説明

超高分子量ポリエチレンの接着方法

【課題】生体適合性、環境負荷等の問題のない、接着性の優れた超高分子量ポリエチレンの接着方法を提供する。
【解決手段】超高分子量ポリエチレンの表面にアクリル酸、メタクリル酸及びジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートから選ばれるモノマーを光グラフト重合させて表面を改質した後、ビニル系接着剤で接着する超高分子量ポリエチレンの接着方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高分子量ポリエチレンを接着する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超高分子量ポリエチレンは、高い強靭性、耐薬品性、耐衝撃性及び生体適合性を有し、汎用性エンジニアリング用樹脂として種々の技術分野での応用が期待されている素材である。しかしながら、表面が非極性であって、濡れ性、接着性等の表面特性に乏しく、未だその応用範囲が限定されている。特に、表面の接着性は、素材加工の点で極めて重要な表面特性の一つである。また、生体適合性を有する超高分子量ポリエチレン製品を得るためには、接着による成形が困難であるため、金型の中での圧縮成型されているにすぎず、この点からも用途が限定されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、生体適合性、環境負荷等の問題のない、接着性の優れた超高分子量ポリエチレンの接着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、生体適合性及び環境負荷等に問題のない超高分子量ポリエチレンの接着方法の開発を進めたところ、超高分子量ポリエチレンの表面に特定のモノマーを光グラフト重合させて改質し、次いでポリビニルアルコール等のビニル系接着剤で接着すると、生体適合性及び環境負荷等の問題もなく容易に接着し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
すなわち、本発明は、超高分子量ポリエチレンの表面にアクリル酸、メタクリル酸及びジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートから選ばれるモノマーを光グラフト重合させて表面を改質した後、ビニル系接着剤で接着する超高分子量ポリエチレンの接着方法を提供するものである。
また、本発明は、上記接着方法で接着して製造した生体適合性材料を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の超高分子量ポリエチレンの接着方法は、接着が容易であり、更に接着性に優れ接着強度が飛躍的に高くなり、生体適合性及び環境負荷等の問題もなく汎用性が高く、例えば人工関節等の生体適合性材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で使用する超高分子量ポリエチレンは、平均分子量が550万以上であるのが好ましく、該平均分子量は粘度法ASTMD2857で測定した値を用いる。このような超高分子量ポリエチレンの市販品として作新工業株式会社製のもの等が使用できる。
【0008】
本発明の超高分子量ポリエチレンは、その表面にアクリル酸、メタクリル酸及びジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートモノマーから選ばれるモノマーを光グラフト重合することにより得られるものである。
【0009】
ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートとしては、次の一般式(1)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は炭素数1〜4のアルキル基を示し、nは2〜4の数を示す)
で表されるジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0012】
上記一般式(1)で表されるジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートとしては、R1がメチル基が好ましい。また、R2としてはメチル基、エチル基、イソプロピル基等が挙げられるが、メチル基が特に好ましい。nは2〜4であるが、2又は3、特に2が好ましい。ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートとしては、ジメチルアミノエチルメタアクリレートが特に好ましい。
【0013】
光グラフト重合は、超高分量ポリエチレンの表面に、光増感剤及び前記モノマーを含有する溶液を塗布し、次いで活性光線を照射することにより行われる。
【0014】
光増感剤としては、ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(2'−メタクリロイルオキシエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(2'−アクリロイルオキシエトキシ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物、2−(2'−ヒドロキシ−3'−アリル−5'−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3'−アリル−5'−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3'−イソプロペニル−5'−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−アクリロイルオキシ−5'−メチル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物が挙げられる。光増感剤としては、ベンゾール系化合物、特にベンゾフェノンが好ましい。
【0015】
