説明

車両のアンダーメンバー構造

【課題】車両の走行中におけるエンジンルームからホイールハウスへの空気の流れを適切に改善することが可能なアンダーメンバー構造を提供すること。
【解決手段】車両のアンダーメンバー構造であって、略車両進行方向に沿って形成された第1の部分と、該第1の部分よりも車両の前方側において車両の進行方向に対して傾斜角を有するように形成された第2の部分と、を有する溝部が形成されたアンダーメンバーと、前記アンダーメンバーの溝部に沿って移動可能に前記アンダーメンバーに取り付けられるエプロンシールと、を備える車両のアンダーメンバー構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のアンダーメンバー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のエンジンルームとホイールハウスの間には、車両前後方向に延在する上下1対の部材(フロントサイドメンバー及びアンダーメンバー)が形成されており、このフロントサイドメンバー及びアンダーメンバーの間には、エンジンルーム内への泥水の侵入を防止するためにエプロンシールという部材が取り付けられている。このエプロンシールという部材には、エンジンルームからホイールハウスへの空気の流れを阻害するため、ホイールハウス内に取り付けられたブレーキの冷却性能が低下するという弊害が存在する。
【0003】
このような構造に関する考案が開示されている(例えば、特許文献1参照)。このエプロンシール構造は、エプロンシールに作業孔を形成し、ヒンジ及びロック部によって開閉可能な蓋部を備えるものとしている。
【特許文献1】公開実用新案昭62−132868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のエプロンシール構造では、修理等の現場においてホイールハウス周辺の作業性を向上させることは可能であるものの、車両の走行中におけるエンジンルームからホイールハウスへの空気の流れを改善することはできない。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、車両の走行中におけるエンジンルームからホイールハウスへの空気の流れを適切に改善することが可能なアンダーメンバー構造を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、
車両のアンダーメンバー構造であって、
略車両進行方向に沿って形成された第1の部分と、該第1の部分よりも車両の前方側において車両の進行方向に対して傾斜角を有するように形成された第2の部分と、を有する溝部が形成されたアンダーメンバーと、
前記アンダーメンバーの溝部に沿って移動可能に前記アンダーメンバーに取り付けられるエプロンシールと、
を備える車両のアンダーメンバー構造である。
【0007】
この本発明の一態様によれば、車両の減速時、すなわちブレーキの使用時において、エプロンシールがアンダーメンバーの溝部における第2の部分に移動することとなるため、フロントサイドメンバーとアンダーメンバーの間に空気流路が形成され、ブレーキの冷却性能が向上することになる。一方、ブレーキの冷却性能がそれほど重要でない加速時又は定速走行時には、エプロンシールがアンダーメンバーの溝部における第1の部分に移動することとなるため、フロントサイドメンバーとアンダーメンバーの間が塞がれて、エンジンルーム内への泥水の侵入を防止することができる。
【0008】
従って、車両の走行中におけるエンジンルームからホイールハウスへの空気の流れを適切に改善することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両の走行中におけるエンジンルームからホイールハウスへの空気の流れを適切に改善することが可能なアンダーメンバー構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例】
【0011】
以下、本発明の一実施例に係る車両のアンダーメンバー構造1について説明する。
【0012】
まずは、一般的な車両における構造について説明する。図1は、一般的な車両におけるアンダーメンバー等が形成される箇所(図1(A)、及び当該部分の拡大図(図1(B))である。
【0013】
図1(B)に示す如く、一般的な車両においては、エンジンルーム50とホイールハウス52の間に、車両前後方向に延在する上下1対の部材(フロントサイドメンバー54及びアンダーメンバー56)が形成されている。アンダーメンバー56は、その前方端がフロントクロスメンバー58に、後方端がサスペンションメンバー60に、それぞれ連結される。
【0014】
フロントサイドメンバー54とアンダーメンバー56の間には、エンジンルーム内への泥水の侵入を防止するためのエプロンシール62が取り付けられている。前述の如く、エプロンシール62には、エンジンルーム50からホイールハウス52への空気の流れを阻害するため、ホイールハウス52内に取り付けられたブレーキの冷却性能が低下するという弊害が存在する。
【0015】
そこで、本実施例に係る車両のアンダーメンバー構造1は以下に説明するような構造を有する。
【0016】
図2は、本実施例に係るアンダーメンバー10に複数の溝部12(個数に特段の制限はなく、以下単に溝部12と表記する)を形成する様子を示す図である。図示する如く、溝部12は、アンダーメンバー10の上面10Aに形成され、略車両進行方向に沿って形成された第1の部分12Aと、該第1の部分よりも車両の前方側において車両の進行方向に対して傾斜角を有するように形成された第2の部分12Bと、を有する。溝部12には、ベアリングや潤滑油等が使用され、エプロンシール20の摺動を可能とする。
【0017】
なお、図2では第1の部分12A及び第2の部分12Bが共に直線状であるかのように示したが、第2の部分12Bは、第1の部分12Aから離れるにつれて徐々に傾斜角が大きくなるような形状であってもよい。
【0018】
図3は、溝部12に沿って移動可能に、アンダーメンバー10に取り付けられる複数のエプロンシール20(溝部の数に対応した個数が用意される)の形状例である。エプロンシール20には、アンダーメンバー10からの抜けを防止するためのフック構造等が形成されてよい。
【0019】
このようなエプロンシール20がアンダーメンバー10の溝部12に取り付けられると、以下のような動作を行なうこととなる。
