説明

身体用マット

【課題】 床ずれが発生し易い圧迫部位はもとよりその周囲を含めて十分な除圧効果を得ることができ、且つ、沈み方についても十分に考慮して横揺れの発生を防止することが可能な身体用マットを提供すること。
【解決手段】 表面編地と裏面編地とこれら表面編地と裏面編地との間に設けられ上記表面編地と裏面編地とを連結する連結糸群とからなる立体編物であってその構成が同じもの及び又は異なるものを複数種類用意し、同じ種類の立体編物及び又は異なる種類の立体編物を複数枚積層させて構成されたもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、病院や介護施設等において使用される床ずれ防止マットや車椅子において使用されるクッション等として使用される身体用マットに係り、特に、身体の形態を底付きを起こすことなくその形態に合わせて沈めた状態で受け止めることができ、それによって、接触面積を拡大して局所的な除圧のみならず広範囲での除圧を可能にし、且つ、横揺れを防止することができるように工夫したものに関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる「床ずれ」とは、持続的な体表面の圧迫に伴う皮下軟部組織の循環障害に起因する局所的組織壊死である。この種の床ずれを防止する身体用マットの構成を開示するものとして、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4等があった。
【0003】
【特許文献1】特開平02−74648号公報
【特許文献2】特開平09−1708号公報
【特許文献3】実用新案登録第3093812号公報
【特許文献4】特開平18−204661号公報
【0004】
上記特許文献1〜特許文献4に開示されている身体用マットは、例えば、身体の骨突出部位等に頻発する床ずれに対してその部位の除圧を行うための工夫が施されている共に、保温性、通気性、清潔性等を向上させるための工夫が施されているものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の構成によると次のような問題があった。
身体の骨突出部位等に頻発する床ずれに対してはその部位の除圧が有効であるが、末梢循環障害に伴う皮膚毛細血管の血流低下においては、その突出部位(例えば、踵や脹脛)に対する除圧だけでは不十分であり、その周囲を広く含む広範囲での除圧が不可欠である。
このような観点から従来の身体用マットの構成をみてみると、何れの身体用マットも床ずれが発生し易い圧迫部位における除圧を主目的としており、よって、それ以外の部位に対しては十分な除圧効果が得られず、結局、末梢循環障害に伴う皮膚毛細血管の血流低下環境下における床ずれ防止効果を得ることができないという問題があった。
又、除圧以外の、例えば、身体の沈み方に関してこれを特に考慮したものはなく、その為、身体の荷重を作用させた時に、いわゆる「横揺れ」が発生してしまい、使用者に痛みを感じさせてしまうという問題があった。すなわち、横揺れが発生すると、使用者の皮膚の身体用マットとの接触面に摩擦が生じることになり、その部位の毛細血管の内腔が変形して血流が減少してしまう。それによって、使用者に不快な痛みを感じさせてしまうものである。
【0006】
本発明はこのような点に基づいてなされたものでその目的とするところは、身体の形態を底付きを起こすことなくその形態に合わせて沈めた状態で受け止めることができ、それによって、接触面積を拡大して局所的な除圧のみならず広範囲での除圧を可能にし、且つ、横揺れを防止することが可能な身体用マットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するべく本願発明の請求項1による身体用マットは、表面編地と裏面編地とこれら表面編地と裏面編地との間に設けられ上記表面編地と裏面編地とを連結する連結糸群とからなる立体編物であってその構成が同じもの及び又は異なるものを複数種類用意し、同じ種類の立体編物及び又は異なる種類の立体編物を複数枚積層させ、上記複数枚積層された立体編物の高さを比較した場合、上層を構成する立体編物の内最上位に位置する立体編物は上層のその他の立体編物及び中層・下層の立体編物に比べてその高さが低く設定されていることを特徴とするものである。
又、請求項2による身体用マットは、請求項1記載の身体用マットにおいて、上記複数枚積層された立体編物の内上層の立体編物の表面編地は中層・下層の立体編物の表面編地に比べて細かく編まれているものであることを特徴とするものである。
又、請求項3による身体用マットは、請求項1又は請求項2記載の身体用マットにおいて、上記各立体編物を二つ折りにして積層させたことを特徴とするものである。
