説明

車両および車両の制御方法

【課題】エンジンおよび/またはモータジェネレータからの駆動力を用いて走行が可能な車両において、勾配のある道路で車両走行時のエネルギ効率を向上させる。
【解決手段】車両100の走行駆動力を発生するモータジェネレータ130、エンジン160と、制御するためのECU300と、道路情報を取得するためのカーナビゲーション装置200とを備える。ECU300は、モータジェネレータ130、エンジン160について、駆動力を発生させる第1の状態と、第1の状態よりも駆動力を小さくした第2の状態とを切換えながら車両100を走行させる駆動力変更運転を実行する。ECU300は、カーナビゲーション装置200からの情報に基づいて進路に勾配のある道路が存在する場合には、進路に平坦路が続く場合に比べて駆動力変更運転におけるモータジェネレータ130、エンジン160の駆動状態を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両および車両の制御方法に関し、より特定的には、車両の慣性力を利用して走行する車両の走行制御に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に配慮した車両として、蓄電装置(たとえば二次電池やキャパシタなど)を搭載し、蓄電装置に蓄えられた電力から生じる駆動力を用いて走行する車両が注目されている。このような車両には、たとえば電気自動車、ハイブリッド自動車、燃料電池車などが含まれる。
【0003】
そして、これらの車両において、さらなる環境負荷の削減のために、燃費,電費を低減することによってエネルギ効率を向上することが求められている。
【0004】
特表2008−520485号公報(特許文献1)は、内燃機関とモータジェネレータとを備えたハイブリッド車両において、モータジェネレータが発電機モードの際に、車両電気系統の実消費電力よりも大きい高出力で動作するようにモータジェネレータを駆動する第1のインターバルと、モータジェネレータをスイッチオフする第2のインターバルとを交互に繰り返すように、モータジェネレータを制御する構成を開示する。
【0005】
特表2008−520485号公報(特許文献1)によれば、モータジェネレータが発電機として動作する際に、第1のインターバルにおいては効率の高い動作点でモータジェネレータを駆動し、第2のインターバルにおいてはモータジェネレータが停止される。これによって、発電動作時に効率の低い状態でモータジェネレータの運転が継続されることが抑制されるので、発電動作における車両のエネルギ効率を向上することができる。
【0006】
また、特開2010−6309号公報(特許文献2)は、内燃機関とモータジェネレータとを備えたハイブリッド車両において、内燃機関の発生する駆動力を用いた走行と、内燃機関を停止した惰性状態での走行とを交互に繰り返す構成を開示する。これによって、内燃機関を高効率の動作点で駆動することができるので、燃費を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2008−520485号公報
【特許文献2】特開2010−6309号公報
【特許文献3】特開2010−178431号公報
【特許文献4】特開2009−292424号公報
【特許文献5】特開2007−187090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の特表2008−520485号公報(特許文献1)においては、モータジェネレータで発電を行なう場合に、モータジェネレータの駆動と停止とを繰り返す構成であり、車両の走行のための駆動力を変化させるものではなかった。
【0009】
また、特開2010−6309号公報(特許文献2)は、ハイブリッド車両において、内燃機関であるエンジンの駆動と停止とを繰り返す構成を開示するものであった。
【0010】
上記のように駆動源の駆動と停止を繰り返す場合には、停止状態から駆動状態への移行時(始動時)と、道路の勾配の変化とが一致しない場合、ロスが生じるといった問題があった。
【0011】
本発明の目的は、エンジンおよび/またはモータジェネレータからの駆動力を用いて走行が可能な車両において、勾配のある道路で車両走行時のエネルギ効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明による車両は、車両の走行駆動力を発生する複数の駆動源と、駆動源を制御するための制御装置と、道路情報を取得するための道路情報取得部とを備える。制御装置は、駆動源について、駆動力を発生させる第1の状態と、第1の状態よりも駆動力を小さくした第2の状態とを切換えながら車両を走行させる駆動力変更運転を実行する。制御装置は、道路情報取得部からの情報に基づいて進路に勾配のある道路が存在する場合には、進路に平坦路が続く場合に比べて駆動力変更運転における複数の駆動源の駆動状態を変更する。
【0013】
好ましくは、複数の駆動源は、回転電機と内燃機関とを含み、制御装置は、進路の勾配が下りである場合には、進路が平坦路である場合に比べて内燃機関の駆動力を小さくした状態で、駆動力変更運転を実行する。
【0014】
より好ましくは、回転電機に電力を供給する蓄電装置をさらに備え、制御装置は、進路の勾配が下りである場合には、進路の勾配の下り期間中に蓄電装置の充電状態が上限値を超えないように、予め内燃機関の駆動力を小さくした状態で、駆動力変更運転を実行し、充電状態を低下させる。
【0015】
より好ましくは、制御装置は、進路の勾配が登りである場合には、進路が平坦路である場合に比べて内燃機関の駆動力を増加した状態で、駆動力変更運転を実行する。
【0016】
より好ましくは、回転電機に電力を供給する蓄電装置をさらに備え、制御装置は、進路の勾配が登りである場合には、進路の勾配の登り期間中に蓄電装置の充電状態が下限値を下回らないように、予め内燃機関の駆動力を増加した状態で、駆動力変更運転を実行し、充電状態の低下を抑制する。
【0017】
より好ましくは、制御装置は、ユーザからの要求駆動力の変化が所定範囲内の場合に、駆動力変更運転を実行して、車両の速度が許容範囲内に維持されるように、第1および第2の状態を切換える。
【0018】
より好ましくは、制御装置は、車両の速度が許容範囲の下限値まで低下したことに応答して第1の状態に切換え、車両の速度が許容範囲の上限値まで上昇したことに応答して第2の状態に切換える。
【0019】
より好ましくは、制御装置は、第1の状態における駆動力は、車両の速度を維持することが可能な一定出力の基準駆動力よりも大きく設定され、第2の状態における駆動力は、基準駆動力よりも小さく設定される。
【0020】
