説明

車両のシート装置

【課題】可動クッションの安定した進退作動を得ることのできる車両のシート装置を提供する。
【解決手段】フレームユニット6にクッション本体8を固定するとともに、可動クッション10を前後移動可能に設ける。フレームユニット6には、可動クッション10を載置する上部支持壁16,13と、上部支持壁16,13の前端部から下方に延出した前部壁17,14を設ける。可動クッション10には、上部支持壁16,13上に支持されるクッション基部20と、クッション基部20の前端部から下方に延出する下方延出部21を設ける。フレームユニット6の前部壁17,14と可動クッション10の下方延出部21の間に袋体38を介装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乗員の臀部から大腿部にかけてを支持するシートクッションの前後長を自由に調整できる車両のシート装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のシート装置として、シートクッションのクッション本体の前部に別体の可動クッションを配置し、着座する乗員の体格等に応じて可動クッションを前後に移動調整できるようにしたものが案出されている(例えば、特許文献1,2参照)。
このシート装置は、可動クッションがクッション本体の前方側に前後移動可能に配置され、クッション本体の前面と可動クッションの後面の間に、空気圧によって膨出調整される袋体が介装されている。このシート装置では、袋体を収縮状態にすることによって可動クッションを後退させ、袋体を膨張させることによって可動クッションを前方位置に変位させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−87336号公報
【特許文献2】特開2008−143364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この従来のシート装置においては、膨出手段である袋体がクッション本体の前面と可動クッションの後面の間に介装された構造とされているため、袋体を膨張させて可動クッションを前進させるときに袋体の支持反力が軟質なクッション本体に作用し、このことが可動クッションの作動を不安定する要因となり易い。
【0005】
そこでこの発明は、可動クッションの安定した進退作動を得ることのできる車両のシート装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決する請求項1に記載の発明は、シートクッションのクッション支持部材(例えば、後述の実施形態におけるフレームユニット6)と、このクッション支持部材に固定されるクッション本体(例えば、後述の実施形態におけるクッション本体8)と、このクッション本体に対して前後移動可能な可動クッション(例えば、後述の実施形態における可動クッション10)と、流体の導入によって膨出して前記可動クッションを移動させる袋体(例えば、後述の実施形態における袋体38)と、を備えた車両のシート装置において、前記クッション支持部材は、前記可動クッションを載置する上部支持壁(例えば、後述の実施形態における上部支持壁13,16)と、この上部支持壁の前端部から下方に延出した前部壁(例えば、後述の実施形態における前部壁14,17)と、を備え、前記可動クッションは前端部から下方に延出する下方延出部(例えば、後述の実施形態における下方延出部21)を備え、前記袋体は前記前部壁と下方延出部の間に介装されていることを特徴とする。
この発明の場合、シートクッションの前後長を延ばすときには、流体の導入によって袋体を膨出させ、袋体によって可動クッションの下方延出部を前方に押圧する。このとき、袋体は背部をクッション支持部材の前部壁に支持された状態で可動クッションを前方に押圧し、可動クッションはこれによって前方の所定位置まで移動するようになる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両のシート装置において、前記可動クッションには下方延出部から後方に延びる支柱部(例えば、後述の実施形態における側部フレーム部24b)が設けられ、前記クッション支持部材の前部壁の背面側には後方に延びるガイドパイプ(例えば、後述の実施形態におけるガイドパイプ28)が設けられ、前記支柱部は前記ガイドパイプの内周に沿って摺動可能に支持されていることを特徴とする。
これにより、可動クッションが前後に移動するときには、可動クッション側の支柱部がガイドパイプによって案内されることになる。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の車両のシート装置において、前記支柱部には前記ガイドパイプの内面に摺動自在に接触する略球状のスライダ(例えば、後述の実施形態におけるスライダ34)が設けられていることを特徴とする。
