説明

距離測定装置および距離測定方法

【課題】定在波を利用した距離測定の精度を向上させることができ、2m以下の近距離であっても距離測定が可能である距離測定装置および距離測定方法を提供する。
【解決手段】電磁波を出力する発信手段10と、発信手段10から出力される電磁波と、電磁波が測定対象Tで反射した反射波との合成波における信号強度(定在波S)を検出し、検出した信号強度に対応する信号レベルを有する検出信号を出力する検出手段30と、検出信号に基づいて検出手段30と測定対象との間の距離dを算出する信号処理手段40とからなり、発信手段10は、出力する電磁波の周波数が可変であり、信号処理手段40は、発信手段10から出力される電磁波の周波数を変化させたときにおいて、検出手段30が出力する検出信号の周波数間のレベル差に基づいて距離スペクトルを形成し、この距離スペクトルに基づいて検出手段10と測定対象Tとの間の距離dを算出するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、距離測定装置および距離測定方法に関する。アンテナや発光器から発信された電波や光等の電磁波(進行波)は、その進行方向に測定対象があると、その測定対象で反射して進行波と逆向きに進む反射波となる。このため、アンテナ等から連続して一定周波数の電磁波を出力すると、アンテナと測定対象との間には、進行波と反射波の合成によって生じる定在波が形成される。
本発明は上記のような定在波を用いて、測定対象までの距離を測定する距離測定装置および距離測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電波を利用した距離測定装置としては、マイクロ波やミリ波を用いた電波レーダが一般によく知られており、パルスレーダ、FMCWレーダ等が使用されている。
パルスレーダは、パルス信号を発信してからそれが測定対象で反射し戻ってくるまでの時間を計測することにより測定対象までの距離を求めるものである。
FMCWレーダは、周波数掃引した連続波を発信し発信信号と反射信号の周波数差から測定対象までの距離を求めるものである。
【0003】
しかるに、これらのレーダでは一般的に近距離の測定が難しい。
パルスレーダの場合、測定できる最小距離(以下、最小探知距離と称する)はパルス信号のパルス幅よって決定され、パルス信号のパルス幅が短かいほど、より近い距離を計測することができるのであるが、パルス幅が非常に短いパルス信号を発生させるためには、信号発信器が広い周波数帯域幅を有する信号を発信させなければならない。しかし、電波法で定められた特定小電力機器の移動体検知センサーにおいて、パルスレーダを距離測定装置として使用できるのは、占有周波数帯幅が、24.05GHz〜24.25GHzの範囲の中で76MHzに制限されるので、近距離計測が難しく、最小探知距離は数10m以上にしかならない。
また、FMCWレーダにおいても、発信する信号を掃引できる周波数帯域幅によって測定できる最小距離が決まるのであるが、パルスレーダの場合と同様に、電波法で定められた特定小電力機器の移動体検知センサーにおいて、FMCWレーダを距離測定装置として使用できるのは、占有周波数帯幅が、24.05GHz〜24.25GHzの範囲の中で76MHzに制限されるので、近距離計測が難しく、最小探知距離は数10m以上にしかならない。
【0004】
近年、パルスレーダやFMCWレーダよりも近距離を測定することができる電波レーダとして、アンテナ等の発信機と測定対象との間に形成される定在波を利用して測定対象までの距離を測定する装置が開発されている(従来例1:特許文献1)。
従来例1の距離測定装置では、送信手段から連続して一定周波数の電磁波を出力したときに、送信手段と測定対象との間には、出力された電磁波(進行波)と、この進行波が測定対象で反射した反射波の合成波によって生じる定在波を利用して、測定対象までの距離を測定するものである。この従来例1の距離測定装置では、測定対象までの距離を、進行波の送信周波数に対する定在波の信号強度の周期的な変動から得られる距離スペクトルに基づいて求めているので、送信手段が電磁波を出力してから定在波の信号強度を検出する検出手段に戻ってくるまでの時間の影響を受けず、従来方式であるFMCWレーダおよびパルスレーダに比べて、近距離でも、より高い精度で測定することができる。具体的には、占有周波数帯幅が、24.05GHz〜24.25GHzの範囲の中で76MHzであっても、理論上は約2mまでは測定可能である。
【0005】
しかるに、従来例1の距離測定装置においても、以下のごとき問題が存在する。
(1)まず、電波法で定められた特定小電力機器の移動体検知センサーから出力できる電磁波の信号強度は弱いため、観測できる定在波の信号強度も非常に微弱になる。すると、進行波の送信周波数に対する定在波の信号強度の周期的な変動を把握するためには、観測された信号を増幅させる必要がある。
定在波の信号強度は、進行波の送信周波数が変わっても変動しない直流成分に、進行波の送信周波数に応じて変動する周期成分が加算された状態で検出されるのであるが、周期成分の振幅に比べて直流成分が非常に大きいため、増幅器やAD変換器等のダイナミックレンジを直流成分に合わせなければならず、周期成分の振幅の変動、つまり、定在波の信号強度の周期的な変動の検出精度が低下し、距離測定精度も低下する。最悪の場合には、距離が測定できなくなる可能性がある。
【0006】
(2)増幅器およびAD変換器等に入力される前に、時間領域における信号において直流成分除去に使用される交流結合回路を使用して、定在波の信号強度に含まれる直流成分を除去すれば、ダイナミックレンジを周期成分の振幅に合わせることができる可能性があるが、そのためには周期信号の波形が1周期以上存在しなければならない。