より好ましくは、制御装置は、第2の状態においては、駆動源からの駆動力の発生を停止する。
【0021】
この発明は、他の局面では、走行駆動力を発生する複数の駆動源および道路情報を取得するための道路情報取得部を有する車両の制御方法である。車両の制御方法は駆動源を、所定のレベルの駆動力を発生させる第1の状態にするステップと、駆動源を、第1の状態よりも駆動力を小さくした第2の状態にするステップと、第1および第2の状態を切換えながら車両を走行させる駆動力変更運転を実行するステップと、道路情報取得部により取得された進路の道路情報に基づいて、車両が勾配を有する道路を走行することが認識された場合は、各駆動源の駆動力の配分を平坦路を走行する場合の配分から変更して設定するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、複数の駆動源からの駆動力を用いて走行が可能な車両において、勾配を有する道路を走行する際のエネルギ効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態1に従う車両の全体ブロック図である。
【図2】実施の形態1において、ECUで実行される慣性走行制御処理を説明するためのフローチャートである。
【図3】実施の形態1における慣性走行制御の一例として、勾配が下り坂である場合を説明するフローチャートである。
【図4】実施の形態1における慣性走行制御の概要を説明するためのタイムチャートである。
【図5】実施の形態2における慣性走行制御の一例として、勾配が登り坂である場合を説明するフローチャートである。
【図6】実施の形態2における慣性走行制御の概要を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0025】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に従う車両100の全体ブロック図である。以下で詳細に説明されるように、車両100は、駆動源として回転電機と内燃機関とを用いるハイブリッド自動車である。
【0026】
図1を参照して、車両100は、蓄電装置110と、システムメインリレー(System Main Relay:SMR)115と、駆動装置であるPCU(Power Control Unit)120Aと、モータジェネレータ130と、動力伝達ギヤ140と、駆動輪150と、エンジン160と、道路情報を取得するための道路情報取得部としてのカーナビゲーション装置200と、制御装置であるECU(Electronic Control Unit)300とを備える。PCU120Aは、コンバータ121と、インバータ122と、電圧センサ180,185と、コンデンサC1,C2とを含む。
【0027】
蓄電装置110は、充放電可能に構成された電力貯蔵要素である。蓄電装置110は、たとえば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池または鉛蓄電池などの二次電池、あるいは電気二重層キャパシタなどの蓄電素子を含んで構成される。
【0028】
蓄電装置110は、電力線PL1およびNL1を介してPCU120Aに接続される。そして、蓄電装置110は、車両100の駆動力を発生させるための電力をPCU120Aに供給する。また、蓄電装置110は、モータジェネレータ130で発電された電力を蓄電する。蓄電装置110の出力はたとえば200V程度である。
【0029】
蓄電装置110には、電圧センサ170および電流センサ175が設けられる。電圧センサ170は、蓄電装置110の電圧VBを検出し、その検出結果をECU300へ出力する。電流センサ175は、蓄電装置に入出力される電流IBを検出し、その検出値をECU300へ出力する。
【0030】
SMR115に含まれるリレーは、その一方端が蓄電装置110の正極端子および負極端子に接続され、他方端がPCU120Aに接続される電力線PL1,NL1に接続される。そして、SMR115は、ECU300からの制御信号SE1に基づいて、蓄電装置110とPCU120Aとの間における電力の供給と遮断とを切換える。
【0031】
コンバータ121は、ECU300からの制御信号PWCに基づいて、電力線PL1,NL1と電力線PL2,NL1との間で電圧変換を行なう。
【0032】
第1インバータ122Aと、第2インバータ122Bとは、電力線PL2,NL1に接続される。第1インバータ122Aと第2インバータ122Bとは、ECU300からの制御信号PWIに基づいて、コンバータ121から供給される直流電力を交流電力に変換し、モータジェネレータ130を駆動する。
【0033】
モータジェネレータ130は、駆動源としてのエンジン160に連結された第1モータジェネレータ130Aと、動力分割機構140Aを介在させて連結される第2モータジェネレータ130Bと有している。
【0034】
コンデンサC1は、電力線PL1およびNL1の間に設けられ、電力線PL1およびNL1間の電圧変動を減少させる。また、コンデンサC2は、電力線PL2およびNL1の間に設けられ、電力線PL2およびNL1間の電圧変動を減少させる。
【0035】
電圧センサ180および185は、それぞれコンデンサC1およびC2の両端にかかる電圧VLおよびVHを検出し、その検出値をECU300へ出力する。
【0036】
モータジェネレータ130を構成する第1モータジェネレータ130Aと、第2モータジェネレータ130Bとは、交流回転電機であり、たとえば、永久磁石が埋設されたロータを備える永久磁石型同期電動機である。
【0037】
第1インバータ122Aは、第1モータジェネレータ130Aに接続され、第2インバータ122Bは第2モータジェネレータ130Bに接続されている。
【0038】
そして、ECU300からの制御信号PWI1,PWI2に基づいて、コンバータ121から供給される直流電力を交流電力に変換する。第1モータジェネレータ130Aと第2モータジェネレータ130Bは、それぞれ第1インバータ122Aと第2インバータ122Bとから供給される交流電流に応じて回転駆動する。
【0039】
モータジェネレータ130の出力トルクは、減速機や動力分割機構140Aを含んで構成される動力伝達ギヤ140を介して駆動輪150に伝達されて車両100を走行させる。モータジェネレータ130は、車両100の回生制動動作時には、駆動輪150の回転によって発電することができる。そして、その発電電力は、PCU120Aによって蓄電装置110の充電電力に変換される。
【0040】