これにより、支柱部は略球状のスライダ部分でガイドパイプの内面に接触し、その状態でガイドパイプに沿って移動することになる。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の車両のシート装置において、前記ガイドパイプはブラケット(例えば、後述の実施形態におけるブラケット32)を介して前記上部支持壁の下面に取り付けられていることを特徴とする。
これにより、ガイドパイプは上部支持壁の下方の外部から見えにくい位置に配置されるようになる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、袋体が可動クッションの下方延出部とクッション支持部材の前部壁の間に介装され、袋体の作動時の反力が剛性の高いクッション支持部材の前部壁に支持されることから、可動クッションの安定した進退作動を常時得ることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、可動クッション側の支柱部がクッション支持部材側のガイドパイプによって案内されるため、可動クッションの進退作動をより安定化させることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、支柱部が略球状のスライダを介してガイドパイプの内面に摺接するため、支柱部側とガイドパイプとの摺動抵抗を低減して、より円滑な可動クッションの作動を得ることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、ガイドパイプがブラケットを介してクッション支持部材の上部支持壁の下面に取り付けられるため、ガイドパイプを外部から見えにくくして外観品質の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の一実施形態のシート装置の斜視図である。
【図2】この発明の一実施形態のシート装置の図1のA−A断面に対応する断面図である。
【図3】この発明の一実施形態のシート装置の一部の構成部品を示す斜視図である。
【図4】この発明の一実施形態のシート装置の一部の構成部品を示す斜視図である。
【図5】この発明の一実施形態のシート装置の図1のA−A断面に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明においては、特別に断らない限り、前後と上下は車両における前後と上下を指すものとする。
図1は、この実施形態の車両のシート装置1の全体構造を示す斜視図である。このシート装置1は、運転席側、若しくは助手席側のセパレータタイプのシートである。
同図に示すように、シート装置1は、乗員の臀部から大腿部にかけてを支持するシートクッション2と、乗員の肩部から腰部にかけてを支持するシートバック3と、乗員の頭部を支持するヘッドレスト4とを備え、シートクッション2はシートレール5を介して車体に前後移動可能に取り付けられている。シートバック3は、その下端部にてシートクッション2の後端部に傾動可能にヒンジ結合され、ヘッドレスト4は、シートバック3の上端部に昇降調整可能に取り付けられている。
【0016】
図2〜図5は、シートクッション2の具体的な内部構造を示すものである。
これらの図にも示すように、シートクッション2は、金属製のパイプ材やプレート材、ばね材等によって構成されたフレームユニット6(クッション支持部材)の上部にクッションユニット7が組み付けられて成り、クッションユニット7は、着座する乗員の臀部から大腿部の主領域にかけてを支持するクッション本体8と、クッション本体8の両側に配置されたサイドサポート9と、クッション本体8の前端部に前後移動可能に配置された可動クッション10と、を備えている。なお、クッション本体8とサイドサポート9はフレームユニット6に対して固定されている。
【0017】
クッション本体8の前端部と可動クッション10を支持するフレームユニット6の前縁部は、図2に示すように、金属製の骨格パネル11と、この骨格パネル11に重合状態で固定される樹脂カバー15とによって構成されている。
【0018】
骨格パネル11の前縁部は、クッション本体8の中央側を支持する一般壁12の前部に段差状に上方に隆起して上部支持壁13が連設され、さらに上部支持壁13の前端部には下方に略直角に屈曲した前部壁14が連設されている。
樹脂カバー15は、骨格パネル12の上部支持壁13の上面に重合される上部支持壁16と、この上部支持壁16の前端部から下方に屈曲して骨格パネル12の前部壁14の前面に重合される前部壁17と、この前部壁17の下端部から前方に突出した後に下方に延出する下縁壁18とを備えている。下縁壁18は、車体のフロア面近くまで延出し、可動クッション10の下方の空間部を前方側から隠すようになっている。
【0019】
クッション本体8と左右のサイドサポート9は骨格パネル11と樹脂カバー15の上部に固定設置され、可動クッション10は骨格パネル12と樹脂カバー15の上部支持壁13,16上に前後スライド可能に載置されている。
