説明

車両のサスペンシヨン装置

【構成】 ばね上とばね下との間に、ショックアブソーバ1、2、3、4を備え、車体の上下振動に応じて、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力特性を変更制御する車両のサスペンション装置において、走行状態に基づき、ショックアブソーバの減衰力の切換え可能な段数の切換え範囲を制限する切換え範囲決定手段81を備え、切換え範囲決定手段81により決定される切換え範囲が前回と異なったとき、走行状態に応じて、減衰力を切換えるアクチュエータ41、42、43、44の切換え速度を制御する切換え実行手段80をを備えている。
【効果】 切換えによるショックアブソーバの圧力変動に起因する音や振動を防止しつつ、走行安定性を向上させることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車両のサスペンション装置に関するものであり、さらに詳細には、ばね上とばね下との間に、減衰力特性が可変なショックアブソーバを備えた車両のサスペンション装置に関するものである。
【0002】
【先行技術】従来の車両のサスペンション装置においては、車体側、すなわち、ばね上と、車輪側、すなわち、ばね下との間に、車輪の上下振動を減衰させるためのショックアブソーバが設けられているのが一般である。このショックアブソーバとして、減衰力特性を変化させることのできるものが知られており、減衰力特性可変式のショックアブソーバとしては、減衰力特性が高低2段もしくは多段に変更可能なもの、あるいは、無段連続的に変更可能なものが提案されている。
【0003】かかる減衰力可変式のショックアブソーバにおいては、ショックアブソーバが発生する減衰力が、車体の上下振動に対して、加振方向に働くときに、ショックアブソーバの減衰力を低減衰側、すなわち、ソフト側に変更し、他方、減衰力が制振方向に働くときは、ショックアブソーバの減衰力を高減衰側、すなわち、ハード側に変更して、ばね上に伝達される加振エネルギーに対して、制振エネルギーを大きくし、車両の乗り心地および走行安定性を同時に向上させるように制御されるのが通常であり、特開昭60−248419号公報は、ばね上とばね下との相対変位の向きと、ばね上とばね下との相対速度の向きとが一致するか否かに基づき、一致したときには、減衰力が加振方向に働いていると判定し、他方、一致していないときは、減衰力が制振方向に働いていると判定し、制御するようにした方法を開示している。
【0004】
【発明の解決しようとする課題】このように、ばね上とばね下との相対変位の向きと、ばね上とばね下との相対速度の向きとが一致するか否かに基づき、減衰力の変更制御する減衰力可変式のショックアブソーバを備えた車両のサスペンション装置においては、ショックアブソーバの減衰力を大きく変化させることが必要な場合に、ショックアブソーバの減衰力を多段に切換えると、切換えにともなうショックアブソーバの圧力変動に起因して、大きな切換え音や振動が生じ、車体に伝達されるという問題があり、他方、ショックアブソーバの減衰力を多段に切換えないと、走行安定性および乗り心地を、所望のように、向上させることができないという問題があった。
【0005】
【発明の目的】本発明は、ばね上とばね下との間に、ショックアブソーバを備え、車体の上下振動に応じて、ショックアブソーバの減衰力特性を変更制御する車両のサスペンション装置において、ショックアブソーバの減衰力の切換えにともなうショックアブソーバの圧力変動に起因する大きな切換え音や振動の発生を防止しつつ、走行安定性および乗り心地を向上させることのできる車両のサスペンション装置を提供することを目的とするものである。
【0006】
【発明の構成】本発明のかかる目的は、ショックアブソーバの減衰力を変更するアクチュエータと、アクチュエータに制御信号を出力する制御手段とを備え、制御手段が、車両の走行状態に基づいて、ショックアブソーバの減衰力の切換え可能な段数の切換え範囲を制限する切換え範囲決定手段を備えるとともに、車両の走行状態の変化にともない、切換え範囲決定手段により決定される切換え範囲が変化して、ショックアブソーバの減衰力が異なる切換え範囲に切換えられるとき、車両の状況に応じて、前記切換え範囲決定手段により決定される切換え範囲が変化して、前記ショックアブソーバの減衰力が異なる切換え範囲に切換えられるとき、車両の状況に応じて、前記アクチュエータによる切換え速度を制御する切換え実行手段を備えることによって達成される。
【0007】本発明の第一の好ましい実施態様においては、切換え実行手段が、ばね上とばね下との相対変位速度の絶対値が、所定値以上のときに、アクチュエータによる切換え速度が小さくなるように制御可能に構成されている。本発明の第二の好ましい実施態様においては、切換え実行手段が、横方向加速度の絶対値が、第1の所定値以上のときに、アクチュエータによる切換え速度が大きくなるように制御可能に構成されている。
【0008】本発明の第三の好ましい実施態様においては、切換え実行手段が、良路を走行中は、普通路を走行中に比して、アクチュエータによる切換え速度が大きくなるように制御可能に構成されている。本発明の第四の好ましい実施態様においては、切換え実行手段が、路面摩擦係数が、所定値以下のときに、アクチュエータによる切換え速度が小さくなるように制御可能に構成されている。
【0009】本発明の第五の好ましい実施態様においては、切換え実行手段が、横方向加速度の絶対値が、前記第1の所定値より小さい第2の所定値を越え、前記第1の所定値未満のときに、アクチュエータによる切換え速度が小さくなるように制御可能に構成されている。本発明の第六の好ましい実施態様においては、切換え実行手段が、路面摩擦係数が、所定値以下のときは、横方向加速度の絶対値が、前記第1の所定値以上であっても、アクチュエータによる切換え速度が小さくなるように制御可能に構成されている。
【0010】本発明の第七の好ましい実施態様においては、切換え実行手段が、悪路を走行中は、普通路を走行中に比して、アクチュエータによる切換え速度が大きくなるように制御可能に構成されている。本発明の第八の好ましい実施態様においては、切換え実行手段が、路面摩擦係数が、所定値以下のときは、悪路走行中であっても、アクチュエータによる切換え速度が小さくなるように制御可能に構成されている。
【0011】本発明の第九の好ましい実施態様においては、切換え実行手段が、路面摩擦係数が、所定値を越えているとき、ばね上とばね下との相対変位速度の絶対値が、所定値以上のとき、横方向加速度の絶対値が、第2の所定値を越え、第1の所定値未満のとき、普通路を走行中のときのいずれかの条件が満足されたときに、アクチュエータによる切換え速度が小さくなるように制御可能に構成されている。
【0012】本発明の第十の好ましい実施態様においては、切換え実行手段が、アクチュエータが、ステップモータにより構成されている。
【0013】
【発明の作用】本発明によれば、切換え範囲決定手段により、ショックアブソーバの減衰力の切換え可能な段数の切換え範囲を、車両の走行状態に基づいて、決定するようにしているので、ショックアブソーバの減衰力特性が、車体の上下振動に応じて、しばしば、大きく変更制御されることを防止することが可能になり、また、車両の走行状態の変化にともない、切換え範囲決定手段によって決定される切換え範囲が変化して、ショックアブソーバの減衰力が、異なる切換え範囲に切換えられるときには、切換え実行手段により、車両の状況に応じて、アクチュエータによる切換え速度を制御しているので、走行安定性を重視すべき車両の状況においては、ただちに、ショックアブソーバの減衰力を所定の段数に切換えて、走行安定性の向上を図り、他方、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因して発生する大きな切換え音や振動を優先的に防止すべき車両の状況においては、切換え速度が小さくなるように制御することにより、効果的に切換え音や振動の発生を防止することが可能になる。
【0014】本発明の第一の好ましい実施態様によれば、切換え実行手段が、ばね上とばね下との相対変位速度の絶対値が、所定値以上のときに、アクチュエータによる切換え速度が小さくなるように制御可能に構成されており、とくに、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因して、大きな切換え音や振動が生じやすい走行状態において、前記切換え実行手段は、小さな切換え速度で、アクチュエータに、減衰力の切換えを実行させているので、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因して発生する大きな切換え音や振動を効果的に防止することが可能にある。
【0015】本発明の第二の好ましい実施態様によれば、切換え実行手段が、横方向加速度の絶対値が、第1の所定値以上である急旋回状態のときに、アクチュエータによる切換え速度が大きくなるように制御可能に構成されているので、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因する大きな切換え音や振動の発生を防止するよりも、走行安定性を重視すべき急旋回状態において、アクチュエータにより、すみやかに、減衰力の切換えが実行され、走行安定性を損なうことを効果的に防止することができる。