車両100の速度(車速)を検出するために、速度センサ190が駆動輪150の近傍に設けられる。速度センサ190は、駆動輪150の回転速度に基づいて車速SPDを検出し、その検出値をECU300に出力する。また、速度センサとして、モータジェネレータ130の回転角を検出するための回転角センサ(図示せず)を用いてもよい。この場合には、ECU300は、モータジェネレータ130の回転角の時間的変化および減速比などに基づいて、間接的に車速SPDを演算する。
【0041】
ECU300は、いずれも図1には図示しないがCPU(Central Processing Unit)、記憶装置および入出力バッファを含み、各センサ等からの信号の入力や各機器への制御信号の出力を行なうとともに、蓄電装置110および車両100の各機器の制御を行なう。なお、これらの制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。
【0042】
ECU300は、PCU120A、SMR115などを制御するための制御信号を生成して出力する。なお、図1においては、ECU300として1つの制御装置を設ける構成としているが、たとえば、PCU120A用の制御装置や蓄電装置110用の制御装置などのように、機能ごとまたは制御対象機器ごとに個別の制御装置を設ける構成としてもよい。
【0043】
ECU300は、蓄電装置110に備えられる電圧センサ170,電流センサ175からの電圧VBおよび電流IBの検出値に基づいて、蓄電装置110の充電状態SOC(State of Charge)を演算する。
【0044】
ECU300は、ユーザによるアクセルペダル(図示せず)の操作に基づいて定められる要求トルクTRを、上位ECU(図示せず)から受ける。ECU300は、ユーザからの要求トルクTRに基づいて、コンバータ121と、第1インバータ122Aと、第2インバータ122Bとの制御信号PWC,PWIをそれぞれ生成し、モータジェネレータ130を駆動する。
【0045】
また、ECU300は、ユーザにより設定されるモード信号MODを受ける。このモード信号MODは、以下に後述する慣性走行制御を実行するか否かを指示するための信号である。モード信号MODは、特定のスイッチや操作画面における設定などによって切換えられる。あるいは、特定の条件が成立したことに応答して、モード信号MODが自動的に設定されるようにしてもよい。
【0046】
ECU300は、たとえば、モード信号MODがオンに設定されている場合には、慣性走行制御を行なうように動作し、モード信号MODがオフに設定されている場合には、慣性走行制御を行なわない通常の走行を行なうように動作する。
【0047】
ECU300は、カーナビゲーション装置200に接続されている。カーナビゲーション装置200は、車両前方の進路に存在する道路の形状の情報をECU300に送信する。この道路の形状の情報には、進路の勾配が登り勾配であるか、平坦であるか、下り勾配であるかの勾配情報が含まれる。この勾配情報には、更に、進路に存在する道路の勾配の度合い(斜度)と、その斜度の坂の長さの情報が含まれる。
【0048】
このような車両においては、モータジェネレータ130が回転駆動して駆動力を発生させると、蓄電装置110の電力が消費される。蓄電装置110の容量は予め定められているので、蓄電装置110に蓄えられた電力で、できるだけ長距離を走行するためには、走行中のエネルギ効率を向上させて電力消費を抑制することが必要となる。
【0049】
車両100の走行中には車両100には慣性力がはたらいているため、走行中にモータジェネレータによる駆動力を、車速を維持するために必要な駆動力よりも低くした場合(運転条件DN)は、徐々に車速は低下するものの、しばらくの間は車両の慣性力を用いて走行(以下、「慣性走行」とも称する。)が継続される。
【0050】
この慣性走行中は、モータジェネレータ130により出力される駆動力が小さいので、蓄電装置からの電力消費が少なくなる。そのため、慣性走行を活用して走行を行なうことができれば、車両走行時のエネルギ効率を改善することが可能となり得る。
【0051】
そこで、実施の形態1においては、図1に示した電気自動車において、ユーザからの要求トルクがほぼ一定であり、それによって車速がほぼ一定に維持されるような走行がされている場合に、第1の状態としてモータジェネレータ130からの駆動力が高出力状態である場合(運転条件UP)と、第2の状態としてモータジェネレータ130の駆動力が低出力状態である場合(運転条件DN)とを繰り返して走行する運転(以下、「駆動力変更運転」とも称する。)が行なわれる慣性走行制御を実行し、走行中におけるエネルギ効率の向上を図る。
【0052】
ECU300は、ユーザからの要求駆動力の変化が所定範囲内の場合に、駆動力変更運転を実行して、車両100の速度が許容範囲内に維持されるように、第1および第2の状態を切り換える。すなわち、ECU300は、車両100の速度が許容範囲の下限値LLまで低下したことに応答して高出力状態に切換え、車両100の速度が許容範囲の上限値ULまで上昇したことに応答して低出力状態に切換える。
【0053】
ここで、ECU300の設定で、第1の状態における駆動力は、車両100の速度を維持することが可能な一定出力の基準駆動力よりも大きく設定され、第2の状態における駆動力は、基準駆動力よりも小さく設定される。ECU300は、第2の状態においては、駆動源からの駆動力の発生を停止することもできる。
【0054】
図2は、実施の形態1において、ECU300で実行される慣性走行制御処理を説明するためのフローチャートである。
【0055】
ECU300で実行される慣性走行制御処理を説明する図2、図3、図5に示されるフローチャート中の各ステップについては、ECU300に予め格納されたプログラムを所定周期で実行することによって実現される。あるいは、一部のステップについては、専用のハードウェア(電子回路)を構築して処理を実現することも可能である。
【0056】
車両制御がスタートすると、ステップ(以下、ステップをSと略す。)100において慣性走行制御が、選択されているか否かが判断される。S100で慣性走行制御が選択されている場合を示すMODオンであるとECU300で判定されると、ECU300は、S110に処理を進める。また、S100で慣性走行制御が、選択されていない場合を示すMODオフであるとECU300で判定されると、以降の処理がスキップされ、ECU300は処理をメインルーチンに戻す。
【0057】
S110に処理が進むと、ECU300は、ユーザ要求パワーが一定であるか否かを判定する。S110で、ユーザ要求パワーが一定であり(S110にてYES)、駆動力変更運転が実行される場合(S120)には、ECU300は、S121で運転条件を設定する。S121部分については、後に図3のフローチャートを用いて詳述する。
【0058】
