説明

車両のアンダフロア構造

【課題】この発明は、トンネル部の前部で発生する渦を抑制することで、空力性能とトンネル部内の冷却性能とを効率よく向上させることができる車両のアンダフロア構造を提供することを目的とする。
【解決手段】エンジンルームEの後方において車幅方向中央部を車両前後方向に延びる排気系5に沿って車両前後方向に延設されたトンネル部4と、左右のサスペンションを連結するサスペンションクロスメンバ19とを有する車両のアンダフロア構造であって、サスペンションクロスメンバ19の後部に、トンネル部4の前部を覆うトンネルアンダカバー20を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンルーム後方において車幅方向中央部を車両前後方向に延びる排気系に沿って車両前後方向に延設されたトンネル部を有する車両のアンダフロア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、車両のアンダフロア部では、車両走行時に、エンジンルームから車両後方へ移動した空気がトンネル部(フロアトンネル)内に入り込む現象が起きる。この空気は、通常、車両走行時にアンダフロア部の下方を流れる走行風よりも流速が遅く、それ故以下に述べるような問題を引き起こしている。
【0003】
具体的には、エンジンルームの空気がトンネル部内に入り込むと、この空気が上記走行風とぶつかり合った時、上記空気と上記走行風との流速差により、トンネル部の前部に空気の渦が発生する。このようにして発生した渦は、空力性能(CD値)の悪化を招き、結果として車両の走行性能を悪化させる要因となっていた。
【0004】
そこで、車両の走行性能を改善するため、トンネル部の全体を覆い、上記エンジンルームの空気と上記走行風とが干渉しないようにすることが考えられる。しかしながら、この場合、特に車両停車時にエンジンルーム内の熱がトンネル部内にこもることになるため、好ましくない。
【0005】
ところで、従来、トンネル部の下部を開閉可能とするアンダカバーを設けたものが提案されている(下記特許文献1参照)。下記特許文献1では、トンネル部内の温度が所定の高温である場合には、上記アンダカバーを開いてトンネル部内を冷却する一方、車速が所定の車速以上になると、上記アンダカバーを閉じて空力性能を向上させるように構成されている。
【0006】
また、従来、トンネル部の下部に、放熱孔としてのスリットを複数形成したアンダカバーと、上記スリットを開閉するためのスライドカバーとを備えたものが提案されている(下記特許文献2参照)。下記特許文献2では、車両の空気抵抗を下げて空力性能を向上させたい場合には、スリットの実効開口面積を小さくする一方、排気管近傍(トンネル部内)の温度上昇を防止する場合には、スリットの実効開口面積を大きくしてトンネル部内を冷却するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−143175号公報
【特許文献2】特開平7−215074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1、2に開示された従来技術では、いずれもトンネル部の前部で発生する渦を抑制することについて何ら開示されていない。
【0009】
そして、上記特許文献1、2に開示された従来技術では、いずれもトンネル部の下部を車両前後方向の略全体に亘って覆うとともに、このアンダカバーを車両前後方向の略全体に亘って開閉する構成となっている。
【0010】
このため、空力性能を向上させようとしてアンダカバーを閉鎖すると、トンネル部内に熱がこもり、上述した各従来技術では、空力性能向上とトンネル部内の冷却性能向上とを両立させることはできなかった。
【0011】
また、上記特許文献1、2に開示された従来技術では、いずれもアンダカバーが車両前後方向の略全体に亘って開閉することから、大きな駆動力を有する駆動源が必要となるばかりでなく、アンダフロア部の重量も重くなり、コストや車両重量の観点で言えば、必ずしも効率的とは言い難いものであった。
【0012】
この発明は、トンネル部の前部で発生する渦を抑制することで、空力性能とトンネル部内の冷却性能とを効率よく向上させることができる車両のアンダフロア構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の車両のアンダフロア構造は、エンジンルーム後方において車幅方向中央部を車両前後方向に延びる排気系に沿って車両前後方向に延設されたトンネル部と、左右のサスペンションを連結するサスペンションクロスメンバとを有する車両のアンダフロア構造であって、上記サスペンションクロスメンバの後部に、上記トンネル部の前部を覆うアンダカバーを設けたものである。
