説明

車両のアクセル開度検出装置

【課題】部品点数が少なく構造が簡単で,しかも高度の製作精度を必要としないインダクタンス検出式の車両のアクセル開度検出装置を提供する。
【解決手段】センサケース5に互いに離間して支持される第1及び第2支軸20,21と,第1支軸20に巻回される検出コイル部22a及びこの検出コイル部22aから引出されて第2支軸21に支持されるコイル引出し部22bを有するコイル22と,ロータ6に支持されてコイル引出し部22bに係合して,アクセルグリップGの開閉操作に伴なうロータ6の回転角度変化に応じコイル引出し部22bの長さを変化させて検出コイル部22aの巻き数を変化させるコイル引出し制御部材24と,検出コイル部22aのインダクタンスを検出してロータ6の回転角度に対応する信号を出力するインダクタンス検出回路28とでアクセル開度センサ23を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,棒状の操向ハンドルに固定されるセンサケースと,前記操向ハンドルに回動可能に付設されるアクセルグリップに連結されて前記センサケースに隣接配置されるロータと,前記センサケース内に収容保持されて前記ロータの初期位置から回動角度を検出するアクセル開度センサとを備える,車両のアクセル開度検出装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝる車両のアクセル開度検出装置において,センサケースに収容されて操向ハンドルと同心状に保持される検出コイルと,この検出コイルを取り囲むようにしてロータに支持され,検出コイルに対して検出コイルの巻き軸方向に変位するようロータに支持される導電性筒体と,この筒体の角変位に応じて変化する検出コイルのインダクタンスに基づいてアクセルグリップの開度に対応する信号を出力するインダクタンス検出回路とでアクセル開度センサをインダクタンス検出式に構成したものが下記特許文献1に開示されるように既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−249653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かゝる車両のアクセル開度検出装置では,検出コイルと,それを取り囲む導電性筒体との非接触状態で,アクセル開度信号を出力することができ,耐久性を高める上に有効である。
【0005】
しかしながら,アクセルグリップの開度変化に応じて検出コイルのインダクタンスに変化を生じさせるために,検出コイルを取り囲みながらロータと一体的に回転する導電性筒体は不可欠であり,部品点数が多く構造が複雑である上,高精度の製作が要求され,これらがコストの低減を困難にしている。
【0006】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,部品点数が少なく構造が簡単で,しかも高度の製作精度を必要としないインダクタンス検出式の車両のアクセル開度検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために,本発明は,棒状の操向ハンドルに固定されるセンサケースと,前記操向ハンドルに回動可能に付設されるアクセルグリップに連結されて前記センサケースに隣接配置されるロータと,前記センサケース内に収容保持されて前記ロータの初期位置から回動角度を検出するアクセル開度センサとを備える,車両のアクセル開度検出装置において,前記センサケースに互いに離間して支持される第1及び第2支軸と,前記第1支軸に巻回される検出コイル部及びこの検出コイル部から引出されて前記第2支軸に支持されるコイル引出し部を有するコイルと,前記ロータに支持されて前記コイル引出し部に係合し,前記アクセルグリップの開閉操作に伴なう前記ロータの回転角度変化に応じ前記コイル引出し部の長さを変化させて前記検出コイル部の巻き数を変化させるコイル引出し制御部材と,前記検出コイル部のインダクタンスを検出して前記ロータの回転角度に対応する信号を出力するインダクタンス検出回路とで前記アクセル開度センサを構成したことを第1の特徴とする。
【0008】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記コイルを,自己縮径力を有するゼンマイばねで構成したことを第2の特徴とする。
【0009】
さらに本発明は,第1又は第2の特徴に加えて,前記コイル引出し制御部材を前記ロータに固設して,該コイル引出し制御部材と前記引出し部との間に滑り摩擦が生じるようにしたことを第3の特徴とする。
【0010】
