説明

車上データベース装置、列車制御装置、及び、列車制御方法

【課題】鉄道交通の安全性を確保しつつ、コストを低減しうる車上データベース装置、列車制御装置、及び、列車制御方法を提供する。
【解決手段】車上データベース装置10は、ある特定の位置を基準とした地点の位置情報と、地点から特定の位置までの距離情報及び速度制限情報S3とを記録しており、外部から入力される位置情報信号S1から自列車の現在位置を把握し、自列車の進行方向でみて現在位置より先の地点における情報S3を出力する。車上データベース装置10は、車上列車制御装置20と組み合わされて、列車制御装置を構成する。車上列車制御装置20は、速度照査機能部21を有し、速度照査機能部21は、車上データベース装置10から入力される情報S3に基づいて列車速度制御信号S5を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車上データベース装置、列車制御装置、及び、列車制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道では、運行する複数の列車の間隔を保ち、列車同士が衝突しないようにするために、軌道上に閉そく区間を設定し、閉そく区間の境界(閉そく境界)に信号機を設置して列車に進行または停止を指示することにより、各閉そく区間には1列車しか進入を許可しないようにしている。さらに、運転士が前記信号機の指示に従わず、冒進した場合には列車同士が衝突する危険があるため、現在では列車制御装置によって、各列車の速度超過及び過走を自動的に規制している。
【0003】
上述した列車制御装置の一つとして、例えば特許文献1には、信号機が停止現示を示している信号を地上子から受信したときに、所定の停止点を停車位置とする停止パターンを車上において生成し、その停止パターンに基づいて列車を運転制御する自動列車停止装置が開示されている。この地上子は、典型的には、閉そく境界まで所定の制動距離を確保した地点に設置され、到達した列車に対して、当該列車の位置情報、信号機の信号現示情報に基づく距離情報、及び、速度制限情報等を電文として送信する。そして車上側では、受信した前記情報に基づき停止パターンを生成することとなる。
【0004】
ところで、この種の自動列車停止装置は、車両電源を切断すると、その時点で車上側のメモリに記録されていた停止パターンも一旦消去され、次回の車両電源の立ち上げ後、最初に到達した地上子から前記情報を受信することにより、改めて停止パターンを生成するシステムとなっている。このようなシステムは、車上側のメモリに停止パターンを残した場合、電源切断後の列車の不正移動や、その他自動列車停止装置の不正操作によって、前記メモリに残された停止パターンと、本来あるべき停止パターンとの間で誤差が生じ、冒進の原因となるリスクを回避しようとするものである。
【0005】
しかし、上述したシステムでは、車両電源を立ち上げ後、最初の地上子に到達するまで間の走行に対し、自動列車停止装置による速度制御が働かないこととなり、その結果、冒進が発生するという新たな問題が生じる。例えば、最初の地上子に到達した時点で既に速度超過状態にあり、当該超過速度に対する制動距離が、前記最初の地上子から閉そく境界までの距離よりも長くなってしまった場合、地上子到達地点で停止パターンを生成したとしても、冒進を回避できないこととなる。
【0006】
上述した新たな問題に対し、地上子からの受信を受けて初めて停止パターンが形成される特許文献1記載の自動列車停止装置では、これを解消することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−204109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、鉄道交通の安全性を確保しつつ、コストを低減しうる車上データベース装置、列車制御装置、及び、列車制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明に係る車上データベース装置は、ある特定の位置を基準とした地点の位置情報と、前記地点から前記特定の位置までの距離情報及び速度制限情報とを記録しており、外部から入力される位置情報信号から自列車の現在位置を把握し、自列車の進行方向でみて前記現在位置より先の前記地点における前記距離情報及び速度制限情報(制限情報)を出力する。
【0010】
本発明に係る車上データベース装置は、車上列車制御装置と組み合わされて、列車制御装置を構成する。車上列車制御装置は、速度照査機能部を有し、速度照査機能部は、車上データベース装置から入力される前記制限情報に基づいて列車速度制御信号を出力する。
