説明

車両のパワートレインマウント

【課題】NVH性能改善、低周波振動の絶縁、過渡期の振動及び高周波振動に対する振動絶縁効果にも優れたパワートレインマウントを提供する。
【解決手段】パワートレインと、このパワートレインを支持する車両の構造物との間に設置され互間の振動伝達を絶縁させるパワートレインマウントにおいて、内側にゴムを収容して支持するためのゴム収容部を有するブラケットと、ゴム収容部の内側に配置され構造物またはパワートレインに設置された支持部材を結合できる支持部材結合部が設けられ、車両の水平面に対して傾くように配置された傾斜支持具と、傾斜支持具の外周面に接着されて傾斜支持具を取り囲み、ブラケットに接着されずに圧縮した状態でゴム収容部に収容されて傾斜支持具と前記ブラケットとの間を弾性的に支持し、傾斜支持具の傾斜方向の両端の周りにその傾斜方向の動剛性を低めるための通孔が設けられているゴムとを含むマウント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワートレンマウント(powertrain mount)に係り、特に、車両のエンジンやトランスミッションなどのパワートレインと、このパワートレインが設置されて支持されるサブフレームなどの車両の構造物との間に設置され、パワートレインと構造物との相互間における振動の伝達を絶縁させることに用いられるパワートレインマウントに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の振動は低周波から高周波までの広い周波数帯域にわたって広範囲に発生する。振動発生源としては、路面からタイヤと懸架装置を介して車体に伝達される外部発生源と、エンジンの駆動によって駆動系を介して伝達される内部発生源がある。
【0003】
停車中にエンジン空回転状態で発生する振動を空回転振動というが、これはエンジンの内部での燃料の燃焼によるトルク変動が原因となって発生するものである。エンジンによる振動は、ステアリングホイールを介して運転者の手に伝達されるか、シート及び乗客に伝達される。この際、伝達される振動は、エンジンの状態による振動レベルの差異及び車体振動伝達特性によって異なる。振動伝達特性は、伝達される振動数、車体の骨組、デッククロスメンバー、ステアリングホイール及びマフラーの固有振動数と一致して共振を起こして空転振動レベルを高める結果をもたらすことがある。
【0004】
走行の際には、エンジンなどによる振動と共に車両が路面の大きい凸凹を通過するとき、或いは孔付き道路、非舗装道路を一定の速度で走行するときに、車全体が上下にバウンド、リバウンドされ、ローリング及びピッチング現象が発生し、懸架ばねと車体が共振するときに激しい揺れ現象が現われる。
【0005】
このような共振を防止し、パワートレインと、パワートレインが支持されるサブフレームなどの車両構造物との相互間に伝達される振動を絶縁させるためには、関連部品の固有振動数をエンジン振動数と異にする設計を行なうか、伝達経路を絶縁する方法があるが、本発明は、後者と関連している。
【0006】
パワートレインマウントは、パワートレインから発生した振動が車体に伝達される主伝達経路であって、空回転の振動に最も大きい影響を及ぼす部位に配設される。マウンティング形態は、支持方式によって慣性主軸型と重さ中心型に分けられ、マウンティング数によって3点マウンティング方式と4点マウンティング方式に分けられる。
【0007】
マウンティングインシュレイターとしてはゴムを用いたもので、ゴムに液体を封入したものがあるが、本発明は前者に関するものである。
【0008】
一般に、液体を使用しないパワートレインマウントは、中空の円筒部材の内部にゴムが挿入された状態でゴムの外周面が円筒部材の内周面に接着されるようにし、ゴムの中央付近にエンジンなどを支持し得るようにするために、パイプ等を設置した構成で出来ている。
【0009】
上述したようなパワートレインマウントには、ゴムの外側面が円筒部材の内側面に接着(bonding)されているため、マウントの座標系 (local coordinate of the mount)の垂直方向に荷重または変位が加えられるとき、圧縮静剛性(Compressive Static Stiffness)と引張静剛性(Tensile Static Stiffness)が合わせられた静剛性がパワートレインを正位置に支持する。
【0010】
また、圧縮動剛性(Compressive Dynamic Stiffness)と引張動剛性(Tensile Dynamic Stiffness)が合わせられた動剛性が、振動するパワートレインを支持しながら、パワートレインと構造物との間の振動を絶縁する役割を行う。
