説明

超高疎水性膜で被覆された物品およびその取得方法

本発明は、少なくとも一つの表面を有する物品であって、前記表面の少なくとも一部を、静的水接触角が少なくとも115°、好ましくは120°、さらに好ましくは125°に等しくなるような表面粗さを有する超高疎水性膜で被覆され、前記膜は物品の表面に付着する少なくとも1種の結合剤で結合されたナノ粒子を含む第1層と、前記第1層の少なくとも一部を被覆する防汚トップコートである第2層とを含むナノ構造膜である物品に関する。本発明は、上記のような物品を製造する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、きわめて高い疎水特性を有する耐久性ナノ構造膜で被覆された物品、そのような物品の製造に用いる被覆方法、および上記のような超高疎水性膜の、特に光学技術分野、なかでも眼科用ガラス関連分野での使用に関する。上記膜はナノ粒子および結合剤を含むナノ構造層を含み、この層は低表面エネルギー化合物の層で被覆されている。
【背景技術】
【0002】
市販の被膜や基体は汚損されやすく、その清掃が困難な場合も有る。たとえ清掃できたとしても、本来の特性や性能を損いかねない残留物が残ることもある。表面の汚損を防止し、かつ僅かな残留物しか残さない清掃方法の利用を可能にする手立てとしては、基体の表面に超疎水性(super hydrophobic)もしくは超高疎水性(ultra high hydrophobic)の被膜を設けることが一般的である。防汚膜は、基体のみの場合よりも汚れにくく、かつ清掃しやすい外表面をもたらす。
【0003】
表面の湿潤性は化学特性(表面材料の化学的性質)と、物理的トポグラフィー、特に表面粗さとの両方に依存する。平滑な疎水性表面の静的水接触角(WCA)が通常115°未満であることは良く知られているが、凹凸の有る疎水性表面となるときわめて高い疎水特性(すなわち、WCA≧115°)を示す。静的水接触角が140°、さらにはそれ以上へと劇的に増大することもある(超疎水性表面)。
【0004】
凹凸によって水の、疎水性表面上に広がりやすい性質が減弱される。凸部の先端にのみ水滴が付き、この水滴は水がほぼ球形のビーズ状に集まったものなので、疎水性表面とごく僅かな面積でしか接触しない。このような表面の接触角は非常に大きい。
【0005】
ミクロンまたはサブミクロンスケールの凹凸と疎水特性とを組み合わせた時、表面がどのような超疎水性を示すかはBarthlottが最初に特許文献1に記載した。以来、ナノファイバー、ナノ粒子、メッシュ状基体、綿繊維を用いてマイクロまたはナノ構造体を作ることにより、あるいはまたゾル−ゲル法、表面重合もしくは結晶化により、140°からほぼ180°に至る超疎水性の被膜を形成し、またそのような超疎水性被膜を表面に適用する方法が従来技術において多数開示されている。
【0006】
しかし、すでに開示され、製造された物品のほとんどは用途によって不十分な特性しか示さない。例えば、光学的に透明でなかったり、可視域で高い曇り度(低い透過率)を有したりするものが有るし、配向の揃ったナノファイバーまたはナノチューブタイプの膜は高熱環境においてガラスまたは金属上にしか成長し得ず、ナノ粒子膜の多くは基体に良く付着せず、多孔質のゾル−ゲル膜は機械特性や耐引掻き性に劣る。
【0007】
例えば特許文献2および3は、超疎水性被膜を形成する方法を開示している。しかし、これらによる被膜は傷つきやすく、かつその設けられた表面から容易に剥落し、寿命が限られている。
【0008】
特許文献4、5および6など、多くの特許が耐久性の有る、もしくは堅牢な超疎水性被膜を形成する方法を開示している。それらの被膜は基体への付着が良好で、引掻き硬度や耐摩耗性にも優れるが、透明な膜が得られたとの記載は無い。
【0009】
特許文献7は、基体と、該基体上に形成された、表面に微小凹凸を有する下地膜と、前記微小凹凸上に形成された疎水性皮膜とを含む超疎水性基体を提供する。凹凸の構造寸法が20〜100nmの範囲で入念に制御されるために膜の透明性ははるかに良好となるが、耐摩耗性はさほどでなく、なぜなら摩耗試験実施後に接触角データが、典型的試料間の平均で155°から約110°へと縮小しているからである。
【0010】
特許文献8および9は、反応性無機ナノ粒子と、反応性稀釈剤と、基板特異性定着剤とを含む所与の表面粗さの疎水性コーティング、さらには超疎水性コーティングも開示している。500nmを越える大きい表面粗さに起因して、120°を上回るWCAを示すコーティングは、良好な透明性は維持しても高い曇り度を有しかねない。くわえて、表面エネルギーを低下させる防汚トップコートが小さい粗さと組み合わせて記載されていない。
【0011】
【特許文献1】国際公開第WO96/04123号
【特許文献2】国際公開第WO98/42452号
【特許文献3】国際公開第WO01/14497号
【特許文献4】米国特許第3,931,428号
【特許文献5】国際公開第WO04/90065号
【特許文献6】国際公開第WO05/21843号
【特許文献7】米国特許出願公開第2005/0008876号
【特許文献8】欧州特許出願公開第1479738号
【特許文献9】国際公開第WO04/104116号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述の超疎水性もしくは超高疎水性面は、眼科用レンズへの応用など幾つかの用途を制限する様々な問題点を有する。
【0013】
例えば、超高疎水性のレンズは現時点では市販されていない。防汚トップコートを具えた市販レンズは、せいぜい110〜115°の水接触角を有するのみである。従って、持続する性能、特に持続する機械特性を有し、かつ加工が容易である超疎水性もしくは超高疎水性膜が、多くの特定用途においてきわめて望ましいものとなっている。
【0014】
本発明は上記のような問題点を考慮して為された。本発明は、低エネルギー表面と両立する表面粗さを示す、制御された疎水性を有するナノ構造膜を提供することを目的とする。このナノ構造膜の諸特性は長期間持続するべきである。
【0015】
本発明は、限られた表面粗さを有する超高疎水性被膜から著しい表面粗さを有する超疎水性被膜まで、物品にきわめて様々な表面特性を付与する疎水性被膜を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本明細書の具体的かつ詳細な発明の説明によれば、本発明は少なくとも一つの表面を有する物品に関し、その際前記表面の少なくとも一部は、静的水接触角が少なくとも115°に等しくなるような表面粗さを有する超高疎水性膜で被覆され、前記膜は
―物品の表面に付着する少なくとも1種の結合剤で結合されたナノ粒子を含む第1層と、
―前記第1層の少なくとも一部を被覆する防汚トップコートである第2層と
を含むナノ構造膜である。
【0017】
好ましくは、結合剤およびナノ粒子は前記第1層に、結合剤対ナノ粒子の質量比が2:1〜1:15、好ましくは1:1〜1:15、より好ましくは1:1.1〜1:10、さらに好ましくは1:1.2〜1:10となるような量で含まれる。上記比率は、前記第1層の形成に用いられる結合剤およびナノ粒子の質量から算出される。
【0018】
好ましい実施形態によれば、結合剤は架橋剤であり、ナノ粒子の粒径は150nm以下であり、膜のRMS表面粗さは5〜50nmであり、静的水接触角は115°から160°までであり、防汚トップコートは物品の表面エネルギーを20mJ/m未満に低下させる。このような物品は眼科用光学機器での使用に特に適する。
【0019】
特に好ましい実施形態において、本発明の膜は様々な長さスケールの粗さを示す。
【0020】
本発明は、被覆された上記物品を得る方法にも関し、この方法は
a) 少なくとも一つの表面を有する物品を用意し、
b) 物品の前記表面の少なくとも一部の上に、物品の前記表面に付着する少なくとも1種の結合剤で結合されたナノ粒子を含む第1層を形成し、
c) 前記第1層の少なくとも一部の上に防汚トップコートの層をデポジットし、
d) 静的水接触角が少なくとも115°に等しくなるような表面粗さを有する超高疎水性ナノ構造膜で少なくとも部分的に被覆された表面を有する物品を回収する
工程を含む。
【0021】
物品の表面の少なくとも一部の上に、物品の前記表面に付着する少なくとも1種の結合剤で結合されたナノ粒子の第1層をデポジットする工程は二つの好ましい方法に従って実施し得る。
【0022】
第1の好ましい方法によれば、前記第1層の形成は、
b1) 物品の前記表面の少なくとも一部の上に少なくとも1種の結合剤を含む被覆溶液の層をデポジットし、
b2) 工程b1)でデポジットしたばかりの層の上にナノ粒子を含む被覆溶液の層をデポジットし、
b3) デポジットした各層を硬化させる
工程を含む。
【0023】
第2の好ましい方法によれば、前記第1層の形成は、
b4) 物品の前記表面の少なくとも一部の上に少なくとも1種の結合剤とナノ粒子とを含む被覆溶液の層をデポジットし、
b5) デポジットした各層を硬化させる
工程を含む。
【0024】
さらに好ましい実施形態では、
A) 工程b2)または工程b4)で得られた層に対して工程b1)およびb2)を1回以上行なうか、
B) 工程b2)または工程b4)で得られた層に対して工程b4)を1回以上行なうか、または
C) 工程b2)または工程b4)で得られた層に対して、実施形態A)およびB)の操作を任意の順序で組み合わせて1回以上行なう。
【0025】
実施形態A)を詳述すれば、
工程b2)または工程b4)で得られた層に対して工程b’1)およびb’2):
b’1) 先行工程でデポジットしたばかりの層の上に少なくとも1種の結合剤を含む被覆溶液の層をデポジットする工程、および
b’2) 先行工程でデポジットしたばかりの層の上にナノ粒子を含む被覆溶液の層をデポジットする工程
を1回以上行なう方法
と言うことができる。
【0026】
