説明

車両におけるフードロックストライカの取付構造

【課題】部品点数を少なくしつつ車両の安全性を向上できる車両におけるフードロックストライカの取付構造を提供する。
【解決手段】フードロックストライカ9は、インナパネル6に溶接固定されたリインフォースメント10と、該リインフォースメント10に固定されたストライカ本体11とを有し、前記インナパネル6又は前記リインフォースメント10には、該リインフォースメント10の前記インナパネル6への溶接時に、前記リインフォースメント10と前記インナパネル6とを係合させる係合片12が1つ又は複数形成され、少なくとも1つの前記係合片12に、前記リインフォースメント10の車両後方への移動を阻止する縦壁12aを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両におけるフードロックストライカの取付構造に関し、詳細には部品点数を削減しつつ、安全性を向上できる取付構造の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンルームを覆うエンジンフードには、該エンジンフードを閉時に車体にロックするためのフードロック装置が設けられている。このフードロック装置は、車体側に設けられたラッチと、前記エンジンフードのインナパネルに溶接固定されたリインフォースメントと、該リインフォースメントに固定され、前記ラッチに係脱するストライカ本体とを備えている。
【0003】
しかし従来のフードロック装置では、車両衝突時の衝撃により前記リインフォースメントが前記インナパネルから離脱し、前記エンジンフードが開いてしまう場合があった。前記エンジンフードが開くと、前方からの衝撃力を後方に伝達しつつ吸収する衝撃吸収機能を十分に発揮できなくなり、また、前記エンジンフード内に歩行者保護用の衝撃吸収材を配設してもその効力を十分に発揮できないという問題があった。
【0004】
そこで、前記リインフォースメントと前記インナパネルとの溶接部が破断した場合でも、前記エンジンフードが開くのを確実に防止できる構造として、従来、例えば、特許文献1に記載されたものがある。
【0005】
この従来構造では、リインフォースメントとフードフレームとを、その締結部の少なくとも一部をボルト,ナットで締結し固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−212154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、前記特許文献1のフードロックストライカの取付構造では、ボルトナットが必要な分、部品点数が増加し、重量及びコストが増加し、また組立て工数が増加するという問題がある。
【0008】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、部品点数を少なくしつつ、リインフォースメントの脱落を防止し、もって前方からの衝撃力を後方に伝達して車両の安全性を向上できる車両におけるフードロックストライカの取付構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、アウタパネル及びインナパネルで構成され、エンジンルームを開閉するエンジンフードの前端部内面にフードロック装置のフードロックストライカを取り付ける車両におけるフードロックストライカの取付構造において、前記フードロックストライカは、前記インナパネルに溶接固定されるリインフォースメントと、前記リインフォースメントに固定されたストライカ本体とを有し、前記インナパネル又は前記リインフォースメントには、該リインフォースメントの前記インナパネルへの溶接時に、前記リインフォースメントと前記インナパネルとを係合させる係合片が1つ又は複数形成され、少なくとも1つの前記係合片には、前記リインフォースメントの車両後方への移動を阻止する縦壁が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、前記インナパネル又は前記リインフォースメントに両者を係合させる係合片を設定し、さらに少なくとも1つの前記係合片にリインフォースメントの後方移動を阻止する縦壁を設定した。そのため車両衝突時の衝撃により、又は径年劣化により前記リインフォースメントの溶接部が破断しても、前記リインフォースメントは前記係合片により脱落が防止されるとともに、前記縦壁により車両後方への移動が阻止されるので、前記フードロックストライカの変位による前記エンジンフードの開きを抑制することができる。その結果、車両前方からの衝撃力を後方に確実に伝達でき、車両の安全性を向上できる。
【0011】
また、前記リインフォースメントの前記インナパネルへの溶接時においては、前記係合片を前記リインフォースメントの仮止めとして使用でき、また前記縦壁を前記リインフォースメントの車両前後方向の位置決めとして使用できるので、組立て作業が容易であり、それだけ生産性を向上できる。さらに、別部材であるボルト,ナット等が不要な分、部品点数を削減できるとともに、重量及びコストの増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1に係るフードロックストライカの取付構造を示す平面図である。
【図2】前記フードロックストライカの取付構造を示す断面図(図1のII-II線断面図)である。
【図3】リインフォースメントを係合片に係合させる手順を示す斜視図である。
【図4】前記リインフォースメントを前記係合片に係合させる手順を示す斜視図である。
【図5】前記リインフォースメントを前記係合片に溶接固定した状態を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施例2に係るフードロックストライカの取付構造を示す斜視図である。
【図7】前記実施例2に係るフードロックストライカの取付構造の変形例を示す斜視図である。
