説明

車両のインバータ搭載構造

【課題】車両前方から力が作用したときでもマスタシリンダやダッシュパネルの車室内への押し出しを抑制することが可能な車両のインバータ搭載構造を提供する。
【解決手段】インバータブラケット8の支持部10を鋳造品とし、取付部9の車両後方端部がサスペンションタワー3の車両前面部から所定距離Lだけ車両前方に位置するようにインバータブラケット8をサイドメンバ1に取付けたことにより、車両前方からの力Fが作用したとき、サスペンションタワー3が連結される部分とインバータブラケット8の取付けられている部分との間でサイドメンバ1が車両幅方向外側に屈曲し、インバータブラケット8及びインバータが車両幅方向斜め外側に押され、マスタシリンダとの接触を抑制することができる。また、インバータのコネクタに取付けたプロテクタの傾斜面がマスタシリンダに接触するとインバータが車両幅方向斜め外側に押される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両におけるインバータ搭載構造に関し、例えば電気自動車やハイブリッド自動車のモータを駆動するインバータの搭載に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
モータを効率よく駆動するためにはモータに交流電流を印加するのが好ましく、一方、蓄電装置であるバッテリの出力は直流電流である。従って、電気自動車やハイブリッド自動車のようにバッテリに蓄電し、モータで駆動する車両にはインバータが不可欠となる。例えば、下記特許文献1では、インバータを車両前方のエンジンルーム内に搭載することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−286287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンルームの車両後方に配置されるダッシュパネルには筒状のマスタシリンダが車両前方に突出するように取付けられている。インバータは、幅、高さ、奥行きとも寸法が大きいため、インバータとマスタシリンダが車両前後方向に重なり合うように配置されることが多い。このようなレイアウトの車両の前部に車両前方から力が作用すると、インバータが車両後方に押されてマスタシリンダに接触し、マスタシリンダ自体或いはマスタシリンダが取付けられているダッシュパネルを車両後方に押し、それらを車室内の空間が減少する恐れがある。そこで、インバータとマスタシリンダとを車両前後方向に離すことが考えられるが、エンジンルームの車両前後長には限りがあり、車両前方からの荷重時に単に両者が接触しない程度に離すことは困難である。また、インバータの車両後方壁部に電力線接続用のコネクタを備える場合、コネクタがマスタシリンダと接触しないように保護する必要がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、車両前方から力が作用したときでもマスタシリンダやダッシュパネルの車室内への押し出しを抑制することが可能な車両のインバータ搭載構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、発明の実施態様は、車両前方のエンジンルームの側部に配置され車両前後方向に長手なサイドメンバと、前記エンジンルームの後部にて前記サイドメンバに連結されるダッシュパネルと、前記ダッシュパネルより車両前方に突出し当該ダッシュパネルの前面部と前記サイドメンバの車両幅方向外側とに連結されるサスペンションタワーと、前記ダッシュパネルに車両前方に突出するように配置されるマスタシリンダと、前記サイドメンバの縦壁部及び上面部に沿うように当該サイドメンバに取付けられる取付部及び当該取付部から前記エンジンルーム内側に突出する支持部を備え、鋳造品からなるインバータブラケットと、前記インバータブラケットの支持部の上面に載置され前記マスタシリンダの車両前方に配置されるインバータとを備え、前記取付部の車両後方端部が前記サスペンションタワーの車両前面部から所定距離車両前方に位置するように前記インバータブラケットを前記サイドメンバに取付ける車両のインバータ搭載構造である。
【0007】
また、前記マスタシリンダに対向する前記インバータの壁面にプロテクタが取付けられ、前記プロテクタは少なくとも車両幅方向内側から車両後方幅方向外側に向けて斜めな傾斜面を有する車両のインバータ搭載構造である。
また、前記インバータは前記マスタシリンダに対向する壁面に電力線接続用のコネクタを備え、前記プロテクタにより前記コネクタを覆う車両のインバータ搭載構造である。
【発明の効果】
【0008】
