説明

車両のカウル部構造

【課題】コストを要するシール材を使用せずに接合部の水漏れを防止できる車両のカウル部構造を提供する。
【解決手段】カウルトップガーニッシュ(5)が、カウルフロントパネル(4)の上側にカウルボックス(10)の前壁上部を構成する前壁部(52)を有し、前記前壁部の下端部に、車両前後方向の前方に岐出し前記カウルフロントパネルの上縁部(41)に載置状態で固定される第1縁部(54)と、前記上縁部の後方に延出し前記前壁部に流入した水を前記カウルボックス内に流下させるための第2縁部(55)とが形成されている車両のカウル部構造において、前記前壁部の前記下端部が車幅方向に傾斜を有する区間(52c)に、前記前壁部から前記第2縁部の下端にかけて上下方向に延びる少なくとも1つの襞形状部(59)が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のカウル部構造に関し、さらに詳しくは、カウルボックスの上部を覆うカウルトップガーニッシュの構造に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
車体前部にエンジンルームまたはトランクスペースを有する車両は、フロントウインドウの下縁部に沿ってカウルボックスが設けられている。カウルボックスは、ダッシュパネルの上部に接合されたカウルトップパネルとその前方のカウルフロントパネルとによって車幅方向に延びる略樋状に形成されており、その内部には、フロントウインドウ用ワイパーの作動機構部(リンク機構およびモーター)が収容され、カウルボックスの上部はカウルトップガーニッシュで覆われている(特許文献1,2参照)。
【0003】
これらのうち、特許文献1では、カウルボックスの前壁部を構成するカウルフロントパネルの上縁部が、フロントフード後縁部の直下まで達しており、カウルトップガーニッシュは、フロントフード後縁部とフロントウインドウ下縁部との間の開口を塞ぐ蓋としての機能が主であるのに対し、特許文献2では、カウルボックスの前壁上部を構成する前壁部が、カウルトップガーニッシュ(上壁部)と一体に形成されている。すなわち、カウルボックスの前壁上部は、カウルトップガーニッシュ(前壁部)によってエンジン室と仕切られている。
【0004】
一方、カウルボックスは、外気を車室内に取り入れる外気導入経路としての機能も有しており、カウルトップガーニッシュの上壁部には、カウルボックス内に外気を導入するための通気孔が設けられている。この通気孔を通って雨水や洗車時の洗浄水もカウルボックス内に流入するため、カウルボックスは排水経路としての機能も有している。
【0005】
したがって、カウルボックスの前壁上部が、カウルトップガーニッシュの前壁部からなる特許文献2は勿論のこと、特許文献1の形態でも、カウルボックス内に流入した雨水等がエンジン室に浸入しないように、カウルフロントパネル上縁部とカウルトップガーニッシュとの接続部には防水対策を施す必要がある。
【0006】
特許文献1では、カウルフロントパネル上縁部とカウルトップガーニッシュとの接続部にシール材を設定している。しかし、シール材を設定すると、その分、製造コストが増加することに加えて、シール不良によるエンジン室への浸水を防止するために、厳密な品質管理が要求されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−6732号公報
【特許文献2】特開2005−119456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
カウルフロントパネルとカウルトップガーニッシュとの接続部にシール材を用いない防水構造としては、図1およびその要部拡大図である図3(a)に示すように、カウルトップガーニッシュ前壁部52の下端部に、カウルフロントパネル4の上縁部41に載置状態で固定される第1縁部54と、上縁部41の後方に延出した第2縁部55を形成し、前壁部52を伝って流れる雨水Wを、上縁部41の上端より下方に延びた第2縁部55により、矢印Waに示すように、カウルボックス10内に流下させる構造が提案されている。
【0009】
しかし、この構造を実施するに際して、さらに考慮すべき課題が生じた。図2に示すように、カウルトップガーニッシュ前壁部52の下端部の高さは車幅方向に一様ではなく、フロントウインドウ用ワイパーの作動機構部(ギヤボックス15およびモーター16)と重なる位置(低位部52b)が、一般部(高位部52a)に比べて低くなっており、高位部52aと低位部52bとの間に傾斜区間52cがある。
【0010】
