説明

超高圧鍋を用いた食材の調理方法

【課題】超高圧鍋を使用し、短時間で大量に調理できる方法を提供する。
【解決手段】鍋内の温度と圧力を120℃〜170℃、2.0気圧〜8.0気圧(0.20MPa〜0.80MPa)で調理する。熱源としてはIHヒーターを使用すると鍋内の温度コントロールが容易にでき、また省エネルギーの効果もある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高圧鍋を用いた食材の調理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から圧力鍋を用いた食材の調理に関する発明は数多く見られる。その多くは電気炊飯器や圧力鍋に関するものであり、特許文献1〜3からも分かるように、ほとんどが温度や圧力のコントロール方法や装置に関するものである。そしていずれも調理温度は105℃〜110℃、圧力も1.2気圧〜1.4気圧(0.12MPa〜0.14MPa)で使用されている。圧力がこの設定値を超えた場合、圧力調整弁から蒸気を噴き出す構造になっており、設定値以上の高圧をかけることは危険が伴うので好ましくないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−248795号公報
【特許文献2】特開2006−6583号公報
【特許文献3】特開2008−307375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧力鍋を用いて行う調理方法は以上のような条件で行われているのが一般的である。しかし、このような条件で調理された食材は十分な食感を有してはいるが、食材の内部まで高温の熱が通っていないためか、骨、例えば鶏肉や豚肉の骨、魚の骨までは柔らかく調理することができないと云う欠点があった。また通常の圧力鍋を使うこの調理条件では調理時間に限界があり、同じような条件である以上、さらに短時間で調理することは難しく、ひいては、大量に調理することができないと云う欠点もあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、これらの欠点を解決するため鋭意研究した結果、従来の調理条件より高温高圧で調理することによりこれらの欠点を解決できることを見出し本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明の要旨とするところは、
「超高圧鍋を使用し、鍋内の温度を120℃〜170℃、鍋内の圧力を2.0気圧〜8.0気圧(0.20MPa〜0.80MPaにすることを特徴とする食材の調理方法。」である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の調理方法によれば、通常の圧力鍋を用いて調理する方法に比べ、高温、高圧での調理となるため、肉、魚類の内部まで熱を通すことができるので骨まで柔らかく調理できると云う予想外の効果を得ることができた。また、調理時間を短縮できるので、大量の食材を短時間に調理でき、業務用の使用にも適している。さらに食材の形状を崩さず、骨まで柔らかく調理できるので、老人の介護施設や養護施設などで好ましく用いることができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
一般に、化学反応では反応温度を10℃上げると反応速度が2倍になることが知られているが、活性化エネルギーの大きさにより2倍以上にも2倍以下になる場合もある。食材の調理の場合も一種の化学反応とみることができ、調理温度を上げることで調理時間を短縮することが可能となる。例えば、100℃での食材の煮物で比較すると、150℃と50℃高い温度で煮込んだ場合は、100℃の沸騰状態での調理速度に比べると約32倍になる。
【0009】
通常、圧力鍋を利用した調理においては、加熱温度105℃〜110℃、圧力1.2気圧〜1.4気圧(0.12MPa〜0.14MPa)で調理されることが普通である。本発明の超高圧鍋を使用した場合の調理温度は120℃〜170℃であり、通常の圧力鍋での調理温度より30℃〜60℃高い。このことは調理速度が格段に早くなることを示しており、少なくとも10倍以上の速度で目的を達成することができる。
【0010】
本発明で云う超高圧鍋とは、通常の圧力鍋より高温高圧で調理できる圧力鍋のことを云う。超高圧鍋を使用する調理方法では、鍋内の温度を120℃〜170℃、鍋内の圧力を2.0気圧〜8.0気圧(0.20MPa〜0.80MPa)にすることができる。鍋内の温度が170℃を超えると鍋内の水の飽和水蒸気圧が8気圧を超え、例えば、鍋内の温度が180℃になると水の飽和蒸気圧が10気圧を超えるので危険であるので170℃を超えるのは好ましくない。好ましい調理条件は、鍋内の温度は120℃〜160℃であり、120℃〜150℃にするのがより好ましい温度条件になる。この温度条件では、鍋内の水の飽和蒸気圧は2.0気圧〜5.0気圧(0.20MPa〜0.50MPa)になるので好ましい調理条件として採用することができる。
