説明

車両およびその制御方法

【課題】シフトポジションが駐車ポジションにある状態で、冷間時に、エンジン22を始動できるようにすると共にモータMG1,MG2の総消費電力(電力量)が大きくなるのを抑制する。
【解決手段】シフトポジションが駐車ポジションにある状態でエンジンの始動指示がなされたときにエンジンの冷却水温αwが閾値αwref以下のときには、変速機の入力軸としてのリングギヤ軸に作用するトルクに対してリングギヤ軸の回転を制限できる程度でモータMG2のステータに固定磁界が形成されるようモータMG2を制御する回転制限制御の実行を伴って(S130〜S170)比較的小さい所定回転数N2が設定される運転制御開始回転数Nst以上でエンジン22がモータリングされると共にそのモータリングに伴ってエンジン22が始動されるようエンジン22とモータMG1とを制御する(S110,S180〜S200)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両としては、エンジンと、エンジンのクランクシャフトにキャリアが接続されると共に駆動輪にリングギヤが接続されたプラネタリギヤと、プラネタリギヤのサンギヤに接続された第1モータと、プラネタリギヤのリングギヤに接続された第2モータと、第1モータおよび第2モータと電力をやりとりするバッテリと、を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この車両では、第1モータによってエンジンをモータリングして始動させる際には、第1モータによりエンジンをモータリングすると共にそのモータリングに伴って車軸側に作用するトルクを打ち消すためのトルクを第2モータから出力し、エンジンの回転数がエンジンの冷却水温が低いほど低くなる噴射開始回転数に至ったときに燃料噴射や点火を開始することにより、冷間時にエンジンを始動する際の第1モータによる電力消費を抑制している。
【特許文献1】特開11−153075号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述のハード構成に加えてリングギヤと駆動輪との間に有段の変速機を備える車両では、シフトポジションが駐車ポジションにあるときには、通常、車軸がロックされると共に有段の変速機によってリングギヤと車軸との接続が解除される。この状態で第1モータによりエンジンをモータリングして始動させるためには、リングギヤの回転を制限することが望まれるが、この際、リングギヤに作用するトルクを打ち消すためのトルクを第2モータから出力する方法以外の方法によりリングギヤの回転を制限するよう望まれることがある。また、冷間時には、エンジンの潤滑オイルの粘性が高いため、第1モータによりエンジンをモータリングする際には、エンジンの回転数の上昇速度が小さくなり、、第1モータや第2モータの総消費電力(電力量)が大きくなりやすいが、こうした総消費電力が大きくなるのをできるだけ抑制するよう望まれる。
【0004】
本発明の車両およびその制御方法は、入力軸と車軸側との間での変速段の変更を伴う動力の伝達および伝達の解除が可能な変速機を備えるものにおいて、シフトポジションが駐車ポジションにある状態で、冷間時に、モータリング装置により内燃機関をモータリングして始動できるようにすると共に始動する際のモータリング装置や電動機の総消費電力(電力量)が大きくなるのを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の車両およびその制御方法は、上述の目的を達成するために以下の手段を採った。
【0006】
本発明の車両は、
内燃機関と、
入力軸を有し、該入力軸と車軸側との間の変速段の変更を伴う動力の伝達および伝達の解除が可能な変速手段と、
前記内燃機関の出力軸と前記入力軸とに接続され、該入力軸への駆動力の出力を伴って前記内燃機関をモータリングするモータリング手段と、
前記入力軸に回転子が接続され、固定子の回転磁界により該回転子を回転駆動させて該入力軸に動力を入出力可能な電動機と、
前記モータリング手段および前記電動機と電力をやりとり可能な蓄電手段と、
前記内燃機関の潤滑媒体の温度を反映する物理量である温度反映物理量を検出する温度反映物理量検出手段と、
シフトポジションが駐車ポジションにある駐車状態で前記内燃機関の始動指示がなされたとき、前記検出された温度反映物理量により反映される前記内燃機関の潤滑媒体の温度が所定温度より高い通常時には前記入力軸に作用する駆動力である入力軸作用駆動力に対して前記入力軸の回転を制限できる程度で前記固定子の磁界の向きが固定されるよう前記電動機を制御する回転制限制御の実行を伴って前記内燃機関が第1の回転数以上の回転数で回転するようモータリングされると共に該モータリングに伴って前記内燃機関が始動されるよう該内燃機関と前記モータリング手段とを制御し、前記検出された温度反映物理量により反映される前記内燃機関の潤滑媒体の温度が前記所定温度以下である冷間時には前記回転制限制御の実行を伴って前記内燃機関が前記第1の回転数よりも小さい第2の回転数以上の回転数で回転するようモータリングされると共に該モータリングに伴って前記内燃機関が始動されるよう該内燃機関と前記モータリング手段とを制御する制御手段と、
を備えることを要旨とする。
【0007】
この本発明の車両では、シフトポジションが駐車ポジションにある駐車状態で内燃機関の始動指示がなされたときに、内燃機関の潤滑媒体の温度を反映する物理量である温度反映物理量により反映される内燃機関の潤滑媒体の温度が所定温度より高い通常時には、変速手段の入力軸に作用する駆動力である軸作用駆動力に対して入力軸の回転を制限できる程度で電動機の固定子の磁界の向きが固定されるよう電動機を制御する回転制限制御の実行を伴って内燃機関が第1の回転数以上の回転数で回転するようモータリングされると共にそのモータリングに伴って内燃機関が始動されるよう内燃機関とモータリング手段とを制御する。一方、駐車状態で内燃機関の始動指示がなされたときに、内燃機関の潤滑媒体の温度が所定温度以下である冷間時には、回転制限制御の実行を伴って内燃機関が第1の回転数よりも小さい第2の回転数以上の回転数で回転するようモータリングされると共にそのモータリングに伴って内燃機関が始動されるよう内燃機関とモータリング手段とを制御する。まず、駐車状態では、通常、車軸が固定されると共に変速手段により回転軸と車軸側との接続が解除されるが、電動機の固定子の磁界の向きを固定して変速機の入力軸の回転を制限することにより、モータリング手段により内燃機関をモータリングして始動することができる。しかも、冷間時には、内燃機関の潤滑媒体の粘性が高く内燃機関の回転数が上昇しにくいが、内燃機関の回転数が比較的低い第2の回転数以上になったときに内燃機関を始動することにより、内燃機関の始動時のモータリング手段による総消費電力(電力量)が大きくなるのを抑制することができる。ここで、「温度反映物理量」としては、内燃機関の冷却媒体の温度であるものとすることもできる。また、「第1の回転数」としては、内燃機関をアイドル運転する際の回転数であるものとすることもできる。さらに、「第2の回転数」としては、内燃機関の燃料噴射および点火を実行可能な回転数の下限であるものとすることもできる。
【0008】
こうした本発明の車両において、前記制御手段は、前記冷間時には、前記通常時に比して小さいモータリング駆動力の前記モータリング手段からの出力を伴って前記内燃機関がモータリングされるよう制御する手段であるものとすることもできる。冷間時には、蓄電手段の温度も低いことがあり、その場合には、蓄電手段の出力制限は大きく制限されることになるが、モータリング駆動力を小さくすることにより、モータリング手段による電力消費を抑制することができ、回転制限制御を実行するために電動機に供給可能な電力をより確保できるようにすることができる。
【0009】
また、本発明の車両において、前記制御手段は、前記冷間時には、前記内燃機関の回転数が前記第2の回転数以上になるまで、該内燃機関の回転数と該第2の回転数との偏差に基づく駆動力の前記モータリング手段からの出力を伴って前記内燃機関がモータリングされるよう制御する手段であるものとすることもできる。この場合、前記制御手段は、前記冷間時には、前記内燃機関の回転数が前記第2の回転数以上になるまで、該内燃機関の回転数と該第2の回転数との偏差が打ち消される駆動力の前記モータリング手段からの出力を伴って前記内燃機関がモータリングされるよう制御する手段であるものとすることもできる。
