説明

足場用吊り金具

【課題】この発明は、地盤を支える擁壁の上部に足場を設置する際に、擁壁の背面側において吊り部材用の管体を固定する作業を不要とし、作業性を改善することを目的とする。
【解決手段】この発明は、擁壁の上端に正面側と背面側とに軸線方向を指向させて載置される筒形状の本体部材を設け、この本体部材は軸線方向に貫通して開口するねじ孔を備え、本体部材の軸線方向一端側に取り付けられるアンカー用部材を設け、このアンカー用部材は擁壁の背面側からねじ孔に螺着する取付ボルトによって本体部材に取り付けられる固定部を備えるとともに擁壁の上端に植え込まれたアンカーに係止する係止部を備え、本体部材の軸線方向他端側に取り付けられる足場用部材を設け、この足場用部材は擁壁の正面側からねじ孔に螺着するねじ部を備えるとともに擁壁の正面側に設置する足場を吊す吊り部を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は足場用吊り金具に係り、特に、地盤を支える擁壁の上部の正面側に足場を設置する際に使用する足場用吊り金具に関する。
【背景技術】
【0002】
切り土や盛り土などの地盤を支持する擁壁の工事においては、例えば、複数の壁面材を水平方向及び上下方向に複数並べて連結し、各壁面材の背面に一端側を連結した抗張部材の他端側を壁面材から離間する方向に展張して他端にアンカープレートを連結し、壁面材の背面側に盛土を投入転圧して抗張部材とアンカープレートとを埋設することで、必要な高さに擁壁を構築して地盤を支持するものがある。
【0003】
このように構築された擁壁は、最上部の壁面材の上端に高さ調整用の笠石をコンクリートによって形成している。この笠石をコンクリートで打つ際には、擁壁の上端に笠石用型枠を取り付ける作業を行っている。
【特許文献1】特開平11−200625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、建物工事や土木工事などにおいては、高所で作業する場合に足場を設置している。例えば、前述特許文献1に示す擁壁の上端に高さ調整用の笠石をコンクリートで打つ際には、笠石用型枠を取り付ける作業を行うための足場を擁壁の上部に設置している。
【0005】
ところが、擁壁の上部に足場を設置する際には、擁壁の背面側や正面側において、管体や鎖などの吊り部材を固定するための作業を必要とする問題がある。
【0006】
即ち、足場を設置する際には、擁壁の背面側に吊り部材用の管体を水平状態に固定し、この管体に一端側を固定した鎖などの吊り部材の中間を擁壁の上端を越えるように延ばし、吊り部材の他端側を擁壁の正面側に垂らして足場用の管体を水平状態に固定する。この管体には、上下方向に延びる複数の管体を平行に取り付け、この上下方向に延びる複数の管体の下部に水平状態に管体を固定し、前記上下方向に延びる複数の管体に固定した板置き部材に足場板を載せることで、足場を設置している。
【0007】
このため、擁壁の上部に足場を設置する際には、擁壁の背面側に吊り部材用の管体を固定し、この管体から正面側に鎖などの吊り部材を延ばして足場用の管体を固定し、この管体に板置き部材を固定して足場板を載せる作業を必要とするため、作業性が悪い問題があった。
【0008】
この発明は、地盤を支える擁壁の上部に足場を設置する際に、擁壁の背面側において吊り部材用の管体を固定する作業を不要とし、作業性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、地盤を支える擁壁の上端に軸線方向を擁壁の正面側と背面側とに指向させて載置される筒形状の本体部材を設け、この本体部材は軸線方向に貫通して前記擁壁の正面側と背面側とに開口するねじ孔を備え、前記本体部材の前記擁壁の背面側に位置する軸線方向一端側に取り付けられるアンカー用部材を設け、このアンカー用部材は前記擁壁の背面側から前記ねじ孔に螺着する取付ボルトによって前記本体部材に取り付けられる固定部を備えるとともに前記擁壁の上端に植え込まれたアンカーに係止する係止部を備え、前記本体部材の前記擁壁の正面側に位置する軸線方向他端側に取り付けられる足場用部材を設け、この足場用部材は前記擁壁の正面側から前記ねじ孔に螺着するねじ部を備えるとともに前記擁壁の正面側に設置する足場を吊り部材を介して吊す吊り部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明の足場用吊り金具は、地盤を支える擁壁の上端に本体部材を載置し、この本体部材の軸線方向一端側に固定部を取り付けたアンカー用部材の係止部を擁壁の上端に植え込まれたアンカーに係止し、本体部材の軸線方向他端側にねじ部で取り付けた足場用部材の吊り部に吊り部材を介して擁壁の正面側に設置する足場を吊すことで、擁壁の上端に既設のアンカーを利用して足場を吊すことができ、擁壁の背面側において吊り部材用の管体を固定する作業を必要とせず、作業性を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基づいて、この発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0012】