【0016】本発明の第三の好ましい実施態様によれば、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因して大きな切換え音や振動が発生するおそれの少ない良路を走行中は、切換え実行手段が、普通路を走行中に比して、アクチュエータによる切換え速度が大きくなるように制御しているから、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因して発生する大きな切換え音や振動を効果的に防止しつつ、すみやかに、減衰力の切換えが実行され、走行安定性を損なうことを効果的に防止することができる。
【0017】本発明の第四の好ましい実施態様によれば、路面摩擦係数が所定値以下で、ショックアブソーバの減衰力を大きく変化させると、荷重移動が大きくなり、走行状態が不安定になりやすい走行状態では、切換え実行手段が、アクチュエータによる切換え速度が小さくなるように制御しているから、走行安定性を損なうことなく、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因して発生する大きな切換え音や振動を効果的に防止することができる。
【0018】本発明の第五の好ましい実施態様によれば、切換え実行手段が、横方向加速度の絶対値が、前記第1の所定値より小さい第2の所定値を越え、前記第1の所定値未満のときに、アクチュエータによる切換え速度が小さくなるように制御可能に構成されているから、走行安定性が、それほど重視されず、むしろ、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因して発生する大きな切換え音や振動が問題になる走行状態において、走行安定性を損なうことなく、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因して発生する大きな切換え音や振動を効果的に防止することができる。
【0019】本発明の第六の好ましい実施態様によれば、切換え実行手段が、路面摩擦係数が、所定値以下のときは、横方向加速度の絶対値が、前記第1の所定値以上であっても、アクチュエータによる切換え速度が小さくなるように制御可能に構成されているから、路面摩擦係数が所定値以下で、ショックアブソーバの減衰力を大きく変化させると、荷重移動が大きくなり、走行状態が不安定になりやすい走行状態において、確実に、走行安定性を損なうことなく、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因して発生する大きな切換え音や振動を効果的に防止することができる。
【0020】本発明の第七の好ましい実施態様によれば、切換え実行手段が、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因する大きな切換え音や振動の発生を防止するよりも、走行安定性を重視すべき悪路走行中において、アクチュエータにより、すみやかに、減衰力の切換えを実行させているから、走行安定性を損なうことを効果的に防止することができる。
【0021】本発明の第八の好ましい実施態様によれば、切換え実行手段が、切換え実行手段が、路面摩擦係数が、所定値以下のときは、悪路走行中であっても、アクチュエータによる切換え速度が小さくなるように制御可能に構成されているから、路面摩擦係数が所定値以下で、ショックアブソーバの減衰力を大きく変化させると、荷重移動が大きくなり、走行状態が不安定になりやすい走行状態において、確実に、走行安定性を損なうことなく、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因して発生する大きな切換え音や振動を効果的に防止することができる。
【0022】本発明の第九の好ましい実施態様によれば、切換え実行手段が、切換え実行手段が、路面摩擦係数が、所定値を越えているとき、ばね上とばね下との相対変位速度の絶対値が、所定値以上のとき、横方向加速度の絶対値が、第2の所定値を越え、第1の所定値未満のとき、普通路を走行中のときのいずれかの条件が満足されたときに、アクチュエータによる切換え速度が小さくなるように制御可能に構成されているから、走行安定性よりも、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因して発生する大きな切換え音や振動を優先的に防止すべき走行状態下では、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因して発生する大きな切換え音や振動の防止が図られ、他方、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因して発生する大きな切換え音や振動の防止よりも、走行安定性を重視すべき車両の状況下では、走行安定性の向上が図られるから、走行安定性を向上させつつ、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因して発生する大きな切換え音や振動を効果的に防止することが可能になる。
【0023】本発明の第十の好ましい実施態様によれば、ショックアブソーバの減衰力を切換えるアクチュエータとして、ステップモータが用いられており、オープン制御によって、ショックアブソーバの減衰力の制御がなされているので、さらに、小型でかつ安価なコンピュータを用いて、ショックアブソーバの減衰力を、所望のように、変更制御することができ、したがって、走行安定性および乗り心地を向上させることが可能になる。
【0024】
【実施例】以下、添付図面に基づき、本発明の好ましい実施例につき、詳細に説明を加える。図1は、本発明の好ましい実施例に係る車両のサスペンション装置を含む車両の略斜視図である。
【0025】図1において、本発明の好ましい実施例に係る車両のサスペンション装置は、各車輪に対応して設けられ、各車輪の上下振動を減衰させるたショックアブソーバ1、2、3、4を備えている。各ショックアブソーバ1、2、3、4は、それぞれ、図示しないアクチュエータにより、減衰係数が異なった10の減衰力特性に切り換え可能に構成されており、また、図示しない圧力センサを備えている。図1において、5は左前輪、6は左後輪であり、右前輪および右後輪は図示されていない。また、7は、各ショックアブソーバ1、2、3、4の上部外周に配設されたコイルスプリングであり、8は、各ショックアブソーバ1、2、3、4のアクチュエータに対して、制御信号を出力して、各ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力特性を変更制御するコントロールユニットである。
【0026】また、車両9のばね上には、各車輪のばね上の上下方向の加速度を検出する第1加速度センサ11、第2加速度センサ12、第3加速度センサ13、第4加速度センサ14が、インストルパネルのメータ内には、車速を検出する車速センサ15が、また、車両9の重心には、横加速度センサ16が、それぞれ、設けられている。図1において、17は、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力特性の制御を、ドライバーが、ハードモード、ソフトモードまたはコントロールモードのいずれかに切り換えるモード選択スィッチを示し、ハードモードが選択されたときは、減衰力特性がハードになるような範囲の減衰係数のみが選択され、その範囲内でのみ、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力特性の変更制御がなされ、ソフトモードが選択されたときは、減衰力特性がソフトになるような範囲の減衰係数のみが選択され、その範囲内でのみ、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力特性の変更制御がなされるが、コントロールモードが選択されたときは、あらかじめ、コントロールユニット8内に記憶されたマップあるいはテーブルにしたがって、所定のように、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力特性の変更制御がなされるようになっている。
【0027】図2は、左前輪に対して設けられたショックアブソーバ1の要部略断面図である。ただし、圧力センサは、便宜上、省略されている。図2において、ショックアブソーバ1は、シリンダ21を備え、シリンダ21内には、ピストンとピストンロッドが一体的に結合されたピストンユニット22が摺動可能に嵌装されている。シリンダ21およびピストンユニット22は、それぞれ、ばね下およびばね上に結合されている。