而して、発明の実施態様によれば、少なくともインバータブラケットの支持部を鋳造品としたことでインバータブラケットの支持部に車両前方から力が作用したときのインバータブラケット自体及びインバータブラケットが取付けられている部分のサイドメンバの変形を防止することができる。その結果、サスペンションタワーが連結される部分とインバータブラケットの取付けられている部分との間のサイドメンバを両部分より脆弱にすることができる。このとき、取付部の車両後方端部がサスペンションタワーの車両前面部から所定距離車両前方に位置するようにインバータブラケットをサイドメンバに取付けているので、車両前方から力が作用したときにサスペンションタワーが連結される部分とインバータブラケットの取付けられている部分との間でサイドメンバが車両幅方向外側に屈曲する。従って、インバータブラケット及びインバータが車両幅方向斜め外側に押され、マスタシリンダを車両後方へ押すことが抑制でき、その結果、マスタシリンダやダッシュパネルの車室内への押し出しを抑制することができる。
【0009】
また、少なくとも車両幅方向内側から車両後方幅方向外側に向けて斜めな傾斜面を有するプロテクタをマスタシリンダに対向するインバータの壁面に取付けたことにより、車両前方から作用する力によってインバータがマスタシリンダに接触するような場合でもプロテクタの傾斜面に沿ってインバータが車両幅方向斜め外側に押され、マスタシリンダの車両後方への移動を抑制することができ、その結果、マスタシリンダやダッシュパネルの車室内への押し出しを抑制することができる。
【0010】
また、インバータがマスタシリンダに対向する壁面に電力線接続用のコネクタを備える場合、プロテクタによってコネクタを覆うことにより、車両前方から力が作用するような場合であってもインバータのコネクタを保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の車両のインバータ搭載構造の一実施形態を示すエンジンルームの左前部斜視図である。
【図2】図1のエンジンルームの正面図である。
【図3】図1のエンジンルームの平面図である。
【図4】図1のエンジンルームの内側面図である。
【図5】図1のサイドメンバとインバータブラケットを右斜め後方からみた斜視図である。
【図6】図5のサイドメンバ及びインバータブラケットの平面図である。
【図7】図1のエンジンルームに車両前方から力が作用した初期の平面図である。
【図8】図1のエンジンルームに車両前方から力が作用した後期の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の車両のインバータ搭載構造の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の車両のインバータ搭載構造を示すエンジンルームの左前部斜視図であり、図2は、図1のエンジンルームの正面図であり、図3は、図1のエンジンルームの平面図であり、図4は、図1のエンジンルームの内側面図であり、図5は、図1のサイドメンバとインバータブラケットを右斜め後方からみた斜視図であり、図6は、図5のサイドメンバ及びインバータブラケットの平面図である。なお、本実施形態の車両は、エンジンとモータで車両を駆動するハイブリッド自動車である。
【0013】
図中の符号1は、車両の前後方向に長手なサイドメンバであり、車両前方のエンジンルームの幅方向両側部に配置され、図では左側部のサイドメンバを示している。このサイドメンバ1のエンジンルーム後部に配置される部分には、エンジンルームと車室を区画するダッシュパネル2が連結されている。なお、ダッシュパネル2の左部分には、当該ダッシュパネル2から車両前方に突出するようにマスタシリンダ4が配設されている。また、サイドメンバ1の車両前方端部には、サイドメンバ1を車両幅方向に連結するバンパメンバ21、サイドメンバ1から上方に立ち上がってフロントランプを支持するランプサポートブレース22、ランプサポートブレース22の上端部を車両幅方向に連結するアッパクロスメンバ23などが取付けられる。
【0014】
ダッシュパネル2の前面部とサイドメンバ1の車両幅方向外側とには、ダッシュパネル2より車両前方に突出するサスペンションタワー3が連結されている。サスペンションタワー3は、サスペンションのショックアブソーバやスプリングなどで構成される所謂ストラット(支柱)を収納する部分であり、中空のドーム形状をしている。サスペンションタワー3の上端部にはストラットの上端部が連結されるため、ストラットが連結されたサスペンションタワー3は強度が高い。
【0015】