実施形態B)を詳述すれば、
工程b2)または工程b4)で得られた層に対して工程b’4):
b’4) 先行工程でデポジットしたばかりの層の上に少なくとも1種の結合剤とナノ粒子とを含む被覆溶液の層をデポジットする工程
を1回以上行なう方法
と言うことができる。
【0027】
実施形態C)を詳述すれば、
工程b2)または工程b4)で得られた層に対して、
i) 工程b’1)およびb’2)と、
ii)工程b’4)と
を任意の順序で組み合わせて1回以上行なう方法
と言うことができ、その際工程b’1)、b’2)およびb’4)は先に規定したとおりである。
【0028】
ナノ粒子は多様な粒径範囲のナノ粒子の混合物であってもよい。また、少なくとも1回の工程b’2)またはb’4)で用いるナノ粒子の粒径範囲を工程b2)またはb4)で最初にデポジットしたナノ粒子と同じにしないことも可能である。
【0029】
本発明の他の目的、特徴および利点はこの明細書から明らかとなろう。しかし、詳細な記述および具体的な実施例は、本発明の実施形態を具体的に示しはするが、単なる説明のためのものと理解されるべきである。当業者には本明細書の詳細な記述から、本発明の精神および範囲を逸脱しない様々な変更および変形が明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
「含む(comprise)」(原形ならびに“comprises”および“comprising”などの任意語形)、「有する(have)」(原形ならびに“has”および“having”などの任意語形)、「含む(contain)」(原形ならびに“contains”および“containing”などの任意語形)、および「含む(include)」(原形ならびに“includes”および“including”などの任意語形)という語は開放型の連結動詞である。従って、一つ以上の工程または要素を「含む(comprises)」、「有する(has)」、「含む(contains)」または「含む(includes)」方法、もしくは方法中の一工程は一つ以上の当該工程または要素を持つ(possesses)が、一つ以上の当該工程または要素しか持たないと限定されるものではない。
【0031】
本発明のナノ構造膜は二つの層、すなわち、少なくとも1種の結合剤および該結合剤で結合されたナノ粒子を含むナノ構造層と、ナノ構造層を少なくとも部分的に覆う、低エネルギー表面をもたらす防汚トップコートの層とを必須的に含む。本発明の膜は、特定の表面形状をもたらす粒子の入念な選択によって作られる特定の物理的構造、すなわちランダムな凹凸を具えた表面を有する。
【0032】
本発明によれば、物品の表面に付着する少なくとも1種の結合剤で結合されたナノ粒子の層がナノ構造層を構成する。本発明に関してナノ構造膜または層という語は、表面の凹凸の寸法がナノメートルの範囲に有るような表面粗さを有する膜または層を意味する。表面の凹凸の寸法は用いるナノ粒子の寸法と密接に関連する。
【0033】
本明細書に開示した静的接触角は、光学品上に直径2mm未満の液滴を形成して接触角を測定する液滴法によって測定される。接触角は、液滴の表面と光学品の表面とが成す角度に相当する。特に断らないかぎり、接触角は脱イオン水との静的接触角であり、WCAと略記される。接触角は液体の側からすると、面上に広がる、もしくは面を濡らす傾向の尺度となる。接触角が小さいほど、液体は固体上で広がりやすくなる。
【0034】
本発明は、制御された疎水性を有する膜を提供する。本発明による物品のWCAは少なくとも115°に等しく、好ましくは少なくとも120°、より好ましくは少なくとも125°に等しい。十分な耐久性および透明性などの特性を得るためにはまた、WCAが160°を越えないことが好ましく、150°を下回ればなお好い。これについては後述する。
【0035】
本発明の物品に用いられる結合剤(もしくは接着剤)は、膜の形成に用いられる任意の材料であり得る。結合剤は、粒子の物品への付着を改善する成分と定義される。結合剤を用いないと、ナノ粒子が物品に付着せず、また十分な耐摩耗性および/または耐引掻き性が得られない。
【0036】
好ましくは、結合剤は物品表面の基と少なくとも1種の分子間結合または相互作用を為し得る化合物である。前記分子間結合または相互作用としては様々なカテゴリーのものを挙げることができ、その中には共有結合、および水素結合、ファンデルワールス結合、疎水性相互作用、芳香族CH−π相互作用、カチオン−π相互作用、または電荷−電荷引力相互作用といった、共有結合以外の分子間結合または相互作用が非限定的に含まれる。好ましくは結合剤は、物品表面の基と少なくとも1種の共有結合を形成し得る化合物である。
【0037】
好ましくは、結合剤はナノ粒子表面の基と少なくとも1種の分子間結合または相互作用を為し得る化合物である。結合剤がナノ粒子表面の基と少なくとも1種の共有結合を形成し得る化合物であることも好ましい。結合剤が、ナノ粒子表面の基および物品表面の基の両方と共有結合し得る化合物であれば理想的である。
【0038】
結合剤は好ましくは有機材料である。結合剤は熱可塑性材料から成り得る。あるいは他の場合には、結合剤は熱硬化性材料、または架橋可能な材料から成り得る。これらの材料の混合物、例えば熱可塑性結合剤と架橋性結合剤との混合物を用いることも本発明の範囲内である。
【0039】
より好ましくは、結合剤は、例えば重縮合、重付加または加水分解によって架橋可能な材料である。様々な縮合硬化性樹脂および付加重合性樹脂、例えばモノマーおよび/またはプレポリマーを含むエチレン性不飽和被覆溶液を用いて結合剤を作製し得る。使用可能な架橋性材料の具体例には、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、ビニルエーテル樹脂、側鎖にα,β−不飽和カルボニル基を有するアミノプラスト樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルピロリドン、エポキシ樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、(メタ)アクリル化イソシアヌレート樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、イソシアヌレート樹脂、(メタ)アクリル化ウレタン樹脂、(メタ)アクリル化エポキシ樹脂、アクリル乳濁液、ブタジエン乳濁液、ポリビニルエステル分散液、スチレン/ブタジエンラテックス、またはこれらの混合物が含まれる。(メタ)アクリレートという語はアクリレートとメタクリレートとの両方を包含する。
【0040】
有用な結合剤樹脂材料の例は、欧州特許第1315600号、米国特許第5,378,252号および同第5,236,472号中にも見出すことができる。
【0041】
本発明に有用な結合剤材料で別のカテゴリーに属するものにシリカオルガノゾル、例えば官能性シラン、シロキサンもしくはケイ酸塩(ケイ素−酸素アニオンのアルカリ金属塩)主体の化合物、またはその加水分解物が含まれる。前記有機官能性結合剤は加水分解時、シラノール基の形成によって相互侵入性の網状構造を呈するが、シラノール基は物品の有機または無機面と結合し得、かつ該面上に設けられる防汚トップコートに対しても親和性を有する。
【0042】
ケイ素含有結合剤の例としては、アミノアルコキシシランなどのアミノ官能性シランまたはアミノ官能性シロキサン化合物、エポキシアルコキシシランなどの、末端基がヒドロキシまたは低級アルコキシ基であるシラン、ウレイドアルキルアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン(例えばジメチルジエトキシシラン)、(メタ)アクリルシラン、カルボキシシラン、シラン含有ポリビニルアルコール、ビニルシラン、アリルシラン、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0043】
アミノアルコキシシランは、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、およびこれらの混合物の中から非限定的に選択され得る。
【0044】
ウレイドアルキルアルコキシシランは、ウレイドメチルトリメトキシシラン、ウレイドエチルトリメトキシシラン、ウレイドプロピルトリメトキシシラン、ウレイドメチルトリエトキシシラン、ウレイドエチルトリエトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、及びこれらの混合物の中から非限定的に選択され得る。
【0045】
結合剤は、好ましくはエポキシアルコキシシラン化合物を含み、より好ましくはグリシジル基を有するアルコキシシラン、さらに好ましくはグリシジル基を有する三官能価アルコキシシランを含む。
【0046】
そのような化合物のうちで結合剤が含み得るものは、例えばグリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルトリプロポキシシラン、α−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリプロポキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、これらの加水分解物、およびこれらの混合物である。Merckから市販されているγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Glymo)が最も好ましい結合剤材料である。
【0047】
グリシジル基を有する他の有用なアルコキシシランには、γ−グリシドキシプロピルペンタメチルジシロキサン、γ−グリシドキシプロピルメチルジイソプロペノキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジイソプロピルエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、およびこれらの混合物が含まれる。