【0020】
図4は、本実施例のアンダーメンバー構造1が適用された車両が、加速又は定速走行を行なっている際のアンダーメンバー構造1の状態を示す図である。図示する如く、エプロンシール20は、慣性力によって車両の後方側、すなわち溝部12の第1の部分12Aに収まることとなる。
【0021】
第1の部分12Aは、略車両進行方向に沿って形成されているため、エプロンシール20は略車両進行方向に沿った角度を有することとなる。この結果、一般的な車両と同様に、フロントサイドメンバー54とアンダーメンバー56の間を塞ぐ状態となる。
【0022】
一方、本実施例のアンダーメンバー構造1が適用された車両が減速をおこなった際には、アンダーメンバー構造1の状態は異なるものとなる。図5は、本実施例のアンダーメンバー構造1が適用された車両が、減速を開始した際の状態を示す図である。図示する如く、エプロンシール20は、慣性力によって車両の前方側、すなわち溝部12の第2の部分12Bに向けて移動する。
【0023】
そして、図6は、図5の状態から更に進んだ状態を示す図である。エプロンシール20が車両の前方側に移動し、溝部12の第2の部分12Bに収まると、エプロンシール20は車両の進行方向に対して傾斜角を有することとなる。この結果、フロントサイドメンバーとアンダーメンバー10の間に空気流路22が形成される。従って、ホイールハウス内に取り付けられたブレーキの冷却性能が向上する。
【0024】
このような状態変化が可能となるために、エプロンシール20が受ける空気抵抗よりも慣性力が大きくなる必要があるため、エプロンシール20はある程度の重量を有することが望ましい。また、溝部12の摺動構造も、エプロンシール20のスムーズな移動を可能とするような構造である必要がある。
【0025】
なお、図6の状態から車両が加速を開始した場合は、以上の説明とは逆に図6の状態から図4の状態へと変化する。
【0026】
係る構造によって、ブレーキの冷却性能を良好に維持すべき状態、すなわち、ブレーキの使用時(減速時とほぼ一致する)において、フロントサイドメンバーとアンダーメンバー10の間に空気流路22が形成され、ブレーキの冷却性能が向上することになる。一方、ブレーキの冷却性能がそれほど重要でない加速時又は定速走行時には、フロントサイドメンバーとアンダーメンバー10の間が塞がれて、エンジンルーム内への泥水の侵入を防止することができる。
【0027】
また、図7は、本実施例が適用された車両を下側から見た図であり、エプロンシール20が開いている状態と閉じている状態における乱流の発生を比較した図である。図示する如く、エプロンシール20が開いている状態(図6の状態)では、ホイール周りに乱流が発生するため、ブレーキの冷却性能が向上すると共に、車両の空気抵抗が増加する。しかしながら、車両の減速時に空気抵抗が増加しても特段の不都合は生じず、むしろ減速を早める可能性もある。一方、エプロンシール20が閉じている状態(図4の状態)では、ホイール周りの乱流は比較的抑えられるため、車両のスムーズな加速を妨害せず、また不要なエネルギー消費を抑制することもできる。
【0028】
以上より、本実施例のアンダーメンバー構造1によれば、車両の走行中におけるエンジンルームからホイールハウスへの空気の流れを適切に改善することができる。
【0029】
また、加速時や減速時を検知して電気的な制御を行なうのではないため、コストや重量の増大を防止することができる。
【0030】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【0031】
例えば、複数の溝部12及びエプロンシール20を備えるものして説明したが、これらは単独でも構わない。
【0032】
また、エプロンシール20の上方に在る部材であるフロントサイドメンバーにおいても、エプロンシール20を上方から車両進行方向に沿って移動可能に支持する溝部等が形成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、自動車製造業や自動車部品製造業等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】一般的な車両におけるアンダーメンバー等が形成される箇所、及び当該部分の拡大図である。
【図2】本実施例に係るアンダーメンバー10に複数の溝部12を形成する様子を示す図である。
【図3】溝部12に沿って移動可能に、アンダーメンバー10に取り付けられる複数のエプロンシール20の形状例である。
【図4】本実施例のアンダーメンバー構造1が適用された車両が、加速又は定速走行を行なっている際のアンダーメンバー構造1の状態を示す図である。
【図5】本実施例のアンダーメンバー構造1が適用された車両が、減速を開始した際の状態を示す図である。
【図6】図5の状態から更に進んだ状態を示す図である。
【図7】本実施例が適用された車両を下側から見た図であり、エプロンシール20が開いている状態と閉じている状態における乱流の発生を比較した図である。
【符号の説明】
【0035】
1 車両のアンダーメンバー構造
10 アンダーメンバー
10A 上面
12 溝部
12A 第1の部分
12B 第2の部分
20 エプロンシール
22 空気流路
50 エンジンルーム
52 ホイールハウス
54 フロントサイドメンバー
56 アンダーメンバー(一般的な構造)
58 フロントクロスメンバー
60 サスペンションメンバー
62 エプロンシール(一般的な構造)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のアンダーメンバー構造であって、
略車両進行方向に沿って形成された第1の部分と、該第1の部分よりも車両の前方側において車両の進行方向に対して傾斜角を有するように形成された第2の部分と、を有する溝部が形成されたアンダーメンバーと、
前記アンダーメンバーの溝部に沿って移動可能に前記アンダーメンバーに取り付けられるエプロンシールと、
を備える車両のアンダーメンバー構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−105467(P2010−105467A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277775(P2008−277775)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】