説明

距離計測システム及び距離計測方法

【課題】複数地点に存在するレーダで同一のターゲット(目標物体)を追跡する場合に、受信障害が発生しない距離計測システムを提供する。
【解決手段】レーダ制御手段(たとえば、測距装置30)により、測位衛星51,52,53,54から発射された測位信号w13,w23,w33,w43が受信され、同測位信号に含まれる時刻情報に基づいて、設定された遅延時間の経過後に放射タイミングtw3 がレーダアンテナ21に与えられる。測距装置40により測位信号w14,w24,w34,w44が受信され、同測位信号に含まれる時刻情報に基づいて、測距装置30と異なる値に設定された遅延時間の経過後に放射タイミングtw4 がレーダアンテナ22に与えられる。そして、レーダアンテナ21,22により、放射電波wa,wmが、放射タイミングtw3 ,tw4 に同期して放射されると共に、物体Pからの反射電波wb,wnが受信される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、距離計測システム及び距離計測方法に係り、特に、複数地点に存在するレーダアンテナで同一のターゲット(目標物体)を追跡するマルチサイトレンジングシステムとして用いて好適な距離計測システム及び距離計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数地点に存在するレーダアンテナで同一のターゲット(たとえば、飛行物体など)を追跡する距離計測システムでは、同各レーダアンテナの制御装置の放射電波の送信タイミングが非同期であると、ターゲットで反射した反射電波が重複することによって受信障害が発生することがある。このため、各制御装置間で同期信号を伝送するための専用設備(たとえば、無線回線やケーブル回線)を設けることにより、上記受信障害が回避されるようになっている。
【0003】
この種の距離計測システムは、たとえば図4に示すように、レーダ及び測距装置1,2,3,4から構成されている。レーダ及び測距装置1,2,3,4は、測位信号受信アンテナ1a,2a,3a,4a及び動作の基準クロックを生成する原振1b,2b,3b,4bを有し、また、同期信号sa,sb,scを伝送するようになっている。測位衛星11から発射された測位信号w11,w12,w13,w14は、それぞれ測位信号受信アンテナ1a,2a,3a,4aで受信される。測位衛星12から発射された測位信号w21,w22,w23,w24は、それぞれ測位信号受信アンテナ1a,2a,3a,4aで受信される。測位衛星13から発射された測位信号w31,w32,w33,w34は、それぞれ測位信号受信アンテナ1a,2a,3a,4aで受信される。測位衛星14から発射された測位信号w41,w42,w43,w44は、それぞれ測位信号受信アンテナ1a,2a,3a,4aで受信される。
【0004】
レーダ及び測距装置1,2,3,4では、測位信号受信アンテナ1a,2a,3a,4aで受信された各測位信号に基づいて、同各レーダ及び測距装置1,2,3,4の各位置情報が算出される。また、レーダ及び測距装置1,2,3,4では、図示しない各レーダアンテナから放射電波が放射されると共に、検出対象となる物体からの反射電波が同各レーダアンテナで受信されて同物体までの距離及び基準方位に対する方位が測定され、この測定結果及び上記各位置情報に基づいて同物体が追跡される。
【0005】
上記の距離計測システムの他、この種の関連する技術としては、たとえば、特許文献1に記載された空域監視システムがある。
この空域監視システムでは、2つのレーダアンテナにより、覆域の重複部分に存在する同一目標が同期をとって個別に測位され、その目標の測位結果が距離情報及び方位情報として出力される。交会法処理部により、これらの2つのレーダアンテナのそれぞれの設置位置を中心とし、2つのレーダアンテナからそれぞれ出力された目標の距離情報が示す距離を半径とする2つの円の2つの交点が求められる。判定部により、2つの交点の位置のうち2つのレーダアンテナの測位結果に近い方が目標の位置情報と判定され、追尾処理部により、この目標の位置情報を用いて追尾処理が行われる。これにより、目標の測位時間を短くしても、方位方向の測位誤差変動の影響を受けず、追尾精度が向上する。
