説明

超高温熱膨張試験装置

【課題】棒状試験片を用いた接触法による熱膨張試験と非接触法による熱膨張試験とを同時に計測できる超高温熱膨張試験装置を提供する。
【解決手段】電気炉の上下方向に棒状試験片の支持部材と接触法による計測系を配置し、電気炉の左右方向に非接触法による計測系を配置し、電気炉の前壁に前面発熱体を、後壁に後面発熱体を配置することにより、棒状試験片を用いた接触法による熱膨張試験と非接触法による熱膨張試験とを一度の温度上昇で同時に計測できるようにしたことを特徴とする超高温熱膨張試験装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高温(2400℃以上)まで到達できる電気炉を利用して高温での耐火物などの熱膨張試験を行う装置に関し、特に、非接触法と接触法による2つの試験を同時に計測できる超高温熱膨張試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高温での耐火物などの熱膨張を試験する方法は、日本工業規格において、「JIS R2207−1 耐火物の熱膨張の試験方法−第1部:非接触法」(非特許文献1)、「JIS R2207−3 耐火物の熱膨張の試験方法−第3部:棒状試験片を用いる接触法」(非特許文献2)として規格化されている。
上記規格の、第1部:非接触法には、非接触法に用いる熱膨張試験装置が記載されているものの、その熱膨張試験装置は、棒状試験片を用いる接触法に使用可能な構造となっていない。また、上記規格の、第2部:棒状試験片を用いる接触法には、接触法に用いる熱膨張試験装置が記載されているものの、その熱膨張試験装置は、非接触法に使用可能な構造となっていない。したがって、非接触法と棒状試験片を用いる接触法の両方の熱膨張の試験方法を実施するには、それぞれの熱膨張試験装置で別々に行う必要があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】JIS R2207−1 耐火物の熱膨張の試験方法−第1部:非接触法
【非特許文献2】JIS R2207−3 耐火物の熱膨張の試験方法−第3部:棒状試験片を用いる接触法
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、「JIS R2207−1 耐火物の熱膨張の試験方法−第1部:非接触法」と「JIS R2207−3 耐火物の熱膨張の試験方法−第3部:棒状試験片を用いる接触法」による2つの試験方法を、1つ熱膨張試験装置で同時にできるようにして、一度の温度上昇で2つの試験方法の同時計測を行い、高温加熱に要するエネルギーの節約、装置の小型化、それぞれ2つの試験方法同士での測定結果の補間などを実現できる超高温熱膨張試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の超高温熱膨張試験装置は、電気炉の上下方向に棒状試験片の支持部材と接触法による計測系を配置し、電気炉の左右方向に非接触法による計測系を配置し、電気炉の前壁に前面発熱体を、後壁に後面発熱体を配置することにより、棒状試験片を用いた接触法による熱膨張試験と非接触法による熱膨張試験を一度の温度上昇で同時に計測できるようにしたことを特徴とする。
また、本発明は、上記超高温熱膨張試験装置において、前記前面発熱体は、前記前壁に設置された前面ドアの内面に取り付けられており、前面ドアを開放することにより前面発熱体も前面ドアと一緒に開放され、棒状試験片の交換を開放された前面ドア側からできるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の超高温熱膨張試験装置によれば、1台の試験装置で非接触法と接触法の2つの試験方法を同時に計測できるので、一度の温度上昇で2つの試験方法の同時計測が行え、高温加熱に要するエネルギーの節約が図れ、2つの試験方法同士での測定結果の補間なども一度の温度上昇の同時計測で行うことができる。
また、電気炉の上下面を利用して棒状試験片の支持・接触法による計測装置を配置し、電気炉の左右面を利用して非接触法による計測装置を配置し、電気炉の前後面を利用して発熱体を配置し、かつ、前面ドアの内壁に前面側の発熱体を取り付けたので、棒状試験片の取り付け取り外しに際し発熱体が作業の支障にならず、電気炉の上下・左右・前後の6面を有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の超高温熱膨張試験装置の一実施例を説明した正面図である。
【図2】同実施例の側面図である。
【図3】同実施例の平面図である。
【図4】本発明の超高温熱膨張試験装置で計測して得られたデータ例を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
超高温熱膨張試験装置に用いる電気炉には、前後・左右・上下の6つの壁面があるので、前後、左右、上下の3方向を利用して、それぞれ、発熱体、非接触法計測系、棒状試験片の支持装置及び接触法計測系を配置する。
上下方向には、棒状試験片を特殊な形状をした試料筒の中に立てて設置し、試験片上面に支持棒を設置して電気炉上部まで貫通させ、棒状試験片の膨張を電気炉外上部に固定したマイクロゲージ及び変位計で接触法による計測を行う。
電気炉の発熱体(例えば、カーボン材料など)は前後方向を利用し、電気炉内後面に一方を、もう片方をサンプル交換時に開けるに前面ドア内面に設置させた。
非接触法計測系は左右方向を利用し、電気炉側面、断熱材及び試料筒に光学的な計測が可能な光路を確保して、電気炉の左右両側にレーザーマイクロゲージシステムを設置して、非接触法式で熱膨張が観測できる。
上記のように、発熱体、非接触法計測系、棒状試験片の支持装置及び接触法計測系を3方向に配置することにより、非接触法計測系と接触法計測系による同時計測が可能となり、発熱体が非接触法計測系の光路を遮ることがない。また、前面ドア内面に片方の発熱体を設置したので、サンプル交換持に前面ドアを開放すれば、前面側の発熱体がサンプル交換の支障になることはなく、サンプル交換作業が容易に行える。
