説明

路面表示用水性塗料組成物

【課題】従来よりも一層貯蔵安定性がよく、塗布後は速乾性で密着性、耐候性、耐摩耗性が高い路面表示用塗料の提供。
【解決手段】0.1〜5重量%の一般式(1)で示されるビニルモノマーを構成成分として含有するビニル系単量体混合物を乳化重合して得られるビニル系共重合体水分散体を含んでなる路面表示用水性塗料組成物
CH2=C(X)CONHY (1)
(式中、Xは水素、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基または脂環族炭化水素基、Yは水素、炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基を示す。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一液型の速乾性路面表示用水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
路面表示用塗料は、道路、駐車場などのコンクリートやアスファルト表面への車線、駐車スペースなどの表示や文字による指示などのために使用される特殊な塗料である。
この路面表示用塗料は、貯蔵安定性がよく、塗布後は速乾性で密着性、耐候性、耐摩耗性が高いといった特性が要求されるが、特に重要な性質は、貯蔵安定性と塗布後の乾燥性である。塗布後の乾燥に至るまでの時間は、道路等における車の通交遮断時間を意味するので、車の通交量の大きな道路では、できる限り乾燥時間の短い塗料が要求される。
易揮発性の有機溶剤を用いた速乾性塗料は、塗布後迅速に乾燥するが、溶剤蒸気による作業者および環境への悪影響が懸念されるうえ、引火の危険性も大きい。そこでこれらの有機溶剤系塗料に代わって種々の水性塗料が検討されてきた。
一般に水性塗料は有機溶剤系塗料に比して乾燥に至る時間が長く、特に低温下や高湿下では、乾燥までに数時間以上を要することもある。そこで、一液型でありながら貯蔵安定性が高く、塗布後の乾燥時間が短く、路面への密着性、耐摩耗性および耐水性の良好な路面表示水性塗料が強く求められ、これまでにもいくつかの提案がなされてきた。
【0003】
それらの技術の1つに、塗料の隠蔽性、反射性および乾燥性の向上を目的として、内部が空洞、すなわち内部が空気で満たされている中空ポリマー微粒子と造膜性樹脂水分散体(本明細書においては、ビニル系共重合体粒子分散体と実質的に同義に用いられる。)を同時または別々に路面に塗布する路面表示用水性塗料が提案されている(特許文献1、特許文献2)。これらは、塗布後、中空ポリマー微粒子の空洞に水分散体中の水分を吸収させ、乾燥を早めるという技術であるが、ビニル系共重合体粒子水分散体と中空ポリマー微粒子の二成分を使用前から混合すると貯蔵中に水分が中空ポリマーの空隙に移行してきて塗料の粘度が上昇するので、別々に貯蔵しておき、使用時混合するという煩雑な操作が必要である。
また、上記ビニル系共重合体粒子水分散体と中空ポリマー微粒子を含む水性塗料組成物において、中空ポリマー微粒子に揮発物質の水溶液を内包させておき、塗布後は、中空ポリマー微粒子内の揮発性物質とビニル系共重合体粒子水分散体中の水を入れ替えることにより乾燥を早めるという技術も知られている(特許文献3)。
さらに、メタアクリルアミドエチルエチレンウレアをモノマーの一成分として用いたビニル共重合体のエマルジョンに顔料や充填材を配合した路面表示用塗料も知られている(特許文献4)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−212504号
【特許文献2】特開2002−30257号
【特許文献3】特開2004−263001号
【特許文献4】特開2004−263000号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、一液性で、貯蔵安定性がよく、しかも塗布後の乾燥が早く、路面への密着性、耐摩耗性、耐水性が良好な路面表示用水性塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々の水性樹脂エマルジョンについて鋭意検討した結果、以下の組成を有する水性塗料組成物が貯蔵安定性に優れ、塗布後の乾燥が早く、耐水性、密着性等路面表示用塗料に要求される特性を満足することを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、