【0006】
また、特許文献2に記載された移動通信システムの基地局間フレーム同期方式では、システムの運用開始後に、コントロールセンタでGPS(Global Positioning System 、汎世界測位システム)の基準時刻とディジタル網から到来するISDN(Integrated Services Digital Network 、総合ディジタル通信網)クロックのタイミングとの位相差が測定されて各主基地局に通知される。また、同各主基地局において、自局が生成しているフレームタイミングとGPSの基準時刻を基に発生した基準タイミングとの位相差が測定され、この自局の位相差がコントロールセンタから通知された基準位相差と比較されてその差が検出される。そして、この位相差の差が第1の閾値と比較され、同第1の閾値以内であれば、現時点のフレームタイミングが維持される一方、第1の閾値を越えた場合には、フレームタイミングの補正が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−267746号公報
【特許文献2】特開平09−093186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記技術では、次のような問題点があった。
すなわち、図4の距離計測システムでは、レーダ及び測距装置1,2,3,4で同期信号sa,sb,scを伝送するための専用設備(無線回線やケーブル回線)を必要とするが、この専用設備は、レーダ及び測距装置1,2,3,4の相互の距離が、たとえば数百km〜数千kmに及ぶ場合、規模が非常に大きくなり、実現不可能なことが多いという問題点がある。
【0009】
また、特許文献1に記載された空域監視システムでは、2つのレーダアンテナにより、覆域の重複部分に存在する同一目標が同期をとって個別に測位されることを前提とし、同期をとる技術に関するものではないので、この発明とは構成が異なる。
【0010】
特許文献2に記載された基地局間フレーム同期方式は、データ転送のためのフレームタイミングを制御されるものであり、この発明による測距のタイミング制御とは異なり、上記の問題点は、改善されない。
【0011】
この発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、複数地点に存在するレーダアンテナで同一のターゲット(目標物体)を追跡する場合に、受信障害が発生しない距離計測システム及び距離計測方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、この発明の第1の構成は、距離計測システムに係り、複数地点に存在し、指向性のある放射電波を、与えられた各放射タイミングに同期して放射すると共に、検出対象となる物体からの反射電波を受信する複数のレーダアンテナと、前記各レーダアンテナ毎に設けられ、所定数の測位衛星から発射された測位信号に基づいて、それぞれ固有の値に設定された遅延時間の経過後に前記各放射タイミングを前記各レーダアンテナにそれぞれ与える複数のレーダ制御手段とから構成されていることを特徴としている。
【0013】
この発明の第2の構成は、距離計測方法に係り、距離計測システムを、複数地点に存在する複数のレーダアンテナと、前記各レーダアンテナ毎に設けられている複数のレーダ制御手段とから構成しておき、前記各レーダ制御手段が、所定数の測位衛星から発射された測位信号に含まれる時刻情報に基づいて、それぞれ固有の値に設定された遅延時間の経過後に各放射タイミングを前記各レーダアンテナにそれぞれ与え、前記各レーダアンテナが、指向性のある放射電波を、与えられた前記各放射タイミングに同期して放射すると共に、検出対象となる物体からの反射電波を受信することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
この発明の構成によれば、複数のレーダ制御手段間で同期信号を伝送するための専用設備を設けることなく、検出対象となる物体で反射した各反射電波の重複が回避され、受信障害を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の第1の実施形態である距離計測システムの要部の電気的構成及び同距離計測システムが運用される環境を示す図である。