【図8】本発明の実施例3に係るフードロックストライカの取付構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1ないし図5は、本発明の実施例1による車両におけるフードロックストライカの取付構造を説明するための図である。なお、本実施例で、左,右とは、車両前方から見た場合の左,右を意味している。
【0015】
図において、1は車両前部を示している。該車両前部1は、車体2の前部に形成されたエンジンルーム3の上部開口を覆うエンジンフード4を備えている。
【0016】
前記エンジンフード4は、外観面を形成するアウタパネル5と、該アウタパネル5の内側に配設され、該アウタパネル5を支持するインナパネル6とを含み、前記エンジンフード4の後端側に配設されたヒンジ機構(不図示)により前記エンジンルーム3を開閉可能に支持されている。
【0017】
前記アウタパネル5と前記インナパネル6とは、前記エンジンフード4の周縁部4aがヘミング加工によりかしめられており、また適宜箇所において接着剤7等により接合されている。
【0018】
前記エンジンフード4の前端部内面4bには、フードロック装置8のフード側部品を構成するフードロックストライカ9が取り付けられている。このフードロックストライカ9は、前記インナパネル6に溶接固定されるリインフォースメント10と、該リインフォースメント10に固定されたストライカ本体11とを有する。
【0019】
前記ストライカ本体11は、丸棒を略コ字形状に折り曲げ成形したものであり、その両脚部11a,11aが前記リインフォースメント10に溶接又はカシメ加工により固定され、その横辺部11bが下方に垂下している。そして、前記ストライカ本体11の横辺部11bに、前記フードロック装置8の車体側部品19を構成するロック本体19bのラッチ19aが係合することで、前記エンジンフード4は閉状態にロックされている。
【0020】
前記リインフォースメント10は、前記アウタパネル5や前記インナパネル6より厚い板材で構成され、また側面視で複数の屈曲部を有するように折り曲げ形成されており(図2参照)、これにより前記ストライカ本体11を強固に保持している。
【0021】
前記インナパネル6には、前記リインフォースメント10の前記インナパネル6への溶接時に、前記リインフォースメント10を前記インナパネル6に係合させる前,後の係合片12,12が形成されている。該係合片12,12は前記リインフォースメント10の前,後の係合部10a,10bを結ぶ対角線上に配置されている(図1参照)。
【0022】
前記前,後の係合片12は、前記インナパネル6を鉤状に切欠き、これを下方に突出させるいわゆる切り起こし加工によって形成されたものであり、前,後の縦壁12a,12aと、左,右の縦壁12d,12dと、下壁12cと、開口部12bとを有する。
【0023】
前記リインフォースメント10の前記インナパネル6への溶接作業時には、まず、前記リインフォースメント10の左,右の側面10c,10dを前記前,後の係合片12,12の開口部12b,12bに挿入し(図3参照)、前記左,右の側面10c,10dが前記前,後の係合片12,12の左,右の縦壁12d,12dに当接するまで前記リインフォースメント10を矢印A方向へ回転させる。これにより前記リインフォースメント10は、左,右の縦壁12d,12dにより幅方向の位置決めがなされ、前,後の縦壁12a,12aにより車両前後方向の位置決めがなされ、さらに前記下壁12cにより上下方向に支持される。そして前記リインフォースメント10の前,後の係合部10a,10bが前記係合片12の下壁12c,12cに溶接固定され、さらにリインフォースメント10のコーナ部10e,10eがインナパネル6に溶接固定される。
【0024】
このように本実施例1によれば、前記インナパネル6にリインフォースメント10を係合させる前,後の係合片12,12を設定し、後の係合片12にリインフォースメント10の後方移動を阻止する後の縦壁12aを設定した。そのため車両衝突時の衝撃により、又は径年劣化により前記リインフォースメント10の溶接部が破断しても、前記リインフォースメント10は前記係合片12の下壁12c,12cにより下方への脱落が防止されるとともに、前記後の縦壁12aにより車両後方への移動が阻止されるので、前記フードロックストライカ9の変位による前記エンジンフード4の開きを防止することができる。その結果、車両前方からの衝撃力を後方に確実に伝達でき、車両の衝突安全性を向上できる。
【0025】
また、前記リインフォースメント10の前記インナパネル6への溶接時においては、前記リインフォースメント10を、前記係合片12,12の下壁12c,12cにより上下方向に仮止めでき、また前記左,右の縦壁12d,12dにより車幅方向に位置決めでき、さらに前,後の縦壁12a,12aにより前後方向に位置決めできるので、前記リインフォースメント10のインナパネル6への溶接組立作業が容易であり、それだけ生産性を向上できる。
【0026】
さらにまた、別部材であるボルト,ナット等が不要であり、その分、部品点数を削減できるとともに、重量及びコストの増加を抑制することができる。
【実施例2】
【0027】
図6及び図7は、本発明の実施例2による車両におけるフードロックストライカの取付構造を説明するための図である。図中、図1ないし図5と同一符号は同一又は相当部分を示す。なお、本実施例で、左,右とは、車両前方から見た場合の左,右を意味している。
【0028】
本実施例2のフードロックストライカ9は、前記インナパネル6に溶接固定されたリインフォースメント14と、該リインフォースメント14に固定されたストライカ本体11とを有する。そして前記インナパネル6には、前記リインフォースメント14の前記インナパネル6への溶接時に、前記リインフォースメント14を前記インナパネル6に係合させる左,右の係合片13,13が、前記同様の切り起こし加工により形成されている。