時間領域における信号の場合であれば、観測時間を長くすれば信号波形を1周期以上とすることは可能である。しかし、従来例1の距離測定装置の場合も、占有周波数帯幅、つまり、送信周波数として出力できる周波数の幅が、24.05GHz〜24.25GHzの範囲の中で76MHzに制限されるため、交流結合回路を使用するには、この占有周波数帯幅内の測定で1周期以上の変動を示す信号波形が必要である。しかし、上記の占有周波数帯幅内の測定では、測定対象までの距離が2m以下となると、周期信号の波形が1周期未満となるため、交流結合回路を使用しても、信号の直流成分を正しく除去することが困難である。
なお、定在波の信号強度に含まれる直流成分が事前に把握できていれば、1周期未満の変動しかなくても直流成分を正しく除去できる可能性はあるが、直流成分は、温度によって変動するし、使用条件や環境によって変化するため、実際上、直流成分を事前に把握することが不可能である。
【0007】
(3)観測される定在波の信号レベルは、反射波の信号レベルに応じて変化し、近距離では大きくなり遠距離では小さくなるのであるが、遠距離の測定対象において反射する反射波の信号レベルに増幅量を合わせてしまうと、近距離の測定対象を測定するときには、反射波の信号レベルが大きいため、増幅された信号が飽和してしまう。すると、増幅された信号の飽和を防ぐためには増幅量を抑制しなければならず、増幅量を遠距離の測定対象との間に形成される定在波の信号強度を検出することができなくなるため、測定距離が制限されてしまう。
【0008】
(4)これに対処するためには、測定対象までの距離に応じて検出信号のレベルを可変させれば、増幅された信号の飽和を防ぐことができ、測定距離が制限されることを防ぐことができる。これを解決する方法として、例えば、高域通過型フィルタ(High Pass Filter: HPF)の有する、低い周期信号の信号レベルは小さくなるが、高い周期信号では信号レベルが減衰しないという特長を用いることが挙げられる。
しかし、フィルタの時定数によって過渡応答がある場合、観測信号の波形はその影響を受けるため、距離スペクトルに不要な成分が発生する問題が生じる。すると、不要成分による極大値が、測定対象による極大値よりも大きい場合、正しい測定距離が得られなくなる。具体的には、測定対象が存在しない場合であっても、測定対象が存在しているような距離スペクトルが形成されてしまうという問題が生じる。
【0009】
【特許文献1】特許3461498号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はかかる事情に鑑み、定在波を利用した距離測定の精度を向上させることができ、2m以下の近距離であっても距離測定が可能である距離測定装置および距離測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の距離測定装置は、測定対象までの距離を測定するための測定装置であって、該測定装置が、電磁波を、前記測定対象との間に存在する伝搬媒質に出力する発信手段と、該発信手段から出力される電磁波と、該電磁波が前記測定対象で反射した反射波との合成波における信号強度を検出し、検出した前記合成波における信号強度に対応する信号レベルを有する検出信号を出力する検出手段と、該検出手段が出力する検出信号に基づいて、前記検出手段と前記測定対象との間の距離を算出する信号処理手段とからなり、前記発信手段は、出力する前記電磁波の周波数が可変であり、前記信号処理手段は、前記発信手段から出力される電磁波の周波数を変化させたときにおいて、前記検出信号の隣接する周波数間のレベル差に基づいて距離スペクトルを形成し、この距離スペクトルに基づいて前記検出手段と前記測定対象との間の距離を算出するものであることを特徴とする。
第2発明の距離測定装置は、第1発明において、前記発信手段が、出力された前記電磁波の周波数情報を前記信号処理手段に供給しており、前記信号処理手段は、前記発信手段から出力される電磁波の周波数を変化させたときにおいて、前期検出信号の隣接する周波数間のレベル差を算出する検出値修正部と、該検出値修正部が算出した信号のレベル差と、前記発信手段から供給された前記電磁波の周波数情報に基づいて検出信号関数を形成する検出信号関数形成部と、該検出信号関数形成部によって形成された検出信号関数をスペクトル解析して距離スペクトルを算出し、該距離スペクトルに基づいて前記検出手段と前記測定対象との間の距離を算出する距離算出部とを備えていることを特徴とする。
第3発明の距離測定装置は、第1発明において、前記発信手段が、出力された前記電磁波の周波数情報を前記信号処理手段に供給しており、前記信号処理手段は、前記検出信号の隣接する周波数間のレベル差を、該信号のレベル差に対応した電圧として出力する検出値修正部と、前記発信手段から供給される前記電磁波の周波数情報と、前記検出値修正部から供給される電圧に基づいて検出信号関数を形成する検出信号関数形成部と、該検出信号関数形成部によって形成された検出信号関数をスペクトル解析して距離スペクトルを算出し、該距離スペクトルに基づいて前記検出手段と前記測定対象との間の距離を算出する距離算出部とを備えていることを特徴とする。
第4発明の距離測定装置は、第1発明において、前記信号処理手段は、前記検出信号の隣接する周波数間のレベル差を、該信号のレベル差に対応した電圧として出力する検出値修正部と、前記検出値修正部から供給される前記電圧をバンドパスフィルタ回路に供給し、該バンドパスフィルタ回路の出力に基づいて距離スペクトルを得て、該距離スペクトルに基づいて前記検出手段と前記測定対象との間の距離を算出する距離算出部とを備えていることを特徴とする。
第5発明の距離測定装置は、前記測定対象からの距離が、前記検出手段から前記測定対象までの距離と異なる位置に配設され、その位置における前記合成波の信号強度を検出し、検出した前記合成波の信号強度に対応した信号レベルを有する補正用信号を出力する補正用信号検出手段を備えており、前記信号処理手段は、前記発信手段から出力される電磁波の周波数を変化させたときにおいて、前記検出信号の隣接する周波数間のレベル差、および、前記補正用信号の隣接する周波数間のレベル差に基づいて、複素正弦波からなる解析信号関数を形成し、該解析信号関数をスペクトル解析して、距離スペクトルを算出するものであることを特徴とする。
