説明

車両のインストルメントパネル支持構造

【課題】インストルメントパネルの組付け作業性を確保しつつ、インストルメントパネルの車幅方向の反り防止と歩行者に対する衝撃吸収性とを両立することができる車両のインストルメントパネル支持構造を提供する。
【解決手段】カウルパネル22に前側部分が支持されたインストルメントパネル3とを備え、カウルパネル22は、フロントウインド1に下方から対面する上面壁22aと、この上面壁22aの後端に形成され衝突時に屈曲可能な屈曲部22bと、この屈曲部22bから下方に延びて下部がダッシュパネル6に連結される後面壁22cとを有し、インストルメントパネル3の前側部分の下部に、上面壁22aと当接してインストルメントパネル3の下方移動を規制する第1規制部41と、後面壁22cによりインストルメントパネル3の上方移動を規制する第2規制部42とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のインストルメントパネル支持構造に関し、特にインストルメントパネルの前側部分の上下方向の移動を夫々規制する規制部を備えた車両のインストルメントパネル支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のインストルメントパネル(以下、インパネと略す)は、車室内全幅に亙って延びる大型の合成樹脂成形品で構成され、その内部に空調ユニット、オーディオユニット及び複数のダクト等が装備されている。このインパネは、車両の組立てラインとは別の組立てラインで各ユニット等が組付けられ、車体の骨格(フレーム)が組立てられた後工程において、サイドドアが装着される乗降用開口から車室内へ搬入された後、前方に向けて移送され、フロントウインドの下縁部を支持するカウルパネルに設けられた専用のブラケットに対して固定することにより車体への組付けが行われている。
【0003】
合成樹脂製のインパネは、エンジンルームにダッシュパネルを介して配置されると共に各電装品ユニットがその内部に収容されているため、内外から発生する熱の影響を受け易く、しかも、その構造上、車幅方向に長尺形状であるため、車幅方向において上下方向へ湾曲する反り返りを生じることがある。そこで、この熱膨張によるインパネの反りを対策するための技術が提案されている。
【0004】
特許文献1に記載されたインパネ取付構造は、合成樹脂製のインパネと、ダッシュアッパーパネルから上方へ延びるボックス構成部位とボックス構成パネル(カウルパネル)とにより形成された閉断面が車幅方向へ延びるエアーボックス(カウルボックス)と、このエアーボックスの後面壁から後方へ延びる突出部及び位置決めピンとを備え、前記突出部の下面に当接する係合突部と位置決めピンを挿入可能なロケートブラケットとがインパネの前側部分に一体形成されている。これにより、インパネ装着用の専用ブラケットを省略しつつ、インパネの車幅方向の反りを防止している。
【0005】
フロントウインドの下縁部を支持するカウルパネルは、ダッシュアッパーパネル(カウルメンバとも言う)と協働して角部を備え且つ車幅方向に延びるカウルボックスを構成している。このカウルボックスは、車体前部の剛性を確保する一方、車両が歩行者と衝突したとき、歩行者保護の観点から、ボンネット上に倒れ込んだ歩行者に作用する衝撃を緩和する衝撃吸収機能が要求されている。そのため、車両前方からカウルボックスに衝撃荷重が作用したとき、歩行者に対する衝撃吸収性を高めるために、カウルボックスが車体に対して後側上方へ移動可能な歩行者保護構造が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−208574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、車両の空力特性向上やデザイン性向上を狙いとして、フロントウインドの傾斜角度を大きく設計する傾向がある。このような傾斜角度の大きなフロントウインドを備えた車両では、フロントウインドとカウルパネルとの間隔が狭いため、インパネを組付けるための作業スペースを確保することが難しく、特に、高い位置に持ち上げられた状態で前方に向けて移送され且つカウルパネルに設けられた専用のブラケットに対して下降させて車体に組付けるようなインパネ支持構造では、組付け作業性の悪化を招くことが懸念される。
また、歩行者保護の観点から、カウルパネルの衝撃吸収機能を確保するためにフロントウインドとカウルパネルとの間隔を敢えて狭くするという要求も存在している。この場合、前記と同様の懸念が生じる。
【0008】
