説明

車上装置及び列車制御装置

【課題】一車両に搭載された車上装置について一つの車上子を備え、全体として、2つの車上子を備えればよく、したがって車上子の数を増加させずに、車上子二重化を実現し得る車上装置及び列車制御装置を提供すること。
【解決手段】本発明に係る車上装置は、第1車上装置31及び第2車上装置32を含み、複数車両101〜10nの編成でなる列車に搭載される。第1車上装置31及び第2車上装置32のそれぞれは、一つの車上子51または52と、信号処理部(311、312)または(321、322)とを含み、先頭車両101及び最後尾車両10nに搭載される。信号処理部(311、312)または(321、322)のそれぞれは、車上子51、52からの信号を互いに認識し、共通処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に搭載される車上装置及びそれを用いた列車制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の制御にあたっては、車両に搭載された車上装置と、地上に備えられた地上装置の地上子との間で、情報の送受信を行う。送受信の対象となる情報は、列車速度情報、列車位置情報、軌道識別情報、列車番号、軌道情報等、多岐にわたる。これらの情報受信は、列車運行の安全性に直接に関与するものであるから、情報の送受信を担う車上装置は、故障を生じた場合にも、その本来の機能が損なわれないようなシステムとして構築する必要がある。そのようなシステムの代表的例は二重系車上装置であり、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1では、先頭車両に、現用系車上装置と、予備系車上装置とを搭載し、現用系車上装置に不具合を生じたときに、予備系車上装置に自動的に切り換えるようにしてある。現用系車上装置及び予備系車上装置は、それぞれ独立する装置として構成され、それらの車上子も互いに独立している。即ち、二重系車上装置を構成するには、車上子も二重化することが必要である。
【0003】
しかし、一般的な車両では、地上子及び車上子の配置に、機械的、電磁的な制約が加わるため、現実には、車上子を二重化することが困難である。
【0004】
まず、車上子二重化に対応する2つの地上子は、同一位置に重ねて配置することはできないし、車上子との結合位置を一定化する必要から、レールの長さ方向に間隔をおいて配置することもできない。さらに、レール幅方向に配置することもできない。なぜなら、地上子をレール幅方向に配置した場合、2つの車上子は車両の幅方向の両側に配置することになるが、この配置では、2つの車上子の間に電磁的な干渉等が生じやすくなるからである。
【0005】
結局、一般的な車両では、先頭車両に2つの車上子を取り付けられないから、車上子の二重化が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−258565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、一車両に搭載された車上装置について一つの車上子を備え、全体として、2つの車上子を備えればよく、したがって車上子の数を増加させずに、車上子二重化を実現し得る車上装置及び列車制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を達成するため、本発明に係る車上装置は、第1車上装置及び第2車上装置を含み、複数車両の編成でなる列車に搭載される。前記第1車上装置及び前記第2車上装置のそれぞれは、一つの車上子と、信号処理部とを含み、先頭車両及び最後尾車両に搭載されている。前記信号処理部のそれぞれは、前記車上子からの信号を互いに認識し、共通処理を行う。
【0009】
本発明に係る車上装置では、先頭車両に搭載された第1車上装置は、自己の車上子の信号を信号処理部によって認識し、処理することができるのみならず、最後尾車両に搭載された第2車上装置に備えられた車上子からの信号を、第1車上装置の信号処理部によって認識し、処理することができる。
【0010】
一方、最後尾車両に搭載された第2車上装置は、自己の車上子の信号を、自己の信号処理部によって認識し、処理することができるのみならず、先頭車両に搭載された第1車上装置に備えられた車上子からの信号を、自己の信号処理部によって認識し、処理することができる。
【0011】
即ち、第1車上装置の信号処理部、及び、第2車上装置の信号処理部のそれぞれは、自己の車上子のみならず、他の車上子からの信号を互いに認識し、共通処理を行う。これにより、一車両に搭載された車上装置について一つの車上子を備えるだけで、車上子二重化が実現される。この場合、二重系車上装置を構成するのに、従来と同じ2つの車上子を備えればよく、車上子の数が増えることもない。
【0012】
第1車上装置及び第2車上装置は、それぞれの信号処理部が二重化されている。これにより、車上装置に故障を生じた場合にも、二重化によるバックアップ機能が働き、本来の機能が損なわれないようなシステムが構築される。
【0013】
本発明に係る車上装置は、地上装置の地上子と組み合わされ、列車制御装置を構成する。前記地上子は、前記車上装置の前記車上子との間で信号の認識を行う。前記地上子は、複数であり、隣り合う地上子の配置間隔が列車編成長と対応している。この構成によれば、先頭車両にある車上子または車上装置が故障した場合、同じ列車位置で、最後尾車両にある車上子及び第2車上装置によってバックアップできる。逆に、最後尾車両にある車上子または車上装置が故障した場合、同じ列車位置で、先頭車両にある車上子及び第2車上装置によってバックアップすることができる。
【0014】
本発明は、平行レール上を走行する通常タイプの列車のみならず、モノレール・カー等にも適用することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上述べたように、本発明によれば、一車両に搭載された車上装置について一つの車上子を備え、全体として、2つの車上子を備えればよく、したがって車上子の数を増加させることなく車上子二重化を実現し得る車上装置及び列車制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る車上装置及びそれを用いた列車制御装置の構成を示す図である。