(1)0.1〜5重量%の一般式(1)で示されるビニルモノマーを構成成分として含有するビニル系単量体混合物を乳化重合して得られるビニル系共重合体水分散体を含んでなる路面表示用水性塗料組成物
CH2=C(X)CONHY (1)
(式中、Xは水素、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基または脂環族炭化水素基、Yは水素、炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基を示す。)、
(2)ビニル系共重合体水分散体が0〜50℃のガラス転移温度を有するものである(1)記載の路面表示用水性塗料組成物、
(3)ビニル系共重合体水分散体が0.1〜5重量%のカルボキシル基含有ビニル系モノマーを構成成分とするものである(1)記載の路面表示用水性塗料組成物、
(4)カルボキシル基含有ビニル系モノマーがアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸モノエチルエステルから選択される1種類あるいは2種類以上の混合物である(3)記載の路面表示用水性塗料組成物、
(5)ビニル系共重合体水分散体の平均粒子径が0.05〜0.3μmである(1)記載の路面表示用水性塗料組成物、
(6)ビニル系共重合体水分散体にさらに内部に揮発性物質を内包する中空ポリマー水分散体を混合してなる(1)記載の路面表示用水性塗料組成物、
(7)路面表示用水性塗料組成物がビニル系共重合体水分散体と中空ポリマー粒子水分散体の固形分の合計として100重量部、着色顔料が10〜200重量部、充填剤が100〜350重量部配合された(1)記載の路面表示用水性塗料組成物、
である。
【0007】
一般式(1)中Xで表される炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基としては、たとえば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチル、n−ヘキシルなどが、炭素数6の芳香族炭化水素基としてはフェニル基が、炭素数3〜6の脂環族炭化水素基としてはシクロペンチル、シクロヘキシル基等が挙げられるが、中でも炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基が好ましく用いられる。Yで示される炭素数1〜12の脂肪族炭化水素としては、たとえば、メチル、エチル、n−プロピル、n-プロピレン、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、n−ブチレン、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−オクチル、n−ラウリルなどが挙げられるが、中でも炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基が好ましく用いられる。
一般式(1)で示されるビニルモノマーの具体例としては、例えばアクリルアミド、メタクリルアミド、t−ブチルアクリルアミドが好ましい。
ビニル系単量体混合物中に占める化合物(1)の割合は0.1〜5重量%、好ましくは0.2〜4重量%、さらに好ましくは0.5〜3重量%である。化合物(1)の割合が5重量%を越えると乾燥性、耐水性、密着性が低下することがある。
【0008】
本発明に使用される化合物(1)と共重合可能なビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、などの芳香族ビニル化合物、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えば、酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類、例えば、メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ビニルピリジンなどのエチレン系不飽和アミンなどを挙げることができる。これらは単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0009】
本発明に用いられるビニル系共重合体を構成する重合性ビニル系モノマーは、カルボキシル基を含有する重合性ビニルモノマーを0.1〜5重量%含有するものが好ましい。
