説明

車両のカウルトップパネル構造

【課題】部品点数及び組付工数の増大によるコストアップや重量増加を招くことなく、ワイパー駆動機構の被水を防ぐことができる車両のカウルトップパネル構造を提供すること。
【解決手段】車両前部に配置されたフロントガラス1の下部を支持するカウルトップパネル2を前記フロントガラス1の下端に沿って車幅方向に長く配置し、該カウルトップパネル2の前端縁の下方に前記フロントガラス1のワイパー駆動機構6を配置した車両の前記カウルトップパネル2の構造を、前記カウルトップパネル2の前端縁に、該前端縁から前下方に延出する突出部2aを設け、該突出部2aを前記ワイパー駆動機構の6水受け11の上方に配置し、該水受け11によって前記突出部2a及びこれに形成された治具孔4から垂れる水を受け止めるよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部に配置されたフロントガラスの下部を支持するカウルトップパネルの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のカウルトップパネル構造を図6及び図7に示す。
【0003】
即ち、図6はフロントガラス下端部周辺の部分斜視図、図7は図6の要部(カウルトップパネルの治具孔部分)の拡大詳細図であり、車両前部に配置されたフロントガラス101の下部はカウルトップパネル102によって支持されている。このカウルトップパネル102は、フロントガラス101の下端に沿って車幅方向に長く配置されており、該カウルトップパネル102の前端縁の下方にはフロントガラス101の雨水や汚れを払拭するワイパー(不図示)を駆動するワイパー駆動機構106が配置されている。
【0004】
上記カウルトップパネル102は、車体への取付位置精度を上げるために、その前端縁の車幅方向両端部に治具孔104が形成されている。又、運転席側のワイパーの揺動中心であるワイパー軸112は、フロントガラス101の運転者側の広いエリアをワイパーが払拭して雨天時の運転者の視認性を高めるために車幅方向で運転席側の最大限外側に配置されているが、ワイパー駆動機構106の車体への取り付け等の関係から、ワイパー軸112は不図示のカウルサイドパネルから少し内側に離れた位置に配置されている。このため、図6に破線矢印にて示すようにフロントガラス101に沿って流れる雨水や洗車水がカウルトップパネル102の雨樋状の前端縁に沿って左右の流れ、その一部は図7に示すように治具孔104からワイパー駆動機構106へと落下し、ワイパー駆動機構106に錆の発生や可動部(摺動部)からのグリス等の潤滑油の流出及び可動部(摺動部)が錆びることによる駆動抵抗の増大等の不具合が発生する可能性がある。
【0005】
そこで、カウルトップパネル102に形成されるワイパー軸102を貫通配置するための孔からの水の浸入に対する被水対策として従来から設定されているワイパー駆動機構106の水受け111を大きくし、カウルトップパネル102の治具孔104から垂れる水をも水受け111によって受け止めるようにしている。又、別の対策として、カウルトップパネル102の治具孔104をキャップ等によって塞ぐ方法も採用されている。
【0006】
ところで、特許文献1には、カウルトップパネルに形成された凹部に溜まる水を排水する構成として、凹部の前端部に水抜き孔を形成し、この水抜き孔からカウルボックス内に落下する水をカウルボックスの底部に凹設した排水溝に誘導することによって、ワイパー駆動機構の被水を防いで防錆性能を高める構成が開示されている。
【0007】
又、特許文献2には、ワイパー駆動機構のワイパー軸(ピボット軸)に水受け(防水キャップ)を固定して該水受けをワイパー軸と共に回動するよう構成し、水受けに形成された排水パイプをワイパー駆動機構のピボットレバーに挿通させることによって、ワイパー駆動機構のリンク機構やワイパー軸のレイアウト上の自由度を高めるようにした構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−002444号公報