第6発明の距離測定方法は、測定対象までの距離を測定するための測定方法であって、電磁波を前記測定対象との間に存在する伝搬媒質に出力し、出力された電磁波と、この電磁波が測定対象で反射した反射波との合成波における信号強度を検出し、検出された合成波における信号強度に基づいて、合成波における信号強度を検出した検出位置から測定対象まで距離を算出する測定方法であり、出力される電磁波の周波数を変化させたときにおいて、検出位置において検出された信号の隣接する周波数間のレベル差に基づいて距離スペクトルを形成し、この距離スペクトルに基づいて検出位置から測定対象まで距離を算出することを特徴とする。
第7発明の距離測定方法は、第6発明において、測定対象からの距離が、検出位置から測定対象までの距離と異なる補正用信号検出位置において合成波の信号強度を検出し、出力される電磁波の周波数を変化させたときにおいて、検出位置において検出された信号の隣接する周波数間のレベル差、および、前記補正用信号検出位置において検出された補正用信号の隣接する周波数間のレベル差に基づいて、複素正弦波からなる解析信号関数を形成し、この解析信号関数をスペクトル解析して、距離スペクトルを算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、検出信号の隣接する周波数間のレベル差は、検出信号の信号レベルの変動量、言い換えれば、定在波の信号強度の変動量のみを表す。すると、増幅器やAD変換器等のダイナミックレンジを定在波の信号強度の変動量にあわせることができるので、交流成分の信号強度の変動を正確に検出することができる。しかも、信号レベルの差を求めることで、測定対象までの距離が近いときは小さいゲインが掛かり、遠いときには大きなゲインが掛かる。つまり、測定対象までの距離に応じたゲインを持たせることができる。
第2発明によれば、検出信号関数を形成してからスペクトル解析を行うので、距離スペクトルを容易に算出することができる。
第3発明によれば、検出信号関数を形成してからスペクトル解析を行うので、距離スペクトルを容易に算出することができる。しかも、検出信号関数を形成するまでの処理を、全て回路等のハードウェアによって処理することができるから、処理を高速化することができる。
第4発明によれば、信号処理手段において、検出信号が入力されてから距離スペクトルを形成するまで、全て回路等のハードウェアによって処理するから、処理を高速化することができる。
第5発明によれば、検出信号の隣接する周波数間のレベル差と、補正用信号の隣接する周波数間のレベル差に基づいて複素正弦波からなる解析信号関数をスペクトル解析しているから、得られる距離スペクトルは、実際の検出手段と測定対象との間の距離を表す周期における距離スペクトルだけとなる。よって、折り返しイメージが存在することによる測定誤差が発生することを防ぐことができるから、距離測定装置が使用できる周波数帯域の実効周波数が24.05GHz〜24.25GHz中の76MHzに制限されても、2m以下の近距離を正確に測定することができる。しかも、測定対象までの距離に応じたゲインを持たせることができる。
第6発明によれば、検出信号の隣接する周波数間のレベル差は、検出信号の信号レベルの変動量、言い換えれば、定在波の信号強度の変動量のみを表すから、増幅器やAD変換器等のダイナミックレンジを定在波の信号強度の変動量にあわせることができるので、定在波の信号強度の変動を正確に検出することができる。しかも、信号のレベル差を求めることで、測定対象までの距離が近いときは小さいゲインが掛かり、遠いときには大きなゲインが掛かる。つまり、測定対象までの距離に応じたゲインを持たせることができる。これにより、検出された信号のレベル差に基づいた距離スペクトルを形成することができる。
第7発明によれば、検出位置において検出された信号の隣接する周波数間のレベル差と、補正用信号検出位置において検出された信号の隣接する周波数間のレベル差に基づいて複素正弦波からなる解析信号関数をスペクトル解析しているから、得られる距離スペクトルは、実際の検出手段と測定対象との間の距離を表す周期における距離スペクトルだけとなる。よって、折り返しイメージが存在することによる測定誤差が発生することを防ぐことができるから、距離測定装置が使用できる周波数帯域の実効周波数が24.05GHz〜24.25GHz中の76MHzに制限されても、2m以下の近距離を正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本実施形態の距離測定装置1の概略ブロック図である。
同図に示すように、本実施形態の距離測定装置1は、発信手段10、送信手段20、検出手段30および信号処理手段40とから構成され、発信手段10と測定対象Tとの間に形成される定在波Sを用いて検出手段30から測定対象Tまでの距離を測定するようにした装置であり、検出手段30が検出する定在波Sの信号強度に基づいて信号処理手段40が検出手段30から測定対象Tまでの距離を算出するものであり、定在波Sの信号強度に含まれる直流成分と交流成分を、直流成分の値を把握することなく除去することで、増幅器やAD変換器等のダイナミックレンジを定在波の信号強度の変動量にあわせることができる機能を有している。
【0014】
まず、本実施形態の距離測定装置1の基本構成を簡単に説明する。
図1において、符号Tは、測定対象を示しており、図1には、複数の測定対象T1〜Tnが記載されている。
【0015】
