説明

身体装着型熱中症警告装置

【課題】熱中症の発症予測に当たり従来のように環境の温湿度状況や作業の種類や強度から平均的な推測をするのでなく、一人一人について生理データをリアルタイムに測定しながら予測・警告する。
【解決手段】熱中症の特徴は発汗の経緯によって捉えられるので、既に我々が考案した小型発汗測定装置(特願2010−73544および特願2010−246833)を応用し、これに熱中症発症予測のロジックを組み込むことで達成できる。さらに精度を上げるためには、熱中症の第二要因である熱放散を経時的に捉えることであり、それは温度センサ1個を加えることで可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各個人において熱中症を未然に警告する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、熱中症が起こりやすいかどうかの判定・警告に、主として環境温度や湿度が利用され、特に厚生労働省は湿球黒球温度(WBGT)の使用を推奨している(基安発第0729001、平成17年7月29日)。しかし実際に発症するかどうかは、環境温湿度だけでなく、生理特性やその時の行動によって異なるため、WBGT法では測定温度以外に各人の作業強度や温熱適応度、その場の空気流の感覚的評価を別途考慮しなければ発症予測はできない。
【0003】
しかしそれらは本人の感覚で評価した主観的なものであり、さらに、その日の飲水状況や体温など、熱中症発症に関与する必須情報を考慮しているわけではない。そのため、人それぞれに最適な発症予測や警告は難しい。医学書に一般的に述べられているように、熱中症は必ずしも環境によって引き起こされるのではなく、心臓疾患や糖尿病、肥満の状況、あるいは薬物摂取の状況等により、結果的に体温調節に不具合が生じた時に発症する。即ち、各個人について発汗を中心とする体温調節機能をリアルタイムに把握しなければ、発症可能性は予測・警告できない。
【0004】
熱中症に関与する生理学的パラメータで簡便に測定できる量は体温である。行動を束縛することなく体温を連続(断続)的に測る装置は、これまで多くの発明や市販品があり、熱中症予防にも利用されている(例えば、特許文献2および3)。
【0005】
しかし、熱中症予測に必要な体温は核心温(直腸温や脳内温)であって、上記[0004]に示すような皮膚表面から簡単に測定できる温度ではない。核心温でない一般的な体温は外気温湿度の影響を受け、また核心温より変化が遅れるので、熱中症予測精度は低い。それを補うためには、体温調節の重要因子である発汗もリアルタイムに測定する必要がある。
【0006】
従来、行動・作業を束縛することなく発汗量を測る小型の装置は皆無だったが、我々は既に皮膚装着型の発汗連続記録装置を考案している(特願2010−73544および特願2010−246833)。これを基に個人レベルでの熱中症警告装置を作ることができる。
【先行技術文献】
【0007】
【特許文献1】 特許4129477号公報
【0008】
【特許文献2】 特開2009−108451号公報
【0009】
【特許文献3】 特開2010−131209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
課題は、行動を束縛することなく、熱中症に直接関与する生理量を連続モニターすることで発症を予測し、事前に警告を発することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
熱中症に至る生理的過程を把握するには体温(核心温)の経時変化を知る必要があるが、これは日常生活においては極めて困難であるので、体温調節因子である発汗または熱放散の経時変化測定・積算が重要になる。即ち、ある時刻の、ある場所での環境温度や労働状態ではなく、それまでの発汗(失った水分量)、発熱の経緯を知らなければならない。
【0012】
発汗量は、既に出願済みの考案(特願2010−246833)の構造と計算アルゴリズムを利用し、数分おきに算出する。
【0013】
熱放散を測る場合は、一定距離を置いて固定した2個の温度センサの出力差から熱流を求める。
【0014】
温度測定においては、身体の動きに伴ってセンサと皮膚の密着が損なわれる場合も考慮し、非接触型測温センサ(サーモパイル)を使用することも考えられる。
【0015】
経時発汗量が得られれば皮膚面からの熱放散(熱流)は必ずしも必要ではないが、熱中症予測の精度向上には有効である。その場合、皮膚面に接触する温度センサと、皮膚面から上方へ少し距離を置いた位置の温度センサとの差分により、放散熱流に比例した指標が得られる。[0012]の考案に含まれる発汗量測定用温湿度センサは皮膚面より約2ミリメートル上方に配置するので、これを後者の温度センサとして兼用できる。
【0016】
従来研究されている熱中症の過程に即して、マイコンにより上記[0012]〜[0015]の発汗量と体温(それに必要に応じて熱放散)の変動および相互関係を判断し、発生する確率水準をLEDや液晶で表示したり、ブザーにより警告を発する。
【発明の効果】
【0017】
熱中症予測に必要な生理量を、肌に密着しやすい伸縮性シャツ(肌着)の内側に設けられたポケットに入れて携帯できるサイズで、しかも安価に製作可能な装置を使ってモニターできるので、個人ごとに熱中症発症警告を発することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は警告装置の原理と構造を説明するためのものである。
【図2】図2は警告装置の構造(断面)を示したものである。
【図3】図3は警告装置による発汗・温度測定、および熱中症指標WBGT測定器による評価値、外耳道体温(核心温に比較的近い変動を示す体温)の同時計測結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