【特許文献2】特開2005−324710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ワイパー軸用の孔からの水の浸入による被水対策として従来から設定されている水受けを大きくし、カウルトップパネルの治具孔から垂れる水を水受けによって受け止める構成を採用した場合、水受けの大型化によって重量増加やコストアップ及び大型化した水受けによって締め付け固定箇所が隠されてしまうため、ワイパー駆動機構106の車体への組付作業性の悪化を招くという問題が発生する。
【0010】
又、カウルトップパネルの治具孔をキャップ等によって塞ぐ方法では、部品点数や組付工数が増加してコストアップを招くという問題が発生する。
【0011】
尚、特許文献1,2には、カウルトップパネルの治具孔からの水の落下によるワイパー駆動機構の被水の問題を解決する構成は開示されていない。
【0012】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、部品点数及び組付工数の増大によるコストアップや重量増加を招くことなく、ワイパー駆動機構の被水を防ぐことができる車両のカウルトップパネル構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、車両前部に配置されたフロントガラスの下部を支持するカウルトップパネルを前記フロントガラスの下端に沿って車幅方向に長く配置し、該カウルトップパネルの前端縁の下方に前記フロントガラスのワイパー駆動機構を配置した車両の前記カウルトップパネルの構造を、前記カウルトップパネルの前端縁に、該前端縁から前下方に延出する突出部を設け、該突出部を前記ワイパー駆動機構の水受けの上方に配置し、該水受けによって前記突出部から垂れる水を受け止めるよう構成したことを特徴とする。
【0014】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記カウルトップパネルの突出部の前記ワイパー駆動機構の上方に治具孔を形成し、該治具孔から垂れる水を前記水受けによって受け止めることを特徴とする。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記突出部又は前記治具孔を運転席側のワイパー軸よりも車幅方向外側に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明によれば、カウルトップパネルに突出部を設けることによって、水が垂れる位置を特定することができ、この突出部から垂れる水をワイパー駆動機構の水受けによって確実に受け止めることができ、ワイパー駆動機構の可動部に水が掛かることによる錆の発生や錆の発生による可動部の抵抗の増大等の不具合の発生が防がれる。この場合、ワイパー駆動機構の水受けの大きさを大きくする必要がないため、重量増加やコスアップを招くことがない。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、カウルトップパネルの突出部のワイパー駆動機構の上方に形成された治具孔から垂れる水をワイパー駆動機構の水受けによって確実に受け止めることができ、ワイパー駆動機構の可動部に水が掛かることによる不具合の発生を防ぐことができる。従って、カウルトップパネルの治具孔をキャップ等で塞ぐ必要がなく、部品点数や組付工数を削減してコストダウンを図ることができる。
【0018】
請求項3記載の発明によれば、運転席側のワイパー軸よりも車幅方向外側にカウルトップパネルの突出部又は治具孔を配置したため、水の流量が比較的多くなるフロントガラスの運転席側前端縁から流下する水をカウルトップパネルの突出部又は治具孔から垂らしてこれをワイパー駆動機構の水受けによって確実に受けることができ、ワイパー駆動機構の可動部に水が掛かることによる不具合の発生を防ぐことができる。
【0019】
又、治具孔を運転席側のワイパー軸よりも車幅方向外側に配置することによって、溶接工程におけるカウルトップパネルの位置決め精度を高めることができ、カウルトップパネルを溶接によって高精度に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るカウルトップパネル構造を示す車両のフロンガラス下端部周辺の部分斜視図である。
【図2】図1の要部(カウルトップパネルの治具孔部分)の拡大詳細図である。
【図3】カウルトップパネルの平面図である。
【図4】ワイパー駆動機構の正面図である。
