波形の一例を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態の超音波造影描画装置の全体構成図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る2回照射の送信波形の一例と、その送信波形による送信信号及び得られる応答信号の周波数スペクトラムのシミュレーション結果を示すグラフである。
【図6】比較のため、従来技術による2回照射の送信波形と、その送信波形による送信信号及び得られる応答信号の周波数スペクトラムのシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を図に示す実施形態に基づいて説明する。なお、以下に示す実施形態によって本発明が限定されるものではない。
【0037】
(第1実施形態)
図1に、本発明が適用される一実施形態の超音波造影描画装置の全体構成図を示す。本実施形態は、本発明の第1の特徴及び第2の特徴を実施するのに好適なものである。図1に示すように、超音波造影描画装置100は、探触子10、送波部20、受波部30、画像作成表示部40、およびシステム制御部50から構成される。また、送波部20は、任意波形発生器21、送信器23から構成される。受波部30は、受波器31、整相加算器32、帯域選択フィルタ34から構成される。
【0038】
送波部20の任意波形発生器21は、第1の特徴を実現する場合は、単一の周波数fを有する超音波信号を発生するように構成され、第2の特徴を実現する場合は、図3に示す波形71のように、複数の周波数を有し平均周波数fの超音波信号を発生するように形成する。任意波形発生器21の出力は送信器23を介して広帯域型の超音波探触子10に供給される。送信器23の出力部には、配列型の超音波探触子10に対応する必要なチャンネル数のパワーアンプが並列に設けられている。このようにして超音波探触子10から平均周波数fの超音波パルスが生体組織に照射される。生体組織に分布している造影剤からの応答信号と、生体組織からの応答信号は混合された信号として超音波探触子10で受信される。造影剤からの応答信号は、図2に示したように、基本波fの成分の他に広い周波数帯域にわたる高調波成分を含んでいる。また、組織からの応答信号は、基本波fの成分と2倍高調波2fの成分を含んでいる。
【0039】
超音波探触子10で受信された応答信号は、受信器31に入力される。受信器31は、必要なチャンネル数の前置増幅器、TGC増幅器、A/D変換器等を備え、入力される応答信号を増幅処理した後、ディジタル信号に変換して整相加算器32に出力する。整相加算器32は、1本の超音波ビームに係る複数の振動子からの応答信号の位相を整相して加算する。整相加算器32の具体例としては、加算処理中の歪の発生を最小にするため、いわゆるデジタルビームフォーマであることが望ましい。その理由は、整相加算処理によって不要な高調波2f成分を発生させないためである。
【0040】
整相加算器32によって整相加算された応答信号は、帯域通過フィルタ34に供給される。帯域通過フィルタ34の帯域幅は、後述するように、可変調整できるようになっている。帯域通過幅の調整は、帯域通過フィルタ34をデジタルFIRフィルタとして知られるデジタルフィルタにより形成し、そのデジタルFIRフィルタの各係数列をシステム制御部50によって、深度に応じて又は超音波音圧に応じて、可変することによって実現できる。デジタルフィルタとしては、3次のチェビショフ型フィルタがとくに好適である。帯域通過フィルタ34で選択抽出された周波数成分を有する応答信号は、造影剤の起因の信号として、造影剤モード以外の処理と共通にあるいは並列して画像作成表示部40に送られる。画像作成表示部40は、通常の検波及び圧縮などの画像処理やカラーフローなどのドップラ処理あるいは走査変換処理を含む処理を行なう。
【0041】