【図2】図1中のレーダアンテナ21の動作原理を説明する図である。
【図3】この発明の第2の実施形態である距離計測システムの要部の電気的構成及び同距離計測システムが運用される環境を示す図である。
【図4】関連する距離計測システムの要部の電気的構成及び同距離計測システムが運用される環境を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記各レーダ制御手段は、上記各測位衛星から発射された上記各測位信号を受信し、上記各測位信号に含まれる時刻情報を基準として、それぞれ固有の値に設定された遅延時間の経過後に上記各放射タイミングを上記各レーダアンテナにそれぞれ与える構成とされている距離計測システムを提供する。
【0017】
上記各レーダ制御手段は、受信された上記測位信号に基づいて上記時刻情報を発生する時刻発生手段と、該時刻発生手段から発生した上記時刻情報に基づいて、上記放射タイミングの基準とするための基準タイミング信号を発生する基準タイミング発生手段と、該基準タイミング発生手段から発生した上記基準タイミング信号に基づいて送信タイミングを発生する送信タイミング発生手段と、該送信タイミング発生手段から発生した送信タイミングを当該レーダ制御手段に固有の値に設定された遅延時間だけ遅延させて遅延送信タイミングを発生する遅延手段と、該当する上記レーダアンテナに、上記遅延手段から発生した上記遅延送信タイミングに基づいて上記放射タイミングを送出すると共に、上記レーダアンテナで受信された上記反射電波に対応した受信信号を受信する送受信手段とを備えている。
【0018】
上記各レーダ制御手段のうちの1つのレーダ制御手段は、上記各測位衛星から発射された上記各測位信号を受信し、上記各測位信号に含まれる時刻情報を基準として、設定された遅延時間の経過後に上記放射タイミングを該当する上記レーダアンテナに与える構成とされ、他のレーダ制御手段は、当該レーダ制御手段に固有の値に設定された遅延時間の経過後に上記放射タイミングを該当する上記レーダアンテナに与える構成とされている。
【0019】
上記1つのレーダ制御手段は、受信された上記測位信号に基づいて上記時刻情報を発生する時刻発生手段と、該時刻発生手段から発生した上記時刻情報に基づいて上記放射タイミングの基準とするための基準タイミング信号を発生する基準タイミング発生手段と、該基準タイミング発生手段から発生した上記基準タイミング信号に基づいて送信タイミングを発生する送信タイミング発生手段と、該送信タイミング発生手段から発生した送信タイミングを当該レーダ制御手段に固有の値に設定された遅延時間だけ遅延させて遅延送信タイミングを発生する第1の遅延手段と、該当する上記レーダアンテナに、上記第1の遅延手段から発生した上記遅延送信タイミングに基づいて上記放射タイミングを送出すると共に、上記レーダアンテナで受信された上記反射電波に対応した受信信号を受信する第1の送受信機と、上記送信タイミング発生手段から発生した上記送信タイミングを所定のネットワークへ送出するネットワーク送信手段とを備えている。また、上記他のレーダ制御手段は、上記ネットワークを経て送出された上記送信タイミングを当該レーダ制御手段に固有の値に設定された遅延時間だけ遅延させて遅延送信タイミングを発生する第2の遅延手段と、該当する上記レーダアンテナに、上記第2の遅延手段から発生した上記遅延送信タイミングに基づいて上記放射タイミングを送出すると共に、上記レーダアンテナで受信された上記反射電波に対応した受信信号を受信する第2の送受信手段とを備えている。
【実施形態1】
【0020】
図1は、この発明の第1の実施形態である距離計測システムの要部の電気的構成及び同距離計測システムが運用される環境を示す図である。
この形態の距離計測システムは、同図に示すように、レーダアンテナ21,22と、測距装置30,40とから構成されている。レーダアンテナ21,22は複数地点に存在し、同レーダアンテナ21は、指向性のある放射電波waを、与えられた放射タイミングtw3 に同期して放射すると共に、検出対象となるターゲットP(1つの物体)からの反射電波wbを受信する。同様に、レーダアンテナ22は、指向性のある放射電波wmを、与えられた放射タイミングtw4 に同期して放射すると共に、ターゲットPからの反射電波wnを受信する。