特許文献1のインパネ取付構造は、インパネの前側部分に突出部の下面に当接する係合突部と位置決めピンを挿入可能なロケートブラケットとが一体形成されているため、インパネを車体に組付ける際は、係合突部とロケートブラケットとをカウルパネルに設けられた突出部と位置決めピンとに係合させる。しかし、このインパネ取付構造では、車両が歩行者と衝突したとき、車体に対してカウルボックスが後側上方へ移動可能な構造として構成されていないため、歩行者に作用する衝撃を緩和することができない虞がある。
【0009】
本発明の目的は、フロントウインドとカウル部材との間隔が狭い車両において、インストルメントパネルの組付け作業性を確保しつつ、インストルメントパネルの車幅方向の反り防止と歩行者に対する衝撃吸収性とを両立できる車両のインストルメントパネル支持構造等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の車両のインストルメントパネル支持構造は、フロントウインドを支持するカウル部材と、このカウル部材に前側部分が支持されたインストルメントパネルとを備えた車両のインストルメントパネル支持構造において、前記カウル部材は、前記フロントウインドに下方から対面する上面壁と、この上面壁の後端に形成され衝突時に屈曲可能な屈曲部と、この屈曲部から下方に延びて下部がダッシュパネルに連結される後面壁とを有し、前記インストルメントパネルの前側部分の下部に、前記上面壁と当接して前記インストルメントパネルの下方移動を規制する第1規制部と、前記後面壁により前記インストルメントパネルの上方移動を規制する第2規制部とを設けたことを特徴としている。
【0011】
この車両のインストルメントパネル支持構造では、インストルメントパネルの前側部分の下部に、カウル部材の上面壁と当接してインストルメントパネルの下方移動を規制する第1規制部と、カウル部材の後面壁によりインストルメントパネルの上方移動を規制する第2規制部とを設けているため、フロントウインドとカウル部材との間隔が狭い状況であっても、インストルメントパネルを高い位置に持ち上げることなくカウル部材の上面壁と後面壁とに支持することができる。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記第2規制部は、前記インストルメントパネルの前側部分の下部から前側下方に傾斜状に延びると共に前記後面壁から後側上方に傾斜状に延びたブラケットに当接するように構成されたことを特徴としている。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記第2規制部は前記インストルメントパネルに設けられたダクト部材と一体形成されたことを特徴としている。
請求項4の発明は、請求項1〜3の何れか1項の発明において、前記第1,第2規制部は、夫々、車幅方向に離隔されて複数設けられたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、インストルメントパネルを高い位置に持ち上げることなくカウル部材の上面壁と後面壁とに支持させることができるため、インストルメントパネルの良好な組付け作業性を確保することができる。第1規制部がインストルメントパネルの下方移動を規制すると共に第2規制部がインストルメントパネルの上方移動を規制するため、熱膨張によるインストルメントパネルの車幅方向の反りを確実に防止することができる。
また、車両が歩行者と衝突したとき、第1,第2規制部が、カウルボックスに前方から作用した衝撃荷重によって上面壁と後面壁とを屈曲部を基点とした折畳み動作をさせるため、歩行者に作用する衝撃を緩和することができる。それ故、フロントウインドとカウル部材との間隔が狭い車両において、インストルメントパネルの組付け作業性を確保しつつ、インストルメントパネルの車幅方向の反り防止と歩行者に対する衝撃吸収性とを両立することができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、第2規制部の前後方向の設置スペースを小さくすることができ、インストルメントパネルの組付け容易性を確保することができる。
請求項3の発明によれば、部品点数を増加することなく、第2規制部とカウル部材の後面壁との当接強度を確保することができる。
請求項4の発明によれば、反りの発生位置に拘わらず、インストルメントパネルの前側部分を安定して支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例に係るインストルメントパネル支持構造の斜視断面図である。
【図2】インストルメントパネルのインパネ本体を取外した平面図である。
【図3】インストルメントパネル支持構造の縦断面図である。
【図4】図3の要部拡大図である。
【図5】第1規制部の斜視図である。
【図6】インストルメントパネル組付け工程における第2規制部の状態説明図であって、(a)は組付け初期状態を示し、(b)は組付け後期状態を示す図である。