このカルボキシル基を含有する重合性ビニルモノマーとしては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸や、それらの無水物、例えば、マレイン酸メチル、イタコン酸メチルなどの不飽和ジカルボン酸のモノエステル、すなわち半エステルなどを挙げることができる。これらの中でアクリル酸、またはメタクリル酸(MAA)が特に好ましい。これらのエチレン系不飽和カルボン酸単量体は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。またこれらのエチレン系不飽和カルボン酸単量体はアルカリ金属塩またはアンモニウム塩としても用いることができる。
このようなカルボキシル基を含有する重合性ビニルモノマーの使用量は、樹脂の原料である共重合性ビニルモノマー混合物100重量部中、0.1〜5重量部、好ましくは0.2〜3重量部、さらに好ましくは0.5〜2重量部の範囲である。
【0010】
本発明に用いられるビニル系単量体混合物を乳化重合して得られるビニル系共重合体のガラス転移温度は通常0〜50℃、好ましくは0〜30℃である。また、ビニル系共重合体粒子の平均粒子径は通常50〜300nm、好ましくは100〜250nmである。平均粒子径が小さいと塗料の粘度が上がり、塗布性、作業性に支障をきたす場合があり、平均粒子径が300nmを超えると、乾燥性、耐水性が悪くなる場合がある。
【0011】
本発明における一般式(1)で示されるビニルモノマーを構成成分として含有するビニル系単量体混合物を乳化重合して得られるビニル系共重合体水分散体にさらに親水性の揮発性物質を内包する中空ポリマー粒子水分散体を混合することにより塗布後の乾燥性をより高めることもできる。その場合の使用割合は、ビニル系共重合体粒子水分散体の固形分100重量部に対し、中空ポリマー粒子水分散体の固形分が1〜50重量部、好ましくは5〜25重量部である。
【0012】
親水性の揮発性物質を内包する中空ポリマー粒子の製造法は、たとえば特願昭56−32513号公報により知られている。そこには、乳化重合により不飽和カルボン酸単量体を共重合させてコア粒子を調製した後、エチレン性不飽和単量体をカバー重合してシェル層を形成させ、得られた粒子にアンモニア等の揮発性塩基によりコア部のカルボン酸を中和して粒子を膨潤させる方法が記載されている。
また、このような内部に揮発性塩基を内包する中空ポリマー粒子の水分散体に、凍結防止剤としての効果を兼ね備えたメタノール、エタノール等の低級アルコール類を加えると、これらのアルコール類が空洞内に浸透し、内部に揮発性塩基とアルコール類が溶解した水溶液を内包する中空ポリマー粒子の水分散体を得ることができる。
【0013】
親水性の揮発性物質は、塗料が路面に塗布されると中空ポリマー粒子の殻(シェル)部を通過して大気中に散逸するような物質で、アンモニアの外揮発性のアミン類、たとえばジエタノールアミンやトリエタノールアミン、低級アルコール類、たとえばメタノール、エタール、n−プロパノール、n−ブタノール等が例として挙げられるが、アンモニア、メタノール、エタノールが好ましい。
中空ポリマー粒子の平均粒子径は50〜2000nm、好ましくは100〜1500nmで、中空ポリマー粒子中の空隙率は粒子の体積の10〜75%、好ましくは25〜70%である。
また内包する揮発性物質の濃度は10ppm〜10wt%、好ましくは1000ppm〜3wt%である。
【0014】
本発明に用いられるビニル系共重合体水分散体は、0.1〜5重量%の一般式(1)で示されるビニルモノマーを構成成分として含有するビニル系単量体混合物を乳化重合することによりえられるが、その乳化重合に用いられる重合開始剤としては過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、過酸化水素水、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の水性ラジカル重合開始剤またはこれらの混合物が挙げられ、使用量はモノマー全重量に対して通常は0.1〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部である。このような開始剤はまた、還元剤と組み合わせレドックス系を形成することができる。そのような還元剤としては亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、ホルムアルデヒドスルホン酸塩等のアルカリ金属塩やアンモニウム塩、L-アスコルビン酸、酒石酸などのカルボン酸類が挙げられ、使用量はモノマー全重量に対して0.1〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部である。