又、請求項4による身体用マットは、請求項1〜請求項3の何れかに記載の身体用マットにおいて、その際、個々の立体編物が備えている荷重作用時の屈曲方向特性を考慮して、少なくとも積層させる全ての立体編物の上記屈曲方向特性が重ならないように、任意の立体編物を任意角度だけ回転・積層させるようにしたことを特徴とするものである。
又、請求項5による身体用マットは、請求項4記載の身体用マットにおいて、 上記複数枚の立体編物を積層させることにより、個々の立体編物が備えている荷重作用時の屈曲方向特性が全体として打ち消されて略鉛直下方に沈むように、上記回転させる任意の立体編物とその任意角度を決定することを特徴とするものである。
又、請求項6による身体用マットは、請求項5記載の身体用マットにおいて、 上記任意角度は45°〜90°の範囲で設定されることを特徴とするものである。
又、請求項7による身体用マットは、請求項6記載の身体用マットにおいて、 上記任意角度は90°であることを特徴とするものである。
又、請求項8による身体用マットは、請求項7記載の身体用マットにおいて、上記複数枚の立体編物を90°ずつ交互にずらして積層させたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
以上述べたように本願発明の請求項1による身体用マットは、表面編地と裏面編地とこれら表面編地と裏面編地との間に設けられ上記表面編地と裏面編地とを連結する連結糸群とからなる立体編物であってその構成が同じもの及び又は異なるものを複数種類用意し、同じ種類の立体編物及び又は異なる種類の立体編物を複数枚積層させ、上記複数枚積層された立体編物の高さを比較した場合、上層を構成する立体編物の内最上位に位置する立体編物は上層のその他の立体編物及び中層・下層の立体編物に比べてその高さが低く設定されているので、身体の形態を底付きを起こすことなくその形態に合わせて沈めた状態で受け止めることができ、それによって、接触面積を拡大して局所的な除圧のみならず広範囲での除圧を可能にすることができる。したがって、身体の骨突出部位等に頻発する床ずれに対してはもとより、末梢循環障害に伴う皮膚毛細血管の血流低下に対しても効果的に機能して床ずれ防止を図ることかできる。又、上層部で一気に沈み込むようなことを防止することができる。
又、請求項2による身体用マットは、請求項1記載の身体用マットにおいて、上記複数枚積層された立体編物の内上層の立体編物の表面編地は中層・下層の立体編物の表面編地に比べて細かく編まれているので、使用者に対して心地良さを提供することができる。
又、請求項3による身体用マットは、請求項1又は請求項2記載の身体用マットにおいて、上記各立体編物を二つ折りにして積層させた構成になっているので、ずれを防止する効果が期待できる。すなわち、片側は元々連続しているので、例えば、縫製により一体化する場合にもその位置ずれを防止することができる。又、二つ折りにした場合には、裏面編地が重なり合うことになるので裏面編地による効果が倍増されることになる。又、積層される他の立体編物に対しては相互の表面編地が接触されることになるので、それによっても、表面編地による効果が倍増される、又、二つ折りにした場合には、荷重作用時の屈曲特性が反対になるので、相互に打ち消しあってより鉛直下方への沈み込みを可能にすることができる。
又、請求項4による身体用マットは、請求項1〜請求項3の何れかに記載の身体用マットにおいて、その際、個々の立体編物が備えている荷重作用時の屈曲方向特性を考慮して、少なくとも積層させる全ての立体編物の上記屈曲方向特性が重ならないように、任意の立体編物を任意角度だけ回転・積層させるようにしたので、横揺れを防止することができ、使用者が不快な痛みを感じるようなことをなくすことができる。すなわち、横揺れの発生を抑制することにより、使用者の皮膚の身体用マットとの接触面における摩擦を軽減させ、その部位の毛細血管の内腔が変形して血流が減少してしまうことを防止することかでき、それによって、使用者に不快な痛みを感じさせることを防止することができるものである。
又、請求項5による身体用マットは、請求項4記載の身体用マットにおいて、 上記複数枚の立体編物を積層させることにより、個々の立体編物が備えている荷重作用時の屈曲方向特性が全体として打ち消されて略鉛直下方に沈むように、上記回転させる任意の立体編物とその任意角度を決定するように構成されているので、上記効果をより確実なものとすることができる。
又、請求項6による身体用マットは、請求項5記載の身体用マットにおいて、 上記任意角度は45°〜90°の範囲で設定されるように構成されているので、それによっても、上記効果をより確実なとものとすることができる。
又、請求項7による身体用マットは、請求項6記載の身体用マットにおいて、 上記任意角度は90°であるので、上記効果をより確実なものとすることができる。
