説明

路盤材種の判定方法および舗装面隆起の予測方法

【課題】アスファルトコンクリート舗装について、路盤に鉄鋼スラグが使用されているか否かを非破壊で簡便且つ迅速に判定し、また、この判定方法を利用して舗装面隆起を予測する。
【解決手段】路盤材種の判定方法では、舗装面上から、土壌探知機で路盤のアルカリ度を測定することにより、路盤に鉄鋼スラグ路盤材が使用されているか否かを判定する。また、舗装面隆起の予測方法では、重錘落下式たわみ測定装置で路盤の弾性係数を測定することにより、路盤材が固結しているか否かを判定し、この判定結果と上記路盤材種の判定結果に基づき、舗装面隆起の予測を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路や駐車場などのアスファルトコンクリート舗装を構成する路盤材種を非破壊で判定する方法、およびこの方法を利用した舗装面隆起の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路や駐車場などのアスファルトコンクリート舗装では、路盤が膨張することにより舗装面が突然隆起することがある。このように路盤膨張を生じる主たる原因は、路盤材として鉄鋼スラグが使用されている場合に、固結した鉄鋼スラグ路盤材中にエトリンガイトが生成し、体積膨張を生じるためであると考えられる。
本発明者らは、上記のような路盤膨張による舗装面の隆起の予防策として、膨張性のある路盤を含む舗装の一部を全層厚方向で除去することにより、路盤の膨張によってそれまでに蓄積されてきたひずみ(膨張圧)を開放するとともに、舗装除去部内に固結しない路盤材を再施工し、この路盤材で補修後の路盤の膨張を吸収することで、路盤膨張による舗装の隆起を適切に予防することができる補修方法を創案した。
【0003】
このような補修方法を実施するには、既設のアスファルトコンクリート舗装が隆起を生じる可能性があるかどうかを判定する必要がある。しかし、従来、舗装面の隆起の可能性を非破壊の方法で簡便且つ迅速に判定できる方法は知られていない。特許文献1には、路盤形状測定装置により路盤の異常を探知する方法が示されているが、この方法は、舗装面隆起を予測できる方法ではない。
一方、アスファルトコンクリート舗装面の隆起の主因であると考えられるエトリンガイトの生成による路盤の膨張は、鉄鋼スラグ路盤材を用い且つ施工後に路盤材が固結した場合に生じるものであるから、既設のアスファルトコンクリート舗装について、(i)路盤材として鉄鋼スラグが使用されているか否か、(ii)路盤材が固結しているか否か、が判れば、舗装面の隆起の可能性を判定することが可能である。
しかし、これら(i)、(ii)の事実を調べるには、アスファルトコンクリート舗装を開削し、路盤材を回収して成分分析や強度試験を行う必要があり、多大な手間と時間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−180224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、アスファルトコンクリート舗装の路盤に鉄鋼スラグ路盤材が使用されているか否かを非破壊で簡便且つ迅速に判定することができる路盤材種の判定方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記路盤材種の判定方法を利用して、アスファルトコンクリート舗装面の隆起の可能性を非破壊で簡便且つ迅速に判定することができる舗装面隆起の予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、まず、公知の土壌探知機を用いて路盤のアルカリ度を測定することにより、路盤に鉄鋼スラグ路盤材が使用されているか否かを非破壊で判定できることを見出した。さらに、重錘落下式たわみ測定装置で路盤の弾性係数を測定することにより、路盤材が固結しているか否かを判定でき、したがって、この判定結果と上記路盤材種の判定結果に基づき、アスファルトコンクリート舗装面の隆起の可能性を非破壊で判定できることを見出した。
【0007】