【0010】
さらに、本発明の車両において、前記制御手段は、前記冷間時には、前記内燃機関が始動された後、前記内燃機関の自立運転を伴って前記内燃機関の回転数が前記第1の回転数以上になるよう制御する手段であるものとすることもできる。
【0011】
加えて、本発明の車両において、前記モータリング手段は、前記入力軸に接続されると共に該入力軸とは独立に回転可能に前記内燃機関の出力軸に接続され、電力と動力の入出力を伴って前記入力軸と前記出力軸とに動力を入出力する電力動力入出力手段であるものとすることもできる。この場合、前記電力動力入出力手段は、前記入力軸と前記出力軸と第3の軸との3軸を有し該3軸のうちのいずれか2軸に入出力される動力に基づいて残余の軸に動力を入出力する3軸式動力入出力手段と、前記第3の軸に動力を入出力可能な発電機と、を備える手段であるものとすることもできる。
【0012】
本発明の車両の制御方法は、
内燃機関と、入力軸を有し該入力軸と車軸側との間の変速段の変更を伴う動力の伝達および伝達の解除が可能な変速手段と、前記内燃機関の出力軸と前記入力軸とに接続され該入力軸への駆動力の出力を伴って前記内燃機関をモータリングするモータリング手段と、前記入力軸に回転子が接続され固定子の回転磁界により該回転子を回転駆動させて該入力軸に動力を入出力可能な電動機と、前記モータリング手段および前記電動機と電力をやりとり可能な蓄電手段と、を備える車両の制御方法であって、
シフトポジションが駐車ポジションにある駐車状態で前記内燃機関の始動指示がなされたとき、前記内燃機関の潤滑媒体の温度が所定温度より高い通常時には前記入力軸に作用する駆動力である入力軸作用駆動力に対して前記入力軸の回転を制限できる程度で前記固定子の磁界の向きが固定されるよう前記電動機を制御する回転制限制御の実行を伴って前記内燃機関が第1の回転数以上の回転数で回転するようモータリングされると共に該モータリングに伴って前記内燃機関が始動されるよう該内燃機関と前記モータリング手段とを制御し、前記内燃機関の潤滑媒体の温度が前記所定温度以下である冷間時には前記回転制限制御の実行を伴って前記内燃機関が前記第1の回転数よりも小さい第2の回転数以上の回転数で回転するようモータリングされると共に該モータリングに伴って前記内燃機関が始動されるよう該内燃機関と前記モータリング手段とを制御する、
ことを特徴とする。
【0013】
この本発明の車両の制御方法では、シフトポジションが駐車ポジションにある駐車状態で内燃機関の始動指示がなされたときに、内燃機関の潤滑媒体の温度が所定温度より高い通常時には、変速手段の入力軸に作用する駆動力である軸作用駆動力に対して入力軸の回転を制限できる程度で電動機の固定子の磁界の向きが固定されるよう電動機を制御する回転制限制御の実行を伴って内燃機関が第1の回転数以上の回転数で回転するようモータリングされると共にそのモータリングに伴って内燃機関が始動されるよう内燃機関とモータリング手段とを制御する。一方、駐車状態で内燃機関の始動指示がなされたときに、内燃機関の潤滑媒体の温度が所定温度以下である冷間時には、回転制限制御の実行を伴って内燃機関が第1の回転数よりも小さい第2の回転数以上の回転数で回転するようモータリングされると共にそのモータリングに伴って内燃機関が始動されるよう内燃機関とモータリング手段とを制御する。まず、駐車状態では、通常、車軸が固定されると共に変速手段により回転軸と車軸側との接続が解除されるが、電動機の固定子の磁界の向きを固定して変速機の入力軸の回転を制限することにより、モータリング手段により内燃機関をモータリングして始動することができる。しかも、冷間時には、内燃機関の潤滑媒体の粘性が高く内燃機関の回転数が上昇しにくいが、内燃機関の回転数が比較的低い第2の回転数以上になったときに内燃機関を始動することにより、内燃機関の始動時のモータリング手段による総消費電力(電力量)が大きくなるのを抑制することができる。ここで、「第1の回転数」としては、内燃機関をアイドル運転する際の回転数であるものとすることもできる。また、「第2の回転数」としては、内燃機関の燃料噴射および点火を実行可能な回転数の下限であるものとすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続されたリングギヤ軸32aに接続されたモータMG2と、リングギヤ軸32aの動力を変速して駆動輪39a,39bに連結された駆動軸36に出力する変速機60と、駆動輪39a,39bをロックするパーキングロック機構90と、自動車全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
【0016】
エンジン22は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24により燃料噴射制御や点火制御,吸入空気量調節制御などの運転制御を受けている。エンジンECU24には、エンジン22の運転状態を検出する各種センサからの信号、例えば、エンジン22を冷却する冷却水の温度を検出する温度センサ22aからの冷却水温αwやエンジン22のクランクシャフト26のクランクポジションを検出するクランクポジションセンサ22bからのクランクポジションなどが入力されている。エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0017】
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構30は、キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、リングギヤ32には変速機60の入力軸としてのリングギヤ軸32aがそれぞれ連結されており、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aから変速機60,駆動軸36,デファレンシャルギヤ38を介して、最終的には車両の駆動輪39a,39bに出力される。
【0018】
図2は、モータMG1,MG2やバッテリ50を中心とした電気駆動系の構成の概略を示す構成図である。モータMG1,MG2は、図1および図2に示すように、いずれも永久磁石が貼り付けられたロータ45a,46aと三相コイルが巻回されたステータ45b,46bとを有し、発電機として駆動できると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42は、いずれも6個のトランジスタT1〜T6,T7〜T12とトランジスタT1〜T6,T7〜T12に逆並列接続された6個のダイオードD1〜D6,D7〜D12とにより構成されている。各6個のトランジスタT1〜T6,T7〜T12は、バッテリ50の正極が接続された正極母線とバッテリ50の負極が接続された負極母線とに対してソース側とシンク側とになるよう2個ずつペアで配置され、その接続点にモータMG1,MG2の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、対をなすトランジスタT1〜T6,T7〜T12のオン時間の割合を調節することにより三相コイルに回転磁界を形成でき、モータMG1,MG2を回転駆動することができる。インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線から構成されており、モータMG1,MG2のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリ50は、モータMG1,MG2のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、モータMG1,MG2により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されない。モータMG1,MG2は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40は、CPU40aを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU40aの他に処理プログラムを記憶するROM40bと、データを一時的に記憶するRAM40cと、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からのモータMG1,MG2のロータ45a,46aの回転位置θm1,θm2や、モータMG1,MG2の三相コイルのU相,V相に流れる相電流を検出する電流センサ45U,45V,46U,46Vからの相電流Iu1,Iv1,Iu2,Iv2などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42のトランジスタT1〜T6,T7〜T12へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0019】