又、請求項8による身体用マットは、請求項7記載の身体用マットにおいて、上記複数枚の立体編物を90°ずつ交互にずらして積層させた構成になっているので、上記効果をより確実なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図1乃至図14を参照して本発明の一実施の形態を説明する。まず、図1乃至図7を参照して本実施の形態において使用する立体編物の構成について説明する。本実施の形態では、7種類の立体編物を使用して、それら7種類の立体編物を任意の組み合わせで積層させて使用するものである。
【0010】
まず、図1に示すA型立体編物1について説明する。上記A型立体編物1は、表面編地3と、裏面編地5と、これら表面編地3と裏面編地5との間に設けられ表面編地3と裏面編地5とを連結する連結糸群7とから構成されている。上記表面編地3は多孔状をなしていて、六角形の孔3aが所定のピッチで複数形成された構成になっている。又、上記裏面編地5は繊維を格子状に編み込んだような状態になっていて、いわゆる「メッシュ」状に構成されている。又、上記連結糸群7は、図1(d)に拡大して示すように、上記表面編地3の孔3a以外の部位から上記裏面編地5の繊維の間に福数本が束ねられたような状態で張設されている。
【0011】
上記構成をなすA型立体編物1は、圧縮荷重に対して、特定の方向に屈曲する特性を備えている。具体的には、図1(a)において矢印aで示す方向に屈曲するという特性を備えている。又、本実施の形態においては、上記A型立体編物1の厚み(d)は略3mmに設定されている。又、上記連結糸群7の内一つの纏まり部分においては、図1(d)に示すように、縦寸法(a)に対して横寸法(b、横寸法は一定ではないが平均的な横寸法)が比較的大きな値となっている。
因みに、図1に示す場合には横寸法bが縦寸法aの略半分程度に設定されているが、a=bのようなものについても想定している。
【0012】
次に、図2に示すB型立体編物11について説明する。上記B型立体編物11は、表面編地13と、裏面編地15と、これら表面編地13と裏面編地15との間に設けられ表面編地13と裏面編地15とを連結する連結糸群17とから構成されている。上記表面編地13と裏面編地15は同じ構成になっていて、繊維を格子状に編み込んだような状態になっていて、いわゆる「メッシュ」状に構成されている。又、上記連結糸群17は、図1(c)に拡大して示すように、上記表面編地13の繊維と裏面編地15の繊維の間に張設されているものである。
【0013】
上記構成をなすB型立体編物11は、圧縮荷重に対して、特定の方向に屈曲する特性を備えている。具体的には、図2(b)において矢印bで示す方向に屈曲するという特性を備えている。又、本実施の形態においては、上記B型立体編物1の厚み(d)は略2mmに設定されている。又、上記連結糸群7の内一つの纏まり部分における縦寸法(a)と横寸法(b)の関係は略A型立体編物1の場合と略同じである。
【0014】
次に、図3に示すC型立体編物21について説明する。上記C型立体編物21は、表面編地23と、裏面編地25と、これら表面編地23と裏面編地25との間に設けられ表面編地23と裏面編地25とを連結する連結糸群27とから構成されている。上記表面編地23は多孔状をなしていて、六角形の孔23aが所定のピッチで複数形成された構成になっている。上記裏面編地25も多孔状をなしていて、六角形の孔25aが所定のピッチで複数形成された構成になっている。又、上記連結糸群27は、図1(c)に拡大して示すように、上記表面編地23の孔23a以外の部位と上記裏面編地25の孔25a以外の部位との間に張設されている。
【0015】
上記構成をなすC型立体編物21は、圧縮荷重に対して、特定の方向に屈曲する特性を備えている。具体的には、図3(a)において矢印cで示す方向に屈曲するという特性を備えている。又、本実施の形態においては、上記C型立体編物1の厚み(d)は略10mmに設定されている。又、上記連結糸群7の内一つの纏まり部分をみてみると、縦寸法(a)に対して横寸法(b、横寸法は一定ではないが平均的な横寸法)が比較的小さく設定されている。具体的には、横寸法bは縦寸法aの略1/8程度の大きさに設定されている。
【0016】
次に、図4に示すD型立体編物31について説明する。上記D型立体編物31は、表面編地33と、裏面編地35と、これら表面編地33と裏面編地35との間に設けられ表面編地33と裏面編地35とを連結する連結糸群37とから構成されている。上記表面編地33は多孔状をなしていて、六角形の孔33aが所定のピッチで複数形成された構成になっている。上記裏面編地35も多孔状をなしていて、六角形の孔35aが所定のピッチで複数形成された構成になっている。又、上記連結糸37は、図4(c)に拡大して示すように、上記表面編地33の孔33a以外の部位と上記裏面編地35の孔35a以外の部位との間に張設されている。
【0017】
