説明

車両における計算機システム

【課題】異なるシステム領域において対立若しくは矛盾する命令やジョブのもとで生じていた問題を解決すべく改善を行うこと。
【解決手段】少なくとも2つの計算機への命令/ジョブの分割が、車両の誘導案内に対する機能の意義に従って行われており、この場合実質的に走行に係る機能は第1の計算機において実現され、走行に係わらない機能は第2の計算機において実現され、さらに、前記2つの計算機が、それぞれ1つのグラフィックプロセッサに接続されており、前記2つの計算機は所定のインターフェースを介して相互に通信し、前記2つの計算機のうち第1の計算機はクローズシステムとして構成され、第2の計算機はクローズシステムとして構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる命令/ジョブを引き受ける少なくとも2つの計算機(10,13)を有している、車両内の計算機システムに関する。
【背景技術】
【0002】
今時の車両におけるシステム、例えばナビゲーションシステムやエンターテインメントシステムなどは、しばしば互いに独立しているか、一方若しくは他方のタイプに相互依存している。そのためナビゲーションの命令ないしジョブ、人間と機械の間のヒューマン−マシンインターフェースの表示、車両制御と空調制御などに対してそれぞれ個別のプロセッサが設けられている。複雑なシステムの分割、特に命令ないしジョブが正確に書き換えられる異なるプロセッサへの分割のもとでは、非常に正確に規定されたインターフェースが必要である。そのため異なるシステム領域において対立する若しくは矛盾する命令やジョブの際には故障の危険性や問題が生じてしまう。これに対して1つのプロセッサが複数の命令を引き受けた場合、このプロセッサは全ての命令を同時に実施し得るように設計されなければならないか、若しくはプロセッサの重い負担のもとでパワーの限界を余儀なくされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、前述したような従来技法における欠点に鑑みてこれを解消すべく改善を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題は本発明により、前記少なくとも2つの計算機への命令/ジョブの分割が、車両の誘導案内に対する機能の意義に従って行われており、この場合実質的に走行に係る機能は第1の計算機において実現され、走行に係わらない機能は第2の計算機において実現され、さらに、前記2つの計算機が、それぞれ1つのグラフィックプロセッサに接続されており、前記2つの計算機は所定のインターフェースを介して相互に通信し、前記2つの計算機のうち第1の計算機はクローズシステムとして構成され、第2の計算機はクローズシステムとして構成されようにして解決される。
【発明の効果】
【0005】
本発明による命令ないし機能特性に従った少なくとも2つの計算機への命令ないし機能の分割は次のような利点を有している。すなわち一方では実質的に走行ないし車両に係わる命令ないし機能が実施され(車両システム又はドライバ情報システム)、他方では実質的に走行ないし車両に係わらない命令/機能が実施されるが(娯楽システム)、車両システム/ドライバ情報システム/エンターテインメントシステムの別個の監視が可能となる利点である。このことはとりわけオープンシステムとしてのエンターテインメントシステムの構成とクローズシステムとしての車両システムの構成を可能にする。それにより有利な形態で、エンターテインメントシステムのオープンアーキテクチャ(例えばインターネット接続、ソフトウエアダウンロード)にもかかわらず、車両システムのセキュリティが保証される。ここでのオープンシステムとは、例えばユーザーによって固有のソフトウエアやコンフィグレーションを変更するための外界との通信ができるように設計仕様されているシステムであり、それに対してクローズシステムとはこのような可能性が閉ざされているシステムと理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】走行に関係する命令/ジョブと走行に関係しない命令/ジョブがそれぞれ分離されている計算機システムを示した図
【発明を実施するための形態】
【0007】
特にそのような分割のもとでは有利には、計算機の全体システムと部分システムの種々異なる装備グレードに関するシステムスケーリングが可能となる。すなわちシステムの様々な装備グレードがシステムの大規模な変更を要することなく可能となる。そのため単独の車両制御部(空調制御、ドライバ警告システムなど)、さらなる車両制御部(オプションのナビゲーションやラジオなど)およびハイエンドな装備(付加的なエンターテインメント情報など)がさらなるハードウエアコンポーネント(+所要のソフトウエア)を用いた計算機システムの拡張によって達成できる。
【0008】