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]アスファルトコンクリート舗装面上から、土壌探知機で路盤のアルカリ度を測定することにより、路盤に鉄鋼スラグ路盤材が使用されているか否かを判定することを特徴とする路盤材種の判定方法。
[2]アスファルトコンクリート舗装面上から、土壌探知機で路盤のアルカリ度を測定することにより、路盤に鉄鋼スラグ路盤材が使用されているか否かを判定するとともに、重錘落下式たわみ測定装置で路盤の弾性係数を測定することにより、路盤材が固結しているか否かを判定し、これらの判定結果に基づいて、アスファルトコンクリート舗装面の隆起の可能性を判定することを特徴とする舗装面隆起の予測方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の路盤材種の判定方法によれば、土壌探知機で路盤のアルカリ度を測定することにより、アスファルトコンクリート舗装を構成する路盤に鉄鋼スラグ路盤材が使用されているか否かを非破壊で簡便且つ迅速に判定することができる。
また、本発明の舗装面隆起の予測方法によれば、重錘落下式たわみ測定装置で路盤の弾性係数を測定することにより、路盤材が固結しているか否かを判定できるので、この判定結果と上記判定方法による路盤材種の判定結果に基づき、舗装面隆起の可能性を非破壊で簡便且つ迅速に判定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
土壌探知機(主たる用途が金属探知である機器の場合もある)として、土壌のアルカリ度を測定できるものが知られている。本発明の路盤材種の判定方法では、そのような土壌探知機を用い、アスファルトコンクリート舗装面上から、土壌探知機で路盤のアルカリ度を測定することにより、路盤に鉄鋼スラグ路盤材が使用されているか否かを判定する。
鉄鋼スラグはCaOを比較的多量に含有しているので、水と接触するとその水はアルカリ性を呈する。一般に路盤は10mass%程度の水分を含有しており、したがって、路盤に鉄鋼スラグ路盤材が使用されている(路盤が鉄鋼スラグ路盤材からなる或いは鉄鋼スラグ路盤材を含む)場合には、鉄鋼スラグ路盤材が含有している水がアルカリ性となることから、土壌探知機により路盤のアルカリ度を測定することにより、鉄鋼スラグ路盤材の存在の有無を検知できることが判った。
【0010】
本発明では、路盤に鉄鋼スラグ路盤材が使用されていると判定できるアルカリ度の閾値を設け、これに基づき判定を行う。なお、路盤に鉄鋼スラグ路盤材が使用されていても、その使用量や割合が少ないと、弱いアルカリ性しか測定されず、その結果、鉄鋼スラグ路盤材が使用されていると判定されないこともあり得るが、そのような路盤は舗装面隆起につながるような膨張も生じにくいと考えられるので、特に問題はない。
また、コンクリート破砕物を主体とする再生路盤材は、アルカリ性を呈することが知られているが、土壌探知機による測定では弱アルカリ性を示すことから、鉄鋼スラグ路盤材とは判別することができる。
土壌探知機は、アスファルトコンクリート舗装面上で適宜移動させつつ、路盤のアルカリ度を測定する。適宜移動させる要領は、土壌中の金属を探知する方法と同様である。
土壌探知機としては、例えば、米国ホワイト社製の金属探知機「ゴールドマスター GMT」などを使用することができる。
【0011】
次に、上記のような路盤材種の判定方法を利用した本発明の舗装面隆起の予測方法について説明する。
さきに述べたように、アスファルトコンクリート舗装面の隆起の主因であると考えられるエトリンガイトの生成による路盤の膨張は、鉄鋼スラグ路盤材を用い且つ施工後に路盤材が固結した場合に生じるものであるから、既設のアスファルトコンクリート舗装について、(i)路盤材として鉄鋼スラグが使用されているか否か、(ii)路盤材が固結しているか否か、が判れば、舗装面の隆起の可能性を判定することが可能である。
【0012】
そこで、本発明の舗装面隆起の予測方法では、上述した路盤材種の判定方法に従い、アスファルトコンクリート舗装面上から、土壌探知機で路盤のアルカリ度を測定することにより、路盤に鉄鋼スラグ路盤材が使用されているか否かを判別するとともに、同じくアスファルトコンクリート舗装面上から、重錘落下式たわみ測定装置で路盤の弾性係数を測定することにより、路盤材が固結しているか否かを判定し、これらの判定結果に基づいて、アスファルトコンクリート舗装面の隆起の可能性を判定する。