変速機60は、図示しないブレーキやクラッチを有し、入力軸としてのリングギヤ軸32aと駆動軸36との接続および接続の解除を行なうと共に両軸の接続をリングギヤ軸32aの回転数を4段に変速して駆動軸36に伝達できるよう構成されている。
【0020】
パーキングロック機構90は、駆動軸36に取り付けられたパーキングギヤ92と、パーキングギヤ92と噛み合ってその回転駆動を停止した状態でロックするパーキングロックポール94と、から構成されている。パーキングロックポール94は、他のポジションから駐車ポジション(Pポジション)への操作信号または駐車ポジションから他のポジションへの操作信号を入力したハイブリッド用電子制御ユニット70により図示しないアクチュエータが駆動制御されることによって作動し、パーキングギヤ92との噛合およびその解除によりパーキングロックおよびその解除を行なう。駆動軸36は機械的に駆動輪39a,39bに接続されているから、パーキングロック機構90は間接的に駆動輪39a,39bをロックしていることになる。
【0021】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからのバッテリ電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51からの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、バッテリECU52では、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量SOCも演算している。
【0022】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70からは、変速機60の図示しないブレーキやクラッチのアクチュエータへの駆動信号やパーキングロック機構90の図示しないアクチュエータへの駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0023】
なお、実施例のハイブリッド自動車20では、シフトポジションセンサ82により検出するシフトレバー81のポジションとしては、駐車ポジション(Pポジション)や中立ポジション(Nポジション),ドライブポジション(Dポジション),リバースポジション(Rポジション)などがある。シフトレバー81が駐車ポジションの状態のときには、通常、変速機60の図示しないブレーキやクラッチが開放されてリングギヤ軸32aが駆動軸36から切り離される。
【0024】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクを計算し、要求トルクと車速Vとに応じた変速段となるよう変速機60が制御され、要求トルクと変速機60の変速段とに応じたトルクに対応する要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力され
る動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。
【0025】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特にシフトポジションSPが駐車ポジションにある状態でエンジン22を始動する際の動作について説明する。図3は、ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される駐車状態始動時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、シフトポジションSPが駐車ポジションにある状態でエンジン22の始動指示がなされたときに実行される。
【0026】
駐車状態始動時制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、エンジン22の冷却水温αwや回転数Ne,目標回転数Ne*,モータMG1の回転数Nm1,バッテリ50の出力制限Woutなど制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、エンジン22の冷却水温αwは、温度センサ22aにより検出されたものをエンジンECU24から通信により入力するものとした。また、エンジン22の回転数Neは、クランクポジションセンサ22bからの信号に基づいて計算されたものをエンジンECU24から通信により入力するものとした。さらに、エンジン22の目標回転数Ne*は、図示しない目標回転数設定ルーチンにより、エンジン22を暖機運転するときなどにはアイドル回転数Nidlが、モータMG1による発電を伴ってバッテリ50の充電を行なうときなどにはバッテリ50の残容量SOCや電池温度Tb,図示しない補機の目標消費電力などに基づく発電要求パワーP*に応じた動力をエンジン22から出力するためにエンジン22を効率よく運転可能な回転数が、設定されてRAM76の所定アドレスに書き込まれたものを読み込むことにより入力するものとした。このエンジン22の目標回転数Ne*には、実施例では、冷間時でないときにエンジン22の燃料噴射や点火を開始する回転数(後述の所定回転数N1)以上の回転数が設定されるものとした。モータMG1の回転数Nm1は、回転位置検出センサ43により検出されるモータMG1のロータ45aの回転位置に基づいて計算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。バッテリ50の出力制限Woutは、温度センサ51により検出されたバッテリ50の電池温度Tbとバッテリ50の残容量(SOC)とに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。なお、バッテリ50の入出力制限Woutは、電池温度Tbに基づいて出力制限Woutの基本値を設定し、バッテリ50の残容量SOCに基づいて補正係数とを設定し、設定した出力制限Woutの基本値に補正係数を乗じることにより設定することができる。図4に電池温度Tbと出力制限Woutの基本値との関係の一例を示し、図5にバッテリ50の残容量(SOC)と出力制限Woutの補正係数との関係の一例を示す。こうして設定されるバッテリ50の出力制限Woutは、図4の電池温度Tbと出力制限Woutの基本値との関係から、冷間時には、比較的大きく制限されることになる。
【0027】
続いて、エンジン22をモータリングするモータリングトルクとしてのモータMG1ののトルク指令Tm1*とエンジン22の運転制御(燃料噴射制御や点火制御など)を開始する回転数としての運転制御開始回転数Nstを設定する(ステップS110)。このモータMG1のトルク指令Tm1*および運転制御開始回転数Nstは、実施例では、図3の駐車状態始動時制御ルーチンと並行してハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される図6に例示するトルク指令設定ルーチンにより設定されるものを用いるものとした。以下、図3の駐車状態始動時制御ルーチンの説明を一旦中断し、図6のトルク指令設定ルーチンについて説明する。
【0028】
トルク指令設定ルーチンが実行されると、まず、エンジン22の冷却水温αwや回転数Ne,目標回転数Ne*を図3の駐車状態始動時制御ルーチンのステップS100の処理と同様に入力すると共に(ステップS300)、入力したエンジン22の冷却水温αwを閾値αwrefと比較する(ステップS310)。ここで、閾値αwrefは、エンジン22の潤滑オイルの特性などにより定められ、例えば、−20度や−25度などを用いることができる。冷間時には、エンジン22の潤滑オイルの粘性が高いため、冷間時でないとき(例えば、25度など)と同様にモータMG1からトルクを出力してエンジン22をモータリングしたとしても、エンジン22の回転数Neの上昇速度は小さくなる。ステップS310のエンジン22の冷却水温αwと閾値αwrefとの比較は、このようにモータMG1によりエンジン22をモータリングする際にエンジン22の回転数Neの上昇速度が小さくなるか否かを判定する処理である。