【0014】
この構成によれば、アンダカバーにより、エンジンルームの空気が、サスペンションクロスメンバの後部とトンネル部の前部との間を通って下方の外側へと流れることを抑制でき、上記空気と車両前方からの走行風とが干渉することを抑制できる。これにより、流速が速い走行風と、流速が遅いエンジンルームの空気とが干渉することに起因して、トンネル部の前部で渦が発生することを防止できる。従って、車両のアンダフロア部の下方における空気の乱れを抑制でき、車両の空力性能の向上を図ることができる。
【0015】
そして、特に、上記渦が発生し易いトンネル部の前部にアンダカバーを設けたことにより、トンネル部の下部を全体に亘って覆わなくても、車両のアンダフロア部の下方における空気の乱れを効果的に抑制できる。
ここで、アンダカバーをトンネル部の前部のみに配設することで、トンネル部の後部を常時開放状態とすることができる。これにより、効率良くトンネル前部を覆いつつ、トンネル部内の冷却性能を向上させることができる。
【0016】
従って、アンダカバーにより、空力性能向上とトンネル部内の冷却性能向上とを両立させることができる。さらに、トンネル部の下部を全体に亘って開閉する必要もないことから、空力性能とトンネル部内の冷却性能とを効率良く向上させることができる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、上記アンダカバーに、車体の下方と上記エンジンルームとの間での空気の移動を可能とする開口部を設けたものである。
【0018】
この構成によれば、車両停車時、開口部を経由して、車外の空気をエンジンルーム内及びトンネル部内に導入することができ、車両停車時におけるエンジンルーム及びトンネル部の冷却性能を向上させることができる。
【0019】
この発明の一実施態様においては、上記開口部を、車幅方向に向かって延びるように形成されたスリットとしたものである。
【0020】
車両走行時の走行風は、一般的に車両前後方向に流れることから、スリットを上記走行風に沿って車両前後方向に延びるように形成した場合には、上記走行風がエンジンルーム内やトンネル部内に流れ込み易くなって、空力性能に悪影響を及ぼす虞があるが、スリットを車幅方向に延びるように形成することで、走行風がエンジンルーム内やトンネル部内へ流れ込むことを抑制でき、これによって空力性能を確保することができる。
【0021】
この発明の一実施態様においては、上記開口部の前縁部が、上方に向かって延出した形状となっているものである。
【0022】
この構成によれば、開口部の前縁部が上方に向かって延出した形状をなしていることにより、エンジンルームからトンネル部内へ流れ込もうとする空気が、上方に向かって延出した開口部の前縁部によってトンネル部内へ流れ込むことが抑制される。
【0023】
この発明の一実施態様においては、上記開口部が、上記アンダカバーのうち、上記エンジンルームの後部と対応する位置に設けられているものである。
【0024】
この構成によれば、車両停車時において、車外の空気をエンジンルーム内に容易に導入することができる。
【0025】
この発明の一実施態様においては、上記開口部の開口面積を、上記アンダカバー全体の面積の30%前後に設定したものである。
【0026】
この構成によれば、空力性能と冷却性能とをより確実に両立させることができる。
【0027】
この発明の一実施態様においては、上記アンダカバーの後部に、略平板形状のトンネル補強部材を連結したものである。
【0028】
この構成によれば、アンダカバーとトンネル補強部材との協働により、空力性能のさらなる向上を図ることができる。そして、トンネル補強部材により、車両走行時のフロアパネルの振動や車両衝突等に伴うトンネル部の変形を抑制することもできる。
【発明の効果】
【0029】
この発明によれば、エンジンルームの空気が、サスペンションクロスメンバの後部とトンネル部の前部との間を通ってトンネル部の下方の外側へと流れることを抑制でき、流速が速い走行風と、流速が遅いエンジンルームの空気とが干渉することに起因して、トンネル部の前部で渦が発生することを防止できる。従って、車両のアンダフロア部の下方における空気の乱れを抑制でき、車両の空力性能の向上を図ることができる。
【0030】
そして、特に、上記渦が発生し易いトンネル部の前部にアンダカバーを設けたことにより、トンネル部の下部を全体に亘って覆わなくても、車両のアンダフロア部の下方における空気の乱れを効果的に抑制できる。そして、効率良くトンネル前部を覆いつつトンネル部内の冷却性能を向上させることができる。
【0031】