【実施例】
【0009】
図1は、本発明の超高温熱膨張試験装置の一実施例を示した正面図であり、図2はその側面図であり、図3はその平面図(破線は開けた状態の前面ドアを示す。)である。図1〜図3において、同一部品は同一符号を付してある。
図1の正面図において、1は変位計、2は差動トランス、3は検出棒、4は温度計(熱電対)、5はレーザーマイクロゲージ(発光源)、6はレーザーマイクロゲージ(受光部)、7はサンプル(直径20mm×高さ100mm)、8は電気炉本体である。
発光源5から出たレーザーの一部がサンプル7で遮られ部分が、受光部6のサンプル長さLとして非接触法で検出される。接触法は、差動トランスの出力を変位計で検出しているが、差動トランス以外のものを用いることもできる。非接触法の計測系を左右方向、接触法の計測系を上下方向に配置することにより、2つの計測系による同時計測が可能となる。
【0010】
図2の側面図において、符号1、2、3、4、7、8は図1と同じものを指す。9は前面ドア、10は前面ドア内面に取り付けられた前面ヒーター、11は後壁に取り付けられた後面ヒーター、12は温度計(放射温度計)である。
図3の平面図において、符号4、5、6、7、8、9、10、11、12は、図1及び図2と同じものを指す。前面ドア9及び前面ヒーター10の破線で示した部分は、前面ドアを開放したときの状態を表している。
前面ドア9の内面に前面ヒーター10が取り付けられているから、前面ドア9を開放すれば前面ヒーター10も前面ドアと一緒に開放されるので、サンプル8の交換作業に支障がない。また、非接触法の計測系(5、6)を左右方向に、発熱体(10、11)を前後方向に配置したので、非接触法のレーザー光路を発熱体で遮ることがない。
なお、温度計(熱電対)4は1200℃以下の温度計測に用い、温度計(放射温度計)12は1200℃以上の温度計測に用いるものである。温度計(4、12)で炉内温度を検出して電気炉制御系で発熱体(10、11)を制御して炉内を所望の温度に調節する。また非接触法の計測系および接触法の計測系で得られた計測結果はコンピュータなどのメモリーなどに保存される。
【0011】
図4は、本発明の超高温熱膨張試験装置を用いて、接触法によって高密度等方性グラファイト材料の熱膨張を計測した計測結果を示す。
2400℃まで連続的に電気炉内の温度上昇させたとき、1分間ごとの電気炉の温度Tとサンプル長さLを計測した。
図面の横軸は、温度計の温度Tである。室温から発熱体(10、11)に電力を通じ、1200℃以下の温度は、温度計(熱電対)4、1200度以上は、温度計(放射温度計)12を用いているために、1200℃付近では、その温度情報の切り替えのため多少の不連続性が見られる。温度上昇は、JIS R2207−3法に準拠して毎分10℃に制御した。
常温T0におけるサンプルの長さをL0とし、任意の温度(T)におけるサンプル長さをLとする。それぞれの温度における熱膨張率(図4における左縦軸、丸●プロット)及び熱膨張係数(図4における右縦軸、四角■プロット)は、以下の式で定義される。
膨張率(%)=((L−L0)/L0)×100
熱膨張係数 =((L−L0)/L0)×(1/(T−T0))
【産業上の利用可能性】
【0012】
上記実施例では、上下方向に棒状試験片の保持と接触法による計測系を配置し、左右方向に非接触法による計測系を配置する構成としたが、左右方向に棒状試験片の保持と接触法による計測系を配置し、上下方向に非接触法による計測系を配置する構成とすることもできる。また、ドアを上面に設ければ、前後方向(左右方向)に棒状試験片の保持と接触法による計測系を配置し、左右方向(前後方向)に非接触法による計測系を配置し、下壁に下面発熱体、上面ドアの内面に上面発熱体を設置する構成とすることもできる。
上記図1〜3の例では、電気炉は略立方体としているが、これは電気炉の壁面を構成する耐熱部材の加工の容易性などを考慮したものであって、他の直方体や、曲面を有する形状であっても、上下方向・左右方向・前後方向を利用して、棒状試験片の保持と接触法による計測系、非接触法による計測系、発熱体を配置できる形状であれば差し支えない。
【符号の説明】
【0013】
1 変位計
2 差動トランス
3 検出棒
4 温度計(熱電対:1200℃以下の温度計測用)
5 レーザーマイクロゲージの発光源
6 レーザーマイクロゲージの受光部
7 サンプル(直径20mm×高さ100mmの棒状試験片)
8 電気炉本体
9 前面ドア
10 前面ヒーター
11 後面ヒーター
12 温度計(放射温度計:1200℃以上の温度計測用)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気炉の上下方向に棒状試験片の支持部材と接触法による計測系を配置し、電気炉の左右方向に非接触法による計測系を配置し、電気炉の前壁に前面発熱体を、後壁に後面発熱体を配置することにより、棒状試験片を用いた接触法による熱膨張試験と非接触法による熱膨張試験とを一度の温度上昇で同時に計測できるようにしたことを特徴とする超高温熱膨張試験装置。
【請求項2】
前記前面発熱体は、前記前壁に設置された前面ドアの内面に取り付けられており、前面ドアを開放することにより前面発熱体も前面ドアと一緒に開放され、棒状試験片の交換を開放された前面ドア側からできるようにしたことを特徴とする請求項1記載の超高温熱膨張試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−181080(P2012−181080A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43662(P2011−43662)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省委託研究「工業用カーボン高温物性の計測評価による製造・製品高度化の研究」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】