【0028】ピストンユニット22には、2つのオリフィス23、24が形成されている。一方のオリフィス23は常に開いており、他方のオリフィス24は、それぞれ、第1アクチュエータ41により、その通路面積が、10段階に変更可能に形成されている。図3は、ショックアブソーバ1に設けられた第1アクチュエータ41の分解略斜視図であり、図2および図3に示されるように、第1アクチュエータ41は、ピストンユニット22に固定されたスリーブ25内に、回転自在に設けられたシャフト26と、シャフト26を回転させるステップモータ27と、シャフト26の下端部に一体に取付けられ、その円周に沿って、9つの円形孔28を有する第1オリフィスプレート29と、スリーブ25の下端部に一体的に設けられ、その円周に沿って、円弧状の長孔30が形成された第2オリフィスプレート31を備えている。ここに、第1オリフィスプレート29に形成された9つの円形孔28と、第2オリフィスプレート31に形成された長孔30は、ステップモータ27の回転によるシャフト26および第1オリフィスプレート29の回転にしたがって、9つの円形孔28が、0ないし9個の範囲で、長孔30と連通可能なように形成されている。
【0029】シリンダ21内の上室32および下室33内は、所定の粘度を有する流体で満たされており、オリフィス23、24を通って、上室32および下室33間を移動可能になっている。図2および図3においては、ショックアブソーバ1の構造のみを示したが、他の車輪に対して設けられたショックアブソーバ2、3、4もまた、図2に示されたショックアブソーバ1と同様の構造を有しており、それぞれ、図3に示されたのと同様な第2アクチュエータ42、第3アクチュエータ43、第4アクチュエータ44を備えている。
【0030】図4は、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力特性を示すグラフであり、D1 ないしD10は、それぞれ、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰係数を示している。図4において、縦軸は、ショックアブソーバ1、2、3、4が発生する減衰力を、横軸は、ばね上の変位速度Xs とばね下の変位速度Xu との差、すなわち、ばね上とばね下の相対変位速度(Xs −Xu )を示している。図4に示されるように、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力特性は、減衰係数D1 ないしD10のいずれかを選択することによって、10段階に変更することが可能なように構成されている。図4R>4において、D1 は、最もソフトな減衰力を発生させる減衰係数を、D10は、最もハードな減衰力を発生させる減衰係数を、それぞれ、示している。ここに、減衰係数Dk (kは正の整数で、1〜10)は、第1オリフィスプレート29に形成された9つの円形孔28のうち、(10−i)個の円形孔28が、第2オリフィスプレート31に形成された長孔30と連通している場合に選択されるようになっている。したがって、減衰係数D1 は、第1オリフィスプレート29に形成された9つの円形孔28のすべてが、第2オリフィスプレート31に形成された長孔30と連通している場合に選択され、減衰係数D10は、第1オリフィスプレート29に形成された9つの円形孔28のすべてが、第2オリフィスプレート31に形成された長孔30と連通している第1オリフィスプレート29に形成された9つの円形孔28のいずれもが、第2オリフィスプレート31に形成された長孔30と連通しないときに選択されることになる。
【0031】図5は、本発明の実施例に係る車両のサスペンション装置の振動モデル図であり、msはばね上質量、muはばね下質量、xsはばね上変位、xuはばね下変位、ksはコイルスプリング7のばね定数、ktはタイヤのばね定数、Dk はショックアブソーバ1、2、3、4の減衰係数である。図6は、ステップモータ27の略斜視図であり、ステップモータ27は、筒状体50、筒状体50内に収容されたロータ51、ステータ52および蓋53から構成されている。図7は、ロータ51およびステータ52の略平面図であり、通常のステップモータと同様に、ロータ51の外周部には、複数の矩形形状の歯が形成され、ステータ52の内周部には、これと対応して、複数の矩形形状の歯が形成されており、ステータ52には、ソレノイド54が巻回されている。ロータ51には、2本のストッパピン55、56が形成されており、図8に示されるように、蓋53には、ストッパピン55、56に対応する位置に、円周方向に2つの溝57、58が形成されている。溝57は、ロータ51に形成されたストッパピン55と係合して、ステップモータ27の可動範囲を規制するものであり、他方、溝58は、ストッパピン56と係合するものであって、ストッパピン55、56を、溝57、58と係合させることによって、蓋53を被せたときに、ロータ51の重心が回転中心と一致するように位置合わせを可能とするものである。したがって、蓋53の中心から、溝57、58の両端部を見た円周角は、溝58の方が、溝57より大きくなっており、専ら、溝57によって、ステップモータ28の可動範囲が決定されるように、溝57、58が形成されている。図8において、ロータ51が、時計方向に回転すると、減衰係数Dk が、より大きくなって、減衰力特性は、よりハードになり、他方、反時計方向に回転すると、減衰係数Dk が、より小さくなって、減衰力特性は、よりソフトになるようになっており、また、ロータ51の矩形形状の歯が、ステータ52の隣接する矩形形状の歯に対向する位置に移動させられたとき、すなわち、ステップモータ27が、一段回転されると、減衰係数Dk が1つだけ変化するようになっている。従って、ストッパピン55が、溝57の右端部である第1基準位置に位置しているとき、減衰係数Dk は、D10となり、ショックアブソーバ1が、最もハードな減衰力を発生し、他方、ストッパピン55が、溝57の左端部である第2基準位置に位置しているとき、減衰係数Dk は、D1 となり、ショックアブソーバ1が、最もソフトな減衰力を発生するようになっている。
【0032】図9は、本発明の実施例に係る車両のサスペンション装置の制御系のブロックダイアグラムである。図9において、本発明の実施例に係る車両のサスペンション装置の制御系を構成するコントロールユニット8は、切換え実行手段80および切換え範囲決定手段81を備えている。コントロールユニット8の切換え実行手段80には、ショックアブソーバ1、2、3、4に、それぞれ設けられた第1圧力センサ61、第2圧力センサ62、第3圧力センサ63、第4圧力センサ64の検出した各ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力Fsi(ここに、iは、各車輪を示し、i=1、2、3、4である。)の検出信号、第1加速度センサ11、第2加速度センサ12、第3加速度センサ13、第4加速度センサ14の検出したばね上の上下方向の加速度ai の検出信号、車速センサ15の検出した車速Vの検出信号、横加速度センサ16の検出した横方向加速度GL、アンチロック・ブレーキング・システム(ABS)66からの路面摩擦係数μの推定信号、切換え範囲決定手段81により生成された切換え範囲信号およびモード選択スィッチ17からのモード信号が、それぞれ、入力され、また、切換え範囲決定手段81には、第1加速度センサ11、第2加速度センサ12、第3加速度センサ13、第4加速度センサ14の検出したばね上の上下方向の加速度ai の検出信号および車速センサ15の検出した車速Vの検出信号が入力されている。切換え範囲決定手段81は、第1加速度センサ11、第2加速度センサ12、第3加速度センサ13、第4加速度センサ14の検出したばね上の上下方向の加速度ai の検出信号および車速センサ15から入力された車速Vの検出信号に基づき、あらかじめ記憶しているマップあるいはテーブルにより、ステップモータ27の切換え可能な段数の範囲を決定して、切換え範囲信号を生成し、切換え実行手段80に出力し、切換え実行手段80は、切換え範囲決定手段81から入力された切換え範囲信号および各センサから入力された各検出信号に基づき、制御実行信号を生成し、第1アクチュエータ41、第2アクチュエータ42、第3アクチュエータ43、第4アクチュエータ44に出力して、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力特性を制御するように構成されている。
【0033】ここに、減衰力Fsiは、連続値をとり、ばね上に対して、上向きに作用するとき、すなわち、ばね上とばね下間が縮んでいるときに正の値に、下向きに作用するとき、すなわち、ばね上とばね下間が伸びているときに負の値になるように設定され、ばね上の上下方向の加速度ai は、上向きのときに正の値に、下向きのときに負の値になるように設定されている。
【0034】図10は、モード選択スィッチ17により、コントロールモードが選択された場合において、切換え範囲決定手段81により実行される車両の走行状態に応じた切換え範囲Rm(j)を決定するためのルーチンを示すフローチャートであり、減衰係数Dkiの変更が、あまりに頻繁におこなわれ、その結果、変更時に、大きな音や振動が生じたり、応答遅れが生ずることを防止するために、走行状態に応じて、変更制御し得る減衰係数Dkiの範囲を、切換え範囲Rm(j)内に制限するものである。
【0035】図10において、まず、切換え範囲決定手段81に、車速センサ15により検出された車速Vおよび第1加速度センサ11、第2加速度センサ12、第3加速度センサ13、第4加速度センサ14の検出したばね上の上下方向の加速度aiが、それぞれ、入力される。ついで、切換え範囲決定手段81は、車速Vが、低速値である第1の所定車速V1 、たとえば、3km/h以下か否かを判定する。