【図7】左側第1規制部及び左側第2規制部を示す図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。尚、本実施例では、車両の進行方向に対して前後方向を前後方向とし、車体左右方向を左右方向として説明する。
【実施例1】
【0018】
本発明の実施例1について図1〜図7に基づいて説明する。
図1〜図4,図7に示すように、この車両Vの前部には、フロントウインド1を支持するカウルボックス2と、このカウルボックス2に対して前側部分が支持された合成樹脂製のインストルメントパネル(以下、インパネと略す)3等が設けられている。
【0019】
カウルボックス2は、車両前方から導入される外気を車室4へ供給するためのエア供給路の一部を構成している。このカウルボックス2は、ボンネット(図示略)の後側下方位置に車幅方向全幅に亙って延びるように設けられ、このカウルボックス2の下部から後側下方に延びるダッシュパネル6と協働してエンジンルーム5と車室4とを前後に仕切るように形成されている。
【0020】
図1,図3,図4,図7に示すように、カウルボックス2は、断面略矩形状に形成され、左右1対のフロントピラー(図示略)と左右1対のフロントフレーム(図示略)の後端とに連結され、カウルボックス2の下側部分を構成するカウルメンバ21と、カウルボックス2の上側部分を構成するカウルパネル22と、複数の補強部材23等から構成されている。カウルメンバ21は、車幅方向に延びた略桶状に形成され、後端から車体後方へ延びるフランジ21aが設けられている。カウルメンバ21の前後方向途中部には、ダッシュパネル6の上端部が溶接によって連結されている。
【0021】
カウルパネル22は、鋼板により一体形成され、フロントウインド1に対して下方から対面する上面壁22aと、この上面壁22aの後端に平面視にて湾曲線状に形成された屈曲部22bと、この屈曲部22bから車体下方に延びる後面壁22cと、この後面壁22cのから車体後方へ延びるフランジ22dとを備えている。
【0022】
上面壁22aは、前側部分がフロントウインド1に向かって膨出するように形成され、フロントウインド1の下縁部内側部分に接着剤を用いて接合され、フロントウインド1との接合部分から屈曲部22bに亙って後方へ延設された平坦部が形成されている。
屈曲部22bは、カウルボックス2の車幅方向全幅に亙って形成され、カウルボックス2に対して車両Vの前方から後方へ向かう衝撃荷重が作用したとき、上面壁22aと後面壁22cとが屈曲部22bを基点として接近するように屈曲可能に構成されている。
後面壁22cは、屈曲部22bからフランジ22dの後端に亙って下方に延設された平坦部が形成されている。フランジ22dは、カウルメンバ21のフランジ21aと重ね合わせ溶接により連結されている。それ故、後面壁22cの下部はフランジ21a,22dを介してダッシュパネル6と連結されている。
以上により、車両Vの前方から衝撃荷重が作用したとき、上面壁22aと後面壁22cとの交差角度が略90度に設定された初期状態から、上面壁22aと後面壁22cとを屈曲部22bを基点として折畳んだ折畳み状態に変形させることができる。
【0023】
複数の補強部材23は、夫々、略三角形状に形成され、カウルボックス2の前側部分内部に車幅方向に配置されている。各補強部材23は、2つの頂部がフロントウインド1との接合部の前側位置と後側位置とにおいて上面壁22aの内側部分に連結され、1つの頂部がダッシュパネル6との連結部の後側位置においてカウルメンバ21の内側部分に連結されている。これにより、カウルボックス2の捩り剛性や部材強度を向上している。
【0024】
次に、インパネ3について説明する。
インパネ3は、インパネ3の骨格を構成するインパネ本体31と、このインパネ本体31の背面部に振動溶着される合成樹脂製のデフプレート32と、このデフプレート32に嵌合される合成樹脂製のセンターデフロスタダクト32bとを備え、空調ユニット7、エアバッグユニット8及びオーディオユニット(図示略)等が装備されている。
インパネ本体31は、外表面となる表皮層と、中間層となる発泡層と、外裏面となる基材層とから構成され、合成樹脂を主材料とした3層構造に形成され、カウルボックス2から車室4内へ膨出するように外形断面が略U字状に形成されている。このインパネ本体31は、前端上面部にフロントウインド1との間をシールするウレタンシール部材が固着され、背面部に車幅方向へ延びるインパネメンバ9にインパネ3を支持させるための支持ブラケット10が略鉛直状に連結されている。
【0025】
空調ユニット7は、ダッシュパネル6の後側に配置されたヒータコア(図示略)やエバポレータ(図示略)を備えると共に、センターデフロスタダクト32bを介してセンターデフロスタ吹出口32aと接続され、左右1対のサイドデフロスタダクト33bを介して左右1対のサイドデフロスタ吹出口33aと接続され、センターベントダクト34bを介してセンターベント吹出口34aと接続され、左右1対のサイドベントダクト35bを介して左右1対のサイドベント吹出口35aと接続されている。
