説明

超高速パルスレーザ堆積を使用する電気化学デバイス作製方法。

多層薄膜電気化学デバイスを作製する方法が提供される。その方法は、チャンバー中に第1ターゲット材料を供給するステップと、前記チャンバー中に基板を供給するステップと、第1プラズマを生成するために前記第1ターゲット材料に向けられた第1断続レーザビームを放射するステップであって、前記第1断続レーザビームの各パルスは約20fsから約500psのパルス持続時間をもつ、ステップと、第1薄膜を形成するために前記基板の上に前記第1プラズマを堆積するステップと、前記チャンバー中に第2ターゲット材料を供給するステップと、第2プラズマを生成するために前記第2ターゲット材料に向けられた第2断続レーザビームを放射するステップであって、前記第2断続レーザビームの各パルスは約20fsから約500psのパルス持続時間をもつ、ステップと、第2薄膜を形成するために前記第1薄膜の上あるいは上方に前記第2プラズマを堆積するステップと、を有する。
【図1】


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
微細電子システムと微細電気化学システム(MEMS)において、それらに使用される構成要素の物理的な寸法を減らすことは有益である。そのような構成要素の一例は、電気化学デバイスである。例えば、許容できる動作特性を持つ減少されたサイズのパワー源のような電気化学デバイスを提供することは有益である。
【0002】
MEMSは、例えば、刺激を検出及び/あるいは刺激に応答するような種々の複雑な仕事を行うことができる。MEMSは、例えば相対的に複雑な系を形成するチップの上に様々な構成要素を含むことができる。そのような構成要素の例は、ポンプ、バルブ、リレー、マイクロモータ、アクチュエータ、センサ及びパワー源を含むことができる。また、長期の使用及び/あるいは低保守使用のために、太陽電池がMEMSに使用されてもよい。
【0003】
一般に、そのような減少したサイズのパワー源に悪影響を及ぼすことなしに、微細電子システムとMEMSに使用するパワー源を作るために、パワー源をつくるための従来の方法と技術は、簡単にスケールダウンされない。
【0004】
パワー源に使用する薄膜を作るためにスパッタリングが使用される。しかしながら、スパッタリングで作られる薄膜の化学量論と膜品質を制御することは困難である。さらに、スパッタリングは、成膜中にパワー源の性能に悪影響を及ぼすピンホールを作製する。
【0005】
パルスレーザ堆積(PLD)は、薄膜作製に使用される。PLDは、一般的に溶融した小滴及び/あるいは粒子を含むプラズマを形成する。そのような溶融した小滴及び/あるいは粒子は、成膜中に基板表面に捕集され、膜品質の劣化をもたらす。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
一つの観点に関して、多層薄膜電気化学デバイスを作製する方法が提供される。その方法は、
チャンバー中に第1ターゲット材料を供給するステップと、
チャンバー中に基板を供給するステップと、
第1プラズマを生成するために前記第1ターゲット材料に向けられた第1断続レーザビームを放射するステップであって、前記第1断続レーザビームの各パルスは約20fsから約500psのパルス持続時間をもつ、ステップと、
第1薄膜を形成するために前記基板の上に前記第1プラズマを堆積するステップと、
前記チャンバー中に第2ターゲット材料を供給するステップと、
第2プラズマを生成するために前記第2ターゲット材料に向けられた第2断続レーザビームを放射するステップであって、前記第2断続レーザビームの各パルスは約20fsから約500psのパルス持続時間をもつ、ステップと、
第2薄膜を形成するために前記第1薄膜の上あるいは上方に前記第2プラズマを堆積するステップと、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1は、模範的な観点に従う、多層薄膜電気化学デバイスを作るための超高速パルスレーザ堆積システムの模式図である。