可動クッション10は、上部支持壁13,16上に載置されるクッション基部20と、クッション基部20の前端部から下方に略L字状に屈曲して延出する下方延出部21と、を備えている。下方延出部21の背面は、樹脂カバー15の前部壁17の前面に対向している。また、可動クッション10は、クッション本体8やサイドサポート9と同様に厚みのあるクッション体22の外表面側が布や革等の表皮材23によって覆われている。そして、可動クッション10のクッション体22の内部には、クッション基部20と下方延出部21に跨るように金属製の芯金プレート25が埋設され、下方延出部21のクッション体20には略コ字形状の柱状フレーム24が埋設されている。
柱状フレーム24は、下方延出部21のクッション体20の内部に車幅方向に沿って埋設されて、芯金プレート25の前面に配置されるフレーム基部24aと、このフレーム基部24aの両端部から車体後方側に向かって延出する側部フレーム部24b(支柱部)と、を備え、両側の側部フレーム部24bの先端部が下方延出部21から外部に突出している。
【0020】
また、下方延出部21から後方側に延出した両側の側部フレーム部24bは樹脂カバー15と骨格パネル11の前部壁17,14を貫通し、これらの前部壁17,14の後方側に突出している。樹脂カバー15の前部壁17には、骨格パネル11の前部壁14に貫通状態で嵌合されるボス部26が設けられ、そのボス部26内にブッシュ27とガイドパイプ28が嵌合されている。
【0021】
ブッシュ27は、樹脂材料によって形成され、柱状フレーム24の側部フレーム部24bが挿入されるガイド孔29と、外周面にガイドパイプ28が嵌合される円筒状の受容壁30と、を備え、受容壁30の外周面に係止爪31が突設されている。
【0022】
ガイドパイプ28は、金属製のパイプ基材28Aの内周側に樹脂パイプ28Bが接合されて成り、パイプ基材28Aの外側面には金属製のブラケット32が結合されている。左右の各ガイドパイプ28は、ブラケット32を介して骨格パネル11の上部支持壁13の下面に取り付けられている。
また、ガイドパイプ28内の樹脂パイプ28Bの一方の縁部には係止孔33が形成され、ガイドパイプ28がボス部26とブッシュ27の隙間に嵌合されたときに、ブッシュ27の受容壁30に設けられた係止爪31が係止孔33に係合されるようになっている。
【0023】
骨格パネル11の上部支持壁13に取り付けられた各ガイドパイプ28には、前部壁17,14とブッシュ27を貫通した側部フレーム部24bが挿入されている。
各側部フレーム部24bの先端部には略球状のスライダ34が取り付けられ、このスライド34とブッシュ27の間にリターンスプリング35が介装されている。スライダ34は樹脂材料によって形成され、その外周面がガイドパイプ28(樹脂パイプ28B)の内周面に摺動可能に嵌合されている。なお、図中36は、スライダ34を側部フレーム部24の先端部から抜け止めするための係止リングである。また、リターンスプリング35はコイルスプリングによって構成され、側部フレーム部24bの周域にほぼ同軸を成すように配置されている。
【0024】
また、樹脂カバー15の前部壁17の前面と可動クッション10の下方延出部21の背面の間には三連の蛇腹構造の袋体38が介装されている。袋体38は、可動クッション10を前方に膨出変位させるための膨出手段を構成し、外部からの空気の導入によって容積を拡張し、可動クッション10の下方延出部21を背面側から前方に押圧するようになっている。袋体38は、均一に可動クッション10を押圧するために、柱状フレーム24の各フレーム部24bの幅方向中央に配置されている。
【0025】
このシート装置1は、初期状態では袋体38に空気が導入されず、図2に示すように、可動クッション10がリターンスプリング35の力を受けて最大に後退している。この状態では袋体38が蛇腹状にほぼ完全に折り畳まれ、可動クッション10の下方延出部21がフレームユニット6の前部壁17,14に近接した状態に維持される。
【0026】
この状態から可動クッション10の位置を前方側に調整する場合には、外部から袋体38に空気を導入する。袋体38に空気が導入されると、図5に示すように、袋体38が膨出して可動クッション10の下方延出部21を背面側から前方に押圧する。これにより、可動クッション10は柱状フレーム24の側部フレーム部24bをガイドパイプ28によってガイドされつつ、袋体38から押圧力を受けて前方にスライド変位する。このとき、袋体38の押圧反力は、下方延出部21の真後位置においてフレームユニット6の前部壁17,14によって支持され、左右の側部フレーム部24bは、スライダ34部分がガイドパイプ28内を摺動する。また、こうしてスライダ34が前方に移動すると、リターンスプリング35がガイドパイプ28内で押し縮められ、可動クッション10に対する戻り反力が高められる。なお、図5は可動クッション10が最大に前方にスライド変位したときの状態を示し、この状態においても可動クッション10のクッション基部20の後端が上部支持壁13,16の前端よりも後方に位置するので、袋体38が外部から見えず、外観品質の低下を来たすことがない。このとき、樹脂カバー15の上部支持壁16の上面を、例えば、しぼ加工等により加飾面としておくことが好ましい。