従って、アンダカバーにより、空力性能向上とトンネル部内の冷却性能向上とを両立させることができる。さらに、トンネル部の下部を全体に亘って開閉する必要もないことから、空力性能とトンネル部内の冷却性能とを効率良く向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の実施形態に係るアンダフロア構造を備える車両を示す底面図。
【図2】図1のA−A線矢視断面図。
【図3】図1の要部を示す底面図。
【図4】図3のB−B線矢視断面図。
【図5】車両走行時における走行風及びエンジンルームの空気の流れを説明するための説明図。
【図6】車両停車時における外気の流れを説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
図1は、本発明の実施形態に係るアンダフロア構造を備える車両Vを示す底面図であり、図2は、図1のA−A線矢視断面図、図3は、図1の要部を示す底面図である。本実施形態に係る車両Vは、図1〜図3に示すようにその前部においてダッシュパネル1を備えている。このダッシュパネル1は、車室2(図2参照)の底面を形成するフロアパネル3から立ち上がるように配設され、図2に示すようにエンジンルームEと車室2とを仕切っている。なお、図中において矢印(F)は車体前方、矢印(R)は車体後方を示す。
【0034】
また、車両Vの下部において、ダッシュパネル1及びフロアパネル3の車幅方向中央には、前端部がダッシュパネル1に接続されると共に、フロアパネル3から車体内方側の車室2に向かって凸設されたトンネル部(フロアトンネル)4を備えている。
【0035】
トンネル部4は、図1、図2に示すように、エンジンルームEの後方において車幅方向中央部を前後方向に延びるように配設された排気系5に沿って車両前後方向に延びている。
【0036】
排気系5は、図1、図2に示すように、主にエンジンの排気側を構成する排気マニホールド(不図示)に接続された排気管6と、2つの触媒コンバータ7、8と、プリサイレンサ9等により構成され、排気系5は、トンネル部4の凹部空間内(以下、トンネル部4内と言う。)に収納されている。
【0037】
このうち、車両前側の触媒コンバータ7の後方では、図1に示すように排気管6に取付ブラケット10が取付けられており、この取付ブラケット10を介してラバー製のハンガーラバー11が取付けられている。さらに、車両後側の触媒コンバータ8とプリサイレンサ9との間の排気管6には、車幅方向に延びる棒状の接続部材12が取付けられており、この取付ブラケット12を介して図1に示すような左右一対のラバー製のハンガーラバー13、13が取付けられている。排気系5は、上述した各ハンガーラバー11、13、13を介してトンネル部4に取付けられ、弾性的に支持されている。
【0038】
また、図示は省略するが、トンネル部4内には、排気系5やハンガーラバー11、13の他に、例えば、パーキングブレーキと車輪用のブレーキ装置とを接続するケーブルや、該ケーブルを被覆するチューブ、さらには、ラバー製の外皮を有して車両Vの各種電装機器同士を電気的に接続するハーネス等が配索される。また、車種によっては、FR車のように、エンジンルームE内に配設されるパワートレインとチェンジレバーとを接続するためのチェンジケーブルや、これを覆うラバー製のチューブがトンネル内に配索される。
【0039】
また、フロアパネル3には、車両前後方向に延びる左右一対のフロアフレーム14、14が配設され、その前端部が、エンジンルームEにおいて車両前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム15、15の後端部に接続されている。
【0040】
また、上述したフロアパネル3やフロアフレーム14、14は、板状をなすフロアアンダカバー16によって下方が覆われている。ここで、フロアアンダカバー16は、車幅方向の略中央部で左右に分割されており、これによって、トンネル部4の下方は開放された状態となっている。本実施形態では、主に、車室2のフロアパネル3と、トンネル部4と、フロアパネル3の下方を覆うフロアアンダカバー16とによりアンダフロア部を構成している。
【0041】
また、ダッシュパネル1の後端部とフロアパネル3の前端部との接続部Xには、トンネル部4とフロアフレーム14との間にレインフォースメント17が配設されている。また、接続部Xには、フロアフレーム14の車幅方向外側にトルクボックス18が配設されている。
【0042】
また、車両Vの下部では、その前側において、エンジンルームEと対応する位置に、前輪用の左右のサスペンション(不図示)を連結するためのサスペンションクロスメンバ(以下、サスクロス)19が配設されている。このサスクロス19は、主に車両前後方向に延びる左右一対の縦メンバ19A、19Aと、車幅方向に延びて縦メンバ19A、19A同士を接続する横メンバ19Bとを有している。