上述の処理操作は、生体組織の所望の断面あるいは領域を覆うのに必要な回数だけ、超音波ビームの方向を走査しながら実施される。そして、画像作成表示部40の処理により、造影剤の分布、大きさとしての輝度などの画像情報として表示部に表示される。システム制御部50は上記の一連の操作をコントロールする。
【0042】
このように構成される図1の実施形態の特徴動作について、次に説明する。造影剤を注入して行なう造影剤モードの撮像は、例えばBモード断層像を撮像して表示モニタに表示しておき、造影剤モードに撮像によって得られた造影モード像を通常のBモード像に重ねて表示することが通常である。
【0043】
通常のBモード像の撮像は、システム制御部50からの制御指令に基づいて、任意波形発生器21から基本周波数fの単一周波数を有する超音波信号が発生し、送信器23において送波フォーカス処理した後、増幅して超音波探触子10に供給して超音波ビームを生体に照射することにより行なう。生体からの応答信号は受信器31によって増幅されてディジタル信号に変換された後、整相加算器32において複数の振動子により受信された同一部位からの応答信号の位相が合わせられる。整相加算された超音波ビームごとの応答信号は帯域通過フィルタ34により特定の周波数成分の応答信号が選択して抽出される。通常のBモード像撮像の場合は、帯域通過フィルタ34の帯域幅は基本周波数fを中心周波数とする帯域に調整される。画像作成表示部40は、帯域通過フィルタ34の出力を検波処理し、圧縮などの画像処理あるいは走査変換処理等行なって生体組織の二次元画像(Bモード像)を作成して表示部(ディスプレイ)に描画する。
【0044】
次に、本発明の特徴に係る造影剤モード像の撮像及び描画について説明する。造影剤モード像の撮像及び描画の基本的な手順及び動作は、通常のBモード像撮像と同様である。
【0045】
(第1の特徴を実現する場合)
図1の実施形態を用いて、本発明の第1の特徴を実現する場合は、組織の撮像と同様に、任意波形発生器21から単一の基本周波数fを有する超音波信号を発生させて、超音波ビームを生体の所望部位に走査して照射する。この超音波信号には、周知のとおり、時間軸方向にハニング重みを掛けて生体中の波形に類似させる。また、生体からの応答信号についても、組織の撮像と同様に、組織の撮像の場合と同様に、受信器31と整相加算器32によって増幅及び整相処理を行なう。
【0046】
本発明の第1の特徴に係る要素は、整相処理された応答信号に含まれる造影剤起因の応答信号を抽出する帯域通過フィルタ34である。すなわち、図2で説明したように、組織の応答信号の基本波成分2a及び高調波成分2bに比べて、造影剤起因の応答信号1は高い信号強度を有し、かつ広い周波数帯域にわたって存在する。そこで、本実施形態では、帯域通過フィルタ34の帯域通過幅を広くして、組織の応答信号に対して相対的に造影剤の応答信号を強調することを特徴とする。特に、帯域通過フィルタ34の帯域幅は、次の(A),(B)、(C)のように可変調整することが好ましい。
【0047】
(A)造影剤分布の深度に応じて、浅い部位の場合は、0.8f乃至2.5fに調整し、深い場合には0.8f乃至1.8fに、好ましくは1.2f乃至1.8f(又は、1.1f乃至1.8f)に変更する。
【0048】
(B)造影剤注入後の初期位相においては、送信する超音波信号の振幅を初期の低音圧(MI=0.4〜0.7程度)とする。そして、浅い部位の場合は(1)と同様に0.8f乃至2.5fに調整する。
【0049】
(C)造影剤注入後の後期時相においては、送信する超音波信号の振幅を後期の高音圧(MI=1.0〜1.3程度)に連動して、帯域通過フィルタ34の帯域幅は0.8f乃至1.8fに、好ましくは1.2f乃至1.8f(又は、1.1f乃至1.8f)に変更する。
【0050】