【0011】
パワートレインシステムにおいて、空回転の際に主に低周波振動が発生するが、これを絶縁するためには、マウントの座標系を基準としてマウントの側方向(lateral direction)に動剛性を低く維持しなければならず、高速走行の際に乗車感に影響する車両に垂直な方向への動剛性を低く維持することがよい。これは、高速走行の際に発生する高周波振動を絶縁するためにも同様である。
【0012】
円筒部材の内部にゴムが完全に充填された前記のマウントは、このような特性を持つことができない。これを改善したものが、図1に示されている。
【0013】
図1に示すように、従来のパワートレインマウント100は、内部が空いている円筒状の円筒部材110を備える。この円筒部材110の下部に、左右両側にサブフレームなど車両の構造物に固定し得るようにするためのフレーム装着用ブラケット120の一対が間隔を置いてそれぞれ取り付けられている。このフレーム装着用ブラケット120は、側面視L字形の形状を有し、各面にはフレーム装着用ブラケット120をサブフレームなどの車両構造物に装着して固定し得るようにするための孔124と、重量軽減用孔122が設けられている。
【0014】
円筒部材110の内部には、ゴム130、及びこのゴム130の支持を受ける内側支持具140が設置されている。ゴム130は、その外面が円筒部材110の内側に強制圧入される金属リング112の内面に沿って接着されており、内側支持具140の支持特性調整のための通孔132、134を持つ。これにより、ゴム130は、ゴム130の両脚136、137を介して内側支持具140を円筒部材110に支持する。
【0015】
内側支持具140は、略逆三角形の形状をしており、エンジンまたはトランスミッションに設置された部材が挿入されて結合できるように設けられた挿入孔142を備える。
【0016】
図1を参照して説明したパワートレインマウント100は、車両に水平に装着されるので、車両の座標系とマウントの座標系とが一致する。図2を参照すると、車両座標系の前/後方向(fore/after direction in vehicle coordinate)とマウント座標系の側方向(lateral direction in mount local coordinate)とが同じ方向であり、車両座標系の垂直方向(vertical direction in vehicle coordinate)とマウント座標系の垂直方向(vertical direction in mount local coordinate)とが同じ方向である。
【0017】
図1に示したようなパワートレインマウント100は、内側支持具140の上側周辺、下側周辺、左側周辺及び右側周辺のゴムを除去することにより、ゴムが完全に充填されたマウントに比べて、マウントの座標系を基準としてマウントの側方向(lateral direction)の動剛性を相対的に低め、高速走行の際に乗車感に影響する車両座標系を基準として車両に垂直な方向の動剛性を相対的に低めたものである。
【0018】
しかし、図1のパワートレインマウント100は、側方向に振動の際に依然としてゴム130の両脚136、137は圧縮されることと引張されることが混在しており、2箇所で支持を受けていて振動の制御が複雑であり、以前のものに比べて向上したが、パワートレインを正位置に支持するための静剛性(static stiffness)対比マウントの側方向の動剛性が大きいという問題点を持っている。
【0019】
また、マウント100に支持されたパワートレインなどが上下方向に振動する際、振動方向に応じてゴム130の両脚136、137は圧縮剛性または引張剛性によって振動を絶縁する。すなわち、エンジンなどが上向きになるとき、ゴム130の両脚136、137は引張剛性で振動を絶縁し、エンジンなどが下向きになるとき、ゴム130の両脚136、137は圧縮剛性で振動を絶縁する。これにより、図1のパワートレインマウント100を用いる場合、パワートレインの振動制御が複雑になり、またゴム130が円筒部材110の内側のリング部材112に接着されており、内側支持具140の両側下部で両脚136、137の支持を受けているため、静剛性対比マウントの垂直方向の動剛性が大きいという問題点もある。
【0020】
このような従来のパワートレインマウントは、車両の低周波振動(low frequency vibration)を絶縁することが主な目的であり、振動発生の後に減衰する過程の過渡期(transient)の振動及び高周波振動(high frequency vibration)に対する振動絶縁効果が低いという問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