【0043】
このようにサスクロス19を構成する各メンバ19A、19Bは、いずれも、図2に示す横メンバ19Bのように、上下のパネル19a、19bを接合することによって閉断面19Cが形成された管状のフレーム部材とされている。
【0044】
また、接続部Xと車両前後方向において対応する位置では、サスクロス19の後部に、トンネル部4の前部を下方から覆うトンネルアンダカバー20が配設されている。
【0045】
図4は、図3のB−B線矢視断面図である。トンネルアンダカバー20は、図1〜図4に示すように略平板状をなしており、その周縁部が周囲の各種部材に締結されている。例えば、トンネルアンダカバー20の前端部は、ボルト、ナット等の締結部材30により、サスクロス19を構成する横メンバ19Bの下面部(下パネル19b)に締結されている。また、トンネルアンダカバー20の左右両端部では、その前部が、締結部材31により、サスクロス19を構成する縦メンバ19Aの下面部に締結される一方、後部が、締結部材32により、フロアアンダカバー16の前端部内側に締結されている。さらに、トンネルアンダカバー20の後端部は、締結部材33により、後述するプレート部材40の前端部下面に締結されている。
【0046】
また、トンネルアンダカバー20の面上には、エンジンルームEと車体下方とを連通させるスリット21、21、…が車幅方向に延びるように複数形成されている。これら複数のスリット21は、車両前後方向に整列するように配置され、トンネル部4の前部を覆うトンネルアンダカバー20のうち、エンジンルームEの後部と対応する位置に配置されている。
【0047】
そして、各スリット21は、その前縁部において、図3、図4に示すように上方に向かって延出する延出部21aを有している。
【0048】
また、トンネルアンダカバー20には、図1、図3に示すように、ハンガーラバー11の位置に対応して、これとの干渉を回避すべく一部を切欠いた切欠き部22が形成されている。トンネルアンダカバー20では、上述した複数のスリット21、21、…と、切欠き部22とにより、エンジンルームEと車体の下方とを連通する開口部を形成している。そして、本実施形態では、トンネルアンダカバー20における開口部の開口面積、つまりはトンネルアンダカバー20において各スリット21及び切欠き部22が占める面積は、トンネルアンダカバー20全体の約30%前後に設定されている。
【0049】
また、トンネルアンダカバー20の面上には、図1、図3、図4に示すように上方に向かって凸設されたビード23、23、…が複数形成されている。このビード23、23、…は、いずれもトンネルアンダカバー20の面上において車両前後方向に延びている。
【0050】
また、本実施形態では、トンネルアンダカバー20の後部に、トンネル部4の前部を塞ぐように平板状のプレート部材40が配設されており、トンネルアンダカバー20とプレート部材40との締結により、両者は、特に図2に示すように略連続した平面を形成している。
【0051】
さらに、プレート部材40は、車幅方向両端部がトンネル部4の左右の下面部に接合されており、これによって、トンネル部4の前部の下部同士を略直線状に接続している。
【0052】
また、プレート部材40には、その略中心部及び後部の左右両側に孔部41、42、42が形成されており、各孔部41、42、42によって部品の軽量化が図られている。このうち、特に孔部42、42について見てみると、孔部42、42は、ハンガーラバー13、13の位置に対応して形成されており、これにより、該ハンガーラバー13、13とプレート部材40との干渉を回避している。
【0053】
また、プレート部材40には、上方に凸設されたビード43、44、45が形成されており、これら各ビード43〜45によってプレート部材40の剛性が確保されている。そのうち、ビード43、43、…は、孔部41で交差するように斜めに延びる一方、ビード44、45は、孔部42の車両前方、プレート部材40の後端部でそれぞれ車幅方向に延びている。
【0054】
ところで、車両Vの走行時、走行風は、フロアアンダカバー16やトンネルアンダカバー20の下方を車両前方から後方に向かって略真っ直ぐ流れる。この時、特にトンネル部4の下方では、サスクロス19の下方から流れる走行風が、トンネルアンダカバー20やプレート部材40のガイドによって、図2中実線の矢印αで示すように車体の下方を後方に向かって略真っ直ぐ流れるようになっている。
【0055】
その一方で、エンジンにより熱せられた空気は、図2中破線の矢印βで示すように、エンジンルームEからトンネル部4内に流れ込み、さらには、サスクロス19の後部からトンネル部4の前部にかけて、その下方の外側に流れようとする。ところが、本実施形態では、上記空気がトンネルアンダカバー20やプレート部材40によってガイドされることで、下方への移動が阻止される。