センターデフロスタ吹出口32aと左右1対のサイドデフロスタ吹出口33aと左右1対のサイドデフロスタダクト33bの一部はデフプレート32に設けられ、左右1対のサイドデフロスタダクト33bの一部はセンターデフロスタダクト32bに設けられている。
尚、各吹出口32a〜35a及び各ダクト32b〜35bは、全て合成樹脂材料で形成されている。
【0026】
センターデフロスタ吹出口32aは、フロントウインド1の下側内面に対向するように車幅方向へ延びると共にカウルパネル22に沿うように平面視にて略三日月状に形成されている。センターデフロスタダクト32bは、上方程幅広形状に形成され、先端がデフプレート32のセンターデフロスタ吹出口32aに対応した部分から下方へ突出した嵌合部32cに外嵌され、基端が空調ユニット7に接続されている。左右1対のサイドデフロスタ吹出口33aは、センターデフロスタ吹出口32aの左右端部よりも後方且つ車幅方向外側に夫々配置されている。左右1対のサイドデフロスタダクト33bは、夫々、センターデフロスタダクト32bの左右上端部から車幅方向外側に延びるダクト部と、サイドデフロスタ吹出口33aに連なるダクト部とにより構成されている。
【0027】
センターベント吹出口34aは、インパネ3の車幅方向中央且つインパネメンバ9と略同じ高さ位置に配置されている。左右1対のサイドベント吹出口35aは、夫々、左右1対のサイドデフロスタ吹出口33aの下方位置に配置されている。左右1対のサイドベントダクト35bは、夫々、センターベントダクト34bの途中部から車幅方向外側に分岐するように形成されている。尚、センターベント吹出口34aの上部には、オーディオユニットを収容する収容凹部が形成されている。
【0028】
次に、インパネ3の支持構造について説明する。
インパネ3は、車両Vの組立てラインとは別の組立てラインで空調ユニット7、エアバッグユニット8及びオーディオユニット(図示略)等の装備品が組付けられ、車体フレームが組立てられた後工程において、サイドドア(図示略)の乗降用開口から車室4内へ搬入された後、車両Vへの組付けが行われる。インパネ3は、インパネ本体31の前側中央部分が第1規制部41及び第2規制部42を介してカウルパネル22に支持され、インパネ本体31の左右端部分が左右1対の第1規制部43及び左右1対の第2規制部44を介してカウルパネル22に支持され、左右端部が左右のフロントピラーに夫々連結され、インパネ本体31の背面部が支持ブラケット10を介してインパネメンバ9に支持されている。
【0029】
図1,図3,図4に示すように、第1規制部41は、デフプレート32に設けられたセンターデフロスタ吹出口32aの嵌合部32cと一体形成されている。
図5に示すように、第1規制部41は、左右1対の逆台形状の側壁41aと、前後1対の長方形状の前後壁41b,41cと、左右1対の側壁41aと前後1対の前後壁41b,41cとの下端に連なる下壁41dと、前壁41bの上端から前方に延びる前フランジ41eと、後壁41cの上端から後方に延びると共に嵌合部32cに一体的に連なる後フランジ41fとにより形成されている。左右1対の側壁41aは、中央部分に開口が形成され、前フランジ41eと後フランジ41fは、インパネ本体31の背面部に溶着されている。
【0030】
下壁41dは、略平坦状に形成され、上面壁22aとフロントウインド1との接合部よりも後側部分において後方へ延設された上面壁22aの平坦部と面接触するように配置されている。これにより、第1規制部41は、熱延びに起因するインパネ3端部の下方への反り返り(中央部の下方変位)を規制することができると共に、カウルボックス2に対して前方から衝撃荷重が作用したとき、図4にて破線にて示すように、屈曲部22bを基点とした上面壁22aの折畳み動作(反時計回り動作)のみを許容することができる。
【0031】
図1,図3,図4に示すように、第2規制部42は、センターデフロスタダクト32bと一体形成されている。第2規制部42は、略L字状に形成され、カウルパネル22の後面壁22cに設けられた規制ブラケット24と面接触可能に構成されている。この第2規制部42は、インパネ3の前側部分の下部に相当するセンターデフロスタダクト32bから前方下がり傾斜状に延設された後部42aと、この後部42aの先端から前方下がり傾斜状に屈曲された前部42bとを有している。
【0032】
規制ブラケット24は、金属板材により略Z字状に形成されると共に、カウルパネル22の後面壁22cの車幅方向中央位置に溶接された連結部24aと、後面壁22cから後側上方に傾斜状に延びて第2規制部42の前部42bと面接触可能に形成された当接部24bと、インパネ3の組付け工程において第2規制部42を下方に誘導する誘導部24cとにより形成されている。インパネ3は、後面壁22と当接部24b(前部42b)とが略直交状に配置された状態で車両Vに搭載されている。
