説明

距離算出装置、及び制御方法

【課題】飛翔体が最接近した時の飛翔体までの距離を算出すること。
【解決手段】飛翔体Xに対して送信波を送信した場合に得られる反射波のドップラー信号の周波数の推移値と、飛翔体Xまでの距離に応じて推移する周波数の推定値とに基づいて、飛翔体Xが最接近した時の飛翔体Xまでの距離を算出する距離算出部164を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、距離算出装置、及び制御方法に関する。特に、本発明は、飛翔体が最接近した時の前記飛翔体までの距離を算出する距離算出装置、並びに当該距離算出装置を制御する制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飛翔体の飛翔速度や飛翔体と観測装置との最接近距離を計測する場合は、観測機から総速度カメラやビデオカメラ等を用いて、標的に向かって飛翔する飛翔体を標的と共に撮影してその映像を解析する方法や、あるいは標的にパルスレーダ装置を搭載し、パルスレーダ装置を搭載した標的に向かって飛翔する飛翔体と標的との距離を計測し計測した距離の時間経過に伴う変化から飛翔体の相対飛翔速度や飛翔体と標的との最接近距離を算出する方法が用いられている。高速度カメラやビデオカメラ等を用いる方法は、観測それ自体の困難さや得られた結果の解析に時間がかかり、またその精度が得難い等の問題がある。パルスレーダ装置を用いる方法は、電波の関係からデータの欠落等を生ずる場合がありその欠落した部分のデータの補正をする方法がなく、また飛翔体以外からの反射電波はノイズとなるが、そのノイズの除去が困難である等の問題がある。
【0003】
上記既知の技術は、光学的な方法は、天候に影響される観測等の困難さがありまた画像によるため測定結果の精度を得難い、またパルスレーダを用いる方法によってはデータの欠落や計測に伴うノイズの混入に対処することができないという問題がある。
【0004】
図8は、特許文献1に記載の技術のブロック構成の一例を示す。図8において、飛翔体Xは、飛行体に搭載した計測装置910に対して非常に高速で計測範囲では等速度、等方向運動をする飛翔体、例えばロケットの如き飛翔体で、計測装置910を搭載した飛行体を標的として飛翔する。飛翔体Xが計測装置910のパルスドップラーレーダ911から発信されている電波の発信範囲Aの範囲を通過すると、電波は、飛翔体Xで反射されて、その反射波はパルスドップラーレーダ911で受信され、パルスドップラーレーダ911は受信した反射波からドップラー信号を検出して、ドップラー信号をテレメータ912へ送出し、テレメータ912はドップラー信号を、アンテナ913を介して発信する。地上設備920の受信部922は、アンテナ921を介してドップラー信号を受信し、これをデータ記録部923に送出し、データ記録部923はドップラー信号をドップラー信号情報として一旦記録する。計測が終了した後、計測者は、操作部926を操作し信号処理部924からデータ記録部923に記録されたドップラー信号情報を読み出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3279985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、テレメータや受信部を備えている。しかしながら、飛翔体までの距離は、パルスドップラーレーダ、データ記録部、信号処理部、データ出力部のみで測定することができる。ところが、パルスドップラーレーダとデータ記録部、信号処理部、データ出力部を別構成としているため、その間のデータ伝送を行うテレメータ及び受信部が必要となっている。パルスドップラーレーダを搭載する飛行体は搭載スペース、供給電力等に限りがあり、また、使い捨てタイプの飛行体は低価格化の要求が強い。
【0007】
また、特許文献1に記載の技術は、飛行体側で近傍通過距離の推定結果がリアルタイムで分からない。既知の方式では推定結果は地上装置側のデータ出力部でしか得られない。データ出力部の出力結果を飛行体側に伝送すればよいのだが、そのための装置を更に追加するのは第1の課題にある通り、歓迎されない。また、地上装置側では人の操作でデータ記録部の開始・停止、高速飛翔体の通過・離脱があった時間帯を探し、信号処理部に各パラメータの入力を行う必要があり、リアルタイムに推定結果を得るのも困難である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の形態によると、飛翔体が最接近した時の飛翔体までの距離を算出する距離算出装置であって、飛翔体に対して送信波を送信した場合に得られる反射波のドップラー信号の周波数の推移値と、飛翔体までの距離に応じて推移する周波数の推定値とに基づいて、飛翔体が最接近した時の飛翔体までの距離を算出する距離算出部を備える。
【0009】
本発明の第2の形態によると、飛翔体が最接近した時の飛翔体までの距離を算出する距離算出装置を制御する制御方法であって、飛翔体に対して送信波を送信した場合に得られる反射波のドップラー信号の周波数の推移値と、飛翔体までの距離に応じて推移する周波数の推定値とに基づいて、飛翔体が最接近した時の飛翔体までの距離を算出する距離算出段階を備える。
