説明

車上/地上間情報伝送装置

【課題】長大化されたループアンテナを用い、コスト低減を図りつつ、実質的に1閉塞区間/1車両の原則を維持できるようにした車上/地上間情報伝送装置を提供すること。
【解決手段】ループアンテナ1は、車両TR1、TR2の走行路5に沿って敷設されている。車両位置判定手段となる地上子20〜2nは、ループアンテナ1に沿い、間隔を隔てて配置されている。これらの地上子20〜2nは、車上装置4に位置情報を与えるものである。地上装置3及び車上装置4は、ループアンテナ1を介して、情報の授受を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、モノレールや、新交通システムなどにおいて適用される車上/地上間情報伝送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モノレールや、新交通システムなどにおいては、例えば、特許文献1に開示されているように、車両の走行路に沿って敷設されたループアンテナを介して、車上と地上との間で、必要な情報信号の授受を行なう車上/地上間情報伝送システムが知られている。
【0003】
この従来システムは、1閉塞区間/1列車(車両)の原則を、1ループに1つの車両のみの在線を許容するシステム(1ループ/1車両)を構築することによって実現している。
【0004】
しかし、1ループ/1車両のシステムを採用する限り、地上側では、閉塞区間数と等しい数の送受信装置が必要になるから、高価なシステムになりやすい。また、閉塞区間毎に、独立するループアンテナを敷設する必要があり、この面でもコスト高になる。
【0005】
そこで、この問題を解決する手段として、ループアンテナを長大化し、1ループに複数の車両を在線させるシステムの構築が検討されてきた。
【0006】
しかし、長大化されたループアンテナは、その本質上、区切られた閉塞区間を持ち得ないから、1閉塞区間/1車両の原則を維持することができず、これを解決する現実的な手段が見出されていないため、未だ実用化されていない。
【特許文献1】特開2002−160632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、長大化されたループアンテナを用い、コスト低減を図りつつ、実質的に1閉塞区間/1車両の原則を維持できるようにした車上/地上間情報伝送装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明に係る車上/地上間情報伝送装置は、ループアンテナと、地上装置と、車上装置と、車両位置判定手段とを含む。前記ループアンテナは、車両の走行路に沿って敷設されており、前記地上装置及び前記車上装置は、前記ループアンテナを介して、情報の授受を行なう。前記車両位置判定手段は、前記ループアンテナ上における前記車両の位置情報を前記車上装置に与える。
【0009】
上述したように、本発明に係る車上/地上間情報伝送装置では、ループアンテナが、車両の走行路に沿って敷設されており、地上装置及び車上装置はこのループアンテナを介して、情報の授受を行なうことになるが、その特徴的構成として、車両位置判定手段を有する。この車両位置判定手段は、ループアンテナ上における車両の位置情報を車上装置に与える。
【0010】
従って、車両位置判定手段から与えられる車両位置情報により、車両側において、自己の位置を知ることができるから、1閉塞区間/1車両の原則を維持することが可能になる。このため、ループアンテナ上に複数の車両を進入させても、1閉塞区間/1車両という原則を維持し、車両運行の安全を確保し得ることになる。
【0011】
地上装置は、1つのループアンテナに対して一個備えるだけでよい。従って、車両の走行路全長で見た場合、ループアンテナを長大化し、1つのループアンテナでカバーできる距離を増大させることにより、地上装置の数を減少させ、コストダウンを達成することができる。
【0012】
しかも、従来であれば、数個のループアンテナが必要であった距離を、1つのループアンテナでカバーできるので、ループアンテナの敷設数減少によるコストダウンの利益も得ることができる。
【0013】
車両位置判定手段は、ループアンテナ上における車両の位置情報を車上装置に与えるという機能を満たすものであればよい。具体例としては、GPSを利用する構成、地上側から車上側に車両位置を報知する構成、及び、車両側で自己の車両位置を検知する構成などを挙げることができる。これらのうち、実用性及び実現性の高いものは、後者の2つである。
【0014】