【0008】
図2は、模範的な観点に従う、様々な温度でステンレススチールの上に堆積されたスズ酸化物薄膜のX線回折パターンと、スズ酸化物のJCPDSリファレンスと一緒のステンレススチール基板のX線回折パターンと、を示すグラフである。
【0009】
図3は、模範的な観点に従う、様々な温度でステンレススチールとシリコン基板の上に堆積されたスズ酸化物薄膜の[O]:[Sn]原子比を示すグラフである。
【0010】
図4は、模範的な観点に従う、シリコン基板上に堆積されたスズ酸化物薄膜の断面のSEM像である。
【0011】
図5は、模範的な観点に従う、スズ酸化物のJCPDSリファレンスと一緒のシリコン基板上に堆積された模範的なスズ酸化物薄膜のX線回折パターンを示すグラフである。
【0012】
図6は、模範的な観点に従う、50μAの電流で0.02Vと2.50Vの間で測定された模範的な電子デバイスの電荷−放電性能(時間対電圧)を示すグラフである。
【0013】
図7は、模範的な観点に従う、ステンレススチール基板上に堆積されたスズ酸化物薄膜電極のサイクル数対放電キャパシティを示すグラフである。
【0014】
図8Aから8Cは、模範的な観点に従う、カソード、アノード、固体電解質及び電流コレクタ薄膜の模範的な配置を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
方法は、電気化学デバイス、例えば、薄膜電気化学デバイスを作製するために提供される。薄膜電気化学デバイスは、少なくとも一つの薄膜を含み、好ましくは、そのようなデバイスの各層は、薄膜である。例えば、各薄膜は、約10μm未満の厚さをもってもよい。模範的な方法は、相対的に小さな物理的寸法をもつ電気化学デバイスの作製を可能にする。
【0016】
薄膜電気化学デバイスは、例えば、薄膜バッテリー(スーパーキャパシタとしても知られる)、薄膜電気化学ソーラセル、或いは薄膜微細燃料セルのような電気化学エネルギ変換デバイスでもよい。薄膜バッテリーの一例は、再充電可能なリチウムイオン薄膜バッテリーである。或いは、薄膜電気化学デバイスは、例えば、薄膜エレクトロクロミックデバイスでもよい。薄膜電気化学デバイスは、例えば、マイクロエレクトロニクス、マイクロセンサ、及び/或いはMEMSに使用されてもよい。
【0017】
その方法は、少なくとも一つの薄膜を形成するために特定のタイプのレーザビームを使用するパルスレーザ堆積を用いてもよい。例えば、断続レーザビームが、特定のパルス持続時間で放射され、プラズマを生成するためにターゲット材料に向けられてもよい。プラズマは、薄膜を形成するために基板の上に堆積される。少なくとも一つの追加ターゲット材料を供給して、その追加ターゲット材料に向けられた断続レーザビームを放射することで、少なくとも一つの追加薄膜が初めに形成された薄膜の上或いは上方に形成される。
【0018】
電気化学デバイスは、ここに記載された断続レーザビームを使用して形成される少なくとも二つの層に形成される。模範的な実施例において、基板の上或いは上方にカソード薄膜を形成し、そのカソード薄膜の上或いは上方に固体電解質薄膜を形成することで、電気化学デバイスは、作製される。アノード薄膜がその後その固体電解質薄膜の上或いは上方に形成される。図8Aを参照すると、アノード/固体電解質/カソード/基板構造をもつ模範的な電気化学デバイスが示されている。別の実施例においては、アノード薄膜が基板の上に形成され、電解質薄膜がそのアノード薄膜の上に形成され、カソード薄膜がその電解質薄膜の上に形成され、図8Bに示すようなカソード/固体電解質/アノード/基板構造となる。
【0019】
どちらの膜が堆積されても、電流コレクタが基板とカソード薄膜或いはアノード薄膜の間に随意に堆積されてもよい。図8Cを参照すると、そのような構造をもつ模範的な電気化学デバイスが示されている。代わりに、基板自身が電流コレクタとして機能することもできる。一つの実施例において、基板とその上にその後堆積された薄膜との間の付着を改善するために、最初に基板の上にバッファー層(図示せず)が堆積されてもよい。そのバッファー層は、例えば、ニッケル或いはその他の適当な材料によって形成される。