さらに有利には、イノベーションサイクルの非依存性が達成される。なぜなら走行に係わりのないシステムがオープンシステムとして構成され、それによってイノベーションサイクルが迅速に追従されるからである。それに対して走行に関係するシステムは極わずかしかイノベーションサイクルに影響されず、それらの変更にはかかわらない。このことはソフトウエアに対してだけではなく、能力に定常的に係わっている民生電子機器にも当てはまる。これらはエンターテインメント部分のオープンシステムによって交換が可能である。
【0009】
さらに車両における部分システムの使用が相互に依存することなく可能となる。そのため車両に係わる情報(例えばナビゲーション指示、ドライバ警告情報など、これらは常に正確さが求められる)がいつでも使用可能であることが保証される。なぜなら娯楽に係わる情報(例えばビデオ再生)が走行に係わる部分システムに負担をかけることがないからである。
【0010】
さらに有利には、どのようなオプション装備、特にエンターテインメントに関するオプション装備が設けられているかに依存することなく車両側のバス若しくはバスシステムが常に同じ部分システムに接続される。
【0011】
その上さらに本発明による分割手法は、リスクを最小化させることにも寄与している。なぜなら走行に係わるシステムが、例えば新たな機能のダウンロードによっては誤動作の危険性も有しているエンターテインメントシステムから完全に分離されているからである。それにより走行に係わる部分に関しては、システム特性の予測が保証される。
【0012】
さらなる利点は、実施例に基づく以下の説明ないしは従属請求項に記載される。
【実施例】
【0013】
図面には本発明の実施例が示されており、本発明はその実施形態に基づいて以下の明細書で詳細に説明される。
【0014】
図1に示されている計算機システムは、実質的に2つのプロセッサからなっている。これらのプロセッサは、実質的に境界を定められた命令/ジョブ領域に分けられている。それらの境界を定められた命令/ジョブの他には個別に選択される命令/ジョブが存在している。これらはこの場合フレキシブルな交換が可能だが、特に高い計算能力を必要としている。この場合の境界は、機能特性に応じて定められる。つまり走行に係わる機能と走行に係わらない機能の間で区別されている。
【0015】
第1のプロセッサ10は(場合によってはグラフィックプロセッサと共に)走行に係わる機能ないし命令/ジョブ、例えばCAN、MOST、空調制御部、ナビゲーション、ドライバ警告システムなどへの接続、ナビゲーションシステムの二次元マップの表示と評価、音声出力、ヒューマン/マシンインターフェースへの接続を引受けている。換言すれば、この部分システムは、多数の車両機能に対する操作面も含めてドライバ情報システムを実現している。別の側には、(グラフィックプロセッサと共に)プロセッサ12が設けられており、このプロセッサは高性能タイプで、例えば従来のパーソナルコンピュータに利用されており、走行に関係のない例えばゲーム、インターネット接続、ビデオ鑑賞など基本的にはエンターテインメントシステムである(特に同乗者用)。このシステムは、その利用に関する新たなアプリケーションのダウンロード用にも設計仕様がなされており、娯楽のための電子機器、例えばPDA、ラップトップコンピュータなどへのバス接続も実現し得る。つまりこれによって娯楽と情報収集のシステムが実現され得る。
【0016】
この計算機システムの機能は、民生電子機器(娯楽機能優先型)の機能と、走行に関する電子機器(走行機能、ドライバ情報機能優先型)の機能からなっており、ここではそれぞれシステムの固有の計算機上で実現されている。それらの実施においては、娯楽機能と走行機能の間で重畳領域が存在する。例えば三次元グラフィック(例えば走行に関する機能としてナビゲーション用マップ)が娯楽用に用いられ、他のプロセッサ(エンターテインメント系)によって表示可能である。その他の例としてMP3機能があげられる。これはオーディオの利用と共にエンターテインメント系に属する。しかしながらMP3デコーディングは、カーラジオ(走行関係グループ)の標準機能でもあり得る。そのためこのデコーディングは、エンターテインメント系プロセッサかもしくは走行に係るアプリケーションにおいて引き受けられる。例えばMP3デコーディングは、音声出力に対して重要である。それ故に2つのプロセッサは、少なくとも1つのインターフェースによって相互接続されている。そのため出力データ及び/又は選択された命令/ジョブの結果が保管されるか、若しくは短時間だけ計算能力を多く使うアプリケーション、例えば音声識別や高品質な音声合成プログラムが走行に係るプロセッサによって保管され、能力の高いエンターテインメント系プロセッサに伝送したりそこから受取ったりできるようになる。それに必要な機能性は、2つのプロセッサにおいて冗長的に存在しており、それによって欠陥の際若しくはエンターテインメントシステムが存在しない場合でも、走行に係る部分システムがその機能を実現できる。
【0017】
当該計算機システムの走行に係る機器は、この場合常にマスターシステムであり、エンターテインメントプロセッサは、スレーブシステムである。
【0018】