上記構成をなすD型立体編物31は、圧縮荷重に対して、特定の方向に屈曲する特性を備えている。具体的には、図4(a)において矢印dで示す方向に屈曲するという特性を備えている。又、本実施の形態においては、上記D型立体編物31の厚み(d)は略8mmに設定されている。又、上記連結糸群7の内一つの纏まり部分をみてみると、縦寸法(a)に対して横寸法(b、横寸法は一定ではないが平均的な横寸法)が比較的小さく設定されている。具体的には、横寸法bは縦寸法aの略1/5程度の大きさに設定されている。
【0018】
次に、図5に示すE型立体編物41について説明する。上記E型立体編物41は、表面編地43と、裏面編地45と、これら表面編地43と裏面編地45との間に設けられ表面編地43と裏面編地45とを連結する連結糸群47とから構成されている。上記表面編地43は多孔状をなしていて、六角形の孔43aが所定のピッチで複数形成された構成になっている。上記裏面編地45も多孔状をなしていて、六角形の孔45aが所定のピッチで複数形成された構成になっている。又、上記連結糸群47は、図5(c)に拡大して示すように、上記表面編地43の孔43a以外の部位と上記裏面編地45の孔45a以外の部位との間に張設されているものである。又、上記連結糸47の一部は、図5(a)に示すように、横方向にも延長されているものである。
【0019】
上記構成をなすE型立体編物41は、圧縮荷重に対して、特定の方向に屈曲する特性を備えている。具体的には、図5(a)において矢印eで示す方向に屈曲するという特性を備えている。又、本実施の形態においては、上記E型立体編物41の厚み(d)は略4mmに設定されている。又、上記連結糸群7の内一つの纏まり部分をみてみると、縦寸法(a)と横寸法(b、横寸法は一定ではないが平均的な横寸法)の関係が、既に説明したA型立体編物1やB型立体編物11のグループとC型立体編物21やD型立体編物31のグループの中間程度に設定されている。
【0020】
次に、図6に示すF型立体編物51について説明する。上記F型立体編物51は、表面編地53と、裏面編地55と、これら表面編地53と裏面編地55との間に設けられ表面編地53と裏面編地55とを連結する連結糸群57とから構成されている。上記表面編地53は略布状に構成されている。上記裏面編地55は多孔状をなしていて、六角形の孔55aが所定のピッチで複数形成された構成になっている。又、上記連結糸57は、図6(c)に拡大して示すように、上記表面編地53と上記裏面編地55の孔55a以外の部位との間に張設されているものである。
【0021】
上記構成をなすF型立体編物51は、圧縮荷重に対して、特定の方向に屈曲する特性を備えている。具体的には、図5(a)において矢印fで示す方向に屈曲するという特性を備えている。又、本実施の形態においては、上記F型立体編物51の厚み(d)は略4mmに設定されている。又、上記連結糸群7の内一つの纏まり部分をみてみると、縦寸法(a)と横寸法(b、横寸法は一定ではないが平均的な横寸法)の関係が、既に説明したA型立体編物1やB型立体編物11のグループとC型立体編物21やD型立体編物31のグループの中間程度に設定されている。
【0022】
次に、図7に示すH型立体編物61について説明する。上記H型立体編物61は、表面編地63と、裏面編地65と、これら表面編地63と裏面編地65との間に設けられ表面編地63と裏面編地65とを連結する連結糸群67とから構成されている。上記表面編地63は多孔状をなしていて、六角形の孔63aが所定のピッチで複数形成された構成になっている。上記裏面編地65も多孔状をなしていて、六角形の孔65aが所定のピッチで複数形成された構成になっている。又、上記連結糸67は、図7(c)に拡大して示すように、上記表面編地63の孔63a以外の部位と上記裏面編地65の孔65a以外の部位との間に張設されているものである。
【0023】
上記構成をなすH型立体編物61は、圧縮荷重に対して、特定の方向に屈曲する特性を備えている。具体的には、図7(a)において矢印gで示す方向に屈曲するという特性を備えている。又、本実施の形態においては、上記H型立体編物61の厚み(d)は略5mmに設定されている。又、上記連結糸群7の内一つの纏まり部分をみてみると、縦寸法(a)と横寸法(b、横寸法は一定ではないが平均的な横寸法)の関係が、上記E型立体編物41やF型立体編物51の場合と同様に、既に説明したA型立体編物1とC型立体編物21の中間程度に設定されている。
尚、上記7種類の(A型〜F型、H型)立体編物1〜61としては、例えば、旭化成株式会社製の「フュージョン(登録商標)」なる素材の使用が考えられる。
【0024】
本実施の形態の場合には、上記7種類の(A型〜F型、H型)立体編物1〜61の中から同一種類の立体編物1〜61及び又は異なる種類の立体編物1〜61を任意に選択し、それらを積層させることにより身体用マット71を構成しているものである。この点に関して詳しく説明すると、本実施の形態の場合には、身体の形態を底付きを起こすことなくその形態に合わせて沈めた状態で受け止め、それによって、接触面積を増大させて、局所的な除圧のみならず、その周囲を含めた広範囲での除圧を行うことを企図している。そのため、荷重に対して復元力(緩やから反発力)を備えた素材の使用が必要となるが、既に説明した7種類の(A型〜F型、H型)立体編物1〜61はまさにそのような目的に適した素材である。