【0020】
電気化学デバイスの中にある複数の薄膜は、ここに記載されたパルスレーザ堆積によって形成されるとよい。例えば、カソード薄膜、固体電解質薄膜、アノード薄膜、電流コレクタ及び/或いはバッファー層は、パルスレーザ堆積の使用で形成されるとよい。好ましくは、例えば、少なくともアノードとカソード薄膜の一つが、より好ましくは、少なくともアノードとカソード薄膜が、最も好ましくは、少なくともアノード、カソード及び固体電荷質薄膜がパルスレーザ堆積の使用で形成されるとよい。
【0021】
別の実施例において、固体電解質は、層或いは薄膜の形態をとることができ、パルスレーザ堆積以外のプロセスで形成されてもよい。例えば、固体電解質が伝導ポリマーのような相対的に曲げやすい材料によって形成される実施例においては、その固体電解質は、例えば、化学蒸気堆積、電気重合及び/或いは熱重合のような任意の適当な方法で形成されてもよい。
【0022】
電気化学デバイスの中にある各薄膜の厚さは、例えば、薄膜の特定の用途及び/或いはそのような薄膜に使用される材料に依存する。例えば、アノード薄膜、カソード薄膜、固体電解質薄膜及び/或いは電流コレクタ薄膜の各厚さは、約10μm未満である。好ましくは、固体電解質薄膜は、電気的短絡の発生を減らす或いは避けるために十分厚い。
【0023】
断続レーザビームは、今後“パルス”と呼ぶ複数の離れたレーザビーム放射を有する。各パルスの持続時間は、今後“パルス持続時間”と呼ばれる。断続レーザビームのパルスのパルス持続時間は、十分に首尾一貫しているか或いは所定の範囲内で変えられ、好ましくは十分に首尾一貫している。さらに、連続するパルス間の時間周期は、十分に首尾一貫しているか或いは所定の範囲内で変えられ、好ましくは十分に首尾一貫している。
【0024】
模範的な実施例において、断続レーザビームの各パルスのパルス持続時間は、約500ピコ秒(ps)以下、好ましくは、約20フェムト秒(fs)から約300ps、より好ましくは、約50fsから約1000fs、最も好ましくは、約50fsから約500fsである。上のパルス持続時間(及び特に好ましい範囲)の断続レーザビームの使用は、エネルギ密度、パワー密度及びサイクリング安定性特性を順番に改善できる、良好な結晶構造、化学量論及び/或いは表面形態特性を持つ薄膜及び/或いは電気化学デバイスの形成をもたらすことができる。
【0025】
任意の特定理論に縛られることを望まなければ、そのような上記パルス持続時間範囲の断続レーザビームの使用は、プラズマ生成中に望ましくない溶融小滴及び/或いは粒子の発生を減らす或いは無くすことができると思われる。例えば、そのような望ましくない溶融小滴及び/或いは粒子は約1μm以上の大きさをもつことがある。断続レーザビームの使用は、実質的にそのような溶融小滴及び/或いは粒子フリーであるプラズマの生成を可能にする。溶融小滴及び/或いは粒子の生成の減少或いは実質的な阻止は、電気化学デバイスの任意の薄膜形成中、好ましくは少なくともカソード、アノード及び/或いは固体電解質薄膜の形成中に起きることができる。それに比べて、実質的に長いパルス持続時間(ナノ秒以上のような)をもつ通常のレーザビームの使用は、通常溶融小滴及び/或いは粒子の生成をもたらし、これらは、次々に堆積薄膜のエネルギ変換特性に悪影響を与える。
【0026】
任意の特定理論に縛られることを望まなければ、そのような上記パルス持続時間範囲の断続レーザビームの使用は、望ましい化学量論及び/或いは構造特性を持つ薄膜を提供できるとも思われる。薄膜の化学量論は、エネルギ変換特性に影響を及ぼす。例えば、スズ酸化物アノード薄膜の場合、高いスズ原子比は、一般に充電−放電キャパシティ特性を改善し、高い酸素原子比は、一般的に繰り返し安定性を改善する。従って、スズ酸化物薄膜の酸素対スズ原子比をバランスさせることは有益である。断続レーザビームの使用は、有益な酸素:スズ原子比、例えば、約0.5:1から約2:1、好ましくは約1:1から約2:1、より好ましくは約1.5:1から2:1をもたらすことができる。