【0010】
なおまた、上記のように発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となり得る。
【発明の効果】
【0011】
以上の説明から明らかなように、この発明は、飛翔体が最接近した時の飛翔体までの距離を自動的に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態に係る距離算出装置100のブロック構成の一例を示す図である。
【図2】式(1)の導出方法を説明するための図である。
【図3】送信部120の動作を説明するための図である。
【図4】受信部150の動作を説明するための図である。
【図5】受信部150の動作を説明するための図である。
【図6】演算部160の動作を説明するための図である。
【図7】演算部160の動作を説明するための図である。
【図8】特許文献1に記載の飛翔体計測評価装置のブロック構成の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は、特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
図1は、一実施形態に係る距離算出装置100のブロック構成の一例を示す。距離算出装置100は、高速飛翔体Xが最接近した時の高速飛翔体Xまでの距離を算出する装置である。なおまた、高速飛翔体Xは、この発明における「飛翔体」の一例であってよい。
【0015】
距離算出装置100は、発振回路110、送信部120、サーキュレータ130、アンテナ140、受信部150、及び演算部160を備える。
【0016】
発振回路110は、持続した交流を作る電気回路である。より具体的に説明すると、発振回路110は、送信部120の変調回路121、及び受信部150の復調回路152とそれぞれ電気的に接続されている。そして、発振回路110は、一定周波数を出力する。
【0017】
送信部120は、変調回路121、及び電力増幅回路122を備える。変調回路121は、搬送波の周波数を変化させる回路である。より具体的に説明すると、変調回路121は、発振回路110、及び電力増幅回路122とそれぞれ電気的に接続されている。そして、発振回路110は一定周波数を出力し、変調回路121にてパルス変調を施す。パルス変調された信号は電力増幅回路122で所望の電力まで増幅され、送信波としてサーキュレータ130、アンテナ140を介して外部に放射される。
【0018】
受信部150は電力増幅回路151、復調回路152からなる。高速飛翔体Xに反射した送信波は、距離算出装置100と高速飛翔体Xの相対速度、相対距離に応じたドップラーシフトを伴い、アンテナ140、サーキュレータ130を介して電力増幅回路151に入力される。入力された反射波を電力増幅回路151にて所望の電力まで増幅し、復調回路152にて反射波と発振回路110からの一定周波数とを直交復調し、ドップラー成分を抽出し、復調信号I、復調信号Qに分け出力する。復調信号I、復調信号Qをそれぞれ帯域フィルタで帯域制限し、演算部160に出力する。
【0019】
演算部160では入力されたドップラー信号をサンプリングし、高速飛翔体Xからの反射の有無を判断する。反射がありと判断した後、取得した高速飛翔体Xの接近、離脱時に発生したドップラー信号にFFTをかけ周波数推移情報を取得する。取得した周波数推移情報を用いて式(1)の残差の二乗和を計算し、残差の二乗和が最小になる係数を見つけ、近傍通過距離を推定する。
【0020】
【数1】

【0021】
図2は、式(1)の導出方法を説明するための図である。本願発明では、演算機能及び反射の有無判断機能を自身で保有しているので、高速飛翔体Xが近傍通過後即座に自動で近傍通過距離を出力することができる。
【0022】
図3は、送信部120の動作を説明するための図である。発振回路110から一定の周波数信号が出力され、変調回路121にて変調信号とミキシングし、パルス状の変調を施す。この信号を電力増幅回路122にて増幅し、出力する。
【0023】
図4、及び図5は、受信部150の動作を説明するための図である。電力増幅回路151に入力された反射波を増幅し、発振回路110の一定の周波数信号とミキシングし、復調信号I、復調信号Qを出力する。
【0024】
図5は図4の時間スケールを広げた図である。反射波にはドップラー成分が含まれているため、発振回路110と電力増幅回路151の出力をミキシングすると復調信号I、復調信号Qにはドップラー成分のみが抽出される。この復調信号に帯域フィルタをかけ、帯域制限することで円滑なドップラー波形とし、演算部160に出力する。
【0025】
図6、及び図7は、演算部160の動作を説明するための図である。図6は、図5の時間スケールを更に広げた図である。高速飛翔体Xが距離算出装置100に接近するにつれて、復調回路152の出力の復調信号I及び復調信号Qの電圧レベルは高くなる。一方離脱するにつれて電圧レベルは低くなる。また、ドップラー周波数は接近するにつれ、周波数が低くなり、離脱するにつれ、周波数が高くなる。