【図5】図4のA−A線断面図である。
【図6】従来のカウルトップパネル構造を示すフロントガラス下端部周辺の部分斜視図である。
【図7】図6の要部(カウルトップパネルの治具孔部分)の拡大詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0022】
図1は本発明に係るカウルトップパネル構造を示す車両のフロントガラス下端部周辺の部分斜視図、図1の要部(カウルトップパネルの治具孔部分)の拡大詳細図、図3はカウルトップパネルの平面図、図4はワイパー駆動機構の正面図、図5は図4のA−A線断面図である。
【0023】
図1に示すように、車両前部に配置されたフロントガラス1はその下部がカウルトップパネル2によって支持されており、カウルトップパネル2はフロントガラス1の下端に沿って車幅方向に長く配置され、その前端縁が下方となるよう斜めに配置されている。尚、カウルトップパネル2の上方には、フロントガラス1とフロントフードとの間の隙間を覆う不図示のカウルトップガーニッシュが設けられており、カウルトップパネル2は、図1に示すカウルサイドパネル3と不図示のダッシュアッパパネル及びカウルフロントパネルと共にカウルボックスを構成している。
【0024】
上記カウルトップパネル2は、図3に示すように、その前端縁の車幅方向両端部に、該前端縁から前下方に延出する突出部2aがそれぞれ設けられており、各突出部2aには円孔状の治具孔4がそれぞれ形成されている。
【0025】
又、図1に示すように、カウルトップパネル2の前端縁の下方には、フロントガラス1の表面に付着した雨水や洗車水を払拭するワイパー5を揺動させるためのワイパー駆動機構6が配置されている。このワイパー駆動機構6は、図4に示すように、駆動源としての電動モータ7やリンク機構8、ステー9及びワイパー5が取り付けられる左右(運転席側、助手席側)のワイパー軸12を含んで構成されており、ワイパー駆動機構6は、車幅方向の左右両端がボルト10によって結着されることによって車体に取り付けられている。詳細には、ワイパー駆動機構6は、車両の中央付近位置から運転席の前方位置に渡ってカウルボックス内に配置され、車両の中央付近に配置される助手席側のワイパー軸12よりも助手席側でボルト10によってカウルボックス内に結着されるとともに、運転席の前方に配置される運転席側のワイパー軸12よりも車両の側方側でボルト10によってカウルボックス内に結着される。
【0026】
ワイパー駆動機構6の車幅方向に配されたステー9の左右取付部の外側には樹脂製或いはアルミ製の水受け11がワイパー軸12の周りにそれぞれ取り付けられている。各水受け11は、周囲(少なくとも車両後方側と左右側)に上方に立設したリブを有する角皿状に一体成形され、その1箇所(車両前方側)が切り欠かれており、この水受11に受けられる水は切欠き部から流れ落ちて排出される。そして、各水受け11の中心部には円筒状の軸受ボス11Aが一体に挿通立設(水受11の面を貫通するように円筒状の軸受ボス11Aが一体に形成されている。)されており、図5に示すように、各軸受ボス11Aの円孔11a内にはワイパー軸12がその先端を上方に突出させるようにそれぞれ挿通している。尚、ワイパー軸12の上端には前記ワイパー5(図1参照)の基端部が結着され、ワイパー軸12下端部には前記リンク機構8の一部を構成するリンク13が結着されている。
【0027】
ここで、図1に示すように、運転席側のワイパー5の揺動中心である運転席側のワイパー軸12は、フロントガラス1の運転者側の広いエリア(特にフロントガラス1の上方側のエリア)をワイパー5が払拭して雨天時の運転者の視認性を高めるために最大限外側に配置されているが、ワイパー駆動機構6の車体への取り付け等の関係から、ワイパー軸12はカウルサイドパネル3から少し内側に離れた位置に配置されている。つまり、ワイパー駆動機構6は、前述したように運転席側のワイパー軸12よりも車両の側方側でボルト10によってカウルボックス内に結着されるため、この締付箇所及び作業空間をワイパー軸12とカウルサイドパネル3の間に確保するように、ワイパー軸12はカウルサイドパネル3から少し内側に離れた位置に配置されている。
【0028】