グラフト重合を行わせる活性光線としては、紫外線が最も好ましく、紫外線照射の光源として超高圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハロライドランプ、キセノンランプ、低圧殺菌ランプ等が挙げられる。400W高圧水銀灯を用いた場合、照射時間は30〜120分、更に60〜120分であるのが好ましい。
【0016】
超高分子量ポリエチレンに対する前記モノマーのグラフト量は、7.0μmol/cm2以上であるのが、接着性を顕著に向上させる点で好ましい。
【0017】
使用するビニル系接着剤としては、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル−アクリル酸エステルコポリマー又はポリアクリレート等が挙げられる。接着剤としては、特にポリビニルアルコールが好ましい。
【0018】
本発明の表面が改質された超高分子量ポリエチレンは、医療用材料等の生体適合性材料として優れているほか、各種建材、工業材料などの複合材料としても極めて有用である。
【0019】
この超高分子量ポリエチレン素材を生体適合性材料として使用する場合は、接着剤としてポリビニルアルコールを用いるのが好ましい。
【実施例】
【0020】
次の方法で、超高分子量ポリエチレンの表面特性及び接着性を測定した。
表面特性:X線光電子分光法(ESCA)を用いて、超高分子量ポリエチレン板表面の光グラフト重合に伴う表面組成の変化を測定した。MgKα線を線源としてO1s、C1s及びN1sスペクトルを測定し、強度比O1s/C1sおよびN1s/C1sを算出した。
接着性:表面を光グラフト重合処理した超高分子量ポリエチレン板の接着強度を、引張りせん断接着強度測定法により測定した。超高分子量ポリエチレン板(25×10mm)の表面に、接着剤を接着面積が1cm2になるように塗布して重ね合わせた後、荷重0.5kg/cm2の加圧下で、24時間、100℃に加熱して接着剤を硬化させた。次いで、室温まで冷却後、接着面積を測定後、材料試験機(卓上型材料試験機STA−1225、株式会社オリエンテック製)を使用して引張りせん断接着強度(N/cm2)を測定した。
【0021】
参考例
ベンゾフェノン約0.25gをアセトンに溶解させ(濃度0.0275mol/dm3)、その溶液に超高分子量ポリエチレン板(6.0×2.5cm)(平均分子量550万以上:作新工業株式会社製)を1分間浸漬させ、ベンゾフェノンを基質表面に塗布した。この塗布した超高分子量ポリエチレン板と濃度1.0mol/dm3のアクリル酸水溶液60mLを反応管に入れ、反応温度60℃、400Wの高圧水銀灯からの紫外線照射を0〜100分間行って光グラフト重合を行った。光グラフト重合前後の超高分子量ポリエチレン板の重量差から光グラフト重合量(μmol/cm2)を求めた。
【0022】
図1に、アクリル酸のグラフト量に対するO1s/C1s強度比の変化を示す。グラフト量が増加するに従い強度比が増加し、光グラフト重合により超高分子量ポリエチレン板の表面に、酸素原子を含むポリアクリル酸グラフト鎖が形成した。アクリル酸のグラフト量が約10μmol/cm2になると強度比は一定となり、超高分子量ポリエチレン板の表面がグラフト鎖で覆われたことを示していた。
【0023】
実施例1
参考例で製造したアクリル酸を表面にグラフトさせた表面改質超高分子量ポリエチレン板に、接着剤としてポリビニルアルコール(Poly vinyl alcohol 1000、和光純薬株式会社製)水溶液を使用して同グラフト量の超高分子量ポリエチレン板を接着させたときの引張りせん断接着強度を測定した。
【0024】
接着条件:100℃で負荷20kg/cm2
引張りせん断接着強度測定条件:断速度3.0mm/s。
【0025】
図2に測定結果を示す。ポリビニルアルコール5質量%水溶液では、グラフト量の増加と共に接着強度は、穏かに上昇したが、10質量%及び15質量%では、グラフト量と共に接着強度は急激に上昇し、接着性の著しい上昇が認められた。
【0026】
実施例2
実施例1のポリビニルアルコールを、更に20質量%水溶液とした場合の引張りせん断接着強度を測定した。
図3に測定結果を示す。
グラフト量が約3μmol/cm2以上で、接着強度が強く、超高分子量ポリエチレン板が破壊した。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】グラフト化されたアクリル酸量と強度比(O1s/C1s)の関係を示す図である。
【図2】グラフト化されたアクリル酸量と引張りせん断接着強度との関係を示す図である。
【図3】グラフト化されたアクリル酸量と引張りせん断接着強度との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高分子量ポリエチレンの表面にアクリル酸、メタクリル酸及びジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートから選ばれるモノマーを光グラフト重合させて表面を改質した後、ビニル系接着剤で接着する超高分子量ポリエチレンの接着方法。
【請求項2】
モノマーのグラフト量が、7.0μmol/cm2以上である請求項1記載の超高分子量ポリエチレンの接着方法。
【請求項3】
ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートが、ジメチルアミノエチルメタアクリレートである請求項1又は2記載の超高分子量ポリエチレンの接着方法。
【請求項4】
ビニル系接着剤が、ポリビニルアルコールである請求項1〜3のいずれか1項記載の超高分子量ポリエチレンの接着方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の超高分子量ポリエチレンの接着方法で接着して得られる生体適合性材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−153945(P2007−153945A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347564(P2005−347564)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】