【0048】
結合剤材料の上記諸例は代表例として示してあり、結合剤材料は示されたもので総てというわけではない。当業者が本発明の範囲を逸脱しない他の結合剤材料に気付くこともあり得る。
【0049】
本明細書中に用いた「ナノ粒子」という語は、その大部分の粒径が1nm以上1μm未満である固体粒子を意味するものとする。ナノ粒子は球形であっても、球形でなく、細長くてもよく、さらにはナノ結晶であってもよい。ナノ粒子には結合剤を結合、付着させることができ、および/またはナノ粒子は結合剤中に分散させることができる。
【0050】
本発明に関して粒径とは、粒子が球形である場合はその直径、球形でない場合はその最大の長さ(粒子の一つの側面から対向する側面に向かって引くことのできる直線のうちで最長のものと定義されるナノ粒子の主軸線の長さ)のことである。粒径測定方法には、BET吸着法、光学顕微鏡法もしくは走査型電子顕微鏡法、または原子間力顕微鏡(AFM)映像法が含まれる。
【0051】
眼科用光学機器など幾つかの用途では膜の透明性が求められる。透明性が超疎水性と競合することは公知である。限られた凹凸しか有しない膜は光学的に透明であり、反射防止特性を示すことさえある。しかし、膜の凹凸が大きすぎる(突起の高さが数百ナノメートルを越える)と光が膜表面で散乱し、その結果物品の透明度が低くなり、もしくは曇り度が高くなる。本発明によれば、表面粗さは特にナノ粒子の粒径によって制御され、従って超高疎水性膜は、場合によっては反射防止機能をもたらす透明なものから不透明なものまで様々な光学的外観を呈し得る。
【0052】
本発明の膜(ナノ粒子層+防汚トップコート)の表面粗さ(RMS平均)は好ましくは5〜50nmであり、より好ましくは10〜30nm、さらに好ましくは10〜20nmである。表面粗さが5nmを下回ると、膜の疎水特性はさほど高くならない(WCA<115°)。50nmを上回る表面粗さは通常140°を越えるWCAをもたらす。その場合の膜は超疎水特性を示すが、大抵は耐久性が無く、用途が限られる。このような超疎水性膜は摩耗試験に合格せず、なぜなら摩耗試験に掛けるとその接触角が110〜115°にまで減少するからである。この膜はしかも高い曇り度を有し得るが、この点は眼科用レンズ産業以外の用途では許容されることもあるかもしれない。
【0053】
眼科用光学機器などの用途のためには、用いられるナノ粒子は膜の透明性にさほど影響しないような粒径を有する。実のところ、大型のナノ粒子は、疎水性は高いが曇り度も高い表面をもたらす。
【0054】
好ましくは、本発明の超高疎水性膜に用いるナノ粒子の粒径は150nm以下であり、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは70nm以下である。その大部分が40nm以下の粒径を有するナノ粒子も有用である。好ましくは、ナノ粒子の粒径は10nm以上である。これらの条件を全部のナノ粒子が満たすことが好ましい。
【0055】
好ましい一実施形態において、本発明の膜の第1層は粒径20〜150nm、好ましくは20〜100nmのナノ粒子を含む。
その際、被覆された本発明の物品の光透過率Tは少なくとも可視スペクトル波長域において85%より高く、より好ましくは90%より高く、さらに好ましくは92%を越え、曇り度は0.8未満、好ましくは0.5未満である。
【0056】
粒径150nm以下のナノ粒子を含む本発明の超高疎水性膜は、それ自体で反射防止特性を有する。好ましくは、被覆された本発明による物品の可視域反射は3%未満であり、2%未満であればなお好い。
【0057】
ナノ粒子は有機質でも無機質でもよく、両者を混合して用いることも可能である。好ましくは無機ナノ粒子、特に金属もしくは半金属の酸化物、窒化物またはフッ化物のナノ粒子かまたはこのようなナノ粒子の混合物が用いられる。
【0058】
好適な無機ナノ粒子は、例えば酸化アルミニウムAl、酸化ケイ素SiOまたはSiO、酸化ジルコニウムZrO、酸化チタンTiO、酸化アンチモン、酸化タンタルTa、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化セリウム、Si、MgF、またはこれらの混合物のナノ粒子である。混合酸化物の粒子を用いることも可能である。異なる種類のナノ粒子を用いることで、ヘテロ構造のナノ粒子層の形成が可能となる。好ましくは、ナノ粒子は酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムまたは酸化ケイ素SiOの粒子であり、より好ましくはSiOナノ粒子である。
【0059】
熱可塑性ナノ粒子などの有機ナノ粒子が用いられる場合、該粒子は好ましくは、結合剤と共有結合し得る基、例えばヒドロキシ基を含む。
【0060】
当該技術分野で良く知られているように、膜の屈折率は使用ナノ粒子の選択によって部分的に調節され得る。
【0061】
特に有用なナノ粒子は、結合剤と少なくとも1種の分子間結合または相互作用、好ましくは共有結合を為し得る反応性基を有する。反応性基はナノ粒子の構造中に元から存在し得、例えばSiO中のヒドロキシ基(シラノール)はケイ素含有結合剤などきわめて様々な結合剤と結合し得る。しかし、本発明は、ナノ粒子の表面に新たな反応性基が、例えば化学的グラフティングによって作られる場合も包含する。作られ得る反応性基の例としては、(メタ)アクリレートやビニル基といったエチレン性不飽和基、エポキシド、イソシアネート、シラン、シロキサン、シリケート、チオール、アルコールが非限定的に挙げられる。場合によっては、ナノ粒子の反応性基は結合剤と架橋し得る。
グラフティングを施されるナノ粒子は、反応性基を有していてもいなくてもよい。
【0062】
好ましい一実施形態において、ナノ粒子はその表面にシラノール基を有し、この基は結合剤の官能基と反応し得る。反応とは例えば、シラノール基と、有機アルコキシシランの加水分解物との間に生起する共有結合形成である。
【0063】
本発明によれば、結合剤およびナノ粒子は被覆溶液の成分として、液状組成物被覆の分野で公知であるいずれかの方法で適用され得る。好適な方法の例に、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、フローコーティング、メニスカスコーティング、キャピラリーコーティング、およびロールコーティングが有る。スピンコーティングおよびディップコーティングが好ましい。
【0064】
本発明の第1の実施形態によれば、被覆溶液は少なくとも1種の結合剤と、ナノ粒子とを含有する。この被覆溶液は溶液ではなく、分散液であるが、本出願においては通常「被覆溶液」と呼称する。このような液状被覆組成物も本発明の目的の一つである。
【0065】
被覆溶液は、結合剤前駆物質の硬化もしくは固化に用いられるエネルギー源が熱、紫外線または可視光である場合は開始剤など、少なくとも1種の硬化触媒を触媒量で含むこともある。紫外線または熱に晒されると遊離基を生じさせる光開始剤などの硬化剤の例には、有機過酸化物、アゾ化合物、キノン、ニトロソ化合物、アシルハロゲン化物、ヒドラゾン、メルカプト化合物、ピリリウム化合物、イミダゾール、クロロトリアジン、ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル、ジケトン、フェノン、およびこれらの混合物が含まれる。
【0066】
ケイ素含有結合剤を用いる場合は、アセチルアセトン酸アルミニウムまたはその加水分解物などの硬化触媒を用いてもよい。
【0067】
組成物のその他の成分は実質的に、水、もしくは水混和性のアルコール、実質的にエタノール、または水と水混和性アルコールとの混合物といった溶媒から成る。
【0068】
本発明の第2の実施形態は、ナノ粒子と少なくとも1種の結合剤とを同じ被覆溶液に含有させないという点で第1の実施形態と相違する。この実施形態によれば、結合剤、溶媒、および場合によっては上記硬化触媒を含有する被覆溶液がまず物品の表面の少なくとも一部の上に、例えばディップコーティングまたはスピンコーティングによってデポジットされる。被覆した物品は脱イオン水で洗浄してもよい。その後、ナノ粒子、溶媒、および場合によっては上記硬化触媒を含有する被覆溶液が結合剤層上に、例えばスピンコーティングまたはディップコーティングによってデポジットされる。このような方法は自己組織化法(self−assembly process)と呼称される。
【0069】
当然ながら、上記方法を組み合わせて用いてナノ粒子/結合剤のデポジションを複数回行ない、それによって、幾つかのナノ粒子副層を含む多層構造体と見なされ得るようなナノ構造層を作ることも可能である。
【0070】
ナノ粒子は、被覆溶液の総質量に対して1〜15質量%、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜8質量%のナノ粒子を含有する稀薄な被覆溶液を用いてデポジットされ得る。高すぎる粒子濃度の膜は透過率が低下するが、表面粗さは増大する。
【0071】
結合剤は被覆溶液に、被覆溶液の総質量に対して0.5〜4質量%、好ましくは0.8〜3質量%、より好ましくは1〜2質量%の量で含有される。結合剤の使用量が多すぎると、きわめて高い疎水特性は得られない恐れが有る。逆に結合剤の使用量が少なすぎると、WCAは大きくなるがナノ構造層の防汚層および/または物品への付着が弱まることが観察される。
【0072】
従って、本発明の膜の第1層の形成に用いられる結合剤対ナノ粒子の質量比は、きわめて高い疎水特性を有する膜を得る上で決定的なパラメーターである。この比は2:1から1:15まで、好ましくは1:1から1:15まで、より好ましくは1:1.1から1:10まで、さらに好ましくは1:1.2から1:10までであればよい。結合剤が反応性結合剤前駆物質から得られる場合は当該前駆物質の質量を用いて上記質量比を計算する。