【0011】
ところで、この種の自動列車停止装置は、車両電源を切断すると、その地点で車上側のメモリに保有していた停止パターン(列車速度制御信号)も一旦消去され、次回の車両電源の立ち上げ後、最初に到達した地上子から前記情報を受信することにより、改めて停止パターンを生成するシステムとなっている。しかし、このようなシステムでは、車両電源を立ち上げ後、最初の地上子に到達するまで間の走行に対し、自動列車停止装置による速度制御が働かないこととなり、その結果、冒進が発生するという新たな問題が生じる。
【0012】
上述した新たな問題を解決するため、本発明に係る列車制御装置を構成する車上データベース装置は、3つの特徴的な構成を有している。まず、車上データベース装置の第1の特徴は、ある特定の位置を基準とした地点の位置情報を記録していること、である。この構成によると、同地点に、いわば仮想の地上子が設定されることとなる。この仮想地上子の設定は、実際の地上子とは異なり、物理的制約及び電気的制約がない上、設置工事を行う必要もない分、コストを低減することができる。
【0013】
次に、車上データベース装置の第2の特徴は、前記地点から前記特定の位置までの距離情報及び速度制限情報(制限情報)が記録されていること、である。この構成によると、仮想地上子として設定された地点において出力されるべき制限情報が、予め記録されていることとなる。
【0014】
さらに、車上データベース装置の第3の特徴は、外部から入力される位置情報信号から自列車の現在位置を把握し、自列車の進行方向でみて前記現在位置より先の前記地点における制限情報を出力すること、である。この構成によると、列車が、仮想地上子の設定地点に実際に到達していない位置にあっても、前記設定地点における制限情報を、いわば先読みして、車上列車制御装置に出力することができる。
【0015】
本発明に係る列車制御装置は、上述した車上データベース装置の第1〜第3の特徴的な構成を有することにより、車上列車制御装置の速度照査機能部には、先読みされた仮想地上子の制限情報が入力され、この入力された制限情報に基づいて列車速度制御信号を出力することができる。従って、列車が仮想地上子の設定地点に実際に到達していない間の走行に対し、列車制御装置による速度制御を働かせることが可能となり、鉄道交通の安全性を確保することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上述べたように、本発明によれば、鉄道交通の安全性を確保しつつ、コストを低減しうる車上データベース装置、列車制御装置、及び、列車制御方法を提供することができる。
【0017】
本発明の他の目的、構成及び利点については、添付図面を参照し、更に詳しく説明する。添付図面は、単に、例示に過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る車上データベース装置のブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る列車制御装置のブロック図である。
【図3】図2に示した列車制御装置による列車制御方法について模式的に示す図である。
【図4】本発明のもう一つの実施形態に係る列車制御装置のブロック図である。
【図5】本発明の更にもう一つの実施形態に係る列車制御装置のブロック図である。
【図6】図5に示した列車制御装置による列車制御方法について模式的に示す図である。
【図7】本発明の更にもう一つの実施形態に係る列車制御装置による列車制御方法について模式的に示す図である。
【図8】本発明の更にもう一つの実施形態に係る列車制御装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1乃至8において同一符号は、同一又は対応部分を示すものとする。本発明に係る車上データベース装置は、列車制御用であり、ある特定の位置を基準とした地点の位置情報と、前記地点から前記特定の位置までの距離情報及び速度制限情報(制限情報)とを記憶しており、外部から入力される位置情報信号から自列車の現在位置を把握し、自列車の進行方向でみて、現在位置より先の前記地点における前記制限情報を出力するものである。以下、図1乃至図8を参照して具体的に説明する。
【0020】
