説明

踵骨を対象とする骨評価装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、骨評価装置、特に踵骨を対象とする骨評価装置の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】老年人口の急激な増加と相俟って、骨粗鬆症、骨軟化症等の骨疾患を持つ人が増加しており、その診断や予防の必要性が強く要望されている。骨は、その組成でみると、大別して骨塩(カルシウムなどのミネラル)と骨基質(骨組織の細胞間物質)とで構成されている。
【0003】ここで、「骨粗鬆症」とは、一般に骨基質と骨塩との比率は正常であるが骨の量自体が減少した病態をいい、「骨軟化症」とは、一般に骨石灰化障害により骨塩のみが減少した病態をいう。つまり、骨疾患といっても、その病態における骨の組成は一様ではない。
【0004】いずれにしても、骨の強度が弱まると骨折が生じ、特に老年の人はいわゆる寝たきりになるおそれがある。従って、定期的に骨の検査をすることが骨折の予防等のためには望ましい。
【0005】ところで、骨は、その構造上、海綿骨と皮質骨とで構成され、海綿骨は皮質骨より代謝速度がおよそ8倍速いといわれている。それゆえ骨の量の減少あるいは骨の強度の低下は、まず海綿骨に現れると考えられる。そこで、骨の評価を行うにあたっては、その海綿骨の割合が多い。例えば踵骨や腰椎等を測定することが好適であり、診断精度を向上させることができる。そこで、本出願人が特願平5−124495号で提案した骨評価装置における計測方法においては、踵骨を測定対象としている。
【0006】一方、ある患者の骨の評価を経時的に行う場合には、同一位置の測定を固定的に行う必要がある。すなわち、同一部位の診断を行わないと、位置再現性が悪く、骨質の経時的変化を観察することができない。
【0007】そこで、同一位置の測定を行うために、測定点が測定装置に固定されたものが提案されている。しかし、これでは測定位置が踵骨から外れ、誤測定する場合があり、信頼性に欠けるという欠点があった。
【0008】このため、上記特願平5−124495号で提案した方法においては、X線あるいは超音波を使用して踵骨の輪郭像あるいは骨塩量分布を求め、輪郭像からパターン認識等により、あるいは骨塩量分布から重心点を求める演算により、計測位置の決定が行われる。計測位置が決定されると、その位置でX線あるいは超音波による踵骨の物理的性質の計測が行われる。
【0009】これらの方法は、踵骨の物理的性質を正確にかつ客観的に測定するためには優れた方法であった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】しかし上記の方法では、踵骨の輪郭像あるいは骨塩量分布について詳しい測定を行い、その測定値に複雑な演算処理を施すことにより計測位置を決定していた。このため、計測位置の決定に長い時間がかかり、結果として踵骨の物理的性質を計測するための診断作業が長時間化するという問題があった。
【0011】この計測位置の決定には従来約2分程度を要していたが、特にこれは、多数の患者を計測し、骨疾患に罹患している可能性があるかどうかを一次診断的に見きわめる、いわゆるスクリーニングを行う場合に大きな問題となる。スクリーニングにおいては計測する患者の数が多いので、診断者にとっても患者にとっても短時間で診断作業が終了することが望ましい。
【0012】本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、短時間で計測位置を決定でき、踵骨の物理的性質を計測するための診断作業を短時間で終了できる踵骨を対象とする骨評価装置を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、踵骨を対象とする骨評価装置であって、足を上から載せるために所定角度開いて形成され、足を載せた時に踵が配置される谷部を有する足置き台と、骨評価部位に対して超音波を送受波する超音波振動子と、前記足置き台の頂角のほぼ2等分線上を、前記谷部から上方向に前記超音波振動子を移動させ、踵を走査する走査部と、前記超音波振動子から出力される超音波計測信号により前記2等分線上に配置された踵骨の端部を特定し、この端部から所定距離だけ上方向に隔たった前記2等分線上の点を踵骨内の物理的性質を計測する位置として決定する制御手段と、を含むことを特徴とする。
【0014】請求項2記載の発明は、前記走査部が更に、前記2等分線に直交する方向にも前記超音波振動子を移動可能であり、前記制御手段は、前記超音波振動子から出力される計測信号により前記2等分線に直交する方向における踵骨の両端部を検知し、この両端部を所定の割合で内分する点を踵骨内の物理的性質を計測する位置として決定する、ことを特徴とする。
【0015】
【作用】上記構成によれば、足置き台により足の位置を固定しておき、足置き台の頂角のほぼ2等分線上の所定の位置、あるいはこの2等分線に直交する線上の所定の位置を踵骨内の物理的性質を計測する位置として決定する。
【0016】
【実施例】以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて説明する。