【0027】
任意の特定理論に縛られることを望まなければ、薄膜の結晶構造の程度が薄膜の充電/放電サイクル特性に影響を及ぼすことができるとさらに思われる。一実施例において、薄膜の構造は完全に非晶質でも、完全に結晶でもなく様々なサイズのグレインを含む“ナノ結晶”構造から成り立っている。例えば、薄膜は、約5から約500nm、好ましくは約10から約100nm、より好ましくは約10から50nmの範囲のグレインサイズをもつ結晶グレインを有することができる。
【0028】
断続レーザビームは、任意の適当なレーザ光源で与えられる。レーザ光源は、例えば、所定の波長、周波数、パワーをもつ断続レーザビームを放出することができる。例えば、断続レーザビームの波長、周波数、パワーは、レーザ光源で調節されてもよく、或いはレーザ光源が所定の値の波長、周波数、パワーをもつ断続レーザビームを放出するように予め調節されていてもよい。使用できる模範的なレーザ光源は、商標名CPA-2001に属するデキスター、ミシガンにあるクラーク−MXR会社から入手できる。
【0029】
断続レーザビームの波長、周波数、パワーは、例えば、使用される特定のターゲット材料と基板、チャンバー内の雰囲気、形成される薄膜の特定用途、に依存する。好ましくは、その断続レーザビームは、任意の適当な波長、例えば、約190から1600nmの波長をもつことができる。その断続レーザビームは、任意の適当な繰り返し率、例えば、約10Hzから約100MHz、好ましくは約10Hzから約50kHzの繰り返し率をもつことができる。その断続レーザビームの各パルスのパワーは、例えば、約10−3から100mJ、好ましくは約0.5から約5mJ、より好ましくは約1から約2mJのような任意の適当な量である。
【0030】
ターゲット材料は、断続レーザビームに曝されるとプラズマを生成することができる任意の材料を含むことができ、そのプラズマは、基板の上に薄膜を形成するのに適している。一つの実施例では、複数のターゲット材料が使用され、異なるターゲット材料は、電気化学デバイスの異なる層を形成するために使用される。例えば、異なるターゲット材料は、アノード薄膜、カソード薄膜、固体電解質薄膜及び/或いは電流コレクタ薄膜の各々を形成するために使用される。
【0031】
一つの実施例において、カソード、アノード、固体電解質及び/或いは電流コレクタを形成するのに適する任意のターゲット材料が使用され、模範的な材料が以下で議論される。例えば、アノード薄膜を形成するためのターゲット材料は、スズ、シリコン、亜鉛、アルミニウム、タングステン、鉄、バナジウム及び/或いはそのような材料の酸化物を含むことができる。さらに或いは代わりに、炭素含有材料がターゲット材料として使用され得る。好ましくは、その形成されたアノード薄膜がリチウムイオンで可逆的にインターカレーション/逆インターカレーション及び/或いは合金化/逆合金化することができるようにそのターゲット材料は選定される。
【0032】
カソード薄膜を形成するためのターゲット材料は、例えば、リチウムコバルト酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウム鉄硫化物及び/或いはバナジウム酸化物を含むことができる。固体電解質薄膜を形成するためのターゲット材料は、リチウム燐オキシニトライド(LiPON)及び/或いはリチウムイオン伝導ガラス或いはセラミックを含むことができる。電流コレクタ薄膜を形成するためのターゲット材料は、例えば、ステンレススチール、銅及び/或いはニッケルのようなリチウムと実質的に合金を作ることができない材料を含むことができる。
【0033】