図1〜図9は、この発明の実施例を示し、図1は擁壁に取り付けた足場用吊り金具の側面図、図2は図1の矢印IIによる擁壁に取り付けた足場用吊り金具の背面図、図3の(A)(B)は本体部材の平面図と正面図、図4の(A)〜(C)はアンカー用部材の正面図と側面図と平面図、図5の(A)(B)は取付ボルトの平面図と正面図、図6の(A)(B)は緩み止め部材の正面図と側面図、図7の(A)(B)は足場用部材の正面図と側面図、図8の(A)(B)はばね座金の平面図と正面図、図9は擁壁に足場用吊り金具により設置した足場の側面図である。
【0013】
図9において、1は擁壁である。この擁壁1は、例えば、複数の壁面材2を水平方向及び上下方向に複数並べて連結し、各壁面材2の背面に固定具3により抗張部材4の一端側を連結し、抗張部材3の他端側を壁面材2から離間する方向に展張して他端にアンカープレート(図示せず)を連結し、壁面材2の背面側に盛土を投入転圧して前記抗張部材3とアンカープレートとを埋設することで、必要な高さに構築して地盤を支持している。
【0014】
前記擁壁1を構成する壁面材2の上端には、アンカー5が植え込まれている。アンカー5は、壁面材2に埋め込まれる軸部6の上端に径大な頭部7を備え、壁面材2の上端に形成した半球面形状のアンカー用窪部8内に頭部7を位置させて軸部6を埋め込んでいる。このアンカー5は、壁面材2を上下方向に並べて擁壁1を構築する際に使用されるものである。
【0015】
前記アンカー5には、擁壁1の上部に足場9を鎖などの吊り部材10で吊すための足場用吊り金具11が取り付けられる。足場用吊り金具11は、図1・図2に示すように、擁壁1を構成する最上部の壁面材2の上端に、軸線A方向を擁壁1の正面側と背面側とに指向させて載置される筒形状の本体部材12を設けている。この本体部材12は、図3に示すように、軸線A方向に貫通して前記擁壁1の正面側と背面側とに開口するねじ孔13を備えている。また、本体部材12は、図1に示すように、外周に擁壁1の損傷を防止する保護材14を巻き付けている。
【0016】
また、前記足場用吊り金具11は、本体部材12の、前記擁壁1の背面側に位置する軸線A方向一端側に取り付けられるアンカー用部材15を設けている。このアンカー用部材15は、図4に示すように、前記擁壁1の背面側から前記ねじ孔13に螺着する取付ボルト16(図5参照)によって本体部材12に取り付けられる固定部17を備えるとともに、前記擁壁1の上端に植え込まれたアンカー5に係止する係止部18を備えている。
【0017】
前記固定部17は、本体部材12の軸線A方向一端側に当接される平板形状に形成され、取付ボルト16を挿通するための挿通孔19を形成している。前記係止部18は、アンカー用窪部8に沿うように球面形状に形成され、アンカー5の軸部7を挟むようにアンカー用窪部8に挿入して頭部6に係止するための係止溝20を形成している。固定部17と係止部18とは、2つの折曲げ部21・22を挟んだ平板形状の連絡部23を介して連続している。
【0018】
さらに、前記足場用吊り金具11は、前記擁壁1の上端に埋設されたアンカー5の頭部6に係止した前記係止部18を前記擁壁1の上端に形成されたアンカー用窪部8に押し付けて、アンカー用部材15の緩みを防止する緩み止め部材24を設けている。緩み止め部材24は、図6に示すように、2つの折曲げ部25・26を介して連続する基端部27と中間部28と先端部29とからなる細幅板折曲げ形状に形成され、先端部29の端縁から中間部28の中央付近にまで達する係止溝30を形成している。
【0019】
前記緩み止め部材24は、図2に示すように、基端部27を操作部として係止溝30がアンカー5の軸部7を挟んだ状態でアンカー用窪部8内に先端部29から中間部28まで挿入し、2つの折曲げ部25・26をそれぞれアンカー用窪部8とアンカー用部材15の係止部18とに押し付けるとともに、中間部28をアンカー5の頭部7に押し付けることで、中間部28を弾性変形させる。これにより、緩み止め部材24は、アンカー5の頭部7によりアンカー用部材15の係止部18をアンカー用窪部8に弾性的に押し付け、緩みを防止する。