【0026】
反射有無判定部162は、図6における式(2)の演算及びその結果と適宜に決めたしきい値との比較を行う回路である。
【0027】
【数2】

【0028】
式(2)は受信電力であることが一般的に知られており、この受信電力を反射なし状態と反射あり状態とで比較することで反射があるかどうかを判断することができる。これはIQ検波方式を取ることで可能となった機能である。
【0029】
図7は図1における残差の二乗和計算・近傍通過距離推定14の概念図である。丸くポイントしている点が図1におけるFFT13で得た周波数情報であり、曲線が残差の二乗和を最小になるよう式1のv,T,Rの3係数の最適値を導いた結果から引くことができる周波数情報の推定変化である。
【0030】
つまり、式1のv,T,Rの3係数を少しずつずらしながら曲線を描き、その際の残差の二乗和を記録する。この処理を何度も行い、最も残差の二乗和が小さくなったときのv,T,Rが最適値となり、最適値となったRがすなわち、近傍通過距離の推定値である。
【0031】
以上説明したように、本発明においては、式(2)の値を利用することで確実かつ容易に反射波の有無が自動で判定できる方式を採用したため、自動測距が可能となった。
【0032】
本発明は上記の構成そのままで、高速飛翔体Xの相対速度も測定することができる。また、図1における発振回路110を複数周波数持ち、それを切り替える仕組みを付加することで複数の高速飛翔体Xとの近傍通過距離を同時に測定することも可能である。
【0033】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は、上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0034】
100 距離算出装置
110 発振回路
120 送信部
121 変調回路
122 電力増幅回路
130 サーキュレータ
140 アンテナ
150 受信部
151 電力増幅回路
152 復調回路
160 演算部
161 サンプリング部
162 反射有無判定部
163 FFT部
164 近接通過距離算出部
X 高速飛翔体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛翔体が最接近した時の前記飛翔体までの距離を算出する距離算出装置であって、
前記飛翔体に対して送信波を送信した場合に得られる反射波のドップラー信号の周波数の推移値と、前記飛翔体までの距離に応じて推移する周波数の推定値とに基づいて、前記飛翔体が最接近した時の前記飛翔体までの距離を算出する距離算出部
を備える距離算出装置。
【請求項2】
前記飛翔体に対して送信波を送信した場合に得られる反射波のドップラー信号にFFTをかけて当該ドップラー信号の周波数の推移値を算出するFFT部
を更に備え、
前記距離算出部は、前記FFT部が算出したドップラー信号の周波数の推移値と、前記飛翔体までの距離に応じて推移する周波数の推定値とに基づいて、前記飛翔体が最接近した時の前記飛翔体までの距離を算出する
請求項1に記載の距離算出装置。
【請求項3】
前記飛翔体に対して送信した送信波の反射波の有無を判定する反射有無判定部
を更に備え、
前記FFT部は、前記飛翔体に対して送信した送信波の反射波があると前記反射有無判定部が判定した場合に、当該反射波のドップラー信号にFFTをかけて当該ドップラー信号の周波数の推移値を算出する
請求項2に記載の距離算出装置。
【請求項4】
入力されたドップラー信号をサンプリングするサンプリング部
を更に備え、
前記反射有無判定部は、前記サンプリング部がサンプリングした信号に基づいて、前記飛翔体に対して送信した送信波の反射波の有無を判定する
請求項3に記載の距離算出装置。
【請求項5】
入力された信号と、所定の周波数の信号とを直交復調して、ドップラー信号を抽出する復調回路
を更に備え、
前記サンプリング部は、前記復調回路が抽出したドップラー信号をサンプリングする
請求項4に記載の距離算出装置。
【請求項6】
入力された信号の電力を増幅する電力増幅回路
を更に備え、
前記復調回路は、前記電力増幅回路が電力を増幅した信号と、所定の周波数の信号とを直交復調して、ドップラー信号を抽出する
請求項5に記載の距離算出装置。
【請求項7】
飛翔体が最接近した時の前記飛翔体までの距離を算出する距離算出装置を制御する制御方法であって、
前記飛翔体に対して送信波を送信した場合に得られる反射波のドップラー信号の周波数の推移値と、前記飛翔体までの距離に応じて推移する周波数の推定値とに基づいて、前記飛翔体が最接近した時の前記飛翔体までの距離を算出する距離算出段階
を備える制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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