薄膜の形成は、真空チャンバーのような通常の堆積チャンバー内で行われる。薄膜の特性は、堆積プロセスの様々なパラメータ、例えば、チャンバー圧力とチャンバー雰囲気に依存する。例えば、堆積中のチャンバー内の圧力は、約10−8から約10−1torr、好ましくは約10−4から10−2torr、より好ましくは約10−3から約10−2torrである。チャンバー雰囲気は、ここに記載のPLDとの使用に適する任意のガスを含むことができ、例えば、酸素、窒素及び/或いはアルゴンを含むことができる。好ましくは、チャンバー雰囲気は、一つのタイプのガスを含み他のタイプのガスは実質的に含まない。
【0034】
堆積温度も薄膜の特性に影響を与えることがある。例えば、堆積温度を調節することは、薄膜の結晶性及び/或いは薄膜の化学量論の度合いに影響することがある。こういう風に、薄膜のそのような特性は、堆積温度を選択することで制御される。ここで使用されるとき、用語“堆積温度”は、薄膜が形成される材料表面の温度を示す。例えば、薄膜が基板の上に形成されるとき、堆積温度は、基板の表面温度である。薄膜が前に形成された薄膜の上に形成されるとき、堆積温度は、前に形成された薄膜の表面温度である。堆積温度は、薄膜の特定の用途、チャンバー圧力、チャンバー雰囲気及び/或いはターゲット材料に依存することがある。例えば、堆積温度は、約20℃から約900℃、より好ましくは約300℃から約500℃である。
【0035】
従来の薄膜成長は、通常相対的に高い堆積温度の使用を必要とする。一つの実施例において、断続レーザビームの使用は、相対的に低い堆積温度を採用しながら薄膜の形成を可能にする。これは、例えば、伝導ポリマー又は他の相対的にフレキシブルな材料のようなポリマー材料のような材料を有する低融点基板及び/或いは固体電解質層又は薄膜を順番に使用することを可能にする。例えば、堆積温度は、約300℃より低く、より好ましくは約25℃から約140℃である。
【0036】
図1は、薄膜及び/或いは複数の薄膜を含む電気化学デバイスを作製するための模範的な装置10を示している。装置10は、真空チャンバーのようなチャンバー20を含み、その中には、ターゲット材料30と基板40とが配置されている。レーザ光源70は、断続レーザビームをターゲット材料30に任意の適当な角度で、好ましくはターゲット材料の表面に関して、約30°から約50°、より好ましくは約45°で向けるように配置される。
【0037】
ターゲット材料30と基板40は、保持デバイス50と60でそれぞれ適所に保持される。保持デバイス50は、例えば、多重ターゲット材料が交互にレーザビームと接触して配置されるようにする多重ターゲット保持デバイスを含むことができる。例えば、ターゲット材料30の表面に均一な浸食パターン得るために、保持デバイス50は、例えば、ターゲット材料30をレーザビームに関して回転移動及び/或いは並進移動によって移動させることができる。基板40への膜成長の均一性を改善するために、保持デバイス60は、基板40を回転移動及び/或いは並進移動するために使用される。さらに或いは代わりに、ターゲット材料30の腐食パターンの均一性及び/或いは基板40への膜成長の均一性を改善するために、レーザ光源70が回転移動及び/或いは並進移動される。
【0038】
チャンバー20にガスを導入し、チャンバー20の圧力を調節し、及び/或いはチャンバー20を真空にするため、チャンバー20の側壁に少なくとも一つガス注入口及び/或いは排出口80が配置されている。ポンプ(図示せず)がチャンバー20のターボ分子ポンピングを行うために使用される。ゲートバルブ(図示せず)によってチャンバー20に取り付けられた第2チャンバーを含むサンプルトランスファーロードロック(図示せず)を装置20は含むことができる。サンプルトランスファロードロックは、チャンバー20を所定の圧力レベルに保持しながらチャンバー20中の材料の交換を可能にする。
【0039】
