説明

車両における車体前部構造

【課題】車両の走行時、ダッシュパネルの振動に基づくロードノイズの車室における発生を抑制する。
【解決手段】車両における車体前部構造は、車体2の幅方向における各部断面がU字形状をなすカウルインナ16と、カウルインナ16の底部に結合されるダッシュパネル14と、カウルインナ16の長手方向の中途部に取り付けられ、ワイパー装置31を支持するワイパーブラケット32とを備える。車体2の前後方向におけるワイパーブラケット32の各部断面を倒立U字形状にすると共に、ワイパーブラケット32の前、後、下端縁部をカウルインナ16の内面に沿うよう形成する。カウルインナ16の前面板19の上下方向の中途部に屈曲部56を形成する。屈曲部56を跨ぐようカウルインナ16の前、後部にワイパーブラケット32を両端支持させ、車体2の前後方向で、屈曲部56の近傍におけるワイパーブラケット32の中途部に剛性断点58を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行中に、車体の骨格部材に両端支持されたカウルインナパネルが振動するとしても、このカウルインナパネルに結合されて車室の下部前面を形成するダッシュパネルは振動しないようにするための車両における車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記車両における車体前部構造には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、車両における車体前部構造は、車体の幅方向に延びて車体の骨格部材に両端支持され、その長手方向における各部断面が上方に向かって開放されたU字形状をなすカウルインナと、車体の幅方向かつ上下方向に延び、その上端縁部が上記カウルインナの底部に結合されて、車室の下部前面を形成するダッシュパネルと、上記車室の上部前面を形成し、その下端縁部が上記カウルインナの後面板側に支持されるフロントウィンドガラスと、上記カウルインナの長手方向の中途部に取り付けられ、上記ウィンドガラス用のワイパー装置を支持するワイパーブラケットとを備えている。
【0003】
車両の走行時に、上記フロントウィンドガラスの前面に雨水、雪などが付着する場合、上記ワイパー装置を作動させると、このワイパー装置のワイパブレードが上記ウィンドガラスの前面を払拭するよう上下に往復回動する。すると、このウィンドガラスの前面から上記付着物が自動的に拭き取られ、これにより、運転者にとって、良好な前方視界が確保されるようになっている。
【0004】
また、車両の前進走行中、この車両がその前方の何らかの物体に衝突(前突)したとき、この物体が跳ね上げられて上記カウルインナに対しその上方から衝突することがある。この場合、上記ウィンドガラスの下端縁部の前方に位置している上記カウルインナの前面板は車体の幅方向での各部断面で見て、その底面板から上方に突出する片持ち支持構造とされている。このため、上記前面板は、上記衝突時の衝撃力により円滑に塑性変形して、上記衝撃力が効果的に緩和されることとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−320465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両の走行時には、一般に、走行面側から車輪を介し車体の骨格部材に衝撃力が与えられ、これに連動して上記カウルインナが振動しがちとなる。この場合、前記したようにカウルインナの前面板はその底面板から上方に突出した片持ち支持構造であるため、特に、この前面板の自由端部である上部が大きく振動するおそれがある。
【0007】
そして、上記したようにカウルインナの前面板が振動したとすると、この前面板の振動に連動して上記ワイパーブラケットも振動するが、このワイパーブラケットは上記ワイパー装置を強固に支持する必要上、剛性が大きくされていて質量が大きいものである。このため、上記カウルインナの前面板に連動して上記ワイパーブラケットは全体的に振動しがちとなる。
【0008】
この結果、上記骨格部材からの振動により、上記カウルインナとワイパーブラケットとが共に全体的に振動することとなり、これに連動して上記ダッシュパネルも振動しがちとなる。ここで、このダッシュパネルは、前記したように車室の下部前面を形成するものであって、全体的に平坦に延び、かつ、面積が大きいものである。このため、このダッシュパネルが振動すると、ロードノイズといわれるこもり音が車室に発生しがちとなり、これは車両への乗り心地を低下させるものであって好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、車両の走行時に、カウルインナの前面板が振動するとしても、このカウルインナに結合されたダッシュパネルが振動することを抑制して、このダッシュパネルの振動に基づくロードノイズの車室における発生を抑制できるようにすることである。