【0029】
前記左,右の係合片13,13は、前記リインフォースメント14の車両後方への移動を阻止する縦壁13aと、前記リインフォースメント14の左,右の係合部14a,14bを挿入する開口部13bと、該左,右の係合部14a,14bを下方から支持する下壁13c,13cと、車幅方向の位置決めを行う左,右の縦壁13d,13dとを有する。
【0030】
前記リインフォースメント14を前記インナパネル6に溶接固定する場合、まず前記リインフォースメント14の左,右の係合部14a,14bを前記左,右の係合片13,13の開口部13b,13bに矢印B方向に挿入し、後端面14eを前記左,右の係合片13,13の縦壁13a,13aに当接させる。これにより前記リインフォースメント14は、前記左,右の係合片13,13の後の縦壁13a,13a及び左,右の縦壁13d,13dによって位置決めされ、この状態で前記リインフォースメント14の左,右の係合部14a,14bと、前記左,右の係合片13,13の下壁13c,13cとを溶接固定し、さらに前部コーナ部14c,14dをインナパネル6に溶接固定する。
【0031】
本実施例によれば、前記インナパネル6に、左,右の係合片13,13を形成したので、前方衝突時の衝撃により溶接部が破断した場合でも、前記フードロックストライカ9の脱落及び後方移動を防止でき、前記実施例1と同様の効果が得られる。
【0032】
また、前記リインフォースメント14を後方移動させて左,右の係合片13,13に係合させるだけでリインフォースメント14の位置決めができ、組立作業性をさらに改善できる。
【0033】
なお、前記実施例2においては、左,右の係合片13,13を形成したが、本発明では、図7に示すように、係合片15を、リインフォースメント14の車幅方向中央部に1つだけ設けても良い。この場合、係合片15は、後の縦壁15a,開口部15b及び下壁15cを有する。
【0034】
また、前記左,右の係合片13,13と前記係合片15とを組み合わせ、係合片を3ヶ所に配設しても構わない。
【実施例3】
【0035】
図8は、本発明の実施例3による車両におけるフードロックストライカの取付構造を説明するための図である。図中、図1ないし図7と同一符号は同一又は相当部分を示す。なお、本実施例で、上,下,左,右とは、車両前方から見た場合の上,下,左,右を意味している。
【0036】
本実施例のフードロックストライカ9は、前記インナパネル6に溶接固定されるリインフォースメント16と、該リインフォースメント16に固定されたストライカ本体11とを有する。また、前記インナパネル6には、前記リインフォースメント16が挿入可能の車幅方向長さ及び前後方向長さを有し、車幅方向に延びるスリット部18が形成されている。
【0037】
前記リインフォースメント16の車両後方端部には、該リインフォースメント16の前記インナパネル6への溶接時に、前記リインフォースメント16を前記インナパネル6に係合させる係合片17が形成されている。
【0038】
前記係合片17は、縦壁16aと、車両後方側に折り曲げ形成された挿入壁16bとを有し、側面視でL字形状を成している。
【0039】
前記リインフォースメント16を前記インナパネル6に溶接固定する場合、まず、前記係合片17の挿入壁16bを前記スリット部18に矢印C方向に挿入し、前記縦壁16aを前記スリット部18の後縁部18aに当接させる。
【0040】
これにより前記リインフォースメント16は、前記係合片17の挿入壁16bがスリット部18の後縁部18aにより上下方向に支持され、縦壁16aにより前後方向に位置決めされる。この状態で、前記係合片17の挿入壁16bと、前記インナパネル6の後縁部18a近傍部分とを溶接固定する。
【0041】
本実施例によれば、前記インナパネル6のスリット部18にリインフォースメント16の係合片17を係合させ、挿入壁16bを上下方向に支持し、縦壁16aを後縁部18aに当接させて後方移動を阻止したので、前方衝突時の衝撃により溶接部が破断しても前記フードロックストライカ9の脱落及び後方移動を防止することができ、前記各実施例と同様の作用効果が得られる。
【0042】
また、前記インナパネル6に形成したスリット部18に、リインフォースメント10に形成した係合片17を挿入するだけ済み、構造簡単である。
【符号の説明】
【0043】
3 エンジンルーム
4 エンジンフード
4b 前端部内面
5 アウタパネル
6 インナパネル
8 フードロック装置
9 フードロックストライカ
10,14,16 リインフォースメント
11 ストライカ本体
12,13,15,17 係合片
12a,13a,15a,16a 縦壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウタパネル及びインナパネルで構成され、エンジンルームを開閉するエンジンフードの前端部内面にフードロック装置のフードロックストライカを取り付ける車両におけるフードロックストライカの取付構造において、
前記フードロックストライカは、前記インナパネルに溶接固定されるリインフォースメントと、該リインフォースメントに固定されたストライカ本体とを有し、前記インナパネル又は前記リインフォースメントには、該リインフォースメントの前記インナパネルへの溶接時に、前記リインフォースメントと前記インナパネルとを係合させる係合片が1つ又は複数形成され、
少なくとも1つの前記係合片には、前記リインフォースメントの車両後方への移動を阻止する縦壁が形成されている
ことを特徴とする車両におけるフードロックストライカの取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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