説明

身体活動を促進させる乳酸菌

【課題】
本発明は、ヒト腸内由来乳酸菌および/または該乳酸菌の処理物を有効成分として含む身体活動促進剤、またはこれを含有する身体活動促進用食品組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】
発明者らは、上記課題を解決するために、マウスに乳酸菌死菌体ラクトバチルス・ガセリ OLL2809をマウスへ投与したところ、好酸球浸潤の抑制効果に加えて、行動量を増加させる効果があることを新たに発見した。即ち、本発明者らは、ラクトバチルス・ガセリ OLL2809やその発酵物、処理物を摂取することで、身体活動が促進すること、具体的には活動量が増加し、筋肉量も増加することを見出し、本発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトバチルス・ガセリを有効成分とする身体活動促進剤、またはこれらを含有する身体活動促進用食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
不規則な生活やストレスの多い現代社会においては、生活習慣病の予防を始めとする健康維持やストレス解消のために適度な運動やスポーツをすることが推奨されている。
【0003】
しかし、普段あまり体を動かすことのない人が急に運動やスポーツをした場合、すぐに筋肉疲労が起こったり、運動後に激しい筋肉疲労等に悩まされることがしばしば起こり、このことが日常的に運動を続けることが出来ない理由となっている場合がある。
【0004】
また、高齢者においては、適度な運動を実践する、あるいはリハビリテーションを実践する等が運動能力低下を防ぐ手段として用いられているが、モチベーションの維持の困難さや怪我の恐れもあり、現実的にはなかなか難しく、より効果的な方法が望まれている。
【0005】
一方、近年「脳腸相関」という定義が注目されている。脳腸相関は、腸内で生じた様々な信号が、神経系や、ホルモンやサイトカインなどの共通の情報伝達物質、受容体を介して、中枢神経系へ伝達され、その情報処理過程に影響を及ぼすことをいう(非特許文献1)。
【0006】
この脳腸相関に基づくと、腸内細菌叢と神経系も双方向的に関連するものであり、例えば、プロバイオティクス機能を持つ微生物を摂取すれば、それが腸内細菌叢に作用し、腸内細菌叢の健常化をはかりながら、中枢系に作用して脳への活性化効果が期待できると考えられる。
【0007】
乳酸菌などの微生物と運動に注目した先行技術には、特許文献1(特開2004−269361)や、特許文献2(WO2007/023896)などがある。特許文献2には、ラクトバチルス ヒルガルディーK−3株の細菌から醗酵法で生産されるGABAにGH分泌促進作用を見出し、これにより、筋肉、骨格の増強、脂肪の減少、皮膚の若返り、免疫力の回復などの生理効果が期待できることが開示されている。また、特許文献2には、ラクトバチルス・ヘルベティカス CM4株で発酵した発酵乳が、(a)抗酸化酵素発現作用、(b)熱ショックタンパク質発現作用、(c)好中球の走化性及び組織浸潤抑制作用を有することから、遅発性筋肉痛の抑制に有効であることが開示されている。
【0008】
しかしながら、これらは、乳酸菌発酵によって生成される物質が、ホルモン分泌を促したり運動後の筋肉痛を緩和するものであって、脳腸相関による活動量の増加を促すものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−269361
【特許文献2】国際公開公報WO2007/023896
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Aziz Q, Thompson DG., Gastroenterology 1998;114:559-578
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上の状況を鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、ヒト腸内由来乳酸菌および/または該乳酸菌の処理物を有効成分として含む身体活動促進剤、またはこれを含有する身体活動促進用食品組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記した課題を解決するために鋭意検討を行った結果、マウスに乳酸菌死菌体ラクトバチルス・ガセリ OLL2809をマウスへ投与したところ、行動量を増加させ、また筋肉量も増加させる効果があることを新たに発見した(図1及び図2)。
【0013】
即ち、本発明者らは、ラクトバチルス・ガセリ OLL2809やその発酵物、処理物を摂取することで、身体活動が促進すること、具体的には活動量が増加し、筋肉量も増加することを見出し、これにより本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は以下〔1〕〜〔10〕の発明に係るものである。
〔1〕ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)を有効成分とする身体活動促進剤。
