説明

車両、冷却装置、および冷却方法

【課題】自動車を冷却する空気調和装置では、ユーザが乗車してから車内が冷却されるまでに時間がかかる。
【解決手段】車両は、ユーザが乗車する乗車空間と、圧縮空気を貯蔵可能なタンクと、乗車空間に対してタンクに貯蔵された圧縮空気を放出させる制御部と、を有する。制御部は、タンクからの圧縮空気の放出において、タンクに貯蔵されている圧縮空気の全量を放出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両の乗車空間を冷却する車両、冷却装置、および冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両は、一般的に、その乗車空間を冷却するために、ユーザが乗車し、ユーザがイグニッションキーを操作してエンジンを起動することにより、冷却動作を開始する空気調和装置を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−168476号公報
【特許文献2】特開2010−216739号公報
【特許文献3】特開2008−296901号公報
【特許文献4】特開2007−168466号公報
【特許文献5】特開2008−183996号公報
【特許文献6】特開2005−238911号公報
【特許文献7】特開2007−297965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の空気調和装置では、ユーザが乗車し、ユーザがイグニッションキーを操作してエンジンを起動することにより冷却サイクルを回し始めるため、実際に乗車空間が冷却され始めるまでに時間遅れが生じる。
特に、車両が炎天下に置かれたような状況では、乗車空間が熱せられており、乗車空間が冷却されるまで、ユーザは、暑い乗車空間に耐えなければならない。
【0005】
特許文献は何れもこのような従来の課題を解決するもので、特許文献1から6は、圧縮した空気を乗車空間に放出する技術を開示する。
特許文献7は、排出ガスの圧力や熱を利用した発電・空気冷却システムを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ところで、このように圧縮した空気を乗車空間に放出する際には、空気の放出量で、考慮されなければならない条件が存在する。
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、圧縮空気の適切な放出が可能な冷却装置を提供することを目的としている。
【0007】
本発明の第1の観点に係る車両は、ユーザが乗車する乗車空間と、圧縮空気を貯蔵可能なタンクと、乗車空間に対してタンクに貯蔵された圧縮空気を放出させる制御部と、を有する。そして、制御部は、タンクからの圧縮空気の放出において、タンクに貯蔵されている圧縮空気の全量を放出する。
【0008】
好適には、制御部は、タンクの圧力が大気圧になると、放出を終了してよい。
【0009】
好適には、制御部は、タンクの圧力および乗車空間の圧力のうちの少なくとも一方を検知する検知手段を有し、タンクの圧力と、乗車空間の圧力との圧力差が所定値以下になると、放出を終了してよい。
【0010】
好適には、制御部は、タンクの圧力が大気圧になるまでの期間に基づく放出期間、またはタンクの圧力と乗車空間の圧力との間に圧力差がなくなるまでの期間に基づく放出期間が経過すると、放出を終了してよい。
【0011】
好適には、前記タンクへ圧縮空気を供給するリザーバタンクを有してよい。
【0012】
本発明の第2の観点に係る冷却装置は、ユーザが乗車する車両の乗車空間を冷却する冷却装置であって、圧縮空気を貯蔵可能なタンクと、乗車空間に対してタンクに貯蔵された圧縮空気を放出させる制御部と、を有する。そして、制御部は、タンクからの圧縮空気の放出において、タンクに貯蔵されている圧縮空気の全量を放出する。
【0013】
本発明の第3の観点に係る冷却方法は、ユーザが乗車する車両の乗車空間を冷却する圧縮空気をタンクに貯蔵する冷却装置の冷却方法であって、タンクに圧縮空気を貯蔵し、タンクに貯蔵された圧縮空気の全量を乗車空間へ放出する。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、タンクに蓄積していた圧縮空気を乗車空間へ放出する。
乗車空間は、乗車空間へ放出された圧縮空気により冷却される。