【0073】
図1に、膜構造の制御が膜の良好な総合性能を得るための鍵である理由を説明するナノ構造層モデルを示す。
【0074】
ナノ粒子および結合剤を含有する被覆溶液をデポジットすることにより、3種の表面トポグラフィーを得ることが可能である。結合剤が多すぎるかナノ粒子が少なすぎると、ナノ粒子が完全に埋め込まれた層が得られ、この層は付着は良好であるが凹凸が小さく、従って疎水特性が低い(図1A:膜のWCAが115°を下回りかねない)。結合剤が少なすぎるかナノ粒子が多すぎる場合は粒子がほとんど埋め込まれていない層が得られ、この層は凹凸が大きく、従って疎水特性が高い(図1C)。しかし、このようなナノ構造層から得られるナノ構造膜の耐摩耗性および/または耐引掻き性、透明性、耐久性、および物品または直下の被膜への付着は十分とはならないであろう。図1Bに理想的な例を示す。結合剤対ナノ粒子の比を先に記載した範囲内で選択すれば、粒子が部分的に埋め込まれた膜が得られる。WCAは図1Cの場合ほど大きくならないものの、最高の総合性能が観察される。
【0075】
図1Bの構造を実現する別の方策に、スポンジ特性を有する結合剤、例えば熱可塑性材料を用いることが有る。この方策を採る場合、まず結合剤をデポジットし、その上にナノ粒子をデポジットしてもよい。ナノ粒子をデポジットした後、物品に例えば加熱工程を施せば、粒子は結合剤層中へ沈み込む。
【0076】
図2に、本発明の開示するデポジション法によって得られる複数種類の構造を示すナノ構造層モデルをナノ粒子が見えるようにして示す。図2Aのナノ粒子は部分的に結合剤に埋め込まれており、一方図2Bのナノ粒子は完全に結合剤で覆われている。その場合でも、ナノ構造層は依然としてナノ粒子の輪郭を現わし、物品にきわめて高い疎水特性を付与する。
【0077】
結合剤および/またはナノ粒子を含有する被覆溶液は典型的には流動可能状態に有り、このことは、様々な被覆法のうちのいずれかを用いて被覆溶液を表面上に広げ得ることを意味する。
【0078】
本発明の物品を製造する過程では、ナノ粒子および結合剤を含有する被覆溶液をそのデポジット後に、オーブン内での加熱や風乾といった適当条件への曝露によって固まらせる。被覆層は、溶媒が蒸発し、結合剤が凝固することで固まる。架橋性の被覆溶液の場合は、デポジットした被覆溶液を適当なエネルギー源に曝露して重合もしくは硬化を開始させ、結合剤を固まらせる。結合剤は製造された物品において、典型的には流動不能な固体状態を取る。それによって、ナノ粒子のナノ構造層上に防汚トップコートをデポジットすることが可能となる。結合剤およびナノ粒子の適用を複数回行なう場合、乾燥工程はトップコートのデポジション前にただ1回、積層体全体に対して実施することが好ましい。
【0079】
本発明の特に好ましい実施形態では、耐久性の有るナノ構造膜が多様な長さスケールの粗さを示し、すなわち2種以上の粗度を有し、その結果疎水特性により優れる。ナノ粒子が総て同じ粒径を有するか、または複数の異なる粒径を有するがそれらはいずれも狭い粒径範囲内に納まる膜は一つの粗度しか有しない。多様な長さスケールの粗さはきわめて様々な手段で実現され、本明細書にはそのうちの幾つかのみ開示するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0080】
上記目的を達成する第1の手立ては、多様な長さスケール(すなわち、多様な粒径範囲)を有するナノ粒子の混合物を含有する被覆溶液の使用である。本明細書に記載した実施例では3種のSiOナノ粒子、すなわちSiOAナノ粒子(粒径10〜15nm)、SiOBナノ粒子(粒径40〜50nm)、およびSiOCナノ粒子(粒径100nm以下)を用いた。3種のナノ粒子の様々な混合例が示してある。当然ながら、用いられる様々なナノ粒子試料の平均粒径は、様々なスケールの粗さをもたらすほど十分に相違していなければならない。
【0081】
多様な長さスケールの粗さを実現する第2の手立ては、異なる粒径もしくは異なる粒径範囲を有するナノ粒子をそれぞれ含有する幾つかの被覆溶液を連続してデポジットすることである。ナノ粒子を粒径が漸減するような順序でデポジットする必要は無い。小さいナノ粒子を大きいものより先にデポジットすることも可能である。
【0082】
上記第1および第2の手立てによって、本発明の物品の表面に付着する少なくとも1種の結合剤で結合されたナノ粒子を含む第1層は、多様な粒径範囲を有するナノ粒子を含むことになる。
【0083】
先に開示した方法、すなわちナノ粒子と少なくとも1種の結合剤との両方を含有する被覆溶液を用いる方法、および最初に結合剤をデポジットし、次にナノ粒子をデポジットする方法を組み合わせて用いてデポジションを複数回行なってもよい。
【0084】
本発明によれば、多様な長さスケールの粗さを有するナノ構造膜は、成形、トランスファー成形または型押しによって形成されたナノパターンをすでに具えた物品を用いることによっても得ることができる。ナノパターンとは、1nm以上1μm未満の寸法を有するパターンのことである。このような実施形態によれば、膜の第1層が付着する物品の表面はナノ構造化表面である。この実施形態では、そのような物品は以下のようにして非限定的に取得され得る。
【0085】
まず、平滑な物品の表面にナノ構造化表面を、型押しかまたは抜き型子からのナノ構造の転写によって作る。次に、得られた物品のナノ構造化表面上に、少なくとも1種の結合剤で結合されたナノ粒子を含む第1層を先に述べたようにデポジットし、該面に付着させる。最後に、防汚トップコートの第2層を第1層の少なくとも一部の上にデポジットする。
【0086】
直接的なトランスファー成形または型押しによるナノ構造の作成は当該技術分野で良く知られており、例えば国際公開第WO2004/002726号や欧州特許出願公開第0 400 672号に記載されている。一実施形態ではナノ構造の転写を、物品の表面の少なくとも一部を樹脂の層で被覆することによって行ない、その際設けた樹脂層を、ナノ構造を保持した抜き型子との接触下に硬化させる。樹脂はシリコーンまたはアクリル樹脂とし得るが、これらに限定はされない。
【0087】
型押し、成形またはトランスファー成形によって物品表面に作られ得るナノ構造は非限定的にモスアイ(moth−eye)ナノ構造、例えばピッチが150〜500nmのオーダーで、典型的には250nmほどであるモスアイナノ構造とすることができる。
【0088】
図3に、本発明により得られる膜の様々な粗度を示す。見やすいように、結合剤および防汚トップコートは省略した。
【0089】
図3Aおよび3Bにおいて、ナノ粒子は同じ粒径範囲を有し、一つの粗度しかもたらさない。図3Aは全部のナノ粒子を一度にデポジットした場合に相当する。図3Bでは同じナノ粒子を含有する2種の被覆溶液が逐次用いられ、二つの副層を含むナノ構造層と見なされ得るような層が生じている。
【0090】
図3Cおよび3Dは、多様な長さスケールの表面粗さを示す膜に相当する。図3Cでは大きいナノ粒子と小さいナノ粒子との混合物を含有する被覆溶液が用いられている。ナノ粒子はランダム充填される。図3Dではナノ粒子が物品のモスアイナノ構造化表面にランダムにデポジットされ、それによって別の粗度をもたらしている。
【0091】
ナノ粒子のナノ構造層の少なくとも一部の上にデポジットされる防汚トップコートの層は、低表面エネルギーのトップコートである。
【0092】
防汚トップコートは疎水性および/または疎油性の表面被膜であると定義される。本発明に好ましく用いられるのは、物品の表面エネルギーを20mJ/m未満に低下させる防汚トップコートである。表面エネルギーが14mJ/m未満、好ましくは12mJ/m未満である防汚トップコートを用いた場合、本発明は特に有利となる。
【0093】
上記表面エネルギー値は、Owens, D.K.; Wendt, R.G., “Estimation of the Surface Force Energy of Polymers,” J. Appl. Polym. Sci. 1969, 51, 1741−1747に記載されたOwens Wendt法に従って計算する。
【0094】
本発明による防汚トップコートは好ましくは有機性である。有機性とは、被覆層が該層の総質量の少なくとも40質量%、好ましくは少なくとも50質量%の有機材料を含むことを意味する。好ましい防汚トップコートは、少なくとも1種のフッ素化化合物を含有する液状被覆材料から作製される。
【0095】
疎水性および/または疎油性の表面被膜は大抵の場合、フッ素化された基、特に1個以上のパーフルオロカーボンまたはパーフルオロポリエーテル基を有するシラン主体の化合物を含む。一例として、上記のようなフッ素含有基を1個以上有するシラザン、ポリシラザンまたはシリコーン化合物が挙げられる。このような化合物は従来技術において広く開示されており、例えば米国特許第4,410,563号、欧州特許第0203730号、同第749021号、同第844265号および同第933377号に記載されている。
【0096】
通常の防汚トップコート形成方法では、フッ素化基およびSi−R基を有する化合物をデポジットし、前記式中Rは−OH基か、または−Cl、−NH、−NH−もしくは−O−アルキルといったその前駆物質であり、好ましくはアルコキシ基である。この化合物はデポジットされた表面で直ちに、または加水分解後に側鎖の反応性基によって重合および/または架橋反応し得る。
【0097】
好ましいフッ素化化合物は、フッ素化炭化水素、パーフルオロカーボン、FC−(OC24−O−(CF−(CH−O−CH−Si(OCHなどのフッ素化ポリエーテル、およびパーフルオロポリエーテルの中から選択される少なくとも1種の基、特にパーフルオロポリエーテルを有するシランおよびシラザンである。
【0098】
フルオロシランの中から、式:
【化1】