〔2〕ラクトバチルス・ガセリの処理物であって、当該乳酸菌の培養物、濃縮物、ペースト化物、噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物、液状物、希釈物、破砕物から選ばれる少なくとも1つである乳酸菌処理物を有効成分とする身体活動促進剤。
〔3〕前記身体活動促進が、対象の活動量の増加であることを特徴とする、〔1〕又は〔2〕に記載の身体活動促進剤。
〔4〕前記身体活動促進が、対象の筋肉量の増加であることを特徴とする、〔1〕又は〔2〕に記載の身体活動促進剤。
〔5〕ラクトバチルス・ガセリが、受託番号NITE BP-72で寄託されている、ラクトバチルス・ガセリOLL2809菌株(Lactobacillus gasseri OLL2809)である、〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の身体活動促進剤。
〔6〕〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の身体活動促進剤の有効量を含有せしめた身体活動促進用食品組成物。
〔7〕身体活動促進用食品組成物を製造するための〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の身体活動促進剤の使用。
〔8〕身体活動促進用食品組成物が、乳児用調製粉乳、幼児用粉乳等食品、授乳婦用粉乳等食品、保健機能食品、病者用食品、または発酵乳である〔7〕記載の使用。
〔9〕ラクトバチルス・ガセリまたはその処理物を投与することを特徴とする、身体活動の促進方法。
〔10〕ラクトバチルス・ガセリまたはその培養物、濃縮物、ペースト化物、噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物、液状物、希釈物、破砕物から選ばれる少なくとも1つである処理物を用いることを特徴とする、身体活動促進用食品組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の身体活動促進剤は、後述する実施例において確認されるとおり、投与した対象の活動量を増加し、その筋肉量を増加する。このことから、本発明により、生活習慣病の予防を始めとする健康維持やストレス解消に有効な、新たな身体活動促進剤、またはこれを含有する身体活動促進用食品組成物を提供することが可能になった。
【0016】
本発明は、運動不足の人の活動量増加を支援することにより、運動を継続させ、QOLの向上を実現するものである。特に活動量の減少する高齢者に対しては、本発明の乳酸菌を摂取することにより、活動量減少抑制による筋肉、骨、関節、脳機能の維持などの健康維持効果が期待できる。
【0017】
本発明の身体活動促進用食品組成物は、産業上、運動を継続したい若者から中高年および適度の運動を推奨されている高齢者に対する運動開始食品や運動継続食品として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ラクトバチルス・ガセリOLL2809(Lactobacillus gasseri OLL2809、受託番号:NITE BP-72)投与2週目から3週目のマウスの行動量変化率を示す図である。投与2週目(2回の測定の平均値)と3週目(2回の測定の平均値)について、投与2週目と投与3週目での測定値の変化率(%)で、水投与群と乳酸菌投与群を比較した。
【図2】ラクトバチルス・ガセリOLL2809(Lactobacillus gasseri OLL2809、受託番号:NITE BP-72)を26日間投与し、マウス腓腹筋を摘出した。腓腹筋重量を体重で除した値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、乳酸菌を有効成分として含有する身体活動促進剤を提供する。本発明の身体活動促進剤は、乳酸菌としてラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)を含有する。身体活動促進効果を有する限り、ラクトバチルス・ガセリであればいずれも使用することができるが、体内投与後の生残性の高い種類が好ましい。本発明に使用可能なラクトバチルス・ガセリの具体例として、ラクトバチルス・ガセリ OLL2809(Lactobacillus gasseri OLL2809)菌株を挙げることができる。
【0020】
当該ラクトバチルス・ガセリ OLL2809は、種々のアレルギーモデル動物への経口投与で、免疫担当細胞からIL-12の産生を誘導してTh1/Th2バランスをTh1側に誘導する効果があることが明らかになっている(国際公開公報WO2006/093022)。国際公開公報WO2006/093022において、ヒト成人の糞便より独自に分離したLactobacillus属乳酸菌273菌株から、(1)胃酸・胆汁酸耐性試験、(2)マウス由来の脾臓細胞に対するIL-12産生促進効果、およびTh1/Th2バランス改善効果評価試験、(3)BALB/cマウスに卵白アルブミンを腹腔内投与することで誘導される抗原特異的IgE産生抑制効果評価試験、(4)C57BL/6Nマウスに食物抗原(カゼイン)を経口的に投与することで誘導される抗原特異的IgE産生抑制効果評価試験、(5)ナチュラルキラー細胞の活性化能評価試験、(6)卵白アルブミンで免疫したマウス由来の脾臓細胞および腸間膜リンパ節細胞に対するIL-12産生促進効果評価試験およびTh1/Th2バランス改善効果評価試験、(7)スギ花粉で誘発される好酸球増多抑制能評価試験を用いて検討し、いずれの項目においても高い活性を示したものである。