その結果、本発明では、車内を直ちに冷却できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る冷却装置を用いた、自動車の車体の部分透視の側面図である。
【図2】図2は、図1の自動車に搭載される冷却装置の構成図である。
【図3】図3は、図2のコントローラによる冷却のための制御のフローチャートである。
【図4】図4は、本発明の第2実施形態に係る冷却装置の放出工程のフローチャートである。
【図5】図5は、本発明の第3実施形態に係る冷却装置の放出工程のフローチャートである。
【図6】図6は、本発明の第4実施形態に係る冷却装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る冷却装置10を用いた、自動車1の部分透視の側面図である。
【0017】
図1の自動車1は、車体2を有する。
車体2の中央部には、ユーザが乗り込む乗車空間3を有する。
乗車空間3内には、ユーザが着座する座席4が2列で設けられている。
車体2の乗車空間3の側面には、ユーザが乗車するために開閉するドアパネル5が設けられている。
ドアパネル5の上部には、ウィンドウガラス6が上下移動可能に設けられている。
ユーザは、ドアパネル5を開閉して乗車して座席4に座ることができる。
ユーザは、ドアパネル5の内面に設けられた開閉スイッチを操作してウィンドウガラス6を開閉することができる。
【0018】
乗車空間3は、ドアパネル5およびウィンドウガラス6を閉じた状態で、外から隔離された空間となる。
このような乗車空間3では、たとえば夏の暑い日射などで室温が大幅に上昇する。また、ハンドル、座席4などの内装品の表面温度も上昇し、ユーザにとって乗車空間3を急激に冷却する必要が生じる。
一般的な自動車1では、乗車したユーザがイグニッションキーを操作してエンジンを始動し、空気調和装置を起動し、これに伴ってコンプレッサを駆動することで空気調和装置の冷却サイクルが始動することにより、乗車空間3の空気が冷却される。
しかしながら、このように空気調和装置を用いて乗車空間3を冷却する場合、熱交換器を利用して乗車空間3の空気を直接に冷却するため、ユーザが乗車してから乗車空間3が冷却されるまでに時間がかかる。
そこで、本実施形態では、乗車しようとするユーザが乗車する前に、圧縮空気を乗車空間へ放出することで乗車空間を急激に冷却する冷却装置10を用いる。
【0019】
図2は、図1の自動車1に搭載される冷却装置10の構成図である。
図2の冷却装置10は、図1の乗車空間3に対して圧縮空気を放出することにより、乗車空間3を冷却するものである。
冷却装置10は、コンプレッサ11、吸気ダクト12、吸気弁13、タンク14、排気ダクト15、排気弁16、およびコントローラ17を有する。
冷却装置10は、タンク14の圧縮空気の圧力を検出するタンク圧力センサ20と、乗車空間の圧力を検出する室内圧力センサ22と、を有する。
【0020】
コンプレッサ11は、コントローラ17により起動および停止が制御され、起動中に空気を吸引して圧縮して出力する。コントローラ17は、起動中のコンプレッサ11の能力を制御してよい。
コンプレッサ11には、たとえば容積型ポンプを使用できる。容積型ポンプは、吸気口18から空気などの流体を吸引し、吸引した流体の容積を減らす動作をすることにより流体を圧縮する。容積型ポンプには、たとえばギアポンプ、ダイヤフラムポンプ、ピストンポンプ、プランジャーポンプがある。ギアポンプは、回転運動により流体を圧縮する。ダイヤフラムポンプ、ピストンポンプ、プランジャーポンプは、往復運動により流体を圧縮する。
本実施形態の冷却装置10は、圧縮した空気を直接に乗車空間3へ放出する。乗車空間3の汚染を抑制するため、コンプレッサ11には、オイルレスタイプのものを使用するのが望ましい。冷却装置10の圧縮空気をそのまま乗車空間3へ放出するのではなく、圧縮空気の冷気を熱交換器によりたとえば外気などの別の空気に伝えて乗車空間3へ供給してよい。
コンプレッサ11の吸気口18は、乗車空間3に設けられても、自動車1の外(乗車空間3外)に設けられてもよい。乗車空間3外の外気を吸引する場合、コンプレッサ11は、走行速度に応じて吸引能力を調整しても、停車中に吸引するようにしてもよい。外気の気圧の変動などにより、コンプレッサ11に過度な負荷が作用し難くなる。乗車空間3内の内気を吸引する場合、乗車空間3の気圧が下がる。このため、たとえば自動車1に搭載された空気調和装置を外気導入モードに設定した状態で、コンプレッサ11が吸引すればよい。内気は、一般的に空気調和装置により温度および湿度が調整される。内気は、外気よりも、タンク14に貯蔵する空気中の湿気を抑制し、当該空気を乗車空間3へ再放出した後の冷却効果および湿度上昇の抑制効果を期待できる。