【0010】
請求項1の発明は、車体2の幅方向に延びて車体2の骨格部材10に両端支持され、その長手方向における各部断面が上方に向かって開放されたU字形状をなすカウルインナ16と、車体2の幅方向かつ上下方向に延び、その上端縁部が上記カウルインナ16の底部に結合されて、車室5の下部前面を形成するダッシュパネル14と、上記車室5の上部前面を形成し、その下端縁部が上記カウルインナ16の後面板20側に支持されるフロントウィンドガラス26と、上記カウルインナ16の長手方向の中途部に取り付けられ、上記ウィンドガラス26用のワイパー装置31を支持するワイパーブラケット32とを備えた車両における車体前部構造において、
車体2の前後方向における上記ワイパーブラケット32の各部断面を倒立U字形状にすると共に、このワイパーブラケット32の前、後、下端縁部を上記カウルインナ16の内面に沿うよう形成し、
上記カウルインナ16の前面板19の上下方向の中途部に屈曲部56を形成し、この屈曲部56を跨ぐよう上記カウルインナ16の前、後部に上記ワイパーブラケット32を両端支持させ、車体2の前後方向で、上記屈曲部56の近傍における上記ワイパーブラケット32の中途部に剛性断点58を形成したことを特徴とする車両における車体前部構造である。
【0011】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0012】
本発明による効果は、次の如くである。
【0013】
請求項1の発明は、車体の幅方向に延びて車体の骨格部材に両端支持され、その長手方向における各部断面が上方に向かって開放されたU字形状をなすカウルインナと、車体の幅方向かつ上下方向に延び、その上端縁部が上記カウルインナの底部に結合されて、車室の下部前面を形成するダッシュパネルと、上記車室の上部前面を形成し、その下端縁部が上記カウルインナの後面板側に支持されるフロントウィンドガラスと、上記カウルインナの長手方向の中途部に取り付けられ、上記ウィンドガラス用のワイパー装置を支持するワイパーブラケットとを備えた車両における車体前部構造において、
車体の前後方向における上記ワイパーブラケットの各部断面を倒立U字形状にすると共に、このワイパーブラケットの前、後、下端縁部を上記カウルインナの内面に沿うよう形成している。
【0014】
このため、上記カウルインナとワイパーブラケットとの組み合わせ体における車体の正面視での各部断面は、それぞれ中空閉断面状の構造とされて、十分の強度と剛性とが確保される。
【0015】
よって、第1に、上記ワイパー装置の通常作動時に、このワイパー装置から上記ワイパーブラケットに与えられる負荷は、上記組み合わせ体によって強固に支持される。このため、上記ワイパー装置によれば、上記ウィンドガラスの前面を効果的に払拭するという良好な作動が確保される。
【0016】
また、第2に、上記ワイパー装置の作動停止中では、このワイパー装置のワイパブレードは、通常、その回動軌跡の最下端に位置させられる。ここで、仮に、このワイパブレード上に雪溜りが生じた状態で、上記ワイパー装置の作動開始により、上記ワイパブレードが上方回動したとする。この場合、このワイパブレードは雪溜りを持ち上げることにより、その大きい反力が上記ワイパーブラケットに対し下方に向かって与えられがちとなる。しかし、この場合、このワイパーブラケットで構成される上記組み合わせ体によって上記反力も強固に支持される。このため、上記した厳しい状況下でも、上記ワイパー装置には良好な作動が確保される。
【0017】
また、上記カウルインナの前面板の上下方向の中途部に屈曲部を形成し、この屈曲部を跨ぐよう上記カウルインナの前、後部に上記ワイパーブラケットを両端支持させ、車体の前後方向で、上記屈曲部の近傍における上記ワイパーブラケットの中途部に剛性断点を形成している。
【0018】
ここで、車両の走行時には、一般に、走行面側から車輪を介し車体の骨格部材に衝撃力が与えられ、これに連動して上記カウルインナが振動しがちとなる。この場合、前記したようにカウルインナの断面はU字形状をなしていて、その前面板はその底面板から上方に突出した片持ち支持構造である。このため、特に、この前面板の自由端部である上部が大きく振動するおそれがある。
【0019】
そして、上記したようにカウルインナの前面板が振動したとすると、この前面板の振動に連動して上記ワイパーブラケットも振動しがちとなる。しかし、上記したようにカウルインナの前面板の中途部には屈曲部が形成され、かつ、この屈曲部を跨ぐように上記カウルインナに両端支持されたワイパーブラケットの中途部には剛性断点が形成されている。
