説明

超高圧水銀ランプ及びそれを用いた光源装置

【課題】超高圧水銀ランプにおいて、アーク長を長くすることなくかつ過大なランプ電流を流すことなく水銀密度を増加して演色性を改善する。
【解決手段】発光管及び発光管の放電空間に突出した一対の電極を備えた超高圧水銀ランプにおいて、放電空間の水銀密度ρ[mg/cc]、電力P[W]、内容積V[cc]について、P/V≧−4.33ρ+5245、及び、1500≦P/V≦3100を満たし、平均演色評価数Raが80以上であり、マイクロ波電力によって点灯される構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超高圧水銀ランプ及びそれを用いた光源装置に関し、特に、平均演色評価数Raが80以上のマイクロ波点灯用の超高圧水銀ランプ及びそれを用いた光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の超高圧水銀ランプは200〜300mg/cc程度の水銀密度を有し、2700W/cc(又は1.5W/mm)程度の管壁負荷で点灯され、平均演色評価数Raは60程度であった。
超高圧水銀ランプとして、例えば特許文献1には、水銀密度が243〜357mg/cc、管壁負荷1.30〜1.36W/mm(2170〜4290W/cc)、アーク長1.0〜1.2mmのものが開示されている。また、特許文献2には、水銀密度が160〜220mg/cc、管壁負荷0.8〜1.5W/mm、アーク長1.2mm程度のものが開示されている。
このような超高圧水銀ランプの一対の電極には専用の電源が接続され、両電極間に所定の電流が通電されて放電アークが形成される。
【0003】
プロジェクタ用照明として、色再現性の観点から演色性の高い光源が望ましい。演色性向上のためにキセノンランプを用いることもできるが、キセノンランプは発光効率が30lm/W程度と低く、従って、キセノンランプよりも効率の高い水銀ランプでの演色性の向上が望まれる。
【0004】
また、超高圧水銀ランプでは、光学効率を高めるためにアーク長は1mm程度の非常に短い値に設定されている。このため、従来の超高圧水銀ランプの場合、即ち、両電極に専用の点灯装置を接続して両電極間に電流を流す点灯方式の場合、アーク長が短いとランプ電圧が低くなる。この低いランプ電圧において、所望の水銀蒸気圧を得るために必要な管壁負荷を得るためには、ランプ電流をランプ電圧に反比例させて大きくする必要がある。このように電極に大電流を通電する場合、封止部材である金属箔の断面積を、通電する電流値に合わせて大きくしなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2829339号公報
【特許文献2】特許第2948200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、水銀ランプにおいては、点灯中の水銀蒸気圧を高めることにより演色性を改善することができることが分かっている。そして、水銀蒸気圧を高めるためには、発光管内に封入する水銀密度を増加し、管壁負荷を高くする必要がある。高い管壁負荷を得るためには、ランプ電力を増加させる必要があるが、ランプ電流を増加させると電極の消耗を早めてしまい、好ましくない。また別法として、ランプ電力を増加させつつランプ電流を増加させないためにランプ電圧を高く(即ち、アーク長を長く)すればよいが、高ランプ電圧化のための長アーク化は光学効率の低下を招き、好ましくない。
【0007】
また、電極に大電流を流すために金属箔の断面積を大きくするには、金属箔の厚さを厚くするか、または幅を大きくしなければならない。しかし、金属箔は点灯中に高温になり膨張するため、その断面積を大きくすると、熱による膨張が大きくなり、発光管が破損する可能性がある。特に、超高圧水銀ランプにおいては、点灯中の発光管内圧力が非常に高いため、金属箔の膨張による故障の可能性がより高くなる。
【0008】
そこで本発明は、アーク長を長くすることなくかつ過大なランプ電流を流すことなく水銀密度を増加して演色性を改善した超高圧水銀ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の側面は、発光管及び発光管の放電空間に突出した一対の電極を備えた超高圧水銀ランプであって、放電空間の水銀密度ρ[mg/cc]、電力P[W]、内容積V[cc]について、P/V≧−4.33ρ+5245、及び、1500≦P/V≦3100を満たし、平均演色評価数Raが80以上であり、マイクロ波電力によって点灯される超高圧水銀ランプである。ここで、一対の電極の電極間距離を0.5mm以上3.0mm以下、より好ましくは0.8mm以上1.5mm以下とすることが好ましい。