S130に処理が進むと、ECU300は、車速SPDが上限値ULまで上昇したか否かを判定する。S130の処理では、ECU300によって、車速SPDが上限値ULまで上昇した場合は、S140に処理を進めて、車速SPDが上限値ULまで上昇していないと判断した場合は、S135で、車速SPDが下限値LLまで低下したか否かを判定する。
【0059】
このS135では、車速SPDが下限値LLまで低下すると(S135にてYES)、ECU300は、第2モータジェネレータ130Bを運転条件UP(高出力状態)に切換えて加速走行を実行する(S142)。
【0060】
そして、車速SPDが下限値LLまで低下していないと判定すると(S135にてNO)、S144に処理を進め、ECU300は、第2モータジェネレータ130Bを運転状態保持(変更なし)とする。
【0061】
このS144の処理で、運転条件DN(低出力状態)または運転条件UP(高出力状態)が保持されたモータジェネレータ130およびエンジン160は、そのときの状態である低出力状態または高出力状態を維持する(S140)。
【0062】
また、S130で、ECU300によって、車速SPDが上限値ULまで上昇したと判定すると、S140に処理が進む。S140では、第2モータジェネレータ130Bを運転条件DN(低出力状態もしくは出力なし)とする。
【0063】
ここで、S140およびS142においては、基本的には、エンジン160は停止状態とされる。
【0064】
一方で、S142の処理において第2モータジェネレータ130Bが運転条件UP(高出力状態)に切換えられて加速走行を実行する。
【0065】
また、ユーザ要求パワーが変動し(S110にてNO)、駆動力変更運転が中断される場合(S125)には、ECU300は、加速中であれば(S127にてYES)、第2モータジェネレータ130Bあるいは、第2モータジェネレータ130Bおよびエンジン160を併用して加速する(S146)。また、減速中であれば(S127にてNO)、ECU300は、第2の状態としてエンジン160を停止するとともに、第2モータジェネレータ130Bを低出力状態に切換えて減速する(S148)。なお、減速の際には、ECU300によって、第2モータジェネレータ130Bに回生動作を実行させて減速する。
【0066】
以上のような処理に従って制御を行なうことによって、エンジン160とモータジェネレータ130とを備えるハイブリッド車両において、ユーザ要求パワーがほぼ一定である場合に、モータジェネレータ130については駆動力変更運転を実行することによって、車両走行時のエネルギ効率を向上させることが可能となる。
【0067】
さらに、SOCが低下した場合には、駆動力変更運転を継続しつつ、駆動力変更運転の加速走行時にエンジンを駆動して、モータジェネレータを用いた発電を行なうことでSOCを回復させることが可能となる。
【0068】
図3は、実施の形態1における慣性走行制御の一例として、勾配が下り坂である場合を説明するフローチャートである。
【0069】
図4は、実施の形態1における慣性走行制御の概要を説明するためのタイムチャートである。図4においては、横軸には時間が示され、縦軸には、車両100の進路にあたる下り坂の勾配を示す斜度、ユーザ要求パワー、車速、モータジェネレータの出力、回生エネルギ、エンジン出力、蓄電装置110のSOC値が示される。なお、蓄電装置の充放電電力については、放電電力を正値で表わし、充電電力を負値で表わしている。
【0070】
なお、図2に示すフローチャートのS121部分に、図3のフローチャートは相当している。S121で、運転条件が設定される制御がスタートすると、S201ではカーナビゲーション装置200から車両100の進行方向に位置する道路の形状を含む道路情報が取得される。ECU300は、道路の形状の情報のうち、道路の勾配を示す斜度に応じて、駆動パワー、回生パワーを決定する。また、モータジェネレータ130とエンジン160との駆動力配分は、標準値とされる。
【0071】
S202に、処理が進むとECU300は、道路の形状の情報に基づいて、車両100の前方の進路に下り坂が存在する否かを判定する。S202で、車両100の前方に下り坂が検出されると、S203に処理を進めて、ECU300では、道路の形状の情報のうち、下り坂の長さの情報および図4に示すような入口、出口の位置の斜度変化a,斜度変化bの情報を主に用いて、入口までの距離および車速から、入口、出口の位置に車両100が到達する時刻t2,t3と、回生時のSOC増加量とを予測する。
【0072】
また、S202で下り坂が検出されない場合は、S206で、ECU300は、運転条件UPのSOC消費量を標準値に設定する。そして、ECU300は処理を図2に示す慣性走行制御処理のルーチンに戻す。
【0073】
S203の処理で予測された回生時のSOC増加量は、次のS204で、下り坂の出口で、勾配を有する道路が終了するとされる時刻t3において、SOC値が上限値であるSOC制御閾値を超えるか否かの判定に用いられる。
【0074】
S204の処理では、予測された回生時のSOC増加量により、下り坂終了時でSOCが上限値を超えると判定される場合は、ECU300は、S205に処理を進める。
【0075】
また、S204の処理では、予測された回生時のSOC増加量で、下り坂終了時におけるSOCが、上限値であるSOC制御閾値を超えないと判定される場合は、ECU300は、S206に処理を進める。
【0076】
S205では、運転条件UPのSOC消費量が標準値より多くなるように、モータジェネレータ130の駆動力と、エンジン160の駆動力との配分比率を変更する。
【0077】
そして、S205またはS206で処理が終了すると、ECU300は処理を再び図2に示す慣性走行制御処理のルーチンに戻す。
【0078】
図4に示すように、時刻t1で車両100の進行方向前方に下り坂が検出されると、平坦路を走行中に現在のSOC1から下り坂の下り勾配が始まる(斜度変化a)手前の時刻t2まで、エンジン160の出力による駆動力PE0を減少させる。
【0079】
このエンジン160の出力の減少は、道路が平坦路として続く場合の標準値よりも駆動力を小さくするものであればよく、回転駆動を停止する場合と、アイドリング状態等の低回転状態に回転駆動を維持する場合とが含まれる。
【0080】
走行中の車両100のユーザ要求パワーは、アクセル一定で変更なく保たれているとする。この場合、モータジェネレータ130の駆動力PM0は、エンジン160の駆動力PE0の低下に伴い、相対的に大きい駆動力PM1となるように配分比率が変更される。このため、配分比率が変更されても、モータジェネレータ130とエンジン160とによる総駆動力は変わらず走行する車両100の車速SPDは、一定に保たれる。時刻t1〜t2では、配分比率の変更によりSOC2Bに低下している。