【0027】
また、この状態から可動クッション10の位置を初期位置に戻す場合には、袋体38の内部の空気を抜き、リターンスプリング35の力によって可動クッション10を初期位置まで後退させる。
【0028】
以上のようにこのシート装置1の場合、可動クッション10の前端部に、フレームユニット6側の前部壁17,14に対峙する下方延出部21が設けられ、下方延出部21と前部壁17,14の間に袋体38が介装されているため、袋体38の膨出反力が剛性の高いフレームユニット6の前部壁17,14によって確実に受け止められる。したがって、このシート装置1においては、可動クッション10の安定した進退作動を常時得ることができる。
【0029】
また、このシート装置1においては、可動クッション10の両側部から後方に延出する側部フレーム部24bが設けられ、その各側部フレーム部24bが骨格パネル11に取り付けられたガイドパイプ28によって案内される構造となっているため、可動クッション10の進退作動をより安定させることができる。
【0030】
特に、このシート装置1の場合、側部フレーム部24bの先端部にガイドパイプ28の内周面と摺接する略球状のスライダ34が設けられているため、側部フレーム部24b側とガイドパイプ28との摺動抵抗を低減して可動クッション10の円滑な作動を得ることができる。
さらに、この実施形態においては、ガイドパイプ28が金属製のパイプ基材28Aの内周側に樹脂パイプ28Bを接合した構造とされているため、摺動抵抗の低い樹脂パイプ28Bの内周面にスライダ34が常時接触することになる。したがって、このことが可動クッション10の作動を円滑するうえで有利となっている。
【0031】
また、この実施形態のシート装置1においては、可動クッション10を後退方向に付勢するリターンスプリング35が、ガイドパイプ28の内部において側部フレーム部24bと同軸に配置されているため、リターンスプリング35の付勢力が常時側部フレーム24bの軸心に沿って作用する。したがって、このことが可動クッション10を円滑に後退作動させるうえで有利となっている。
【0032】
また、このシート装置1においては、可動クッション10側の側部フレーム部24bを案内するガイドパイプ28がブラケット32を介して骨格パネル11の上部支持壁13の下面に取り付けられているため、ガイドパイプ28が外部から見えず、外観品質の低下を来たすことがない。
【0033】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0034】
6…フレームユニット(クッション支持部材)
8…クッション本体
10…可動クッション10
13,16…上部支持壁
14,17…前部壁
21…下方延出部
24b…側部フレーム部(支柱部)
28…ガイドパイプ
32…ブラケット
34…スライダ
38…袋体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションのクッション支持部材と、
このクッション支持部材に固定されるクッション本体と、
このクッション本体に対して前後移動可能な可動クッションと、
流体の導入によって膨出して前記可動クッションを移動させる袋体と、を備えた車両のシート装置において、
前記クッション支持部材は、前記可動クッションを載置する上部支持壁と、この上部支持壁の前端部から下方に延出した前部壁と、を備え、
前記可動クッションは前端部から下方に延出する下方延出部を備え、
前記袋体は前記前部壁と下方延出部の間に介装されていることを特徴とする車両のシート装置。
【請求項2】
前記可動クッションには下方延出部から後方に延びる支柱部が設けられ、
前記クッション支持部材の前部壁の背面側には後方に延びるガイドパイプが設けられ、
前記支柱部は前記ガイドパイプの内周に沿って摺動可能に支持されていることを特徴とする請求項1に記載の車両のシート装置。
【請求項3】
前記支柱部には前記ガイドパイプの内面に摺動自在に接触する略球状のスライダが設けられていることを特徴とする請求項2に記載の車両のシート装置。
【請求項4】
前記ガイドパイプはブラケットを介して前記上部支持壁の下面に取り付けられていることを特徴とする請求項2または3に記載の車両のシート装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−279650(P2010−279650A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137487(P2009−137487)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】