【0021】
コンプレッサ11は、車体2に搭載されるエンジン7の回転駆動力を動力源として利用できる。このため、図1に示すように、コンプレッサ11は、エンジンルームに設けるとよい。この場合、エンジン7の出力軸とコンプレッサ11の入力軸との間に、電磁クラッチ21を設ける。電磁クラッチ21を切ることにより、エンジン7の動作中にコンプレッサ11を停止できる。この他にもたとえば、コンプレッサ11は、車体2に搭載されるバッテリ若しくは太陽光パネルの電源又は家庭用電源、走行中に生じる上下動などの車体2の振動を動力源として利用してよい。
また、冷却装置10のコンプレッサ11は、車両に搭載されている空気調和装置のコンプレッサと一体化してもよい。
【0022】
吸気ダクト12は、コンプレッサ11とタンク14とを接続する。
コンプレッサ11により圧縮された空気は、吸気ダクト12を通じてタンク14へ供給される。
【0023】
吸気弁13は、吸気ダクト12に設けられる。吸気弁13は、コントローラ17により開閉制御される。
吸気弁13が開状態である場合、コンプレッサ11により圧縮された空気はタンク14へ供給される。
吸気弁13が閉状態である場合、吸気ダクト12が遮断され、コンプレッサ11からタンク14への圧縮空気の供給が停止する。タンク14側からコンプレッサ11へ圧縮空気が逆流しない。
【0024】
タンク14は、圧縮空気を貯蔵する。タンク14は、たとえばステンレスなどの金属製、強化プラスチック製でよい。これらの素材によるタンク14は、高い圧力で圧縮空気を貯蔵できる。
例えば乗車空間の容積が4000Lの車両に対し、40Lのタンクに100気圧で圧縮空気を保存し、制御部が乗車空間に室温より低い乗車空間の容積に等しい程度の圧縮空気を放出することで、乗車空間内の高い室温の空気を車室外に押し出し、膨張することで冷却された圧縮空気が乗車空間の空気と入れ替わることで乗車空間の室温を下げることができる。そのため、タンク14の容量および形状に特段の制限はないが、好適にはタンクの容量は乗車空間の容積と同じかそれ以上としてよい。また、乗車空間の空気と膨張した圧縮空気が入れ替わるのではなく、乗車空間の容積よりも少ない圧縮空気を乗車空間に放出することで乗車空間の高い室温を低減してもよい。タンク14の容量が大きいほど、大量の圧縮空気を蓄積できる。
タンク14は、自動車1または冷却装置10に固定されても、着脱可能でもよい。タンク14が着脱可能である場合、タンク14を交換できる。予め圧縮空気を封入したタンク14を取り付けることにより、コンプレッサ11を用いることなく、圧縮空気を乗車空間3へ放出することが可能になる。タンク14に圧縮空気とともにアロマオイルや芳香剤を同時封入することにより、車内の消臭効果を期待できる。
タンク14の設置場所には、特に制限はない。自動車1等に要求される安全基準などに基づいて、適切な箇所に設置すればよい。図1では、タンク14は、エンジンルームに設けられている。タンク14は、カーゴスペース、または乗車空間3に設置してよい。乗車空間3に設置する場合、タンク14は、直射日光が当たらない箇所または高温となり難い箇所に設置するとよい。
なお、冷却装置10は、複数個のタンク14を有してよい。複数個のタンク14は、それらが独立して圧縮空気を蓄積し乗車空間3へ供給するものでも、一方のタンク14から他方のタンク14へ圧縮空気を供給するものでもよい。
【0025】
排気ダクト15は、タンク14と乗車空間3とを接続する。
タンク14から排気された圧縮空気は、排気ダクト15を通じて自動車1の乗車空間3へ供給される。
排気ダクト15の排気口19は、乗車空間3に設けられる。排気口19は、ノズル形状でよい。排気口19をノズル形状とすることで、排気ダクト15内で圧力を保ったまま圧縮空気を乗車空間3へ吐出できる。
排気口19の配置、向き、個数には特段の制限はない。空気調和装置の排気口を利用してよい。
ただし、圧縮された空気には、それが膨張することにより気温を下げる効果があるだけでなく、それを吹き付けた物体の表面温度を下げる効果がある。このため、シート、ハンドル、ダッシュボードなどの高温となる箇所またはユーザが直接接触する箇所に対して、圧縮空気を直接吹き付けることができる位置、向きで、排気口19を設けるとよい。たとえばピラー、ルーフなどに下向きに排気口19を設ければよい。