つまり、比較的弱い音圧の場合や、初期時相のときは、組織の高調波成分2fは無視し得る。そこで、広い周波数帯域0.8〜2.5fにわたる応答信号を抽出することにより、造影剤の応答信号を組織の応答信号に比べて相対的に強調することができる。なお、深い深度の場合は、組織の高周波成分2fが強くなるが、0.8〜2.5fにわたる応答信号を抽出しても、従来技術よりは造影剤の応答信号を強調できる。一方、後期時相のように高い音圧にする場合は、組織の高調波成分2fを無視できないので、帯域幅を0.8〜1.8fにして、組織の高調波成分2fを除去又は減弱する。この場合、2f付近に分布する造影剤に係る高調波成分の減弱を伴う。しかし、広い周波数帯域に分布している造影剤の応答信号を抽出しているので減弱を補って余りある。また、f付近に存在する組織の応答信号の基本波成分は、人体の呼吸や拍動に伴う成分も含んでいて造影剤画像においてアーチファクトが生ずる場合は、フィルタの通過帯域幅をやや狭めて1.2〜1.8f(又は、1.1f乃至1.8f)に設定することが好ましい。
【0051】
帯域幅の切り換えは、設定される送波フォーカス又は受波フォーカスを基準にしてシステム制御部50により制御する。例えば、応答信号の深度は時間軸に対応するから、システム制御部50は、帯域通過フィルタ34に入力される応答信号の時間位置が設定深度より浅い範囲は、帯域幅を0.8f乃至2.5fにし、深い範囲は1.2f乃至1.8fにリアルタイムで切り替える。
【0052】
このように通過帯域フィルタ34の帯域幅を調整することにより、組織の高調波2fと造影剤の応答信号に含まれる高調波とを弁別することができる。そして、弁別して抽出された造影剤の応答信号の高調波により造影剤を検出して描画することにより、従来に比べて、造影画像のSN比の改善を図ることができる。なお、高調波成分2fを減弱するフィルタとしては、帯域通過フィルタ34による他、中心周波数が2fの帯域除去フィルタを用いることができる。
【0053】
(第2の特徴を実現する場合)
上述したように、第1の特徴は、帯域通過フィルタ34の通過帯域幅を広げて造影剤の応答信号成分を強調して抽出することにある。この効果をさらに助長するためには、造影剤に照射する超音波の周波数を広帯域にすることが第2の特徴である。つまり、任意波形発生器21により発生する超音波信号を、例えば、図3に示す波形71のように、複数の周波数を有し、かつ平均周波数fの超音波信号にすることで、広い範囲の周波数成分を有する信号にする。図3において、波形71は周波数f、fの正弦波1サイクル分を連続させた波形を有し、それらの周波数f、fの平均周波数はfである。図示例では、f<fに設定されている。なお、平均周波数fは、組織及び装置に適した周波数を選択する。また、周知のように、時間軸方向に周知のハニング重みを掛けて生体中の波形に類似させている。なお、波形71を極性反転について非対称とするとともに、時間軸について反転した波形の超音波信号でもよい。このような複数の周波数を有する超音波信号を生体に照射することにより、造影剤の応答信号は周波数スペクトルの広帯域にわたって強くなる。つまり、造影剤はその粒径分布に対応して、分布した自由共振周波数を有するから、照射超音波の周波数スペクトラムを広い帯域に分布させることによって、より多くの造影剤が応答し、造影剤の応答信号そのものが増強されるからである。
【0054】
第2の特徴によれば、組織の応答信号はf及び2fを中心とするものに変わりはない。しかし、造影剤の応答信号は一層広い周波数帯域にわたって強いレベルで現れるので、組織の高調波と造影剤の高調波とを一層弁別し易くなる。ここで、周波数f、fの差の絶対値|f―f|、つまり構成周波数の分布幅Δfは、0.0f〜0.4fの範囲内で選択する。好ましくは0.1f〜0.4fがよく、さらに好ましくは0.2f〜0.3fがよい。なお、任意波形発生器21は上述した2つの周波数f、fを有する波形に限られるものではなく、後述するようにN(≧2)個の周波数を有する波形を適用できる。
【0055】
(第2実施形態)