なお、本発明に用いられるビニル系共重合体の製造法においては、硫酸第一鉄、硫酸アンモニウム第一鉄、ナフテン酸第一銅などの鉄、銅、ニッケル、コバルト、クロモ、モリブテン、バナジウム、セリウムのような遷移金属の塩なども用いることができるが、路面表示用塗料組成物に着色などが観られる場合がある。
【0015】
前述の乳化重合に用いられる界面活性剤は少なくとも1種のアニオン性、ノニオン性、または両性界面活性剤、またはその混合物を用いることができる。アニオン性界面活性剤の例としてはアルキルまたはアルキルアリル硫酸塩、アルキルまたはアルキルアリルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩などのアルカリ金属塩、またはアンモニウム塩が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等が挙げられる。両性界面活性剤としてはベタイン、アミノ酸の誘導体が挙げられる。これら界面活性剤の使用量はモノマー全重量に対して0.1〜5重量部、好ましくは0.3〜3重量部である。この使用量が0.1重量部よりも少ない場合は反応が不安定となり、凝集物が生成する場合がある。反対に5重量部よりも多い場合は路面表示塗料としての乾燥性、耐水性が悪くなる場合がある。
【0016】
また、本発明においては、必要に応じて、乳化重合をエチレンジアミン4酢酸ナトリウムなどのキレート剤、ポリカルボン酸塩などの分散剤、リン酸塩、炭酸塩などの無機塩、チオール化合物、ハロゲン化合物などの連鎖移動剤の存在下に行ってもよい。
重合は通常0〜100℃の温度で、単量体の添加率が99%以上に達するまで行われる。
【0017】
このようにして得られたビニル系共重合体水性分散体に、着色顔料、充填材、その他の配合物を加え、均一になるように攪拌される。
着色顔料としては、二酸化チタン、黄鉛、カーボンブラック等の無機顔料、シアニンブルー、シアニングリーン等の有機顔料が挙げられるが、路面表示用塗料には、二酸化チタン、あるいは黄鉛が繁用される。
着色顔料の使用割合は、ビニル系共重合体の固形分100重量部に対して、通常10〜200重量部、好ましくは、20〜100重量部である。
【0018】
充填材としては、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、珪酸マグネシウム、タルク、クレー、セライト、マイカ、アルミナ、シリカ、ガラス粉末等の無機充填材が挙げられるが、炭酸カルシウムが便宜に使用される。
充填材の使用量は、アクリル共重合体の固形分100重量部に対して、通常100〜350重量部、好ましくは、150〜300重量部である。
【0019】
路面表示用塗料組成物のpHは通常5〜12、好ましくは7〜11の範囲である。このpH値が5より低いときは、本発明による路面表示用塗料組成物の機械的安定性が不十分となり、12を越えると塗装後の乾燥性が悪くなることがある。
組成物のpHの調節は、アンモニア、炭酸ソーダ、水酸化ナトリウム、モルフォリン、低級アルキルアミンなどのアルカリ性物質や、硫酸等の酸性物質のpH調整剤を適宜加えることにより行うことができる。
【0020】
本発明の路面表示用塗料組成物には、さらに増粘剤を配合することにより、組成物の粘性を向上させることができる。増粘剤としては、例えばカゼイン、グルー、ゼラチン等の動物性増粘剤、アルギン酸塩、でんぷん、アラビヤガム等の植物性増粘剤、ベントナイト等の鉱物性増粘剤、ポリカルボン酸塩、アクリル共重合体、架橋型アクリル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド等の高分子系増粘剤、カルボキシル化メチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサントゲン酸セルロース、カルボキシル化でんぷん等の繊維素誘導体、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルピリジニウムブロマイド等のカチオン系増粘剤等が挙げられる。
【0021】
その他、さらに分散剤、凍結防止剤、造膜助剤、消泡剤、保存剤、架橋剤などの適量を適宜加えてもよい。
このようにして調製された塗料用組成物は、たとえば金属製、ガラス製、プラスチック製の密閉容器に貯蔵しておけば長期に亘って安定に保存することができる。