モータを駆動するためのインバータ5は、モータ6やジェネレータ7(図7、図8参照)の側方に配置されるサイドメンバ1の近傍で、マスタシリンダ4の前方に配置される。インバータ5はインバータブラケット8を介してサイドメンバ1に取付けられる。インバータブラケット8は、サイドメンバ1の縦壁部及び上面部に沿い、当該サイドメンバ1に取付けられる取付部9と、取付部9からエンジンルーム内側に突出する支持部10を備えて構成される。このインバータブラケット8は、取付部9及び支持部10が例えばアルミニウムの鋳造品で構成され、図5に示すように、特に厚板状の支持部10は板材のプレス加工品よりも強度が高い。
【0016】
支持部10には、上面にインバータ5を取付けるための取付ボス11が車両前方の2カ所、車両後方の1カ所の計3カ所設けられており、これらの取付ボス11にボルトなどの固定具でインバータ5を搭載固定する。一方、取付部9には上方の2カ所、及び車両左内側の2カ所の計4カ所に取付穴が形成されており、取付部9をサイドメンバ1の縦壁部及び上面部にあてがい、夫々の取付穴にボルト13を差し込んでサイドメンバ1にねじ止めする。なお、図2中の符号12は、支持部10の車両前方端部と取付部9との間に設けられた補強リブである。また、支持部10の車両前方端部とサイドメンバ1の間には補強部材であるスティフナー14が介装されている。
【0017】
本実施形態で重要なポイントは、図6に示すように、インバータブラケット8の取付部9の車両後方端部がサスペンションタワー3の車両前面部から所定距離Lだけ車両前方に位置するようにインバータブラケット8をサイドメンバ1に取付けることである。前述のように、ストラットが連結されたサスペンションタワー3は強度が高いので、このサスペンションタワー3が連結されているサイドメンバ1の部分も強度が高い。また、インバータブラケット8の特に支持部10の強度が高いので、このインバータブラケット8が取付けられているサイドメンバ1の部分も強度が高い。従って、サスペンションタワー3が連結されている部分とインバータブラケット8が取付けられている部分の間のサイドメンバ1は両部分よりも脆弱であり、後述するようにインバータブラケット8に車両前方から力が作用したときに車両幅方向外側に屈曲する。
【0018】
インバータ5は電気部品であるから、電気ケーブルを接続するための複数のコネクタを備えているが、本実施形態では、前記マスタシリンダ4の突出先端部に対向するように電力線接続用の高電圧コネクタ15がインバータ5の壁面に形成されている。このコネクタ15は、車両幅方向に2個並んで設けられているが、本実施形態では、このうちマスタシリンダ4の突出先端部に対向するコネクタ15をプロテクタ16で覆い、例えば車両前方から力が作用し、インバータ5が後方に移動したときにマスタシリンダ4からコネクタ15を保護するようにしている。
【0019】
このプロテクタ16は、少なくともマスタシリンダ4の車両前方位置に、図3に示すように、車両幅方向内側から車両後方幅方向外側に向けて斜めな傾斜面17を有する。この傾斜面17は、図4に示すように、車両前上方から車両後下方に向けても斜めなのであるが、本実施形態では、少なくとも車両幅方向内側の端部から車両後方幅方向外側に向けて斜めであることが重要である。この傾斜面17は、車両前方から力が作用してインバータ5が車両後方に押され、コネクタ15がマスタシリンダ4の突出先端部に接触しようとするとき、インバータ5を車両幅方向外側に押し出す作用を有し、それによりマスタシリンダ4やダッシュパネル2が車室内に押し出されるのを抑制する。
【0020】
図7は、図1のエンジンルームに車両前方から力が作用した初期の平面図であり、図8は、図1のエンジンルームに車両前方から力が作用した後期の平面図である。前述したように、サスペンションタワー3が連結されているサイドメンバ1の部分は強度が高く、インバータブラケット8が取付けられているサイドメンバ1の部分も強度が高いので、サスペンションタワー3が連結されている部分とインバータブラケット8が取付けられている部分の間のサイドメンバ1は両部分よりも脆弱である。従って、車両前方から力Fがインバータ5やインバータブラケット8に作用すると、サスペンションタワー3が連結されている部分とインバータブラケット8が取付けられている部分の間でサイドメンバ1は車両幅方向外側に屈曲し、それに伴ってインバータ5は車両後方に押されながら車両幅方向外側に移動する。
【0021】
そのインバータ5がマスタシリンダ4に接触しようとすると、図7に示すように、コネクタ15に被せたプロテクタ16の傾斜面17がマスタシリンダ4の突出先端部に接触する。その状態で更にインバータ5が車両前方からの力Fで後方に押されると、マスタシリンダ4の突出先端部がプロテクタ16の傾斜面17のガイドとなり、図8に示すように、インバータ5は傾斜面17に沿って車両後方幅方向外側に押し出され、マスタシリンダ4やダッシュパネル2を車両後方に押し出すのが抑制され、その結果、マスタシリンダ4やダッシュパネル2が車室内に押し出されるのを抑制することができる。また、プロテクタ16によってコネクタ15が覆われているため、コネクタ15を保護することができる。