又、そのような立体編物1〜61を使用した場合には、荷重作用時における横揺れが懸念される。本実施の形態ではそのような横揺れをなくすための工夫も施しているものである。
以下、図8及び図9を参照して具体的に説明する。
【0025】
まず、図8に示す身体用マット71から説明する。ここに示す身体用マット71は、前述した7種類の(A型〜F型、H型)立体編物1〜61の中から、A型立体編物1、B型立体編物11、C型立体編物21を選択して積層させた構成になっている。そして、図8に示す身体用マット71は、A型立体編物1、B型立体編物11、C型立体編物21を、夫々二つ折りにして、そのまま積層させた構成になっている。これに対して、図9に示す身体用マット71は、A型立体編物1、B型立体編物11、C型立体編物21を、夫々二つ折りにして、且つ、B型立体編物11をA型立体編物1及びC型立体編物21に対して90°回転させた状態として積層させているものである。
【0026】
以下、任意の組み合わせを100通り以上設定して、それらについて圧力測定と使用者の感覚体験を確認した。その中には、回転方向にずらす角度を90°ではなく45°に設定したものもある。そして、最終的に10種類の組み合わせに絞り込んだ。その組み合わせは次の通りである。
組み合わせ1:A型立体編物1、B型立体編物11、C型立体編物21の組み合わせ(回転方向にずらしていないタイプと回転方向に90°ずらしたタイプの二通り)。
組み合わせ2:A型立体編物1、B型立体編物11、C型立体編物21、D型立体編物31の組み合わせ(回転方向にずらしていないタイプと回転方向に90°ずらしたタイプの二通り)。
組み合わせ3:A型立体編物1、A型立体編物1、C型立体編物21の組み合わせ(回転方向にずらしていないタイプと回転方向に90°ずらしたタイプの二通り)。
組み合わせ4:A型立体編物1、C型立体編物21、E型立体編物41の組み合わせ(回転方向にずらしていないタイプと回転方向に90°ずらしたタイプの二通り)。
組み合わせ5:A型立体編物1、H型立体編物61、C型立体編物21の組み合わせ(回転方向にずらしていないタイプと回転方向に90°ずらしたタイプの二通り)。
組み合わせ6:A型立体編物1、C型立体編物21、C型立体編物21の組み合わせ(回転方向にずらしていないタイプと回転方向に90°ずらしたタイプの二通り)。
組み合わせ7:A型立体編物1、B型立体編物11、D型立体編物31、C型立体編物21の組み合わせ(回転方向にずらしていないタイプと回転方向に90°ずらしたタイプの二通り)。
組み合わせ8:A型立体編物1、A型立体編物1、C型立体編物21、D型立体編物31の組み合わせ(回転方向にずらしていないタイプと回転方向に90°ずらしたタイプの二通り)。
組み合わせ9:A型立体編物1、F型立体編物51、C型立体編物21の組み合わせ(回転方向にずらしていないタイプと回転方向に90°ずらしたタイプの二通り)。
組み合わせ10:A型立体編物1、F型立体編物51、C型立体編物21、D型立体編物31の組み合わせ(回転方向にずらしていないタイプと回転方向に90°ずらしたタイプの二通り)。
尚、回転方向に90°ずらして積層させる場合には、最上位に位置する立体編物2対して、二枚目の立体編物を90°回転させ、順次、90°回転させた状態で積層させていくことを意味している。
【0027】
上記10種類の組み合わせの身体用マット71は次のような点でその他の身体用マットに比べて優れていると考えられる。まず、最上層に比較的高さが低く、且つ、連結糸群7の内一つの纏まり部分における縦寸法(a)に対して横寸法(b、横寸法は一定ではないが平均的な横寸法)が比較的大きな値に設定されているA型立体編物1を配置しており、それによって、荷重作用時に一気に沈み込むことを防止できるようになっている。一方、中層及び下層においては比較的高さがあり、且つ、連結糸群7の内一つの纏まり部分における縦寸法(a)に対して横寸法(b、横寸法は一定ではないが平均的な横寸法)が比較的小さく設定されている立体編物、例えば、C型立体編物21、D型立体編物31を配置することにより、必要な沈み込みを行わせて必要な接触面積を確保できるようになっている。又、最上層に配置されているA型立体編物1はその表面編地3が比較的細かく編まれているので、使用時の感触も心地良いものとなる。これらの理由により上記10種類の組み合わせの身体用マット71が選択されているものである。
【0028】