図1に示すように、発信手段10は、発信部11と周波数制御部12とから構成されている。発信部11は、一定の周波数fの信号を連続して出力できるものであって、かつ、その出力信号の周波数fを変化させることができるものである。この発信部11には、出力信号の周波数fを制御する周波数制御部12が接続されている。つまり、発信部11は、周波数制御部12に制御されて、所定の送信周波数f に調整された出力信号を出力するのである。
また、周波数制御部12は、発信部11の出力信号に関する情報を含んだ信号を出力するように構成されている。
【0016】
前記発信手段10の発信部11には、例えばアンテナや増幅器等の送信手段20が接続されている。この送信手段20は、送信手段20と測定対象Tとの間に存在する、例えば空気や水等の伝搬媒質中もしくは真空中に、発信手段10の発信部11が発信した信号と同じ周波数fを有する電磁波を放出するものである。
すると、送信手段20から伝搬媒質中に電磁波(以下、進行波Dとも称する)を出力すると、この進行波Dが測定対象T1〜Tnにおいて反射され、反射された電磁波(以下、反射波Rとも称する)と進行波Dとが干渉し、定在波が送信手段20と測定対象T1〜Tnの間に形成されるのである。
なお、送信手段20が電磁波の信号強度を受信できるものである場合には、反射波Rは送信手段20によって受信されたのち、電気的な信号となって発信手段10と送信手段20とを電気的に接続する配線や回路内にも伝播する。すると、定在波Sは、送信手段20と測定対象T1〜Tnの間だけでなく、発信手段10と送信手段20とを電気的に接続する配線や回路内にも形成されるのである。
【0017】
発信手段10と送信手段20とを電気的に接続する配線や回路には、測定対象T1〜Tnから距離d1〜dnだけ離れた位置に、検出手段30が接続されている。この検出手段30は、その位置における定在波Sの信号強度p(f、xs)を検知するためのものであり、例えば、振幅検出器、自乗検波器等である。この検出手段30は、定在波Sの信号強度p(f、xs)に対応した信号レベルを有する検出信号、例えば、定在波Sの信号強度p(f、xs)や信号強度p(f、xs)の自乗に比例した電流や電圧等を出力することができるものである。
なお、検出手段30は、送信手段20や発信手段10と測定対象T1〜Tnとの間に設けてもよいのはいうまでもないが、発信手段10と送信手段20とを電気的に接続する配線や回路に設ければ、距離測定装置1をコンパクトな構成とすることができるので、好適である。
【0018】
前記検出手段30には、信号処理手段40が接続されている。この信号処理手段40は、前記検出手段30から送信される検出信号に基づいて距離スペクトルを形成し、この距離スペクトルから、検出手段30から測定対象T1〜Tnとの間の距離d1〜dnを算出するものである。
本実施形態の距離測定装置1では、信号処理手段40において、検出信号に含まれる定在波Sの信号強度p(f、xs)の直流成分を除去する機能を有しているのであるが、詳細は後述する。また、信号処理手段40は、測定対象T1〜Tnまでの距離に応じたゲインを持たせる機能も有しているが、詳細は後述する。
【0019】
つぎに、本実施形態の距離測定装置1による距離測定の基本原理を説明する。
図1に示すように、周波数fの進行波Dと、測定対象Tk(k=1、2、・・・ n)にて進行波Dを反射した反射波Rが干渉することにより、発信手段10と測定対象Tkの間に定在波Sが発生する。すると、検出手段30の位置における信号強度p(f、xs)を、検出手段30によって検出することができる。
【0020】
進行波Dが1つの測定対象でのみ反射する場合、検出手段30から測定対象までの距離が一定、かつ、進行波Dの周波数が一定であれば、検出手段30の位置における信号強度p(f、xs)は一定である。
一方、検出手段30から測定対象までの距離が一定のままで、進行波Dの周波数fを変化させると、検出手段30の位置における信号強度p(f、xs)は、進行波Dの周波数fに対して正弦波関数(cos関数)となる。
例えば、発信手段10が発信する周波数範囲をfw、発信手段10が発信する周波数の中心周波数をf0、検出手段30から測定対象までの距離をdとすると、信号強度p(f、xs)の波形は、図2のようになる。ただし、cは光速である。
図2に示すように、信号強度p(f、xs)は、周波数f 対して周期的に変化する正弦波関数となり、この関数の周期c/2(d-xs)は、検出手段30の位置xsから測定対象までの距離dに対して逆比例の関係となる。したがって、この正弦波関数を、フーリエ変換やMUSIC法等を利用してスペクトル解析を行えば、検出手段30からの距離に対するスペクトル(距離スペクトル)を算出することができる。この距離スペクトルの絶対値は、検出手段30から測定対象までの距離の位置にピークを有するから、距離スペクトルに基づいて検出手段30から測定対象までの距離dを算出することができるのである。
【0021】
ここで、複数の測定対象Tkから反射がある場合には、検出手段30の位置における信号強度p(f、xs)は、発信手段10と各測定対象Tkとの間に形成される複数の定在波における検出手段30の位置の信号強度を足し合わせた信号強度となる。
そして、検出手段30から複数の測定対象Tkまでの距離がそれぞれ一定のままで、進行波Dの周波数fを変化させると、検出手段30の位置における信号強度p(f、xs)は、進行波Dの周波数fに対して、各測定対象Tkまでの距離d1〜dnに対応した複数の周期を有する正弦波が複合合成されたものとなる。
【0022】
すなわち、送信部20から放出された進行波Dは、以下の数1で表されるから、各測定対象Tkまでの距離をdkとすれば、各測定対象Tkが進行波Dを反射した反射波Rは、数2のように表すことができる。
ただし、数1において、cは光速、fは送信周波数、Aは進行波Dの振幅レベル、xは送信信号の送信軸である。また、数2において、γkは、測定対象Tkの反射係数の大きさで伝播損失を含む。またφkは、反射による位相シフト量である。
【0023】
【数1】