図1には当該計算機システムの有利な実施例が示されている。図示の計算機システム100は、走行に係る部分システム100a並びに走行に係わらない部分システム100bを表わしている。この場合走行に係る部分システム100aは、プロセッサ10並びにグラフィックプロセッサ11からなっている。このプロセッサ10は、CPUと種々のメモリ(Mem)並びに車両バスシステムへの接続のためのインターフェース、例えばATAPI,MOST,CAN、若しくは車両システム(例えばジャイロ)のセンサまたはアクチュエータを含み得る。その上さらにこのプロセッサは、グラフィックプロセッサ11に対するインターフェース、例えばSPIを有し、さらに走行に係わらない部分システムに対するインターフェース、例えばPCIインターフェースを有する。グラフィックプロセッサ11は、メモリを備えた計算機コアからなり、一方ではインターフェースSPIを介してプロセッサ10に接続され、さらに別のインターフェース、例えばRGBインターフェースを介してドライバ用の表示手段と接続され、さらに第3のインターフェース、例えばLVDSインターフェースを介して走行に係わらない部分システム12のグラフィックプロセッサに接続されている。
【0019】
この走行に係わらない部分システム12は、高い計算能力を備えたマルチメディアプロセッサ13と、さらに高出力のグラフィックプロセッサ14を含んでおり、これは高分解能のグラフィック、特に三次元グラフィックを処理できる。プロセッサ13は、この場合中央ユニット(CPU)並びに種々のメモリ(Mem)を含み、さらに走行に係る部分システムのプロセッサ10に対する第1のインターフェースと、グラフィックプロセッサ14に対する第2のインターフェース(PCI)と、バスインターフェース、例えばUSB、IEEEなどに対するさらなるインターフェースを有している。これらのインターフェースには、通常の娯楽用電子機器やコンピュータが接続可能である。グラフィックプロセッサ14(このプロセッサもメモリを有している)は、プロセッサ13に対するインターフェースの他に、当該計算機システムの走行に係わる部分システムのグラフィックプロセッサに対する前述のインターフェースLVDS並びに車両の同乗者へのグラフィック表示のためのさらなるインターフェースを含んでいる。これらのインターフェースは、例えばRGBインターフェースとして実現される。
【0020】
走行に係る機能と走行に係わらない機能の分割は、それらの特性に従って行われる。この場合実質的に走行に係る機能は、車両の操作、ナビゲーション、誘導案内ないしはドライバへの警告、情報提供と共に特有の情報を含んでおり、走行に係る部分システムにおいて実現される。それに対して優先的に走行には係わらない機能は、専ら車両の誘導案内には関係のない情報、とりわけ乗客の娯楽ための情報、アニメーション化のための情報を含んでおり、当該計算機システムのエンターテインメント系12において実現される。走行に係る機能に関しては、最大の可処分能力と機能の信頼性に焦点が絞られる。なぜなら車両誘導案内に対する機能、並びに車両内における車両バスとの内部ネットワーク化は本質的に重要だからである。そのような車両固有の機能は、ナビゲーションシステム,HMI論理回路ないしはHMIマネージャである。それらは車両内の操作と表示を制御ないし評価し、音声識別ないしは音声合成ソフトウエア、走行指示ないしはドライバ警告の出力のためのプログラム、並びに測位のための二次元マップの表示である。最も広い意味でそれらは走行に係るHMIないしはドライバ情報システムである。走行に係わらない機能には、インターネットブラウザ、サービスダウンロード、三次元グラフィックの表示、同乗者の娯楽のためのアプリケーション、ビデオ再生システム、ゲーム、デジタルビデオ放送システム、モバイルオフィス、ラップトップ、PDAなどの携帯機器が含まれ、これらはエンターテインメント部分システムに接続可能である。その場合当該計算機システムのエンターテインメント部分システムのもとでは、焦点が機能に対する最大出力の提供、システムのオープン特性(例えばソフトウエアのダウンロード)、並びに外部ネットワーク化(例えばインターネットとの接続)に絞られる。
【0021】
前述した分離は、別の実施形態においては重畳領域を有する。例えばLVDSインターフェースを介してグラフィック強化した利用、例えば三次元ナビゲーションマップなどの三次元表示、あるいは車両からの風景、空調設定もしくは音響設定に対する三次元モデル、アニメーション化(マスク入替えの際の移行アニメーション、マスク内のアニメーション化された要素、アニメーション化された操作アシスタントなど)、若しくは所要メモリ容量の大きい背景画像(これは走行に係る部分システムの機能と接続する)は、エンターテインメント部分システムに所要の計算能力の結果、車両に係わらない部分システムでは計算されず、LVDSインターフェースを介して情報交換される。その上さらに短時間の計算強化された利用、例えば自然なセンテンスを伴う音声識別やその際に与えられる拡張された識別能力並びにより良好な出力品質の音声合成のもとでは例えばPCIインターフェースを介してエンターテインメント部分システムの高出力のプロセッサ13との情報交換がなされそこで計算される。ここにおいては前述したような機能が冗長的に存在することを述べておく。そしてエンターテインメントシステムの故障の際、若しくはそのような機能の冗長的存在がない場合には、走行に係る部分システムにおいて実施し得る。その他の全ての機能は一度だけ存在する。