【0020】
このため、上記骨格部材からの振動は、上記屈曲部よりも上方の前面板の上部と、上記剛性断点よりも前方の上記ワイパーブラケットの前部とに伝達されてこれらを主に振動させる一方、上記前面板の下部側と上記ワイパーブラケットの後部側とへの振動の伝達は、上記屈曲部と剛性断点とによって抑制される。
【0021】
よって、上記カウルインナとワイパーブラケットとが共に全体的に振動することは抑制されることから、この振動に連動して上記カウルインナの底部に結合されているダッシュパネルが振動することも抑制される。この結果、このダッシュパネルの振動に基づくロードノイズの車室における発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】車体を斜め前方から見た斜視図である。
【図2】部分平面図である。
【図3】部分斜視図である。
【図4】側面断面図である。
【図5】図4のV−V線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の車両における車体前部構造に関し、車両の走行時に、カウルインナの前面板が振動するとしても、このカウルインナに結合されたダッシュパネルが振動することを抑制して、このダッシュパネルの振動に基づくロードノイズの車室における発生を抑制できるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0024】
即ち、車両における車体前部構造は、車体の幅方向に延びて車体の骨格部材に両端支持され、その長手方向における各部断面が上方に向かって開放されたU字形状をなすカウルインナと、車体の幅方向かつ上下方向に延び、その上端縁部が上記カウルインナの底部に結合されて、車室の下部前面を形成するダッシュパネルと、上記車室の上部前面を形成し、その下端縁部が上記カウルインナの後面板側に支持されるフロントウィンドガラスと、上記カウルインナの長手方向の中途部に取り付けられ、上記ウィンドガラス用のワイパー装置を支持するワイパーブラケットとを備える。
【0025】
車体の前後方向における上記ワイパーブラケットの各部断面が倒立U字形状にされると共に、このワイパーブラケットの前、後、下端縁部が上記カウルインナの内面に沿うよう形成される。上記カウルインナの前面板の上下方向の中途部に屈曲部が形成される。この屈曲部を跨ぐよう上記カウルインナの前、後部に上記ワイパーブラケットが両端支持される。車体の前後方向で、上記屈曲部の近傍における上記ワイパーブラケットの中途部に剛性断点が形成される。
【実施例】
【0026】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0027】
図において、符号1は自動車で例示される車両であり、矢印Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。
【0028】
上記車体2の前部の内部がエンジンルーム3とされ、このエンジンルーム3の上端開口はフード4によって開閉可能に閉じられている。また、上記車体2の後部の内部が車室5とされている。
【0029】
上記車体2は、その下部を構成して車輪を懸架する不図示の車体フレームと、この車体フレームの前後方向の中途部から上方に突出して不図示の車体ルーフを支持する左右フロントピラー8,8と、これら各フロントピラー8の上下方向の中途部からそれぞれ前方に向かって突設されるエプロンメンバ9とを備えている。上記車体フレーム、フロントピラー8、およびエプロンメンバ9は強度と剛性とが大きい車体2の骨格部材10とされている。
【0030】
また、車体2は、この車体2の幅方向に延びてこの車体2の骨格部材10である上記左右フロントピラー8,8およびエプロンメンバ9,9に両端支持されるフロントカウル13と、車体2の幅方向かつ上下方向に延び、その上端縁部が上記フロントカウル13の底部に結合されるダッシュパネル14とを備えている。上記フロントカウル13とダッシュパネル14とはいずれも板金製で、これら13,14は、上記エンジンルーム3と車室5とを前後に仕切ると共に、この車室5の下部前面を形成している。
【0031】
上記フロントカウル13は、その下部を構成するカウルインナ16と、上部を構成するカウルアウタ17とを備えている。
【0032】
上記カウルインナ16は、その長手方向における各部断面が上方に向かって開放されたU字形状をなしている。具体的には、このカウルインナ16は、車体2の前後方向で互いに対面する前、後面板19,20と、これら前、後面板19,20の各下端縁部を一体的に結合する底面板21と、上記前、後面板19,20の各上端縁部に一体的に形成される前、後外向きフランジ22,23とを備えている。