図1の車上データベース装置10は、データベース部11と、位置把握機能部12とを含む。データベース部11には、この種の列車制御に必要な基本情報が予め記録されている。ここで、「この種の列車制御に必要な基本情報」とは、自列車が走行する軌道の全長距離情報や勾配情報、自列車の加速性能及び制動性能の情報、信号現示の更新タイミング情報などであり、端的に言えば、従来の自動列車停止装置(いわゆATS装置)や、パターン制御式速度照査機能付き自動列車停止装置(いわゆるATS−P装置)などにおいて、地上子から出力されるべき情報がこれに該当する。
【0021】
本発明の実施形態に係るデータベース部11は、上記基本情報に加え、ある特定の位置を基準とした地点の位置情報と、地点から特定の位置までの距離情報及び速度制限情報(制限情報S3)とが記録されている点に特徴の一つがある。ここで、「ある特定の位置」とは、自列車が走行する軌道上において速度超過や過走が規制されるべき位置であり、典型的には、閉そく区間の境界(閉そく境界)がこれに該当する。
【0022】
また、閉そく境界を「ある特定の位置」とした場合、「ある特定の位置を基準とした地点の位置情報」とは、特定の閉そく境界を基準とし、同境界に対して自列車の制動性能から必要な制動距離を確保した地点の位置情報である。違う言葉で表現すれば、従来のATS装置やATS−P装置などにおいて、地上子が設置されるべき地点、及び、その位置情報がこれに該当する。以下、説明の都合上、「ある特定の位置」を閉そく境界に統一して説明する。
【0023】
位置把握機能部12は、外部から入力される位置情報信号S1から自列車の現在位置を把握する。この位置情報信号S1は、位置把握機能部12によって把握されるべき現在位置が、走行中の自列車の現在位置か、又は、停車中の自列車の現在位置かで異ならせることができる。
【0024】
走行中の自列車の現在位置を把握する場合、位置把握機能部12は、速度発電機などの車軸回転検出器から供給される速度信号を位置情報信号S1とし、この速度信号(S1)に基づいて走行中の自列車の走行距離情報(S2)を生成し、生成した走行距離情報(S2)をデータベース部11に出力する。データベース部11は、その基本情報に、入力された走行距離情報(S2)を照合して、走行中の自列車の現在位置を把握する。
【0025】
他方、停車中の自列車の現在位置を把握する場合、位置把握機能部12は、GPS(Global Positioning System)衛星から入力されるGPS電波を位置情報信号S1とし、このGPS電波(S1)に基づいて自列車の位置情報(S2)を生成し、生成した把握位置情報(S2)をデータベース部11に出力する。データベース部11は、その基本情報に、入力された位置情報(S2)を照合して、停車中の自列車の現在位置を把握する。もっとも、GPS電波を位置情報信号S1とした場合、走行中の自列車の現在位置を把握することもできる。
【0026】
さらに、データベース部11は、把握した自列車の現在位置を、その基本情報と照合し、現在位置から、その進行方向の先に設定された前記地点を特定し、特定した地点から閉そく境界までの距離情報及び速度制限情報(制限情報S3)を出力する。
【0027】
上述したように、図1の車上データベース装置は、既に述べたように、3つの特徴的な構成を有している。まず、第1の特徴は、ある特定の位置を基準とした地点の位置情報を記録していること、である。この構成によると、例えば閉そく境界を基準とし、閉そく境界まで所定の制動距離を確保した地点の位置情報を、車上データベース装置に記録させることにより、同地点に、いわば仮想の地上子が設定されることとなる。この仮想地上子の設定は、実際の地上子とは異なり、物理的制約及び電気的制約がない上、設置工事を行う必要もない分、コストを低減することができる。
【0028】
次に、第2の特徴は、前記地点から前記特定の位置までの制限情報S3が記録されていること、である。この構成によると、例えば仮想地上子から閉そく境界までの制限情報S3が予め車上データベース装置に記録されていることとなる。
【0029】
さらに、第3の特徴は、外部から入力される位置情報信号S1から自列車の現在位置を把握し、自列車の進行方向でみて現在位置より先の地点における制限情報S3を出力すること、である。この構成によると、列車が、仮想地上子の設定地点に実際に到達していない位置にあっても、自列車の現在位置を基準とし、自列車の進行方向でみて先の地点(仮想地上子)における制限情報S3を、いわば先読みして、車上列車制御装置に出力することができる。
【0030】
次に、図1の車上データベース装置、及び、これを用いた列車制御方法について、図2及び図3を参照して説明する。図2及び図3の列車制御装置は、車上装置のみで構成されており、図1を参照して説明した車上データベース装置10と、車上列車制御装置20と、制動機構30とを含む。