【0021】
測距装置30,40は、各レーダアンテナ21,22毎に設けられる運用設備であり、同測距装置30は、測位衛星51,52,53,54から発射された測位信号w13,w23,w33,w43を受信し、これらの測位信号w13,w23,w33,w43に含まれる時刻情報に基づいて、あらかじめ設定された遅延時間の経過後に上記放射タイミングtw3 をレーダアンテナ21に与える。測位衛星51,52,53,54は、たとえば、GPS(Global Positioning System 、汎世界測位システム)衛星である。同様に、測距装置40は、測位衛星51,52,53,54から発射された測位信号w14,w24,w34,w44を受信し、これらの測位信号w14,w24,w34,w44に含まれる時刻情報に基づいて、測距装置30と異なる固有の値に設定された遅延時間の経過後に上記放射タイミングtw4 をレーダアンテナ22に与える。
【0022】
特に、この実施形態では、測距装置30は、測位信号受信アンテナ31と、時刻発生器32と、基準タイミング発生器33と、送信タイミング発生器34と、遅延回路35と、送受信機36とから構成されている。測位信号受信アンテナ31は、測位信号w13,w23,w33,w43を受信して測位信号pa3 を出力する。時刻発生器32は、測位信号受信アンテナ31から出力される測位信号pa3 に基づいて時刻情報ta3 を発生する。基準タイミング発生器33は、時刻発生器32から発生した時刻情報ta3 に基づいて、放射タイミングtw3 の基準とするための基準タイミング信号tb3 を発生する。送信タイミング発生器34は、基準タイミング発生器33から発生した基準タイミング信号tb3 に基づいて送信タイミングtc3 を発生する。遅延回路35は、送信タイミング発生器34から発生した送信タイミングtc3 を測距装置30に固有の値に設定された遅延時間だけ遅延させて遅延送信タイミングtd3 を発生する。送受信機36は、レーダアンテナ21に、遅延回路35から発生した遅延送信タイミングtd3 に基づいて放射タイミングtw3 を送出すると共に、同レーダアンテナ21で受信された反射電波wbに対応した受信信号rw3 を受信する。
【0023】
測距装置40は、測距装置30と同様に、測位信号受信アンテナ41と、時刻発生器42と、基準タイミング発生器43と、送信タイミング発生器44と、遅延回路45と、送受信機46とから構成されている。測位信号受信アンテナ41は、測位信号w14,w24,w34,w44を受信して測位信号pa4 を出力する。時刻発生器42は、測位信号受信アンテナ41から出力される測位信号pa4 に基づいて時刻情報ta4 を発生する。基準タイミング発生器43は、時刻発生器42から発生した時刻情報ta4 に基づいて、放射タイミングtw4 の基準とするための基準タイミング信号tb4 を発生する。送信タイミング発生器44は、基準タイミング発生器43から発生した基準タイミング信号tb4 に基づいて送信タイミングtc4 を発生する。遅延回路45は、送信タイミング発生器44から発生した送信タイミングtc4 を測距装置30と異なる測距装置40に固有の値に設定された遅延時間だけ遅延させて遅延送信タイミングtd4 を発生する。送受信機46は、レーダアンテナ21に、遅延回路45から発生した遅延送信タイミングtd4 に基づいて放射タイミングtw4 を送出すると共に、同レーダアンテナ21で受信された反射電波wnに対応した受信信号rw4 を受信する。
【0024】
図2は、図1中のレーダアンテナ21の動作原理を説明する図である。
このレーダアンテナ21では、同図2に示すように、指向性の強い放射電波waが放射され、検出対象の物体P(ターゲット)からの反射電波wbが同レーダアンテナ21で受信され、受信信号rw3 が出力される。送受信機36では、放射タイミングtw3 及び受信信号rw3 に基づいて、放射電波wa及び反射電波wbの往復時間が求められ、また、レーダアンテナ21の向きに基づいて、物体Pの基準方位に対する方位が求められる。この場合、レーダアンテナ21から物体Pまでの距離Rは、次式で表される。