図1では、複数の排気口19の一部は、ルーフに下向きに設けられ、圧縮空気を座席4に吹き付けるように配置されている。また、複数の排気口19の残部は、座席4内に上向きに設けられ、圧縮空気を座席4から乗車空間3に吹き出すように配置されている。
【0026】
排気弁16は、排気ダクト15に設けられる。排気弁16は、コントローラ17により開閉制御される。
排気弁16が閉状態である場合、排気ダクト15が遮断され、タンク14内の圧縮空気はタンク14内に留まり貯蔵される。コンプレッサ11の動作中に排気弁16を閉じることにより、タンク14内の空気圧が高まる。
排気弁16が開状態である場合、タンク14に貯蔵された圧縮空気は、乗車空間3へ放出される。
【0027】
タンク圧力センサ20は、たとえば図2に示すように、吸気弁13と排気弁16との間に設けられる。
タンク圧力センサ20は、この他にも、タンク14に設けられてよい。
これにより、タンク圧力センサ20は、タンク14の圧力を検出できる。
【0028】
室内圧力センサ22は、たとえば図1に示すように、ダッシュボード内に設けられる。
室内圧力センサ22は、乗車空間3のこれ以外の箇所に設けられてもよい。
これにより、室内圧力センサ22は、乗車空間3の圧力を検出できる。
そして、タンク圧力センサ20または室内圧力センサ22は、ダイヤフラム式の圧力センサでも、隔膜式の圧力センサでもよい。
ただし、本実施形態では、タンク圧力センサ20の検出圧力と室内圧力センサ22の検出圧力との差分を利用するので、同一方式のものとするとよい。
これにより、各圧力センサの感度等を厳密に校正しなくとも、制御に利用可能になる。
【0029】
コントローラ17は、コンプレッサ11、吸気弁13、排気弁16、タンク圧力センサ20などの冷却装置10の各部に接続される。コントローラ17は、冷却装置10を制御する。
冷却装置10は、コンプレッサ11で空気を圧縮し、圧縮した空気をタンク14に貯蔵し、タンク14に貯蔵した圧縮空気を乗車空間3へ放出する。乗車空間3へ放出された圧縮空気は、乗車空間3で膨張し、この膨張の際の吸熱効果により、乗車空間3内の空気を冷却する。また、圧縮空気が吹き付けられた箇所は、冷却される。
なお、コントローラ17は、圧縮空気を貯蔵するタンク14をヒータにより加熱したり又はサーミスタにより冷却したりしてよい。これにより、圧縮空気の放出前温度を調整し、圧縮空気を放出した後の乗車空間3の室温を調整するができる。
コントローラ17は、制御プログラムを記憶するメモリと、制御プログラムを実行する中央処理装置とを有する。コントローラ17は、独立したコントローラ17でよいが、自動車1のエンジン7を制御するECU(Engine Control Unit)の一部として実現されても、空気調和装置のコントローラに実現されてもよい。
コントローラ17には、制御の処理または判断に使用する各種の情報を得るために、車両の走行制御信号、各種の検出信号が入力される。
このような信号としては、たとえば、タンク圧力センサ20、室内圧力センサ22、外気温センサ、内気温センサ若しくは日照センサの検出信号がある。
この他にも、イグニッションキーの状態の検出信号、エンジン7の起動信号若しくは停止信号、速度パルス信号、ブレーキの操作信号、リモートコントロール開閉キーの検出信号、ドアパネル5のロック開錠信号若しくは施錠信号がある。
なお、コントローラ17は、時刻や時間を計測するタイマ、携帯電話機などと通信する無線通信部などを備えてよい。
【0030】
次に、図2の冷却装置10の動作を説明する。
図3は、図2の冷却装置10の冷却プロセスの全体を示すフローチャートである。
【0031】
図3の全体制御において、冷却装置10のコントローラ17は、まず、空気の圧縮工程を実行する(ステップST1)。
コントローラ17は、たとえばユーザが乗車してエンジン7を始動した後に、圧縮工程を実行する。
圧縮工程において、コントローラ17は、吸気弁13を開き、排気弁16を閉じた状態で、コンプレッサ11を動作させて、タンク14へ圧縮した空気を供給する。電磁クラッチ21を用いる場合、コントローラ17は、これを接続する。
コントローラ17は、タンク14の圧力を検出するタンク圧力センサ20の検出信号や、メモリに記憶されている冷却装置10のサイクルを示すフラグに基づいて、タンク14の圧縮空気の有無を判断し、圧縮空気が貯蔵されていない場合にコンプレッサ11を動作させるようにしてよい。