本発明の第3の特徴を実現するのに好適な一実施形態の超音波造影描画装置の全体構成図を図4に示す。同図において、図1と同一の基本機能を有する構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。本実施形態が図1の実施形態と相違する点は、任意波形発生器21と送信器23との間に時間軸制御器22が設けられている点と、整相加算器32と帯域通過フィルタ34との間にライン加算器33が設けられている点にある。つまり、超音波信号を超音波ビームの同一方向に時間間隔をおいて2回送信し、第1回目と第2回目の超音波信号の応答信号に基づいて、造影剤の応答信号を強調した画像を得ようとするものである。本実施形態では、第1回目と第2回目の超音波信号の波形を位相軸又は極性に関して対称に生成し、これに対応する応答信号を加算して造影剤の応答信号を強調して抽出する例で説明する。
【0056】
任意波形発生器21は、図5(A)に示すような、第1波形71(又は、72)を有する超音波信号を発生するように構成されている。第1波形71は図3で説明した波形と要件は同じである。また、第2波形72は第1波形71を極性反転については非対称で、かつ時間軸について反転した波形である。これらの第1波形71と第2波形72は、後述するように、周波数、開始位相及び振幅によってコード化することができ、コード化された1サイクル波形を連続して任意の波形を発生することができる。
【0057】
任意波形発生器21は、システム制御部50の制御により同一の超音波ビーム方向に対して、図5(A)の第1波形71の超音波信号を時間間隔をあけて2つ発生する。発生された1つ目の超音波信号は時間軸制御器22をバイパスして、送信器23を介して超音波探触子10に入力される。一方、発生された2つ目の超音波信号はシステム制御部50の制御により時間軸制御器22に入力され、ここにおいて時間軸が反転され、図5(A)の第2波形72となって送信器23を介して超音波探触子10に入力される。なお、時間軸制御器22は、ファーストイン・ファーストアウト機能と、ファーストイン・ラストアウト機能を有するシフトレジスタで構成することができる。この場合は、時間制御器23をバイパスするラインは不要である。また、任意波形発生器21が時間軸を反転した関係にある第1波形71と第2波形72の両方を発生する機能を有する場合は、時間軸制御器22はデータセレクタで構成する。
【0058】
これらの第1波形71と第2波形72の超音波信号が生体に照射されると、それらに対する2つの応答信号が受信器31に入力される。それら2つの応答信号は、同一方向の超音波ビームについての応答信号であり、時間がずれて入力される。受信器31及び整相加算器32では、それら2つの応答信号を別々に増幅、A/D変換、整相加算処理し、位相情報を有したままの応答信号(RFライン信号)としてライン加減算器33に出力する。ライン加減算器33は、2つの応答信号を位相まで考慮してRF加算し、1本の表示すべき応答信号(RFライン信号)とする。
【0059】
このようにして、2回の超音波照射の応答信号を加減算処理して得られる応答信号は、2つの応答信号に含まれる同一成分(線形成分)が減弱されて、造影剤や組織の高調波成分等の非線形成分が帯域通過フィルタ34に入力される。通過帯域フィルタ34は図1の実施形態で説明したのと同様の構成を有し、システム制御部50からの指令に基づいて、応答信号成分の深度及び造影剤の時相に応じて通過帯域幅を可変して、所望の造影剤に係る応答信号を強調するようになっている。
【0060】
なお、システム制御部50は、任意波形発生器21、受信器31、整相加算器32、ライン加減算器33、帯域通過フィルタ34に係る一連の操作をコントロールする。例えば、任意波形発生器21に対しては、超音波の波形71、72を予め定めたコードに従って発行する。
【0061】
ここで、具体的な図5(A)に示した第1波形71と第2波形72を用いて造影モード撮像を行なえば、造影剤の応答信号を効果的に強調できることについてのシミュレーション結果を説明する。図5(B)に、同図(A)の第1波形71の超音波信号を第1回目、同図の第2波形72の超音波信号を2回目に照射した場合に、ライン加減算器33から出力される信号をシミュレーションして得られた一例の周波数スペクトラムを示す。同図(B)の横軸は、基本周波数fで正規化した周波数であり、縦軸は規格化された信号強度である。また、同図(B)中の線73は送信超音波の周波数スペクトラム、線74はライン加減算器33から出力される応答信号の周波数スペクトラムである。