そのため、大雨時や洗車時などに、通気孔50c,50dやワイパー取付け孔50a,50bを通じて一時に多量の水がカウルボックス内に流入すると、前壁部52の傾斜区間52cに沿って横方向への流れを生じることになる。その場合、傾斜区間52cの存在によって、図3(b)に示すように、高位部52aにおける第2縁部55の最下端よりも、低位部52bにおけるカウルフロントパネル上縁部41が低位置にあることから、水の表面張力によって、図3(a)および(b)に矢印Wbで示すように、第2縁部55の裏面側に回り込み、カウルフロントパネル4とカウルトップガーニッシュ5との接合部(41,54)を通じてエンジン室60側に漏出することが懸念された。
【0011】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、コストを要するシール材を使用せずに接合部の水漏れを防止できる車両のカウル部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両のカウル部構造は、
フロントウインドウ下縁部に沿って車幅方向に延在するカウルボックス(10)と、
前記カウルボックスの前壁下部を構成するカウルフロントパネル(4)と、
前記カウルボックスの上部を覆うカウルトップガーニッシュ(5)と、を備え、
前記カウルトップガーニッシュは、前記カウルフロントパネルの上側に前記カウルボックスの前壁上部を構成する前壁部(52)を有し、前記前壁部の下端部に、車両前後方向の前方に岐出し前記カウルフロントパネルの上縁部(41)に載置状態で固定される第1縁部(54)と、前記上縁部の後方に延出し前記前壁部に流入した水を前記カウルボックス内に流下させるための第2縁部(55)とが形成されているものにおいて、
前記前壁部の前記下端部が車幅方向に傾斜を有する区間(52c)に、前記前壁部から前記第2縁部の下端にかけて上下方向に延びる少なくとも1つの襞形状部(59)が形成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の好適な態様では、前記少なくとも1つの襞形状部(59)が、膨出部(57)内に三角形断面の樋形状部(58)として形成されている。また、前記襞形状部(59)が、相互に隣接して少なくとも2つ形成され、その隣接部が三角形断面の樋形状をなしていても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るカウル部構造は、上述の通り構成されているので、大雨時や洗車時などに一時に多量の水がカウルボックス内に流入した場合に、前壁部から第2縁部の下端に延びる襞形状部によって、前壁部に沿った横方向への流れが遮られ、第2縁部裏面側への水の回り込みが抑制されるとともに、少量の水が消勢された状態で裏面側に回り込んだとしても、襞形状部裏面側でさらに遮られることになるので、カウルボックス内に確実に流下させることができ、コストを要するシール材を使用せずに、カウルフロントパネルとカウルトップガーニッシュとの接合部からエンジン室側への漏出を防止できる。
【0015】
また、本発明において、前記少なくとも1つの襞形状部(59)が、滑らかな膨出部(57)内に三角形断面の樋形状部(58)として形成されている態様では、樋形状部によって、第2縁部表面側の水を確実にカウルボックス内に流下させることができるとともに、樋形状部が第2縁部裏面側に突出した襞形状となることで、裏面側に回り込んだ少量の水をもカウルボックス内に確実に流下させることができ、しかも、接合部における基本形状は維持されるので、カウルフロントパネル側の形状変更は不要であり、既存の構成に対して低コストで実施できる。
【0016】
さらに、本発明において、前記襞形状部(59)が、相互に隣接して少なくとも2つ形成され、その隣接部が三角形断面の樋形状をなしている態様では、2つの襞形状部間に樋形状が形成されることで、第2縁部裏面側に先鋭な襞形状が形成され、表裏両面側において横方向への水流を確実に遮ることができる。また、前記同様、接合部における基本形状は維持されるので、カウルフロントパネル側の形状変更は不要であり、既存の構成に対して低コストで実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明が実施される車両のカウル部を示す縦断面図である。
【図2】本発明が実施される車両のカウルトップガーニッシュ付近を示す背面図である。
【図3】図2のA−A断面図(a)およびそれに奥行きを反映した断面図(b)である。
【図4】本発明実施形態に係るカウルトップガーニッシュを示す図2のA−A断面付近における斜視図である。
【図5】図4のB方向矢視図である。
【図6】本発明実施形態に係る図2のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明が実施される車両のカウル部を示している。車両は、車体前部にエンジン室60を備えたフロントエンジン自動車であり、エンジン室60は、ダッシュパネル2によって乗員室20側と仕切られている。ダッシュパネル2の乗員室20側の面には、ブレーキリンフォース21が接合されており、それらを貫通する取付け孔に、ブレーキブースタ8が取り付けられている。