〔式中、nは5、7、9または11であり、Rはアルキル基で、典型的にはメチル、エチルおよびプロピル;
CFCHCHSiCl
【化2】

などのC〜C10アルキル基であり、前記式中n’は7または9であり、Rは先に規定したとおりである〕の化合物を挙げることができる。
【0099】
やはり疎水性および/または疎油性トップコートの作製に有用である、フルオロシラン化合物を含有する組成物が米国特許第6,183,872号に開示されている。この組成物は下記一般式で表わされる、5×10〜1×10の数平均分子量を有するケイ素含有有機フルオロポリマーを含む。
【0100】
【化3】

〔式中、Rはパーフルオロアルキル基であり、Zはフッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、a、b、c、dおよびeはそれぞれ独立に0または1以上の整数であり、ただしa+b+c+d+eは1未満でなく、括弧に入れ、下付き記号a、b、c、dおよびeを付した反復単位の式中に現われる順番は上記に限定されず、Yは水素原子、または炭素数1〜4のアルキル基であり、Xは水素、臭素またはヨウ素原子であり、Rはヒドロキシ基、または加水分解可能な置換基であり、Rは水素原子、または一価の炭化水素基であり、lは0、1または2であり、mは1、2または3であり、n”は1以上、好ましくは2以上の整数である〕。
【0101】
疎水性および/または疎油性表面被膜の形成に好ましく用いられる他の組成物に、フッ素化ポリエーテル基、特にパーフルオロポリエーテル基を有する化合物を含有するものが有る。フッ素化ポリエーテル基を含有する組成物で特に好ましいものは米国特許第6,277,485号に開示されている。米国特許第6,277,485号の防汚トップコートはフッ素化シロキサンを含む、少なくとも部分的に硬化した被膜であり、この被膜は式:
【化4】

