説明

車両のエンジンルーム用衝撃吸収部材

【課題】平端面がないエンジンルーム内の箇所であっても容易に配置でき、衝突エネルギを効率よく吸収することができる車両のエンジンルーム用衝撃吸収部材を提供すること。
【解決手段】衝撃吸収部材30は、単一の取り付け部34と変形部36とを含んで構成されている。変形部36は、変形前に、雄ねじ部材20の端部の上方から水平方向に変位した箇所に位置している。変形部36は、頭部インパクタ32の衝撃によるフード部材12の雄ねじ部材20の端部方向への変位時に、フード部材12に接触して衝撃エネルギを吸収しつつ変形し雄ねじ部材20の端部を覆う。衝撃吸収部材30は板金製であり、変形時に雄ねじ部材20の端部を覆う箇所が、金属板の2つの部分30A、30Bが重ね合わされた箇所となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者との衝突時に歩行者がフード部材側から受ける衝撃を緩和する車両のエンジンルーム用衝撃吸収部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンルームを開閉するフード部材は、車体の外観をなすアウタパネルと、エンジンルーム側に位置するインナパネルとで構成されている。
従来、エンジンルームの上部に上方に突出する突起物が位置している場合、歩行者との衝突の際に歩行者の頭部がフード部材を介してこのような突起物から受ける衝撃を緩和する構造を、インナパネル側に設けているものが多い。
一方、上下のスペース上、インナパネル側にこのような構造を設けることができない場合や、インナパネル側にこのような構造を設けるとコスト高となる理由などから、衝撃を緩和する衝撃吸収体を、エンジンルーム側に設けたものも提案されている。この衝撃吸収体は、突起物であるボルトの端部からの衝撃を緩和するもので、複数の脚部と、それら脚部の上端を接続する上板部とを含んで構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3120656号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の衝撃吸収体では、複数の脚部が載置される剛性を備えた平坦面が必要となり、剛性を有する平端面がないエンジンルーム内の箇所には衝撃吸収体を配置できない場合がある。
また、上板部でボルトの端部の上方を覆うようにしているため、ボルトの端部に螺合するナットを回転操作する場合にその操作がしにくい場合がある。
本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的は、平端面がないエンジンルーム内の箇所であっても容易に配置でき、また、衝突エネルギを効率よく吸収することができる車両のエンジンルーム用衝撃吸収部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため本発明は、エンジンルームの上部に上方に突出する突起物が位置し、前記突起物の上端がエンジンルームの上方を覆うフード部材に対向する車両に設けられる衝撃吸収部材であって、前記衝撃吸収部材は、前記突起物の上端の近傍のエンジンルーム内に取着される単一の取り付け部と、前記取り付け部から上方に延在し前記フード部材の前記突起物の上端方向への変位時に、前記フード部材に接触して衝撃エネルギを吸収しつつ変形し前記突起物の上端を覆う変形部とを含んで構成され、前記変形部は、前記変形前に前記突起物の上端の上方から水平方向に変位した箇所に位置し前記突起物の上端を上方に露出させる形状で形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1記載の発明によれば、衝撃吸収部材の取り付け部は単一であるため、剛性を有する平坦面を要することなく、衝撃吸収部材を簡単に配置する上で有利となり、また、突起物の上端は上方に露出するので、突起物が雄ねじ部材である場合、雄ねじ部材の頭部や、雄ねじ部材に螺合するナットの回転操作を簡単に行なう上で有利となる。
請求項2記載の発明によれば、フード部材に接触する以前では、突起物の上端を上方に露出させ、また、フード部材に接触した以降は、脚部と上部との変形により衝撃の衝撃エネルギを吸収し緩和することができる衝撃吸収部材が得られる。
請求項3記載の発明によれば、変形部の変形は、取り付け部により拘束されつつ行われ、衝撃エネルギが効率よく吸収され、衝撃をより効果的に緩和する上で有利となり、また、突起物の上端が、変形時に金属板の2つの部分が重ね合わされた箇所で覆われるので、フード部材が衝撃吸収部材を介して突起物の上端に衝突した際の衝撃をより分散し、緩和する上で有利となる。