【0031】
図2の車上データベース装置10は、車上列車制御装置20とは別体であり、車上列車制御装置20に情報伝送ケーブルを介して接続されている。車上データベース装置10は、図1を参照して説明した3つの特徴的な構成を有しているから、データベース部11に、閉そく境界P0までの制動距離L1を確保した地点P1の位置情報が記録されていることにより、地点P1にはデータ上の、いわば仮想地上子13(破線表記)が設定されることとなる。
【0032】
車上列車制御装置20は、速度照査機能部21と、メモリ領域22とを有し、速度照査機能部21は、車上データベース装置10から入力される制限情報S3に基づいて列車速度制御信号S5を生成する。もっとも、車上列車制御装置20をハードウエア的観点からみれば、速度照査機能部21は、この種の車上列車制御装置20に備えられるCPU(Central Processing Unit)である。すなわち、速度照査機能部21は、前記CPUにおける演算処理機能であって、ソフトウェア的な構成要素として、車上列車制御装置20を構成している。
【0033】
図2及び図3の列車制御装置による列車制御方法では、まず、車上データベース装置10において、データベース部11は、その基本情報に、位置把握機能部12から入力された位置情報S2を照合して、自列車の現在位置ALを把握する。この現在位置ALとしては、例えば当該列車の車両電源を切断した位置、当該列車の車両電源を立ち上げた位置、折り返し運転となる当該折り返し駅などが想定される。
【0034】
さらに、データベース部11は、把握した現在位置ALを基準として、自列車の進行方向Fでみて先に設定された地点P1を特定し、地点P1における制限情報S3を、いわば先読みして、速度照査機能部21に出力する。違う言葉で表現すれば、データベース部11は、自列車が実際に仮想地上子13に到達していない位置(AL)にあっても、仮想地上子13に到達しているものとみなし、仮想地上子13の制限情報S3を速度照査機能部21に出力する。
【0035】
次に、速度照査機能部21は、入力された制限情報S3に基づいて列車速度制御信号S5を生成し、生成した列車速度制御信号S5を制動機構30に出力する。すなわち、列車は、現在位置ALから地点P1までの間の区間L0を走行しているとき、先読みされた仮想地上子13の制限情報S3に基づく列車速度制御信号S5が、制動機構30に出力されることにより、速度超過及び過走が規制されることとなる。
【0036】
その後の継続的な走行により、列車が、仮想地上子13に到達(又は通過)したとき、当該制動機構30には、地点P1でみた信号機の現示情報S4に基づく列車速度制御信号S5が出力される。すなわち、位置把握機能部12は、列車が区間L0を走行することにより供給される位置情報信号S2(例えば速度信号)に基づいて位置情報S2を生成し、データベース部11に出力する。データベース部11は、その基本情報に、入力された位置情報S2を照合して、走行中の自列車の現在位置を継続的に把握し、自列車が仮想地上子13に到達したと判断したとき、地点P1でみた現示情報S4に基づいて、閉そく境界P0を停止位置とする制限情報S3を出力する。
【0037】
通常、この種の列車制御においては、信号現示系列上、列車の進行方向Fに設置された閉そく信号機群の信号現示を予測することが可能である。データベース部11は、その基本情報と、地点P1でみた現示情報S4とを照合し、停止現示を示す閉そく信号機(停止現示信号機)を予測することにより、その停止現示信号機によって示される閉そく境界P0を停止位置とする制限情報S3を生成し、出力する。
【0038】
上述したように、図1の車上データベース装置10、及び、これを用いた図2及び図3の列車制御装置において、速度照査機能部21には、先読みされた仮想地上子13の制限情報S3が入力され、この入力された制限情報S3に基づいて列車速度制御信号S5が出力されるから、区間L0の走行に対し、列車停止装置による速度制御を働かせることができる。従って、鉄道交通の安全性を確保することができる。
【0039】
さらに、その後の継続的な走行により、自列車が仮想地上子13に実際に到達したとき、データベース部11は、地点P1でみた信号機の現示情報S4に基づいて、閉そく境界P0を停止位置とする制限情報S3を出力する。よって、地点P1から閉そく境界P0までの走行に対しても、列車停止装置による速度制御が働くこととなる。
【0040】