【0036】その結果、車速Vが、第1の所定車速V1 以下のときは、きわめて低速であるから、スコットや制動ダイブ防止するため、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力特性がハードになるように、切換え範囲決定手段81は、減衰係数Dkiの切換え範囲Rm(j)を、第6切換え範囲R6(j)であるD8iに固定する。他方、車速Vが、第1の所定車速V1を越えているときには、さらに、切換え範囲決定手段81は、ばね上の上下方向の加速度ai の所定時間内の変動量に基づき、悪路を走行しているか否かを判定する。
【0037】その結果、悪路を走行していると判定したときは、切換え範囲決定手段81は、さらに、車速Vが、第3の所定車速V3 、たとえば、50km/h以上か否かを判定する。その判定結果がYESのとき、すなわち、車速Vが、第3の所定車速V3 以上であると判定したときは、走行安定性の向上を重視して、コントロールユニット8の切換え範囲決定手段81は、減衰力特性を比較的ハードな範囲内で変更制御するために、減衰係数Dkiの切換え範囲Rm(j)を、第4切換え範囲R4(j)であるD5iないしD7iの範囲に設定する。
【0038】これに対して、判定結果がNOのとき、すなわち、車速Vが、第3の所定車速V3 未満であると判定したときは、走行安定性と乗り心地の向上の両立を図ることが可能であるから、コントロールユニット8の切換え範囲決定手段81は、減衰力特性を比較的ソフトな状態からハードな状態の範囲内で変更制御することを可能とするために、減衰係数Dkiの切換え範囲Rm(j)を、第3切換え範囲R3(j)であるD3iないしD7iの範囲に設定する。
【0039】他方、悪路ではなく、通常の道路を走行中であると判定したときは、コントロールユニット8は、さらに、車速Vが第2の所定車速V2 、たとえば、30km/h以下か否かを判定する。その結果、YESのとき、すなわち、車速Vが、第2の所定車速V2 以下の低速走行状態にあると判定したときは、乗り心地の向上を重視するため、コントロールユニット8の切換え範囲決定手段81は、減衰力特性が、比較的ソフトな範囲内で変更制御されるように、減衰係数Dkiの切換え範囲Rm(j)を、第1切換え範囲R1(j)であるD1iないしD3iの範囲に設定する。
【0040】これに対して、NOのとき、すなわち、車速Vが、第2の所定車速V2 を越えていると判定したときは、切換え範囲決定手段81は、さらに、車速Vが、第4の所定車速V4 、たとえば、60km/h以下か否かを判定する。その結果、車速Vが、第4の所定車速V4 以下の比較的中速走行状態にあると判定したときは、走行安定性と乗り心地の向上させるという2つ要請の両立を図ることが可能であるから、切換え範囲決定手段81は、減衰力特性を比較的ソフトな状態からハードな状態の範囲内で変更制御することを可能とするために、減衰係数Dkiの切換え範囲Rm(j)を、第2切換え範囲R2(j)であるD2iないしD6iの範囲に設定する。
【0041】他方、車速Vが、第4の所定車速V4 を越えていると判定したときは、切換え範囲決定手段81は、さらに、車速Vが、第5の所定車速V5 、たとえば、80km/h以下か否かを判定する。その結果、YESのとき、すなわち、車速Vが、第5の所定車速V5 以下の中速走行状態にあると判定したときは、走行安定性と乗り心地の向上という2つの要請の両立を図りつつ、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力特性をややハードに変更制御するために、切換え範囲決定手段81は、減衰係数Dkiの切換え範囲Rm(j)を、第5切換え範囲R5(j)であるD4iないしD8iの範囲に設定する。
【0042】これに対して、NOのとき、すなわち、車速Vが、第5の所定車速V5 を越えた高速走行状態にあると判定したときは、走行安定性の向上を重視して、切換え範囲決定手段81は、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力特性が、ハードな範囲内で変更制御されるように、減衰係数Dkiの切換え範囲Rm(j)を、第7切換え範囲R7(j)であるD7iないしD10i の範囲に設定する。
【0043】切換え範囲決定手段81は、このようにして、車速Vおよび上下方向の加速度aiに基づき、切換え範囲Rm(j)(m=1〜7)を設定し、切換え範囲信号を、切換え実行手段80に出力する。図11は、モード選択スィッチ17により、コントロールモードが選択された場合に、コントロールユニット8の切換え実行手段80によって演算される各ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力特性変更演算のルーチンを示すフローチャートである。
【0044】図11において、まず、コントロールユニット8の切換え実行手段80には、第1加速度センサ11、第2加速度センサ12、第3加速度センサ13、第4加速度センサ14の検出したばね上の上下方向の加速度ai 、第1圧力センサ61、第2圧力センサ62、第3圧力センサ63、第4圧力センサ64の検出した減衰力Fsiの検出信号、車速センサ15の検出した車速Vの検出信号、横加速度センサ16の検出した横方向加速度GL、第1車高変位センサ71、第2車高変位センサ72、第3車高変位センサ73、第4車高変位センサ74の検出した車高変位xsiの検出信号、切換え範囲決定手段81により検出された切換え範囲信号Rm 、および、アンチロック・ブレーキング・システム(ABS)67からの路面摩擦係数の推定値μの推定信号が入力される。ついで、コントロールユニット8は、第1加速度センサ11、第2加速度センサ12、第3加速度センサ13、第4加速度センサ14から入力されたばね上の上下方向の加速度ai を積分して、ばね上の変位速度Xsiを算出するとともに、第1車高変位センサ71、第2車高変位センサ72、第3車高変位センサ73、第4車高変位センサ74から入力された車高変位xsiに基づき、ばね上とばね下との相対変位速度(Xsi−Xui)を算出する。
【0045】コントロールユニット8の切換え実行手段80は、さらに、算出されたばね上の変位速度Xsiに所定の定数K(K<0)を乗じて、理想の減衰力であるスカイフック減衰力Faiを算出し、式■にしたがって、hαを算出し、hαが正か否かを判定する。
hα=Fsi(Fai−αFsi)・・・・・・・・・・・・・■その結果、hαが正であると判定したときは、切換え実行手段80は、次式■にしたがって、減衰係数Dkiを算出する。
【0046】
Dki=D(k+1)i・・・・・・・・・・・・・・・・・・・■他方、hαが正でないと判定したときは、コントロールユニット8は、さらに、式■にしたがって、hβを算出し、hβが負か否かを判定する。
hβ=Fsi(Fai−βFsi)・・・・・・・・・・・・・■その結果、hβが負であるときは、切換え実行手段80は、減衰係数Dkiを、次式■にしたがって、算出する。
【0047】
Dki=D(k-1)i・・・・・・・・・・・・・・・・・・・■他方、hβが負でないと判定したときは、切換え実行手段80は、減衰係数Dkiを、前回の減衰係数Dkiのまま、保持する。ここに、しきい値α、βは、減衰係数Dkiの変更が、あまりに頻繁におこなわれ、その結果、減衰係数Dkiの変更時に、大きな切換え音や振動が発生したり、応答遅れが生ずることを防止するためのしきい値であって、通常、α>1、0<β<1に設定される。すなわち、FsiとFaiが同符号のときは、式■の(Fai−αFsi)は、α>1であるので、Fsiにαが乗ぜられていない場合に比して、Fsiと異符号になりやすく、その結果、hαは負になりやすいから、減衰係数Dkiの変更がおこなわれにくく、さらに、式■の(Fai−βFsi)は、0<β<1であるので、Fsiにβが乗ぜられていない場合に比して、Fsiと同符号になりやすく、その結果、hβは正になりやすいから、減衰係数Dkiの変更がおこなわれにくくなるように設定されている。
【0048】これに対して、FsiとFaiが異符号の場合には、実際の減衰力Fsiを、理想的な減衰力であるスカイフック減衰力Faiと一致させることは不可能であり、減衰係数Dkiをゼロに近い値にすること、すなわち、よりソフトになるように変更することが、FsiをFaiにより近づける上で望ましいことになる。本実施例においては、FsiとFaiが異符号のときは、hαおよびhβはともに、負の値となり、その結果、コントロールユニット8によって、減衰係数Dkiは、前回の減衰係数Dkiより1つ小さいD(k-1)iに、すなわち、よりソフトになるように変更されるから、かかる要請を満足することが可能になる。
【0049】図12および図13は、切換え実行手段80によって実行される減衰力特性切換え実行ルーチンを示すフローチャートである。図12および図13において、まず、切換え実行手段80は、切換え範囲決定手段81から入力された切換え範囲信号に基づき、切換え範囲Rm(j)が、前回のサイクルにおける切換え範囲Rm(j-1)に等しいか否か、すなわち、前回のサイクルと今回のサイクルで、切換え範囲に変化がないか否かを判定する。