【0081】
そして、時刻t2で下り勾配を有する下り坂の入口に差し掛かると、ECU300によって、モータジェネレータ130を用いた回生ブレーキによる回生エネルギPC1の回収が、行なわれる。
【0082】
このECU300による回生エネルギPC1の回収は、運転条件DN状態の時間TML2に合わせて、複数回の回生制動により間欠的に行なわれる。この回生制動のタイミングは、モータジェネレータ130の駆動力PM2が出力される運転条件UP状態の時間TMH2の合間に位置する運転条件DN状態の時間TML2と同期して間欠的に行われる。
【0083】
車両100が、下り勾配を有する下り坂を走行している時刻t2から時刻t3までの間も、駆動力変更運転が行なわれて、車速SPDが下限値LLまで低下すると(S135にてYES)、第2モータジェネレータ130Bを運転条件UP(高出力状態)に切換えて加速走行を実行する(S142)。
【0084】
また、車速SPDが上限値ULまで上昇すると(S130にてYES)、第2モータジェネレータ130Bを運転条件DNとなり完結的な回生制動が行なわれる。ここで基本的には、エンジン160は停止状態とされる。
【0085】
このため、下り坂の下り勾配を走行している間も、車両100は、一定のユーザ要求パワーに応じた所望の車速SPDを維持することができる。
【0086】
モータジェネレータ130は、間欠的または連続して行なわれる回生制動に伴って、回生エネルギPC1を回収して蓄電装置110に充電を行なうことにより、SOC値を増加させる。
【0087】
ここで、予め計画されているように下り坂の入口手前の平坦路では、入口に到達する時刻t1よりも前で、前方の下り坂を検出した時以降、早めにエンジン160の駆動力PE0を低減もしくは0とすることができる。よって相対的にモータジェネレータ130の出力が、駆動力PM0から駆動力PM1まで増加して、モータジェネレータ130が消費する電力量も増加する。
【0088】
このため、蓄電装置110のSOC値は、図4中破線で示す標準の減少を示すSOC2A値に比してより小さいSOC2B値となり、時刻t2から所望の回生エネルギPC1による充電を開始することができる。
【0089】
回生制動による蓄電装置110への充電は、車両100が、下り勾配を有する道路の出口位置で平坦路に戻る箇所(斜度変化b)を通過する時刻t3まで継続される。
【0090】
図4中時刻t3では、比較のため点線で示す標準のSOC3A値よりも、蓄電装置110のSOC値が、下り坂の手前の平坦路で駆動力をPM0からPM1まで増加させた分、実線で示すように比較的小さく抑えられたSOC3Bとなる。
【0091】
図4中丸印で囲むことにより参照される「SOC制御閾値以内」部分から理解されるように、時刻t3におけるSOC3B値は、SOC制御閾値上限を超えていない。
【0092】
このように、下り坂手前の平坦路を車両100が走行中に、エンジン160の駆動力PE0を減少もしくは停止させることにより、モータジェネレータ130の駆動力を、PM0からPM1まで計画的に増加させることができる。そして、予め蓄電装置110のSOC値を低下させて、充電可能容量を増加させておくことにより下り坂の出口位置に到達する時刻t3まで継続して回生制動を続けることができる。このため、下り坂の途中で、駆動力源の配分比率の変更に伴う車速SPDの増減が最小限に抑えられて、駆動力変更運転を継続して、ユーザが受ける加減速感が緩和され良好なドライバビリティを得られる。
【0093】
しかも、予め下り坂の手前の平坦路で、エンジン160の駆動力PE0を減少もしくは停止させることができる。よって、車両100の燃料消費量を減少させて燃費向上を図ることができる。
【0094】
下り坂の出口位置を通過した時刻t3以降は、モータジェネレータ130の駆動力PM2が、平坦路を一定の車速SPDで継続して走行する駆動力PM1に戻される。その後は、通常の駆動力変更運転が行なわれる。
【0095】
更に、この実施の形態1では、駆動源の一つとして用いられるエンジン160の駆動に用いる出力を低下若しくは停止させて、下り坂入口手前で蓄電装置110のSOC2B値を必要とされる値まで減少させることができる。このため、駆動力変更運転によるSOC値の減少だけでは困難な長い下り坂や、あるいは下り坂入口手前までの距離が充分ではない場合にも、予め予測されSOC増加値に基づき、蓄電装置110のSOC値を低下させて、充電可能容量を確保しておくことが可能となる。よって、さまざまな道路形状に対応できる。
【0096】
また、下り坂出口位置に到達して回生エネルギの回収が終了した時刻t3で、最大となるSOC3B値がSOC制御閾値内に抑えることができる。更に、カーナビゲーション装置200から得られる地図情報に付随する坂道の斜度および距離情報は、ECU300が演算処理を行なうことにより、事前に車両100の走行計画に反映させることができる。
【0097】
このため、下り坂入口よりも手前に位置する平坦路を走行中に、予め策定されたSOC制御計画に沿ってモータジェネレータ130を構成する第1モータジェネレータ130A、第2モータジェネレータ130Bの駆動力変更運転を標準の状態の駆動力から変更して行なうことができる。このSOC制御計画を予め策定することにより、SOC値を無理なく、長い道程および時間をかけて減少させることができる。
【0098】
この実施の形態1では、エンジン160との駆動力配分比率を変更して、相対的にモータジェネレータ130の消費電力を増加させたが、例えば、一方が、燃料電池やキャパシタ等、蓄電装置110のように蓄電可能な二次電池に限らず、エネルギを蓄えられる装置に接続されて充電可能なものや、あるいは前,後輪等、異なる駆動輪を各々駆動したり、異なる特性を有する第1モータジェネレータ130Aと第2モータジェネレータ130Bとの間の駆動力配分比率を変更することができれば、駆動源は限られるものではなく電気自動車や燃料電池自動車であってもよい。
【0099】
更に、下り坂出口を通過する時刻t3では、SOC制御閾値に到達する寸前まで充電を行なうことができる。このため、駆動力を平坦路でもユーザ要求パワーに応じた一定の車速SPDに維持したままのみならず、更に直ちに加速可能な満充電に近いSOC値をえられ、この点においても無理無駄のない駆動力変更制御で、車両走行時のエネルギ効率を向上させることができる。
[実施の形態2]
図5は、実施の形態2における慣性走行制御の一例として、勾配が登り坂である場合を説明するフローチャートである。なお、図1,図2は、実施の形態1と共通である。
【0100】