【0010】
本発明の第2の側面は、上記第1の側面の超高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプにマイクロ波電力を伝搬するアンテナ、並びにアンテナ及び超高圧水銀ランプを内部に配置する共振器を備えた光源装置である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の超高圧水銀ランプの図である。
【図2】本発明の光源装置の図である。
【図3】超高圧水銀ランプにおける水銀密度、電力及びRaの関係を示す図である。
【図4】超高圧水銀ランプにおける水銀密度と管壁負荷の関係を示す図である。
【図5A】従来の超高圧水銀ランプにおける発光スペクトルを示す図である。
【図5B】本発明の一実施例による超高圧水銀ランプにおける発光スペクトルを示す図である。
【図5C】本発明の他の実施例による超高圧水銀ランプにおける発光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の超高圧水銀ランプは、アーク長を長くすることなく水銀密度及びランプ電力(管壁負荷)を増加するために、電極間に直接大電流を流す点灯方式ではなく、電極周辺に電界を発生させるマイクロ波点灯方式を用いる。即ち、本発明のランプでは、放電空間内の電極にマイクロ波電力を結合して発光物質を蒸発・励起させて電極間でアーク放電を行う。従って、大電流が電極を通して流れることはない。なお、以下の実施例において、「管壁負荷」とはランプ電力[W]を放電空間の内容積[cc]で割った値をいうものとする。
【0013】
図1に本発明の超高圧水銀ランプ1(以下、「ランプ1」という)を示す。ランプ1は、石英ガラスからなる発光管2、発光管2の放電空間21に先端部が突出する電極3a及び3b、並びに電極3a及び3bにそれぞれ接合された金属箔(モリブデン箔)4a及び4bを備える。電極3a及び3b並びにモリブデン箔4a及び4bは発光管2に封止されている。なお、一対の電極3a及び3bは、マイクロ波電力による放電が可能であれば、異なる長さで放電空間20に突出していてもよいし、同一形状でなくてもよい。また、生産性を考慮してランプ1を発光部21に対して対称形状としているが、非対称形状であっても本発明の作用効果を得られる。なお、図面は寸法通りではない。
【0014】
本発明の超高圧水銀ランプはマイクロ波によって点灯されるため、封止部材である金属箔(モリブデン箔)に電流を流して点灯するランプと異なり、点灯電力を大きくする際にモリブデン箔に流す電流を大きくする必要がなく、即ち、モリブデン箔の断面積を大きくする必要がない。従って封止部材の膨張が少なく、従来の点灯方式より故障の可能性が減少する。言い換えると、従来の点灯方式の場合と比較して金属箔の断面積を小さくできるため、より一層故障の確率を低減することができる。
【0015】
図2に本発明の光源装置を示す。光源装置は、上記のランプ1、ランプ1を支持するとともにマイクロ波電力を伝搬するためのアンテナ5、ランプ1とアンテナ5を内部に配置する金属製の円筒状筐体からなる共振器6、ランプ1からの光を反射させ所望の領域に導くための反射鏡9、及び共振器6外部のマイクロ波電源(不図示)からアンテナ5にマイクロ波電力を伝搬するためのコネクタ7(例えば、同軸コネクタ)を備える。ランプ1からの光は反射鏡9の内面により反射されて光取出し口8より外部に取り出される。光取出し口8は金属メッシュ等からなり、共振器6から外部へのマイクロ波の漏洩を防止する。なお、上記部材からなる光源装置のインピーダンス整合は本発明の課題ではないため説明を省略するが、インピーダンス整合は適宜なされているものとする。また、図面は寸法通りではない。
【0016】
ランプ1の一実施例の寸法として、発光部20の外径(光軸に垂直な断面の最大径)は9.4mm、放電空間21の内径(光軸に垂直な断面の最大径)は4.2mmであり、内容積は0.055ccである。ランプ全長は32mmであり、アーク長(電極間距離)は0.9mmである。なお、各寸法は上記に限られず、例えば、電極間距離は0.5〜3.0mm程度、より好ましくは0.8〜1.5mm程度であればよい。
【0017】
図3に、上記寸法のランプ1における、放電空間21に封入される水銀密度ρ毎のランプ電力Pに対する平均演色評価数Raの関係を示す。図3から分かるように、水銀密度が高いほど、低いランプ電力(管壁負荷)でも高いRaを実現することができる。水銀密度280mg/ccではランプ電力を非常に高くしなければ80以上のRaを実現することはできない。水銀密度400mg/ccではランプ電力約200W以上、550mg/ccでは約147W以上、800mg/ccでは約102W以上でRa80以上を実現できる。