【0050】その結果、YESのとき、すなわち、前回のサイクルと今回のサイクルで、切換え範囲に変化がないときは、その切換え範囲Rm(j)内で、図11のフローチャートにより算出された減衰係数Dkiにしたがって、その車輪のショックアブソーバ1、2、3、4のステップモータ27を、通常の速度で、所定の方向に、1段づつ回転させても、切換えに伴うショックアブソーバ1、2、3、4の圧力変動に起因して、大きな切換え音や振動が発生するおそれはないから、切換え実行手段80は、図11のフローチャートにより算出された減衰係数Dkiにしたがい、制御実行信号を生成し、各車輪のショックアブソーバ1、2、3、4の第1アクチュエータ41、第2アクチュエータ42、第3アクチュエータ43、第4アクチュエータ44に出力して、ステップモータ27を、所定の方向に、S0の速度で、1段づつ回転させて、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力特性を、切換え範囲決定手段81から入力された切換え範囲Rm(j)内においてのみ、変更制御する。
【0051】他方、NOのとき、すなわち、前回のサイクルと今回のサイクルとで、切換え範囲が変化したときは、切換え実行手段80は、図11のフローチャートにより算出された減衰係数Dkiが、切換え範囲決定手段81から入力された切換え範囲Rm(j)内に含まれているか否かを判定する。その結果、YESのときは、前回のサイクルと今回のサイクルとで、切換え範囲は変化したが、切換え範囲Rm(j)と切換え範囲Rm(j-1)とに重複部分があり、算出された減衰係数Dkiは、その重複部分内に含まれていると認められるから、実質的には、切換え範囲に変化はなく、したがって、その切換え範囲Rm(j)内で、図11のフローチャートにより算出された減衰係数Dkiにしたがって、その車輪のショックアブソーバ1、2、3、4のステップモータ27を、通常の速度で、所定の方向に、1段づつ回転させても、切換えに伴うショックアブソーバ1、2、3、4の圧力変動に起因して、大きな切換え音や振動が発生するおそれはないから、切換え実行手段80は、図11のフローチャートにより算出された減衰係数Dkiにしたがって、制御実行信号を生成し、各車輪のショックアブソーバ1、2、3、4の第1アクチュエータ41、第2アクチュエータ42、第3アクチュエータ43、第4アクチュエータ44に出力して、ステップモータ27を、所定の方向に、S0の速度で、1段づつ回転させて、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力特性を、切換え範囲決定手段81から入力された切換え範囲Rm(j)内においてのみ、変更制御する。
【0052】他方、NOのとき、すなわち、前回のサイクルと今回のサイクルとで、切換え範囲が変化し、かつ、図11のフローチャートにより算出された減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)に含まれていないと判定したときは、複数段にわたり、ステップモータ27が回転されることになり、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因して、大きな切換え音や振動が発生するおそれが生ずる。したがって、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因して発生する大きな切換え音や振動を防止するためには、ステップモータ27をゆっくりと回転させることが望ましいが、切換え範囲Rm(j)が、図10のルーチンにより切換えられているのは、減衰係数Dkiを、その切換え範囲Rm(j)により規定される値に変更することが要求されるためであるから、切換え音や振動の発生を防止するため、ステップモータ27をゆっくりと回転させると、車両の状況によっては、走行安定性を損なうおそれがある。
【0053】そこで、本実施例においては、走行安定性を確保しつつ、切換え音や振動の発生を防止するため、切換え実行手段80は、さらに、車両の状況を検出する。まず、切換え実行手段80は、アンチロック・ブレーキング・システム(ABS)から入力された路面摩擦係数の推定値μが、所定値μo 以下か否かを判定する。
【0054】その結果、YESのとき、すなわち、路面摩擦係数が、所定値以下の道路を走行中と認められるときは、ショックアブソーバの減衰力を急激に変更すると、荷重移動が大きくなって、走行状態が不安定になるので、切換え実行手段80は、切換え範囲Rm(j)が、ハード側に切換えられた場合、すなわち、mの値が増大した場合には、ステップモータ27の回転速度Sを、通常の速度S0より小さい速度S1に設定し、式■にしたがって、減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、1段づつ、ステップモータ27を回転させ、他方、切換え範囲Rm(j)が、ソフト側に切換えられた場合、すなわち、mの値が減少した場合には、ステップモータ27の回転速度Sを、通常の速度S0より小さい速度S1に設定し、式■にしたがって、減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、1段づつ、ステップモータ27を回転させ、ショックアブソーバの減衰力特性を切換える。
【0055】他方、NOのとき、すなわち、路面摩擦係数が、所定値より高い道路を走行中と認められるときは、切換え実行手段80は、さらに、ばね上とばね下の相対変位速度(Xsi−Xui)の絶対値が、所定値Xo 以上か否かを判定する。その結果、ばね上とばね下の相対変位速度(Xsi−Xui)の絶対値が、所定値Xo より小さいときは、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因して、大きな切換え音や振動が生ずるおそれがなく、かえって、図10のルーチンに基づき設定された切換え範囲Rm(j)内に、ショックアブソーバの減衰力特性を、すみやかに切り換えることが、走行安定性を向上させる観点から望ましいので、切換え実行手段80は、切換え範囲Rm(j)が、ハード側に切換えられた場合、すなわち、mの値が増大した場合には、ステップモータ27の回転速度Sを、通常の速度S0より大きい速度S2に設定し、式■にしたがって、減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、1段づつ、ステップモータ27を回転させ、他方、切換え範囲Rm(j)が、ソフト側に切換えられた場合、すなわち、mの値が減少した場合には、ステップモータ27の回転速度Sを、通常の速度S0より大きい速度S2に設定し、式■にしたがって、減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、1段づつ、ステップモータ27を回転させて、ショックアブソーバの減衰力特性を切換える。
【0056】他方、ばね上とばね下の相対変位速度(Xsi−Xui)の絶対値が、所定値Xo以上のときは、切換え実行手段80は、さらに、横加速度センサ16から入力された横加速度GLの絶対値が、第1の所定値GL1 以上か否かを判定する。その結果、YESのときは、急旋回状態にあると認められるから、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因する大きな切換え音や振動の発生を防止するよりも、走行安定性を重視することが要求される走行状態にあり、したがって、切換え実行手段80は、切換え範囲Rm(j)が、ハード側に切換えられた場合、すなわち、mの値が増大した場合には、ステップモータ27の回転速度Sを、通常の速度S0より大きい速度S2に設定し、式■にしたがって、減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、1段づつ、ステップモータ27を回転させ、他方、切換え範囲Rm(j)が、ソフト側に切換えられた場合、すなわち、mの値が減少した場合には、ステップモータ27の回転速度Sを、通常の速度S0より大きい速度S2に設定して、式■にしたがって、減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、1段づつ、ステップモータ27を回転させて、ショックアブソーバの減衰力特性を切換える。
【0057】他方、NOのときは、切換え実行手段80は、横加速度GLの絶対値が、第1の所定値GL1 より小さい第2の所定値GL2 以下か否かを判定する。その結果、YESのときは、車両は、ほぼ直進状態にあると認められ、したがって、ショックアブソーバ1、2、3、4のステップモータ27を、すみやかに回転させても、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因する大きな切換え音や振動が発生するおそれなく、かえって、すみやかに、減衰係数Dkiが所定の値になるように、ステップモータ27を回転させることが望ましいから、切換え実行手段80は、切換え範囲Rm(j)が、ハード側に切換えられた場合、すなわち、mの値が増大した場合には、ステップモータ27の回転速度Sを、通常の速度S0より大きく、速度S2より小さい速度S3に設定して、式■にしたがって、減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、1段づつ、ステップモータ27を回転させ、他方、切換え範囲Rm(j)が、ソフト側に切換えられた場合、すなわち、mの値が減少した場合には、ステップモータ27の回転速度Sを、通常の速度S0より大きく、速度S2より小さい速度S3に設定して、式■にしたがって、減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、1段づつ、ステップモータ27を回転させて、ショックアブソーバの減衰力特性を切換える。