R=ct/2[m]
ただし、
c;電波の速度(3×108[m/s])
t;放射電波waのパルスの発射時刻と反射電波wbの到着時刻との時間差
また、レーダアンテナ22でも、同様の動作が行われる。
【0025】
次に、この形態の距離計測システムに用いられる距離計測方法の処理内容について説明する。
この距離計測システムでは、測距装置30により、測位衛星51,52,53,54から発射された測位信号w13,w23,w33,w43が受信され、同測位信号w13,w23,w33,w43に含まれる時刻情報に基づいて、あらかじめ設定された遅延時間の経過後に放射タイミングtw3 がレーダアンテナ21に与えられる。また、測距装置40により、測位衛星51,52,53,54から発射された測位信号w14,w24,w34,w44が受信され、同測位信号w14,w24,w34,w44に含まれる時刻情報に基づいて、測距装置30と異なる固有の値に設定された遅延時間の経過後に放射タイミングtw4 がレーダアンテナ22に与えられる。そして、レーダアンテナ21,22により、指向性のある放射電波wa,wmが、与えられた各放射タイミングtw3 ,tw4 に同期して放射されると共に、物体Pからの反射電波wb,wnが受信される。
【0026】
すなわち、測距装置30では、測位信号w13,w23,w33,w43が測位信号受信アンテナ31で受信され、同測位信号受信アンテナ31から測位信号pa3 が出力される。測位信号受信アンテナ31から出力される測位信号pa3 に基づいて、時刻発生器32から時刻情報ta3 が発生する(時刻発生処理)。時刻発生器32から発生した時刻情報ta3 に基づいて、基準タイミング発生器33から基準タイミング信号tb3 が発生する(基準タイミング発生処理)。基準タイミング発生器33から発生した基準タイミング信号tb3 に基づいて、送信タイミング発生器34から送信タイミングtc3 が発生する(送信タイミング発生処理)。送信タイミング発生器34から発生した送信タイミングtc3 は、遅延回路35に設定された遅延時間だけ遅延され、同遅延回路35から遅延送信タイミングtd3 が発生する(遅延処理)。遅延回路35から発生した遅延送信タイミングtd3 に基づいて、送受信機36からレーダアンテナ21に放射タイミングtw3 が送出される(送受信処理)。また、レーダアンテナ21で受信された反射電波wbに対応した受信信号rw3 が送受信機36で受信される。
【0027】
また、測距装置40では、測位信号w14,w24,w34,w44が測位信号受信アンテナ41で受信され、同測位信号受信アンテナ41から測位信号pa4 が出力される。
測位信号受信アンテナ41から出力される測位信号pa4 に基づいて、時刻発生器42から時刻情報ta4 が発生する(時刻発生処理)。時刻発生器42から発生した時刻情報ta4 に基づいて、基準タイミング発生器43から基準タイミング信号tb4 が発生する(基準タイミング発生処理)。基準タイミング発生器43から発生した基準タイミング信号tb4 に基づいて、送信タイミング発生器44から送信タイミングtc4 が発生する(送信タイミング発生処理)。送信タイミング発生器44から発生した送信タイミングtc4 は、遅延回路45に設定された遅延時間だけ遅延され、同遅延回路45から遅延送信タイミングtd4 が発生する(遅延処理)。遅延回路45から発生した遅延送信タイミングtd4 に基づいて、送受信機46からレーダアンテナ21に放射タイミングtw4 が送出される(送受信処理)。またレーダアンテナ21で受信された反射電波wnに対応した受信信号rw4 が送受信機46で受信される。
【0028】
以上のように、この第1の実施形態では、測距装置30により、測位信号w13,w23,w33,w43に含まれる時刻情報に基づいて、設定された遅延時間の経過後に放射タイミングtw3 がレーダアンテナ21に与えられる一方、測距装置40により、測位信号w14,w24,w34,w44に含まれる時刻情報に基づいて、測距装置30と異なる固有の値に設定された遅延時間の経過後に放射タイミングtw4 がレーダアンテナ22に与えられるので、測距装置30,40間で同期信号を伝送するための専用設備(無線回線やケーブル回線)を設けることなく、ターゲットPで反射した反射電波wbと反射電波wnとの重複が回避され、受信障害が防止される。