【0033】
上記前面板19は、上記底面板21から前上方に向かって延び、この底面板21に片持ち支持されている。また、上記底面板21の下面に前記ダッシュパネル14の上端縁部がスポット溶接S1により結合されている。また、上記後面板20の長手方向の一端部には、上記カウルインナ16の内部を車室5に連通させる外気取入れ口24が形成されている。
【0034】
上記カウルアウタ17は、その長手方向の各部断面が前上方に向かって延びており、その後端縁部が上記カウルインナ16の後外向きフランジ23にスポット溶接S2により結合され、前端縁部は上記カウルインナ16の前面板19の上方に離れて位置している。
【0035】
上記車室5の上部前面を形成するフロントウィンドガラス26が設けられている。このウィンドガラス26の下端縁部は上記カウルアウタ17の前端縁部に接着剤27により固着されて支持されている。つまり、上記ウィンドガラス26の下端縁部は上記カウルアウタ17とカウルインナ16の後外向きフランジ23とを介し上記カウルインナ16の後面板20に支持されている。また、上記ウィンドガラス26の下端縁部と前記フード4の後端縁部との間の隙間を閉じるよう樹脂製のカウルルーバ28が設けられ、このカウルルーバ28は上記カウルインナ16に支持され、かつ、図示しないが上記カウルアウタ17の前端縁部にも支持されている。
【0036】
上記ウィンドガラス26用のワイパー装置31が設けられる。また、上記カウルインナ16の長手方向の中途部に取り付けられて、上記ワイパー装置31を支持する板金製のワイパーブラケット32が設けられている。
【0037】
上記ワイパー装置31は公知のもので、左右回動軸34,34をそれぞれ支持する左右一対の回動軸ホルダー35,35と、これら両回動軸ホルダー35,35を互いに連結する連結フレーム36と、一端部が上記各回動軸34にそれぞれ支持されるワイパアーム37と、これら各ワイパアーム37の他端部に支持されて上記ウィンドガラス26の前面に圧接するワイパブレード38と、上記各回動軸34を互いに連動連結させるリンク機構39と、このリンク機構39、各回動軸34および各ワイパアーム37を介して上記各ワイパブレード38を上記ウィンドガラス26の前面に沿って上下に往復回動Aさせる電動機40とを備えている。上記両回動軸ホルダー35,35のうち、一方の回動軸ホルダー35は上記カウルインナ16の長手方向の一端部に締結具42により締結されて支持され、他方の回動軸ホルダー35は上記ワイパーブラケット32に他の締結具43により締結されて支持されている。
【0038】
上記ワイパー装置31の作動は従来の技術にて説明の通りであるが、この作動を停止したときには、上記各ワイパブレード38は回動A軌跡の最下端である上記ウィンドガラス26の下端縁部に自動的に位置させられる(図1)。
【0039】
前記ワイパーブラケット32は、車体2の前後方向における各部断面が倒立U字形状をなすブラケット本体46を備えている。このブラケット本体46は、車体2の幅方向で互いに対面する左右一対の側面板47,47と、これら両側面板47,47の各上端縁部を一体的に結合する上面板48と、この上面板48の前、後端縁部に一体的に形成される前、後外向きフランジ49,50と、上記各側面板47の前、後、下端縁部にそれぞれ一体的に形成される左右一対の側部外向きフランジ51とを備えている。
【0040】
上記各側面板47の前、後、下端縁部と各側部外向きフランジ51とは、上記カウルインナ16の内面に沿うよう屈曲形成されている。また、上記カウルインナ16の底面板21の上方における上記ワイパーブラケット32の各側面板47には、それぞれ開口52が形成されている。また、上記ワイパーブラケット32の上面板48における車体2の前後方向かつ車体2の幅方向の各中途部には上方に膨出する膨出部48aが形成されている。この膨出部48aの前面に、前記した他方の回動軸ホルダー35が他の締結具43により締結されて支持されている。
【0041】
上記カウルインナ16の前面板19の上下方向の中途部に車体2の側面視で山折れ状の屈曲部56が形成されている。この屈曲部56は、上記カウルインナ16のほぼ全長にわたり形成されている。
【0042】
上記屈曲部56を跨ぐよう上記カウルインナ16の前、後部に上記ワイパーブラケット32が前、後両端支持されている。具体的には、上記屈曲部56よりも上方のカウルインナ16の前面板19の上部に上記ワイパーブラケット32の各側部外向きフランジ51の前部がスポット溶接S3により結合され、上記カウルインナ16の前外向きフランジ22に上記ワイパーブラケット32の前外向きフランジ49がスポット溶接S4により結合されている。一方、上記カウルインナ16の後面板20に上記ワイパーブラケット32の各側部外向きフランジ51の後部がスポット溶接S5により結合され、上記カウルインナ16の後外向きフランジ23に上記ワイパーブラケット32の後外向きフランジ50がスポット溶接S6により結合されている。