【0058】他方、NOのときは、切換え実行手段80は、さらに、上下方向の加速度aiの所定時間内の変動量v(ai)が、第1の所定値v1以上か否かを判定する。その結果、YESのときは、悪路を走行中と認められるから、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因する大きな切換え音や振動の発生を防止するよりも、走行安定性を重視することが要求される走行状態にあり、したがって、切換え実行手段80は、切換え範囲Rm(j)が、ハード側に切換えられた場合、すなわち、mの値が増大した場合には、ステップモータ27の回転速度Sを、通常の速度S0より大きい速度S2に設定し、式■にしたがって、減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、1段づつ、ステップモータ27を回転させ、他方、切換え範囲Rm(j)が、ソフト側に切換えられた場合、すなわち、mの値が減少した場合には、ステップモータ27の回転速度Sを、通常の速度S0より大きい速度S2に設定し、式■にしたがって、減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、1段づつ、ステップモータ27を回転させて、ショックアブソーバの減衰力特性を切換える。
【0059】他方、NOのときは、切換え実行手段80は、さらに、上下方向の加速度aiの所定時間内の変動量v(ai)が、第1の所定値v1より小さい第2の所定値v2以下か否かを判定する。その結果、YESのときは、ほぼ平坦な道路を走行中と認められるから、ショックアブソーバ1、2、3、4のステップモータ27を、すみやかに回転させても、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因する大きな切換え音や振動が発生するおそれなく、かえって、すみやかに、減衰係数Dkiが所定の値になるように、ステップモータ27を回転させることが望ましいから、切換え実行手段80は、切換え範囲Rm(j)が、ハード側に切換えられた場合、すなわち、mの値が増大した場合には、ステップモータ27の回転速度Sを、通常の速度S0より大きく、速度S2より小さい速度S3に設定し、式■にしたがって、減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、1段づつ、ステップモータ27を回転させ、他方、切換え範囲Rm(j)が、ソフト側に切換えられた場合、すなわち、mの値が減少した場合には、ステップモータ27の回転速度Sを、通常の速度S0より大きく、速度S2より小さい速度S3に設定し、式■にしたがって、減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、1段づつ、ステップモータ27を回転させて、ショックアブソーバの減衰力特性を切換える。
【0060】他方、NOのときは、悪路ではあるが、すみやかに、減衰係数Dkiが所定値になるように、ステップモータ27を回転させなくとも、走行安定性が損なわれることはなく、その一方で、ショックアブソーバ1、2、3、4のステップモータ27を、すみやかに回転させると、切換えに伴うショックアブソーバの圧力変動に起因する大きな切換え音や振動が発生するので、切換え実行手段80は、切換え範囲Rm(j)が、ハード側に切換えられた場合、すなわち、mの値が増大した場合には、ステップモータ27の回転速度Sを、通常の速度S0より小さい速度S1に設定し、式■にしたがって、減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、1段づつ、ステップモータ27を回転させ、他方、切換え範囲Rm(j)が、ソフト側に切換えられた場合、すなわち、mの値が減少した場合には、ステップモータ27の回転速度Sを、通常の速度S0より小さい速度S1に設定し、式■にしたがって、減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、1段づつ、ステップモータ27を回転させて、ショックアブソーバの減衰力特性を切換える。
【0061】以上、本実施例によれば、オープン制御により、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力を制御するため、ステップモータ27を使用しており、その結果、小型でかつ安価なコンピュータにより、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力特性を、所望のように、変更制御することができ、したがって、走行安定性および乗り心地を向上させることが可能になり、さらに、ステップモータ27を使用し、切換え範囲決定手段81により、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力特性が、車体の上下振動に応じて、変更制御される一方で、車速Vに基づいて、ステップモータ27の切換え可能な段数の切換え範囲Rm(j)を決定するように構成しており、したがって、車速Vの変化にともない、切換え範囲決定手段81により決定される切換え範囲Rm(j)が変化して、ステップモータ27が、前回の切換え範囲Rm(j-1)とは異なる切換え範囲Rm(j)に切換えられるときに、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力を大きく変化させなければならないときには、切換えに伴うショックアブソーバ1、2、3、4の圧力変動に起因して、大きな切換え音や振動が発生することが起こり得るが、本発明によれば、コントロールユニット8が、車速Vに基づいて、ステップモータ27の切換え可能な段数の切換え範囲Rm(J)を決定する切換え範囲決定手段81を有するとともに、車速Vの変化にともない、切換え範囲決定手段81により決定される切換え範囲Rm(j)が変化して、ステップモータ27が、前回の切換え範囲Rm(j-1)とは異なる切換え範囲Rm(j)に切換えられるとき、切換え実行手段80が、ステップモータ27の1段あたりの切換え速度を、走行安定性よりも、切換えに伴うショックアブソーバ1、2、3、4の圧力変動に起因して発生する大きな切換え音や振動の防止を図るべきときは、通常の速度S0よりも小さい速度S1に、他方、切換えに伴うショックアブソーバ1、2、3、4の圧力変動に起因して発生する大きな切換え音や振動の防止を図るよりも、走行安定性を重視すべきときは、通常の速度S0よりも大きい速度S2に、さらに、切換えに伴うショックアブソーバ1、2、3、4の圧力変動に起因して、大きな切換え音や振動が発生するおそれの少ない走行状態では、通常の速度S0よりも大きく、速度S2よりも小さい速度S3に、それぞれ、制御しつつ、ステップモータ27を回転させているので、切換えに伴うショックアブソーバ1、2、3、4の圧力変動に起因して、大きな切換え音や振動が発生することを防止しつつ、走行安定性を向上させることが可能になる。
【0062】本発明は、以上の実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも、本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。たとえば、前記実施例においては、いずれも、各しきい値α、βを、α>1、0<β<1に設定しているが、α>βであればよく、α>1、0<β<1に設定することは必ずしも必要でない。ただし、走行安定性を重視するという観点からは、α>1、α>β>0となるように、しきい値α、βを設定することが望ましい。