図6は、実施の形態2における慣性走行制御の概要を説明するためのタイムチャートである。図6においては、横軸には時間が示され、縦軸には、登り坂の勾配を示す斜度、ユーザ要求パワー、車速、モータジェネレータの出力、回生エネルギ、エンジン出力、蓄電装置110のSOCが示される。なお、蓄電装置の充放電電力については、放電電力を正値で表わし、充電電力を負値で表わしている。
【0101】
なお、図2に示すフローチャートのS121部分に、この図5のフローチャートは相当している。S121で、運転条件が設定される制御がスタートすると、図5中S301ではカーナビゲーション装置200から車両100の進行方向に位置する道路の道路情報が取得される。
【0102】
ECU300は、道路の形状の情報のうち、道路の勾配の斜度に応じて、駆動パワー、回生パワーを決定する。また、モータジェネレータ130とエンジン160との駆動力配分は、標準値とされる。
【0103】
S302に処理が進むと、ECU300は、道路の形状の情報に基づいて、車両100の前方に登り坂が存在するか否かが判定される。
【0104】
S302で、車両100の前方に登り坂が検出されると、S303に処理を進めて、ECU300では、道路の形状の情報のうち、登り坂の長さの情報および入口、出口の位置の斜度変化c,斜度変化dの情報を主に用いて、入口、出口の位置に車両100が到達する時刻t12,t13と、登坂時のSOC減少量を予測する。
【0105】
また、S302で登り坂が検出されない場合は、S303で、ECU300は、運転条件UPのSOC消費量を標準値に設定して、ECU300は処理を図2に示す慣性走行制御処理のルーチンに戻す。
【0106】
そして、S303の処理で予測された回生時のSOC減少量は、次のS304の処理で、登り坂終了の時刻t13で蓄電装置110のSOC値がSOC制御閾値下限を下まわるか否かの判定に用いられる。
【0107】
S304の処理では、予測された登坂時のSOC減少量に基づき、登り坂終了時でSOCが下限値を下まわると判定される場合は、S305に処理を進める。
【0108】
また、S304の処理では、予測された登坂時のSOC減少量に基づき、登り坂終了時におけるSOC値が下限値を下まわらないと判定される場合は、S306に処理を進める。
【0109】
S305では、運転条件UPのSOC消費量が標準値より少なくなるように、モータジェネレータ130の駆動力と、エンジン160の駆動力との配分比率を変更する。
【0110】
そして、S305またはS306で処理が終了すると、ECU300は、処理を再び図2に示す慣性走行制御処理のルーチンに戻す。
【0111】
図6のタイムチャート中の時刻t11で、カーナビゲーション装置200からの道路情報に基づいて車両100の進路に登り坂が検出されると、登り坂の登り勾配を車両100が通過する間は、エンジン160の出力が駆動力PE3に増加される。すなわち、時刻t12で登り坂の入口を通過する際、エンジン160が始動されると共に、エンジン160の出力が、道路が平坦路として続く場合の標準値よりも大きくなる運転条件UP状態とアイドリング状態である運転条件DN状態とを交互に繰り返すように運転条件が設定される。
【0112】
走行中の車両100のユーザ要求パワーは、アクセル一定で一定に保たれているとする。この場合、モータジェネレータ130の駆動力PM3は、エンジン160側の出力に比べて、相対的に小さい出力となるように配分比率が変更される。また、モータジェネレータ130の出力とエンジン160の出力とを合わせた総駆動力は変更されることなく駆動力変更運転が継続されるので、走行する車両100の車速SPDは一定に保たれる。
【0113】
そして、時刻t12で登り坂の入口を通過した後、登り坂を車両100が通過中は、ECU300が、エンジン160の駆動力PE3を増加させて、モータジェネレータ130を用いた駆動力PM3が、相対的に減少された駆動力変更運転が登坂中にも継続して行なわれる。
【0114】
この登り坂を通過中に行なわれる駆動力変更運転では、モータジェネレータ130の出力は、駆動力PM3が、出力されている時間TMH3の間に位置する時間TML3に、比較的少ない駆動力PMLを出力する若しくは停止することにより、慣性走行を間欠的に行うことができる。
【0115】
また、エンジン160の出力は、平坦路を走行中は停止されているが、登り坂を走行する際には、平坦路である場合に比べて、エンジン160の出力による駆動力を増加させる。更にこの登り坂を走行中は、時刻t12から時刻t13まで、エンジンの回転を止めることなくアイドリング状態で運転して得られる低速回転時の駆動力Piと、このアイドリング状態よりも増加された駆動力PM3とを交互に出力する。
【0116】
そして、この駆動力PM3の出力は、エンジン160の駆動力PE3,Piと共に登り勾配を有する道路でも、一定のユーザ要求パワーに応じた車速SPDが維持されるように配分されて、所望の車速で車両100を登坂させることができる。
【0117】
登坂中、蓄電装置110のSOC値は、予め計画されているように平坦路でのモータジェネレータ130の出力が、駆動力PM1よりも小さい駆動力PM3ですむことから、図5中点線で示す標準的な減少を示すSOC値に比して、減少が抑制されたSOC3値を示す。
【0118】
このSOC3値は、車両100が、登り勾配を有する道路の出口位置で平坦路に戻る箇所(斜度変化d)を通過する時刻t13となっても、蓄電装置110のSOC制御閾値下限を下まわることがない。
【0119】
そして、登り坂手前の平坦路から斜度変化cによって登り坂に進入する時刻t12で、車両100は、エンジン160を始動してアイドリング状態の駆動力Piを出力すると共に、この駆動力Piと交互に比較的大きな駆動力PE3を出力して駆動力変更運転の配分の比率を変更する。配分比率の変更により、この駆動力PE3と出力タイミングを一致させたモータジェネレータ130の駆動力PM3は、平坦地を走行中の駆動力PM1よりも更に小さく、条件によっては、基準駆動力より小さい駆動力PM3で駆動力変更運転を継続して登り坂でも慣性走行状態とすることができる。
【0120】
従って、登り坂の出口位置を通過する時刻t13まで継続して、モータジェネレータ130側のエネルギ消費量を減少させて、蓄電装置110の充電状態を示すSOC値の低下を抑制することができる。
【0121】
登り坂の出口位置を通過した時刻t13以降は、ECU300によって、モータジェネレータ130の駆動力が、平坦路を一定の車速SPDで継続して走行する駆動力PM1に戻される。その後は、通常の駆動力変更運転が行なわれる。
【0122】