【0018】
図4は、図3の結果に基づいて水銀密度ρに対する管壁負荷P/Vを示すものである。近似直線は、上記図3の結果を元に、(x、y)=(ρ[mg/cc]、P/V[W/cc])=(400、200/0.055)、(550、147/0.055)、及び(800、102/0.055)の3点から算出され、P/V=−4.33ρ+5245となる。そして、近似直線の右上の領域がRa80以上を満たす範囲である。
【0019】
なお、本実施例では線形近似を用いて近似を行ったが、多次関数、指数関数等の曲線近似を行ってもよい。実際に、Ra80以上となる関数P/V(ρ)は図3の破線のような下弦の曲線になると考えられるが、以下に示すように、現実の使用における管壁負荷P/Vの範囲は限られているため、その限られた範囲においては直線近似としても問題ない。
【0020】
但し、管壁負荷P/Vが1500未満の場合(即ち、ランプ電力が低すぎる場合)、発光管温度が設計温度まで上昇しないことから内圧が上がらず(封入物質が充分に蒸発せず)、現実にはRa80を実現することは難しい。また、管壁負荷P/Vが3100を超える場合には、その内容積に対して過大な電力のために失透が発生するなど、ランプ寿命に悪影響が生じてしまうことが分かっている。従って、管壁負荷について、1500≦P/V≦3100とすることが望ましい(図4の太線参照)。なお、水銀密度の上限は、封入密度が高すぎる場合、未蒸発の水銀がアークからの光を遮り明るさが低下することを考慮すると、1000mg/cc程度である。
【0021】
以上より、マイクロ波電力による点灯方式の超高圧水銀ランプにおいて、P/V≧−4.33ρ+5245、かつ、1500≦P/V≦3100とすることにより、従来通りのアーク長(例えば、0.9mm程度)及びランプ電力(即ち、ランプ電流)において、水銀密度を増加して演色性を改善し、Ra80を達成することができる。
【0022】
図5A〜5Cに、従来例、実施例1及び実施例2のランプにおける発光スペクトルをそれぞれ示す。各ランプとも上述した寸法を有し、水銀密度、管壁負荷(ランプ電力)、及び平均演色評価数Raは表1の通りである。
【表1】

【0023】
図5Aに示すように、従来例の発光スペクトルは水銀の輝線が主となっているが、図5B及び5Cに示すように、実施例1及び2の発光スペクトルは水銀輝線以外のベース部分の発光が増加し、可視域全域(380〜780nm)で発光していることが分かる。この発光スペクトルの改善によりRaが向上する。
【0024】
以上より、超高圧水銀ランプにおいて、アーク長を長くすることなくかつ過大なランプ電流を流すことなく水銀密度を増加して演色性を改善し、Ra80を達成することができた。また、実施例1及び2とも発光効率は70lm/W程度であり、キセノンランプを用いた場合(30lm/W程度)よりも格段に高い。実施例のランプを図2に示すような光源装置に適用することにより、好適なプロジェクタ用光源を得ることができる。
【符号の説明】
【0025】
1.ランプ
2.発光管
3a、3b.電極
4a、4b.モリブデン箔
5.アンテナ
6.共振器
7.コネクタ
8.光取出し口
9.反射鏡
20.発光部
21.放電空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管及び該発光管の放電空間に突出した一対の電極を備えた超高圧水銀ランプであって、
前記放電空間の水銀密度ρ[mg/cc]、電力P[W]、内容積V[cc]について、
P/V≧−4.33ρ+5245、及び
1500≦P/V≦3100
を満たし、平均演色評価数Raが80以上であり、マイクロ波電力によって点灯される超高圧水銀ランプ。
【請求項2】
請求項1に記載の超高圧水銀ランプにおいて、前記一対の電極の電極間距離が0.5mm以上3.0mm以下である、超高圧水銀ランプ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の超高圧水銀ランプ、
前記超高圧水銀ランプにマイクロ波電力を伝搬するアンテナ、及び
前記アンテナ及び前記超高圧水銀ランプを内部に配置する共振器
を備えた光源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【公開番号】特開2013−16412(P2013−16412A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149850(P2011−149850)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】