【0011】
まず、本発明で使用する超高圧鍋について説明する。本発明の超高圧鍋は鍋内の圧力が通常の圧力鍋の鍋内圧力に比べると非常に高い。このため鍋の材質も0.80MPaの高圧に耐えられるものが必要である。好ましくは1.0MPa(10気圧)程度の圧力に耐えるものであれば良い。具体的には、ステンレスや銅など熱伝導性を有する金属材が好ましい。さらに本発明での鍋の加熱方法は電気加熱で行うのが好ましく、なかでも温度管理の面からも熱効率の面からIHヒーターが好ましく用いられる。そのため鍋の材質はIHヒーターでの電磁誘導加熱が可能なSUS430が好ましく用いられる。加熱源としてIHヒーターを用いる場合は、鍋全体を磁性を有する金属、例えばSUS430で製作するか、少なくとも加熱面である鍋の底部は磁性を有する金属、例えばSUS430を用いるか、他の金属とSUS430を組み合わせた材料とするのが好ましい。
【0012】
加熱源としてIHヒーターを用いる利点は、エネルギー効率が良いだけでなく、設定温度のオン・オフ操作が容易にできることである。ガスを熱源とする圧力鍋では温度管理や圧力管理が設計上複雑になり、安全性の確保は容易ではない。
【0013】
本発明の超高圧鍋は中間部で上部の鍋蓋と下部の鍋に分離できるようになっている。鍋蓋部と鍋部は留め金で締められて、一体となっている構造にするのが好ましい。蓋には温度センサーが取付けられており、鍋内の温度管理に利用される。鍋内の圧力測定のために圧力計が付けられている。安全管理の面から圧力計を付けるのが好ましいが、例え圧力計を付けなくても鍋内の温度は鍋内における水の飽和蒸気圧に近似するから、センサー温度を読み取ることで鍋内の圧力を推定できる。
【0014】
本発明の超高圧鍋を使用して調理する方法においては、鍋内の温度を120℃〜170℃にすることができる。先ほど述べた理由から、好ましくは120℃〜150℃である。以降、調理温度として鍋内の温度を150℃に設定した場合について説明する。この場合、鍋内の圧力は150℃における水の飽和蒸気圧である0.5MPaに設定したことになる。本発明の超高圧鍋に付けている圧力を抜く装置は、安全設計上、鍋内の圧力が設定値を超えた場合においても、蒸気を噴出しない構造にしてある。ただし、温度センサーが故障した場合を考慮して、鍋内の圧力が設定値の2倍に達したとき、圧力を抜く装置の安全弁(鍋蓋の上部に取り付ける)が働く構造になっている。安全弁はあくまで非常用のもので、通常は作動しない。
【0015】
基本的には温度を150℃に設定しておき、150℃を超えるとIHヒーターの電源が切れるか、IHヒーターの構造が150℃以上にならないよう設定することで、鍋内の圧力を5気圧以下して安全性を確保することができる。
【0016】
また、鍋内圧力が上がり過ぎた場合のことを考慮して、鍋蓋と下部の鍋本体の間のパッキング部分を10気圧程度の圧力が掛かった場合にパッキング部分から圧力が漏れる構造にすることもできる。
【0017】
水以外のもので調理する時、例えば、アルコール単独もしくは水との混合液を使用した場合、鍋内の蒸気圧は高くなることに注意しなければならない。
【0018】
また、本発明の超高圧鍋は蒸し器としても利用でき、この場合、効果はさらに大きい。それは100℃で蒸す場合に比べ、本発明の方法では加熱温度が150℃であり、温度が50℃高いだけでなく、蒸気圧も5倍高いからである。
【0019】
IHヒーターは本発明の超高圧鍋の下部に接触させてある。温度センサーは鍋蓋の表面に取付けてある。温度センサーの示す値と鍋内の温度との相関関係は実験で数値を求めることができ、その結果より鍋内の温度を推定することができる。また、鍋内圧力は鍋内温度における水の飽和蒸気圧から推定することができるので、温度センサー温度と鍋内温度の相関関係が分かれば鍋内の圧力も推定できることになるのである。
【0020】
温度センサーの表示温度と鍋内温度、鍋内圧力を測定した。純水を鍋の全容量の1/4程度入れた。センサーの表示温度が142℃の時、鍋内の圧力は0.5MPa(5気圧)であった。水の飽和蒸気圧は150℃で0.476MPa、155℃で0.543MPaであるから、超高圧鍋の内部は、温度センサーの表示より10℃高いことを意味していることが分かった。家庭用のIHヒーターにより加熱した場合、鍋内の圧力が0.5MPaになるのに約30分を要した。
【0021】
加熱処理後、IHヒーターをオフにし、鍋内の温度を下げるのであるが、そのまま放置し、自然に温度が下がるのを待つか、急ぐ場合には鍋蓋に水を掛けて冷却することもできる。この場合、圧力計が1気圧近辺を示すか、温度センサーが100℃近辺の値を示したら、鍋内の圧力を抜いても大丈夫である。後は留め金を外し、蓋を外して調理済みの料理を取り出す。