【0033】
図6(a),(b)に基づき、インパネ3の組付け工程における、第2規制部42と規制ブラケット24との動作状態について説明する。
図6(a)に示すように、インパネ3の組付け時、インパネ3は車室4内へ搬入された後、高い位置に持ち上げることなく図示しないフロントピラーに取り付けた基準ピンに、インパネメンバ9の両端に固定のサイドブラケットのガイド部が案内されて前方に向けて移送され、この移送に伴い前部42bの先端が誘導部24cを線接触状態で押圧するため、前方移送に伴って当接部24bの傾斜角度が初期角度から徐々に小さくなると共に第2規制部42の前部42bも下方へ変形する。その後、前記基準ピンが各サイドブラケットのガイド部の溝に嵌ることによりインパネ3が下方へ移動して位置決めされる。これにより、誘導部24cと当接部24bとの境界部が上方へ移行すると共に前部42bが誘導部24cの下方に移行する。
【0034】
図6(b)に示すように、前部42bが当接部24bと当接した時点で前部42bと当接部24bとが上下に重合するように面接触し、当接部24bの傾斜角度が初期角度に復帰する。これにより、第2規制部42は、熱延びに起因するインパネ3端部の上方への反り返り(中央部の上方変位)を規制することができると共に、前方からの衝撃荷重がカウルボックス2へ作用したとき、図4にて破線で示すように、屈曲部22bを基点とした後面壁22cの折畳み動作(時計回り動作)のみを許容することができる。
【0035】
次に、左右1対の第1規制部43及び左右1対の第2規制部44について説明する。尚、右側の第1規制部43及び右側の第2規制部44は、左側の第1規制部43及び左側の第2規制部44と同様の構成であるため、説明を省略し、主に左側の第1規制部43及び左側の第2規制部44とについて説明する。
【0036】
図7に示すように、左側第1規制部43は、デフプレート32の前側部分に設けられている。左側第1規制部43の後フランジ43fは、サイドデフロスタダクト33bと一体的に連なるように形成されインパネ本体31の背面部に溶着されている。その他の構成は、第1規制部41と同様である。これにより、左側第1規制部43は、熱延びに起因するインパネ3端部の下方への反り返りを規制することができると共に、カウルボックス2に対して前方から衝撃荷重が作用したとき、図4にて破線にて示すように、屈曲部22bを基点とした上面壁22aの折畳み動作(反時計回り動作)のみを許容することができる。
【0037】
図7に示すように、左側第2規制部44は、デフプレート32に設けられた左側のサイドデフロスタダクト33b一体形成され、前側下方に延びるように形成されている。左側第2規制部44は、略L字状に形成され、カウルパネル22の後面壁22cに設けられた規制ブラケット25と面接触可能に構成され、その他の構成は、第2規制部42と同様である。左側規制ブラケット25は、後面壁22cの車幅方向左側位置に溶接され、その他の構成は、規制ブラケット24と同様である。これにより、左側第2規制部44は、熱延びに起因するインパネ3の上方への反り返りを規制することができると共に、前方からの衝撃荷重がカウルボックス2へ作用したとき、図4にて破線で示すように、屈曲部22bを基点とした後面壁22cの折畳み動作(時計回り動作)のみを許容することができる。
【0038】
次に、実施例に係る車両のインストルメントパネル支持構造の作用・効果について説明する。
このインストルメントパネル支持構造では、インパネ本体31の前側部分の下部に、カウルパネル22の上面壁22aと当接してインパネ3の下方移動を規制する第1規制部41,43と、カウルパネル22の後面壁22cによりインパネ3の上方移動を規制する第2規制部42,44とを設けているため、フロントウインド1とカウルパネル22との間隔が狭い状況であっても、インパネ3を高い位置に持ち上げることなくカウルパネル22の上面壁22aと後面壁22cとに支持することができ、インパネ3の良好な組付け作業性を確保することができる。第1規制部41,43がインパネ3の下方移動を規制すると共に第2規制部42,44がインパネ3の上方移動を規制するため、熱膨張によるインパネ3の車幅方向の反りを確実に防止することができる。
また、車両Vが歩行者と衝突したとき、第1,第2規制部41〜44が、カウルボックス2に前方から作用した衝撃荷重によって上面壁22aと後面壁22cとを屈曲部22bを基点とした折畳み動作をさせるため、歩行者に作用する衝撃を緩和することができる。それ故、フロントウインド1とカウルパネル22との間隔が狭い車両Vにおいて、インパネ3の組付け作業性を確保しつつ、インパネ3の車幅方向の反り防止と歩行者に対する衝撃吸収性とを両立することができる。