【0029】
エンジン22の冷却水温αwが閾値αwrefより高いときには、所定トルクT1を最大トルクTm1maxとして設定すると共に(ステップS320)、運転制御開始回転数Nstに所定回転数N1を設定する(ステップS330)。ここで、所定トルクT1は、モータMG1によりエンジン22をモータリングする際に、エンジン22の回転数Neを共振回転数帯を迅速に通過させて所定回転数N1までモータリングするのに要するトルクなどを設定することができ、エンジン22やモータMG1の特性などにより定められる。また、所定回転数N1は、実施例では、共振回転数帯より余裕をもって大きな回転数(例えば、1000rpmや1200rpmなど)を設定するものとした。
【0030】
一方、エンジン22の冷却水温αwが閾値αwref以下のときには、所定トルクT1よりも小さい所定トルクT2を最大トルクTm1maxとして設定すると共に(ステップS340)、運転制御開始回転数Nstに所定回転数N1よりも小さい所定回転数N2を設定する(ステップS350)。ここで、所定トルクT2は、モータMG1によりエンジン22をモータリングする際に、エンジン22の回転数Neを所定回転数N2までモータリングするのに要するトルクなどを設定することができ、エンジン22やモータMG1の特性などにより定められる。また、所定回転数N2は、実施例では、燃料噴射制御や点火制御を開始可能な下限回転数やそりよりも若干大きい回転数(例えば、150rpmや200rpmなど)を設定するものとした。
【0031】
こうして最大トルクTm1maxや運転制御開始回転数Nstを設定すると、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定する(ステップS360)。そして、前回のモータMG1のトルク指令(前回Tm1*)に所定トルクTupを加えたものと最大トルクTm1maxとのうち小さい方をモータMG1のトルク指令Tm1*として設定し(ステップS370)、エンジン22の回転数Neを入力し(ステップS380)、入力したエンジン22の回転数Neを運転制御開始回転数Nstと比較し(ステップS390)、エンジン22の回転数Neが運転制御開始回転数Nst未満のときには、ステップS370に戻る。このステップS370〜S390の処理により、エンジン22の回転数Neが運転制御開始回転数Nst未満の間のモータMG1のトルク指令Tm1*は、所定トルクTupずつ最大トルクTm1maxまで増加していき、その後は最大トルクTm1maxとなる。ここで、所定トルクTupは、トルク指令Tm1*の上昇の程度であり、トルク指令Tm1*を所定トルクTupずつ増加させる処理を繰り返す時間間隔によって定められる。
【0032】
エンジン22の回転数Neが運転制御開始回転数Nst以上に至ると、前回のモータMG1のトルク指令(前回Tm1*)から所定トルクTdownを減じたものと値0とのうち大きい方をモータMG1のトルク指令Tm1*として設定し(ステップS400)、エンジン22の回転数Neを入力し(ステップS410)、エンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*近傍に至ったか否かを判定し(ステップS420)、エンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*に近傍に至っていないときにはステップS400に戻り、エンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*近傍に至ったときにはトルク指令設定ルーチンを終了する。このステップS400〜S420の処理により、エンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*近傍に至るまでのモータMG1のトルク指令Tm1*は、所定トルクTdownずつ値0まで減少していき、その後は値0となる。ここで、所定トルクTdownは、トルク指令Tm1*の下降の程度であり、トルク指令Tm1*を所定トルクTdownずつ減少させる処理を繰り返す時間間隔によって定められる。
【0033】
図7は、エンジン22をモータリングするときのモータMG1のトルク指令Tm1*の時間変化の様子を示す説明図である。図中、実線はエンジン22の冷却水温αwが閾値αwrefより高いときの様子を示し、破線はエンジン22の冷却水温αwが閾値αwref以下のときの様子を示す。時刻t1でエンジン22の始動指示がなされたときに、エンジン22の冷却水温αwが閾値αwrefより高いときには、エンジン22の回転数Neが運転制御開始回転数Nst(所定回転数N1)以上に至る時刻t3まで最大トルクTm1max(所定トルクT1)を用いて比較的大きなモータリングトルクをモータMG1から出力してエンジン22をモータリングする(実線)。一方、時刻t1でエンジン22の始動指示がなされたときに、エンジン22の冷却水温αwが閾値αw以下のときには、エンジン22の回転数Neが運転制御開始回転数Nst(所定回転数N2)以上に至る時刻t2まで最大トルクTm1max(所定トルクT2)を用いて比較的小さなモータリングトルクをモータMG1から出力してエンジン22をモータリングする(破線)。このようにエンジン22の冷却水温αwを考慮した最大トルクTm1maxや運転制御開始回転数Nstを用いてモータMG1のトルク指令Tm1*を設定する理由については後述する。
【0034】
モータMG1のトルク指令Tm1*を設定すると、トルク指令Tm1*に対応するトルクがモータMG1から出力されたときにリングギヤ軸32aに作用すると推定されるトルクとしての推定軸作用トルクTrestをトルク指令Tm1*と動力分配統合機構30のギヤ比ρとを用いて次式(1)により計算する(ステップS120)。ここで、モータMG1によってエンジン22をモータリングする際の動力分配統合機構30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図を図8に示す。図中、左のS軸はモータMG1の回転数Nm1であるサンギヤ31の回転数を示し、C軸はエンジン22の回転数Neであるキャリア34の回転数を示し、R軸はモータMG2の回転数Nm2であるリングギヤ32(リングギヤ軸32a)の回転数を示す。また、図中、R軸上の太線矢印は、モータMG1から出力されたトルクTm1がリングギヤ軸32aに作用するトルクを示す。式(1)は、図8の共線図から容易に導き出すことができる。
【数1】

【0035】
続いて、推定軸作用トルクTrestの絶対値を回転制限制御用トルクTm2として設定する(ステップS130)。ここで、回転制限制御用トルクTm2は、モータMG2のステータ46bに形成される磁界の向きを固定することによりモータMG2のロータ46a(変速機60の入力軸としてのリングギヤ軸32a)が回転しないようにする制御(以下、回転制限制御という)を実行する際にモータMG2の三相コイルに通電させる電流値を設定するために用いるトルクである。この回転制限制御用トルク制限Tm2は、実施例では、値0以上の値が設定されるものとした。図9は、回転制限制御の様子を示す説明図である。モータMG2を制御する際には、図9に示すように、モータMG2のステータ46bには、電流が通電されたU相,V相,W相の各々で形成される磁界を合成した合成磁界(図中、実線太線矢印参照)が形成される。回転制限制御では、この合成磁界が回転しないようにモータMG2を制御する。以下、こうした回転しない合成磁界を固定磁界と呼ぶ。固定磁界の向きがモータMG2のロータ46aの永久磁石により形成される磁界の向き(d−q座標系におけるd軸の向き)と一致するときには、モータMG2からリングギヤ軸32aにはトルクは出力されない。