【実施形態2】
【0029】
図3は、この発明の第2の実施形態である距離計測システムの要部の電気的構成及び同距離計測システムが運用される環境を示す図である。
この形態の距離計測システムでは、同図3に示すように、図1中の測距装置30,40に代えて、異なる構成の測距装置30A,40Aが設けられている。測距装置30Aでは、測距装置30の構成に加え、ネットワーク送信機37が付加されている。ネットワーク送信機37は、送信タイミング発生器34から発生した送信タイミングtc3 を所定のリファレンス周波数refのクロックckに同期させて、たとえばLAN(Local Area Network)/WAN(Wide Area Network )などの既設の地上データネットワークであるネットワークNWへ送出する。測距装置40Aでは、測距装置40の構成から、測位信号受信アンテナ41、時刻発生器42、基準タイミング発生器43及び送信タイミング発生器44が削除されている。遅延回路45は、ネットワーク送信機37からネットワークNWを経て送出された送信タイミングtc3 を送信タイミングtc4 として入力する。
【0030】
この形態の距離計測システムに用いられる距離計測方法では、測距装置30Aで、測距装置30の動作に加え、送信タイミング発生器34から発生した送信タイミングtc3 が、ネットワーク送信機37からクロックckに同期してネットワークNWへ送出される(ネットワーク送信処理)。測距装置40Aで、送信タイミングtc4 が遅延回路45に入力された後、測距装置40と同様の動作が行われる(第2の遅延処理、第2の送受信処理)。
【0031】
以上のように、この第2の実施形態では、送信タイミングtc3 がネットワーク送信機37からネットワークNWを経て測距装置40Aの遅延回路45に入力されるので、第1の実施形態の利点に加え、測距装置40Aの構成が簡略化される。特に、測距装置40Aが多数設けられている場合には有効である。
【0032】
以上、この発明の実施形態を図面により詳述してきたが、具体的な構成は同実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更などがあっても、この発明に含まれる。
たとえば、レーダアンテナ21,22は、それぞれ測距装置30,40に電気的に接続されていれば良く、一体化されていなくても良い。また、測距装置30,40は、固定的な運用設備を想定しているが、たとえば自動車や船舶など、移動可能なものに内蔵されていても良い。また、測位衛星51,52,53,54は、GPS衛星に限定されず、たとえば、ヨーロッパで計画されている「Galileo」や、日本で計画されている「準天頂衛星」が実用化されたとき、これらを用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0033】
この発明は、レーダシステムや人工衛星レンジングシステムなど、複数地点に存在するレーダで同一のターゲット(目標物体)を追跡するマルチサイトレンジングシステムとして用いて有効である。
【符号の説明】
【0034】
21,22 レーダアンテナ
30,40,30A,40A 測距装置(レーダ制御手段)
51,52,53,54 測位衛星
31,41 測位信号受信アンテナ(レーダ制御手段の一部)
32,42 時刻発生器(レーダ制御手段の一部、時刻発生手段)
33,43 基準タイミング発生器(レーダ制御手段の一部、基準タイミング発生手段)
34,44 送信タイミング発生器(レーダ制御手段の一部、送信タイミング発生手段)
35,45 遅延回路(レーダ制御手段の一部、遅延手段)
36,46 送受信機(レーダ制御手段の一部、送受信手段)
37 ネットワーク送信機(レーダ制御手段の一部、ネットワーク送信手段)
NW ネットワーク
P ターゲット(物体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数地点に存在し、指向性のある放射電波を、与えられた各放射タイミングに同期して放射すると共に、検出対象となる物体からの反射電波を受信する複数のレーダアンテナと、