【0021】
本発明において、当該ラクトバチルス・ガセリ OLL2809を、投与された又は摂取した対象が、身体活動を促進させることが新たに明らかとなり、該乳酸菌を使用することで身体活動の促進に有効な、新たな身体活動促進剤、またはこれを含有する身体活動促進用食品組成物を提供することが可能になった。
【0022】
本発明者らは、この菌株を独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託した。以下に、寄託を特定する内容を記載する。
【0023】
本発明者らは、Lactobacillus gasseri OLL2809株を独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託した。以下に、寄託を特定する内容を記載する。
(1)寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター
(2)連絡先:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8
電話番号0438-20-5580
(3)受託番号:NITE BP-72
(4)識別のための表示:Lactobacillus gasseri OLL2809
(5)原寄託日:平成17年(2005年)2月1日
(6)ブダペスト条約に基づく寄託への移管日:2006年1月18日
【0024】
Lactobacillus gasseri OLL2809株(受託番号:NITE BP-72)は、グラム陽性桿菌であり、Lactobacilli MRS Agar, Difco上でのコロニー形態は円形、淡黄色、扁平状である。生理学的特徴としては、ホモ乳酸発酵形式、45℃での発育性、グルコース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、セロビオース、ラクトース、トレハロースに対する発酵性を有する。
【0025】
Lactobacillus gasseri OLL2809(受託番号:NITE BP-72)を培養するための培地としては乳酸菌の培地に通常用いられる培地が使用される。すなわち主炭素源のほか窒素源、無機物その他の栄養素を程良く含有する培地ならばいずれの培地も使用可能である。炭素源としてはラクトース、グルコース、スクロース、フルクトース、澱粉加水分解物、廃糖蜜などが使用菌の資化性に応じて使用できる。窒素源としてはカゼインの加水分解物、ホエータンパク質加水分解物、大豆タンパク質加水分解物等の有機窒素含有物が使用できる。ほかに増殖促進剤として肉エキス、魚肉エキス、酵母エキス等が用いられる。
【0026】
培養は嫌気条件下で行うことが望ましいが、通常用いられる液体静置培養などによる微好気条件下でもよい。嫌気培養には窒素ガス気層下で培養する方法などの公知の手法を適用することができるが、他の方法でもかまわない。培養温度は一般に30〜40℃が好ましいが、菌が生育する温度であれば他の温度条件でもよい。培養中の培地のpHは6.0〜7.0に維持することが好ましいが、菌が生育するpHであれば他のpH条件でもよい。また、バッチ培養条件下で培養することもできる。培養時間は通常10〜24時間が好ましいが、菌が生育することができる時間であれば、他の培養時間であってもよい。
【0027】
本発明に使用可能なその他のLactobacillus gasseriも、グラム陽性桿菌である点や、その他の生理学的特徴について、Lactobacillus gasseri OLL2809と同様の特徴を示す。このようなLactobacillus gasseriは、当業者であればヒト糞便等から生理学的特徴に基づいて分離することができる。
【0028】
本発明において、「身体活動が促進する(身体活動が促進される)」とは、特にその態様が制限されるものではないが、具体的には投与対象又は摂取対象において「(身体)活動量が増加する」又は「筋肉量が増加する」という態様を好ましい例として例示することができる。
【0029】
また、身体活動が促進され、身体活動量が多い者は、虚血性心疾患、高血圧、糖尿病、肥満、骨粗鬆症、結腸がんなどの罹患率や死亡率が低いことが認められている。すなわち、本発明において「身体活動促進」とは、虚血性心疾患、高血圧、糖尿病、肥満、骨粗鬆症、結腸がんなどの罹患率や死亡率を低下させることも意味する。
【0030】
また、身体活動の促進により、メンタルヘルスや生活の質(QOL)の改善に効果をもたらすことが認められている。すなわち、本発明において「身体活動促進」とは、精神状態を改善させること、又は生活の質を改善させることも意味する。