行動を阻害せず衣服内に装着可能な大きさまで小型化するために、発汗測定は従来の強制換気流による測定方式やシリカゲル吸着法(特願2010−73544)を避け、図1に示すような自然空気流を作り出し、その途中に温湿度センサ(5)を配置する。
【0020】
皮膚からの熱流に関する指標を得る場合は、ケース底面(皮膚接触面)に皮膚温度測定用センサ(8)を別途設け、これと上記[0019]に述べたセンサ(5)による温度との差分を求める。
【0021】
上記[0020]の熱流測定は、生体深部の状況を知ることでさらに正確な熱中症発症予測を行うためのものであり、温湿度センサ(5)による発汗および温度情報だけでも簡易的に予測できる。その場合は、温度センサ(8)は省略可能である。
【実施例】
【0022】
構造と原理を表す図1において、水蒸気(汗)はケース底板の穴から流入し、まず温湿度センサー(5)で検知される。その後、水蒸気はマイコン回路基板(4)によって流れが阻害され、容器内に一定時間滞留するが、最後は基板周辺の隙間を通り排出される。
【0023】
この構造は、既に出願済みの身体発汗モニター装置(特願2010−246833)と同等であり、その発汗計算理論も適用できる。
【0024】
皮膚からの放散熱量は、温度センサ(8)と温湿度センサ(5)によって得られる温度差(温度勾配)に比例する。外気温がかなり高い場合は、逆に外部から生体内への流入熱量となる。
【0025】
放散熱の正確な計算には比熱等の係数や蒸気(空気)流の考慮が必要である。しかし、ここではおおまかな放熱変化に関する指標が得られれば十分であるため、対流による熱の移動も含めた包括的な指標として温度差を使用する。
【0026】
図1または図2の熱中症警告装置によって得られる発汗および温度と合わせて、[0002]で示した熱中症指標WBGT、体温の代表としての外耳温、環境温度を同時記録した例を図3に示す。高温環境下の安静時には環境温の増加と共に発汗が次第に増えるので、体温上昇は抑制され、警告には至らない。実際、WBGTも30程度であり、これは安静時では問題にならない。さらに、作業を始めて暫くすると、環境温度はまだ高いにもかかわらず、それまで高い値を示していた発汗が急激に減少する(図中A点)。ここで熱中症警告装置は警告を発することになる。このとき体温(外耳温)は高く、下がる様子も見られないので、警告は妥当と考えられる。実際には外耳温の情報は無いので,「熱中症警告装置の温度が十分に下がっていないにもかかわらず、それまで持続していた発汗が極端に減少している」ことが警告のロジックとなる。
【0027】
図3から明らかになることは、▲1▼熱中症警告装置の温度データは環境温度とほぼ同じ変化傾向である、▲2▼熱中症警告装置による発汗および温度変化から、従来のWBGT法と同等の警告を発することができる、▲3▼体温上昇抑制に効果的な発汗現象をとらえることで、従来のWBGTでは為し得ない、その個人特有の警告を発することができる。
【0028】
WBGTは単に温度指標を示すだけであり、これから熱中症を予測するには、自分が今行っている作業・運動の強度、および自分の熱への慣れ、空気流の有無を判断しなくてはならず、現場では非常に面倒で実用的ではない。また実際に熱中症が進行し始めたとき、そのような冷静な判断のできる意識状態ではないという意味でも実用的ではない。さらにランプの点滅やブザー音が無いので、救助者となり得る他人も気付くことができない。
【0029】
この装置は、通常は肌に密着しやすい伸縮性シャツ(肌着)の内側に装着する。装着は紐で首からぶら下げるか、またはシャツの内側にポケットを作っておくことで可能である。ポケットを取り付ける場合、その素材として水蒸気透過性が高い布を選んだ方が良い。
【産業上の利用可能性】
【0030】
熱中症は炎天下の遊びやスポーツばかりでなく、強い火力を扱う作業や密閉防護服を着用した作業でも頻繁に起こる。本人が水分損失と体温上昇に気付かないまま作業を続けることが問題なので、本発明のような発症予測装置は労働管理上、必須である。
【0031】
本発明は、熱中症を従来のような作業環境や労働時間、労働強度から推測するのではなく、直接、生体の熱中症要因指標をモニターするのであるから、WBGT法のように環境や労働の種類などを毎回考慮する不便さは無い。
【0032】
本発明は安価・小型に実用化できるので、具体的には、真夏のスポーツなどで一人一人が肌着内側のポケットに入れておくといった使用法が考えられ、大きな市場が予測できる。また溶鉱炉、消火作業、原子力周辺等の防護服着用作業において作業員の安全を確保するだけでなく、これらの防護服の設計・開発、また建物環境の設計・改善に役立つ。
【符号の説明】
【0033】
1 LEDランプ
2 ブザー
3 電池ケース
4 マイコン回路基板
5 温湿度センサ
6 ケース枠
7 ケース底板
8 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気を導入する一個ないし複数の穴と、その水蒸気が流出する一個ないし複数個の穴ないしは隙間を別途有するケースにより水蒸気の流路を作り出し、その途中に温湿度センサーを配置し、その信号を処理する電子回路をケース内に内蔵して演算を施すことによって身体の発汗を経時的に得て、その結果から、それを装着している本人の熱中症発症率を予測するロジックを内蔵した装置。
【請求項2】
上記請求項1の熱中症発生率予測精度をさらに高めるために、皮膚接触面に温度センサを追加し、合計2個の温度センサ出力の差分から、皮膚深部の体温予測値および放熱熱流指標を得る装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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