説明

距離型多重多段推論システム

【課題】 高度な知識システムを構築する場合,“あいまいさの爆発”の問題を解決する距離型多重多段推論システムを提供する。
【解決手段】 推論結果のあいまいさの広がりがルールの段数には関係せず,疎なルールの場合でも適切な推論結果を求めることができる計算手段(5),推論知識ベースの決定手段(3)(4),推論結果を出力する手段(8),与えられた事実と1段目の前件部との距離を計算する手段と,k段目の後件部とk+1段目の前件部との距離を計算する手段,最終段の後件部から事実までの各可能な通路における一致していない度合を表す手段と,推論結果のα−レベル集合を求める手段と,推論結果を求める手段,を備える。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は,高度な知識システムを構築する場合,“あいまいさの爆発”の問題を解決することを目的とする距離型多重多段推論システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年,情報技術進歩につれて日常生活から思想と文化までは急速に変わってきており,物しか扱っていなかった工学分野においても,人間にやさしい設計工学思想のような,人間との関わりのある研究や開発も認められるようになってきた。すなわち,機械としての「物」ではなく,人間のように他者に対して思いやりのある「物」を創ることが求められている。そのため,「物」には,人間の持っている知識を定量表現でき,未知の状況でも人間のように適切な結論を推論する能力を備えることが必要である。
【0003】
高度な知識システムを構築する場合,多重多段推論が必要となる。一般に推論段階を重ねるにつれて結論のあいまいさが広がり,いわゆる“あいまいさの爆発”が起こる恐れがあると指摘されている。これまでの研究ではimplication functionに満たされるべき性質と,Baldwinの間接法を利用した多段ファジィ推論におけるあいまいさの広がり具合との関係を与えている。直接推論法を対象とする研究では,4種類の推論環境と4種類のimplication functionの組み合わせに対して,推論段階と最終的な推論結果のあいまいさとの関係を論じ,ある条件が満たされれば,あいまいさが拡散しない場合もあるという興味ある結論を得ている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし,従来の1段ファジィ推論をそのまま多段ルールに適用する場合,適合度自身のもつ問題点が避けられない。例えば1段目のファジィルールにおける前件部が疎な場合,つまり前件部集合は隣接したもの同士が互いに空の共通部分をもつ場合,事実がどのルールにも覆われていない部分に入力される時や,各段の後件部におけるファジィ集合と次の段の前件部におけるファジィ集合とが共通集合を持たない場合では推論できない。
【0005】
本発明は,このような点に鑑みて創作されたものであり,あいまいさの爆発問題をも含めてこれらの問題点を根本的に解決するためには,適合度とは異なる観点から新たな距離型多重多段推論システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は,推論結果のあいまいさの広がりがルールの段数には関係せず,疎なルールの場合でも適切な推論結果を求めることができる計算手段と,推論知識ベースの決定手段と,推論結果を出力する手段を備えたことを特徴とする多重多段推論システムに関する。
【0007】
請求項2に係る発明は,多重多段推論の結果を求める計算手段は与えられた事実と1段目の前件部との距離を計算する手段と,k段目の後件部とk+1段目の前件部との距離を計算する手段,最終段の後件部から事実までの各可能な通路における一致していない度合を表す手段と,推論結果のα−レベル集合を求める手段と,推論結果を求める手段から構成されることを特徴とする請求項1記載の距離型多重多段推論システムに関する。
【0008】
請求項3に係る発明は,推論知識ベースの決定手段は,知識決定の窓に段数,ルール数,前件部と後件部の数を入力,前件部,後件部,事実のファジィ変数の型を選択,言語ルールをビジュアル的に確認しながら修正することができることを特徴とする請求項1と請求項2のいずれかにに記載の距離型多重多段推論システムに関する。
【0009】
請求項4に係る発明は,推論結果の出力手段は上のビューと下のビューで表示した内容を決め,前件部,後件部,事実から何れかのメンバーシップ関数グラフをマウスで引っ張り始めると,多段多重推論を開始,各段の推論過程と推論結果をビジュアル的に表示することができることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の距離型多重多段推論システムに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多重多段推論システムによれば,高度な知識システムを構築する場合,必要となる多重多段推論におけるあいまいさの広がり,いわゆる“あいまいさの爆発”の問題を根本的に解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の多重多段推論システムの例を示す図である。
【図2】段数の選択,段の設定の結果例を示す図である。
【図3】知識表示の結果例を示す図である。
【図5】上のビューと下のビューの推論結果例を示す図である。
【符号の説明】
【0012】
1 段数の入力部
2 段数の選択部
3 ルール数入力部
4 前件部と事実,後件部と結果の初期関数選択部
5 多重多段推論処理部
6 段数表示部
7 前件部と事実と後件部の操作部
8 前件部と事実の表示部
9 後件部と推論結果の表示部
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下,本発明に係る多重多段推論システムの好適な実施形態について,適宜図面を参照しながら説明する。
図1は本発明に係る多重多段推論システムの第一実施形態を示す図である。本発明に係る多重多段推論システムは,段数の入力部(1)と,段数の選択部(2)と,ルール数入力部(3)と,前件部と事実,後件部と結果の初期関数選択部(4)と,多重多段推論処理部(5)と,段数表示部(6),前件部と事実と後件部の操作部(7)と,前件部と事実の表示部(8)と,後件部と推論結果の表示部(9)を備えている。
【0014】
式(1)に示す多入出力の多重多段ルールに対して,多入出力の距離型多重多段推論を考