【0017】実施例1.図1には、本発明に係る第1の実施例の装置を使用して測定位置を決定する方法が示される。図1において、足置き台10は患者の足11が上から載せられるように所定の角度α開いて形成されており、2つの面12、13を有している。患者の足11は、図1に示されるように、面12に足の裏が、面13に踵からふくらはぎにかけての部分が接するように置かれているので、踵14は足置き台10の谷部15に配置される。そして、人間の足首の構造上足置き台10に足11を自然に載せるためには、足置き台10の角度αは、およそ90度程度が望ましい。足置き台10は、2枚の板を互いの辺の1つで角度α開くように接合してもよく、また1枚の板を角度α開くように折り曲げてもよい。
【0018】患者の足11は足置き台10に載せられた後で、図2に示されるように固定具16によって足置き台10に固定されてもよい。また、患者の足11、特に踵14の部分は、足置き台10と共に水槽17の中に入れられる。水槽17の中には音響的な整合材、例えば水18が満たされている。
【0019】図3には、実施例に係る踵骨19を対象とする骨評価装置の構成が示される。図3において、対向して配置された一対の超音波振動子20は、走査部21に取り付けられ、かつ送受信部22に接続されている。送受信部22は、更に制御部23に接続されている。また、走査部21は制御部23により制御され、2つのモータ25によって超音波振動子20の位置を2軸で自在に移動することができる。制御部23には演算解析部26が接続されており、超音波振動子20からの信号に基づき、あるいはモータ25によって移動される超音波振動子20の位置などについて必要な演算が行われる。ここで、制御部23と演算解析部26とは本発明の制御手段を構成し、装置全体の動作の制御や、必要データの格納及び記憶なども行っている。
【0020】なお、本図には計測位置決定及び超音波診断に使用する超音波振動子20のみを示したが、このほかにX線診断用のX線源を備えることもできる。
【0021】図1に戻って測定位置の決定方法について説明する。図1において一対の超音波振動子20は、紙面の手前側と紙面を挾んだ反対側に配置されている。その軸は紙面と直交するようになっており、走査部21に設けられたモータ25の動作により、図1の足置き台10の谷部15の例えば原点Oから矢印Aの方向に踵14を走査できるようになっている。ここで、原点OからAに至る直線は、足置き台10の開いた角度αの2等分線になっている。
【0022】本発明において特徴的なことは、足11を足置き台10に載せた時に、この2等分線OA上に丁度踵骨19が載ってくることに着目し、この2等分線OAに沿って原点Oから矢印Aの方向に超音波振動子20を走査することにより、踵骨19の位置を簡単に見いだすことができ、計測位置を短時間で決定することができる点である。
【0023】すなわち、制御部23により走査部21を動作させ、超音波振動子20を原点Oの位置から上記の2等分線OA上をAの方向に所定のピッチ、例えば2ミリメートル/ステップで走査してゆく。各走査ポイントでは、送受信部22の動作により超音波振動子20の一方から他方に向かって超音波を照射し、その受信電圧を計測する。もし、一対の超音波振動子20の間に踵骨19が存在する場合には、受信電圧は踵骨19による反射や減衰の影響により著しく低下する。
【0024】一対の超音波振動子20が足置き台10の原点Oから矢印A方向に向かって踵14を走査してゆき、踵骨19の端部である点Bにかかった時にこの受信電圧の低下が起こる。つまり、2等分線OA上の踵骨19の最下位置点Bを見いだすことができる。この点Bから所定の距離C、例えば20ミリメートルだけ矢印Aの方向に隔たった点をP1とし、これを計測位置とする。また、所定の距離Cは、患者の性別、年齢、身長、膝下の長さなどの関数として決めてもよい。
【0025】なお、この走査は超音波振動子20をステップ的に移動させるのではなく連続的に移動させてもよい。この場合、超音波振動子20からは連続的に超音波を照射する。
【0026】本実施例においては、踵骨19の物理的性質を計測するための計測位置を決定するために超音波を用いて踵14の走査を行っている。従って、計測位置の決定のためにX線を使用する必要がなく、不必要なX線被曝を防ぐことができるという利点もある。
【0027】図4には、本発明に係る第1の実施例の装置を使用した骨評価の工程のフローチャートが示されている。足置き台10に足を載せて固定した後、超音波振動子20により足置き台10の2等分線OAに沿って上方向に踵14を走査する(S1)。
【0028】踵骨の下側端部であるB点を超音波振動子20の受信電圧の低下により特定する(S2)。
【0029】演算解析部26により、B点から距離CだけAの方向に隔たった点P1が決定される(S3)。
【0030】点P1においてX線又は超音波により踵骨の物理的性質の計測が行われる。(S4)。
【0031】X線あるいは超音波による測定値から演算解析部26により骨評価値が演算される(S5)。
【0032】以上で踵骨の物理的性質を計測するための診断作業が終了する。この第1の実施例の装置を使用して計測位置を決定する場合には、これに要する時間はほぼ30秒程度となり、上記従来の方法よりも計測位置の決定に要する時間が短縮されている。
【0033】実施例2.図5には、本発明に係る第2の実施例の装置を使用した測定位置決定方法が示される。