しかしながら、リングギヤ軸32aにトルクが作用することによってロータ46aが回転してステータ46bに形成される固定磁界の向きとロータ46aの現在の磁界の向き(d軸の向き)とがズレると、ステータ46bに形成される固定磁界の向きとロータ46aの現在の磁界の向きとが一致する方向にズレに応じてロータ46aにトルクが作用し(以下、このトルクを吸引トルクという)、リングギヤ軸32aに作用するトルクと吸引トルクとが釣り合う位置でロータ46aは停止する。ここで、吸引トルクは、固定磁界の向きとロータ46aの現在の磁界の向きとのズレが電気角でπ/2以下の範囲内のときにはそのズレが大きいほど大きくなり、且つ、固定磁界を形成させるためにステータ46bの三相コイルに通電させる電流値が大きいほど大きくなる。前述の回転制限制御用トルクTm2は、この三相コイルに通電させる電流値を定めるために用いられるものである。実施例では、回転制限制御用トルクTm2が大きいほど大きくなる傾向で、且つ、回転制限制御用トルクTm2以下の大きさ(−Tm2〜Tm2の範囲内)でリングギヤ軸32aに作用するトルクに対してリングギヤ軸32aが回転しないようにすることができる電流値を設定するものとした。モータMG1からトルク指令Tm1*に対応するトルクが出力されたときにリングギヤ軸32aに作用するトルクは、−Tm2〜Tm2の範囲内となるため、このように設定した電流値に対応する電流をモータMG2のステータ46bの三相コイルに通電させれば、リングギヤ軸32aが回転しないようにすることができる。こうしたモータMG2の制御の詳細については後述する。なお、d−q座標系において、d軸はロータ46aに貼り付けられた永久磁石により形成される磁界の方向であり、q軸はd軸に対して電気角でπ/2だけ進角させた方向である。
【0036】
そして、バッテリ50の出力制限WoutとモータMG1のトルク指令Tm1*に現在のモータMG1の回転数Nm1を乗じて得られるモータMG1の消費電力(発電電力)との差(Wout−Tm1*・Nm1)に基づいて回転制限制御用トルク制限Tm2limを設定する(ステップS140)。回転制限制御用トルク制限Tm2limは、バッテリ50からの放電電力がバッテリ50の出力制限Woutを超えないようにするために、差(Wout−Tm1*・Nm1)が小さくなるほど小さくなる傾向に設定される。即ち、バッテリ50の出力制限Woutが小さいほど小さくなる傾向に、且つ、モータMG1からのモータリングトルクが大きいほど小さくなる傾向に設定される。
【0037】
こうして回転制限制御用トルク制限Tm2limを設定すると、回転制限制御用トルクTm2を回転制限制御用トルク制限Tm2limと比較し(ステップS150)、回転制限制御用トルクTm2が回転制限制御用トルク制限Tm2lim以下のときには、そのままモータMG1のトルク指令Tm1*と回転制限制御用トルクTm2とをモータECU40に送信する(ステップS170)。一方、回転制限制御用トルクTm2が回転制限制御用トルク制限Tm2limより大きいときには、回転制限制御用トルク制限Tm2limを回転制限制御用トルクTm2として再設定すると共に(ステップS160)、再設定したトルク指令Tm1*と回転制限制御用トルクTm2とをモータECU40に送信する(ステップS170)。トルク指令Tm1*と回転制限制御用トルクTm2とを受信したモータECU40は、トルク指令Tm1*でモータMG1が駆動されるようインバータ41のスイッチング素子のスイッチング制御を行なうと共に後述の図10に例示する回転制限制御用トルク受信時第2モータ制御ルーチンを実行する。エンジン22の冷却水温αwが閾値αwref以下のときには、電池温度Tbも低いことがあり、その場合には、前述したように、バッテリ50の出力制限Woutが大きく制限される(小さくなる)ため、冷間時でないときと同様にモータMG1のトルク指令Tm1*を設定すると、モータMG2に供給できる電力が小さくなり、回転制限制御用トルクTm2が比較的小さくなってしまい、モータMG1によりエンジン22をモータリングする際に、リングギヤ軸32aの回転を十分に制限できない場合が生じ得る。実施例では、こうした不都合を回避するために、図6のトルク指令設定ルーチンにおいて、エンジン22の冷却水温αwが閾値αwref以下のときには、比較的小さい所定トルクT2を用いてモータMG1のトルク指令Tm1*を設定するものとした。これにより、モータMG2に電力を供給することができ、エンジン22をモータリングする際にリングギヤ軸32aが回転するのを抑制することができる。
【0038】
次に、エンジン22の回転数Neを運転制御開始回転数Nstと比較し(ステップS180)、エンジン22の回転数Neが運転制御開始回転数Nstに至っていないときにはステップS100に戻る。こうしてモータMG1からトルクを出力してエンジン22をモータリングすることによってエンジン22の回転数Neが運転制御開始回転数Nstに至ると、エンジン22の回転数Neと目標回転数Ne*とに基づいて自立運転の指示をエンジンECU24に送信する(ステップS190)。自立運転の指示を受信したエンジンECU24は、エンジン22の燃料噴射制御や点火制御が開始されていないときにはこれらを開始し、これらが既に開始されているときにはエンジン22の回転数Neと目標回転数Ne*とに基づいてエンジン22の燃料噴射制御や点火制御を行なう。そして、エンジン22の自立運転によりエンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*近傍に至るのを待って(ステップS200)、駐車状態始動時制御ルーチンを終了する。
【0039】
いま、エンジン22の冷却水温αwが閾値αwref以下の冷間時に、シフトポジションSPが駐車ポジションにある状態でエンジン22を始動するときを考える。冷間時には、エンジン22の潤滑オイルの粘性が高いため、エンジン22の回転数Neの上昇速度は小さくなる。したがって、冷間時でないときと同様の所定回転数N1までエンジン22をモータリングして始動しようとすると、エンジン22を始動する際のモータMG1による総消費電力(消費電力量)は大きなものとなる。これに対して、実施例では、モータMG1によりエンジン22をモータリングし、エンジン22の回転数Neが比較的小さい所定回転数N2以上に至った以降はモータMG1からのトルクを値0にすると共にエンジン22からのトルクの出力によりエンジン22の回転数Neを上昇させるから、エンジン22を始動する際にモータMG1により消費される総電力(電力量)を抑制することができる。しかも、モータMG1によりエンジン22をモータリングする際に、最大トルクTm1maxとして比較的小さい所定トルクT2を用いるから、モータMG2に供給可能な電力を確保することができ、よりリングギヤ軸32aが回転しないようにすることができる。
【0040】
次に、モータECU40により実行される図10の回転制限制御用トルク受信時第2モータ制御ルーチンについて説明する。このルーチンは、ハイブリッド用電子制御ユニット70から回転制限制御用トルクTm2を受信したときに実行される。回転制限制御用トルク受信時第2モータ制御ルーチンが実行されると、モータECU40のCPU40aは、まず、電流センサ46U,46Vからの三相コイルのU相,V相に流れる相電流Iu2,Iv2や回転制限制御用トルクTm2など制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS500)。ここで、回転制限制御用トルクTm2は、前述の図3の駐車状態始動時制御ルーチンにより設定されたものをハイブリッド用電子制御ユニット70から通信により入力するものとした。
【0041】
続いて、フラグGの値を調べ(ステップS510)、フラグGが値0のときには、回転位置検出センサ44からのモータMG2のロータ46aの回転位置θm2を入力すると共に(ステップS520)、入力したモータMG2のロータ46aの回転位置θm2に基づいて電気角θe2を計算し(ステップS530)、計算した電気角θe2を制御用電気角θesetとして設定し(ステップS540)、フラグGに値1を設定する(ステップS550)。そして、フラグGに値1が設定されると、次回以降はステップS520〜S550の処理を行なわない。ここで、フラグGは、初期値として値0が設定され、制御用電気角θesetを設定したときに値1が設定されるフラグである。したがって、ステップS520〜S550の処理は、シフトポジションSPが駐車ポジションにある状態でエンジン22の始動指示がなされてこのルーチンが初めて実行されるときのモータMG2のロータ46aの回転位置θm2を用いて制御用電気角θesetを設定する処理となる。