【0031】
また、身体活動の促進により、体重減少効果及び内臓脂肪量減少効果をもたらすことも知られている。すなわち、本発明において「身体活動促進」とは、体重を減少させること、又は内臓脂肪量を減少させることも意味する。
【0032】
更に高齢者においても、歩行など日常生活における身体活動が促進されることにより、寝たきりや死亡を減少させる効果のあることが示されている。すなわち、本発明において「身体活動促進」とは、身体活動量の減少する高齢者において、活動量減少抑制による筋肉、骨、関節、脳機能を維持させることも意味する。
【0033】
身体活動の促進効果は、実施例に記載の通り、投与対象又は摂取対象において(身体)活動量の平均値を、投与群(摂取群)及び非投与群(非摂取群)の間で比較することにより確認することができる。対象がマウスである場合には、マウスの活動期である暗期における行動量を測定することにより、身体活動量を測定することができる。基準となる週とその次の週の行動量の差を「行動量変化量」とし、行動量変化量を基準となる週の行動量で除することにより「行動量変化率」を算出でき、身体活動の促進効果の程度を確認することができる。「行動量変化率」が0%より大きい場合に、投与した乳酸菌は身体活動の促進効果を有すると認定することができる。本発明において、身体活動の促進効果により向上する「行動量変化率」の値の範囲については、特に制限はないが、好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上の変化率の範囲を例示することができる。
【0034】
また、身体活動の促進効果は、投与対象又は摂取対象において筋肉量、体重、又は内臓脂肪量を、投与群(摂取群)及び非投与群(非摂取群)の間で比較することにより確認することができる。筋肉量を測定する部位は、四肢(上腕、前腕、大腿、下腿)又は体幹等、いずれの部位であってもよい。本発明において筋肉量の増加を確認する場合には、実施例に記載の通り、ある特定の筋肉部位(例えば、腓腹筋)の筋肉量の重さ(重量)を測定し、投与群(摂取群)の筋肉量及び非投与群(非摂取群)の筋肉量を比較する。投与群(摂取群)の筋肉量が、非投与群(非摂取群)の筋肉量よりも重い場合に、投与した乳酸菌は身体活動の促進効果を有すると認定することができる。
【0035】
また、対象がヒトの場合には、運動強度指数であるメッツ(METs:metabolic equivalent)や、メッツに運動時間を掛けたメッツ・時(エクササイズ、Ex:exercise)
という指標を用い、身体活動を行った時間や、その身体活動の種類により、身体活動量を測定することが可能である。メッツ(METs)とは運動によるエネルギー消費量が安静時の何倍にあたるかを示す、身体活動の強度を示す単位であり、「1METs(メッツ)=座って安静にしている状態」、「3METs(メッツ)=通常歩行」等、各運動強度を表すことができる。エクササイズ(Ex)とは、「身体活動の強度[METs]×身体活動の実施時間[時]」で示される身体活動の量を表す単位であり、本単位に体重(Kg)及び基準値(1.05等)を掛け合わせることにより、消費カロリー(kcal)を算出することができる。身体活動の促進効果は、上記の方法により算出された消費カロリーの量を比較することによっても確認を行うことができる。
【0036】
また、身体活動促進剤の体内投与後の生残性は、胃酸・胆汁酸耐性試験によって確認できる。培養も、Lactobacillus gasseri OLL2809について上述したのと同様の方法によって可能である。
【0037】
本発明の身体活動促進剤は、上記Lactobacillus gasseiを種々の状態で含むことができ、例えば乳酸菌懸濁液、乳酸菌培養物(菌体、培養上清液(培地成分を含む))、乳酸菌発酵物(乳酸菌飲料、酸乳、ヨーグルト等)、等の状態で含むことができる。
【0038】
本発明の身体活動促進剤は、上記Lactobacillus gasseriをそのまま含んでもよく、または、Lactobacillus gasseriに何らかの処理を施した乳酸菌処理物として含んでもよい。本発明の身体活動促進剤に用いられる乳酸菌処理物としては、例えば乳酸菌、乳酸菌含有物、発酵乳の濃縮物、ペースト化物、乾燥物(噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物から選ばれる少なくともひとつ)、液状物、希釈物、破砕物等が挙げられる。また、乳酸菌としては生菌体、湿潤菌、乾燥菌等が適宜使用可能である。殺菌すなわち加熱殺菌処理、放射線殺菌処理、または破砕処理等を施した死菌体であってもよい。粉ミルクなど生物学的規格を有する医薬品および/または飲食品においても添加することも可能であり、医薬品および/または飲食品の形態などによらず様々な医薬品および/または飲食品に応用できる。
【0039】
本発明の身体活動促進剤は、単独、または医薬品や食品に通常使用されうる他の成分と混合して経口投与したり、他の身体活動促進活性を有する化合物や微生物等と併用することにより、ヒトおよび動物における身体活動の促進に有効である。