減少されたサイズの薄膜電気化学エネルギ変換デバイスは、マイクロチップ、例えば、パワーを与える部品に接して或いは近接して配置されるのと類似させることができる。そのような配置は、例えば、パワー配線中の漏れキャパシタンス、パワーラインと信号ライン間のクロストーク、及び/或いはオーミック損失、によって引き起こされるノイズを減少させることができる。薄膜電気化学エネルギ変換デバイスは、特定の用途に依存するが、例えば、約10から約100Vと約1nAから約1μAの量のパワーを供給することができる。
【0040】
減少されたサイズの薄膜電気化学エネルギ変換デバイスは、マイクロエレクトロニクスシステム或いはMEMSのような単一システムで多重電気化学エネルギ変換デバイスの使用を可能にする。例えば、電気化学エネルギ変換デバイスは、システムの単一部品にパワーを供給するために使用される。好ましくは、異なる電気化学エネルギ変換デバイスが、システムの各部品にパワーを供給するために使用される。こういう風な多重電気化学エネルギ変換デバイスの使用は、制御システムの複雑さ及び/或いはノイズレベルを減らすことを可能にし、パワー効率及び/或いはオペレーションのスピードの増加を可能にする。
[実施例]
【0041】
以下に明示する実施例において、薄膜の結晶構造は、テキサス州ウッドランドにある理学/MSCから入手可能なクロムカソードを備えるミニフレックスX線回折装置を使用してX線回折(XRD)で測定された。膜表面の形態は、走査電子顕微鏡(SEM)で観察された。薄膜の膜厚は、ラザフォード後方散乱分光装置(RBS)を使用して測定された。薄膜の重さは、誘導結合プラズマ(ICP)で決定された。薄膜の化学量論、すなわち〔O〕:〔Sn〕原子比は、エネルギ分散X線分光装置(EDS)とRBSで測定された。ICP、RBS、EDSを実施するための通常の装置及び方法が使用された。
[実施例1]薄膜形成
【0042】
直径0.5インチのステンレススチールディスクが、表面からグリースを取り除くためにアセトンで洗浄された。直径2インチのシリコンウエハ基板が、残余のシリコン酸化物を取り除くために50%フッ酸で30秒エッチされ、その後純水ですすがれた。ステンレススチールディスクは、銀エポキシ接着剤を使用してシリコンウエハに接着された。
【0043】
スズ酸化物薄膜が周囲温度(約25℃)から約700℃までの範囲の様々な堆積温度で堆積された。チャンバー雰囲気は、1mTorrの酸素ガス圧をもっていた。ターゲット材料と基板間の距離は、5cmで、堆積時間は40分であった。レーザ光源は、120fsの持続時間、1kHzの繰り返し率、0.8mJのパルスエネルギを持つクラーク−MXR CPA-2001であった。ターゲット材料は、オハイオ州コロンバスにあるSCI工学材料から入手できるSnO2であった。
[実施例2]薄膜の構造への堆積温度の影響
【0044】
図2は、異なる温度で堆積したスズ酸化物薄膜とステンレススチール基板自身のXRDスペクトルを示す。図2は、スズ酸化物(SnO2)のためのJCPDS(粉末回折標準のための合同委員会)リファレンスも明示している。指数を備える各ピークは、a=b=4.745A、b=3.190Aの格子パラメータをもつSnO2のルチル層を示している。指数のない大きなピークは、ステンレススチール基板のせいである。図からわかるように、ピーク強度は一般に温度と共に増大し、これは、非晶質相(400℃未満)から多結晶相(400℃から700℃)に成長が変化することを示している。XRDパターンに観測されるピーク拡張特性は、薄膜がナノ結晶構造を持つことを示している。500℃から600℃の間での(110)と(101)の相対強度比の変化は、薄膜の構造が温度で変化することを示している。従って、図2は、薄膜の結晶構造が堆積温度を調節することで変えられることを示している。
[実施例3]薄膜の化学量論への堆積温度の効果
【0045】