【0042】
続いて、モータMG2の三相コイルのU相,V相,W相に流れる相電流Iu2,Iv2,Iw2の総和を値0として制御用電気角θesetを用いて次式(2)により相電流Iu2,Iv2をd軸およびq軸の電流Id2,Iq2に座標変換(3相−2相変換)し(ステップS560)、回転制限制御用トルクTm2に基づいて制御用電気角θesetにおけるd軸の電流指令Id2*を設定すると共にq軸の電流指令Iq2*に値0を設定する(ステップS570)。d軸の電流指令Id2*は、実施例では、回転制限制御用トルクTm2が大きいほど大きくなる傾向で、且つ、回転制限制御用トルクTm2以下の大きさ(−Tm2〜Tm2の範囲内)でリングギヤ軸32aに作用するトルクに対してリングギヤ軸32aが回転しないようにすることができる電流値を設定するものとした。
【0043】
【数2】

【0044】
こうして電流指令Id2*,Iq2*を設定すると、設定した電流指令Id2*,Iq2*と電流Id2,Iq2とを用いて次式(3)および式(4)によりd軸およびq軸の電圧指令Vd2*,Vq2*を計算すると共に(ステップS580)、計算したd軸およびq軸の電圧指令Vd2*,Vq2*を制御用電気角θesetを用いて式(5)および式(6)によりモータMG2の三相コイルのU相,V相,W相に印加すべき電圧指令Vu2*,Vv2*,Vw2*に座標変換(2相−3相変換)し(ステップS590)、座標変換した電圧指令Vu2*,Vv2*,Vw2*をインバータ42のトランジスタT7〜T12をスイッチングするためのPWM信号に変換し(ステップS600)、変換したPWM信号をインバータ42のトランジスタT7〜T12に出力することによりモータMG2を駆動制御して(ステップS610)、回転制限制御用トルク受信時第2モータ制御ルーチンを終了する。ここで、式(3)および式(4)中、「k1」および「k3」は比例係数であり、「k2」および「k4」は積分係数である。
【0045】
【数3】

【0046】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、シフトポジションSPが駐車ポジションにある状態でエンジン22の始動指示がなされたときに、エンジン22の冷却水温αwが閾値αwrefより高いときには変速機60の入力軸としてのリングギヤ軸32aに作用するトルクに対してリングギヤ軸32aの回転を制限できる程度でモータMG2のステータ46bに固定磁界が形成されるようモータMG2を制御する回転制限制御の実行を伴ってエンジン22が運転制御開始回転数Nst(所定回転数N1)以上の回転数で回転するようモータリングされると共にそのモータリングに伴ってエンジン22が始動されるようエンジン22とモータMG1とを制御し、エンジン22の冷却水温αwが閾値αwref以下のときには回転制限制御の実行を伴ってエンジン22が運転制御開始回転数Nst(所定回転数N1より小さい所定回転数N2)以上の回転数で回転するようモータリングされると共にそのモータリングに伴ってエンジン22が始動されるようエンジン22とモータMG1とを制御するから、駐車状態でリングギヤ軸32aが駆動輪39a,39bから切り離されているときでもモータMG1によりエンジン22をモータリングして始動することができる。また、冷間時のようにエンジン22の回転数Neの上昇速度が小さいときに、エンジン22始動時のモータMG1による総消費電力(電力量)を抑制することができる。
【0047】
また、実施例のハイブリッド自動車20によれば、エンジン22の冷却水温αwが閾値αwref以下のときには、エンジン22の冷却水温αwが閾値αwrefより高いときに比して小さなモータリングトルクをモータMG1から出力してエンジン22をモータリングするから、モータMG1の電力消費を抑制することができる。この結果、バッテリ50のバッテリ50の出力制限Woutが比較的大きく制限されているときに、モータMG2にある程度の電力を供給することができ、よりリングギヤ軸32aが回転しないようにすることができる。
【0048】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の冷却水温αwが閾値αwref以下のときには、エンジン22が運転開始回転数Nst(N2)以上になった以降に、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0に向けて小さくしていくものとしたが、値0まで小さくせずに、若干のトルクをモータMG1のトルク指令Tm1*に設定するものとしてもよい。エンジン22の冷却水温αwが閾値αwref以下のときには、エンジン22の燃料噴射制御や点火制御によりエンジン22からトルクを出力してエンジン22の回転数Neを所定回転数N1以上の目標回転数Ne*まで上昇させるため、モータMG1から若干のトルクを出力することにより、エンジン22の回転数Neの低下を抑制することができ、エンジン22の回転数Neをより上昇させやすくすることができる。
【0049】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の冷却水温αwが閾値αwrefより高いときには最大トルクTm1maxとして所定トルクT1を用い、エンジン22の冷却水温αwが閾値αwref以下のときには最大トルクTm1maxとして所定トルクT2を用いるものとしたが、エンジン22の冷却水温αwが閾値αwref以下のときには、エンジン22の冷却水温αwが低いほど、または、バッテリ50の出力制限Woutが大きく制限されているほど、小さくなる傾向のトルクを最大トルクTm1maxとして用いるものとしてもよい。これは、冷間時には、電池温度Tbも低い場合があり、この場合、電池温度Tbが低いほどバッテリ50の出力制限Woutが大きく制限されるという理由に基づく。また、エンジン22の冷却水温αwに拘わらず、最大トルクTm1maxとして所定トルクT1を用いるものとしてもよい。
【0050】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG1によりエンジン22をモータリングする際に、図6のトルク指令設定ルーチンにより設定されたモータMG1のトルク指令Tm1*を用いるものとしたが、これに代えて、例えば、エンジン22の回転数Neが所定回転数N2以上になるまで、エンジン22の回転数Neと所定回転数N2とに基づいて設定されるモータMG1のトルク指令Tm1*を用いるものとしてもよい。この場合、エンジン22の回転数Neと所定回転数N2との偏差が打ち消されるよう次式(7)により設定されるモータMG1のトルク指令Tm1*を設定するものとしてもよい。ここで、式(7)中、「k5」は比例係数であり、「k6」は積分係数である。
【0051】
【数4】

【0052】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の潤滑オイルの温度を反映する物理量としてエンジン22の冷却水温αwを用いるものとしたが、これに代えて、エンジン22を潤滑する潤滑オイルの温度を検出する温度センサを備え、その温度センサにより検出された潤滑オイルの温度を用いるものとしてもよい。
【0053】
実施例のハイブリッド自動車20では、停止状態のエンジン22のモータリングが開始されたときの電気角θe2を制御用電気角θesetとして設定するものとしたが、停止状態のエンジン22のモータリングが開始されたときの電気角θe2に限られず、例えば、エンジン22が停止状態であるとき即ちエンジン22のモータリングが開始される前の電気角θe2などを制御用電気角θesetとして設定するものとしてもよい。
【0054】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2として三相交流電動機を用いるものとしたが、三相以外の多相交流電動機を用いるものとしてもよい。
【0055】
実施例のハイブリッド自動車20では、d−q座標系に対して回転制限制御用トルクTm2に基づいて制御用電気角θesetにおけるd軸の電流指令Id2*を設定すると共にq軸の電流指令Iq2*に値0を設定し、設定したd軸およびq軸の電流指令Id2*,Iq2*に基づいてモータMG2を制御するものとしたが、回転制限制御用トルクTm2に基づく電流をモータMG2に通電させてモータMG2のステータ46bの磁界の向きを固定するものであれば、3相−2相変換することなくモータMG2を制御するものとしてもよい。