【0040】
本発明の身体活動促進剤としては培養終了後の乳酸菌培養液をそのまま、あるいは濃縮して濃縮物とするほか、濃縮物をさらに乾燥して使用できる。この菌体濃度は特に限定されないが、濃縮液で4×1010個/g以上、乾燥物で5×1011個/g以上とするのが好ましい。
【0041】
本発明の身体活動促進剤の医薬品または飲食品への配合量は形態、剤型、症状、体重、用途などによって異なるため、特に限定されないが、あえて挙げるなら、0.001〜100 %(w/w)の含量で配合することができ、好ましくは0.01〜100%(w/w)、さらに好ましくは0.1〜100%(w/w)の含量で配合することができる。
【0042】
本発明の身体活動促進剤の医薬品または飲食品の一日当たりの摂取量は年齢、症状、体重、用途などによって異なるため、特に限定されないが、あえて挙げるなら、0.1〜10000mg/kg体重を摂取することができ、好ましくは0.1〜1000mg/kg体重を摂取することができる。
【0043】
本発明の身体活動促進剤は、医薬品または飲食品いずれの形態でも利用することができる。例えば、医薬品として直接投与することにより、または特定保健用食品等の特別用途食品や栄養機能食品として直接摂取することにより上述の各種の身体活動の促進をすることが期待される。また、各種飲食品(牛乳、加工乳、乳飲料、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、アイスクリーム、キャンディ、グミ、ガム、調製粉乳、流動食、病者用食品、幼児用粉乳等食品、授乳婦用粉乳等食品、栄養食品等)に添加し、これを摂取してもよい。
【0044】
本発明の身体活動促進剤を含有する飲食品には、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等を混合して使用することができる。タンパク質としては、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエー粉、ホエータンパク質、ホエータンパク質濃縮物、ホエータンパク質分離物、α―カゼイン、β―カゼイン、κ−カゼイン、β―ラクトグロブリン、α―ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、これら加水分解物;バター、乳清ミネラル、クリーム、ホエー、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖等の各種乳由来成分などが挙げられる。糖類、加工澱粉(テキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などが挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられ、ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。本発明の身体活動促進剤を含有する飲食品の製造において、これらの成分は、合成品であっても、天然由来品のいずれでもよく、および/またはこれらを多く含む食品を原材料として用いてもよい。またこれらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
本発明の身体活動促進剤を食品組成物や薬剤の製造に使用する場合、製造方法は当業者に周知の方法によって行うことができる。当業者であれば、本発明のLactobacillus gasseri菌体または処理物を他の成分と混合する工程、成形工程、殺菌工程、発酵工程、焼成工程、乾燥工程、冷却工程、造粒工程、包装工程等を適宜組み合わせ、所望の食品や薬剤を作ることが可能である。
【0046】
また本発明のLactobacillus gasseriを各種乳製品の製造に使用する場合も、当業者に周知の方法で所望の乳製品を製造できる。ヨーグルトの場合の一例を示せば、本発明のLactobacillus gasseriを用いてスターターを調製する工程、該スターターを前処理した牛乳に加えて培養する工程、冷却工程、フレーバーリング工程、充填工程、等を経てヨーグルトを製造できる。チーズであれば、例えば、殺菌等の前処理をした牛乳に本発明のLactobacillus gasseriをスターターとして添加して乳酸発酵させる工程、レンネットを添加してチーズカードを生成する工程、カード切断工程、ホエー排出工程、加塩工程、熟成工程などを経て製造可能である。あるいは、前記各種乳製品の製造において、本発明のLactobacillus gasseriにおきかえて他の乳酸菌をスターターとして用い、製造工程中に本発明のLactobacillus gasseri菌体または処理物を添加してもよい。
【0047】