さらにまた本発明は,第1〜第3の特徴の何れかに加えて,二組の前記アクセル開度センサを,前記操向ハンドルを中心として点対称に配設したことを第4の特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の特徴によれば,アクセルグリップの開閉操作に伴なうロータの回転角度変化に応じコイル引出し部の長さを変化させて検出コイル部の巻き数を変化させ,これに伴ない変化する検出コイル部のインダクタンスを,アクセルグリップの開度として検出するようにしたので,検出コイルに進退可能に対置させる導電性筒体を設ける必要はなく,したがって部品点数が少なく構造が簡単である上,高度の製作精度も必要とせず,アクセル開度検出装置を安価に提供することができる。
【0012】
本発明の第2の特徴によれば,コイルは,自己縮径力を有するゼンマイばねで構成されるので,アクセルグリップの戻しばねとして機能することになり,専用の戻しばねを設ける必要もなく,アクセル開度検出装置のコスト低減に一層寄与することができる。
【0013】
本発明の第3の特徴によれば,アクセルグリップの開閉操作に際して,コイル引出し制御部材とコイル引出し部との間には滑り摩擦による抵抗が発生し,これよりアクセルグリップGの開き操作時と閉じ操作時との操作荷重に差をもたらすヒステリシス特性が得られ,アクセルグリップの操作フィーリングを常に良好にすることができる。したがって,特別にヒステリシス手段を設ける必要がなく,アクセル開度検出装置の構造の更なる簡素化を図ることができる。
【0014】
本発明の第4の特徴によれば,同一構成の二組のアクセル開度センサをもってアクセル開度検出装置の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るアクセル開度検出装置の縦断面図(図2の1−1線断面図)。
【図2】アクセルグリップの全閉時における図1の2−2線断面図
【図3】アクセルグリップの全開時における図2との対応図。
【図4】図1の4−4線に沿うコイル引出し部の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態を,添付図面に基づいて以下に説明する。
【0017】
先ず,図1において,自動二輪車の棒状の操向ハンドルHの右端部にアクセルグリップGと,このアクセルグリップGの内端に隣接するスイッチケース1とが取り付けられる。このスイッチケース1には,図示しないがスタータスイッチ,エンジンキルスイッチ等,各種スイッチが取り付けられる。アクセルグリップGは,操向ハンドルHに回動可能に嵌合されるグリップパイプ2と,このグリップパイプ2の外周に被着されるグリップラバー3とで構成され,操向ハンドルHの外端には,グリップパイプ2の操向ハンドルHからの抜け出しを阻止する栓体4が圧入される。
【0018】
図1〜図3において,スイッチケース1は,操向ハンドルHの直径方向に分割された上部ケース半体1a及び下部ケース半体1bとよりなっており,その両ケース半体1a,1bは,ボルト8,8で相互に結合して操向ハンドルHを挟持することで操向ハンドルHに固定される。このスイッチケース1内には,アクセルグリップGを,その全閉位置から全開位置に向かって回転するとき,その回転角度,即ちアクセル開度を検出するアクセル開度検出装置Dが配設される。
【0019】
アクセル開度検出装置Dは,センサケース5と,グリップパイプ2に連結されてセンサケース5に回転可能に支持されるロータ6と,このロータ6の回転を可能にしながらセンサケース5及びロータ6間を連結するケースカバー7とを備える。これらセンサケース5,ロータ6及びケースカバー7は何れも合成樹脂製である。
【0020】
センサケース5は,操向ハンドルHの外周面に内周面を嵌合する円筒状のハブ5aと,このハブ5aを同心状に囲繞する円筒状のケース筒5bと,これらハブ5a及びケース筒5bの一端部間を一体に連結する側壁5cとを一体成形してなるもので,側壁5cの外側面には位置決め突起10が一体に突設され,この位置決め突起10が,前記スイッチケース1に設けられる位置決め孔11に嵌合することで,センサケース5の操向ハンドルH上での回転が阻止される。
【0021】
図2に示すように,ハブ5aと,これを囲繞するケース筒5bとは,一直径線に沿って配置される一対の隔壁5d,5dにより一体的に連結され,これら隔壁5d,5dによりケース筒5b内に互いに対称形の円弧状の一対のセンサ室9,9に区画され,これらセンサ室9,9に,二組のアクセル開度センサ23,23が操向ハンドルHを中心として点対称に配設される。各アクセル開度センサ23の構成については後述する。
【0022】
ロータ6は,操向ハンドルH及び前記ハブ5aの外周面に回転可能に嵌合する段付きの内周面を持ったハブ6aと,このハブ6aから半径方向に広がるフランジ6bとを一体成形してなるもので,フランジ6bは,前記ケース筒5bの開口端部に形成される環状凹部16に回転可能に係合してケース筒5bの開口端を閉鎖する。ハブ6aの外周には,前記グリップパイプ2の内端部がスプライン17を介して遊嵌される。したがって,アクセルグリップGの回転を適度な遊びをもってロータ6に伝達することができる。