【0056】
実施例のハイブリッド自動車20では、4段の変速段をもって変速可能な変速機60を用いるものとしたが、変速段は4段に限られるものではなく、2段以上の変速段をもって変速可能な変速機であればよい。
【0057】
実施例のハイブリッド自動車20では、駆動輪39a,39bに連結された駆動軸36に変速機60を介して接続されたリングギヤ軸32aにエンジン22からの動力を動力分配統合機構30を介して出力するものとしたが、図10の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、エンジン22のクランクシャフト26に接続されたインナーロータ132と駆動輪39a,39bに動力を出力する駆動軸36に変速機60を介して接続された変速機60の入力軸32bに接続されたアウターロータ134とを有し、エンジン22の動力の一部を入力軸32b,変速機60,駆動軸36を介して駆動輪39a,39bに伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機130を備えるものとしてもよい。
【0058】
ここで、実施例や変形例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「内燃機関」に相当し、動力分配統合機構30とモータMG1とが「モータリング手段」に相当し、モータMG2が「電動機」に相当し、温度センサ22aが「温度反映物理量検出手段」に相当し、シフトポジションSPが駐車ポジションにある状態でエンジン22の始動指示がなされたときに、エンジン22の冷却水温αwに基づいてモータMG1のトルク指令Tm1*を設定すると共に変速機60の入力軸としてのリングギヤ軸32aに作用するトルクに対してリングギヤ軸32aの回転を制限できる程度でモータMG2のステータ46bに固定磁界が形成されるようモータMG2を制御するための回転制限制御用トルクTm2をしてモータMG1のトルク指令Tm1*や回転制限制御用トルクTm2をモータECU40に送信する処理とエンジン22の冷却水温αwに基づく運転制御開始回転数Nst(所定回転数N1または所定回転数N2)以上の回転数までエンジン22がモータリングされたときにエンジン22の自立運転の指示を行なう処理を実行するハイブリッド用電子制御ユニット70と受信したモータMG1のトルク指令Tm1*に基づいてモータMG1を制御すると共に回転制限制御用トルクTm2に基づいて図10の回転制限制御用トルク受信時第2モータ制御ルーチンを実行するモータECU40とエンジン22の自立運転の指示に基づいて、エンジン22の燃料噴射制御や点火制御が開始されていないときにはこれらを開始しこれらが既に開始されているときにはエンジン22の回転数Neと目標回転数Ne*とに基づいてエンジン22の燃料噴射制御や点火制御を行なうエンジンECU24が「制御手段」に相当する。ここで、「内燃機関」としては、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関に限定されるものではなく、水素エンジンなど如何なるタイプの内燃機関であっても構わない。「変速手段」としては、4段変速の変速機60に限定されるものではなく、回転軸と車軸側との間の変速段の変更を伴う動力の伝達および伝達の解除が可能なものであれば如何なるものとしても構わない。「モータリング手段」としては、動力分配統合機構30とモータMG1との組み合わせによるものや対ロータ電動機130に限定されるものではなく、回転軸に接続されると共に回転軸とは独立に回転可能に内燃機関の出力軸に接続され、電力と動力の入出力を伴って回転軸と出力軸とに動力を入出力するものであれば如何なるものとしても構わない。「電動機」としては、同期発電電動機として構成されたモータMG2に限定されるものではなく、誘導電動機など、回転軸に回転子が接続され固定子の回転磁界により回転子を回転駆動させて回転軸に動力を入出力可能なものであれば如何なるものとしても構わない。「蓄電手段」としては、二次電池としてのバッテリ50に限定されるものではなく、キャパシタなど、モータリング手段および電動機と電力をやりとり可能なものであれば如何なるものとしても構わない。「温度反映物理量検出手段」としては、エンジン22の冷却水温αwを検出する温度センサ22aに限定されるものではなく、エンジン22の潤滑オイルの温度を検出する温度センサなど、内燃機関の潤滑媒体の温度を反映する物理量である温度反映物理量を検出するものであれば如何なるものとしても構わない。「制御手段」としては、ハイブリッド用電子制御ユニット70とモータECU40からなる組み合わせに限定されるものではなく、単一の電子制御ユニットにより構成されるなどとしてもよい。また、「制御手段」としては、シフトポジションSPが駐車ポジションにある状態でエンジン22の始動指示がなされたときに、エンジン22の冷却水温αwが閾値αwrefより高いときには変速機60の入力軸としてのリングギヤ軸32aに作用するトルクに対してリングギヤ軸32aの回転を制限できる程度でモータMG2のステータ46bに固定磁界が形成されるようモータMG2を制御する回転制限制御の実行を伴ってエンジン22が運転制御開始回転数Nst(所定回転数N1)以上の回転数で回転するようモータリングされると共にそのモータリングに伴ってエンジン22が始動されるようエンジン22とモータMG1とを制御し、エンジン22の冷却水温αwが閾値αwref以下のときには回転制限制御の実行を伴ってエンジン22が運転制御開始回転数Nst(所定回転数N1より小さい所定回転数N2)以上の回転数で回転するようモータリングされると共にそのモータリングに伴ってエンジン22が始動されるようエンジン22とモータMG1とを制御するものに限定されるものではなく、エンジン22の冷却水温αwに基づく最大トルクTm1maxを用いて設定されるモータMG1のトルク指令Tm1*を用いてモータMG1によりエンジン22をモータリングするものとしたり、エンジン22の冷却水温αwが閾値αwref以下のときにエンジン22が運転開始回転数Nst(N2)以上になった以降でも若干のトルクをモータMG1のトルク指令Tm1*に設定してこのトルクを用いてモータMG1によりエンジン22をモータリングするものとしたり、エンジン22の冷却水温αwが閾値αwref以下のときにエンジン22の冷却水温αwが低いほどまたはバッテリ50の出力制限Woutが大きく制限されているほど小さくなる傾向のトルクを最大トルクTm1maxとして用いてモータMG1のトルク指令Tm1*を設定してこれを用いてモータMG1によりエンジン22をモータリングするものとしたり、エンジン22の冷却水温αwに拘わらず、最大トルクTm1maxとして所定トルクT1を用いてモータMG1のトルク指令Tm1*を設定してこれを用いてモータMG1によりエンジン22をモータリングするものとしたり、エンジン22の回転数Neが所定回転数N2以上になるまでエンジン22の回転数Neと所定回転数N2との偏差が打ち消されるようモータMG1のトルク指令Tm1*を設定してこれを用いてモータMG1によりエンジン22をモータリングするものとするなど、シフトポジションが駐車ポジションにある駐車状態で内燃機関の始動指示がなされたとき、内燃機関の潤滑媒体の温度が所定温度より高い通常時には変速機の入力軸に作用する駆動力である入力軸作用駆動力に対して入力軸の回転を制限できる程度で電動機の固定子の磁界の向きが固定されるよう電動機を制御する回転制限制御の実行を伴って内燃機関が第1の回転数以上の回転数で回転するようモータリングされると共にそのモータリングに伴って内燃機関が始動されるよう内燃機関とモータリング手段とを制御し、内燃機関の潤滑媒体の温度が所定温度以下である冷間時には回転制限制御の実行を伴って内燃機関が第1の回転数よりも小さい第2の回転数以上の回転数で回転するようモータリングされると共にそのモータリングに伴って内燃機関が始動されるよう内燃機関とモータリング手段とを制御するものであれば如何なるものとしても構わない。なお、実施例や変形例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0059】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、車両の製造産業などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】モータMG1,MG2やバッテリ50を中心とした電気駆動系の構成の概略を示す構成図である。