【0024】
【数2】

【0025】
すると、定在波Sは、進行波Dと反射波Rの加法的合成によって発生した合成波の信号強度であるから、検出手段30の位置x=xsにおけるp(f、xs)は、数1および数2を用いて数3で表される。
【0026】
【数3】

【0027】
一般的に、反射波Rのレベルは非常に小さいため、γk << 1であると考えられることから、γkの2次以上の項をほぼ0とみなすことができる。したがって、検出手段30の位置x=xsにおけるp(f、xs)は、数4のように表すことができる。
【0028】
【数4】

【0029】
この信号強度p(f、xs)を、スペクトル解析すれば、距離xに対する距離スペクトルを求めることができ、求められた距離スペクトルの絶対値は、検出手段30から各測定対象Tkまでの距離に対応した位置にそれぞれピークを有するから、距離スペクトルに基づいて検出手段30から各測定対象Tkまでの距離dを算出することができるのである。
例えば、フーリエ変換により距離スペクトルを求めるのであれば、信号強度p(f、xs)に以下の数5に示す周期情報を得るフーリエ変換の公式を適用すれば、数6に示すような距離スペクトルP(x)を算出することができる。
【0030】
【数5】

【0031】
【数6】

【0032】
つぎに、信号処理手段40を詳細に説明する。
図1に示すように、信号処理手段40は、検出値修正部41と、検出信号関数形成部42と、距離算出部43とを備えている。
【0033】
検出値修正部41は、検出信号の隣接する周波数間の信号レベルの差(レベル差)を算出するものである。この検出値修正部41は、発信手段10の周波数制御部12から、発信部11の出力信号に関する情報を含んだ信号が入力されており、進行波Dの周波数fと、進行波Dの各周波数fにおける検出信号の信号レベルを対応づけし、その後、周波数fにおける検出信号の信号レベルと隣接する周波数f+Δfにおける検出信号の信号レベルとの差(以下、単に修正検出信号の信号レベルと称する)を算出し、修正検出信号を出力するものである。なお、Δfは、進行波Dの周波数fを変化させるときにおけるステップ周波数である。
この検出値修正部41によって検出信号に含まれる直流成分が除去され、つまり、修正検出信号が算出される。また、検出値修正部41で算出された修正検出信号は、検出手段30から測定対象までの距離に応じて異なったゲインが掛かるのであるが、詳細は後述する。
【0034】
検出信号関数形成部42は、検出値修正部41が算出した修正検出信号と、発信手段10から出力された進行波Dの周波数情報に基づいて検出信号関数を形成するものである。検出信号関数とは、周波数fにおける検出信号の信号レベルと隣接する周波数f+Δfにおける検出信号の信号レベルとの差を修正検出信号とした場合、周波数fに対する修正検出信号の信号レベルを示す関数である。
【0035】
距離算出部43は、検出信号関数形成部42によって形成された検出信号関数をスペクトル解析して距離スペクトルを算出し、距離スペクトルに基づいて検出手段30から測定対象までの距離を算出するものである。検出信号関数をスペクトル解析する方法は特に限定されず、フーリエ変換やMUSIC法等を採用することができる。
【0036】
なお、検出値修正部41は、例えば、サンプルホールド等による信号レベル保持回路と、差動回路を用いた構成により、検出信号の隣接する周波数間のレベル差を修正検出信号として出力するような構成としてもよい。この場合、検出信号関数を形成するまでの処理を、ハードウェアによって処理することができるから、処理を高速化することができる。
【0037】
また、修正検出信号が電圧である場合には、バンドパス等のフィルタ回路を設けておき、この電圧をバンドパスフィルタ回路に供給し、該バンドパスフィルタ回路によって、修正検出信号を各周波数成分のレベルを求めることによって、距離スペクトルを得る。すると、信号処理手段40において、距離スペクトルを形成するまでの全ての処理を回路等のハードウェアによって行うことができるから、処理を高速化することができる。しかも、かかる構成とした場合には、検出信号関数形成部42を設けなくてもよいので、装置の構成を簡単にできる。
【0038】
つぎに、信号処理手段40における解析原理について説明する。
上述したように、図1に示す距離測定装置において、ある検出手段30の位置xsで検出される信号強度p(f、xs)は、以下の数7で表すことができる(上述した数4と同じ式である)。数7における符号f は、図1の距離測定装置の発信手段10が出力する出力信号の周波数である。
【0039】
【数7】

【0040】
発信手段10は出力する出力信号の周波数を、以下の数8のようにステップ状に変化させる。
【0041】
【数8】

【0042】
すると、数7と数8とから、上述した修正検出信号の信号レベルpd(f、xs)は、以下の数9のように表すことができる。
【0043】
【数9】

【0044】
この数9からわかるように、修正検出信号の信号レベルpd(f、xs)からは、信号強度p(f、xs)に含まれていた直流成分A2が除去されている。つまり、検出値修正部41において、検出信号の隣接する周波数間におけるレベル差を算出すれば、信号強度p(f、xs)に含まれていた直流成分A2を除去することができるのである。
上記のごとく、修正検出信号の信号レベルpd(f、xs)には、直流成分が除去されており、距離測定に必要な周期信号しかないため、この周期信号のみを増幅することが可能となるから、増幅器およびAD変換器のダイナミックレンジを有効利用することが可能となるのである。
【0045】
また、修正検出信号の信号レベルpd(f、xs)には、検出手段30の位置から測定対象までの距離dkが含まれているので、距離dkが長くなるほど周期信号の振幅の増幅割合が大きくなり、距離dkが短くなるほど周期信号の振幅の増幅割合が小さくなるから、検出値修正部41において、検出信号の隣接する周波数間のレベル差を算出すれば、測定対象までの距離に応じたゲインを持たせることができるのである。一般に、測定対象による反射信号のレベルは、近い距離では大きく、遠い距離では小さくなるが、測定対象までの距離に応じたゲインを持たせることによって、測定対象までの距離に起因する信号強度p(f、xs)のレベル差が相殺される効果が得られるのである。
【0046】
なお、数9の修正検出信号の信号レベルpd(f、xs)をフーリエ変換して得られる距離スペクトルは、数10のようになる。
【0047】
【数10】