【0063】また、前記実施例においては、前回の切換え範囲Rm(j-1)と今回の切換え範囲Rm(j)が異なっており、かつ、減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に含まれていない場合において、路面摩擦係数の推定値μが所定値μo より大きく、かつ、ばね上とばね下の相対変位速度(Xsi−Xui)が所定値Xo より小さいとき、路面摩擦係数の推定値μが所定値μo より大きく、ばね上とばね下の相対変位速度(Xsi−Xui)が所定値Xo 以上で、かつ、横加速度GLの絶対値が、第1の所定値GL1 以上のとき、および、路面摩擦係数の推定値μが所定値μo より大きく、ばね上とばね下の相対変位速度(Xsi−Xui)が所定値Xo 以上で、横加速度GLの絶対値が、第1の所定値GL1 未満で、第2の所定値GL2 より大きく、かつ、上下方向の加速度aiの所定時間内の変動量v(ai)が、第1の所定値v1以上のときに、切換え実行手段80は、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、ステップモータ27を、1段づつ、通常の速度S0より大きい速度S2で、回転させ、他方、路面摩擦係数の推定値μが所定値μo 以下のとき、および、路面摩擦係数の推定値μが所定値μo より大きく、ばね上とばね下の相対変位速度(Xsi−Xui)が所定値Xo 以上であり、横加速度GLの絶対値が、第1の所定値GL1 より小さく、かつ、第2所定値GL2 より大きく、かつ、上下方向の加速度aiの所定時間内の変動量v(ai)が、第1の所定値v1より小さく、第2の所定値v2より大きいときに、切換え実行手段80は、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、ステップモータ27を、1段づつ、通常の速度S0より小さい速度S1で、回転させているが、路面摩擦係数の推定値μが所定値μo より大きい場合に、ばね上とばね下の相対変位速度(Xsi−Xui)が所定値Xo より小さいという条件、横加速度GLの絶対値が、第1の所定値GL1 以上という条件、および、上下方向の加速度aiの所定時間内の変動量v(ai)が、第1の所定値v1以上という条件が満足されているか否かを、ステップモータ27の回転速度Sを設定するための独立の条件として用い、いずれかの条件が満足されたときは、他の条件が満足されているか否かを問わず、切換え実行手段80が、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、ステップモータ27を、1段づつ、通常の速度S0より大きい速度S2で、回転させるようにしても、また、これらの条件のうちの2つを組み合わせ、いずれかが満足されたときに、切換え実行手段80が、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、ステップモータ27を、1段づつ、通常の速度S0より大きい速度S2で、回転させるようにしてもよい。さらには、路面摩擦係数の推定値μが所定値μo より大きい場合に、ばね上とばね下の相対変位速度(Xsi−Xui)が所定値Xo 以上という条件、横加速度GLの絶対値が、第1の所定値GL1 未満という条件、および、上下方向の加速度aiの所定時間内の変動量v(ai)が、第1の所定値v1未満という条件を、ステップモータ27の回転速度Sを設定するための独立の条件として用い、これらの条件のいずれかが満足されたときに、切換え実行手段80が、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、ステップモータ27を、1段づつ、通常の速度S0より小さい速度S1で、回転させるようにしても、また、これらの条件のうちの2つを組み合わせ、いずれかが満足されたときに、切換え実行手段80が、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、ステップモータ27を、1段づつ、通常の速度S0より小さい速度S1で、回転させるようにしてもよい。また、路面摩擦係数の推定値μについての条件が充足されているか否かについての判定を省略することもできる。
【0064】さらに、前記実施例においては、前回の切換え範囲Rm(j-1)と今回の切換え範囲Rm(j)が異なっており、かつ、減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に含まれていない場合において、路面摩擦係数の推定値μが所定値μo より大きく、かつ、ばね上とばね下の相対変位速度(Xsi−Xui)が所定値Xo より小さいとき、路面摩擦係数の推定値μが所定値μo より大きく、ばね上とばね下の相対変位速度(Xsi−Xui)が所定値Xo 以上で、かつ、横加速度GLの絶対値が、第1の所定値GL1 以上のとき、および、路面摩擦係数の推定値μが所定値μo より大きく、ばね上とばね下の相対変位速度(Xsi−Xui)が所定値Xo 以上で、横加速度GLの絶対値が、第1の所定値GL1 未満で、第2の所定値GL2 より大きく、かつ、上下方向の加速度aiの所定時間内の変動量v(ai)が、第1の所定値v1以上のときに、切換え実行手段80は、いずれもの場合にも、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、ステップモータ27を、1段づつ、通常の速度S0より大きい速度S2で、回転させているが、これらの場合に、ステップモータ27の回転速度を同一の速度S2に設定することは必ずしも必要はなく、通常の速度S0より大きい速度であれば、各場合で、ステップモータ27の回転速度Sとして、異なる速度を用いることも可能である。同様に、前記実施例においては、前回の切換え範囲Rm(j-1)と今回の切換え範囲Rm(j)とが同一の場合、前回の切換え範囲Rm(j-1)と今回の切換え範囲Rm(j)が異なっていても、減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に含まれている場合、および、前回の切換え範囲Rm(j-1)と今回の切換え範囲Rm(j)が異なっており、かつ、減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に含まれていない場合で、路面摩擦係数の推定値μが所定値μo 以下の場合、ならびに、路面摩擦係数の推定値μが所定値μo より大きく、ばね上とばね下の相対変位速度(Xsi−Xui)が所定値Xo 以上であり、横加速度GLの絶対値が、第1の所定値GL1 より小さく、かつ、第2所定値GL2 より大きく、かつ、上下方向の加速度aiの所定時間内の変動量v(ai)が、第1の所定値v1より小さく、第2の所定値v2より大きい場合に、切換え実行手段80は、いずれの場合においても、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、ステップモータ27を、1段づつ、通常の速度S0より小さい速度S1で、回転させているが、これらの場合に、ステップモータ27の回転速度を同一の速度S1に設定することは必ずしも必要はなく、通常の速度S0より小さい速度であれば、各場合で、ステップモータ27の回転速度Sとして、異なる速度を用いてもよい。さらには、前記実施例においては、前回の切換え範囲Rm(j-1)と今回の切換え範囲Rm(j)が異なっており、かつ、減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に含まれていない場合において、路面摩擦係数の推定値μが所定値μo より大きく、ばね上とばね下の相対変位速度(Xsi−Xui)が所定値Xo 未満で、かつ、横加速度GLの絶対値が、第2の所定値GL2 を越え、第1の所定値GL1 未満のとき、および、路面摩擦係数の推定値μが所定値μo より大きく、ばね上とばね下の相対変位速度(Xsi−Xui)が所定値Xo 未満であり、横加速度GLの絶対値が、第2の所定値GL2 を越え、第1の所定値GL1 未満であって、上下方向の加速度aiの所定時間内の変動量v(ai)が、第2の所定値v2を越え、第1の所定値v1未満のときに、切換え実行手段80は、いずれも、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰係数Dkiが、切換え範囲Rm(j)内に入るまで、ステップモータ27を、1段づつ、通常の速度S0より大きく、速度S2より小さい速度S3で、回転させているが、これらの場合に、同一速度S3で、ステップモータ27を回転させることは、必ずしも必要でなく、ステップモータ27の回転速度Sとして、異なる速度を用いることもできる。
【0065】また、横加速度GLの絶対値についての条件と、上下方向の加速度aiの所定時間内の変動量v(ai)についての条件とを、ステップモータ27の回転速度Sを設定する条件として、独立に用いる場合には、図14に示されたグラフにしたがって、横加速度GLの絶対値に対して、ステップモータ27の回転速度Sを決定し、また、図15に示されたグラフにしたがって、上下方向の加速度aiの所定時間内の変動量v(ai)に対して、ステップモータ27の回転速度Sを決定するようにしてもよい。なお、図14におけるS2およびS3と、図15におけるS2およびS3とは、異なる値に設定してもよい。
【0066】さらに、前記実施例においては、路面摩擦係数の推定値μを、アンチロック・ブレーキング・システム(ABS)67の検出信号に基づいて、求めているが、ワイパーの信号に基づき、路面摩擦係数の推定値μを求めるようにしてもよい。また、前記実施例においては、2つのストッパピン55、56を、ステップモータ27のロータ51に形成し、これと係合する溝57、58を、ステップモータ27の蓋53に形成しているが、ストッパピン55、56を、ステップモータ27の蓋53に形成し、これと係合する溝57、58を、ステップモータ27のロータ51に形成してもよく、さらには、ストッパピン55、56の一方を、ステップモータ27のロータ51に、他方を、ステップモータ27の蓋53に形成し、ロータ51に形成されたストッパピン55、56の一方と係合する溝57、58を、ステップモータ27の蓋53に、ステップモータ27の蓋53に形成された他方のストッパピン55、56と係合する溝57、58を、ステップモータ27のロータ51に形成するようにしてもよい。