請求項4記載の発明によれば、突起物が、エンジンルームの上部に配置される部品、部材を固定する雄ねじ部材の場合、雄ねじ部材の頭部や、雄ねじ部材に螺合するナットの回転操作を簡単に行なう上で有利となる。
請求項5記載の発明によれば、雄ねじ部の雄ねじに螺合するナットを利用することで、取り付け部をエンジンルーム内に簡単に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施の形態の衝撃吸収部材の斜視図である。
【図2】(A)〜(D)は本実施の形態の衝撃吸収部材を備えた車両の頭部インパクタ試験の説明図である。
【図3】頭部インパクタ試験の試験結果を示す図である。
【図4】(A)、(B)は衝撃吸収部材を備えていない車両の頭部インパクタ試験の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって説明する。
図1、図2(A)に示すように、エンジン及びトランスミッション(図示省略)などが配設されたエンジンルーム10の上部はフード部材12により開閉され、フード部材12は、車体の外観をなすアウタパネル(図示省略)と、エンジンルーム10側に位置するインナパネル(図示省略)とで構成されている。
エンジンルーム10の上部にバッテリ14が配置されている。バッテリ14の取り付けは、車体側で支持されたバッテリトレイ16の上にバッテリ14が載置され、バッテリ14の上面に当接可能に押さえ板18が配置され、バッテリトレイ16から押さえ板18上にわたって雄ねじ部材20が挿通され、押さえ板18上で雄ねじ部材20の端部である雄ねじ部に螺合させたナット22により押さえ板18をバッテリトレイ16側に締め付けることでなされている。
したがって、エンジンルーム10の上部に、エンジンルーム10の上部に配置される部品、部材であるバッテリ14を固定する雄ねじ部材20の端部が位置し、雄ねじ部材20の端部が上方に露出してフード部材12に対向している。本実施の形態では、雄ねじ部材20の端部は、雄ねじ部の端部であるが、雄ねじ部材20の端部は、雄ねじ部よりも断面の大きいものであってもよい。なお、本発明は、エンジンルーム10の上部で上方に突出する突起物は雄ねじ部材20に限定されず、突起物は、エンジンルーム10の上部に配置される部品、部材の部分であってもよいことは無論のことである。
【0009】
図1、図2に示すように、衝撃吸収部材30は、頭部インパクタ32がフード部材12を介して雄ねじ部材20の端部に衝突する際の衝撃を緩和するものであり、衝撃吸収部材30は、単一の取り付け部34と変形部36とを含んで構成され、変形部36は、脚部38と上部40とを含んで構成されている。
衝撃吸収部材30は、幅よりも大きい寸法の長さを有する細長形状の一枚の金属板(鋼板)が屈曲形成された板金製である。なお、本発明の衝撃吸収部材30は、細長形状の一枚の金属板を屈曲形成したものに限定されず、型により一体成形された金属製や合成樹脂製の部材であってもよい。
【0010】
取り付け部34は、雄ねじ部材20の端部の近傍のエンジンルーム10内に取着されている。
取り付け部34は、金属板の長さ方向の両端の平坦な部分が重ね合わされて構成されており、金属板の長さ方向の両端の平坦な部分が重ね合わされた箇所に、雄ねじ部材挿通孔3402(図2(A)参照)が貫通されている。
取り付け部34のエンジンルーム10内への取り付けは、雄ねじ部材挿通孔3402に雄ねじ部材20が挿通され、雄ねじ部材20の雄ねじ部に螺合するナット22により、押さえ板18と共にバッテリ14の上面に締め付けられることでなされている。雄ねじ部材20、ナット22の締付時に取り付け部34を挟み、締付けて組み込むことで、特殊な工具、工法が不要である。
すなわち、衝撃吸収部材30の取り付け部34は単一であり、また、雄ねじ部材20に螺合するナット22を利用することで単一の取り付け部34がエンジンルーム10内に取着されることから、何ら特別の部材を要することなく、また、剛性を有する平坦面を要することなく、衝撃吸収部材30が簡単にかつ周辺部品を避けて配置できるように図られている。
【0011】
脚部38は、取り付け部34から雄ねじ部材20の軸方向に沿ってフード部材12側に起立している。
脚部38は、金属板の長さ方向の両端の平坦な部分に接続する金属板の2つの部分で形成され、それら金属板の2つの部分は重ね合わされ、あるいは、互いに離間し平行している。剛性アップを考慮し、脚部38を、金属板の2つの部分を重ね合わせて構成する場合、それらをスポット溶接により接合してもよい。
【0012】
上部40は、脚部38の先部で雄ねじ部材20の端部と反対側に突出する形状で形成され、脚部38を構成する金属板の2つの部分に接続する金属板の部分により内部に空間部を画成する形状で、フード部材12と接触しないように形成されている。本実施の形態では、上部40は、一辺がフード部材12にほぼ平行して延在し、他の一辺がほぼ水平方向に延在し、残りの一辺が脚部38の延長上を延在する三角形状に形成されている。