この塗料組成物の使用に際しては、容器内容物を振盪、撹拌して均一な組成部とし、刷毛塗り、スプレー法等公知の方法で塗布すればよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、速乾性、耐水性に優れ、かつ水性であるため安全性が高く、大気汚染の心配がない水性塗料組成物を開発することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に重合例、実施例、実験例などを挙げて本発明をより具体的に説明する。
[重合例1]
【0024】
攪拌機、温度計、還流冷却器及び窒素ガス導入口を備えた重合容器に、脱イオン水32.7部、ラウリル硫酸ナトリウム0.2部、12.5%アンモニア水0.4部及びpH緩衝剤として重炭酸ナトリウム0.15部を仕込み、攪拌しながら80℃に加熱した後、窒素置換した。この中にアクリル酸ブチル45.8部、メタクリ酸メチル52.5部、アクリル酸0.7部、アクリルアミド1部、ドデシルメルカプタン0.2部、ラウリル硫酸ナトリウム0.4部、脱イオン水38.7部からなる乳化モノマー液の4重量%に相当する5.57部を添加し、10分後に1.5部の脱イオン水に溶解した過硫酸アンモニウム0.25部を添加し種重合を行った。発熱開始から20分後、残りの乳化モノマー液133.73部と7.2部の脱イオン水に溶解した過硫酸アンモニウム0.1部を攪拌下、温度を80℃に保ちながら3時間かけて滴下し、滴下終了後2時間80℃を維持し重合を終了させた。これを室温まで冷却した後に、希釈水、25%アンモニア水を加え固形分を55%、pHを9〜10に調整した。最終生成物は固形分55.1%、ブルックフィールド粘度830mPa・s(30rpm)、平均粒子径174nm、pH=10.2であった。
また、得られたエマルジョンの重合安定性やその他の性状を測定し、表1に記載した。
[重合例2〜6]
【0025】
重合例1と同様にして表1に示されたモノマー組成で重合を行った。
[重合例7]
【0026】
種重合に使用した乳化モノマー液の量を乳化モノマー液の2重量%に相当する2.79部使用する以外は重合例1と同様に重合を行った。
[重合例8]
【0027】
重合例1と同様にして表1に示されるモノマー組成で重合を行った。
[重合例9〜11]
【0028】
ラウリル硫酸ナトリウムを0.7部使用する以外は重合例1と同様にして表1に示されるモノマー組成で重合を行った。
【0029】
【表1】

BA:アクリル酸ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
SM:スチレン
2EHA:アクリル酸2−エチルヘキシル
n−BMA:メタクリル酸−nブチル
AA:アクリル酸
MAA:メタクリル酸
AAm:アクリルアミド
重合安定性は以下の基準により判定した。
○:反応器、攪拌ばねの汚れがほとんど無く、ろ過残留物もほとんど無かった。
△:反応器、攪拌ばねが汚れていた、あるいはろ過残留物が多かった。
×:ゲル化した、またはろ過できなかった。
[実施例1〜13]
【0030】
重合例1〜11に示すエマルジョン(表1参照)を使用し、表2および表3に示す塗料配合例に基づき塗料化した。得られた塗料及び塗膜の特性は表4のとおりであった。
実施例12および13は重合例1および重合例8で合成したビニル系共重合体水分散体を用い、表3に示す塗料配合処方により塗料化した。
【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

[重合例12、13、14]
【0034】
表5に示す配合により、重合例1と同様にして重合をおこなった。表5に、得られたエマルジョンの物性を示した。
[比較例1〜3]
【0035】
重合例12〜14で得られたエマルジョンを使用し、表2に示す塗料配合例に基づき塗料化した。得られた塗料及び塗膜の特性は表6のとおりであった。
【0036】
【表5】

【0037】
【表6】

【0038】
塗料、塗膜の特性評価は以下に基づいて行った。
(1)粘度
ブルックフィールド粘度、BM型、12rpm、25℃
(2)TI
ブルックフィールド粘度、BM型、6rpm/60rpmの値、25℃
(3)乾燥性
作成した塗料を23℃×50%RH雰囲気下で1日養生後、同雰囲気下でガラス板にアプリケーターを用いて10ミルの厚さで塗料を塗布した。試験はJIS K5665に準じた方法で行った。試験用ロールに塗料が付着しなくなった時間をタイヤ付着性、手で触った時に塗料が付着せず、塗膜が変形しない時間を指触乾燥性として評価した。