【0023】
ケースカバーは,前記フランジ6bの外側面に当接する押え壁7aと,この押え壁7aの外周端から円筒状に延びてセンサケース5の外周面に嵌合する外筒7bとを一体成形してなるもので,その外筒7bは,先端部に半径方向内向きに突出して周方向に並ぶ複数の係止爪18を有しており,これら係止爪18が,前記センサケース5の外周に形成された複数の係止凹部19にスナップ係合することにより,ケースカバー7はセンサケース5に固定される。その際,ケースカバー7の押え壁7aは,ロータ6のフランジ6bの回転を阻害しない。
【0024】
さて,センサケース5の各センサ室9に配設されるアクセル開度センサ23について,図1〜図3により説明する。
【0025】
両センサ室9,9に互いに点対称に配設されるアクセル開度センサ23,23は同一構成であるので,一方のアクセル開度センサ23の構成についてのみ説明する。尚,図中,両アクセル開度センサ23,23の互いに対応する部分には同一の参照符号を付す。
【0026】
センサケース5の側壁5cには,一方の隔壁5dに近接した箇所でセンサ室9に向かって突出し互いに一定距離離間して配置される第1及び第2支軸20,21が取り付けられる。また第2支軸21に近接する円柱状のコイル引出し部ガイド25がセンサケース5の側壁5cに形成される。
【0027】
一方,ロータ6のフランジ6bには,センサ室9に向かって突出する円柱状のコイル引出し制御部材24が形成され,このコイル引出し制御部材24が前記コイル引出し部ガイド25に当接する位置(図2参照)から他方の隔壁5dに当接位置(図3参照)までのロータ6の回転角度が,アクセルグリップGの全閉位置から全開位置までの開閉領域となる。
【0028】
第1支軸20の外周には,ゼンマイばねよりなるコイル22が装着される。このコイル22,即ちゼンマイばねは,それ自体の弾性力で第1支軸20に巻き込む自己縮径力を有しており,その外周からコイル引出し部22bが引出され,そのコイル引出し部22bは,コイル引出し制御部材24の外周をそれに接しながら迂回し,コイル引出し部ガイド25の一側面を経て先端部が第2支軸21に固定接続される。而して,コイル22の,第1支軸20に巻回状態に置かれる部分が検出コイル部22aとなる。
【0029】
第1及び第2支軸20,21は導電体で構成され,第1支軸20には検出コイル部22aの内端部22a1が電気的に接続され,第2支軸21にはコイル引出し部22bの先端部22b1が電気的に接続され,コイル22の上記内端部22a1及び先端部22b1以外の部分では,外周面に絶縁被覆27(図4参照)が施されている。
【0030】
第1及び第2支軸20,21には,検出コイル部22aのインダクタンスを検出して,ロータ6の回転角度を示す検出信号を出力するインダクタンス検出回路28が接続される。
【0031】
次に,この第1実施形態の作用について説明する。
【0032】
アクセルグリップGを全閉位置(図2)から全開位置(図3)に向かって回転すると,そのアクセルグリップGと共にロータ6もコイル引出し制御部材24を伴なって回転するので,コイル引出し制御部材24は,コイル引出し部ガイド25との当接位置(図2参照)から,それと反対側の隔壁5dとの当接位置(図3参照)へ向かって回転しながら,検出コイル部22aからコイル引出し部22bを更に引き出していく。したがってコイル引出し部22bの長さが増加するので,検出コイル部22aの第1支軸20に対する巻き数は減少し,これに伴ない検出コイル部22aのインダクタンスが変化する。
【0033】
而して,ロータ6の回転角度変化に応じて変化する検出コイル部22aのインダクタンスはインダクタンス検出回路28により検出され,アクセルグリップGの開度を示す信号に変換されて,図示しない車両の電子制御ユニットに出力される。その信号を受けた電子制御ユニットは,エンジンの電動式スロットル弁や燃料噴射弁,点火装置等の作動を制御する。
【0034】
このように,アクセル開度センサ23では,アクセルグリップGの開閉操作に伴なうロータ6の回転角度変化に応じコイル引出し部22bの長さを変化させて検出コイル部22aの巻き数を変化させ,これに伴ない変化する検出コイル部22aのインダクタンスを,アクセルグリップGの開度として検出するようにしたので,従来のものゝように,検出コイルのインダクタンスを変化させるために,検出コイルに進退可能に対置させる導電性筒体を設けることは必要がなく,したがって部品点数が少なく構造が簡単である上,高度の製作精度も必要とせず,アクセル開度検出装置Dを安価に提供することができる。
【0035】