【0022】
このように本実施形態の車両のインバータ搭載構造では、インバータブラケット8を鋳造品としたことでインバータブラケット8の支持部10に車両前方から力Fが作用したときのインバータブラケット8自体及びインバータブラケット8が取付けられている部分のサイドメンバ1の変形を防止することができる。その結果、サスペンションタワー3が連結される部分とインバータブラケット8の取付けられている部分との間のサイドメンバ1を両部分より脆弱にすることができる。このとき、取付部9の車両後方端部がサスペンションタワー3の車両前面部から所定距離Lだけ車両前方に位置するようにインバータブラケット8をサイドメンバ1に取付けているので、インバータ5またはインバータブラケット8の前部に車両前方から力が作用したときにサスペンションタワー3が連結される部分とインバータブラケット8の取付けられている部分との間でサイドメンバ1が車両幅方向外側に屈曲する。従って、インバータブラケット8及びインバータ5が車両幅方向斜め外側に押され、その結果、マスタシリンダ4やダッシュパネル2の車室内への押し出しを抑制することができる。
【0023】
また、少なくとも車両幅方向内側から車両後方幅方向外側に向けて斜めな傾斜面17を有するプロテクタ16をマスタシリンダ4に対向するインバータ5の壁面に取付けたことにより、車両前方から作用する力Fによってインバータ5がマスタシリンダ4に接触するような場合でもプロテクタ16の傾斜面17に沿ってインバータ5が車両幅方向斜め外側に押され、その結果、マスタシリンダ4やダッシュパネル2の車室内への押し出しを抑制することができる。
【0024】
また、インバータ5がマスタシリンダ4に対向する壁面に電力線接続用のコネクタ15を備える場合、プロテクタ16によってコネクタ15を覆うことにより、車両前方から力Fが作用するような場合であってもインバータ5のコネクタ15を保護することができる。
【符号の説明】
【0025】
1はサイドメンバ
2はダッシュパネル
3はサスペンションタワー
4はマスタシリンダ
5はインバータ
6はモータ
7はジェネレータ
8はインバータブラケット
9は取付部
10は支持部
11は取付ボス
12は補強リブ
13はボルト
14はスティフナー
15はコネクタ
16はプロテクタ
17は傾斜面
21はバンパメンバ
22はランプサポートブレース
23はアッパクロスメンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方のエンジンルームの側部に配置され車両前後方向に長手なサイドメンバと、
前記エンジンルームの後部にて前記サイドメンバに連結されるダッシュパネルと、
前記ダッシュパネルより車両前方に突出し当該ダッシュパネルの前面部と前記サイドメンバの車両幅方向外側とに連結されるサスペンションタワーと、
前記ダッシュパネルに車両前方に突出するように配置されるマスタシリンダと、
前記サイドメンバの縦壁部及び上面部に沿うように当該サイドメンバに取付けられる取付部及び当該取付部から前記エンジンルーム内側に突出する支持部を備え、鋳造品からなるインバータブラケットと、
前記インバータブラケットの支持部の上面に載置され前記マスタシリンダの車両前方に配置されるインバータとを備え、
前記取付部の車両後方端部が前記サスペンションタワーの車両前面部から所定距離車両前方に位置するように前記インバータブラケットを前記サイドメンバに取付ける車両のインバータ搭載構造。
【請求項2】
前記マスタシリンダに対向する前記インバータの壁面にプロテクタが取付けられ、前記プロテクタは少なくとも車両幅方向内側から車両後方幅方向外側に向けて斜めな傾斜面を有する請求項1に記載の車両のインバータ搭載構造。
【請求項3】
前記インバータは前記マスタシリンダに対向する壁面に電力線接続用のコネクタを備え、
前記プロテクタにより前記コネクタを覆う請求項2に記載の車両のインバータ搭載構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−35445(P2013−35445A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173852(P2011−173852)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】