而して、本実施の形態では、図1及び図2に示すように、カウルトップパネル2の前端縁の運転者側(右側)に設けられた突出部2a及びこれに形成された治具孔4をワイパー駆動機構6の運転席側の水受け11の上方であって、且つ、運転席側のワイパー軸12よりも車幅方向外側に配置している。詳細には、車両の左右方向において、運転席側のワイパー軸12とカウルサイドパネル3の間にワイパー駆動機構6の車体取り付け箇所(ボルト10による締結箇所)を配置し、この車体取付箇所と運転席側のワイパー軸12の間に運転席側のワイパー軸12の周りに取り付けられている水受け11の車両側方側の端縁を配置して、ワイパー駆動機構6の締付固定作業空間を確保している。そして、運転席側のワイパー軸12と水受け11の車両側方側の端縁との間に突出部2a及びこれに形成された治具孔4を配置している。更に、車両の前後方向において、運転席側のワイパー軸12と水受け11の車両後方側の端縁との間に突出部2aの先端(前端)及びこれに形成された治具孔4を配置している。
【0029】
以上のように、本実施の形態では、カウルトップパネル2に突出部2aを設けることによって、フロントガラス1から流下する水を誘導してその先端部や治具孔から滴下させ、水がたれる位置を特定することができ、この突出部2aに形成された治具孔4から垂れる水をワイパー駆動機構6の運転席側(右側)の水受11によって確実に受け止めることができ、ワイパー駆動機構6の可動部に水が掛かることによる錆の発生や、錆による可動部の抵抗の増大等の不具合の発生が防がれる。この場合、ワイパー駆動機構6の水受け11の大きさを大きくする必要がないため、重量増加やコスアップを招くことがない。又、カウルトップパネル2の治具孔4をキャップ等で塞ぐ必要がないため、部品点数や組付工数を削減してコストダウンを図ることができる。
【0030】
又、本実施の形態では、運転席側のワイパー軸12よりも車幅方向外側にカウルトップパネル2の突出部2aと治具孔4を配置したため、水の流量が比較的多くなるフロントガラス1の運転席側前端縁から流下する水をカウルトップパネル2の治具孔4から垂らしてワイパー駆動機構6の水受け11によって確実に受けることができ、ワイパー駆動機構6の可動部に水が掛かることによる不具合の発生を防ぐことができる。
【0031】
更に、本実施の形態では、治具孔4を運転席側のワイパー軸12よりも車幅方向外側に配置したため、溶接工程におけるカウルトップパネル2の位置決め精度を高めることができ、カウルトップパネル2を溶接によって高精度に取り付けることができるという効果が得られる。
【符号の説明】
【0032】
1 フロントガラス
2 カウルトップパネル
2a カウルトップパネルの突出部
3 カウルサイドパネル
4 治具孔
5 ワイパー
6 ワイパー駆動機構
11 水受け
11A 水受けの軸受ボス
12 ワイパー軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部に配置されたフロントガラスの下部を支持するカウルトップパネルを前記フロントガラスの下端に沿って車幅方向に長く配置し、該カウルトップパネルの前端縁の下方に前記フロントガラスのワイパー駆動機構を配置した車両の前記カウルトップパネルの構造であって、
前記カウルトップパネルの前端縁に、該前端縁から前下方に延出する突出部を設け、該突出部を前記ワイパー駆動機構の水受けの上方に配置し、該水受けによって前記突出部から垂れる水を受け止めるよう構成したことを特徴とする車両のカウルトップパネル構造。
【請求項2】
前記カウルトップパネルの突出部の前記ワイパー駆動機構の上方に治具孔を形成し、該治具孔から垂れる水を前記水受けによって受け止めることを特徴とする請求項1記載の車両のカウルトップパネル構造。
【請求項3】
前記突出部又は治具孔を運転席側のワイパー軸よりも車幅方向外側に配置したことを特徴とする請求項1又は2記載の車両のカウルトップパネル構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−254671(P2012−254671A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127626(P2011−127626)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】