【0032】
タンク圧力センサ20の圧力が所定の基準値以上になると、コントローラ17は、コンプレッサ11を停止し、吸気弁13を閉じる。電磁クラッチ21を用いる場合、コントローラ17は、これを遮断する。
これにより、吸気弁13および排気弁16がともに閉じた状態になり、タンク14には、基準値以上の圧力の圧縮空気が貯蔵される(貯蔵工程、ステップST2)。
なお、タンク14への圧縮空気の貯蔵を停止する所定の基準圧力は、大気圧より高ければよく、たとえば数Mpaである。
ところで、空気は圧縮されることにより発熱する。
タンク14に収容された圧縮空気は、圧縮完了後にタンク14とともに冷却される。
たとえばタンク14が断熱構造でない場合、圧縮空気の温度は、タンク14の外気温と同じ温度まで冷却される。
よって、このタンク14に圧縮空気を供給した後の貯蔵工程において、タンク14内の圧縮空気の温度は、たとえば常温に冷却される。
【0033】
次に、コントローラ17は、放出工程を実行する(ステップST3)。
コントローラ17は、たとえばユーザが乗車した時、乗車した後、または乗車しそうな状況にある時、放出工程を開始する。この場合、コントローラ17は、ユーザが乗車する度に、乗車の際に放出工程を実行し、その後に圧縮工程を実行する。
放出工程において、コントローラ17は、吸気弁13を閉じたまま、排気弁16を開く。
これにより、タンク14に蓄積されていた圧縮空気は、排気ノズルを通じて乗車空間3へ排気される。圧縮空気の全量が、タンク14から乗車空間3へ放出される。
圧縮空気は、乗車空間3内で膨張し、膨張に伴う吸熱反応により乗車空間3の室温を低下させる。
なお、この放出工程において、乗車空間3の圧力上昇を抑制するために、コントローラ17は、ウィンドウガラス6を開ける制御を併せて実行してよい。あるいは、コントローラ17は、空気調和装置を外気導入モードに併せて制御してよい。コントローラ17は、このように乗車空間3に通気口が設けられた状態で圧縮空気の放出を開始すればよい。コントローラ17は、ウィンドウガラス6やドアパネル5が開けられたことを検出して、圧縮空気の放出を開始してよい。
【0034】
以上のように、コントローラ17は、圧縮空気を乗車空間3に放出するために、圧縮工程、貯蔵工程および放出工程を1回の冷却サイクルとして実行する。
これにより、放出後の乗車空間3の室温は、放出前と比べて低下する。
冷却装置10は、乗車空間3を冷却できる。
コントローラ17が冷却サイクルを繰り返し実行することにより、乗車空間3を複数回にわたって冷却できる。
また、本実施形態の冷却装置10では、空気を圧縮したら直ちに乗車空間3へ放出するのではなく、貯蔵工程を経ている。
この貯蔵工程での放熱期間を経ることにより、圧縮空気の温度は、圧縮完了時の温度より低下し、たとえば常温になる。
低温化した圧縮空気を乗車空間3へ放出することにより、圧縮直後の高温の圧縮空気を放出する場合に比べて、より多くの室温低下を期待できる。
【0035】
また、コントローラ17は、各放出工程において、タンク14に貯蔵されていた圧縮空気の全量を乗車空間3へ放出する。
よって、タンク14の容量は、当該放出に必要とされる最小限の容量に小型化できる。タンク14の設置スペースが小さくなり、タンク14の設置個所の自由度が高い。
また、コントローラ17は、放出の制御において、タンク14から圧縮空気を放出するだけでよい。これにより、コントローラ17の制御も簡便になる。複雑な制御が不要である。
また、圧縮工程において、コントローラ17は、タンク14の圧力が所定の圧力となると、圧縮工程を終了する。
これにより、乗車空間3に放出される圧縮空気の圧力は、略一定の圧力となる。
圧縮空気の圧力が一定となることにより、圧縮空気による冷却効果として一定の効果を期待できる。また、圧縮空気を放出した後の乗車空間3の圧力の変動を一定範囲に抑えることができる。圧力上昇による不具合の発生を抑制できる。
【0036】
[第2実施形態]
第1実施形態は、圧縮空気を用いて乗車空間3を冷却する冷却装置10の、基本的な構成および動作の例である。
第2実施形態は、第1実施形態の冷却装置10の放出工程を改良した例である。
第2実施形態での車両および冷却装置10の構成は、第1実施形態のものと同様である。
【0037】
図4は、本発明の第2実施形態に係る冷却装置10の放出工程のフローチャートである。