前記各レーダアンテナ毎に設けられ、所定数の測位衛星から発射された測位信号に基づいて、それぞれ固有の値に設定された遅延時間の経過後に前記各放射タイミングを前記各レーダアンテナにそれぞれ与える複数のレーダ制御手段とから構成されていることを特徴とする距離計測システム。
【請求項2】
前記各レーダ制御手段は、
前記各測位衛星から発射された前記各測位信号を受信し、前記各測位信号に含まれる時刻情報を基準として、それぞれ固有の値に設定された遅延時間の経過後に前記各放射タイミングを前記各レーダアンテナにそれぞれ与える構成とされていることを特徴とする請求項1記載の距離計測システム。
【請求項3】
前記各レーダ制御手段は、
受信された前記測位信号に基づいて前記時刻情報を発生する時刻発生手段と、
該時刻発生手段から発生した前記時刻情報に基づいて、前記放射タイミングの基準とするための基準タイミング信号を発生する基準タイミング発生手段と、
該基準タイミング発生手段から発生した前記基準タイミング信号に基づいて送信タイミングを発生する送信タイミング発生手段と、
該送信タイミング発生手段から発生した送信タイミングを当該レーダ制御手段に固有の値に設定された遅延時間だけ遅延させて遅延送信タイミングを発生する遅延手段と、
該当する前記レーダアンテナに、前記遅延手段から発生した前記遅延送信タイミングに基づいて前記放射タイミングを送出すると共に、前記レーダアンテナで受信された前記反射電波に対応した受信信号を受信する送受信手段とを備えてなることを特徴とする請求項1又は2記載の距離計測システム。
【請求項4】
前記各レーダ制御手段のうちの1つのレーダ制御手段は、
前記各測位衛星から発射された前記各測位信号を受信し、前記各測位信号に含まれる時刻情報を基準として、設定された遅延時間の経過後に前記放射タイミングを該当する前記レーダアンテナに与える構成とされ、
他のレーダ制御手段は、
当該レーダ制御手段に固有の値に設定された遅延時間の経過後に前記放射タイミングを該当する前記レーダアンテナに与える構成とされていることを特徴とする請求項1記載の距離計測システム。
【請求項5】
前記1つのレーダ制御手段は、
受信された前記測位信号に基づいて前記時刻情報を発生する時刻発生手段と、
該時刻発生手段から発生した前記時刻情報に基づいて前記放射タイミングの基準とするための基準タイミング信号を発生する基準タイミング発生手段と、
該基準タイミング発生手段から発生した前記基準タイミング信号に基づいて送信タイミングを発生する送信タイミング発生手段と、
該送信タイミング発生手段から発生した送信タイミングを当該レーダ制御手段に固有の値に設定された遅延時間だけ遅延させて遅延送信タイミングを発生する第1の遅延手段と、
該当する前記レーダアンテナに、前記第1の遅延手段から発生した前記遅延送信タイミングに基づいて前記放射タイミングを送出すると共に、前記レーダアンテナで受信された前記反射電波に対応した受信信号を受信する第1の送受信機と、
前記送信タイミング発生手段から発生した前記送信タイミングを所定のネットワークへ送出するネットワーク送信手段とを備え、
前記他のレーダ制御手段は、
前記ネットワークを経て送出された前記送信タイミングを当該レーダ制御手段に固有の値に設定された遅延時間だけ遅延させて遅延送信タイミングを発生する第2の遅延手段と、
該当する前記レーダアンテナに、前記第2の遅延手段から発生した前記遅延送信タイミングに基づいて前記放射タイミングを送出すると共に、前記レーダアンテナで受信された前記反射電波に対応した受信信号を受信する第2の送受信手段とを備えてなることを特徴とする請求項4記載の距離計測システム。
【請求項6】
距離計測システムを、複数地点に存在する複数のレーダアンテナと、前記各レーダアンテナ毎に設けられている複数のレーダ制御手段とから構成しておき、
前記各レーダ制御手段が、所定数の測位衛星から発射された測位信号に含まれる時刻情報に基づいて、それぞれ固有の値に設定された遅延時間の経過後に各放射タイミングを前記各レーダアンテナにそれぞれ与え、
前記各レーダアンテナが、指向性のある放射電波を、与えられた前記各放射タイミングに同期して放射すると共に、検出対象となる物体からの反射電波を受信することを特徴とする距離計測方法。