【0039】
第2規制部42,44は、インパネ3の前側部分の下部から前側下方に傾斜状に延びると共に後面壁22cから後側上方に傾斜状に延びた規制ブラケット24,25に当接するように構成されているため、第2規制部42,44の前後方向の設置スペースを小さくすることができ、インパネ3の組付け容易性を確保することができる。
【0040】
第2規制部42,44はインパネ3に設けられたセンターデフロスタダクト32b又はサイドベントダクト35bと一体形成されているため、部品点数を増加することなく、第2規制部42,44とカウルパネル22の後面壁22cとの当接強度を確保することができる。
第1,第2規制部41〜44は、夫々、車幅方向に離隔されて複数設けられているため、反りの発生位置に拘わらず、インパネ3の前側部分を安定して支持することができる。
【0041】
次に、前記実施例を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施例においては、第1,第2規制部をインパネの中央部と左右端部分の3箇所に設置した例を説明したが、少なくとも、1箇所に設置すればよく、また、4箇所以上に設置することも可能である。また、第1,第2規制部を各ダクト部材と独立した部品で構成することも可能である。
【0042】
2〕前記実施例においては、第2規制部をカウルパネルに固定された規制ブラケットに面接触させた例を説明したが、少なくとも、インパネの反りを抑制しつつカウルボックスに前方から作用した衝撃荷重によって上面壁と後面壁とを屈曲部を基点とした折畳み動作をさせる構成であれば良く、第2規制部をカウルパネルの後面壁に直接当接させることも可能である。
3〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、インストルメントパネルの前側部分の上下方向の移動を夫々規制する規制部を備えた車両のインストルメントパネル支持構造において、第1規制部がインストルメントパネルの下方移動を規制すると共に第2規制部がインストルメントパネルの上方移動を規制するため、インストルメントパネルの組付け作業性を確保しつつ、インストルメントパネルの車幅方向の反り防止と歩行者に対する衝撃吸収性とを両立することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 フロントウインド
2 カウルボックス
3 インストルメントパネル
22 カウルパネル
22a 上面壁
22b 屈曲部
22c 後面部
24,25 規制ブラケット
32b センターデフロスタダクト
35b サイドベントダクト
41,43 第1規制部
42,44 第2規制部
V 車両


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントウインドを支持するカウル部材と、このカウル部材に前側部分が支持されたインストルメントパネルとを備えた車両のインストルメントパネル支持構造において、
前記カウル部材は、前記フロントウインドに下方から対面する上面壁と、この上面壁の後端に形成され衝突時に屈曲可能な屈曲部と、この屈曲部から下方に延びて下部がダッシュパネルに連結される後面壁とを有し、
前記インストルメントパネルの前側部分の下部に、前記上面壁と当接して前記インストルメントパネルの下方移動を規制する第1規制部と、前記後面壁により前記インストルメントパネルの上方移動を規制する第2規制部とを設けたことを特徴とする車両のインストルメントパネル支持構造。
【請求項2】
前記第2規制部は、前記インストルメントパネルの前側部分の下部から前側下方に傾斜状に延びると共に前記後面壁から後側上方に傾斜状に延びたブラケットに当接するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両のインストルメントパネル支持構造。
【請求項3】
前記第2規制部は前記インストルメントパネルに設けられたダクト部材と一体形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両のインストルメントパネル支持構造。
【請求項4】
前記第1,第2規制部は、夫々、車幅方向に離隔されて複数設けられたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車両のインストルメントパネル支持構造。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−107564(P2013−107564A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255750(P2011−255750)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】