【0022】
重要なことは、当該計算機システムにおいて個々の機能が、車両の誘導案内に対するその重要度に従って分割されていることである。この場合走行に係る機能、すなわち車両誘導案内及びドライバにとって重要である機能は、走行に係るプロセッサ内で算出される。それに対して走行に係わらないシステム、つまり例えば車両の誘導案内にとって重要ではない、娯楽、特に同乗者に用いられる機能は、高出力のマルチメディア計算機において算出される。その場合有利には2つの計算機がインターフェースを介して相互に接続されている。
【符号の説明】
【0023】
10 計算機
11 グラフィックプロセッサ
12 部分システム
13 計算機
14 グラフィックプロセッサ
100 計算機システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる命令/ジョブを引き受ける少なくとも2つの計算機(10,13)を有している、車両内の計算機システムにおいて、
前記少なくとも2つの計算機(10,13)への命令/ジョブの分割が、車両の誘導案内に対する機能の意義に従って行われており、この場合実質的に走行に係る機能は第1の計算機(10)において実現され、走行に係わらない機能は第2の計算機(13)において実現され、さらに、
前記2つの計算機(10,13)が、それぞれ1つのグラフィックプロセッサ(11,14)に接続されており、前記2つの計算機(10,13)は所定のインターフェースを介して相互に通信し、前記2つの計算機のうち第1の計算機はクローズシステムとして構成され、第2の計算機はクローズシステムとして構成されていることを特徴とする計算機システム。
【請求項2】
走行に係る機能は、車両特有の機能である、請求項1記載の計算機システム。
【請求項3】
走行に係る機能は、車両の操作、ナビゲーション、誘導案内機能若しくはドライバへの警告及び測位機能と共に特有の情報を含んでおり、走行に係るHMIとドライバ情報システムを形成している、請求項1または2記載の計算機システム。
【請求項4】
走行に係わらない機能は、娯楽特有の機能である、請求項1から3いずれか1項記載の計算機システム。
【請求項5】
走行に係る機能には、以下に述べる機能のうちの少なくとも1つ、すなわち、
ナビゲーションシステム機能、車両内の表示と操作を制御ないし評価するHMI論理機能ないしHMI管理機能、音声識別ないし音声合成ソフトウエア機能、走行指示ないしドライバ警告の出力のためのプログラム機能並びに測位のための二次元マップ表示機能のうちの少なくとも1つが含まれており、それに対して、
走行に係わらない機能には、以下に述べる機能のうちの少なくとも1つ、すなわち、
インターネットブラウザ機能、サービスダウンロード機能、三次元グラフィック表示機能、同乗者の娯楽のためのアプリケーション機能、ゲーム、ビデオ再生システム、デジタルビデオ放送システムの機能、ラップトップ、PDAなどの携帯機器に接続可能な接続機能のうちの少なくとも1つが含まれている、請求項1から4いずれか1項記載の計算機システム。
【請求項6】
走行に係わらない機能のための第2の計算機(13)は、グラフィック能力と計算能力に関して高性能なマルチメディア計算機である、請求項1から5いずれか1項記載の計算機システム。
【請求項7】
第1の計算機は、車両内部のバスに接続されている、請求項1から6いずれか1項記載の計算機システム。
【請求項8】
走行に係る第1の計算機(10)の計算強化機能は、走行に係わらない第2の計算機(13)において計算される、請求項1から7いずれか1項記載の計算機システム。
【請求項9】
走行に係る第1の計算機(10)は、計算強化命令/ジョブを、走行に係わらない第2の計算機(13)に送出し、その場合走行に係る第1の計算機は、前記命令/ジョブを他の計算機自体が存在しない場合か若しくは故障した場合に実施する、請求項1から8いずれか1項記載の計算機システム。

【図1】
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【公開番号】特開2011−102121(P2011−102121A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15175(P2011−15175)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【分割の表示】特願2004−567236(P2004−567236)の分割
【原出願日】平成15年11月4日(2003.11.4)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】