【0038】
図4に示すように、コントローラ17は、圧縮空気の放出工程において、放出を開始する(ステップST11)。
放出のタイミングは、たとえばユーザが乗車した時でよい。
放出工程において、コントローラ17は、吸気弁13を閉じたまま、排気弁16を開く。
【0039】
圧縮空気の放出を開始した後、コントローラ17は、放出終了タイミングを得るために、圧力の監視を開始する。
具体的には、コントローラ17は、タンク14の圧力をタンク圧力センサ20の検出信号から得る(ステップST12)。
コントローラ17は、乗車空間3の圧力を室内圧力センサ22の検出信号から得る(ステップST13)。
【0040】
その後、コントローラ17は、タンク14の圧力が大気圧となったか否かを判断する(ステップST14)。
タンク14の圧力が大気圧まで降下している場合、タンク14のすべての圧縮空気が放出されている。
コントローラ17は、放出を終了する(ステップST15)。
コントローラ17は、排気弁16を閉じる。
【0041】
タンク14の圧力が大気圧まで降下していない場合、コントローラ17は、さらにタンク14の圧力と乗車空間3の圧力との圧力差を演算し、この圧力差が予め定めた誤差範囲内であるか否かを判断する(ステップST16)。
たとえば乗車空間3のドアパネル5およびウィンドウガラス6のすべてが閉じている場合、乗車空間3へ放出された圧縮空気は、ゆっくりと乗車空間3から抜ける。空気調和装置が内気循環モードである場合にも、同様である。
この場合、タンク14からの圧縮空気の放出が実質的に完了していたとしても、乗車空間3の圧力およびタンク14の圧力は、即座に大気圧まで低下しない。
このような場合に、圧縮空気の放出完了の判断が遅くならないようにするため、本実施形態では、ステップST16においてタンク14と乗車空間3との圧力差が無いことを確認する。
そして、タンク14と乗車空間3との圧力差が所定値以下である場合、コントローラ17は、放出を終了する(ステップST15)。
【0042】
また、タンク14と乗車空間3との圧力差が所定値を超えて残っている場合、コントローラ17は、圧力の監視を継続する。
コントローラ17は、ステップST12、ST13、ST14およびST16を、繰り返し実行する。
そして、ステップST14またはST16においてYesと判断すると、コントローラ17は、放出処理を終了する。
【0043】
以上のように、コントローラ17は、放出工程において圧力を監視し、タンク14の圧力が大気圧になった場合、および、タンク14の圧力と乗車空間3の圧力との圧力差が所定値以下になった場合に、放出を終了する。
よって、放出工程において、タンク14に貯蔵した圧縮空気の全量を放出できる。
また、放出工程の期間として、タンク14に貯蔵した圧縮空気の全量を放出できるために必要かつ十分な時間を確保するので、その後に、圧縮工程を開始することが可能になる。
たとえばユーザの乗車の際に放出工程を実施し、その直後のエンジン7の起動タイミングから圧縮工程を開始できる。圧縮工程を早期に開始することで、より短時間でかつ乗車期間が短い場合でも、圧縮工程を完了できる可能性が高まる。
【0044】
[第3実施形態]
第3実施形態は、第1実施形態の冷却装置10の放出工程を改良した他の例である。
第3実施形態での車両および冷却装置10の構成は、第1実施形態のものと同様である。
【0045】
図5は、本発明の第3実施形態に係る冷却装置10の放出工程のフローチャートである。
【0046】
図5に示すように、コントローラ17は、圧縮空気の放出工程において、放出を開始する(ステップST21)。
放出のタイミングは、たとえばユーザが乗車した時でよい。
放出工程において、コントローラ17は、吸気弁13を閉じたまま、排気弁16を開く。
【0047】
圧縮空気の放出を開始した後、コントローラ17は、放出終了タイミングを得るために、コントローラ17が有するタイマにより放出完了時間を計測する。
具体的には、コントローラ17は、タイマをスタートさせる(ステップST22)。
その後、コントローラ17は、タイマの計測時間が所定の放出期間を経過したか否かを判断する(ステップST23)。
放出期間は、たとえばタンク14から圧縮空気の放出を開始してから、タンク14の圧力が大気圧となるまでの期間であればよい。