【0019】
ダッシュパネル2の上縁部22には、フロントウインドウ1の下縁部に沿って車幅方向に延在するカウルトップパネル3の下縁部32が接合されている。一方、接合部(22,32)の下方におけるダッシュパネル2のエンジン室60側の面には、カウルフロントパネル4の下縁部42が接合されている。これら、ダッシュパネル2の上部、カウルトップパネル3、および、カウルフロントパネル4によって、カウルボックス10が形成されている。すなわち、ダッシュパネル2の上部とカウルトップパネル3とによって、カウルボックス10の後壁部が形成され、カウルフロントパネル4によって、カウルボックス10の前壁下部が形成され、カウルボックス10の前壁上部から上壁部にかけての部分が、後述するカウルトップガーニッシュ5で覆われる。
【0020】
カウルボックス10は、フロントウインドウ1の下縁部に沿って車幅方向に延在する樋状をなし、その内部には、フロントウインドウ用ワイパー11の作動機構部(リンク機構13、ギヤボックス15、モーター16)およびそのベースフレーム14が、図示しないブラケットを介して取り付けられている。
【0021】
カウルトップガーニッシュ5は、フロントウインドウ1の下縁部とフロントフード6の後縁部との間にカウルボックス10の天井部を構成する上壁部51と、カウルフロントパネル4の上側にカウルボックス10の前壁上部を構成する前壁部52とが、前壁部52の上縁部53付近で一体となっており、全体が樹脂射出成形品として一体成形されている。
【0022】
上壁部51の後縁部56の裏面側には、フロントウインドウ1の下縁部に係合する係合部56a(係合爪)が形成され、かつ、カウルトップパネル3の上縁部31に係合するフランジが突設されている。前壁部52の上縁部53には、フロントフード6の後縁部裏面に当接するウェザーストリップ7が嵌着される。既に述べたように、前壁部52の下端には、車両前後方向の前方に岐出してカウルフロントパネル4の上縁部41に載置状態で固定される第1縁部54、および、上縁部41の後下方に延出した第2縁部55が形成されている。
【0023】
前壁部52の第1縁部54には、車幅方向に間隔を有して数カ所の取付け穴(図示せず)が穿設されており、これらの取付け穴に挿通した図示しないクリップ(係止部材)を、カウルフロントパネル4の上縁部41に設けた穴に差し込んで係止することにより、カウルフロントパネル4への取付けがなされる。前壁部52の複数の取付け穴のうち、図4に示される位置決め基準穴54bは、クリップの径に対応した丸穴とし、それ以外は車幅方向の長穴とすることで、カウルトップガーニッシュ5の熱膨張・収縮に伴う長手方向(車幅方向)の寸法変化を許容できるようにしている。
【0024】
図2に示すように、カウルトップガーニッシュ5の前壁部52の下端部の高さが車幅方向に一様ではなく、フロントウインドウ用ワイパー11の作動機構部(ギヤボックス15およびモーター16)と重なる部分(低位部52b)が、一般部(高位部52a)に比べて低くなっており、高位部52aと低位部52bとの間に傾斜区間52cがあり、大雨時や洗車時などに一時に多量の水がカウルボックス10内に流入した場合に、傾斜区間52cに沿って横方向への流れを生じ、水の表面張力による第2縁部55の裏面側への回り込みが生じ易いことは既に述べた通りである。
【0025】
そこで、本発明に係るカウルトップガーニッシュ5は、図4〜6に示すように、前壁部52の傾斜区間52cに、前壁部52の基準面(図5に破線で示されている)に対して上方に膨出した膨出部57が形成されるとともに、膨出部57内に前記基準面まで凹陥した2箇所の樋形状部58が形成され、樋形状部58の中間と両側の3箇所に襞形状部59が形成されている。
【0026】
樋形状部58および襞形状部59は、膨出部57の略中間部から第2縁部55の下端に向かって上下方向に延び、第2縁部55では、図5に示されるように、左右非対称な略三角形断面となっており、傾斜区間52cの高位側がより急峻な傾斜面となっている。これにより、樋形状部58は、第2縁部55の表面側では排水路として機能する一方で、第2縁部55の裏面側では、回り込んだ水流に対する堰として機能することになる。
【0027】
すなわち、前壁部52から第2縁部55の下端に延びる樋形状部58によって、第2縁部55の表面側における排水が促進され、裏面側への水の回り込みが抑制されるとともに、少量の水が裏面側に回り込んでも、図5に示されるように、カウルフロントパネル4側に樋形状部58の裏面側で横方向への流れWがさらに遮られ、矢印Wcで示すように、カウルフロントパネル4側に流下させることができる。特に、第2縁部55の裏面側の最下端に形成される角部(図6)によって、水の表面張力や濡れ性に影響されず、回り込んだ水を確実に流下させることができる。