図3は、ステンレススチール基板とシリコン基板に成長した薄膜に対する、堆積温度を関数とする薄膜の酸素対シリコン原子比(〔O〕:〔Sn〕)を示している。約25℃から約700℃までの堆積温度の変化で、原子比が1.5から2.0の範囲であることがわかった。この結果は、薄膜が相対的に低い堆積温度で一酸化スズ(SnO)と二酸化スズ(SnO)の混合する非晶質であったことを示している。SnOの割合は、一般的に高い堆積温度で減少し、温度が約600℃に達すると、化学量論は、実質的にSnOのそれになった。基板のタイプ(すなわち、ステンレススチールかシリコンか)が、二つの基板に成長した薄膜の化学量論的類似性の観点から化学量論に明確な効果を持つようには見えない。上記からわかるように、薄膜の化学量論は、堆積温度を変えることで制御される。
[実施例4]薄膜の表面形態
【0046】
一酸化スズ薄膜は、堆積温度500℃と酸素圧力10−3torrで単結晶シリコン基板に堆積された。堆積プロセスの時間は、40分であった。図4は、シリコン基板に堆積された一酸化スズ薄膜の断面SEM像である。SEM像は、薄膜が約200nmの厚さと実質的に滑らかな上面とをもつことを示している。図5は、相を特定するための、薄膜のXRDパターンをJCPDSレファレンスと一緒に示している。
[実施例5]薄膜の電気化学性能
【0047】
一酸化スズ薄膜が、40分、酸素圧1mTorr、堆積温度600℃でステンレススチール基板に形成された。その一酸化スズ薄膜の重さは、ICPで0.146gと測定された。
【0048】
一酸化スズ薄膜電極の電気化学性能が、周囲温度での充−放電テストを使用して評価された。試験セルは、エチレン炭酸塩とジエチル炭酸塩を混合して作られる溶媒中の1.0M LiPF6電解液におけるアノードとしてのリチウム金属箔と対の一酸化スズ薄膜から構成された。セルガード(Celgard)セパレータが、電気的な短絡を防止するために一酸化スズ薄膜カソードとリチウム金属箔アノードの間に使用された。試験セルは、プラスチックバッグの中に閉じ込められ、セルの電気化学性能が評価された。
【0049】
図6は、50μAの定電流とリチウム金属に対して0.02Vから2.50Vの間の電圧での数個の充−放電サイクルを示している。図7は、この薄膜電極のサイクル性能を示している。図7からわかるように、この電極のキャパシティ密度は、1200mAh/gと同じであり、電極は、良好なサイクル寿命を維持した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー中に第1ターゲット材料を供給するステップと、
前記チャンバー中に基板を供給するステップと、
第1プラズマを生成するために前記第1ターゲット材料に向けられた第1断続レーザビームを放射するステップであって、前記第1断続レーザビームの各パルスは約20fsから約500psのパルス持続時間をもつ、ステップと、
第1薄膜を形成するために前記基板の上に前記第1プラズマを堆積するステップと、
前記チャンバー中に第2ターゲット材料を供給するステップと、
第2プラズマを生成するために前記第2ターゲット材料に向けられた第2断続レーザビームを放射するステップであって、前記第2断続レーザビームの各パルスは約20fsから約500psのパルス持続時間をもつ、ステップと、
第2薄膜を形成するために前記第1薄膜の上あるいは上方に前記第2プラズマを堆積するステップと、
を有する多層薄膜電気化学デバイス作製方法。
【請求項2】
前記第1及び第2断続レーザビームの各パルスは、約20fsから約300psのパルス持続時間をもつ請求項1の方法。
【請求項3】
前記第1及び第2断続レーザビームの各パルスは、約50fsから約1000fsのパルス持続時間をもつ請求項2の方法。
【請求項4】
前記第1及び第2プラズマは、約1μm或いはそれより大きなサイズの溶融小滴及び/或いは粒子から実質的に解放されている請求項1の方法。
【請求項5】
前記薄膜は、アノード薄膜或いはカソード薄膜である請求項1の方法。
【請求項6】
前記第2薄膜は、固体電解質薄膜である請求項1の方法。
【請求項7】
前記第1薄膜がアノード薄膜のとき前記第2薄膜はカソード薄膜であり、或いは前記第1薄膜がカソード薄膜のとき前記第2薄膜はアノード薄膜であり、固体電解質が該第1と第2薄膜の間に形成される請求項1の方法。