ここで、圧力測定の様子を図10を参照して説明する。まず、測定用ベッド81があり、この測定用ベッド81上には基台83が設置されている。この基台83上に上記測定対象である各種身体用マット71を設置する。そして、上記身体用マット71の上に圧力測定用敷物85を設置する。この圧力測定用敷物85には複数個の圧力センサ(図示せず)がマトリックス状に設置されていて、各部の圧力を細かく検出できる構成になっている。上記圧力測定用敷物85からの検出信号は信号線87を介してパーソナルコンピュータ89に入力されるように構成されている。
【0029】
そして、図示するように、上記圧力測定用敷物85上に人間の足を模した足モデル91を設置し、その足モデル91上に荷重、例えば、砂袋93を載せると共に、帯状砂袋94を足モデル91の先端部に巻き付けて、夫々荷重を作用させ、その際の各部位の圧力を測定するものである。
【0030】
上記10種類の組み合わせによる身体用マット71に対する測定結果を図11乃至図13に示す。まず、図11は、10種類の組み合わせによる身体用マット71(10種類の組み合わせに関して夫々二つのタイプがあるので実際には20種類)の荷重と測定圧力を示したものである。
【0031】
例えば、「組み合わせ1」の二つのタイプについてみてみると、重り平均圧は初期値が「27.7」であるのに対して、非回転タイプが「24.1」、回転タイプが「19.4」を夫々示している。次に、重りピークをみてみると、初期値が「45」であるのに対して、非回転タイプが「33.5」、回転タイプが「26.5」を夫々示している。
次に、踵の測定圧力をみてみる。まず、踵の平均圧は、初期値が「21.4」であるのに対して、非回転タイプが「19.2」、回転タイプが「22.1」を夫々示している。次に、踵のピーク圧をみてみると、初期値が「36.1」であるのに対して、非回転タイプ「27.2」、回転タイプが「35.3」を夫々示している。
次に、脹脛の測定圧力をみてみる。まず、脹脛の平均圧は、初期値が「49.1」であるのに対して、非回転タイプが「30.8」、回転タイプが「27.9」を夫々示している。次に、脹脛のピーク圧をみてみると、初期値が「152.8」であるのに対して、非回転タイプが「56.9」、回転タイプが「42.7」を夫々示している。
以下、残り9種類の組み合わせの夫々の二通りのタイプに関して同様の測定を行い、その結果を図11に示しているものである。
【0032】
次に、図12であるが、これは10種類の組み合わせによる身体用マット71(10種類の組み合わせに関して夫々二つのタイプがあるので実際には20種類)の接触面積を測定して示したものである。
【0033】
まず、組み合わせ1の二つのタイプについてみてみると、錘接触面積の初期値は「24.2」であるのに対して、非回転タイプは「24.2」、回転タイプは「24.2」を夫々示している。次に、踵の接触面積をみてみると、初期値は「9.7」であるのに対して、非回転タイプは「16.1」、回転タイプは「16.1」を夫々示している。次に、脹脛の接触面積をみてみると、初期値は「124.2」であるのに対して、非回転タイプは「158.1」、非回転タイプは「138.7」を夫々示している。
以下、残り9種類の組み合わせの夫々の二通りのタイプに関して同様の測定を行い、その結果を図11に示しているものである。
【0034】
上記図11、図12、図13は荷重を作用させた後3分経過後のデータを夫々示している。
【0035】
次に、図11〜図13に示した10種類の組み合わせによる身体用マット71(10種類の組み合わせに関して夫々二つのタイプがあるので実際には20種類)の中から特に有効であると認められた3種類に関して、過重作用時の沈み方を測定した。まず、上記3種類とは次の3種類である。
組み合わせ2:A型立体編物1、B型立体編物11、C型立体編物21、D型立体編物31の組み合わせ(回転方向にずらしていないタイプと回転方向に90°ずらしたタイプの二通り)。
組み合わせ4:A型立体編物1、C型立体編物21、E型立体編物41の組み合わせ(回転方向にずらしていないタイプと回転方向に90°ずらしたタイプの二通り)。
組み合わせ10:A型立体編物1、F型立体編物51、C型立体編物21、D型立体編物31の組み合わせ(回転方向にずらしていないタイプと回転方向に90°ずらしたタイプの二通り)。
これら3種類の身体用マット71については、図11〜図13のデータからも明らかなように、踵と脹脛の両方において良好な結果が得られているものである。
【0036】
上記沈み方の測定は次のような方法により行った。まず、キャリブレーション用分銅(1kg)の中心点を設定する。一方、レーザーポインタを空中に固定し、レーザーポインタより出力されるレーザ光を垂直の物指に沿わせて落して身体用マット71上にスポットを映した。次に、キャリブレーション用分銅を身体用マット71上に載せる。そして、30秒経過した後、中心点とレーザーポインタのスポットとの距離を測定した。測定は30回測定してその平均値を算出したものである。
【0037】