【0043】
車体2の前後方向で、上記屈曲部56の近傍における上記ワイパーブラケット32の中途部に剛性断点58が形成されている。具体的には、上記ブラケット本体46の前端部側から車体2の前後方向におけるブラケット本体46の中途部に至るまでは、このブラケット本体46の幅寸法と上記膨出部48aの断面積とが漸減し、このブラケット本体46の中途部からこのブラケット本体46の後端部側に至るまでは、このブラケット本体46の幅寸法と上記膨出部48aの断面積とはほぼ一定とされている。
【0044】
また、車体2の前後方向で、上記ブラケット本体46の中途部および上記屈曲部56と同位置の上記ワイパーブラケット32の各側部外向きフランジ51の外側縁部にはそれぞれ切り欠き59が形成されている。そして、上記したワイパーブラケット32のブラケット本体46の前、後部間における形状の相違と各側部外向きフランジ51の切り欠き59とにより、これら前、後部の間のワイパーブラケット32の中途部が上記剛性断点58とされている。
【0045】
上記構成によれば、車体2の前後方向における上記ワイパーブラケット32の各部断面を倒立U字形状にすると共に、このワイパーブラケット32の前、後、下端縁部を上記カウルインナ16の内面に沿うよう形成している。
【0046】
このため、上記フロントカウル13のカウルインナ16とワイパーブラケット32との組み合わせ体16,32における車体2の正面視での各部断面は、それぞれ中空閉断面状の構造とされて、十分の強度と剛性とが確保される。
【0047】
よって、第1に、上記ワイパー装置31の通常作動時に、このワイパー装置31から上記ワイパーブラケット32に与えられる負荷は、上記組み合わせ体13,32によって強固に支持される。このため、上記ワイパー装置31によれば、上記ウィンドガラス26の前面を効果的に払拭するという良好な作動が確保される。
【0048】
また、第2に、上記ワイパー装置31の作動停止中では、このワイパー装置31のワイパブレード38、前記したように、通常、その回動A軌跡の最下端に位置させられる(図1)。ここで、仮に、このワイパブレード38上に雪溜り61が生じた状態で、上記ワイパー装置31の作動開始により、上記ワイパブレード38が上方回動Aしたとする。この場合、このワイパブレード38は雪溜り61を持ち上げることにより、その大きい反力が上記ワイパーブラケット32に対し下方に向かって与えられがちとなる。しかし、この場合、このワイパーブラケット32で構成される上記組み合わせ体13,32によって上記反力も強固に支持される。このため、上記した厳しい状況下でも、上記ワイパー装置31には良好な作動が確保される。
【0049】
また、前記したように、ワイパーブラケット32の前、後、下端縁部を上記カウルインナ16の内面に沿うよう形成しており、つまり、上記ワイパーブラケット32の少なくとも下部側は上記カウルインナ16に嵌入された構造とされている。
【0050】
このため、第1に、上記カウルインナ16へのワイパーブラケット32の組み付け時には、上記嵌入により、上記カウルインナ16へのワイパーブラケット32の位置決めが容易にできる。よって、その分、上記組み付け作業が、より容易にできる。
【0051】
また、第2に、上記したカウルインナ16へのワイパーブラケット32の嵌入により、上記フロントカウル13の内部空間を車体2の幅方向に向かって空気が自由に流動することは上記ワイパーブラケット32によって抑制される。よって、例えば、エンジンルーム3内でエンジンにより温められた空気が上記カウルインナ16の一端部から流入し、他端部に向かって流入することにより、この温かい空気が上記外気取入れ口24を通り無意図的に車室5側に流入する、ということは防止される。
【0052】
また、上記カウルインナ16の前面板19の上下方向の中途部に屈曲部56を形成し、この屈曲部56を跨ぐよう上記カウルインナ16の前、後部に上記ワイパーブラケット32を両端支持させ、車体2の前後方向で、上記屈曲部56の近傍における上記ワイパーブラケット32の中途部に剛性断点58を形成している。
【0053】
ここで、車両1の走行時には、一般に、走行面側から車輪を介し車体2の骨格部材10に衝撃力が与えられ、これに連動して上記カウルインナ16が振動しがちとなる。この場合、前記したようにカウルインナ16の断面はU字形状をなしていて、その前面板19はその底面板21から上方に突出した片持ち支持構造である。このため、特に、この前面板19の自由端部である上部が大きく振動するおそれがある(図3中、一点鎖線)。