後者の2つについて、まず、地上側から車上側に車両位置を報知する具体例としては、地上子を用い、地上子を、ループアンテナに沿い、間隔を隔てて配置し、地上子から車上装置に位置情報を与える構成が考えられる。この場合は、車両側において、地上子の位置により、自己の位置を知ることができるから、1閉塞区間/1車両の原則を維持することが可能になる。つまり、車両側から見て、地上子が、実質的に、閉塞区間境界を画定する役割を担うことになる。このため、ループアンテナ上に複数の車両を進入させても、1閉塞区間/1車両という原則を維持し、車両運行の安全を確保し得ることになる。
【0015】
次に、車両側で自己の車両位置を検知する具体例としては、車両側に通常備えられる速度発電機(タコジェネレータ)を用い、車上において、自己の車両位置を検出する構成が考えられる。この場合も、同様の作用効果を得ることができる。
【0016】
地上装置及び車上装置の間の情報伝送方式に関しては、限定するものではないが、地上装置からループアンテナに対し、一定周期で、全車両応答要求信号を供給し、車上装置では、全車両応答要求信号を受信した後、地上子によって与えられた自己位置によって規定される遅延時間をもって応答する伝送方式を採用することができる。
【0017】
この伝送方式によれば、車両のそれぞれにおいて、応答要求―応答を個別的に実行する場合に比べて、応答要求―応答に要する時間を半減できる。
【0018】
別の情報伝送方式として、車上から地上に信号を送信する場合、車両間で周波数を異ならせる伝送方式を採用してもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上述べたように、本発明によれば、長大化されたループアンテナを用い、コスト低減を図りつつ、実質的に1閉塞区間/1車両の原則を維持できるようにした車上/地上間情報伝送装置を提供することができる。
【0020】
本発明の他の特徴及びそれによる作用効果は、添付図面を参照し、実施例によって更に詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明に係る車上/地上間情報伝送装置の一実施例を説明する図である。図示の車上/地上間情報伝送装置は、例えば、モノレール、ゴムタイヤ式車両、レールバス、浮上式車両(リニアモーターカー)等に用いられるもので、ループアンテナ1と、車両位置判定手段となる地上子20〜2nと、地上装置3と、車上装置4とを含む。
【0022】
ループアンテナ1は、車両TR1、TR2の走行路5に沿って敷設されている。ループアンテナ1は、例えば、平行2線式の誘導線であり、車両TR1、TR2の走行路5に沿って、設けられている。
【0023】
地上子20〜2nは、ループアンテナ1に沿い、間隔を隔てて配置され、車上装置4に位置情報を与える。地上子20〜2nにより、ループアンテナ1は、2以上の閉そく区間1T〜nTに区切られている。地上子20〜2nは、車両TR1、TR2に対して位置情報を与えることができるものであれば、その形式、構造は問わない。変周式自動列車停止装置などにおいて、従来から用いられている無電源型地上子であってもよいし、地上装置3によって駆動される地上子等であってもよい。
【0024】
地上装置3及び車上装置4は、ループアンテナ1を介して、情報の授受を行なうもので、原則的には、従来より知られているものを用いることができる。地上装置3は、送受信機能及び信号処理機能を有し、ループアンテナ1に対して、車両TR1、TR2に必要な情報信号を送信する一方、車上装置4から送信された信号を、ループアンテナ1を通して、受信し、解読する。
【0025】
車上装置4も、送受信機能及び信号処理機能を有し、車両TR1、TR2のそれぞれに備えられている。車上装置4は、地上装置からループアンテナ1に供給された信号を、ループアンテナ1を通して、受信し、解読する。車上装置4は、車両TR1、TR2の前部から信号f1を送信し、後部から信号f2を送信する。これらの信号f1、f2は、車上から地上への情報信号として送信され、ループアンテナ1を介して、地上装置3によって受信され、解読される。信号f1、f2は、デジタル信号であっても、アナログ信号であってもよい。信号f1は閉塞区間進入信号として利用され、信号f2は閉塞区間進出信号として利用される他、上記のように、車上情報信号としても利用される。
【0026】
上述した車上/地上間情報伝送装置において、矢印Fの方向に走行する車両TR2が地上子21の上まで走行したとき、車上装置4は、例えば、車上アンテナが地上子21と電気的、又は磁気的に結合する。車上装置4は、地上子21から与えられる位置情報により、自己の車両TR2の位置を知ることができる。他の地上子においても、同様にして、その上を通過する車両に対して位置情報を与えることができる。