のi番目ルールを表わす。nは推論ルールの段数,mは第段におけるルールの数,sはル

【0015】
推論条件としては次の三つを仮定する。

する。ただし,k=1,2,...,n,i=1,2,...,m,j=1,2,...,s,jk+1=1,2,...,sk+1
(b)各段内における矛盾するルールはない。ここで矛盾するルールとは,例えば段では,

(c)m=mとする。つまり,第1段ルールの数が第段ルールの数に等しい。この条件は推論アルゴリズムを見通しのよいものにするためである。
【0016】
以上の三つの条件のもとで,距離型多重多段推論は次の五つのStepで構成する。

ただし,i=1,2,...,m

離を計算する。

ただし,k=1,2,...,n−1
=1,2,...,m
k+1=1,2,...,mk+1

ただし,i=1,2,...,m

ただし,

q=1,2,...,sn+1

(4)式の第2,3項は与えられた事実とは関係なく各段におけるルール間の関係を表わしているので,計算量を減らすために予め計算しておけば,異なる事実に対して改めて計算する必要がない。
【0017】
距離型多重多段推論システムの特徴は下記の通りである。各特徴についての証明は省略する。

とすれば,(10)式が成立する。

なく常に1段ルールの場合と同じということを意味している。

し,q=1,2,...,sn+1

q=1,2,...,sn+1


【0018】
図2は段数を10に設定し,選択した3段目にルール数を20,前件部変数の数を1,後件部の数を8設定した結果例,図3は20段の推論に3段目言語ルールの表示例である。前件部,後件部,事実から何れかのメンバーシップ関数グラフをマウスで引っ張り始めると,多段多重距離型ファジィ推論を開始する。図4は3段目の前件部(上のビュー)と3段目の後件部(下のビュー)の推論結果例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
推論結果のあいまいさの広がりがルールの段数には関係せず,疎なルールの場合でも適切な推論結果を求めることができる計算手段と,推論知識ベースの決定手段と,推論結果を出力する手段を備えたことを特徴とする多重多段推論システム。
【請求項2】
前記多重多段推論の結果を求める計算手段は,与えられた事実と1段目の前件部との距離を計算する手段と,k段目の後件部とk+1段目の前件部との距離を計算する手段,最終段の後件部から事実までの各可能な通路における一致していない度合を表す手段と,推論結果のα−レベル集合を求める手段と,推論結果を求める手段から構成されることを特徴とする請求項1記載の多重多段推論システム。
【請求項3】
前記推論知識ベースの決定手段は,知識決定の窓に段数,ルール数,前件部と後件部の数を入力,前件部,後件部,事実のファジィ変数の型を選択,言語ルールをビジュアル的に確認しながら修正することができることを特徴とする請求項1と請求項2のいずれかにに記載の多重多段推論システム。
【請求項4】
前記推論結果の出力手段は,上のビューと下のビューで表示した内容を決め,前件部,後件部,事実から何れかのメンバーシップ関数グラフをマウスで引っ張り始めると,多段多重推論を開始,各段の推論過程と推論結果をビジュアル的に表示することができることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の多重多段推論システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−160156(P2012−160156A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35145(P2011−35145)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)