〔式中、Rは一価または二価のポリフルオロポリエーテル基であり、Rは、場合によっては1個以上のヘテロ原子または官能基を有し、かつ場合によってはハロゲン原子で置換されている、好ましくは炭素数2〜16のアルキレン基、アリーレン基、またはこれらの組み合わせであり、Rは低級アルキル基(すなわちC〜Cアルキル基)であり、Yはハロゲン原子、低級アルコキシ基(すなわちC〜Cアルコキシ基で、好ましくはメトキシ基またはエトキシ基)または低級アシルオキシ基(すなわち−OC(O)Rで、式中RはC〜Cアルキル基)であり、xは0または1であり、yは1(Rが一価の時)または2(Rが二価の時)である〕のフッ素化シランを少なくとも1種含有する(典型的には溶液状の)被覆組成物の適用によって作製される。好適化合物は典型的には、少なくとも約1000の分子量(数平均)を有する。好ましくは、Yは低級アルコキシ基であり、Rはパーフルオロポリエーテル基である。
【0102】
防汚トップコートの作製に用いられる市販組成物には、信越化学工業によって販売されている組成物KY 130およびKP 801M、並びにダイキン工業によって販売されている組成物OPTOOL DSX(パーフルオロプロピレン部分を有するフッ素主体の樹脂)が有る。最も好ましい防汚トップコート用被覆材料はOPTOOL DSXである。
【0103】
本発明の防汚トップコートの形成に用いられる液状被覆材料は上記化合物を1種または複数種含有し得る。好ましくは、それらの化合物、もしくはそれらの化合物の混合物は液状であるか、または加熱によって液状にすることができ、すなわちデポジションに好適な状態で存在する。
【0104】
上述のような防汚トップコートをデポジットする方法はきわめて様々であり、ディップコーティング、スピンコーティング(遠心)、スプレーコーティングといった液相デポジションや気相デポジション(真空蒸着)が含まれる。なかでも、スピンコーティングまたはディップコーティングによるデポジションが好ましい。
【0105】
防汚トップコートを液体の形態で適用する場合は、被覆材料に少なくとも1種の溶媒を添加し、それによって被覆に好適な濃度および粘度を有する被覆溶液を調製する。デポジット後に硬化を行なう。
【0106】
これに関連して、好ましい溶媒はフッ素化溶媒、およびメタノールなどのアルコールであり、フッ素化溶媒が特に好ましい。フッ素化溶媒の例には、フッ素化アルカン、好ましくはパーフルオロ誘導体、およびフッ素化エーテル酸化物、好ましくはパーフルオロアルキルアルキルエーテル酸化物、ならびにこれらの混合物など、約1〜約25個の炭素原子から成る炭素鎖を有する有機分子であって部分的に、または全体がフッ素化されたものが含まれる。フッ素化アルカンとしてパーフルオロヘキサン(ダイキン工業から市販されている「デムナム」)を用いてもよい。フッ素化エーテル酸化物としてはメチルパーフルオロアルキルエーテルを用いることも可能であり、例えばメチルノナフルオロイソブチルエーテル、メチルノナフルオロブチルエーテル、または3Mから商品名HFE−7100の下に市販されているような、これらの物質の混合物を用い得る。被覆溶液中の溶媒の量は、好ましくは80〜99.99質量%である。
【0107】
ナノ粒子のナノ構造層は少なくともその一部が防汚トップコート材料で被覆される。一実施形態では、ナノ粒子および結合剤を含む層の表面全体が完全に防汚トップコートで被覆される。
【0108】
しかしながら、ナノ粒子によってもたらされた表面粗さを抑制しない、もしくは甚だしく低下させないように細心の注意を払わなければならず、このことはきわめて高い疎水特性の実現に必要である。デポジットする防汚材料の量は、WCAが115°以上に維持されるように選択しなければならない。
【0109】
通常、デポジットされた防汚トップコートの物理的厚みは30nmを下回り、好ましくは1〜20nm、より好ましくは1〜10nmで、1〜5nmであればなお好い。デポジット厚みの制御は石英ガラス製スケールによって行なうことができる。
【0110】
防汚トップコートは、完成した物品の耐汚損性を向上させるべく用いられ得、特に光学品に有用である。表面エネルギーの低下によって指紋、皮脂、汗、化粧品といった脂肪性付着物が回避され、従ってその除去も容易となる。
【0111】
本発明の膜(ナノ粒子層+防汚トップコート)の物理的厚みは好ましくは1μm未満であり、より好ましくは50〜700nm、さらに好ましくは50〜550nmである。層の厚みはナノ粒子の高さを含む。好ましくは、ナノ粒子層の物理的厚み、すなわち先に「膜の第1層」として定義した層の物理的厚みは30〜250nmであり、40〜200nmであればより好ましく、50〜150nmであればさらに好ましい。
【0112】
本発明の耐久性に優れる構造化膜は、汚損されにくい表面が必要とされる任意の産業に応用することができ、そのような産業には、光学機器産業、塗装産業、印刷産業、食品産業、自動車産業、ディスプレイ産業、生体医学分野、およびテキスタイル製造が非限定的に含まれる。
【0113】
その表面の少なくとも一部を本発明の膜で被覆される物品は任意の材料から成り得る。用いられる材料には、金属(軟鋼、炭素鋼、ステンレス鋼、ねずみ鋳鉄、チタン、アルミニウム等を含む)、合金(銅合金、黄銅など)、新型合金、セラミック、ガラス、木材(松材、オーク材、楓材、楡材、胡桃材、ヒッコリー材、マホガニー材、桜材等を含む)、模造木材(パーティクルボード、合板、ベニヤなど)、複合材、塗料面、プラスチック(熱可塑性プラスチックおよび熱可塑性強化プラスチックを含む)などの合成ポリマー、石材(宝石類、大理石、御影石、および準貴石類を含む)、ガラス面(家の窓、オフィスの窓、自動車の窓、列車の窓、バスの窓等を含めた窓、展示用ガラス棚)が非限定的に含まれる。具体的な物品の例としては、眼科用レンズ、レンズブランクまたはコンタクトレンズといった光学品、ガラス製テレビジョン画面、鏡、金属製エンジン部品、塗装された自動車部品、浴槽、シャワー装置、流し、壁、および床が挙げられる。具体的な合成ポリマーの例には、ポリエチレン、ポリアクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルポリアミド、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリフルオロカーボン、ポリエステル、シリコーンゴム、炭化水素ゴム、ポリカーボネートが有る。
【0114】
本発明の膜がデポジットされる物品の表面には、付着を改善するための前処理、例えば高周波放電プラズマ処理、グロー放電プラズマ処理、コロナ処理、電子ビーム処理、イオンビーム処理、または酸もしくは塩基処理を施してもよい。
【0115】
本発明の膜は特に光学機器、好ましくは眼科用光学機器に応用される。なぜなら、幾つかのパラメーター(WCA、ナノ粒子の粒径、表面粗さ、結合剤対ナノ粒子の質量比)間で折衷が図られ、その結果高い透過率(低い曇り度)、反射防止特性、耐摩耗性および/または耐引掻き性、きわめて高い疎水特性、疎油特性、好ましくは90〜100°の静的オレイン酸接触角を有する、光学的に透明で、かつ耐久性を具えた眼科用レンズなどの物品が得られること、および本発明の膜はほとんどのガラス基体に対して良好な付着を示すことが証明されたからである。しかも、製造方法は簡便で、高温(≦100℃)での操作を必要とせず、環境に優しい溶媒(水、または水に共溶媒のアルコールを加えたもの)を用いる。この方法は、フォトリソグラフィーやマイクロ成形といった従来のナノ構造膜取得方法に替わるものとして興味深い。
【0116】
表面の疎水性と、膜の性能とを釣り合わせるように留意するべきである。従って、本発明の膜で被覆された光学品は115〜160°、好ましくは115〜150°のWCAと、150nm以下の粒径と、先に述べたような結合剤対ナノ粒子の質量比とを有することが好ましい。
【0117】
眼科用光学機器の分野では、物品は無機ガラスまたは有機ガラス、好ましくは有機ガラスから成る基体を含む。有機ガラスはポリカーボネートおよび熱可塑性ポリウレタンなどの熱可塑性材料か、または熱硬化性(架橋)材料であり得、後者の材料にはジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)ポリマーおよびコポリマー(特にPPG IndustriesのCR 39(R))、熱硬化性ポリウレタン、ポリチオウレタン、ポリエポキシド、ポリエピスルフィド、ポリ(メタ)アクリレートおよびコポリマー主体の基体、すなわちビスフェノールA由来の(メタ)アクリルポリマーおよびコポリマーを含む基体など、ポリチオ(メタ)アクリレート、ならびにこれらのコポリマーおよびこれらのブレンドが含まれる。レンズ基体材料として好ましいのはポリカーボネートおよびジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)コポリマーであり、ポリカーボネートから成る基体が特に好ましい。
【0118】
上記膜は、基体に直にデポジットしてもよいし、基体が表面被膜で被覆されている場合は最も外側の被覆層の上にデポジットしてもよい。
【0119】
実際、レンズ基体の少なくとも一つの主要表面を下から順に耐衝撃性被膜(耐衝撃性プライマー)、耐摩耗性および/または耐引掻き性被膜(ハードコート)、反射防止被膜および防汚トップコートで被覆するのは通常の操作である。偏光被膜、フォトクロミック被膜、着色被膜または付着層、例えば付着性ポリウレタン層といった他の被膜をレンズ基体の一方または両方の表面に適用することも可能である。
【0120】
本発明によれば、物品は最も外側の被覆層で被覆された基体を含み得、その際最も外側の被覆層は耐摩耗性および/または耐引掻き性被膜、耐衝撃性被膜、または単層もしくは多層構造を有し得る反射防止被膜のいずれかから選択され、本発明の膜はこの最も外側の被覆層か、所望であればその一部のみの上にデポジットされる。ナノ構造膜がナノ構造化表面の上にもデポジット可能であることは先に開示した。
【0121】
以下の実施例を参照して、本発明をさらに詳述する。実施例は本発明の説明のために提示してあるに過ぎず、本発明の範囲および精神を限定するものと解釈されるべきでない。
【0122】
測定実験
測定用の試料は三つずつ用意した。報告するデータは三つのデータの平均として算出したものである。対照試料として、市販レンズを防汚トップコート(Optool DSX)で直接被覆したものを用いた。
【0123】
凹凸の測定を、Burleigh Instruments, Inc.の走査型プローブ顕微鏡(AFM: 精度±1nm)を用いて行なった。Burleigh Vista AFMは、Image Studio 4.0ソフトウェアにより制御されるACモード(タッピングモード)でトポグラフィー画像を集める。画像データの収集は5μm×5μmの走査エリア内で走査速度1.5Hzで行なわれる。Mountains Map Hi 4.0.2ソフトウェアを用いてデータがレベリングされ、かつ走査アーティファクトが除かれ、その後、有効RMS粗さパラメーターSqが前記ソフトウェアにより自動的に算出される。RMS粗さは、表面の平均表面レベルからの偏差(山および谷)の二乗平均平方根と定義されている。RMS粗さの値が大きいほど表面の凹凸が著しく、従ってWCAが大きい。
【0124】
水で濡らした布(薄地綿布TWILLX 1622)でレンズの表面を50回、付加的な質量を印加せずに摩擦するEberbach Corporationの摩擦機によって摩耗試験を実施した。膜の厚みをエリプソメーターで測定した。T(透過率: %)および曇り度はヘイズガードを用いて測定した。接触角データは装置FTA200(First Ten Angstrom)によって、4μL液滴を用いて集めた。測定は総て静的角度を用いて行なった(精度±2°)。
【0125】
実施例1〜3は専ら、ディップコーティングによって1層ずつ設ける自己組織化法に関し、一方実施例4および5は、結合剤およびナノ粒子の両方を含有する被覆溶液のスピンコーティングによるデポジションを含む。
【実施例1】
【0126】
ポリエチレンイミド(PEI)水溶液(0.02M; pH5〜7)を結合剤として用い、ナノ粒子を静電相互作用で結合させた。用いた3種のSiOナノ粒子水溶液(5〜10質量%)には、10〜15nm粒子(SiOA)、40〜50nm粒子(SiOB)および100nm粒子(SiOC)をそれぞれ含有させた。
【0127】
最初にAirwearTM Essilorレンズ基体をコロナ処理した。次に、基体をPEI結合剤溶液に5分間浸漬し(工程b1)、脱イオン水で洗浄した。このように被覆した基体をナノ粒子溶液に5分間浸漬し(工程b2)、脱イオン水で洗浄してナノ粒子の(副)層を一つ設けた。必要に応じて、最初の工程b2)のあとに工程b1)、b2)を繰り返して付加的なナノ粒子副層を形成した。得られた膜を風乾し、その後80℃で5分間の前硬化と、100℃で3時間の後硬化とを行なった(工程b3)。このように処理したレンズ表面に、フッ素化トップコート(Optool DSX)をディップコーティングによって設けた。
【0128】
作製した膜の諸特性を表2に示す。
【0129】
付着力の測定(クロスハッチ付着試験)は、評点0が最良の付着を意味し、1〜4が中間、5が最低の付着を意味する標準的な付着試験法で行なった。
【0130】
結合剤濃度がデポジットされるナノ構造層の厚みに及ぼす影響
結合剤(Glymo: 1、3または10%)、0.1N HCl(0.23%)、「1034A」と呼称されるSiOナノ粒子の水溶液(粒径15nm; 1.45%)、SiOナノ粒子の水溶液(粒径100nm; 2.50%; 乾燥粒子で1%)、2−ブタノン(0.17%)、硬化触媒のAl(AcAc)(0.07%)、界面活性剤(0.005%)、およびメタノールを質量に基づき記載した比率で含有する被覆溶液をAirwearTM眼科用レンズにスピンコーティングまたはディップコーティングによってデポジットした。上記被覆溶液において、1034Aナノ粒子は被膜の硬度および耐摩耗性の改善のためにのみ用いられている。
【0131】
得られたナノ構造層を乾燥し、その物理的厚みを測定した。結果を表1に示す。
【0132】
【表1】

【0133】
膜作製方法
下記の実験で用いた物品は、商品名AirwearTMの下に販売されている、ポリカーボネート(PC)基体を含む眼科用レンズ製品か、または商品名T&L(Thin and Lite)の下に販売されている、高屈折率ポリウレタン基体を含む眼科用レンズ製品であった。
【0134】
【表2】

