説明

車両のサスペンション装置

【課題】安定した中間ビームの捩り性能を確保できる車両のサスペンション装置を提供する。
【解決手段】切欠き部3bは、サスペンションアーム2の外周面2dに沿うと共に車両側方視で、車両前後方向に間隔をあけて、かつ前記サスペンションアーム2の中心線Yを上下に跨ぐ様に配設された第1切欠き部3e及び第2切欠き部3dを有し、車輪5に近い側に位置する前記第1切欠き部3eの前記サスペンションアーム2の外周面2dへの当接長を前記車輪5に遠い側に位置する前記第2切欠き部3dの当接長より長く形成し、前記第1,第2切欠き部3e,3dを前記サスペンションアーム2の外周面2dに溶接した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左,右のサスペンションアームと、該左,右のサスペンションアームを結合する中間ビームとを備えた車両のサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のサスペンション装置において、左,右のサスペンションアームに中間ビームを架け渡して連結する構造として、従来、例えば、特許文献1に記載されたものがある。この従来構造では、中間ビームは、車体下側に開口した横断面略V字形状又は略U字形状を成しており、前記中間ビームの端部には、サスペンションアームの外周面に応じた形状の切欠き部が形成され、該切欠き部が前記サスペンションアームに溶接され、さらに前記中間ビームと前記サスペンションアームとの溶接部の上面にガセットが溶接されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−8123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記特許文献1のようにサスペンションアームの一端を車体に軸支し、他端で車輪を支持する構造では、車輪からサスペンションアームを介して中間ビームの端部に伝わる荷重は、車輪に近い側の溶接部に大きく働くこととなる。従って、前記中間ビームの端部に形成された単純な形状の切欠き部をサスペンションアームに溶接するだけでは、前記中間ビームへの、前記切欠き部の車輪に近い部分からの荷重と遠い部分からの荷重とに差が生じるため前記中間ビームが安定して変形せず、安定した捩り性能を確保できない。
【0005】
また、前記中間ビームと前記サスペンションアームとの溶接部の上面に前記ガセットを溶接しているので取付け剛性は強いが、コストの増加,組付け性の悪化,及び重量の増加を招いている。
【0006】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、安定した中間ビームの捩り性能を確保できる車両のサスペンション装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、一端が車体に揺動可能に支持され、他端に車輪を回転可能に支持する左,右一対のサスペンションアームと、該左,右一対のサスペンションアームに架け渡す様に車幅方向に向けて配設された中間ビームとを備え、前記中間ビームの横断面形状は、車両側方視で、下方又は上方に開口する略V字形状又は略U字形状を成し、前記中間ビームの両端部には切欠き部が形成され、該切欠き部が前記サスペンションアームの外周面に溶接された車両のサスペンション装置において、前記切欠き部は、前記サスペンションアームの外周面に沿うと共に車両側方視で、車両前後方向に間隔をあけて、かつ前記サスペンションアームの中心線を上下に跨ぐ様に配設された第1切欠き部及び第2切欠き部を有し、前記車輪に近い側に位置する前記第1切欠き部の前記サスペンションアームの外周面への当接長を前記車輪に遠い側に位置する前記第2切欠き部の当接長より長く形成し、前記第1,第2切欠き部をサスペンションアームの外周面に溶接したことを特徴としている。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両のサスペンション装置において、前記サスペンションアームはパイプ状に形成されており、前記中間ビームの両端部の、前記第1切欠き部と前記第2切欠き部との境界に位置する境界部を、車両上方視で、前記サスペンションアームの中心線より車両外方側に、かつパイプ外表面に沿う様に溶接し、前記第1切欠き部,前記第2切欠き部の前記中心線を挟んで前記境界部の反対側に位置する第1切欠き端部,第2切欠き端部を、車両上方視で、前記サスペンションアームの、前記中心線より車両内方部分に溶接したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、車輪に近い側の第1切欠き部を前記車輪に遠い側の第2切欠き部より長く形成したので、前記車輪からの荷重が大きい前記第1切欠き部のサスペンションアームへの取付け剛性が前記荷重が小さい前記第2切欠き部の取付け剛性より大きくなり、その分前記車輪から中間ビームへの荷重を車両前後方向で均一化でき、前記中間ビームが安定して変形することとなり、その結果、前記中間ビームの安定した捩り性能を確保できる。