【0034】第2の実施例においては、第1の実施例によってP1点の位置を決定した後すぐに、走査部21の動作により一対の超音波振動子20をP1点の位置に移動してくる。制御部23は、P1の位置から2等分線OAに直交する方向に超音波振動子20を移動する。この場合、もちろん超音波振動子20は超音波の送受波を実施している。従って、踵骨19が2等分線OAに直交する方向に走査されることになる。この走査は図5において2等分線OAの右方向及び左方向に行われる。以下、2等分線OAに直交する向きの走査を水平走査という。
【0035】この水平走査においても、受信電圧の変化が監視されており、超音波振動子20の間に踵骨がなくなると受信電圧が急に大きくなって踵骨の端部が見いだせることになる。
【0036】図5において、水平走査中に例えば踵骨の右側の端部Dに超音波振動子20がかかると受信電圧が急に大きくなり、この変化により踵骨の右側端部Dを見いだすことができる。同様にして、踵骨の左側端部Eも見いだすことができる。
【0037】ここまでの調査を終了した後、演算解析部26が点Dと点Eの中点の位置を演算し、この点をPとして計測位置に決定する。
【0038】図6には、第2の実施例の装置を使用した骨評価の工程のフローチャートが示される。図6において、S11〜S13までに示される工程は、図4におけるS1〜S3までに工程と同様である。ただし、S3において測定位置として決定された点P1は第2の実施例では測定位置とはならない。
【0039】P1点が決定された後、走査部21により超音波振動子20がP1点に移動され、P1点から2等分線OAに直交する方向に移動されて踵14を水平走査してゆく(S14)。
【0040】上記の水平走査により2等分線OAに直交する方向の踵骨19の両端部D及びEを特定する(S15)。
【0041】演算解析部26が上記のD点及びE点からその中点を求め、測定位置Pとして決定する(S16)。
【0042】以下、X線又は超音波測定により図4と同様の方法で骨評価値の演算が行われる(S17、S18)。
【0043】以上の工程により本実施例の骨評価が終了する。第2の実施例の装置を使用した計測位置の決定には、およそ40秒の時間を要するが、上記従来の方法に比べ測定値の決定に要する時間が短縮されている。
【0044】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、足置き台により足の位置を固定しておき、足置き台の頂角のほぼ2等分線上の所定の位置あるいは2等分線に直交する線上の所定の位置を踵骨内の物理的性質を計測する位置として決定するので、踵骨の輪郭像あるいは骨塩量分布について詳しい測定をする必要がなく、またその測定値に複雑な演算処理を施す必要もない。この結果、短時間で計測位置を決定でき、踵骨の物理的性質を計測するための診断作業を短時間で終了することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例の装置を使用して測定位置を決定する方法の説明図である。
【図2】本発明の第1の実施例の装置を使用して測定位置を決定する方法の説明図である。
【図3】本発明の実施例に係る踵骨を対象とする骨評価装置の構成図である。
【図4】本発明の第1の実施例の装置を使用した骨評価の工程のフローチャートである。
【図5】本発明の第2の実施例の装置を使用して測定位置を決定する方法の説明図である。
【図6】本発明の第2の実施例の装置を使用した骨評価の工程のフローチャートである。
【符号の説明】
10 足置き台
15 谷部
20 超音波振動子
21 走査部
22 送受信部
23 制御部
26 演算解析部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 踵骨を対象とする骨評価装置であって、足を上から載せるために所定角度開いて形成され、足を載せた時に踵が配置される谷部を有する足置き台と、骨評価部位に対して超音波を送受波する超音波振動子と、前記足置き台の頂角のほぼ2等分線上を、前記谷部から上方向に前記超音波振動子を移動させ、踵を走査する走査部と、前記超音波振動子から出力される超音波計測信号により前記2等分線上に配置された踵骨の端部を特定し、この端部から所定距離だけ上方向に隔たった前記2等分線上の点を踵骨内の物理的性質を計測する位置として決定する制御手段と、を含むことを特徴とする踵骨を対象とする骨評価装置。
【請求項2】 請求項1記載の踵骨を対象とする骨評価装置において、前記走査部は更に、前記2等分線に直交する方向にも前記超音波振動子を移動可能であり、前記制御手段は、前記超音波振動子から出力される超音波計測信号により前記2等分線に直交する方向における踵骨の両端部を検知し、この両端部を所定の割合で内分する点を踵骨内の物理的性質を計測する位置として決定する、ことを特徴とする踵骨を対象とする骨評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【特許番号】第2664628号
【登録日】平成9年(1997)6月20日
【発行日】平成9年(1997)10月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−278437
【出願日】平成5年(1993)11月8日
【公開番号】特開平7−124157
【公開日】平成7年(1995)5月16日
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【参考文献】
【文献】特開 平5−192333(JP,A)
【文献】特開 平5−192332(JP,A)
【文献】特開 昭47−32678(JP,A)
【文献】特開 平6−217977(JP,A)