【0135】
:市販のAlizeトップコートで被覆された市販のPC AirwearTMレンズ。
【0136】
平滑なトップコートでしか被覆されていない対照レンズと比較すると、実施例1の手順に従って被覆したレンズは粗さ、透過率およびWCAにおいて優れている。しかも、ナノ構造膜を有しない対照レンズと比較して明らかな表面エネルギーの低下が観察された。検討したナノ粒子系のうちの幾つかは、曇り度の低い超高疎水性ナノ構造膜をもたらした(例えば1.1、1.2、1.4)。実施例1.6からは、100nmナノ粒子の副層を複数重ねると膜の曇り度が高くなることが知見され、一方ただ一つの100nmナノ粒子層は許容される曇り度を可能にする(実施例1.5)。高い曇り度は、用途によっては許容可能でも眼科用レンズ産業の分野では許容され得ない。
【0137】
実施例1の膜はいずれも大きいWCAを示したが、基体への付着は強固でなかった。なぜなら、PEI結合剤はナノ粒子および基体表面と非共有結合(静電相互作用)しかできないからである。従ってこれらの膜は、国際公開第98/42452号および国際公開第01/14497号に記載された膜同様容易に損傷され、かつ設置面から剥がれた。
【実施例2】
【0138】
物品として、モスアイナノ構造(ピッチ250nm以下)を成形により付与されたAirwearTM Essilorレンズ基体を用いた。この基体を実施例1に述べたようにして被覆し、その際工程b2においてSiOBナノ粒子を用いた。
【0139】
水およびオレイン酸に対する静的接触角データを表3に要約する。標準的な平滑トップコートを設けた市販の対照レンズの場合と比較して、ナノ構造膜は水接触角およびオレイン酸接触角を劇的に、ほとんど「超疎水性」および「超疎油性」にまでそれぞれ増大させた。表面エネルギーの低下も対照レンズと比べて明らかであった。しかし、実施例2のナノ構造膜も、結合剤の性質が原因で基体への付着が良好でなかった。
【0140】
【表3】

【0141】
:市販のAlizeトップコートで被覆された市販のPC AirwearTMレンズ。
【実施例3】
【0142】
実施例1と同じ手順を繰り返したが、その際、ナノ粒子および基体表面と共有結合可能な結合剤である加水分解Glymoを1〜1.25質量%含有する結合剤溶液を用いた。前記結合剤の膜を先に挙げたSiOB/SiOA/SiOB系やSiOC系に適用した時の表面トポグラフィーは、図1Bに示したようなものであった。表4からは、被覆後の物品が123〜135°のWCAを有し、良好な付着、大きい接触角、および低い曇り度を示したこと、特にSiOB/SiOA/SiOB系はそのような性能を摩耗試験後も持続させたことが知見される。
【0143】
【表4】

【0144】
:市販のAlizeトップコートで被覆された市販のPC AirwearTMレンズ。
**:これらの測定は摩耗試験後に行なった。
【0145】
実施例4および5について
Glymo、HClおよび1034Aを攪拌下に12時間混合し、次いで混合物に、メタノール(溶媒)、SiOCナノ粒子(粒径100nm)を分散させた水溶液、2−ブタノン、Al(AcAc)、および界面活性剤(FC−430)を添加することによって被覆溶液を調製した。
【0146】
実施例4および5で用いた被覆溶液の組成を表5に示す。
【0147】
【表5】

【実施例4】
【0148】
最初にAirwearTM Essilorレンズ基体をコロナ処理した。次に、基体を上記被覆溶液のうちの一つでのスピンコーティングによって被覆し(工程b4: 結合剤1または2質量%、ナノ粒子1、2または5質量%)、得られた膜(図1Bに対応)を風乾し、その後80℃で5分間の前硬化と、100℃で3時間の後硬化とを行なった(工程b5)。このように処理したレンズ表面に、フッ素化トップコート(Optool DSX)をディップコーティングによって設けた。性能試験データを表6にまとめる。
【0149】
【表6】

【0150】
:これらの測定は摩耗試験後に行なった。
**:特に断らないかぎり、スピンコーティング速度は500/1000rpmとした。
***:スピンコーティング速度500/1500rpm。
【0151】
被覆後の物品のほとんどが基体への良好な付着(クロスハッチ試験で評点0)、大きいWCA(121〜133°)、高い透過率(>92%)、低い曇り度(<0.8)を示した。その性能は持続し、このことは眼科用レンズ産業にとって非常に望ましい。当該物品は摩耗試験後も大きい接触角(120〜126°)および低い曇り度を維持した。本発明のナノ構造膜は、現在市販されているレンズの表面のWCA(約110°)より大きいWCAを有する。
【0152】
スピンコーティング速度は概して500/1000rpmとした。比較のため、一つの事例でより速い回転速度を適用したところ、僅かに優れた結果が得られた。
【0153】
130〜140°に届くWCAを有し、しかも基体または直下の被膜に良好に付着するナノ構造膜がスピンコーティングにより作製可能であるが、そのような膜のほとんどは摩耗試験に合格し得ず、すなわちそのWCAが湿式摩擦試験後に112°前後と、市販レンズ表面の110°の接触角に近似する値となる。
【実施例5】
【0154】
最初にAirwearTM Essilorレンズ基体をコロナ処理し、スピンコーティングにより付着層(定着剤: ポリウレタンW244)で被覆した。このように被覆した基体を次に、上記被覆溶液のうちの一つでのスピンコーティングによって被覆した(工程b4: 試料5.1は試料4.1の被覆溶液から、試料5.2は試料4.3の被覆溶液から取得)。得られた膜(図1Bに対応)を風乾し、その後80℃で5分間の前硬化と、100℃で3時間の後硬化とを行なった(工程b5)。このように処理したレンズ表面に、フッ素化トップコート(Optool DSX)をディップコーティングによって設けた。性能試験データを表7にまとめる。
【0155】
【表7】

【0156】
:市販のAlizeトップコートで被覆された市販のPC AirwearTMレンズ。
**:これらの測定は摩耗試験後に行なった。
【0157】
被覆後の物品は直下の被膜への良好な付着(クロスハッチ試験で評点0)、大きいWCA、低い曇り度を示し、かつ摩耗試験後も大きいWCAおよび低い曇り度を維持した。上記結果からは、付着性ポリウレタン層を付加したことで膜の曇り度が低下したのに、WCAはそのような層を伴わない系と同様の大きさに維持されたことも知見される(実施例4.1を5.1と、4.3を5.2と比較されたい)。また、結合剤対ナノ粒子の比は1:1より1:2の方が好ましい。
【実施例6】
【0158】
防汚トップコート作製用の組成物として、Optool DSXの替わりに、信越化学工業から市販されているKP 801Mを用いて、実施例4.5、4.6および4.8を再現した。KP 801Mは蒸着によりデポジットした。得られた試料のWCAは約140°であった。
【0159】
表8に、結合剤GlymoおよびSiOCナノ粒子を異なる比率で含有する典型的な混合溶液A、BおよびCの組成を示す。溶液A、BおよびCは上記4.5、4.6および4.8の溶液にそれぞれ対応するものであり、本実施例において新たに記号を付した。
【0160】
【表8】

【0161】
表9に、3種の試料の性能試験結果を示す。試料6.1Aは、溶液Aを適用し、その後OF110で真空被覆して得た。試料6.2Bに対して、溶液Aの替わりに溶液Bを適用することにより、および試料6.3Cに対して、溶液Aの替わりに溶液Cを適用することにより、同じ方法が用いられた。最終的に得られた試料はいずれも良好な付着(クロスハッチ試験で評点0)、大きい接触角、および低い曇り度を示し、かつ摩耗試験後も大きい接触角および低い曇り度を維持した。
【0162】
【表9】

【0163】
クロスハッチ付着試験:評点0で最良の付着、5で最低の付着。
:摩耗試験(水で濡らした布で50回摩擦)後に測定した接触角。
【実施例7】
【0164】
まず、結合剤(1または2質量%)および粒子(5または8質量%)を含有する混合溶液でのスピンコーティングによって構造膜を作製した。スピンコーティング速度は一般的には500/1000rpmである。得られた膜に、80℃で5分間の前硬化と、110℃で3時間の後硬化とを行なった。その後、膜の上にフッ素化材料Optool DSXを適用して最終的な構造膜を得た。
【0165】
試料7.1Aは、実施例6に述べた混合溶液Aを新たに調製したものから作製し、トップコート溶液Optool DSXを用いるディップコーティングによって被覆した。試料7.2Bに対して、溶液Aに替えて実施例6に述べた溶液Bを適用することにより、および試料7.3Cに対して、溶液Aに替えて実施例6に述べた溶液Cを適用することにより、同じ方法が用いられた。
【0166】
表10に、上記3種の試料の性能試験結果を示す。
【0167】
これらの試料は良好な付着(クロスハッチ試験で評点0)、大きい接触角、および低い曇り度を示し、かつ摩耗試験後も大きい接触角および低い曇り度を維持した。
【0168】
【表10】