【0020】
さらにまた、前記足場用吊り金具11は、本体部材12の、前記擁壁1の正面側に位置する軸線A方向他端側に取り付けられる足場用部材31を設けている。この足場用部材31は、図7に示すように、前記擁壁1の正面側から前記ねじ孔13に螺着する軸形状のねじ部32を備えるとともに、前記擁壁1の正面側に設置する前記足場9を吊り部材10を介して吊すための円環形状の吊り部33を備えている。ねじ部32と吊り部33とは、ボス部34を介して連続している。吊り部33は、吊り穴35を有し、ねじ部32を本体部材12のねじ孔13に螺着するための操作部としても機能する。
【0021】
また、前記足場用部材30のボス部34と本体部材12との間には、図8に示すばね座がね36を介装している。ばね座金36は、足場用部材31のねじ部32を本体部材12のねじ孔13に螺着したときに、円環形状の吊り部33の径中心が水平方向に指向するように(図1参照)、足場用部材31の回転方向の位置を調整する。これにより、足場用部材31は、図9に示すように、ばね座金36によって、吊り部33の吊り穴35が吊り部材10を挿通し易い位置になるように、本体部材12に取り付けることができる。なお、アンカー用部材15の固定部17と取付ボルト16との間には、図1に示すように、平座金37を介装している。
【0022】
次に、この実施例の作用を説明する。
【0023】
構築された擁壁1の上部において作業する場合には、図9に示すように、足場9を設置する。例えば、擁壁1の上端に高さ調整用の笠石をコンクリートを打つ際には、笠石用型枠38を取り付ける作業を行うための足場9を、足場用吊り金具11により鎖などの吊り部材10を使用して設置する。
【0024】
足場用吊り金具11は、図1に示すように、本体部材12を擁壁1の上端に載置し、本体部材12の軸線A方向一端側にアンカー用部材15の固定部17を取付ボルト16により取り付け、アンカー用部材15の係止部18をアンカー5の頭部7に係合するとともに、軸線A方向他端側に足場用部材31のねじ部32を螺着して取り付ける。
【0025】
このとき、本体部材12は、外周に巻いた保護材14によって擁壁1の損傷を防止することができる。また、アンカー用部材15は、固定部17と取付ボルト16との間に平座金37を介装して本体部材12に取り付けることで、安定して取り付けることができる。さらに、アンカー用部材15は、アンカー5の頭部7とアンカー用部材15の係止部18との間に緩み止め部材24を弾性変形させながら挿入することで、製造時の寸法誤差を解消して、アンカー5に対する緩みを防止することができる。さらにまた、足場用部材30は、擁壁1の上端に載置した本体部材12に対して、吊り部33の径中心が水平方向に指向するように、ばね座金36によって位置を調整して取り付けることで、吊り部33の吊り穴35に吊り部材10を挿通し易くすることができる。
【0026】
この足場用吊り金具11により足場9を設置する際には、先ず、吊り部33に吊り部材10を挿通し、この吊り部材10で擁壁1の正面側に足場用の管体39を水平状態に固定する。この管体39には、上下方向に延びる複数の管体40をクランプ41により平行に固定し、この上下方向に延びる複数の管体40の下部に水平状態に管体42をクランプ43により固定する。前記上下方向に延びる複数の管体40には、それぞれ三角枠形状の板置き部材44を取り付け、この板置き部材44上に足場板45を載せることで、足場9を設置する。板置き部材44は、管体40の上部に固定した受部46に掛止部47を挿入して掛止し、管体40の下部に当接部48を当接することで、管体40に取り付けられる。
【0027】
設置した足場9は、前記笠石用型枠38の取り付け作業を行う際の、作業足場とすることができる。このとき、笠石用型枠38は、足場用吊り金具11を利用して取り付けることもできる。
【0028】
このように、この足場用吊り金具11は、地盤を支える擁壁1の上端に本体部材12を載置し、この本体部材12の軸線A方向一端側に固定部17を取り付けたアンカー用部材15の係止部18を擁壁1の上端に植え込まれたアンカー5に係止し、本体部材12の軸線A方向他端側にねじ部32で取り付けた足場用部材30の吊り部33に吊り部材10を挿通して、擁壁1の正面側に設置する足場9を吊している。
【0029】
これにより、この足場用吊り金具11は、擁壁1の上端に既設のアンカー5を利用して足場9を吊すことができ、擁壁1の背面側において吊り部材用の管体を固定する作業を必要としないので、作業性を改善することができる。