【0062】
このシミュレーションにおいて、1回目送信の第1波形71は、最初の1サイクルは周波数がf1(=1.8MHz)であり、次の1サイクルは周波数がf2(=2.2MHz)であって、その平均周波数fは2MHzに設定した。また、2回目送信の第2波形72は、最初の1サイクルは周波数がf2(=2.2MHz)で、次の1サイクルは周波数がf1(=1.8MHz)で、その平均周波数fは2MHzに設定した。つまり、第1波形71と第2波形72は、時間軸について反転された対称な関係になっている。なお、1回目送信の第1波形71のコード「周波数f(振幅A、位相θ)」は、1.8MHz(1.0、180°)、2.2MHz(1.0、180°)である。また、2回目送信の第2波形72のコードは、2.2MHz(1.0、0°)、1.8MHz(1.0、0°)である。また、周波数変化幅は0.4MHzで、振幅変化幅は0.0である。各波形には、その時間軸方向にハニング重みを掛けて生体中の波形に類似させてある。また、シミュレーションは、周知の造影剤の径変化を支配する微分方程式にて、直径2ミクロンの造影剤にMI=0.7の音圧波形を付加した場合の造影剤の径変化を求め、この径変化を二次音源とみなした時の放射波動を造影剤から遠方にある観測点で観察する構成としている。
【0063】
ここで、図5(B)に示した本実施形態により得られる応答信号の周波数スペクトルの特徴を、従来技術による2回照射方式の周波数スペクトルと比較して説明する。図6(A)に従来方式の超音波送信波形を示し、同図(B)に送信信号と応答信号の周波数スペクトルを示す。それらの縦軸及び横軸は図5の場合と同一である。図6(A)において、第1波形81は1回目の送信波形を示し、第2波形82は2回目の送信波形を示す。それらの周波数はいずれも基本周波数f=2MHzに設定されている。
【0064】
図5(B)の線74と図6(B)の線84を対比してみると、従来技術では基本周波数f付近の応答信号成分が大幅に減弱され、2f付近の組織の高調波成分が強調されている。これは、いわゆる組織高調波撮像(Tissue Harmonic Imagingと呼ばれている)に好適であるが,f〜2fにかけて広く分布する造影剤の応答信号成分は却って減弱されている。とりわけ、造影剤の応答信号の基本波成分fが著しく減弱されている。したがって、図6に示した従来の2回照射方式の場合は、造影剤の応答信号を組織の高調波と弁別して、強調表示するという狙いを満たすことはできない。これは、従来技術による2回送信の超音波信号波形の極性又は時間軸を互いに単に反転しただけでは、2f付近に局在する組織応答信号の高調波成分を一緒に強調するだけでなく、広い範囲にわたって分布する造影剤応答信号の基本波成分fを著しく減弱しているからである。
【0065】
この点、本発明による図5(B)によれば、造影剤応答信号と組織応答信号の高調波との弁別比は、スペクトラム上で1.2f乃至1.8f付近の帯域の面積比(エネルギ比)となるから、概略10dBから20dBにも及ぶことになる。
【0066】
したがって、帯域通過フィルタ34の通過帯域幅は、第2の特徴に係る説明で述べたと同様に行なう。つまり、ライン加減算32で得られた信号は、浅い部位の描画に際しては、0.8f乃至2.5f付近の幅広い帯域に広がった造影剤の応答信号を含むので、そのまま造影剤の効果信号として描画する。また、超音波の音圧がMI=0.2から0.7の通常の造影剤描画においても同様である。一方、超音波の音圧が高いMI値(例えば、1.3)の場合は、0.8f乃至1.8fにする。なお、28fを中心周波数とする帯域除去フィルタをに代えてもよい。深い部位の描画に際しては、2f付近の組織の高調波を減弱させるため、また体動による組織基本波のアーチファクトを低減するため、帯域幅を1.2f乃至1.8fに変更する。これにより、第1実施形態の第2の特徴よりも、造影剤の応答信号を強調して描画することができる。