図14はその測定結果を示すものである。何れも中心点からのずれは小さいものの、90度回転方向にずらしたものについては、特に効果的であり、殆ど真っ直ぐ下方に沈んでいることがわかる。
【0038】
以上本実施の形態によると次のような効果を奏することができる。
まず、身体の形態を底付きを起こすことなくその形態に合わせて沈めた状態で受け止めることができ、それによって、接触面積を拡大して局所的な除圧のみならず広範囲での除圧を可能にすることができる。したがって、身体の骨突出部位等に頻発する床ずれに対してはもとより、末梢循環障害に伴う皮膚毛細血管の血流低下に対しても効果的に機能して床ずれ防止を図ることかできる。
又、横揺れを防止することができ、使用者が不快な痛みを感じるようなことをなくすことができる。すなわち、横揺れの発生を抑制することにより、使用者の皮膚の身体用マットとの接触面における摩擦を軽減させ、その部位の毛細血管の内腔が変形して血流が減少してしまうことを防止することかでき、それによって、使用者に不快な痛みを感じさせることを防止することができるものである。
特に、最上層に比較的高さが低く、且つ、連結糸群7の内一つの纏まり部分における縦寸法(a)に対して横寸法(b、横寸法は一定ではないが平均的な横寸法)が比較的大きな値に設定されている立体編物、例えば、A型立体編物1を配置した場合には、それによって、荷重作用時に一気に沈み込むことを防止できる。
又、中層及び下層において比較的高さがあり、且つ、連結糸群7の内一つの纏まり部分における縦寸法(a)に対して横寸法(b、横寸法は一定ではないが平均的な横寸法)が比較的小さく設定されている立体編物、例えば、C型立体編物21、D型立体編物31等を配置した場合には、必要な沈み込みを行わせて必要な接触面積を確保することができる。
又、最上層にその表面編地3が比較的細かく編まれている立体編物、例えば、A型立体編物1を使用した場合には、使用時の感触も心地良いものとなる。
又、本実施の形態の場合には、各立体編物1〜61を二つ折りにして積層させているので、ずれを防止する効果が期待できる。すなわち、片側は元々連続しているので、例えば、縫製により一体化する場合にもその位置ずれを防止することができる。
又、二つ折りにした場合には、裏面編地5〜65が重なり合うことになるので裏面編地5〜65による効果が倍増されることになる。
又、積層される他の立体編物1〜61に対しては相互の表面編地3〜63が接触されることになるので、それによっても、表面編地3〜63による効果が倍増される、
又、二つ折りにした場合には、荷重作用時の屈曲特性が反対になるので、相互に打ち消しあってより鉛直下方への沈み込みを可能にすることができる。
【0039】
尚、本発明は前記一実施の形態に限定されるものではない。
まず、用途に関しては、病院や介護施設におけるベッドに敷く身体用マットが典型的な例であるが、それに限定されるものではなく、様々な用途が想定される。
又、前記各実施の形態の場合には、積層時に、各立体編物を二つ折りにして積層させた場合を例に挙げて説明しているが、それに限定されるものではなく、二つ折りせずに積層させる、三つ折り以上に折って積層させるような構成も想定される。
又、前記一実施の形態では、上層、中層、下層に夫々立体編物を一枚又は二枚設置した場合を例に挙げて説明しているが、各層に何枚の立体編物を積層させるかについてはこれを特に限定するものではない。例えば、上層に複数枚の立体編物を積層させた場合、少なくとも、その内の最上位に位置する立体編物の高さが上層のその他の立体編物および中層、下層の立体編物の高さより低く設定されていればよく、その際上層のその他の立体編物の高さが中層、下層の立体編物の高さより高いような場合も想定される。
その他、図示したものはあくまで一例である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は身体用マットに係り、特に、身体の形態を底付きを起こすことなくその形態に合わせて沈めた状態で受け止めることができ、それによって、接触面積を拡大して局所的な除圧のみならず広範囲での除圧を可能にし、且つ、横揺れを防止することができるように工夫したものに関し、例えば、病院、介護施設等において使用される床ずれ防止マットとして最適である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施の形態を示す図で、図1(a)は立体編物の平面図、図1(b)は立体編物の背面図、図1(c)は立体編物の側面図、図1(d)は図1(c)のd部を拡大して示す側面図である。
【図2】本発明の一実施の形態を示す図で、図2(a)は立体編物の平面図、図2(b)は立体編物の側面図、図2(c)は図2(b)のc部を拡大して示す側面図である。
【図3】本発明の一実施の形態を示す図で、図3(a)は立体編物の平面図、図3(b)は立体編物の背面図、図3(c)は図3(b)のc部を拡大して示す側面図である。