本発明の身体活動促進剤を医薬品として使用する場合には、種々の形態で投与することができる。その形態として、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与を挙げることができる。これらの各種製剤は、常法に従って主剤に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用し得る既知の補助剤を用いて製剤化することができる。また、当業者に周知の方法で腸溶性製剤とすることにより、胃酸の効果を受けることなく、本発明の身体活動促進剤をより効率的に腸まで運ぶことも可能である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例として、ラクトバチルス・ガセリOLL2809(Lactobacillus gasseri OLL2809、受託番号:NITE BP-72)について行った結果について詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
【0049】
6週齢のBALB/c雄性マウスを1週間馴化した後、実験に供した。実験開始1週間前に、測定値のばらつきを少なくするため、行動量による群分けを行なった。各群は1群8匹とした。実験開始日より、乳酸菌投与群として、乳酸菌Lactobacillus gasseri OLL2809の死菌体を2mg/body/day(2mg当たり、1x108から5 x108コ)、または、蒸留水投与群として蒸留水を 25日間経口投与し、マウスの活動期である暗期における行動量を測定した。行動量の測定は、赤外線の行動量測定装置(シンファクトリー社製)にて1週間に2回、24時間測定した。試験開始26日目に、マウスをエーテル麻酔下で頬の顔面静脈から採血し、腓腹筋を摘出し筋肉重量を測定した。統計処理は水投与群と乳酸菌投与群間でStudent's t-testを行なった。
【0050】
行動量は、投与2週目(2回の測定の平均値)と3週目(2回の測定の平均値)について、投与2週目と投与3週目での測定値の変化率(%)で比較した。
【0051】
その結果、乳酸菌投与群の行動量変化率は水投与群に比べて有意な高値を示すことが明らかとなった(図1:p=0.049)。また、剖検時は乳酸菌投与群の体重あたり右腓腹筋重量は水投与群と比べて有意な高値を示した(図2:p=0.016)。
【0052】
以上の結果から、Lactobacillus gasseriを投与することにより、投与対象の身体活動が促進されることが確認された。本技術は実施例に示したLactobacillus gasseriに限定されるものではなく、広くLactobacillus gasseri乳酸菌種に応用できる可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)を有効成分とする身体活動促進剤。
【請求項2】
ラクトバチルス・ガセリの処理物であって、当該乳酸菌の培養物、濃縮物、ペースト化物、噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物、液状物、希釈物、破砕物から選ばれる少なくとも1つである乳酸菌処理物を有効成分とする身体活動促進剤。
【請求項3】
前記身体活動促進が、対象の活動量の増加であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の身体活動促進剤。
【請求項4】
前記身体活動促進が、対象の筋肉量の増加であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の身体活動促進剤。
【請求項5】
ラクトバチルス・ガセリが、受託番号NITE BP-72で寄託されている、ラクトバチルス・ガセリOLL2809菌株(Lactobacillus gasseri OLL2809)である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の身体活動促進剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の身体活動促進剤の有効量を含有せしめた身体活動促進用食品組成物。
【請求項7】
身体活動促進用食品組成物を製造するための請求項1〜6のいずれか1項に記載の身体活動促進剤の使用。
【請求項8】
身体活動促進用食品組成物が、乳児用調製粉乳、幼児用粉乳等食品、授乳婦用粉乳等食品、保健機能食品、病者用食品、または発酵乳である請求項7記載の使用。
【請求項9】
ラクトバチルス・ガセリまたはその処理物を投与することを特徴とする、身体活動の促進方法。
【請求項10】
ラクトバチルス・ガセリまたはその培養物、濃縮物、ペースト化物、噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物、液状物、希釈物、破砕物から選ばれる少なくとも1つである処理物を用いることを特徴とする、身体活動促進用食品組成物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−47192(P2013−47192A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185777(P2011−185777)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000006138)株式会社明治 (265)
【Fターム(参考)】