【図3】実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される駐車状態始動時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】バッテリ50における電池温度Tbと出力制限Woutの基本値との関係の一例を示す説明図である。
【図5】バッテリ50の残容量SOCと出力制限Woutの補正係数との関係の一例を示す説明図である。
【図6】トルク指令設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図7】エンジン22をモータリングするときのモータMG1のトルク指令Tm1*の時間変化の様子を示す説明図である。
【図8】動力分配統合機構30の各回転要素を力学的に説明するための共線図の一例を示す説明図である。
【図9】回転制限制御の様子を説明するための説明図である。
【図10】回転制限制御用トルク受信時第2モータ制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図11】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【符号の説明】
【0062】
20,120 ハイブリッド自動車、22 エンジン、22a 温度センサ、22b クランクポジションセンサ、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、32b 動力軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、36 駆動軸、38 デファレンシャルギヤ、39a,39b 駆動輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、40a CPU、40b ROM、40c RAM、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、45a,46a ロータ、45b,46b ステータ、45U,45V,46U,46V 電流センサ、47 温度センサ、50 バッテリ、51a 電圧センサ、51b 電流センサ、51c 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、60 変速機、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、90 パーキングロック機構、92 パーキングギヤ、94 パーキングロックポール、130 対ロータ電動機、132 インナーロータ、134 アウターロータ、MG1,MG2 モータ、D1〜D12 ダイオード、T1〜T12 トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
入力軸を有し、該入力軸と車軸側との間の変速段の変更を伴う動力の伝達および伝達の解除が可能な変速手段と、
前記内燃機関の出力軸と前記入力軸とに接続され、該入力軸への駆動力の出力を伴って前記内燃機関をモータリングするモータリング手段と、
前記入力軸に回転子が接続され、固定子の回転磁界により該回転子を回転駆動させて該入力軸に動力を入出力可能な電動機と、
前記モータリング手段および前記電動機と電力をやりとり可能な蓄電手段と、
前記内燃機関の潤滑媒体の温度を反映する物理量である温度反映物理量を検出する温度反映物理量検出手段と、
シフトポジションが駐車ポジションにある駐車状態で前記内燃機関の始動指示がなされたとき、前記検出された温度反映物理量により反映される前記内燃機関の潤滑媒体の温度が所定温度より高い通常時には前記入力軸に作用する駆動力である入力軸作用駆動力に対して前記入力軸の回転を制限できる程度で前記固定子の磁界の向きが固定されるよう前記電動機を制御する回転制限制御の実行を伴って前記内燃機関が第1の回転数以上の回転数で回転するようモータリングされると共に該モータリングに伴って前記内燃機関が始動されるよう該内燃機関と前記モータリング手段とを制御し、前記検出された温度反映物理量により反映される前記内燃機関の潤滑媒体の温度が前記所定温度以下である冷間時には前記回転制限制御の実行を伴って前記内燃機関が前記第1の回転数よりも小さい第2の回転数以上の回転数で回転するようモータリングされると共に該モータリングに伴って前記内燃機関が始動されるよう該内燃機関と前記モータリング手段とを制御する制御手段と、
を備える車両。
【請求項2】
前記制御手段は、前記冷間時には、前記通常時に比して小さいモータリング駆動力の前記モータリング手段からの出力を伴って前記内燃機関がモータリングされるよう制御する手段である請求項1記載の車両。
【請求項3】
前記制御手段は、前記冷間時には、前記内燃機関の回転数が前記第2の回転数以上になるまで、該内燃機関の回転数と該第2の回転数との偏差に基づく駆動力の前記モータリング手段からの出力を伴って前記内燃機関がモータリングされるよう制御する手段である請求項1記載の車両。
【請求項4】
前記制御手段は、前記冷間時には、前記内燃機関が始動された後、前記内燃機関の自立運転を伴って該内燃機関の回転数が前記第1の回転数以上になるよう制御する手段である請求項1ないし3いずれか記載の車両。
【請求項5】
前記第2の回転数は、前記内燃機関の燃料噴射および点火を実行可能な回転数の下限である請求項1ないし4いずれか記載の車両。
【請求項6】
前記モータリング手段は、前記入力軸に接続されると共に該入力軸とは独立に回転可能に前記内燃機関の出力軸に接続され、電力と動力の入出力を伴って前記入力軸と前記出力軸とに動力を入出力する電力動力入出力手段である請求項1ないし5いずれか記載の車両。
【請求項7】
前記電力動力入出力手段は、前記入力軸と前記出力軸と第3の軸との3軸を有し該3軸のうちのいずれか2軸に入出力される動力に基づいて残余の軸に動力を入出力する3軸式動力入出力手段と、前記第3の軸に動力を入出力可能な発電機と、を備える手段である請求項6記載の車両。
【請求項8】
内燃機関と、入力軸を有し該入力軸と車軸側との間の変速段の変更を伴う動力の伝達および伝達の解除が可能な変速手段と、前記内燃機関の出力軸と前記入力軸とに接続され該入力軸への駆動力の出力を伴って前記内燃機関をモータリングするモータリング手段と、前記入力軸に回転子が接続され固定子の回転磁界により該回転子を回転駆動させて該入力軸に動力を入出力可能な電動機と、前記モータリング手段および前記電動機と電力をやりとり可能な蓄電手段と、を備える車両の制御方法であって、
シフトポジションが駐車ポジションにある駐車状態で前記内燃機関の始動指示がなされたとき、前記内燃機関の潤滑媒体の温度が所定温度より高い通常時には前記入力軸に作用する駆動力である入力軸作用駆動力に対して前記入力軸の回転を制限できる程度で前記固定子の磁界の向きが固定されるよう前記電動機を制御する回転制限制御の実行を伴って前記内燃機関が第1の回転数以上の回転数で回転するようモータリングされると共に該モータリングに伴って前記内燃機関が始動されるよう該内燃機関と前記モータリング手段とを制御し、前記内燃機関の潤滑媒体の温度が前記所定温度以下である冷間時には前記回転制限制御の実行を伴って前記内燃機関が前記第1の回転数よりも小さい第2の回転数以上の回転数で回転するようモータリングされると共に該モータリングに伴って前記内燃機関が始動されるよう該内燃機関と前記モータリング手段とを制御する、
ことを特徴とする車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−195211(P2008−195211A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32160(P2007−32160)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】