【0048】
この修正検出信号の信号レベルpd(f、xs)には直流成分A2が含まれないため、数10にも当然直流成分を表す項が存在しない。そのため、直流成分による距離測定誤差の発生を防ぐことができるのである。
【0049】
つぎに、本実施形態の距離測定装置1における距離測定手順を説明する。
図3は、図1の距離測定装置における距離測定のフロー図である。図3に示すように、測定を開始する前に、まず、発信手段10の周波数制御部12において、周波数条件が設定される。詳細には、発信手段10から出力される出力信号の中心周波数f0、送信周波数範囲fw、掃引する周波数ステップΔfが設定される(P01)。
【0050】
周波数掃引の条件が設定されると、周波数制御部12は、掃引開始時の送信周波数f として、f=f0−fw/2を設定する。周波数制御部12は、発信部11を送信周波数fに制御するための制御信号を出力する(P02)。
【0051】
発信部11は、周波数制御部12からの制御信号に応じて、自己の発信周波数を送信周波数fに調整し、掃引周波数fの信号を出力する。すると、発信手段10は、出力信号と同一周波数fの電磁波を、送信手段20を介して測定対象のTkに対して放出する(P03)。
【0052】
次に、検出手段30は、送信周波数fの進行波Dと測定対象物で反射された反射波Rとによって生成される合成波の信号強度を検出する(P04)。
【0053】
P03およびP04に示す検出動作は、送信周波数f を周波数ステップΔfだけ増加させて行われる(P06)。以上に示す一連の動作は、最終的に送信周波数fが掃引終了時の周波数f0+fw/2に至るまで繰り返される(P05)。
【0054】
所定の周波数f0−fw/2〜f0+fw/2において、各周波数fにおける合成波の信号強度の検出が完了すると、周波数fに対する信号強度を示す関数p(f、xs)が得られる。
【0055】
信号処理手段40の検出値修正部41において、周波数fにおける合成波の信号強度p(f、xs)と隣接した周波数f+Δfにおける信号強度p(f+Δf、xs)との差である修正検出信号の信号レベルpd(f、xs)が、各周波数fについて得られる(P07)。
【0056】
得られた修正検出信号の信号レベルpd(f、xs)をフーリエ変換等によりスペクトル解析することにより、距離スペクトルPd(x)が算出される(P08)。
【0057】
距離スペクトルPd(x)の絶対値|Pd(x)|の極大値を抽出することにより、測定対象Tkの距離dkを求めることができる(P09)。
【0058】
[解析信号関数を利用した実施形態]
また、距離測定装置1の信号処理手段40において、修正検出信号から、複素正弦波からなる解析信号関数を形成し、解析信号関数をフーリエ変換して距離スペクトルを算出した場合、上述した距離測定において、周波数掃引範囲fwに対する定在波の信号強度p(f、xs)の交流成分の変動が1周期未満になる距離でも正確な距離測定を行うことができる。
以下に、その構成を説明する。
なお、信号処理手段40において、解析信号関数を形成すること、および、解析信号関数を形成するための補正用信号を検出するために補正用信号検出手段を設けたこと以外は、上記の実施形態を実質同等であるから、説明を割愛する。
さらになお、補正用信号検出手段が検出した補正用信号も、信号処理手段40の検出値修正部41において、検出信号から修正検出信号が形成されるのと同様に、修正補正用検出信号が形成される。
【0059】
図4は他の実施形態の距離測定装置1の概略ブロック図である。図4において、符号50は補正用信号検出手段を示している。この補正用信号検出手段50は、検出手段30とは異なる位置に配設されている。
この補正用信号検出手段50は、検出手段30と実質同様の構成を有するものである。つまり、補正用信号検出手段50は、その位置における信号強度p(f、x1)を検知でき、検知した信号強度に対応した信号レベルを有する検出信号を出力することができるものである。具体的には、測定対象からの距離が異なる位置、つまり、同じ周波数であっても、検出される定在波の信号強度p(f、xs)が異なる位置に設けられている。
【0060】
図4に示すように、信号処理手段40において、検出値修正部41と距離算出部43との間には、検出信号関数形成部42に代えて、解析信号生成部45が設けられている。
この解析信号生成部45は、検出値修正部41から修正検出信号と修正補正用検出信号が供給され、この修正検出信号と修正補正用検出信号に基づいて解析信号関数を形成するものである。
解析信号関数をフーリエ変換して得られる距離スペクトルは、検出信号関数をフーリエ変換したときに生じる折り返しイメージが発生しないため、近距離、具体的には、定在波の信号強度p(f、xs)の交流成分の変動が1周期未満になる距離における計測誤差を軽減することができる。つまり、距離測定装置が使用できる周波数帯域の実効周波数が24.05GHz〜24.25GHz中の76MHzに制限されても、2m以下の近距離を正確に測定することができるのである。
【0061】
次に、解析信号関数を利用した距離測定装置の測定原理を説明する。
検出手段30の位置x=xsにおいて検知される合成波の信号強度p(f、xs)は、以下の数11のように、上述した数4と同じ式になる。
【0062】
【数11】

【0063】
この数11における周波数fは、図4の距離測定装置で発信手段10が出力する出力信号の周波数fである。この周波数fを以下の数12のようにステップ状に変えて行く。
【0064】
【数12】

【0065】
すると、数12の周波数fから得る数11において、修正検出信号の信号レベルpd(f、xs)は、以下の数13で表される。
【0066】
【数13】

【0067】
数13の修正検出信号の信号レベルpd(f、xs)を数14のように表す。
【0068】
【数14】

【0069】
ここで、基準とする観測点をxs=0とすると、xs=0における修正検出信号の信号レベルpd(f、0)は、以下の数15で表される。
【0070】
【数15】

【0071】
この修正検出信号pd(f、0)において、振幅成分m(f)と位相成分θ(f)を算出して得られる解析信号関数(複素正弦波)pa(f、0)は、数16となる。
【0072】
【数16】

【0073】
数16の解析信号関数pa(f、0)をフーリエ変換して得る距離スペクトルは数17になる。
【0074】
【数17】

【0075】
解析信号関数をフーリエ変換して得られる距離スペクトルの大きさ|Pa(x)|は、数17から、単一の極大値を有する。これにより、数6の各項の成分が干渉することによって生じる|P(x)|の極大値の位置が変動することを回避でき、近距離における計測誤差を軽減することができる。
【0076】
なお、cos関数から複素正弦波関数exp(jθ(f))を導く方法として、一般的にヒルベルト変換が知られている。これによれば、cos関数から直交するsin関数を求めることで複素正弦波関数exp(jθ(f))が得られる。しかしながら、ヒルベルト変換によって複素正弦波関数を生成するためには、基本となるcos関数に十分な周期性、つまり、一周期以上の信号が必要とされる。従って、本実施の形態のように、距離dkが短く、cos関数に十分な周期性が認められない場合においては、ヒルベルト変換の適用は困難であるといえる。
【0077】
図4に示すように、検出手段30に加えて補正用信号検出手段50を設ければ、各手段によって検出される信号強度から修正検出信号の信号レベルおよび修正補正用検出信号の信号レベルが生成でき、振幅成分m(f)およびθ(f)を求めて解析信号を生成できる。すると、得られた解析信号をフーリエ変換することによって、観測信号の波形が1周期未満に相当する距離においても測定誤差を軽減することができるのである。
【0078】
補正用信号検出手段50をxs=x1の位置に設ける。すると、修正補正用検出信号の信号レベルpd(f、x1)は、以下の数18で表すことができる。
【0079】
【数18】