(4)耐水性
乾燥性と同様な方法で塗布した試験体を23℃×50%RH下で20分乾燥後、20℃に調整した水浴に浸し、1日後の塗膜の様子を観察した。判定は以下の基準で行った。
◎:全く異常が観られなかった。
○:一部フクレが観られた。
△:塗膜全体にフクレが観られた。
×:塗膜がガラス板から浮いてしまっていた。
(5)保存安定性
A)-10℃凍結安定性
−10℃雰囲気下で3日静置後、室温で1日静置を1サイクルとして、10サイクル行い、塗料の流動性を下記の判定基準で評価した。
◎:10サイクル後も流動性が確保され粘度変化が初期値に対して10%以内であった。
○:10サイクル後も流動性が確保され粘度変化が初期値に対して10%を超えた。
△:5〜10サイクルで固化した。
×:5サイクルまでに固化した。
B)80℃保存安定性
塗料を80℃×3時間保存した前後の粘度変化を測定し、下記の判断基準で評価した。
◎:初期の粘度の10%以内。
○:初期の粘度の10%を超えるが流動性あり。
△:流動性がない。
×:固化。
【0039】
実施例と比較例の対比
AAmが配合されていない重合例12から14のエマルジョンを用いた比較例1〜3の塗料は、AAmが配合されたエマルジョンを用いた本発明の実施例の塗料と比較して、乾燥時間、特にタイヤ付着性に明らかな改良が認められた。
[実施例14〜17]
【0040】
重合例1および重合例8のアクリルエマルジョンを使用して表3の標準塗料配合の酸化チタン、炭酸カルシウム配合量を表7に示される配合量に変更して得られた塗料および塗膜の特性は表7に示すとおりで、いずれも満足する結果が得られた。
【0041】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の路面表示用水性塗料組成物は、一液性で、貯蔵安定性がよく、しかも塗布後の乾燥が早く、路面への密着性、耐摩耗性、耐水性が良好であるので、あらゆる種類の路面や工場、体育館などの敷地内、各種競技場などの表面の表示用塗料として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1〜5重量%の一般式(1)で示されるビニルモノマーを構成成分として含有するビニル系単量体混合物を乳化重合して得られるビニル系共重合体水分散体を含んでなる路面表示用水性塗料組成物
CH2=C(X)CONHY (1)
(式中、Xは水素、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基または脂環族炭化水素基、Yは水素、炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基を示す。)。
【請求項2】
ビニル系共重合体水分散体が0〜50℃のガラス転移温度を有するものである請求項1記載の路面表示用水性塗料組成物。
【請求項3】
ビニル系共重合体水分散体が0.1〜5重量%のカルボキシル基含有ビニル系モノマーを構成成分とするものである請求項1記載の路面表示用水性塗料組成物。
【請求項4】
カルボキシル基含有ビニル系モノマーがアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸モノエチルエステルから選択される1種類あるいは2種類以上の混合物である請求項3記載の路面表示用水性塗料組成物。
【請求項5】
ビニル系共重合体水分散体の平均粒子径が0.05〜0.3μmである請求項1記載の路面表示用水性塗料組成物。
【請求項6】
ビニル系共重合体水分散体にさらに内部に揮発性物質を内包する中空ポリマー水分散体を混合してなる請求項1記載の路面表示用水性塗料組成物。
【請求項7】
路面表示用水性塗料組成物がビニル系共重合体水分散体と中空ポリマー粒子水分散体の固形分の合計として100重量部、着色顔料が10〜200重量部、充填剤が100〜350重量部配合された請求項1記載の路面表示用水性塗料組成物。

【公開番号】特開2008−291165(P2008−291165A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140121(P2007−140121)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(592230542)ガンツ化成株式会社 (38)
【Fターム(参考)】