上述したように、図1の車上データベース装置10、及び、これを用いた図2及び図3の列車制御装置では、軌道内に実際の地上子を設置する替わりに、データベース部11に仮想地上子13を設定し、この仮想地上子13に基づいて列車制御が行われるものである。すなわち、列車制御装置は、車上データベース装置10を有することにより、実際の地上子が不要となるから、地上子の設置工事、及び、地上子の設置工事に先立つ現地調査も不要になる分、設置工事、及び、現地調査費用を削減することができる。
【0041】
また、仮想地上子13は、データベース部11に設定される位置情報であるから、その設定位置には物理的制約、電気的制約は存在しない。その結果、情報内容の設計が容易になり、コストを低減することができる。
【0042】
車上データベース装置10から出力される制限情報S3は、従来のATS装置やATS−P装置などの地上子から出力されるべき制限情報と一致するように設計することが可能である。この構成によると、従来の情報作成ツールやノウハウをそのまま踏襲することが可能となるから、設計コストが低減される。
【0043】
さらに、制限情報S3を、従来の地上子の制限情報と一致するように設計した場合、例えば現に運用されている車上列車制御装置20を改修して、車上データベース装置10を外部接続することにより、仮想地上子13のみで列車制御をおこなうことも、既存の地上子と仮想地上子13とを重畳利用して列車制御をおこなうこともできる。いずれにしても、車上データベース装置10を、車上列車制御装置20に外部接続する構成では、車上側の改修が最低限で済むこととなるから、鉄道交通の安全性を確保しつつ、コストを低減することができる。
【0044】
制限情報S3の設計において、ATS−P装置のような距離情報ではなく、周波数信号を出力する方式を取ることにより、変周式ATSにおいても制限情報S3を出力することが可能となる。
【0045】
図4の列車制御装置は、図1乃至図3の車上データベース装置10が、車上列車制御装置20と一体化されている以外は、図1乃至3を参照して説明した列車制御装置と実質的に同一の構成を有している。以下、相違点を中心に説明する。
【0046】
図4の車上列車制御装置20をハードウエア的観点から見れば、図1乃至図3を参照して説明した車上データベース装置(一点鎖線表記)と、これを構成する車上データベース部11及び位置把握機能部12は、車上列車制御装置20に備えられるCPUの演算処理機能の一つとなっている。すなわち、車上データベース部11及び位置把握機能部12は、速度照査機能部21と同様に、ソフトウェア的な構成要素として、車上列車制御装置20を構成している。図4の実施形態によっても、図1乃至3を参照して説明した車上データベース装置10、及び、これを用いた列車制御装置の利点を全て有することができる。
【0047】
図5及び図6は、図1乃至図3を参照して説明した車上データベース装置10を、ATS装置やATS−P装置などと組み合わせた列車制御装置の実施形態である。図5及び図6の列車制御装置は、列車側に設置される車上装置1と、地上側に設置される地上装置4とで構成されている。地上装置4は、当該技術分野において、周知の構成部分であるから、簡単に説明する。
【0048】
地上装置4は、通常、通過する列車毎に加速性能および制動性能が異なることや、現示情報S4の更新タイミングなどを考慮し、1つの閉そく区間に複数配置される地上子41〜44を有している。図6を参照すると、地上子41〜44は、閉そく境界P0からの距離L1〜L4を段階的に異ならせて設置され、更に言えば、その設置数および設置位置は設計の観点から、通常、基本となるパターンが予め決定されている。一例として、図6の地上子41〜44のそれぞれは、閉そく境界P0に遠い側から、到達距離が異なる地点P1〜P4ごとに、距離L1で600m、距離L2で180m、距離L3で85m、距離L4で30mとなるパターンで設置されている。
【0049】
図5及び図6からは必ずしも明らかではないが、地上子41〜44には、情報伝送ケ−ブルを介して信号制御器が接続されており、例えば車上装置1を搭載する列車が地上子41に到達したとき、信号制御器によって生成された当該列車の位置情報、信号機の信号現示情報(S4)に基づく距離情報、及び、速度制限情報等が制御電文として、地上子40から車上子50に送信される。具体的に、車上子50は、列車の走行中、送受信アンテナから地上子駆動用電力波を連続して地上に送信しており、列車が地上子41の応動距離内に進入し、地上子41と電磁結合することにより、地上子41から前記制御電文を受信する。
【0050】