【0027】
このように、地上子20〜2nの位置により、車両TR2の側において、自己の位置を知ることができるから、1閉塞区間/1車両の原則を維持することが可能になる。つまり、車両TR2の側から見て、地上子20〜2nが、実質的に、閉塞区間境界を画定する役割を担うことになるのである。このため、ループアンテナ1に複数の車両TR1、TR2を進入させても、1閉塞区間/1車両の原則を維持し、車両運行の安全を確保し得ることになる。
【0028】
また、1閉塞区間/1車両の原則を維持できるから、ループアンテナ1を長大化し、ループアンテナ1に複数の車両を進入させても、車両運行の安全を確保し得る。このため、ループアンテナ1を長大化し、1つのループアンテナ1でカバーできる距離を増大させ、地上装置3の数を減少させ、コストダウンを達成することができる。例えば、ループアンテナ1を従来の5倍の長さ、例えば、1500mにすれば、地上装置3の個数を1/5に低減できる。
【0029】
しかも、従来であれば、数個のループアンテナ1が必要であった距離を、1つのループアンテナ1でカバーできるので、ループアンテナ1の敷設数減少によるコストダウンの利益も得ることができる。
【0030】
更に、軌道回路とは異なり、ループアンテナ1は、信号の減衰が少ないので、ループアンテナ1を長大にしても、信号の劣化等の不具合が生じない。
【0031】
図示では、2つの車両TR1、TR2が示されているだけであるが、閉塞区間1T〜nTの全てに車両が入っていても、1閉塞区間/1車両の原則を維持できる。従って、本発明に係る伝送方式は、ループアンテナ1の上の車両在線数を、零から閉塞区間数nに相当する数nまで許容することになる。
【0032】
図2は、本発明に係る車上/地上間情報伝送装置の別の実施例を説明する図である。図において、図1に現れた構成部分に相当する部分については、同一の参照符号を付し、重複説明は、これを省略する。この実施例では、車両位置判定手段として、速度発電機41を備える。この速度発電機41を用いて、車上において、自己の車両位置を検出する。閉塞区間は、自己の認識した自己車両位置と、地上装置3との間の情報授受によって得られた他の車両の位置とを基礎として、車両側で判断することができる。
【0033】
図2に示した実施例の場合も、地上子を用いた場合と同様の作用効果を得ることができる。図2の地上子20は、距離補正用として備えられたものであり、必ずしも必要ではない。
【0034】
地上装置3及び車上装置4の間の情報伝送に関しては、種々の方式を採用することができる。その例を、図3及び図4に示す。
【0035】
まず、図3に示す例では、車両TR1、TR2の間で周波数の異なる信号を送信する。即ち、車両TR1では、車両前部から、周波数f1の信号を送信し、車両後部から周波数f2(f2≠f1)の信号を送信し、他方、車両TR2では、車両前部から、周波数f3(f3≠f1、f2)の信号を送信し、車両後部から周波数f4(f4≠f1、f2、f3)の信号を送信する。これにより、ループアンテナ1上での信号混信を回避できる。
【0036】
次に、図4の例では、車両TR1において、車両前部から、周波数f1の信号を送信し、車両後部から周波数f2(f2≠f1)の信号を送信し、他方、車両TR2でも、車両前部から周波数f1の信号を送信し、車両後部から周波数f2(f2≠f1)の信号を送信する。
【0037】
そして、地上装置3からループアンテナ1に対し、一定周期で、全車両応答要求信号ALを供給し、車上装置4では、全車両応答要求信号ALを受信した後、地上子20〜2nによって与えられた自己位置によって規定される遅延時間をもって応答する。この点について、図5を参照して説明する。
【0038】
まず、地上装置3からループアンテナ1に対し、一定周期で、全車両応答要求信号ALを供給する。車両TR1、TR2のそれぞれは、自己の車上装置4で、全車両応答要求信号ALを受信した後、地上子20〜2nによって与えられた自己の位置によって規定される遅延時間をもって応答する。
【0039】
例えば、車両TR2が、地上子21の上を通り、閉塞区間2Tに進入した場合を想定すると、このときの車両位置は、既に、地上子21によって与えられている。閉塞区間2Tに対しては、遅延時間t21のf1応答スロット、及び、遅延時間t22のf2応答スロットが与えられている。そこで、車両TR2は、時間幅(t22−t21)のf1応答スロットにおいて、信号f1を送信し、時間幅(t23−t22)のf2応答スロットにおいて信号f2を送信する。