【図4】本発明の一実施の形態を示す図で、図4(a)は立体編物の平面図、図4(b)は立体編物の背面図、図4(c)は図4(b)のc部を拡大して示す側面図である。
【図5】本発明の一実施の形態を示す図で、図5(a)は立体編物の平面図、図5(b)は立体編物の背面図、図5(c)は図5(b)のc部を拡大して示す側面図である。
【図6】本発明の一実施の形態を示す図で、図6(a)は立体編物の平面図、図6(b)は立体編物の背面図、図6(c)は立体編物の側面図、図6(d)は図6(c)のd部を拡大して示す側面図である。
【図7】本発明の一実施の形態を示す図で、図7(a)は立体編物の平面図、図7(b)は立体編物の側面図、図7(c)は図7(b)のc部を拡大して示す側面図である。
【図8】本発明の一実施の形態を示す図で、身体用マットの構成を示す斜視図である。
【図9】本発明の一実施の形態を示す図で、身体用マットの構成を示す斜視図である。
【図10】本発明の一実施の形態を示す図で、圧力を測定するための装置を示す斜視図である。
【図11】本発明の一実施の形態を示す図で、測定結果を示す図である。
【図12】本発明の一実施の形態を示す図で、測定結果を示す図である。
【図13】本発明の一実施の形態を示す図で、測定結果を示す図である。
【図14】本発明の一実施の形態を示す図で、測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 A型立体編物
3 表面編地
5 裏面編地
7 連結糸
11 B型立体編物
13 表面編地
15 裏面編地
17 連結糸
21 C型立体編物
23 表面編地
25 裏面編地
27 連結糸
31 D型立体編物
33 表面編地
35 裏面編地
37 連結糸
41 E型立体編物
43 表面編地
45 裏面編地
47 連結糸
51 F型立体編物
53 表面編地
55 裏面編地
57 連結糸
61 H型立体編物
63 表面編地
65 裏面編地
67 連結糸
71 身体用マット



【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面編地と裏面編地とこれら表面編地と裏面編地との間に設けられ上記表面編地と裏面編地とを連結する連結糸群とからなる立体編物であってその構成が同じもの及び又は異なるものを複数種類用意し、
同じ種類の立体編物及び又は異なる種類の立体編物を複数枚積層させ、
上記複数枚積層された立体編物の高さを比較した場合、上層を構成する立体編物の内最上位に位置する立体編物は上層のその他の立体編物及び中層・下層の立体編物に比べてその高さが低く設定されていることを特徴とする身体用マット。
【請求項2】
請求項1記載の身体用マットにおいて、
上記複数枚積層された立体編物の内上層の立体編物の表面編地は中層・下層の立体編物の表面編地に比べて細かく編まれているものであることを特徴とする身体用マット。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の身体用マットにおいて、
上記各立体編物を二つ折りにして積層させたことを特徴とする身体用マット。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかに記載の身体用マットにおいて、
個々の立体編物が備えている荷重作用時の屈曲方向特性を考慮して、少なくとも積層させる全ての立体編物の上記屈曲方向特性が重ならないように、任意の立体編物を任意角度だけ回転・積層させるようにしたことを特徴とする身体用マット。
【請求項5】
請求項4記載の身体用マットにおいて、
上記複数枚の立体編物を積層させることにより、個々の立体編物が備えている荷重作用時の屈曲方向特性が全体として打ち消されて略鉛直下方に沈むように、上記回転させる任意の立体編物とその任意角度を決定することを特徴とする身体用マット。
【請求項6】
請求項5記載の身体用マットにおいて、
上記任意角度は45°〜90°の範囲で設定されることを特徴とする身体用マット。
【請求項7】
請求項6記載の身体用マットにおいて、
上記任意角度は90°であることを特徴とする身体用マット。
【請求項8】
請求項7記載の身体用マットにおいて、
上記複数枚の立体編物を90°ずつ交互にずらして積層させたことを特徴とする身体用マット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−148657(P2010−148657A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329766(P2008−329766)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(507219686)静岡県公立大学法人 (63)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】