しかもコイル22は,自己縮径力を有するゼンマイばねで構成されるので,アクセルグリップGの戻しばねとして機能することになり,専用の戻しばねを設ける必要もなく,アクセル開度検出装置Dのコスト低減に一層寄与することができる。
【0036】
またアクセルグリップGの開閉操作に際して,コイル引出し制御部材24とコイル引出し部22bとの間には滑り摩擦による抵抗が発生し,これよりアクセルグリップGの開き操作時と閉じ操作時との操作荷重に差をもたらすヒステリシス特性が得られ,アクセルグリップGの操作フィーリングを常に良好にすることができる。したがって,特別にヒステリシス手段を設ける必要がなく,アクセル開度検出装置Dの構造の更なる簡素化を図ることができる。
【0037】
さらにセンサケース5に形成される一対のセンサ室9,9には,二組のアクセル開度センサ23,23が,操向ハンドルHを中心として点対称に配設されるので,同一構成の二組のアクセル開度センサ23,23をもってアクセル開度検出装置Dの信頼性を高めることができる。即ち,万一,一方のアクセル開度センサ23が失陥しても,他方の正常なアクセル開度センサ23によりアクセルグリップGの開度の検出を続行させることができる。
【0038】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,本発明は,自動二輪車以外の車両にも,棒状の操向ハンドルを備えるものであれば,適用可能であり,勿論,電動車両にも適用可能である。
【符号の説明】
【0039】
D・・・・・アクセル開度検出装置
H・・・・・操向ハンドル
1・・・・・スイッチケース
5・・・・・センサケース
6・・・・・ロータ
7・・・・・ケースカバー
20・・・・第1支軸
21・・・・第2支軸
22・・・・コイル
22a・・・検出コイル部
22b・・・コイル引出し部
23・・・・アクセル開度センサ
24・・・・コイル引出し制御部材
28・・・・インダクタンス検出回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の操向ハンドル(H)に固定されるセンサケース(5)と,前記操向ハンドル(H)に回動可能に付設されるアクセルグリップ(G)に連結されて前記センサケース(5)に隣接配置されるロータ(6)と,前記センサケース(5)内に収容保持されて前記ロータ(6)の初期位置から回動角度を検出するアクセル開度センサ(23)とを備える,車両のアクセル開度検出装置であって,
前記センサケース(5)に互いに離間して支持される第1及び第2支軸(20,21)と,前記第1支軸(20)に巻回される検出コイル部(22a)及びこの検出コイル部(22a)から引出されて前記第2支軸(21)に支持されるコイル引出し部(22b)を有するコイル(22)と,前記ロータ(6)に支持されて前記コイル引出し部(22b)に係合し,前記アクセルグリップ(G)の開閉操作に伴なう前記ロータ(6)の回転角度変化に応じ前記コイル引出し部(22b)の長さを変化させて前記検出コイル部(22a)の巻き数を変化させるコイル引出し制御部材(24)と,前記検出コイル部(22a)のインダクタンスを検出して前記ロータ(6)の回転角度に対応する信号を出力するインダクタンス検出回路(28)とで前記アクセル開度センサ(23)を構成したことを特徴とする,車両のアクセル開度検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の操向ハンドルにおける,車両のアクセル開度検出装置において,
前記検出コイル(22)を,自己縮径力を有するゼンマイばねで構成したことを特徴とする,車両のアクセル開度検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車両のアクセル開度検出装置において,
前記コイル引出し制御部材(24)を前記ロータ(6)に固設して,該コイル引出し制御部材(24)と前記コイル引出し部(22b)との間に滑り摩擦が生じるようにしたことを特徴とする,車両のアクセル開度検出装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の車両のアクセル開度検出装置において,
二組の前記アクセル開度センサ(23)を,前記操向ハンドル(H)を中心として点対称に配設したことを特徴とする,車両のアクセル開度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−202975(P2012−202975A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71113(P2011−71113)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【Fターム(参考)】