速度照査機能部21は、車上子50から供給された制御電文の内容に基づいて、列車速度制限信号S5を生成する。例えば、車上子50から供給された電文内容が停止現示のとき、停止パターンを内容とする列車速度制御信号S5を生成して制動機構30に出力し、この列車速度制御信号S5に従って制動機構30が列車を制御する。
【0051】
ところで、ATS装置やATS−P装置など従来の自動列車停止装置では、地点ALで車両電源を切断すると、車上側のメモリに記録されていた停止パターンも一旦消去される。そして、次回の車両電源の立ち上げ後、当該地点ALから走行を開始し、最初に到達した地上子41から情報を受信することにより、改めて停止パターンを生成するシステムとなっている。このようなシステムは、車上側のメモリに停止パターンを残した場合、電源切断後の列車の不正移動や、その他自動列車停止装置の不正操作によって、前記メモリに残された停止パターンと、本来あるべき停止パターンとの間で誤差が生じ、冒進の原因となるリスクを回避しようとするものである。
【0052】
しかし、上述したシステムでは、地点ALから地上子41に到達するまでの距離L0内の走行に対し、自動列車停止装置による速度制御が働かないこととなり、その結果、冒進が発生するという新たな問題が生じる。例えば、地上子41に到達した地点P1で既に速度超過状態にあり、当該超過速度に対する制動距離が、地点P1から閉そく境界P0までの距離L1よりも長くなってしまった場合、地上子41との電文送受信に基づいて停止パターンを生成したとしても、冒進を回避できないこととなる。
【0053】
これに対し、図5及び図6の列車制御装置を構成する車上装置において、車上データベース装置10は、図1乃至図4を参照して説明した利点を全て含み、第1乃至第3の特徴的な構成を有するから、例えば地点P1の位置情報を車上データベース装置10に記録させることにより、同地点P1に、予め仮想地上子13を設定することができる。仮想地上子13の設置には物理的制約及び電気的制約が存在しないため、地点P1〜P4以外の地点に設定することも可能ではあるが、情報の設計に係る効率を考慮し、好ましくは、基本パターンL1〜L4に沿った地点P1〜P4のいずれかに設定される。
【0054】
そして、車上データベース装置10は、自列車が実際に仮想地上子13に到達していない位置(AL)にあっても、仮想地上子13に到達しているものとみなし、仮想地上子13の制限情報S3を速度照査機能部21に出力する。この構成によると、距離L0内の走行に対し、仮想地上子13の制限情報S3に基づく速度制御を働かせることが可能となり、もって、鉄道交通の安全性を確保することができる。
【0055】
しかも、その後の継続的な走行により、列車が、P1〜P4の各地点に実際に到達したときは、地上子41〜44と車上子50との間で情報の送受信が行われることとなるから、この種の列車制御装置の本来的な機能により、列車の速度制御が行われ、鉄道交通の安全性が確保されることは言うまでもない。
【0056】
図7の列車制御装置は、地上子41の設置地点P10と、仮想地上子13の設定地点P1とが異なる以外は、図5及び図6の列車制御装置と同一の構成を有している。以下、相違点を中心に説明する。
【0057】
図5及び図6で既に説明したように、この種の自動列車停止装置では、地上子41〜44は基本パターンL1〜L4に則って設置されることとなっている。しかし、実際の地上子41〜44の設置にあたっては、各設置場所における物理的制約および電気的制約等から、基本パターンL1〜L4に則って設置できない不都合が多々生じる。例えば、地上子41が本来設置されるべき地点P1が踏切内に当たるなど物理的制約などがある場合、地点P1から、距離L10の分だけ閉そく境界P0の側に近づく地点P10に設置せざるをえなくなる。
【0058】
従来、基本パターンL1〜L4に沿った位置に地上子41〜44を設置できない場合、例えば、地上子41から送信されるべき速度制限情報等を、差分距離L10に基づいて個別に補正する必要があり、設計が非常に面倒になる。このような面倒を避けるには、地上子41〜44の設置に先立ち、地上子41〜44を基本パターンL1〜L4に則って設置することができるか否かの現地調査を、当該軌道の全長に渡って行う必要があり、莫大な費用負担を強いられる。
【0059】
また、速度制限情報等の出力を地上子のみに依存する従来の列車制御装置では、地上子41〜44の位置を変更する必要が生じた場合や、新たな地上子を追加する必要が生じた場合、当該工事が完了するまで列車制御を行うことができず、鉄道交通の安全性が不完全なものとなる。しかも、地上子の位置変更及び追加設置工事は、列車の運行がない終電から始発までの夜間にしか行うことができないため、作業期間が長期化する傾向にあり、その分だけコスト高となる。