【図2】本発明に係る車上装置及び列車制御装置と地上子との組合せを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1を参照すると、本発明に係る車上装置は、第1車上装置31及び第2車上装置32を含み、複数nの車両101〜10nの編成でなる列車に搭載される。図1では、中間の車両は省略して示してある。列車1は、レール9の上を矢印F1で示す方向に走行する。
【0018】
第1車上装置31は、一つの車上子51と、信号処理部311、312とを含み、車両101〜10nの編成でなる列車のうち、先頭車両101に搭載されている。第2車上装置32は、一つの車上子52と、信号処理部321、322とを含み、最後尾車両10nに搭載されている。第1車上装置31及び第2車上装置32のそれぞれは、伝送回線11によって互いに接続されており、伝送回線11を通して、信号の相互送受信が行われる。図示の伝送回線11は有線であるが、無線であってもよい。
【0019】
第1車上装置31の信号処理部311、312、及び、第2車上装置32の信号処理部321、322は、車上子51、52からの信号を互いに認識し、共通処理を行う。故障のない正常状態では、信号処理部(311、312)及び(321、322)は、先着優先の理に従って、信号処理を行う。
【0020】
第1車上装置31及び第2車上装置32は、それぞれの信号処理部(311、312)及び(321、322)が二重化されている。これにより、第1車上装置の信号処理部311、312の何れかに故障を生じた場合、第2車上装置の信号処理部321、322の何れかに故障を生じた場合、その本来の機能が損なわれないようなシステムが構築される。
【0021】
先頭車両101に搭載された第1車上装置31は、自己の車上子51の信号を信号処理部311又は312によって認識し、処理することができるのみならず、最後尾車両10nに搭載された第2車上装置32に備えられた車上子52から伝送回線11を通って送られてくる信号を、自己の信号処理部311又は312によって認識し、処理することができる。
【0022】
最後尾車両10nに搭載された第2車上装置32も、同様であって、自己の車上子52の信号を、自己の信号処理部321又は322によって認識し、処理することができるのみならず、先頭車両101に搭載された第1車上装置31に備えられた車上子51から、伝送回線11を通って送られてくる信号を、自己の信号処理部321又は322によって認識し、処理することができる。
【0023】
即ち、第1車上装置31の信号処理部311、312は、自己の車上子51のみならず、第2車上装置32の車上子52からの信号を認識し、共通処理を行う。これにより、先頭車両101に搭載された車上装置31について一つの車上子51を備え、最後尾車両10nに一つの車上子52を備えるだけの構成、即ち、一車両に2つの車上子を備えることなく、車上子二重化を実現することができる。しかも、二重系車上装置を構成するのに、全体としては、従来と同じ2つの車上子51、52を備えればよく、車上子の数が増えることもない。
【0024】
図2は、本発明に係る車上装置を用いた列車制御装置の構成を示している。図1に既に現れているところであるが、本発明に係る車上装置は、地上装置の地上子71、72と組み合わされ、列車制御装置を構成する。地上子71、72は、第1車上装置31及び第2車上装置32の車上子51、52との間で信号の送受信を行う。地上子71、72は、複数(2つ)であり、隣り合う地上子71、72の配置間隔が列車編成長と一致している。隣り合う地上子71、72に対しては、同じ保安制御情報、例えば現示情報を供給する。
【0025】
この構成によれば、先頭車両101に搭載された車上子51が故障した場合、同じ列車位置で、地上子72から、最後尾車両10nにある車上子52に、同じ保安制御情報を供給し、バックアップすることができる。逆に、最後尾車両10nに搭載された車上子52が故障した場合、同じ列車位置で、地上子71から、先頭車両101にある車上子51及び第1車上装置31に、同じ保安制御情報を供給し、バックアップすることができる。
【0026】
図2を参照すると、一つの閉塞区間1Tに、複数(2つ)の地上子71、72の対が、間隔をおいて配置されている。図において、両側の地上子71、72の対には、閉塞信号機13と連動する現示情報が供給される。中間の地上子71、72の対は、定点停止制御に必要な情報を送信するために配置されている。また、地上子73は、第1系を構成する車上子51及び第2系を構成する車上子52と結合され、両者に情報を送信する地上子である。図示は省略するが、現在知られた地上子配置、及び、地上子構造が適用され得る。
【0027】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【符号の説明】
【0028】
101〜10n 車両
31 第1車上装置
32 第2車上装置
311、312 信号処理部
321、322 信号処理部
51、52 車上子
71、72 地上子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1車上装置及び第2車上装置を含み、複数車両の編成でなる列車に搭載される車上装置であって、
前記第1車上装置及び前記第2車上装置のそれぞれは、車上子と、信号処理部とを含み、先頭車両及び最後尾車両に搭載されており、
前記信号処理部のそれぞれは、前記車上子からの信号を互いに認識し、共通処理を行う、
車上装置。
【請求項2】
車上装置と、地上子とを含む列車制御装置であって、
前記車上装置は、請求項1に記載されたものでなり、
前記地上子は、前記車上装置の前記車上子との間で送受信を行う、
列車制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された列車制御装置であって、前記地上子は、複数であり、隣り合う地上子の配置間隔が列車編成長と対応している、列車制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−115853(P2013−115853A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257301(P2011−257301)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】