更に、この実施の形態2では、駆動源の一つであるエンジン160の出力を駆動力PE3に増加させる時間TMH3と、アイドリング出力の駆動力の時間TML3が交互に繰返されている。このような不連続で断続的なエンジン160の駆動力変更運転であっても、ECU300によって協調制御されることにより、モータジェネレータ130の駆動力変更運転とタイミングを合わせることが可能となる。
【0123】
そして、この協調制御により、モータジェネレータ130の駆動だけでは登坂が困難な長い登り坂や、あるいは登り坂入口手前までの距離が充分ではない場合にも、出口位置に到達する時刻t13まで、SOC制御計画に沿って蓄電装置110のSOC値の低下を抑制することができる。
【0124】
また、一定の駆動力PE3でエンジン160を回転駆動し続ける場合に比して、間欠的に、アイドリンク状態の駆動力Piで走行を継続でき、燃料消費量を抑えて燃費を向上させることができる。
【0125】
しかも、カーナビゲーション装置200から取得された地図情報に基づいて、車両100の進路に位置する坂道の斜度および距離情報を得られる。このため、車両100の走行計画に沿って事前にECU300によって演算処理して、SOC制御計画を策定することができる。
【0126】
このため、登り坂入口よりも進路の手前に位置する平坦路で、事前にSOC制御計画に基づいてモータジェネレータ130を構成する第1モータジェネレータ130A、第2モータジェネレータ130Bの駆動力変更運転を標準の状態の駆動力から変更して、SOC値を無理なく、長い道程および時間をかけて増大させることができる。
【0127】
更に、登り坂出口を通過する時刻t13では、SOC制御閾値の下限値に到達する寸前までSOC3が減少しないように設定できる。このため、再び平坦路となった直後に駆動力をユーザ要求パワーに応じて、一定の車速SPDを得られる駆動力PM1とするだけでなく、更に加速する場合も、継続されているモータジェネレータ130による駆動力変更運転の延長上でモータジェネレータ130側の出力を大きくすることができ、円滑な登坂走行をSOC制御計画に基づいてエネルギ効率を向上させながら、良好なドライバビリティを得ることができる。
【0128】
以上説明した実施の形態1〜2について、最後に再び図面を参照しながら総括する。
車両100は、走行駆動力を発生する複数のモータジェネレータ130、エンジン160と、モータジェネレータ130、エンジン160を制御するためのECU300と、道路情報を取得するためのカーナビゲーション装置200とを備える。ECU300は、モータジェネレータ130、エンジン160について、駆動力を発生させる第1の状態と、第1の状態よりも駆動力を小さくした第2の状態とを切換えながら車両100を走行させる駆動力変更運転を実行する。ECU300は、カーナビゲーション装置200からの情報に基づいて進路に勾配のある道路が存在する場合には、進路に平坦路が続く場合に比べて駆動力変更運転における複数のモータジェネレータ130、エンジン160の駆動状態を変更する。
【0129】
複数の駆動源からの駆動力を用いて走行が可能な車両100では、下り坂、登り坂等、勾配を有する道路を走行する際のエネルギ効率を向上させることができる。
【0130】
好ましくは、複数の駆動源は、モータジェネレータ130、エンジン160とを含み、ECU300は、進路の勾配が下りである場合には、進路が平坦路である場合に比べてエンジン160の駆動力を小さくした状態で、駆動力変更運転を実行する。
【0131】
より好ましくは、車両100は、モータジェネレータ130に電力を供給する蓄電装置110をさらに備えている。ECU300は、進路の勾配が下りである場合には、進路の勾配の下り期間中に蓄電装置110の充電状態が上限値を超えないように、予めエンジン160の駆動力を小さくした状態で、駆動力変更運転を実行し、充電状態SOCを低下させる。
【0132】
より好ましくは、ECU300は、進路の勾配が登りである場合には、進路が平坦路である場合に比べてエンジン160の駆動力を増加した状態で、駆動力変更運転を実行する。
【0133】
より好ましくは、車両100は、モータジェネレータ130に電力を供給する蓄電装置110をさらに備える。ECU300は、進路の勾配が登りである場合には、進路の勾配の登り期間中に蓄電装置110の充電状態が下限値を下回らないように、予めエンジン160の駆動力を増加した状態で、駆動力変更運転を実行し、充電状態の低下を抑制する。
【0134】
より好ましくは、ECU300は、ユーザからの要求駆動力の変化が所定範囲内の場合に、駆動力変更運転を実行して、車両100の速度が許容範囲内に維持されるように、第1および第2の状態を切換える。
【0135】
より好ましくは、ECU300は、車両100の速度が許容範囲の下限値LLまで低下したことに応答して第1の状態に切換え、車両100の速度が許容範囲の上限値ULまで上昇したことに応答して第2の状態に切換える。
【0136】
より好ましくは、ECU300は、第1の状態における駆動力は、車両100の速度を維持することが可能な一定出力の基準駆動力よりも大きく設定され、第2の状態における駆動力は、基準駆動力よりも小さく設定される。
【0137】
より好ましくは、ECU300は、第2の状態においては、モータジェネレータ130、エンジン160からの駆動力の発生を停止する。
【0138】
以上、本発明の実施形態1,2について説明したが、これらの実施形態1,2は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0139】
たとえば、実施の形態の車両100では、第2の状態としてエンジン160を停止するとともに、第2モータジェネレータ130Bを低出力状態である駆動力PM3に切換えて減速するように予め設定されている。しかしながらこれに限らず、SOC値が、SOC上限値に到達しなければ、ECU300によって、第2モータジェネレータ130Bに回生動作を実行させて減速したり、駆動力PM3を平坦路を走行する状態の速度フィーリングと同等となるように設定してもよい。
【0140】
また、上述の実施の形態2では、登り坂を走行中、時刻t12から時刻t13まで、エンジン160の回転を止めることなくアイドリング状態で運転して得られる低速回転時の駆動力Piを車両100の走行の駆動力として断続的に用いることにより慣性走行期間としているが、慣性走行期間は、この駆動力Piをモータジェネレータ130を用いた発電に利用しても道路が平坦路として続く場合の標準値よりも駆動力として用いる出力を小さく設定するものであればよい。
【0141】