したがって、脚部38と上部40とからなる変形部36は、後述する変形前に、雄ねじ部材20の端部の上方から水平方向に変位した箇所に位置している。すなわち、雄ねじ部材20の端部の上方には衝撃吸収部材30の部分は存在せず、エンジンルーム10内において雄ねじ部材20の端部は上方に露出し、ナット22の回転操作が簡単にできるように図られている。
【0013】
脚部38と上部40とからなる変形部36は、頭部インパクタ32の衝撃によるフード部材12の雄ねじ部材20の端部方向への変位時に、フード部材12に接触して衝撃エネルギを吸収しつつ変形し雄ねじ部材20の端部を覆うように形成され、衝撃エネルギは、上部40と脚部38との変形で吸収され緩和される。
本実施の形態では、脚部38と上部40とは、変形時に雄ねじ部材20の端部を覆う箇所が、図2(D)に示すように、金属板の2つの部分30A、30Bが重ね合わされた箇所となるように形成され、頭部インパクタ32がフード部材12、衝撃吸収部材30を介して雄ねじ部材20の端部に衝突した際の衝撃がより分散され、緩和されるように図られている。
より詳細には、変形時に雄ねじ部材20の端部を覆う衝撃吸収部材30の箇所が、上部40を構成する金属板の2つの部分が重ね合わされた箇所、あるいは、上部40を構成する金属板の部分と脚部38を構成する金属板の部分とが重ね合わされた箇所、あるいは、脚部38を構成する金属板の2つの部分が重ね合わされた箇所となるように、変形部36の形状が形成されている。このような変形部36の形状は実施の形態の形状以外に様々な形状が考えられ、本発明はそれら全ての形状に適用される。
また、上部40を構成する金属板の両端は、それぞれ脚部38を構成する金属板の部分に接続され、また、脚部38を構成する金属板の部分は、それぞれ取り付け部34を構成する重ねられた2つの金属板の部分に接続されていることから、変形部36の変形は、取り付け部34により拘束されつつ行われ、衝撃エネルギが効率よく吸収され、衝撃がより効果的に緩和するように図られている。
【0014】
なお、上記の実施の形態では、取り付け部34がナット22により締め付けられて取着されている場合について説明したが、取り付け部34は、例えば、突起物の上端の近傍のエンジンルーム10内の箇所に溶接により取着されていてもよく、本発明において取り付け部34がエンジンルーム10内に取り付けられる構造には従来公知の様々な手段が採用可能である。
【0015】
図2(A)〜(D)に示すように、頭部インパクタ32を用いた頭部インパクタ試験を行い、その結果を図3に実線で示し、図3の点線は、図4(A)、(B)に示すように、衝撃吸収部材30を備えていない従来構造の試験結果を示す。
図3の縦軸は頭部インパクタ32の減速の加速度を示し、横軸は頭部インパクタ32の変位量を示している。
図3において、点Aは、フード部材12が衝撃吸収部材30に接触した時点を示している。また、実線における点Bは、頭部インパクタ32がフード部材12および金属板の2つの部分30A、30Bが重ね合わされた箇所を介して雄ねじ部材20の端部に接触した時点を示し、点線における点Cは、頭部インパクタ32がフード部材12を介して雄ねじ部材20の端部に接触した時点を示している。
【0016】
本実施の形態では、フード部材12が衝撃吸収部材30に接触した時点Aから、衝撃吸収部材30が衝撃エネルギを吸収しつつ変形することから、頭部インパクタ32の減速の加速度を緩やかに減少させていることが分かる。
また、頭部インパクタ32がフード部材12および金属板の2つの部分30A、30Bが重ね合わされた箇所を介して雄ねじ部材20の端部に接触する以前に、衝撃の衝撃エネルギが衝撃吸収部材30により吸収されていることから、頭部インパクタ32がフード部材12および金属板の2つの部分30A、30Bが重ね合わされた箇所を介して雄ねじ部材20の端部に接触した時点Bでも、また、時点B以降も、頭部インパクタ32の減速の加速度が急激に上昇することはなく、衝撃が緩和されることが明らかである。
【0017】
これに対して、衝撃吸収部材30を備えていない従来構造では、フード部材12が衝撃吸収部材30に接触した時点Aから、衝撃の衝撃エネルギが本実施の形態のように吸収されないため、頭部インパクタ32の減速の加速度が急激に減少し、以後、頭部インパクタ32の速度低下が小さいことが分かる。
また、頭部インパクタ32がフード部材12を介して雄ねじ部材20の端部に接触した時点Cから、衝撃の衝撃エネルギが吸収されていないため、減速の加速度が急激に上昇し、本実施の形態のように衝撃が緩和されないことが明らかである。