【0080】
この数18と、前記数15とから、位相成分θ(f)および振幅成分m(f)は、数19および数20から算出される。
【0081】
【数19】

【0082】
【数20】

【0083】
数19および数20によって、振幅成分m(f)、位相成分θ(f)が求められると、数16に示す解析信号関数が生成される。この解析信号関数pa(f、0)をフーリエ変換することにより、数17に示す距離スペクトルPa(x)が得られる。
【0084】
つぎに、解析信号関数を利用した距離測定装置1における距離測定手順を説明する。
図5は、解析信号関数を利用した距離測定装置における距離測定のフロー図である。図5に示すように、測定を開始する前に、まず、発信手段10の周波数制御部12において、周波数条件が設定される。詳細には、発信手段10から出力される出力信号の中心周波数f0、送信周波数範囲fw、掃引する周波数ステップΔfが設定される(P10)。
【0085】
周波数掃引の条件が設定されると、周波数制御部12は、掃引開始時の送信周波数fとして、f=f0−fw/2を設定する。周波数制御部12は、発信部11を送信周波数fに制御するための制御信号を出力する(P11)。
【0086】
発信部11は、周波数制御部12からの制御信号に応じて、自己の発信周波数を送信周波数fに調整し、掃引周波数fの信号を出力する。すると、発信手段10は、出力信号と同一周波数fの電磁波を、送信手段20を介して測定対象Tkに対して放出する(P12)。
【0087】
次に、検出手段30および補正用信号検出手段50は、送信周波数fの進行波Dと測定対象Tkで反射された反射波Rとによって生成される合成波の信号強度をそれぞれが設けられた位置で検出する(P13)。
【0088】
P13およびP14に示す検出動作は、送信周波数fを周波数ステップΔfだけ増加させて行われる(P14)。以上に示す一連の動作は、最終的に送信周波数fが掃引終了時の周波数f0+fw/2に至るまで繰り返される。
【0089】
所定の周波数f0−fw/2〜f0+fw/2において、各周波数fにおける合成波の信号強度の検出が完了すると、検出手段30および補正用信号検出手段50のそれぞれの位置における周波数fに対する信号強度p(f、0)、信号強度p(f、x1)を示す関数が得られる。
【0090】
信号処理手段40の検出値修正部41において、周波数fにおける合成波の信号強度p(f、0)と隣接した周波数f+Δfにおける信号強度p(f+Δf、0)との差である修正検出信号の信号レベルpd(f、0)、および、周波数fにおける合成波の信号強度p(f、x1)と隣接した周波数f+Δfにおける信号強度p(f+Δf、x1)との差である修正補正用信号の信号レベルpd(f、x1)が、各周波数fについて得られる(P16)。
【0091】
生成された修正検出信号の信号レベルpd(f、0)と、修正補正用信号の信号レベルpd(f、x1)から解析信号関数pa(f、0)を生成する(P17)。
【0092】
生成された解析信号関数pa(f、0)をフーリエ変換等によりスペクトル解析することにより、距離スペクトルPa(x)が算出される(P18)。
【0093】
距離スペクトルPa(x)の絶対値|Pa(x)|の極大値を抽出することにより、測定対象Tkの距離dkを求めることができる(P19)。
【実施例1】
【0094】
本願の距離測定装置(本実施例)と、従来の定在波を利用した距離測定装置(従来例)とによる測定距離を数値計算より求めた。
数値計算は、中心周波数f0=24.088GHz、掃引周波数範囲fw=76MHz、送信信号の振幅A=1、反射係数γ1=0.1、位相シフト量φ1=0、観測位置xs=0、測定対象までの距離d1=0.01m〜10mの条件で行った。
図7は、従来例での距離スペクトルの絶対値|P(x)|を示し、図6は、その絶対値から得た測定距離を示し、そして、図8は、図7において測定対象までの距離が0.5m時の距離スペクトルの絶対値|P(x)|をそれぞれ示す。なお、従来例の距離スペクトルP(x)はp(f、0)の平均値を求め、p(f、0)から平均値を除去し、平均値除去したp(f、0)にハミング窓を掛けてフーリエ変換したものから得ている。
図10は、本実施例での距離スペクトルの絶対値|Pd(x)|を示し、図9は、その極大値から得た測定距離を示し、そして、図11は、図10において測定対象までの距離が0.5m時の距離スペクトルの絶対値|Pd(x)|をそれぞれ示す。なお、pd(f、0)にハミング窓を掛けてフーリエ変換を行っている。
【0095】
図6および図9を参照すると、測定対象までの距離が2〜3mの場合、従来例では、測定対象までの距離と測定距離の差が変動していることがわかる。
また、本実施例では、測定対象までの距離と測定距離の差の変動が従来例よりも少ないことがわかる。これは、従来例では、p(f、0)の平均値と直流が、完全に一致していないため、直流成分を除去しきれていないためである。これに対し、本実施例では、p(f、0)の直流成分を除去可能であるため、測定対象までの距離が2〜3mの間では、測定対象までの距離と測定距離の差が従来例よりも小さくなっている。
【0096】
また、本実施例において、図10に示すように、測定対象までの距離が長くなるにつれ、算出される距離スペクトルの絶対値|Pd(x)|は大きくなることから、測定対象までの距離に応じたゲインの効果を持たせることができる。
今回の数値計算では、反射係数γ1が、測定対象までの距離に関わらず一定としているが、一般に近くの測定対象では反射波のレベルが大きく、遠くの測定対象では、反射波のレベルが小さくなる。つまり、本実施例によって、測定対象までの距離に応じてレベル差が相殺される効果が得られるのである。
【実施例2】
【0097】
実施例2では、解析信号関数から距離スペクトルを形成する本発明の距離測定装置が算出する測定距離を数値計算より求めた。なお、実施例2の数値計算の条件は、x1=−2mmとし、それ以外は、実施例1と同一である。なお、pa(f、0)にハミング窓を掛けてフーリエ変換を行っている。
【0098】
図7に示すように、従来例において算出される距離スペクトルの絶対値|P(x)|は、数6の各項によるものである。ただし、数6の第一項の大きさは、直流Aからp(f、0)の平均値を除去したものである。従来例で、測定対象までの距離を0.5mとしたときの距離スペクトルは、図8のようになり、また、図6に示すように、測定対象までの距離が2m未満となると、実際の測定対象までの距離よりも長くなってしまう。
また、図10に示すように、本実施例1において算出される距離スペクトルの絶対値|Pd(x)|は、数10の各項によるものである。本実施例1で、測定対象までの距離を0.5mとしたときの距離スペクトルは、図11のようになり、また、図9に示すように、測定対象までの距離が2m未満となると、実際の測定対象までの距離との差が大きくなる。
【0099】
一方、解析信号関数から距離スペクトルを形成する本実施例2の場合、数17のごとくPa(x)が単一項のみから形成されているので、距離スペクトルの絶対値|Pa(x)|は、単一の極大値しか存在しない(図13)。すると、距離0.5mでの距離スペクトルの絶対値|Pa(x)|も図14のようになるから、算出される距離は、測定対象までの距離が2m未満においても距離測定値との差が大きくならないことがわかる(図12)。