【0060】
これに対し、図7の列車制御装置では、図1乃至図6を参照して説明した利点を全て有することにより、例えば、物理的制約などによって地上子41を設置できない地点P1に、実際の地上子41を設置する代わりに、データ上の仮想地上子13を設定し、これを地上子41〜44と重畳利用して列車制御をおこなうことができる。従って、鉄道交通の安全性を確保しつつ、コストを低減しうる。
【0061】
また、既存の地上子41〜44の位置を変更する必要が生じた場合や、新たな地上子を追加する必要が生じた場合、前記変更又は追加地点に仮想地上子13を設定することにより、即時に対応することが可能であり、その準備期間も短期間ですむから、その分だけコストを低減することができる。
【0062】
図8の車上装置1は、車上データベース装置10が、車上列車制御装置20と一体化されている以外は、基本的に図5及び図7と実質的に同一の構成を有するものであるから、図1乃至図7を参照して説明した利点を全て奏することができる。
【0063】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種種の変形態様を採り得ることは自明である。
【符号の説明】
【0064】
10 車上データベース装置
20 車上列車制御装置
21 速度照査機能部
4 地上装置
S1 位置情報信号
S3 制限情報
S5 列車速度制御信号
P0 ある特定の位置
P1〜P4、P10 地点
AL 現在位置
F 列車の進行方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある特定の位置を基準とした地点の位置情報と、前記地点から前記特定の位置までの距離情報及び速度制限情報とを記憶した車上データベース装置であって、外部から入力される位置情報信号から自列車の現在位置を把握し、自列車の進行方向でみて前記現在位置より先の前記地点における前記距離情報及び速度制限情報を出力する、
車上データベース装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車上データベース装置であって、さらに自列車が前記地点に到達したと判断したとき、前記距離情報及び前記速度制限情報を出力する、
車上データベース装置
【請求項3】
車上データベース装置と、車上列車制御装置とを含む列車制御装置であって、
前記車上データベース装置は、請求項1又は2に記載されたものでなり、前記車上列車制御装置とは別体であり、
前記車上列車制御装置は、前記速度照査機能部を有し、
前記速度照査機能部は、前記車上データベース装置から入力される前記距離情報及び前記速度制限情報に基づいて列車速度制御信号を出力する、
列車制御装置。
【請求項4】
車上データベース装置と、車上列車制御装置とを含む列車制御装置であって、
前記車上データベース装置は、請求項1又は2に記載されたものでなり、前記車上列車制御装置と一体化されており、
前記車上列車制御装置は、前記速度照査機能部を有し、
前記速度照査機能部は、前記車上データベース装置から入力される前記距離情報及び前記速度制限情報に基づいて列車速度制御信号を出力する、
列車制御装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載された列車制御装置であって、さらに地上装置を含み、
前記地上装置は、軌道内において、ある特定の位置を基準とした地点に設置され、自列車が設置地点に到達したとき、前記設置地点から前記特定の位置までの距離情報及び速度制限情報を前記車上列車制御装置に出力する、
列車制御装置。
【請求項6】
車上データベース装置において、特定の位置を基準とした地点の位置情報と、外部から入力される位置情報信号とから自列車の現在位置を把握し、列車の進行方向でみて前記現在位置より先の前記地点における前記距離情報及び速度制限情報を出力し、
前記車上列車制御装置において、前記車上データベース部から入力された前記距離情報及び前記速度制限情報に基づいて列車速度制御信号を出力する、
列車制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−93959(P2013−93959A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234115(P2011−234115)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】