また、放出期間は、タンク14から圧縮空気の放出を開始してから、乗車空間3のドアパネル5およびウィンドウガラス6が閉じられた状態で、タンク14の圧力と乗車空間3の圧力とが同じになるまでの期間であればよい。
また、放出期間として、これらの期間のうち、いずれか長い期間としてもよい。
【0048】
そして、タイマの計測時間が所定期間になると、コントローラ17は、放出を終了する(ステップST24)。
コントローラ17は、排気弁16を閉じる。
【0049】
以上のように、コントローラ17は、放出工程において放出期間をタイマにより計測し、その放出期間を経過したら放出を終了する。
よって、放出工程において、タンク14に貯蔵した圧縮空気の全量を放出できる。
また、コントローラ17は、タイマによる時間計測に基づいて放出終了タイミングを判断するので、第2実施形態のタンク圧力センサ20と室内圧力センサ22とが不要である。
【0050】
[第4実施形態]
図6は、本発明の第4実施形態に係る冷却装置10の構成図である。
図6の冷却装置10は、リザーバタンク31、遮断弁32を追加した以外は、第1実施形態の冷却装置10の構成と同じである。
【0051】
リザーバタンク31は、タンク14とともに圧縮空気を貯蔵する。
リザーバタンク31は、タンク14と同様の材料または構造を有するものであればよい。リザーバタンク31は、タンク14より容量が多くなるように、タンク14より大型に形成するとよい。
リザーバタンク31は、吸気ダクト12および排気ダクト15に対して、並列的に接続されていればよい。図6では、リザーバタンク31は、吸気ダクト12とタンク14との間に接続されている。
リザーバタンク31は、図1の車体2のエンジンルームなどに配置されればよい。
【0052】
遮断弁32は、リザーバタンク31とタンク14との間に接続される。遮断弁32は、コントローラ17により開閉制御される。
遮断弁32が開状態である場合、リザーバタンク31とタンク14とが遮断される。
遮断弁32が閉状態である場合、リザーバタンク31とタンク14とが連通する。
遮断される。
【0053】
第4実施形態での冷却装置10の基本的な動作は、第1実施形態のものと同様である。以下、第1実施形態と相違する動作について説明する。
圧縮工程では、コントローラ17は、吸気弁13とともに遮断弁32を開く。圧縮工程において、リザーバタンク31およびタンク14に、圧縮空気が貯蔵される。
貯蔵工程では、コントローラ17は、遮断弁32を開いても、閉じてもよい。貯蔵工程において、リザーバタンク31に貯蔵された圧縮空気は、タンク14に貯蔵された圧縮空気と同様に、冷却される。
放出工程では、コントローラ17は、遮断弁32を閉じた状態で、放出弁16を開く。放出を終えると、コントローラ17は、遮断弁32を閉じたまま、放出弁16を閉じる。
よって、放出工程では、タンク14に貯蔵された圧縮空気が放出される。
リザーバタンク31に貯蔵された圧縮空気は、放出されない。
【0054】
以上のように、本実施形態では、タンク14を放出に用いる。
よって、タンク14から圧縮空気を放出した後にも、リザーバタンク31に圧縮空気が貯蔵されている。
コントローラ17は、このようにリザーバタンク31に圧縮空気が貯蔵されている場合、次回の放出のために、たとえば圧縮工程においてコンプレッサ11を動作させることなく、遮断弁32を開いてもよい。
吸気弁13を閉じたまま遮断弁32を開くことにより、リザーバタンク31の圧縮空気をタンク14に移動させ、タンク14に圧縮空気を充填できる。
冷却装置10は、コンプレッサ11により十分な圧力の圧縮空気を生成できないような短い時間での乗車をユーザが繰り返したとしても、その複数回の乗車において、タンク14から圧縮空気を複数回放出できる。
【0055】
なお、本実施形態では、コンプレッサ11を用いた圧縮工程において、リザーバタンク31およびタンク14に圧縮空気を同時に貯蔵している。
この他にもたとえば、コンプレッサ11を用いた圧縮工程において、リザーバタンク31に圧縮空気を貯蔵した後、リザーバタンク31からタンク14に圧縮空気を充填するようにしてもよい。
【0056】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0057】
上記実施形態は、冷却装置10は、自動車1に搭載されている。
この他にもたとえば、冷却装置10は、バス、電車などのその他の車両に搭載されてよい。
冷却装置10は、車両から分離された単独の装置として形成されてよい。