【0056】
特に、トンネルアンダカバー20のスリット21では、エンジンルームEと車体の下方とが連通しているものの、その前縁部においてその延出部21aが上方に延出した形状をなしていることにより、上記空気が図5中二点鎖線の矢印β′で示すように下方へ移動することが阻止される。
【0057】
この結果、フロアアンダカバー16、トンネルアンダカバー20、プレート部材40の下方を流れる走行風と、エンジンルームEからトンネル部4に流れ込む空気とは、図2に示すように上下方向において互いにぶつかり合うことなく、略平行に後方へと流れることになる。
【0058】
このように、本実施形態では、サスクロス19の後部に、トンネル部4の前部を覆うトンネルアンダカバー20を設けることにより、エンジンルームEの空気が、サスクロス19の後部とトンネル部4の前部との間を通って下方の外側へと流れることを抑制でき、上記空気と車両前方からの走行風とが干渉することを抑制できるようになっている。これにより、流速が速い走行風と、流速が遅いエンジンルームEの空気とが干渉することに起因して、図2中二点鎖線の矢印γで示すような渦がトンネル部4の前部で発生することを防止できる。従って、車両Vのアンダフロア部の下方における空気の乱れを抑制でき、車両Vの空力性能の向上を図ることができる。
【0059】
そして、特に、上記渦が発生し易いトンネル部4の前部にトンネルアンダカバー20を設けたことにより、トンネル部4の下部を全体に亘って覆わなくても、車両Vのアンダフロア部の下方における空気の乱れを効果的に抑制できる。
【0060】
ここで、トンネルアンダカバー20をトンネル部4の前部のみに配設することで、トンネル部4の後部を常時開放状態とすることができる。これにより、効率良くトンネル部4の前部を覆いつつトンネル部4内の冷却性能を向上させることができる。
【0061】
従って、本実施形態では、トンネルアンダカバー20により、空力性能向上とトンネル部4内の冷却性能向上とを両立させることができる。さらに、トンネル部4の下部を全体に亘って開閉する必要もないことから、空力性能とトンネル部4内の冷却性能とを効率良く向上させることができる。
【0062】
また、本実施形態では、トンネルアンダカバー20のスリット21や切欠き部22を含む開口部と、プレート部材40の孔部41、42とによって、エンジンルームEと車体の下方とが連通しており、両者間での空気の移動が可能になっている。このため、車両Vの停車時には、上述したスリット21、切欠き部22、孔部41、42を経由して、車外の空気をエンジンルームE内及びトンネル部4内に導入することができ、車両Vの停車時におけるエンジンルームE及びトンネル部4の冷却性能を向上させることができる。
【0063】
例えば、トンネルアンダカバー20のスリット21では、車両Vの停車時、延出部21aのガイドによって、図6中実線の矢印δで示すように、車外の空気をエンジンルームE内及びトンネル部4内に導入することができる。
【0064】
ここで、トンネルアンダカバー20のスリット21に関し、これを車両前後方向に延びるように形成することも考えられる。しかしながら、走行風は、一般的に車両前後方向に流れることから、上述のように、スリットを上記走行風に沿って車両前後方向に延びるように形成した場合、上記走行風がエンジンルームE内やトンネル部4内に流れ込み易くなって、空力性能に悪影響を及ぼす虞がある。本実施形態では、スリット21を車幅方向に延びるように形成することで、上記走行風がエンジンルームE内やトンネル部4内へ流れ込むことを抑制しており、これによって空力性能を確保することを可能にしている。
【0065】
また、本実施形態では、スリット21が、その前縁部に延出部21aを有していることにより、エンジンルームEからトンネル部4へ流れ込もうとする空気が、上方に向かって延出した延出部21aによってトンネル部4内へ流れ込むことが抑制される。
【0066】
また、スリット21を、トンネルアンダカバー20のうちエンジンルームEの後部と対応する位置に配置することで、車両Vの停車時には、車外の空気を、図6に示すようにエンジンルームE内に容易に導入することができる。
【0067】
また、本発明者は、トンネルアンダカバー20を開発するにあたり、鋭意研究の結果、トンネルアンダカバー20における開口部の開口面積を、トンネルアンダカバー20全体の約30%前後に設定した時、空力性能と冷却性能との双方を発揮できることを見出した。従って、本実施形態のように、トンネルアンダカバー20における開口部の開口面積を、トンネルアンダカバー20全体の約30%前後に設定することで、空力性能と冷却性能とをより確実に両立させることができる。