【0010】
請求項2の発明によれば、中間ビームの、第1切欠き部と第2切欠き部との境界に位置する境界部を、車両上方視で、前記サスペンションアームの中心線より車両外方側に溶接し、前記境界部の反対側に位置する第1,第2切欠き端部を、車両上方視で、前記サスペンションアームの中心線より車両内方部分に溶接したので、車両前後方向寸法の短い境界部については車幅方向に長くでき、車両前後方向間隔の広い第1,第2切欠き部については車幅方向に短くしたので、前記中間ビーム全体における取付け剛性の均一化を図ることができ、安定した前記中間ビームの捩り性能を確保できる。
【0011】
また、前記境界部を、パイプ状に形成された前記サスペンションアームの外周面に沿う様に溶接したので、前記サスペンションアームの捩れに対する前記中間ビームの取付け剛性を容易に確保できる。前記第1,第2切欠き部の第1,第2切欠き端部については、車両上方視で、前記サスペンションアームの中心より車両内方部分に溶接したので、前記中間ビームを前記サスペンションアームに容易にセットできる。その結果、ガセット等の部品点数を増やすことなく、簡易な構成で、前記中間ビームを強固に安定して取付ける事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1に係るリヤサスペンション装置の平面図である。
【図2】前記リヤサスペンション装置のサスペンションアームと中間ビームとが溶接された状態を示す断面図(図1のII-II線拡大断面図)である。
【図3】中間ビームの端部を示す側面図である。
【図4】本発明の実施例2に係る中間ビームの端部を示す側面図である。
【図5】前記中間ビームとサスペンションアームとの溶接状態を示す断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する
【実施例1】
【0014】
図1ないし図3は、本発明の実施例1によるリヤサスペンション装置を説明するための図である。なお、本実施例で前,後,左,右とは、特記なき限り車両後方から前方を見た場合の前,後,左,右を意味する。
【0015】
図において、1はトレーリングアーム式のリヤサスペンション装置を示している。このリヤサスペンション装置1は、車両前後方向に延びる左,右のサスペンションアーム2,2と、車幅方向に延びる中間ビーム3とを備えている。なお、前記左,右のサスペンションアーム2,2は左右対称であるので、本実施例1では、特記なき限り左のサスペンションアーム2について説明する。
【0016】
前記サスペンションアーム2は、例えば、高張力鋼等から成る1枚の鋼板を、プレス加工により、パイプ状に成形し、突き合わせ部を溶接したものである。
【0017】
前記サスペンションアーム2は、その前端部2aに、車体(不図示)に軸支されるブッシュ4が固定されており、このブッシュ4の軸線Xを中心に上下方向に揺動可能となっている。
【0018】
前記サスペンションアーム2の後端部2bには、車輪5を支持するためのスピンドル軸5aが車両外方に凸設されている。また、前記サスペンションアーム2の後端部内方2cには、サスペンションばね(不図示)を取付けるためのばね受け座部6が配設されている。
【0019】
前記左,右のサスペンションアーム2,2には、中間ビーム3が該左,右のサスペンションアーム2,2に架け渡す様に配設されている。この中間ビーム3の横断面形状は、車両側方視で、下方に開口した略V字形状を成しており、前,後の側壁a,bを有する。
【0020】
前記中間ビーム3の左,右の端部には、切欠き部3bが前記サスペンションアーム2の外周面2dに沿う様に形成されており、前記外周面2dに前記切欠き部3bを当接させて溶接されている。
【0021】
詳細には、前記切欠き部3bは、前記前,後の側壁a,bを円弧状に切欠くことにより形成され、前記車輪5に近い側に位置する第1切欠き部3eと、遠い側に位置する第2切欠き部3dとからなる。また、前記第1,第2切欠き部3e,3dの境界に位置し、前記略V字形状の頂部に対応する部分は境界部3cとなっている。
【0022】
前記境界部3cの先端面3aは、前記外周面2dに前記切欠き部3bを当接させた状態において、前記サスペンションアーム2の中心線Yより車両外方側に位置しており、前記外周面2dに沿う様に溶接されている。
【0023】
一方、前記第1,第2切欠き部3e,3dの下端部、つまり前記中心線Yを挟んで前記境界部3cの反対側に位置する第1,第2切欠き端部3e′,3d′は、前記外周面2dに前記切欠き部3bを当接させた状態において、前記サスペンションアーム2の中心線Yより車両内方側に位置しており、前記外周面2dに溶接されている。より詳細には、第2切欠き端部3d′は第1切欠き端部3e′に比べてより大きく車両内方側に位置しており、そのため前記車輪5に近い側の前記第1切欠き部3eのサスペンションアーム2との当接長は、前記車輪5に遠い側の前記第2切欠き部3dの当接長より長くなっている。
【0024】