【0169】
クロスハッチ付着試験:評点0で最良の付着、5で最低の付着。
:摩耗試験(水で濡らした布で50回摩擦)後に測定した接触角。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】図1は、膜構造の制御が膜の良好な総合性能を得るための鍵である理由を説明するナノ構造層モデルの説明図である。
【図2】図2は、本発明の開示するデポジション法によって得られる複数種類の構造を示すナノ構造層モデルの、ナノ粒子が見えるように描かれた説明図である。
【図3】図3は、本発明により得られる膜の様々な粗度の説明図である。見やすいように、結合剤および防汚トップコートは省略した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの表面を有する物品であって、前記表面の少なくとも一部を、静的水接触角が少なくとも115°に等しくなるような表面粗さを有する超高疎水性膜で被覆され、前記膜は
―物品の表面に付着する少なくとも1種の結合剤で結合されたナノ粒子を含む第1層と、
―前記第1層の少なくとも一部を被覆する防汚トップコートである第2層と
を含むナノ構造膜である物品。
【請求項2】
ナノ粒子の粒径が150nm以下、好ましくは100nm以下である、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記第1層が粒径20〜150nm、好ましくは20〜100nmのナノ粒子を含む、請求項1または2に記載の物品。
【請求項4】
静的水接触角が120°以上であり、好ましくは125°以上である、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項5】
静的水接触角が160°以下であり、好ましくは150°以下である、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項6】
膜のRMS表面粗さが5〜50nm、より好ましくは10〜30nm、さらに好ましくは10〜20nmである、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項7】
防汚トップコートが少なくとも1種のフッ素化化合物を含む液状被覆材料から作製される、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項8】
防汚トップコートがパーフルオロプロピレン部分を有するフッ素主体の樹脂を含む、請求項7に記載の物品。
【請求項9】
汚損トップコートが、フッ素化炭化水素、パーフルオロカーボン、フッ素化ポリエーテルおよびパーフルオロポリエーテルの中から選択される少なくとも1種の基を有する1種以上のシランまたはシラザンを含む、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項10】
防汚トップコートが物品の表面エネルギーを20mJ/m未満、好ましくは14mJ/m未満、さらに好ましくは12mJ/m未満に低下させる、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項11】
結合剤が架橋可能な化合物である、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項12】
結合剤が、アミノ官能シランまたはアミノ官能シロキサン化合物、末端基がヒドロキシまたは低級アルコキシ基であるシラン、ウレイドアルキルアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、(メタ)アクリルシラン、カルボキシシラン、シラン含有ポリビニルアルコール、ビニルシラン、アリルシラン、およびこれらの混合物から成る群から選択されるケイ素含有結合剤である、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項13】
結合剤がエポキシアルコキシシラン化合物を含む、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項14】
結合剤が物品表面の基と少なくとも1種の共有結合を形成し得る化合物である、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項15】
結合剤がナノ粒子表面の基と少なくとも1種の共有結合を形成し得る化合物である、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項16】
結合剤がナノ粒子表面の基とも物品表面の基とも共有結合を形成し得る化合物である、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項17】
ナノ粒子が結合剤と少なくとも1種の共有結合を形成し得る反応性基を有する、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項18】
被覆された前記物品の光透過率Tが少なくとも可視スペクトル波長域において85%より高く、より好ましくは90%より高く、さらに好ましくは92%を越える、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項19】
被覆された前記物品の可視域反射が3%未満、より好ましくは2%未満である、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項20】
ナノ粒子が金属または半金属の酸化物、窒化物、フッ化物、またはこれらの混合物の中から選択される無機質のナノ粒子である、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項21】
無機質のナノ粒子が酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化アンチモン、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化セリウム、Si、MgF、またはこれらの混合物のナノ粒子の中から選択される、請求項20に記載の物品。
【請求項22】
結合剤およびナノ粒子が前記第1層に、結合剤対ナノ粒子の質量比が2:1〜1:15、好ましくは1:1〜1:15、より好ましくは1:1.1〜1:10、さらに好ましくは1:1.2〜1:10となるような量で含まれる、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項23】
膜が多様な長さスケールの粗さを示す、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項24】
第1層が多様な粒径範囲のナノ粒子を含む、請求項23に記載の物品。
【請求項25】
第1層の付着する物品の表面がナノ構造化表面である、請求項23に記載の物品。
【請求項26】
膜の物理的厚みが50〜700nmであり、より好ましくは50nmから550nmである、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項27】
前記第1層の物理的厚みが30〜250nm、より好ましくは40〜200nm、さらに好ましくは50〜150nmである、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項28】
物品が金属、合金、セラミック、ガラス、木材、模造木材、複合材、塗料面、合成ポリマー、石材の中から選択された材料から成る、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項29】
物品が光学品、好ましくは眼科用レンズまたはレンズブランクである、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項30】
少なくとも一つの表面の少なくとも一部を超高疎水性膜で被覆された前記物品が最も外側の被覆層で被覆された基体を含み、前記最も外側の被覆層は耐摩耗性および/または耐引掻き性被膜、耐衝撃性被膜、または単層もしくは多層反射防止被膜の中から選択される、請求項1または2のいずれかに記載の物品。
【請求項31】
請求項1から30のいずれかに記載の被覆された物品を得る方法であって、
a) 少なくとも一つの表面を有する物品を用意し、
b) 物品の前記表面の少なくとも一部の上に、物品の前記表面に付着する少なくとも1種の結合剤で結合されたナノ粒子を含む第1層を形成し、
c) 前記第1層の少なくとも一部の上に防汚トップコートの層をデポジットし、
d) 静的水接触角が少なくとも115°に等しくなるような表面粗さを有する超高疎水性ナノ構造膜で少なくとも部分的に被覆された表面を有する物品を回収する
工程を含む方法。
【請求項32】
前記第1層の形成が、
b1) 物品の前記表面の少なくとも一部の上に少なくとも1種の結合剤を含む被覆溶液の層をデポジットし、
b2) 工程b1)でデポジットしたばかりの層の上にナノ粒子を含む被覆溶液の層をデポジットし、
b3) デポジットした各層を硬化させる
工程を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記第1層の形成が、
b4) 物品の前記表面の少なくとも一部の上に少なくとも1種の結合剤とナノ粒子とを含む被覆溶液の層をデポジットし、
b5) デポジットした各層を硬化させる
工程を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
工程b2)で得られた層に対して工程b’1)およびb’2):
b’1) 先行工程でデポジットしたばかりの層の上に少なくとも1種の結合剤を含む被覆溶液の層をデポジットする工程、および
b’2) 先行工程でデポジットしたばかりの層の上にナノ粒子を含む被覆溶液の層をデポジットする工程
を1回以上行なう、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
工程b4)で得られた層に対して工程b’1)およびb’2):
b’1) 先行工程でデポジットしたばかりの層の上に少なくとも1種の結合剤を含む被覆溶液の層をデポジットする工程、および
b’2) 先行工程でデポジットしたばかりの層の上にナノ粒子を含む被覆溶液の層をデポジットする工程
を1回以上行なう、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
工程b2)で得られた層に対して工程b’4):
b’4) 先行工程でデポジットしたばかりの層の上に少なくとも1種の結合剤とナノ粒子とを含む被覆溶液の層をデポジットする工程
を1回以上行なう、請求項32に記載の方法。
【請求項37】
工程b4)で得られた層に対して工程b’4):
b’4) 先行工程でデポジットしたばかりの層の上に少なくとも1種の結合剤とナノ粒子とを含む被覆溶液の層をデポジットする工程
を1回以上行なう、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
工程b2)で得られた層に対して、
i) 工程b’1)およびb’2)と、
ii)工程b’4)と
を任意の順序で組み合わせて1回以上行ない、工程b’1)、b’2)およびb’4)は
b’1) 先行工程でデポジットしたばかりの層の上に少なくとも1種の結合剤を含む被覆溶液の層をデポジットする工程、および
b’2) 先行工程でデポジットしたばかりの層の上にナノ粒子を含む被覆溶液の層をデポジットする工程、
b’4) 先行工程でデポジットしたばかりの層の上に少なくとも1種の結合剤とナノ粒子とを含む被覆溶液の層をデポジットする工程
である、請求項32に記載の方法。
【請求項39】
工程b4)で得られた層に対して、
i) 工程b’1)およびb’2)と、
ii)工程b’4)と
を任意の順序で組み合わせて1回以上行ない、工程b’1)、b’2)およびb’4)は
b’1) 先行工程でデポジットしたばかりの層の上に少なくとも1種の結合剤を含む被覆溶液の層をデポジットする工程、および
b’2) 先行工程でデポジットしたばかりの層の上にナノ粒子を含む被覆溶液の層をデポジットする工程、
b’4) 先行工程でデポジットしたばかりの層の上に少なくとも1種の結合剤とナノ粒子とを含む被覆溶液の層をデポジットする工程
である、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
ナノ粒子が多様な粒径範囲のナノ粒子の混合物である、請求項31から39のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
少なくとも1回の工程b’2)で用いられるナノ粒子の粒径範囲が最初にデポジットされたナノ粒子と同じでない、請求項34、35、38または39のいずれかに記載の方法。
【請求項42】
少なくとも1回の工程b’4)で用いられるナノ粒子の粒径範囲が最初にデポジットされたナノ粒子と同じでない、請求項36から39のいずれかに記載の方法。
【請求項43】
用意された物品の表面がナノ構造化表面である、請求項31に記載の方法。
【請求項44】
前記ナノ構造化表面が型押し、成形、またはトランスファー成形によって作られたものである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
少なくとも1種の結合剤とナノ粒子とを含む液状被覆組成物であって、結合剤が0.5〜4質量%の量で存在し、ナノ粒子は該組成物の総質量に対して1〜15質量%の量で存在する組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−519149(P2009−519149A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−545015(P2008−545015)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【国際出願番号】PCT/EP2006/069786
【国際公開番号】WO2007/068760
【国際公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(594116183)エシロール アテルナジオナール カンパニー ジェネラーレ デ オプティック (69)
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL COMPAGNIE GENERALE D’ OPTIQUE
【Fターム(参考)】