【0022】
超高圧鍋に入れる水の量は、例えば、鍋の容量が20L程度なら200cc〜800ccで良く、煮物の味付けの好みで量を加減すれば良い。蒸す調理の場合は200cc程度で十分で、水が完全に蒸発する量(約100g)と被調理物が水を吸収する量を加えた量以上ならば、水量により蒸気圧は変わらない、つまり、蒸気圧は温度と平衡状態にあるからである。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0024】
(実施例1)
内容量20Lの超高圧鍋を使用した。黒豆と水200ccを容器(下部の鍋)に入れ、0.5MPaで10分間煮込んだ。加熱終了後、鍋を水で速やかに冷却した。冷却後、圧力を抜き、蓋を外し、料理を取り出したところ、豆は柔らかく煮込まれており、元の形を維持していた。通常は4、5時間掛かる煮込みを10分以内で行うことができた。
【0025】
(実施例2)
実施例1で用いた内容量20Lの超高圧鍋を使用した。鯛の頭と水200ccを容器に入れ、0.5MPaで20分間煮込んだ。加熱終了後、鍋を水で速やかに冷却した。冷却後、圧力を抜き、蓋を外し、料理を取り出したところ、鯛の頭は完全に煮込まれており、太い骨まで箸で簡単に切ることができるくらい柔らかくなっていた。肉と骨のすべてを食べることができた。
【0026】
(実施例3)
実施例1で用いた超高圧鍋を使用した。骨付きの鶏肉と水200ccを容器に入れ、0.5MPaで20分間煮込んだ。加熱終了後、鍋を水で速やかに冷却した。冷却後、圧力を抜き、蓋を外し、料理を取り出したところ、鶏肉の肉質はしっかりしてしており、完全に煮込まれていた。その上、太い骨は柔らかく箸で簡単に切ることができた。肉と骨のすべてを食べることができるほどであった。
【0027】
(実施例4)
実施例1で用いた超高圧鍋を使用した。骨付きの豚ばら肉と水200ccを容器に入れ、0.5MPaで20分間煮込んだ。加熱終了後、鍋を水で速やかに冷却した。冷却後、圧力を抜き、蓋を外し、料理を取り出したところ、豚ばら肉の肉質はしっかりしてしており、完全に煮込まれていた。その上、太い骨は柔らかく箸で簡単に切ることができた。また、脂が水に溶け出し、脂は固まってラード状に析出していた。余分な脂が溶け出したせいか、肉は非常に淡泊な味になっていた。
【0028】
(実施例5)
実施例1で用いた内容量20Lの超高圧鍋を蒸し器として使用した。容器に200ccの水を入れ、容器の底に上端が水面より上に出るよう台をセットし、その台の上にザルを載せた。骨付きの豚ばら肉を台の上のザルに入れ、0.5MPaで20分間蒸した。加熱終了後、鍋を水で速やかに冷却した。冷却後、圧力を抜き、蓋を外し、料理を取り出したところ、豚ばら肉の脂は完全に抜け出しており、非常に淡泊な肉質のみの豚ばら肉になった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上説明したように、本発明の超高圧鍋を使う調理方法では、肉や豆のように弾力性のあるものは調理後も原型を留めるが、骨のように硬いものは調理した後、組織が破壊されて箸で簡単に切ることができるくらい柔らかくなることが分かった。また、1気圧での調理時間に比べて1/10以下に短縮することができるようになった。これらのことから、大量の調理にも適しており、骨まで食べることができるほど柔らかく調理できるようになった。一般家庭での調理はもちろん、業務用、また大量に調理することが求められる、学校、病院、老人ホームや介護施設などでの給食の提供に大きく貢献することができるほか、魚や肉の姿形を残したまま骨まで食べれるので栄養面でも優れている調理方法を提供できるようになった。また、加熱源としてIHヒーターを使用することができるので、温度管理も簡単に行うことができる。さらに、こまめにIHヒーターのスイッチをオン・オフすることができるため省エネの効果も期待できるようになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高圧鍋を使用し、鍋内の温度を120℃〜170℃、鍋内の圧力を2.0気圧〜8.0気圧(0.20MPa〜0.80MPa)にすることを特徴とする食材の調理方法。

【公開番号】特開2012−231688(P2012−231688A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100726(P2011−100726)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(502045057)
【出願人】(508266694)
【Fターム(参考)】