【0030】
また、この足場用吊り金具11は、本体部材12の外周に巻いた保護材14によって擁壁1の損傷を防止することができ、アンカー用部材15の固定部17と取付ボルト16との間に介装した平座金37によって安定して取り付けることができ、ばね座金36によって位置を調整して足場用部材30を本体部材12に取り付けることで、吊り部33に吊り部材10を挿通し易くすることができる。
【0031】
さらに、足場用吊り金具11は、緩み止め部材24によって、アンカー5に対するアンカー用部材15の緩みを防止することができるので、製造時の寸法誤差を解消してアンカー用部材15を擁壁1に堅固に取り付けることができ、足場9を安定して吊ることができる。
【0032】
さらにまた、足場用吊り金具11は、アンカー用部材15の固定部17と係止部18との間に2つの折曲げ部21・22を形成して2度折り構造としているので、アンカー5への取り付け時に滑りがなく、係止部18をアンカー5に確実に係止することができる。また、足場用吊り金具11は、緩み止め部材24に2つの折曲げ部25・26を形成して2段折曲形状としているので、アンカー用部材15のアンカー5に対する緩み止めを効率良く行うことができる。
【0033】
なお、足場用吊り金具11は、足場9を解体した後にアンカー5から取り外して回収することもできるが、笠石用型枠38の取り付けに利用した場合は固定した状態とすることもできる。この場合、足場用吊り金具11は、本体部材12のねじ孔13から足場用部材31を抜いて盲ボルト(図示せず)を螺着することで、ねじ孔13を閉塞する。
【産業上の利用可能性】
【0034】
この足場用吊り金具は、高所に足場を吊ることができるものであり、足場以外の部材の取り付けにも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例を示す擁壁に取り付けた足場用吊り金具の側面図である。
【図2】図1の矢印IIによる擁壁に取り付けた足場用吊り金具の背面図である。
【図3】(A)は本体部材の平面図、(B)は本体部材の正面図である。
【図4】(A)はアンカー用部材の正面図、(B)はアンカー用部材の側面図、(C)はアンカー用部材の平面図である。
【図5】(A)は取付ボルトの平面図、(A)は取付ボルトの正面図である。
【図6】(A)は緩み止め部材の正面図、(B)は緩み止め部材の側面図である。
【図7】(A)は足場用部材の正面図、(B)は足場用部材の側面図である。
【図8】(A)はばね座金の平面図、(B)はばね座金の正面図である。
【図9】擁壁に足場用吊り金具により設置した足場の側面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 擁壁
5 アンカー
8 アンカー用窪部
9 足場
10 吊り部材
11 足場用吊り金具
12 本体部材
13 ねじ孔
15 アンカー用部材
16 取付ボルト
17 固定部
18 係止部
19 挿通孔
20 係止溝
24 緩み止め部材
30 係止溝
31 足場用部材
32 ねじ部
33 吊り部
36 ばね座金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を支える擁壁の上端にこの擁壁の正面側と背面側とに軸線方向を指向させて載置される筒形状の本体部材を設け、この本体部材は軸線方向に貫通して前記擁壁の正面側と背面側とに開口するねじ孔を備え、前記本体部材の前記擁壁の背面側に位置する軸線方向一端側に取り付けられるアンカー用部材を設け、このアンカー用部材は前記擁壁の背面側から前記ねじ孔に螺着する取付ボルトによって前記本体部材に取り付けられる固定部を備えるとともに前記擁壁の上端に植え込まれたアンカーに係止する係止部を備え、前記本体部材の前記擁壁の正面側に位置する軸線方向他端側に取り付けられる足場用部材を設け、この足場用部材は前記擁壁の正面側から前記ねじ孔に螺着するねじ部を備えるとともに前記擁壁の正面側に設置する足場を吊す吊り部を備えることを特徴とする足場用吊り金具。
【請求項2】
前記擁壁の上端に埋設されたアンカーに係止した前記係止部を、前記擁壁の上端に形成されたアンカー用窪部に押し付けて前記アンカー用部材の緩みを防止する緩み止め部材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の足場用吊り金具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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