コンプレッサ11の駆動源に電動モータを使用することで、冷却装置10は、エンジン7の駆動力を動力源とすることなく圧縮工程を実施できる。電動コンプレッサを用いる冷却装置10は、車両のバッテリ、太陽光発電パネル、家庭用電源の電力により動作できる。
持ち運び可能な冷却装置10とすることで、複数の車両の冷却に使用できる。非常用の冷却装置10としても利用できる。
【0058】
上記実施形態では、冷却装置10は、タンク14の他に、コンプレッサ11を有する。
この他にもたとえば、冷却装置10は、タンク14を交換可能として、コンプレッサ11を持たないものとしてもよい。
この場合、冷却装置10は、圧縮工程を実施しない。また、冷却装置10は、タンク14の残圧を確認したり、または新たなタンク14が装着されたかを確認して冷却工程を実施したりすればよい。
そして、タンク14を購入して利用する場合、そのタンク14は一般的に常温に冷却されているので、冷却のための貯蔵工程も不要である。
【0059】
上記実施形態では、自動車1などの車両の乗車空間3は、冷却装置10により冷却される。
自動車1などの車両は、一般的に、コンプレッサ、コンデンサ、レシーバ、エキスパンションバルブ、エバボレータで冷媒を循環し、ブロアファンにより乗車空間3の空気をエバボレータへ吹き付けて冷却する空気調和装置を有する。
この他にもたとえば、自動車1などの車両の乗車空間3は、冷却装置10および空気調和装置により冷却されてよい。
たとえば冷却装置10で初期冷却した後に、空気調和装置で所望の温度に冷却すればよい。
これにより、乗車空間3は、空気調和装置だけで乗車空間3を冷却する場合に比べて、確実に短時間で冷却される。
なお、このような冷却装置10と空気調和装置とによる協働の冷却動作は、これらのコントローラが別々である場合には、たとえば冷却装置10から空気調和装置へ起動信号を送信することにより実現できる。
コントローラが共通化されている場合には、冷却装置10の制御プログラムから空気調和装置の制御プログラムに対して、フラグなどによるプログラム間通信により通信させることにより実現できる。
【符号の説明】
【0060】
1…自動車(車両)
3…乗車空間
10…冷却装置
11…コンプレッサ
14…タンク
17…コントローラ(制御部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが乗車する乗車空間と、
圧縮空気を貯蔵可能なタンクと、
前記乗車空間に対して前記タンクに貯蔵された圧縮空気を放出させる制御部と、
を有し、
前記制御部は、
前記タンクからの圧縮空気の放出において、前記タンクに貯蔵されている圧縮空気の全量を放出する
車両。
【請求項2】
前記制御部は、
前記タンクの圧力が大気圧になると、放出を終了する
請求項1記載の車両。
【請求項3】
前記制御部は、
前記タンクの圧力および前記乗車空間の圧力のうちの少なくとも一方を検知する検知手段を有し、
前記タンクの圧力と、前記乗車空間の圧力との圧力差が所定値以下になると、放出を終了する
請求項1または2記載の車両。
【請求項4】
前記制御部は、
前記タンクの圧力が大気圧になるまでの期間に基づく放出期間、または前記タンクの圧力と前記乗車空間の圧力との間に圧力差がなくなるまでの期間に基づく放出期間が経過すると、放出を終了する
請求項1記載の車両。
【請求項5】
前記タンクへ圧縮空気を供給するリザーバタンクを有する
請求項1から4のいずれか一項記載の車両。
【請求項6】
ユーザが乗車する車両の乗車空間を冷却する冷却装置であって、
圧縮空気を貯蔵可能なタンクと、
前記乗車空間に対して前記タンクに貯蔵された圧縮空気を放出させる制御部と、
を有し、
前記制御部は、
前記タンクからの圧縮空気の放出において、前記タンクに貯蔵されている圧縮空気の全量を放出する
冷却装置。
【請求項7】
ユーザが乗車する車両の乗車空間を冷却する圧縮空気をタンクに貯蔵する冷却装置の冷却方法であって、
前記タンクに圧縮空気を貯蔵し、
前記タンクに貯蔵された圧縮空気の全量を前記乗車空間へ放出する
冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−75574(P2013−75574A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215661(P2011−215661)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】