【請求項8】
前記固体電解質は、伝導ポリマーで形成される請求項7の方法。
【請求項9】
前記基板は、金属、シリコン或いは伝導ポリマーを含む請求項1の方法。
【請求項10】
前記第1プラズマを堆積するステップの間の堆積温度は、約20℃から約900℃である請求項1の方法。
【請求項11】
前記第1プラズマを堆積するステップの間の堆積温度は、約300℃から約500℃である請求項10の方法。
【請求項12】
前記第2プラズマを堆積するステップの間の堆積温度は、約20℃から約900℃である請求項1の方法。
【請求項13】
前記第2プラズマを堆積するステップの間の堆積温度は、約300℃から約500℃である請求項12の方法。
【請求項14】
前記第2プラズマを堆積するステップの間の堆積温度は、約300℃未満である請求項8の方法。
【請求項15】
前記第2プラズマを堆積するステップの間の堆積温度は、約25℃から約140℃である請求項14の方法。
【請求項16】
前記第1と第2薄膜の各厚さは、約10μm未満である請求項1の方法。
【請求項17】
前記第1と第2薄膜の各々は、約500nmRMS未満の平均表面粗度をもつ請求項1の方法。
【請求項18】
前記第1と第2薄膜の各々は、約50nmRMS未満の平均表面粗度をもつ請求項17の方法。
【請求項19】
前記電気化学デバイスは、ソーラーセル、エレクトロクロミックセル、微細燃料セル及び薄膜バッテリからなる群から選ばれる請求項1の方法。
【請求項20】
堆積温度、或いは前記第1と第2プラズマが前記第1と第2薄膜の所定の化学量論を得るために堆積される温度、を選定するステップをさらに有する請求項1の方法。
【請求項21】
前記チャンバー中に第3ターゲット材料を供給するステップと、
第3プラズマを生成するために前記第3ターゲット材料に向けられた第3断続レーザビームを放射するステップであって、前記第3断続レーザビームの各パルスは約20fsから約500psのパルス持続時間をもつ、ステップと、
第3薄膜を形成するために前記第2薄膜の上あるいは上方に前記第3プラズマを堆積するステップと、
をさらに有する請求項1の方法。
【請求項22】
前記第1、第2及び第3プラズマは、約1μm或いはそれより大きなサイズの溶融小滴及び/或いは粒子から実質的に解放されている請求項21の方法。
【請求項23】
前記第1薄膜はカソード薄膜であり、前記第2薄膜は固体電解質薄膜であり、前記第3薄膜はアノード薄膜である請求項21の方法。
【請求項24】
前記第1薄膜はアノード薄膜であり、前記第2薄膜は固体電解質薄膜であり、前記第3薄膜はカソード薄膜である請求項21の方法。
【請求項25】
前記第1、第2、第3断続レーザビームの各パルスは、約20fsから約300psのパルス持続時間をもつ請求項21の方法。
【請求項26】
前記第1、第2、第3断続レーザビームの各パルスは、約50fsから約1000fsのパルス持続時間をもつ請求項25の方法。
【請求項27】
前記第1及び/或いは第2プラズマを堆積するステップの間の堆積温度は、約300℃未満である請求項1の方法。
【請求項28】
前記第1及び/或いは第2プラズマを堆積するステップの間の堆積温度は、約25℃から約140℃である請求項27の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【公表番号】特表2008−504669(P2008−504669A)
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527754(P2007−527754)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/020403
【国際公開番号】WO2005/125288
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(593185670)イムラ アメリカ インコーポレイテッド (65)
【Fターム(参考)】