以上のように、解析信号関数から距離スペクトルを形成する本実施例2では、測定対象までの距離が2m未満、つまり、p(f、0)の波形が1周期未満に相当する距離に対しても、距離測定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本実施形態の距離測定装置1の概略ブロック図である。
【図2】信号強度p(f、xs)と周波数fの関係を示した図である。
【図3】図1の距離測定装置における距離測定のフロー図である。
【図4】他の実施形態の距離測定装置1の概略ブロック図である。
【図5】解析信号関数を利用した距離測定装置における距離測定のフロー図である。
【図6】従来例による距離測定結果と設定された測定対象までの距離を比較した図である。
【図7】従来例において算出される距離スペクトルである。
【図8】従来例において測定距離が0.5mのときに算出される距離スペクトルである。
【図9】本実施例による距離測定結果と設定された測定対象までの距離を比較した図である。
【図10】本実施例において算出される距離スペクトルである。
【図11】本実施例において測定距離が0.5mのときに算出される距離スペクトルである。
【図12】本実施例2による距離測定結果と設定された測定対象までの距離を比較した図である。
【図13】従来例において算出される距離スペクトルである。
【図14】従来例において測定距離が0.5mのときに算出される距離スペクトルである。
【符号の説明】
【0101】
1 距離測定装置
10 発信手段
30 検出手段
40 信号処理手段
41 検出値修正部
42 検出信号関数形成部
43 距離算出部
45 解析信号生成部
50 補正用信号検出手段
T 測定対象
S 定在波
I 折返しイメージ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象までの距離を測定するための測定装置であって、
該測定装置が、
電磁波を、前記測定対象との間に存在する伝搬媒質に出力する発信手段と、
該発信手段から出力される電磁波と、該電磁波が前記測定対象で反射した反射波との合成波における信号強度を検出し、検出した前記合成波における信号強度に対応する信号レベルを有する検出信号を出力する検出手段と、
該検出手段が出力する検出信号に基づいて、前記検出手段と前記測定対象との間の距離を算出する信号処理手段とからなり、
前記発信手段は、出力する前記電磁波の周波数が可変であり、
前記信号処理手段は、
前記発信手段から出力される電磁波の周波数を変化させたときにおいて、前記検出信号の隣接する周波数間のレベル差に基づいて距離スペクトルを形成し、この距離スペクトルに基づいて前記検出手段と前記測定対象との間の距離を算出するものである
ことを特徴とする距離測定装置。
【請求項2】
前記発信手段が、出力された前記電磁波の周波数情報を前記信号処理手段に供給しており、
前記信号処理手段は、
前記発信手段から出力される電磁波の周波数を変化させたときにおいて、前期検出信号の隣接する周波数間のレベル差を算出する検出値修正部と、
該検出値修正部が算出した信号のレベル差と、前記発信手段から供給された前記電磁波の周波数情報に基づいて検出信号関数を形成する検出信号関数形成部と、
該検出信号関数形成部によって形成された検出信号関数をスペクトル解析して距離スペクトルを算出し、該距離スペクトルに基づいて前記検出手段と前記測定対象との間の距離を算出する距離算出部とを備えている
ことを特徴とする請求項1記載の距離測定装置。
【請求項3】
前記発信手段が、出力された前記電磁波の周波数情報を前記信号処理手段に供給しており、
前記信号処理手段は、
前記検出信号の隣接する周波数間のレベル差を、該信号のレベル差に対応した電圧として出力する検出値修正部と、
前記発信手段から供給される前記電磁波の周波数情報と、前記検出値修正部から供給される電圧に基づいて検出信号関数を形成する検出信号関数形成部と、
該検出信号関数形成部によって形成された検出信号関数をスペクトル解析して距離スペクトルを算出し、該距離スペクトルに基づいて前記検出手段と前記測定対象との間の距離を算出する距離算出部とを備えている
ことを特徴とする請求項1記載の距離測定装置。
【請求項4】
前記信号処理手段は、
前記検出信号の隣接する周波数間のレベル差を、該信号のレベル差に対応した電圧として出力する検出値修正部と、
前記検出値修正部から供給される前記電圧をバンドパスフィルタ回路に供給し、該バンドパスフィルタ回路の出力に基づいて距離スペクトルを得て、該距離スペクトルに基づいて前記検出手段と前記測定対象との間の距離を算出する距離算出部とを備えている
ことを特徴とする請求項1記載の距離測定装置。
【請求項5】
前記測定対象からの距離が、前記検出手段から前記測定対象までの距離と異なる位置に配設され、その位置における前記合成波の信号強度を検出し、検出した前記合成波の信号強度に対応した信号レベルを有する補正用信号を出力する補正用信号検出手段を備えており、
前記信号処理手段は、
前記発信手段から出力される電磁波の周波数を変化させたときにおいて、前記検出信号の隣接する周波数間のレベル差、および、前記補正用信号の隣接する周波数間のレベル差に基づいて、複素正弦波からなる解析信号関数を形成し、該解析信号関数をスペクトル解析して、距離スペクトルを算出するものである
ことを特徴とする請求項1記載の距離測定装置。
【請求項6】
測定対象までの距離を測定するための測定方法であって、
電磁波を前記測定対象との間に存在する伝搬媒質に出力し、
出力された電磁波と、この電磁波が測定対象で反射した反射波との合成波における信号強度を検出し、
検出された合成波における信号強度に基づいて、合成波における信号強度を検出した検出位置から測定対象まで距離を算出する測定方法であり、
出力される電磁波の周波数を変化させたときにおいて、検出位置において検出された信号の隣接する周波数間のレベル差に基づいて距離スペクトルを形成し、この距離スペクトルに基づいて検出位置から測定対象まで距離を算出する
ことを特徴とする距離測定方法。
【請求項7】
測定対象からの距離が、検出位置から測定対象までの距離と異なる補正用信号検出位置において合成波の信号強度を検出し、
出力される電磁波の周波数を変化させたときにおいて、検出位置において検出された信号の隣接する周波数間のレベル差、および、前記補正用信号検出位置において検出された補正用信号の隣接する周波数間のレベル差に基づいて、複素正弦波からなる解析信号関数を形成し、この解析信号関数をスペクトル解析して、距離スペクトルを算出する
ことを特徴とする請求項6記載の距離測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−127529(P2007−127529A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−320649(P2005−320649)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(300066494)株式会社パル技研 (3)
【Fターム(参考)】