【0067】さらに、前記実施例においては、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力を切換えるためのアクチュエータとして、ステップモータ27が用い、オープン制御によって、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力を制御しているが、ステップモータ27の代わりに、DCモータを用いて、フィードバック制御により、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力を制御するようにしてもよい。
【0068】また、車体の振動が、加振方向に働くときは、走行状態が不安定になるので、すみやかに、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力を切換え、制振方向に働くときは、走行状態は安定であるので、ゆっくり、ショックアブソーバ1、2、3、4の減衰力を切換えるようにしてもよい。
【0069】
【発明の効果】本発明によれば、ばね上とばね下との間に、ショックアブソーバを備え、車体の上下振動に応じて、前記ショックアブソーバの減衰力特性を変更制御する車両のサスペンション装置において、ショックアブソーバの減衰力の切換えにともなうショックアブソーバの圧力変動に起因する大きな切換え音や振動の発生を防止しつつ、走行安定性および乗り心地を向上させることのできる車両のサスペンション装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の好ましい実施例に係る車両のサスペンション装置を含む車両の略斜視図である。
【図2】図2は、各ショックアブソーバの要部略断面図である。
【図3】図3は、アクチュエータの分解略斜視図である。
【図4】図4は、ショックアブソーバの減衰係数を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明の実施例に係る車両のサスペンション装置の振動モデル図である。
【図6】図6は、ステップモータの略斜視図である。
【図7】図7は、ロータおよびステータの略平面図である。
【図8】図8は、蓋の略底面図である。
【図9】図9は、本発明の実施例に係る車両のサスペンション装置の制御系のブロックダイアグラムである。
【図10】図10は、切換え範囲決定手段により実行される車両の走行状態に応じた切換え範囲決定のルーチンを示すフローチャートである。
【図11】図11は、切換え実行手段によって実行される各ショックアブソーバの減衰力特性変更演算のルーチンを示すフローチャートである。
【図12】図12は、切換え実行手段によって実行される各ショックアブソーバの減衰力特性切換え実行のルーチンの前半部を示すフローチャートである。
【図13】図13は、切換え実行手段によって実行される各ショックアブソーバの減衰力特性切換え実行のルーチンの後半部を示すフローチャートである。
【図14】図14は、横加速度GLの絶対値と、ステップモータの回転速度Sとの関係を示すグラフである。
【図15】図15は、上下方向の加速度aiの所定時間内の変動量v(ai)と、ステップモータの回転速度Sとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1、2、3、4 ショックアブソーバ
5 左前輪
6 左後輪
7 コイルスプリング
8 コントロールユニット
9 車両
11 第1加速度センサ
12 第2加速度センサ
13 第2加速度センサ
14 第4加速度センサ
15 車速センサ
16 横加速度センサ
17 モード選択スィッチ
21 シリンダ
22 ピストンユニット
23、24 オリフィス
25 スリーブ
26 シャフト
27 ステップモータ
28 円形孔
29 第1オリフィスプレート
30 長孔
31 第2オリフィスプレート
32 上室
33 下室
41 第1アクチュエータ
42 第2アクチュエータ
43 第3アクチュエータ
44 第4アクチュエータ
50 筒状体
51 ロータ
52 ステータ
53 蓋
54 ソレノイド
55、56 ストッパピン
57、58 溝
61 第1圧力センサ
62 第2圧力センサ
63 第3圧力センサ
64 第3圧力センサ
65 アンチロック・ブレーキング・システム
71 第1車高変位センサ
72 第2車高変位センサ
73 第3車高変位センサ
74 第4車高変位センサ
80 切換え実行手段
81 切換え範囲決定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ばね上とばね下との間に、ショックアブソーバを備え、車体の上下振動に応じて、前記ショックアブソーバの減衰力特性を変更制御する車両のサスペンション装置において、前記ショックアブソーバの減衰力を変更するアクチュエータと、該アクチュエータに制御信号を出力する制御手段とを備え、前記制御手段が、車両の走行状態に基づいて、前記ショックアブソーバの減衰力の切換え可能な段数の切換え範囲を制限する切換え範囲決定手段を備えるとともに、車両の走行状態の変化にともない、前記切換え範囲決定手段により決定される切換え範囲が変化して、前記ショックアブソーバの減衰力が異なる切換え範囲に切換えられるとき、車両の状況に応じて、前記アクチュエータによる切換え速度を制御する切換え実行手段を備えたことを特徴とする車両のサスペンション装置。
【請求項2】 前記切換え実行手段が、ばね上とばね下との相対変位速度の絶対値が、所定値以上のときに、前記アクチュエータによる切換え速度が小さくなるように制御可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両のサスペンション装置。
【請求項3】 前記切換え実行手段が、横方向加速度の絶対値が、第1の所定値以上のときに、前記アクチュエータによる切換え速度が大きくなるように制御することを特徴とする請求項1に記載の車両のサスペンション装置。
【請求項4】 前記切換え実行手段が、良路を走行中は、普通路を走行中に比して、前記アクチュエータによる切換え速度が大きくなるように制御可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両のサスペンション装置。
【請求項5】 前記切換え実行手段が、路面摩擦係数が、所定値以下のときに、前記アクチュエータによる切換え速度が小さくなるように制御可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両のサスペンション装置。
【請求項6】 前記切換え実行手段が、前記横方向加速度の絶対値が、前記第1の所定値より小さい第2の所定値を越え、前記第1の所定値未満のときに、前記アクチュエータによる切換え速度が小さくなるように制御可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両のサスペンション装置。
【請求項7】 前記切換え実行手段が、路面摩擦係数が、所定値以下のときは、前記横方向加速度の絶対値が、前記第1の所定値以上であっても、前記アクチュエータによる切換え速度が小さくなるように制御可能に構成されたことを特徴とする請求項3に記載の車両のサスペンション装置。
【請求項8】 前記切換え実行手段が、悪路を走行中は、普通路を走行中に比して、前記アクチュエータによる切換え速度が大きくなるように制御可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両のサスペンション装置。
【請求項9】 前記切換え実行手段が、路面摩擦係数が、所定値以下のときは、悪路走行中であっても、前記アクチュエータによる切換え速度が小さくなるように制御可能に構成されたことを特徴とする請求項8に記載の車両のサスペンション装置。
【請求項10】 前記切換え実行手段が、路面摩擦係数が、所定値を越えているとき、ばね上とばね下との相対変位速度の絶対値が、所定値以上のとき、横方向加速度の絶対値が、第2の所定値を越え、第1の所定値未満のとき、普通路を走行中のときのいずれかの条件が満足されたときに、前記アクチュエータによる切換え速度が小さくなるように制御可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両のサスペンション装置。
【請求項11】 前記アクチュエータが、ステップモータであることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の車両のサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図14】
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【図15】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開平5−4508
【公開日】平成5年(1993)1月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−223094
【出願日】平成3年(1991)9月3日
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)