本実施例1によれば、車輪5に近い側の第1切欠き部3eを前記車輪5に遠い側の第2切欠き部3dより長く形成したので、前記車輪5からの荷重が大きい前記第1切欠き部3eのサスペンションアーム2への取付け剛性が前記荷重が小さい前記第2切欠き部3dの取付け剛性より大きくなり、その分前記車輪5から中間ビーム3への荷重を車両前後方向で均一化でき、前記中間ビーム3が安定して変形することとなり、その結果、前記中間ビーム3の安定した捩り性能を確保できる。
【0025】
また、前記中間ビーム3の、第1切欠き部3eと第2切欠き部3dとの境界に位置する境界部3cを、車両上方視で、前記サスペンションアーム2の中心線Yより車両外方側に位置させて溶接し、前記境界部3cの反対側に位置する第1,第2切欠き端部3e′,3d′を、車両上方視で、前記サスペンションアーム2の中心線Yより車両内方部分に溶接したので、車両前後方向寸法の短い境界部3cについては車幅方向に長くでき、車両前後方向間隔の広い第1,第2切欠き部3e,3dについては車幅方向に短くしたので、前記中間ビーム3全体における取付け剛性の均一化を図ることができ、安定した前記中間ビーム3の捩り性能を確保できる。
【0026】
さらにまた、前記境界部3cを、パイプ状に形成された前記サスペンションアーム2の外周面2dに沿う様に溶接したので、前記サスペンションアーム2の捩れに対する前記中間ビーム3の取付け剛性を容易に確保できる。一方、前記第1,第2切欠き部3e,3dの第1,第2切欠き端部3e′,3d′については、車両上方視で、前記サスペンションアーム2の中心線Yより車両内方部分に溶接したので、前記中間ビーム3を前記サスペンションアーム2に容易にセットできる。その結果、ガセット等の部品点数を増やすことなく、簡易な構成で、前記中間ビーム3を強固に安定して取付ける事ができる。
【実施例2】
【0027】
図4,図5は、中間ビーム3の断面形状を略U字形とした実施例2を示す。図中、図1〜図3と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0028】
本実施例2においても、境界部3cの先端面3aは、サスペンションアーム2の中心線Yより車両外方側に位置している。また第1,第2切欠き端部3e′,3d′は前記中心線Yより車両内方側に位置しており、第1切欠き部3eのサスペンションアーム2との当接長は、第2切欠き部3dの当接長より長くなっている。従って、本実施例2においても前記実施例1と同様の作用効果が得られる。
【0029】
なお、前記実施例1,2では、前記中間ビーム3を、車両側方視で、下方に開口したものとしたが、上方に開口したものとしてもよい。
【0030】
また前記実施例では、前記サスペンションアーム2を、板材をパイプ状に成形し、突き合わせ部を溶接したものとしたが、パイプ材で構成しても勿論構わない。
【符号の説明】
【0031】
1 サスペンション装置
2 サスペンションアーム
2d 外周面
3 中間ビーム
3b 切欠き部
3c 境界部
3d 第2切欠き部
3d′ 第2切欠き端部
3e 第1切欠き部
3e′ 第1切欠き端部
5 車輪
Y サスペンションアームの中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が車体に揺動可能に支持され、他端に車輪を回転可能に支持する左,右一対のサスペンションアームと、該左,右一対のサスペンションアームに架け渡す様に車幅方向に向けて配設された中間ビームとを備え、前記中間ビームの横断面形状は、車両側方視で、下方又は上方に開口する略V字形状又は略U字形状を成し、前記中間ビームの両端部には切欠き部が形成され、該切欠き部が前記サスペンションアームの外周面に溶接された車両のサスペンション装置において、
前記切欠き部は、前記サスペンションアームの外周面に沿うと共に車両側方視で、車両前後方向に間隔をあけて、かつ前記サスペンションアームの中心線を上下に跨ぐ様に配設された第1切欠き部及び第2切欠き部を有し、前記車輪に近い側に位置する前記第1切欠き部の前記サスペンションアームの外周面への当接長を前記車輪に遠い側に位置する前記第2切欠き部の当接長より長く形成し、前記第1,第2切欠き部をサスペンションアームの外周面に溶接したことを特徴とする車両のサスペンション装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のサスペンション装置において、
前記サスペンションアームはパイプ状に形成されており、
前記中間ビームの両端部の、前記第1切欠き部と前記第2切欠き部との境界に位置する境界部を、車両上方視で、前記サスペンションアームの中心線より車両外方側に、かつパイプ外表面に沿う様に溶接し、
前記第1切欠き部,前記第2切欠き部の前記中心線を挟んで前記境界部の反対側に位置する前記第1切欠き端部,第2切欠き端部を、車両上方視で、前記サスペンションアームの、前記中心線より車両内方部分に溶接したことを特徴とする車両のサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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