【0040】
図4において、車両TR2が、矢印Fで示す方向に、更に進行して、地上子2rの上を通り、閉塞区間rTに進入した場合を想定すると、閉塞区間rTに対しては、遅延時間tr1のf1応答スロット、及び、遅延時間tr2のf2応答スロットが与えられている。そこで、車両TR2は、時間幅(tr2−tr1)のf1応答スロットにおいて、信号f1を送信し、時間幅(tr3−tr2)のf2応答スロットにおいて信号f2を送信する。他の地上子においても同様である。
【0041】
図4の例では、先行車両TR1は、最終の閉塞区間nTに進入している。図5を参照すると、閉塞区間nTに対しては、遅延時間tn1のf1応答スロット、及び、遅延時間tn2のf2応答スロットが与えられている。そこで、車両TR1は、時間幅(tn2−tn1)のf1応答スロットにおいて、信号f1を送信し、時間幅(tn3−tn2)のf2応答スロットにおいて信号f2を送信する。
【0042】
上述した伝送方式によれば、車両TR1、TR2のそれぞれで、応答要求―応答を個別的に実行する場合に比べて、応答要求―応答に要する時間を半減できることは明らかである。
【0043】
しかも、この伝送方式によれば、閉塞区間1T〜nTのそれぞれについて、時間的に明確に分離された応答スロットが用意されるので、閉塞区間1T〜nTの全てに車両が入っているような極端な場合でも、車上と地上との間で、混信を生じることなく、情報の授受を行なうことができる。
【0044】
なお、車上側で、一時的な電源落ちなどのために、自己の車両位置が不明になったときの対策として、図5において、全車両応答要求信号ALの1サイクルの末尾などの適当な位置に、予備スロットを設けておくとよい。
【0045】
以上、実施の形態を参照して説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内において、種々の変形、変更が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る車上/地上間情報伝送装置の一実施例を説明する図である。
【図2】本発明に係る車上/地上間情報伝送装置の別の実施例を説明する図である。
【図3】本発明に係る車上/地上間情報伝送装置の更に別の実施例を説明する図である。
【図4】本発明に係る車上/地上間情報伝送装置の更に別の実施例を説明する図である。
【図5】図4に示した車上/地上間情報伝送装置の動作を説明するタイムチャートである。
【符号の説明】
【0047】
1 ループアンテナ
20〜2n 地上子
3 地上装置
4 車上装置
1T〜nT 閉塞区間
TR1、TR2 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ループアンテナと、地上装置と、車上装置と、車両位置判定手段とを含む車上/地上間情報伝送装置であって、
前記ループアンテナは、車両の走行路に沿って敷設されており、
前記地上装置及び前記車上装置は、前記ループアンテナを介して、情報の授受を行なうものであり、
前記車両位置判定手段は、前記ループアンテナ上における前記車両の位置情報を前記車上装置に与える、
車上/地上間情報伝送装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車上/地上間情報伝送装置であって、前記車両位置判定手段は、地上子を含み、前記地上子は、前記ループアンテナに沿い、間隔を隔てて配置されている、車上/地上間情報伝送装置。
【請求項3】
請求項1に記載された車上/地上間情報伝送装置であって、前記車両位置判定手段は、前記車両に搭載され、車上において、自己の車両位置を検出する、車上/地上間情報伝送装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載された車上/地上間情報伝送装置であって、
前記地上装置は、前記ループアンテナに対し、一定周期で、全車両応答要求信号を供給し、
前記車上装置は、前記全車両応答要求信号を受信した後、前記車両位置判定手段によって与えられた自己位置によって規定される遅延時間をもって応答する、
車上/地上間情報伝送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−56420(P2006−56420A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241263(P2004−241263)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】