【請求項7】
前記各レーダ制御手段が、前記各測位衛星から発射された前記各測位信号を受信し、前記各測位信号に含まれる時刻情報を基準として、それぞれ固有の値に設定された遅延時間の経過後に前記各放射タイミングを前記各レーダアンテナにそれぞれ与えることを特徴とする請求項6記載の距離計測方法。
【請求項8】
前記各レーダ制御手段を、時刻発生手段と、基準タイミング発生手段と、送信タイミング発生手段と、遅延手段と、送受信機とから構成しておき、
前記時刻発生手段が、受信された前記測位信号に基づいて前記時刻情報を発生する時刻発生処理と、
前記基準タイミング発生手段が、該時刻発生処理で発生した前記時刻情報に基づいて、前記放射タイミングの基準とするための基準タイミング信号を発生する基準タイミング発生処理と、
前記送信タイミング発生手段が、該基準タイミング発生処理で発生した前記基準タイミング信号に基づいて送信タイミングを発生する送信タイミング発生処理と、
前記遅延手段が、該送信タイミング発生処理で発生した送信タイミングを当該レーダ制御手段に固有の値に設定された遅延時間だけ遅延させて遅延送信タイミングを発生する遅延処理と、
前記送受信機が、該当する前記レーダアンテナに、前記遅延処理で発生した前記遅延送信タイミングに基づいて前記放射タイミングを送出すると共に、前記レーダアンテナで受信された前記反射電波に対応した受信信号を受信する送受信処理とを行うことを特徴とする請求項6又は7記載の距離計測方法。
【請求項9】
前記各レーダ制御手段のうちの1つのレーダ制御手段が、前記各測位衛星から発射された前記各測位信号を受信し、前記各測位信号に含まれる時刻情報を基準として、設定された遅延時間の経過後に前記放射タイミングを該当する前記レーダアンテナに与える一方、
他のレーダ制御手段が、当該レーダ制御手段に固有の値に設定された遅延時間の経過後に前記各放射タイミングを該当する前記各レーダアンテナにそれぞれ与えることを特徴とする請求項6記載の距離計測方法。
【請求項10】
前記1つのレーダ制御手段を、時刻発生手段と、基準タイミング発生手段と、送信タイミング発生手段と、第1の遅延手段と、第1の送受信機と、ネットワーク送信手段とから構成しておき、
前記時刻発生手段が、受信された前記測位信号に基づいて前記時刻情報を発生する時刻発生処理と、
前記基準タイミング発生手段が、該時刻発生処理で発生した前記時刻情報に基づいて前記放射タイミングの基準とするための基準タイミング信号を発生する基準タイミング発生処理と、
前記送信タイミング発生手段が、該基準タイミング発生処理で発生した前記基準タイミング信号に基づいて送信タイミングを発生する送信タイミング発生処理と、
前記第1の遅延手段が、該送信タイミング発生処理で発生した送信タイミングを当該レーダ制御手段に固有の値に設定された遅延時間だけ遅延させて遅延送信タイミングを発生する第1の遅延処理と、
前記第1の送受信機が、該当する前記レーダアンテナに、前記第1の遅延処理で発生した前記遅延送信タイミングに基づいて前記放射タイミングを送出すると共に、前記レーダアンテナで受信された前記反射電波に対応した受信信号を受信する第1の送受信処理と、
前記ネットワーク送信手段が、前記送信タイミング発生処理で発生した前記送信タイミングを所定のネットワークへ送出するネットワーク送信処理とを行い、
前記他のレーダ制御手段を、第2の遅延手段と、第2の送受信機とから構成しておき、
前記第2の遅延手段が、前記ネットワークを経て送出された前記送信タイミングを当該レーダ制御手段に固有の値に設定された遅延時間だけ遅延させて遅延送信タイミングを発生する第2の遅延処理と、
前記第2の送受信機が、該当する前記レーダアンテナに、前記第2の遅延処理で発生した前記遅延送信タイミングに基づいて前記放射タイミングを送出すると共に、前記レーダアンテナで受信された前記反射電波に対応した受信信号を受信する第2の送受信処理とを行うことを特徴とする請求項9記載の距離計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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