【0068】
また、トンネルアンダカバー20の後部にプレート部材40を締結することで、トンネルアンダカバー20とプレート部材40との協働により、空力性能のさらなる向上を図ることができる。そして、プレート部材40により、車両走行時のフロアパネル3の振動や車両衝突等に伴うトンネル部4の変形を抑制することもできる。
【0069】
なお、上述したトンネルアンダカバー20は、主に車両Vの下方の走行風をガイドする役割を果たす一方で、プレート部材40は、上記走行風をガイドする役割の他、フロアパネル3の振動抑制、トンネル部4の変形抑制、及び車体の捩れに対する車体剛性向上の役割も果たしている。このため、図2、図5、図6に示すようにプレート部材40自身の剛性(板厚)は、トンネルアンダカバー20の剛性(板厚)よりも大きく(厚く)設定されている。
【0070】
ところで、上述した実施形態では、トンネルアンダカバー20に、スリット21や切欠き部22を含む開口部を形成するのみとしているが、例えば、該開口部を開閉するルーバー部材を設けてもよい。この場合、車両Vの走行状態または停車状態に応じてルーバー部材を作動させればよく、例えば、上記ルーバー部材は、エンジンの作動状態を検出する各種センサの検出結果や、イグニッションスイッチの状態等に基づいて電気的に制御すればよい。
【0071】
また、チェンジレバーと上記ルーバー部材とをケーブル等で接続し、チェンジレバーのシフト操作と連動してルーバー部材を作動させるようにしてもよい。この場合、乗員がチェンジレバーをパーキングレンジの位置にシフトした時に、ルーバー部材が開状態となるようにすればよい。
【0072】
また、パーキングブレーキと上記ルーバー部材とをケーブル等で接続し、パーキングブレーキの操作と連動してルーバー部材を作動させるようにしてもよい。この場合、乗員がパーキングブレーキを引き上げ操作した時に、ルーバー部材が開状態となるようにすればよい。
【0073】
また、上述した実施形態では、ハンガーラバー11との干渉を回避すべく、トンネルアンダカバー20に切欠き部22を形成したが、これに限らず、スリット21と同様の孔部を形成してもよい。
【0074】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の、アンダカバーは、トンネルアンダカバー20に対応し、
以下同様に、
開口部は、スリット21及び切欠き部22に対応し、
トンネル補強部材は、プレート部材40に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【符号の説明】
【0075】
4…トンネル部
5…排気系
19…サスペンションクロスメンバ
20…トンネルアンダカバー
21…スリット
22…切欠き部
40…プレート部材
E…エンジンルーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルーム後方において車幅方向中央部を車両前後方向に延びる排気系に沿って車両前後方向に延設されたトンネル部と、
左右のサスペンションを連結するサスペンションクロスメンバとを有する車両のアンダフロア構造であって、
上記サスペンションクロスメンバの後部に、上記トンネル部の前部を覆うアンダカバーを設けた
車両のアンダフロア構造。
【請求項2】
上記アンダカバーに、車体の下方と上記エンジンルームとの間での空気の移動を可能とする開口部を設けた
請求項1記載の車両のアンダフロア構造。
【請求項3】
上記開口部は、車幅方向に向かって延びるように形成されたスリットである
請求項2記載の車両のアンダフロア構造。
【請求項4】
上記開口部は、その前縁部が、上方に向かって延出した形状となっている
請求項2または3記載の車両のアンダフロア構造。
【請求項5】
上記開口部は、上記アンダカバーのうち、上記エンジンルームの後部と対応する位置に設けられている
請求項2〜4のいずれか一項に記載の車両のアンダフロア構造。
【請求項6】
上記開口部の開口面積を、上記アンダカバー全体の面積の30%前後に設定した
請求項2〜5のいずれか一項に記載の車両のアンダフロア構造。
【請求項7】
上記アンダカバーの後部に、略平板形状のトンネル補強部材を連結した
請求項1〜6のいずれか一項に記載の車両のアンダフロア構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−11854(P2012−11854A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148947(P2010−148947)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】