【0054】
そして、上記したようにカウルインナ16の前面板19が振動したとすると、この前面板19の振動に連動して上記ワイパーブラケット32も振動しがちとなる。しかし、上記したようにカウルインナ16の前面板19の中途部には屈曲部56が形成され、かつ、この屈曲部56を跨ぐように上記カウルインナ16に両端支持されたワイパーブラケット32の中途部には剛性断点58が形成されている。
【0055】
このため、上記骨格部材10からの振動は、上記屈曲部56よりも上方の前面板19の上部と、上記剛性断点58よりも前方の上記ワイパーブラケット32の前部とに伝達されてこれら19,32を主に振動させる一方、上記前面板19の下部側と上記ワイパーブラケット32の後部側とへの振動の伝達は、上記屈曲部56と剛性断点58とによって抑制される。
【0056】
よって、上記カウルインナ16とワイパーブラケット32とが共に全体的に振動することは抑制されることから、この振動に連動して上記カウルインナ16の底部に結合されているダッシュパネル14が振動することも抑制される。この結果、このダッシュパネル14の振動に基づくロードノイズの車室5における発生が抑制される。
【0057】
また、車両1の前進走行中、この車両1がその前方の何らかの物体に衝突(前突)したとき、この物体が跳ね上げられて上記カウルインナ16に対しその上方から衝突することがある。
【0058】
上記の場合、上記ウィンドガラス26の下端縁部の前方に位置している上記カウルインナ16の前面板19は、車体2の幅方向での各部断面で見て、底面板21から前上方の傾斜方向に突出する片持ち支持構造とされている。しかも、上記したように前面板19の中途部には屈曲部56が形成され、かつ、この屈曲部56を跨ぐように上記カウルインナ16に両端支持されたワイパーブラケット32の中途部には剛性断点58が形成されていて、上記屈曲部56や剛性断点58は応力集中が生じ易い脆弱部となっている。
【0059】
このため、上記したように、前突により跳ね上げられた物体が上記カウルインナ16の前面板19に対しその上方から衝突したときには、特に、上記屈曲部56や剛性断点58を境として上記前面板19の前上部側が容易に屈曲するよう塑性変形する。よって、このカウルインナ16への上記物体の衝突時の衝撃力は効果的に緩和される。
【0060】
なお、以上は図示の例によるが、上記剛性断点58は、上記ワイパーブラケット32における開口52の位置や形状を工夫することにより形成してもよい。また、上記カウルインナ16の底面板21の上面と、上記ワイパーブラケット32の各側面板47の下端縁部との間にわずかの隙間を形成して、雨水などの水の排水性を確保するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 車両
2 車体
5 車室
10 骨格部材
13 フロントカウル
14 ダッシュパネル
16 カウルインナ
17 カウルアウタ
19 前面板
20 後面板
21 底面板
26 ウィンドガラス
31 ワイパー装置
32 ワイパーブラケット
46 ブラケット本体
47 側面板
48 上面板
48a 膨出部
49 前外向きフランジ
50 後外向きフランジ
51 側部外向きフランジ
52 開口
56 屈曲部
58 剛性断点
59 切り欠き
A 回動

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の幅方向に延びて車体の骨格部材に両端支持され、その長手方向における各部断面が上方に向かって開放されたU字形状をなすカウルインナと、車体の幅方向かつ上下方向に延び、その上端縁部が上記カウルインナの底部に結合されて、車室の下部前面を形成するダッシュパネルと、上記車室の上部前面を形成し、その下端縁部が上記カウルインナの後面板側に支持されるフロントウィンドガラスと、上記カウルインナの長手方向の中途部に取り付けられ、上記ウィンドガラス用のワイパー装置を支持するワイパーブラケットとを備えた車両における車体前部構造において、
車体の前後方向における上記ワイパーブラケットの各部断面を倒立U字形状にすると共に、このワイパーブラケットの前、後、下端縁部を上記カウルインナの内面に沿うよう形成し、
上記カウルインナの前面板の上下方向の中途部に屈曲部を形成し、この屈曲部を跨ぐよう上記カウルインナの前、後部に上記ワイパーブラケットを両端支持させ、車体の前後方向で、上記屈曲部の近傍における上記ワイパーブラケットの中途部に剛性断点を形成したことを特徴とする車両における車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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