【0067】
なお、図示はしていないが、図5(A)の第1波形71と第2波形72の周波数f1、f2を入れ替えても、つまり第1コードの周波数f1と第2のコードの周波数f2の関係をf1>f2にしても、同様な効果が得られる。
【0068】
以上述べたように、第2実施形態では、超音波の送信波形を構成する1サイクルの各波形を、周波数fと振幅Aと開始位相θによってコード化し、それらの波形を連続させている。特に、図5(A)に示した波形のように、第1波形71と第2波形72の1サイクル目の周波数を異ならせることにより、2回照射する超音波送信信号の周波数を強調することを特徴とする。そして、このように周波数強調した送信信号を2回の送信し、その応答信号を加算処理すると、造影剤の応答信号のスペクトラムが2fを中心とする帯域に強い信号が現れる分布(図6(B))から、1.2f0乃至1.8の帯域に強い信号が現れる分布(図5(B))に、周波数スペクトラムの低周波偏移が起きることが判明した。
【0069】
この応答信号のスペクトラムが低周波偏移する理由は、造影剤が非線形応答であるため必ずしも明快に理解できるわけではない。しかし、次のように考えることができる。まず、第1波形71は、開始位相が180°であるから立下り(負極性側)から開始する。逆に、第2波形72は、開始位相が0°であるから立上り(正極性側)から開始する。ここで、超音波の照射を立下り波形で開始すると造影剤の気泡が膨張するから、応答信号の周波数分布は平均周波数fよりも低めの周波数側に偏移することが考えられる。一方、立上り波形で照射開始すると造影剤が収縮するから、応答信号の周波数分布は平均周波数fよりも高めの周波数側に偏移することが考えられる。したがって、第1波形71と第2波形72の開始位相と周波数の関係によって造影剤の非線形応答の様子が変わり、その応答信号の周波数スペクトラムが異なってくるものと考えられる。換言すれば、開始波形の周波数をそれに続く他の波形の周波数と異ならせることにより、2回の照射により得られる造影剤応答信号の周波数スペクトラムが同一ではなくなり、造影剤の応答信号の周波数分布を一層広げて、造影剤の応答信号成分を強調することができるのである。
【0070】
(第2実施形態の変形例)
上記の実施形態においては、超音波を時間間隔を空けて2回照射する場合について説明したが、本発明は3回以上照射する場合についても適用できる。つまり、 任意波形発生器21と時間軸制御器22は、好ましくは正弦波状を含む任意の信号波の少なくとも1サイクルの超音波信号を、超音波ビームの同一方向に時間間隔をおいて複数(M、但しM≧2の自然数)回発生する機能を有するものとする。発生する超音波信号は、位相軸又は極性に関して対称な第1波形と第2波形の2種類の超音波信号とする。そして、第1波形と第2波形はそれぞれ周波数がf1、f2、…、fn、…、fN(但し、N≧2の自然数)のN個の波形を連続させてなる複数の周波数成分を有するものとする。そして、第1波形と第2波形の超音波信号を送信回ごとに交互に切り換えて送信するようにする。この場合において、第1波形と第2波形のf1乃至fNの平均周波数fを等しくすることが最も好ましい。そして、f1乃至fNの周波数分布幅Δfは、0.0f乃至0.4fの範囲内に設定する。しかし、好ましくは0.1f乃至0.4fの範囲とし、さらに0.2f乃至0.3fの範囲にするのが回路構成上から実用的である。
【0071】
なお、第1波形又は第2波形を形成する単位波形は、正弦波の半サイクル、1サイクル以上を用いることができる。また、逆に1/4サイクル、1/8サイクルのように細かくしていき、ついには周波数が連続的に増減するチャ−プ波形を用いてもよい。チャープ波形の場合は、事実上1回目の照射波形の開始位相が異なるが、その振幅が開始波形から後続の波形に向かって漸減するチャープ波形、つまり振幅強勢型のチャープ波形が本発明には好適である。これによれば、2回の照射間の造影剤の周波数スペクトラムの差を、振幅強勢によりさらに強調することができる。