つまり、フード部材12と衝撃吸収部材30の接触時には衝撃吸収部材30が変形するまで荷重を出し、衝撃吸収部材30の屈曲変形後は雄ねじ部材20とフード12の間で衝撃吸収部材30が圧壊するまで荷重を出すことで、エネルギ吸収を効率良く行うのである。
本発明は、歩行者との衝突時に問題となる雄ねじ部材20やナット22の締付時に本発明の衝撃吸収部材30の取り付け部34を挟み、締付けるだけで組み込むことができ、特殊な工具及び工法も不要であり、容易に設置することが可能である。また取り付け面を共用でき、周辺部品を避けて設置することが可能である。
また本発明は、フード部材12の形状や剛性を変えるなどフード部材12側で対応するのではなく、傷害値を悪化させる雄ねじ部材20側に着目し、フード部材12と雄ねじ部材20間の隙間を埋め、衝撃のエネルギ吸収を効率よく行うことが可能となっており、エネルギ吸収効率のためにフード部材12に合わせて適宜、衝撃吸収部材30の高さ、長さ、形状及び板厚、材質、幅などの様々な調節をすることができ、かつ調整が容易である。
なお、本実施例ではエンジンを搭載した車のエンジンルームの場合を説明したが、衝撃吸収部材30はエンジン搭載車だけに限定されず、電気自動車のようにモータを搭載したモータルームなどの他のものにも用いることができることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0018】
10……エンジンルーム、12……フード部材、14……バッテリ、18……押さえ板、20……雄ねじ部材、22……ナット、30……衝撃吸収部材、32……頭部インパクタ、34……取り付け部、36……変形部、38……脚部、40……上部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームの上部に上方に突出する突起物が位置し、前記突起物の上端がエンジンルームの上方を覆うフード部材に対向する車両に設けられる衝撃吸収部材であって、
前記衝撃吸収部材は、前記突起物の上端の近傍のエンジンルーム内に取着される単一の取り付け部と、前記取り付け部から上方に延在し前記フード部材の前記突起物の上端方向への変位時に、前記フード部材に接触して衝撃エネルギを吸収しつつ変形し前記突起物の上端を覆う変形部とを含んで構成され、
前記変形部は、前記変形前に前記突起物の上端の上方から水平方向に変位した箇所に位置し前記突起物の上端を上方に露出させる形状で形成されている、
ことを特徴とする車両のエンジンルーム用衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記変形部は、前記取り付け部から前記突起物の突出方向に沿って前記フード部材側に起立する脚部と、前記脚部の先部で前記突起物の上端と反対側に突出し前記フード部材の前記突起物の上端方向への変位時に前記フード部材に接触する上部とを含んで構成され、
前記衝撃エネルギの吸収は、前記脚部と前記上部との変形により行われる、
ことを特徴とする請求項1記載の車両のエンジンルーム用衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記衝撃吸収部材は、一枚の金属板が屈曲されて形成された板金製であり、
前記取り付け部は、前記金属板の長さ方向の両端の平坦な端部が重ね合わされて形成され、
前記変形時に前記突起物の上端を覆う前記変形部の箇所は、前記金属板の2つの部分が重ね合わされた箇所となる、
ことを特徴とする請求項1または2記載の車両のエンジンルーム用衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記突起物は、前記エンジンルームの上部に配置される部品、部材を固定する雄ねじ部材であり、
前記突起物の上端は、前記雄ねじ部材の端部である、
ことを特徴とする請求項1乃至3に何れか1項記載の車両のエンジンルーム用衝撃吸収部材。
【請求項5】
前記雄ねじ部材は雄ねじ部を有し、
前記雄ねじ部材の端部は前記雄ねじ部の端部であり、
前記雄ねじ部の端部の近傍に、前記部品、部材を締め付けるナットが螺合されており、
前記衝撃吸収部材の取り付け部は、前記部品、部材と共に前記ナットで締め付けられて取着されている、
ことを特徴とする請求項4記載の車両のエンジンルーム用衝撃吸収部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−171454(P2012−171454A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34460(P2011−34460)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】