【0028】
また、図4に示す実施形態では、樋形状部58の高位側に、上壁部51と前壁部52の間の補強構造をなす縦壁の一部を延長して上下方向のリブ61が形成されることで、このリブ61が堰となって傾斜区間52cに流れる水量そのものが低減されるようにするとともに、低位部52bにも上下方向のリブ62が形成されている。しかし、これらのリブ61,62は、第2縁部55の成形性の点から、第1縁部54の分岐点を越えて第2縁部55まで形成することはできない。したがって、排水構造という点では補助的な構成となっている。
【0029】
以上、本発明の実施の形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能である。
【0030】
例えば、上記実施形態では、膨出部57に2つの樋形状部58を形成する場合を示したが、膨出部57に1つの樋形状部58(襞形状部59)を形成しても良い。また、一定の広がりを有する膨出部57を形成する代わりに、相互に隣接した2以上の畝部(稜部)として襞形状部59を形成し、その隣接部に三角形断面の樋形状部58が形成されるようにすることもできる。その場合、図5における左側の膨出部57および襞形状部59が省略された形状となる。さらに、膨出部57を形成せずに1つの襞形状部59が形成される形態や、膨出部57内に1つの樋形状部58が形成される形態など、要求される排水性能に応じて種々の実施形態が、本発明の範囲内において可能である。
【0031】
また、上記実施形態では、本発明に係る襞形状部59(樋形状部58)を、カウルボックス内に順傾斜(前方に向かって高くなる傾斜)を有する前壁部52および第2縁部55に実施する場合について述べたが、垂直または逆傾斜を有する前壁部および第2縁部に対して実施することも、本発明の範囲内において可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 フロントウインドウ
2 ダッシュパネル
3 カウルトップパネル
4 カウルフロントパネル
5 カウルトップガーニッシュ
6 フロントフード
7 ウェザーストリップ
8 ブレーキ
10 カウルボックス
11 ワイパー
12 ピボット軸
41 上縁部(接合部)
50a,50b ワイパー取付け孔
50c,50d 通気孔
51 上壁部
52 前壁部
52a 高位部
52b 低位部
52c 傾斜区間
53 上縁部(ウェザーストリップ取付け部)
54 第1縁部(接合部)
55 第2縁部
56 上縁部
57 膨出部
58 樋形状部
59 襞形状部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のカウル部構造であって、
フロントウインドウ下縁部に沿って車幅方向に延在するカウルボックスと、
前記カウルボックスの前壁下部を構成するカウルフロントパネルと、
前記カウルボックスの上部を覆うカウルトップガーニッシュと、を備え、
前記カウルトップガーニッシュは、前記カウルフロントパネルの上側に前記カウルボックスの前壁上部を構成する前壁部を有し、前記前壁部の下端部に、車両前後方向の前方に岐出し前記カウルフロントパネルの上縁部に載置状態で固定される第1縁部と、前記上縁部の後方に延出し前記前壁部に流入した水を前記カウルボックス内に流下させるための第2縁部とが形成されているものにおいて、
前記前壁部の前記下端部が車幅方向に傾斜を有する区間に、前記前壁部から前記第2縁部の下端にかけて上下方向に延びる少なくとも1つの襞形状部が形成されていることを特徴とする車両のカウル部構造。
【請求項2】
前記少なくとも1つの襞形状部が、膨出部内に三角形断面の樋形状部として形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両のカウル部構造。
【請求項3】
前記襞形状部が、相互に隣接して少なくとも2つ形成され、その隣接部が三角形断面の樋形状をなしていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両のカウル部構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−148630(P2012−148630A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7619(P2011−7619)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】