土壌探知機で路盤のアルカリ度を測定する方法は、上述したとおりである。
【0013】
重錘落下式たわみ測定装置(FWD)は、従来、舗装の健全度を判定するために使用されており、舗装面に重錘を落下させて衝撃を加え、その時に発生する舗装面のたわみ量を複数のセンサで測定することができる。この重錘落下式たわみ測定装置は、重錘を落下させて舗装面に衝撃荷重を載荷する載荷装置と、舗装のたわみ量を複数のセンサで計測するたわみ測定装置と、計測したデータを記録するデータ取り込み・記憶装置などからなる。衝撃荷重(車載型FWD試験の場合)は、搭載した重錘(200〜350kg程度)を所定の高さから落下させることにより発生させる。衝撃荷重の目標値は、一般的には、アスファルトコンクリート舗装の設計に用いる標準的な輪荷重である49kNが用いられている。また、重錘は、直接舗装面上に落下させるのではなく、バッファ(ゴム製の緩衝装置)と載荷板を介して舗装面に作用させる。
【0014】
通常、舗装を構成する各層と路床の弾性係数、ポアソン比、厚さ、舗装表面に作用する荷重条件が与えられると、多層弾性理論を適用して、舗装表面に生じるたわみを計算することができる。これに対してFWD試験では、重錘を落下させたときのたわみを計測する。この載荷荷重条件と測定したたわみ、厚さ、ポアソン比を与えて、多層弾性理論の逆解析を行うことで、舗装を構成する各層の弾性係数を求めることができる。
路盤材が固結しているか否かを判定するために、路盤の弾性係数の閾値を設け、測定値(弾性係数)がこの閾値以上である場合に、舗装面の隆起につながるような固結状態にあると判定する。通常、この閾値は500〜1000MPa、好ましくは700〜1000MPaの範囲で設定される。
【実施例】
【0015】
既設のアスファルトコンクリート舗装について、本発明法により路盤材種の判定と舗装面隆起の予測を行った。
土壌探知機は、米国ホワイト社製の金属探知機「ゴールドマスター GMT」を使用し、路盤のアルカリ度を測定した。重錘落下式たわみ測定装置(FWD)による測定では、車載型FWD試験装置を用い、衝撃荷重(目標49kN)を載荷したときのたわみを、載荷位置、および載荷位置から20cm、30cm、40cm、60cm、90cm、150cmそれぞれ離れた位置で測定した。
計測時の載荷荷重、計測したたわみ量、路盤の厚さ、ポアソン比に基づき、多層弾性理論の逆解析により路盤の弾性係数を求めた。
【0016】
本実施形態では、土壌探知機で測定された路盤のアルカリ度が50未満の場合に、路盤に鉄鋼スラグ路盤材が使用されている判定した。また、重錘落下式たわみ測定装置により測定された路盤の弾性係数が1000MPa以上の場合に、路盤材が舗装面の隆起につながるような固結状態にあると判定した。
それらの測定結果とこれに基づく判定結果を、開削調査による結果などとともに表1に示す。
【0017】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルトコンクリート舗装面上から、土壌探知機で路盤のアルカリ度を測定することにより、路盤に鉄鋼スラグ路盤材が使用されているか否かを判定することを特徴とする路盤材種の判定方法。
【請求項2】
アスファルトコンクリート舗装面上から、土壌探知機で路盤のアルカリ度を測定することにより、路盤に鉄鋼スラグ路盤材が使用されているか否かを判定するとともに、重錘落下式たわみ測定装置で路盤の弾性係数を測定することにより、路盤材が固結しているか否かを判定し、これらの判定結果に基づいて、アスファルトコンクリート舗装面の隆起の可能性を判定することを特徴とする舗装面隆起の予測方法。

【公開番号】特開2010−168754(P2010−168754A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10276(P2009−10276)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【Fターム(参考)】