【0072】
また、第1波形と第2波形を、周波数fと振幅Aと開始位相θとを規定するコードf(A、θ)によって設定し、第1波形はf1(A1、θ1)<f2(A2、θ2)<…<fn(An、θn)<…<fN(AN、θN)のN個の波形を連続させてなり、振幅をA1=A2=…=An=…=AN、位相をθ1=θ2=…=θn=…=θN=180°に設定する。一方、第2波形はf1’(A1’、θ1’)>f2’(A2’、θ2’)>…>fn’(An’、θn’)>…>fN’(AN’、θN’)のN個の波形を連続させてなり、振幅をA1’=A2’=…=An’=…=AN’に、位相をθ1’=θ2’=…=θn’=…=θN’=0°に設定する。つまり、第1波形と第2波形は、周波数列の増減関係を互いに逆にし、開始位相は180°差を持たせ、振幅は同一でも異ならせてもよい。この場合は、整相処理された応答信号を加算処理して生体組織の応答信号を減弱する。なお、開始位相は同一にしてもよく、この場合は、整相処理された応答信号を減算処理して生体組織の応答信号を減弱する。
【0073】
また、f1乃至fNとf1’乃至fN’の周波数分布幅ΔfとΔf’を、それぞれ超音波照射フォーカスの深度に応じて0.0f乃至0.4fの範囲内で可変設定することが好ましい。また、これに代えて、f1乃至fNとf1’乃至fN’の周波数分布幅ΔfとΔf’を、造影剤の注入後所定時間(2分間)は0.0fに、所定時間(2分)経過後は0.0f乃至0.4fの範囲内で可変設定することができる。
【0074】
また、例えば、N=3の場合にはf1=1.8MHz、f2=2MHz、f3=2.2MHzとする。また、N=4以上であっても本発明の趣旨は損なわれない。しかし、波数が増加するつれ、各波の差は相対的に軽減するから、N<6程度の波数が有効であることを確認している。また、M≧3の場合の加減算処理は、例えば、奇数回目の応答信号を加算し、偶数回目の応答信号を信号の極性に合わせて加算又は減算することにより、造影剤の応答信号成分を抽出する。
【符号の説明】
【0075】
10 超音波探触子
20 送信部
21 任意波形発生器
22 時間軸制御器
23 送信器
30 受信部
31 受信器
32 整相加算器
33 ライン加算器
34 帯域通過フィルタ
40 画像作成表示部
50 システム制御部
71 第1波形
72 第2波形
73 送信信号スペクトラム
74 応答信号スペクトラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体との間で超音波を送受信する超音波探触子と、該超音波探触子に超音波信号を送信する送信部と、前記超音波探触子により受信された超音波の応答信号を処理する受信部と、該受信部で処理された前記応答信号に基づいて前記生体の断層像を作成する描画部とを備えてなり、
前記送信部は、超音波ビームを同一方向に時間間隔をおいて複数(M、但しM≧2の自然数)回送信する機能を有し、各回の超音波信号はそれぞれ周波数がf1、f2、…、fn、…、fN(但し、N≧2の自然数)のN個の波形を連続させてなり、前記f1乃至fNの平均周波数をfとしたとき、前記f1乃至fNの周波数分布幅Δfは、超音波照射フォーカスの深度に応じて0.0f乃至0.4fの範囲内で可変設定されてなり、かつそれらの各回の信号は極性反転に関して互いに非対称となるように送信され、
前記受信部は、前記複数(M)回の超音波信号の応答信号を整相処理する機能と、該整相処理された応答信号を加算又は減算処理して前記生体組織の応答信号を減弱する機能とを有してなる超音波造影描画装置。
【請求項2】
生体との間で超音波を送受信する超音波探触子と、該超音波探触子に超音波信号を送信する送信部と、前記超音波探触子により受信された超音波の応答信号を処理する受信部と、該受信部で処理された前記応答信号に基づいて前記生体の断層像を作成する描画部とを備えてなり、