そして、ECU300は、カーナビゲーション装置200に接続されているが特にこれに限らず、車両前方の進路に存在する道路の斜度を検出できるものであれば、どのような道路情報取得部であっても良い。例えば、GPS装置による位置情報を取得したり、ITS情報を車外から取得する道路情報取得部を備えていてもよい。
【0142】
また、実施の形態1のエンジン160の出力による駆動力PE0を減少させるタイミングも特にこれに限らず、例えば時刻t2以降であっても良く、エンジン160の出力の減少量は、道路が平坦路として続く場合の標準値よりも駆動力を小さくするものであればよく、回転駆動を停止する場合と、アイドリング状態等の低回転状態に回転駆動を維持するとの両方の場合が含まれる。
【0143】
更に、実施の形態2では、モータジェネレータ130の駆動力変更運転とタイミングを合わせるように、時刻t13以降において、登坂中にエンジン160の始動を行い、アイドリング状態の駆動力Piと増加された駆動力PE3とを交互に出力している。しかしながら、特にこれに限らない。例えば、車両100が登り坂にさしかかる前の平坦路を走行中に、エンジン160の始動を行う等、アイドリング状態の駆動力Piと増加された駆動力PE3とを交互に出力して、登り坂の入口を通過する時刻t12におけるSOC2が高く設定されるSOC制御計画であればよく、出口を通過する時刻t13においてSOC3が、SOC制御閾値下限を下まわる虞がなければ、平坦路または登り坂を走行中、何れのタイミングでエンジン160の始動を行っても良い。
【0144】
また、モータジェネレータ130の駆動力変更運転の出力である駆動力PM1間のインターバルの時間TML1,TML3と、アイドリング状態の駆動力Piの出力時間とを合わせて行なわれてもよい。また、この時間TML1,TML3と、比較的大きな駆動力PE3を出力する時間とを合わせても良く、ECU300によって、協調制御されるものであれば、駆動力変更運転の出力値、タイミング、周期、長さは特に限定されない。
【0145】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した範囲説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0146】
100 車両、110 蓄電装置、121 コンバータ、122 インバータ、122A 第1インバータ、122B 第2インバータ、130 モータジェネレータ、130A 第1モータジェネレータ、130B 第2モータジェネレータ、140 動力伝達ギヤ、140A 動力分割機構、150 駆動輪、160 エンジン、170,180,185 電圧センサ、175 電流センサ、190 速度センサ、200 カーナビゲーション装置、C1,C2,C1,C2 コンデンサ、300 ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両であって、
前記車両の走行駆動力を発生する複数の駆動源と、
前記駆動源を制御するための制御装置と、
道路情報を取得するための道路情報取得部とを備え、
前記制御装置は、前記駆動源について、駆動力を発生させる第1の状態と、前記第1の状態よりも駆動力を小さくした第2の状態とを切換えながら前記車両を走行させる駆動力変更運転を実行し、
前記制御装置は、前記道路情報取得部からの情報に基づいて進路に勾配のある道路が存在する場合には、進路に平坦路が続く場合に比べて前記駆動力変更運転における前記複数の駆動源の駆動状態を変更する、車両。
【請求項2】
前記複数の駆動源は、回転電機と内燃機関とを含み、
前記制御装置は、進路の勾配が下りである場合には、進路が平坦路である場合に比べて前記内燃機関の駆動力を小さくした状態で、前記駆動力変更運転を実行する、請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記車両は、
前記回転電機に電力を供給する蓄電装置をさらに備え、
前記制御装置は、進路の勾配が下りである場合には、進路の勾配の下り期間中に前記蓄電装置の充電状態が上限値を超えないように、予め内燃機関の駆動力を小さくした状態で、前記駆動力変更運転を実行し、前記充電状態を低下させる、請求項2に記載の車両。
【請求項4】
前記制御装置は、進路の勾配が登りである場合には、進路が平坦路である場合に比べて内燃機関の駆動力を増加した状態で、前記駆動力変更運転を実行する、請求項1に記載の車両。
【請求項5】
前記車両は、
前記回転電機に電力を供給する蓄電装置をさらに備え、
前記制御装置は、進路の勾配が登りである場合には、進路の勾配の登り期間中に前記蓄電装置の充電状態が下限値を下回らないように、予め内燃機関の駆動力を増加した状態で、前記駆動力変更運転を実行し、前記充電状態の低下を抑制する、請求項4に記載の車両。
【請求項6】
前記制御装置は、ユーザからの要求駆動力の変化が所定範囲内の場合に、前記駆動力変更運転を実行して、前記車両の速度が許容範囲内に維持されるように、前記第1および第2の状態を切換える、請求項1に記載の車両。
【請求項7】
前記制御装置は、前記車両の速度が前記許容範囲の下限値まで低下したことに応答して前記第1の状態に切換え、前記車両の速度が前記許容範囲の上限値まで上昇したことに応答して前記第2の状態に切換える、請求項6に記載の車両。
【請求項8】
前記制御装置は、前記第1の状態における駆動力は、前記車両の速度を維持することが可能な一定出力の基準駆動力よりも大きく設定され、前記第2の状態における駆動力は、前記基準駆動力よりも小さく設定される、請求項1に記載の車両。
【請求項9】
前記制御装置は、前記第2の状態においては、前記駆動源からの駆動力の発生を停止する、請求項8に記載の車両。
【請求項10】
走行駆動力を発生する複数の駆動源および道路情報を取得するための道路情報取得部を有する車両の制御方法であって、
前記駆動源を、所定のレベルの駆動力を発生させる第1の状態にするステップと、
前記駆動源を、前記第1の状態よりも駆動力を小さくした第2の状態にするステップと、
前記第1および第2の状態を切換えながら前記車両を走行させる駆動力変更運転を実行するステップと、
前記道路情報取得部により取得された進路の道路情報に基づいて、前記車両が勾配を有する道路を走行することが認識された場合は、前記各駆動源の駆動力の配分を平坦路を走行する場合の配分から変更して設定するステップと、を備える、車両の制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−99994(P2013−99994A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244353(P2011−244353)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】