前記送信部は、超音波ビームを同一方向に時間間隔をおいて複数(M、但しM≧2の自然数)回送信する機能を有し、各回の超音波信号はそれぞれ周波数がf1、f2、…、fn、…、fN(但し、N≧2の自然数)のN個の波形を連続させてなり、前記f1乃至fNの平均周波数をfとしたとき、前記f1乃至fNの周波数分布幅Δfは、造影剤の注入後所定時間は0.0fに、所定時間経過後は0.0f乃至0.4fの範囲内で可変設定されてなり、かつそれらの各回の信号は極性反転に関して互いに非対称となるように送信され、
前記受信部は、前記複数(M)回の超音波信号の応答信号を整相処理する機能と、該整相処理された応答信号を加算又は減算処理して前記生体組織の応答信号を減弱する機能とを有してなる超音波造影描画装置。
【請求項3】
前記各回の波形は、周波数fと振幅Aと開始位相θとを規定するコードf(A、θ)によって設定され、
f1(A1、θ1)<f2(A2、θ2)<…<fn(An、θn)<…<fN(AN、θN)のN個の波形を連続させてなり、振幅がA1=A2=…=An=…=ANに、位相がθ1=θ2=…=θn=…=θN=180°に設定される第1波形と、
f1’(A1’、θ1’)>f2’(A2’、θ2’)>…>fn’(An’、θn’)>…>fN’(AN’、θN’)のN個の波形を連続させてなり、振幅がA1’=A2’=…=An’=…=AN’に、位相がθ1’=θ2’=…=θn’=…=θN’=0°に設定される第2波形とからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波造影描画装置。
【請求項4】
前記f1乃至fNとf1’乃至fN’の周波数分布幅ΔfとΔf’は、それぞれ超音波照射フォーカスの深度に応じて0.0f乃至0.4fの範囲内で可変設定されることを特徴とする請求項3に記載の超音波造影描画装置。
【請求項5】
前記f1乃至fNとf1’乃至fN’の周波数分布幅ΔfとΔf’は、造影剤の注入後所定時間は0.0fに、所定時間経過後は0.0f乃至0.4fの範囲内で可変設定されることを特徴とする請求項3に記載の超音波造影描画装置。
【請求項6】
前記受信部は、前記生体組織の応答信号が減弱された応答信号の中から特定の周波数成分を抽出するフィルタを有し、該フィルタの通過帯域幅は、前記平均周波数fを基準として0.8f乃至1.8fに設定されてなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の超音波造影描画装置。
【請求項7】
前記受信部は、前記生体組織の応答信号が減弱された応答信号の中から特定の周波数成分を抽出するフィルタを有し、該フィルタの通過帯域幅は、前記平均周波数fを基準として1.2f乃至1.8fに設定されてなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の超音波造影描画装置。
【請求項8】
前記受信部は、前記生体組織の応答信号が減弱された応答信号の中から特定の周波数成分を抽出するフィルタを有し、該フィルタの通過帯域幅は、前記平均周波数fを基準として0.8f乃至1.8fの範囲内で、前記応答信号の深度に応じて可変設定されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の超音波造影描画装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−142693(P2009−142693A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82394(P2009−82394)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【分割の表示】特願2008−329753(P2008−329753)の分割
【原出願日】平成13年2月1日(2001.2.1)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】