そこで、本発明の目的は、低周波振動(low frequency vibration)の絶縁効果に優れるうえ、過渡期(transient)の振動及び高周波振動(high-frequency vibration)に対する振動絶縁効果にも優れたパワートレインマウントを提供することにある。
【0022】
本発明の他の目的は、車両への装着の際に、車両に垂直な方向の静剛性が同じ従来の製品に比べてマウントの側方向動剛性を低めて過渡期の振動及び高周波振動に対する振動絶縁効果に優れるパワートレインマウントを提供することにある。
【0023】
本発明の別の目的は、車両に設置されるパワートレインの振動特性に応じて装着角度を調整することにより、振動絶縁性能を調整することが可能なパワートレインマウントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するために、本発明に係るパワートレインマウントは、車両のパワートレインと、このパワートレインを支持する前記車両の構造物との間に設置され、パワートレインと構造物との相互間の振動伝達を絶縁させるパワートレインマウントにおいて、前記パワートレインまたは前記構造物に装着でき、内側にゴムを収容して支持するためのゴム収容部を有するブラケットと、ゴム収容部の内側に配置され、前記構造物または前記パワートレインに設置された支持部材を結合できる支持部材結合部が設けられ、前記車両の水平面に対して傾くように配置された傾斜支持具と、前記傾斜支持具の外周面に接着されて前記傾斜支持具を取り囲み、前記ブラケットに接着されずに圧縮した状態で前記ゴム収容部に収容されて前記傾斜支持具と前記ブラケットとの間を弾性的に支持し、前記傾斜支持具の傾斜方向の両端の周りに、その傾斜方向の動剛性を低めるための通孔が設けられているゴムとを含む構成を持つ。
【0025】
前記傾斜支持具の外周面に前記車両の水平面に対して傾いた第1傾斜面が形成され、前記ゴム収容部は、前記車両の水平面に対して傾くように配置されて両側に開放され、内面に沿っては前記ゴムが側面に逸脱することを防止する凹溝が設けられ、前記ゴムの外周面は前記凹溝に圧入できるように凸設されたことが好ましい。
【0026】
場合によって、前記ブラケットは、前記パワートレインまたは前記構造物に一体に形成できる。
【0027】
前記ブラケットには、前記パワートレインに着脱可能に装着するためのパワートレイン装着部が形成され、前記傾斜支持具には、前記構造物に設置された支持部材を結合できる支持部材結合部が形成され、前記傾斜支持具の外周面に、前記車両の水平面に対して傾いた第1傾斜面が形成され、前記第1傾斜面は前記傾斜支持具の上側面に形成され、前記第1傾斜面と反対側の前記傾斜支持具の下側面には凸部が形成されたことが好ましい。
【0028】
場合によって、前記ブラケットには、前記パワートレインに着脱可能に装着するためのパワートレイン装着部が形成され、前記傾斜支持具には、前記構造物に設置された支持部材を結合できる支持部材結合部が形成され、前記傾斜支持具の外周面に、前記車両の水平面に対して傾いた第1傾斜面が形成され、前記第1傾斜面は前記傾斜支持具の上側面に形成され、前記第1傾斜面と反対側の前記傾斜支持具の下側面には前記第1傾斜面と平行な第2傾斜面が形成できる。
【0029】
また、場合によって、前記ブラケットには、前記構造物に着脱可能に装着するための構造物装着部が形成され、前記傾斜支持具には、前記パワートレインに設置された支持部材を結合できる支持部材結合部が形成され、前記傾斜支持具の外周面に、前記車両の水平面に対して傾いた第1傾斜面が形成され、前記第1傾斜面は前記傾斜支持具の下側面に形成され、前記第1傾斜面と反対側の前記傾斜支持具の上側面には凸部が形成できる。
【0030】
また、前記ブラケットには、前記構造物に着脱可能に装着するための構造物装着部が形成され、前記傾斜支持具には、前記パワートレインに設置された支持部材を結合できる支持部材結合部が形成され、前記傾斜支持具の外周面に、前記車両の水平面に対して傾いた第1傾斜面が形成され、前記第1傾斜面は前記傾斜支持具の下側面に形成され、前記第1傾斜面と反対側の前記傾斜支持具の上側面には前記第1傾斜面と平行な第2傾斜面が形成できる。
【0031】
前記第1傾斜面及び前記第1傾斜面に対向する前記ゴム収容溝は、平行に配置されることが好ましい。
【0032】
前記傾斜支持具は、前記車両の水平面に対して25°〜45°の範囲内で傾くように配置されることが良い。
【0033】
前記パワートレインまたは前記構造物に装着される前記ブラケットの装着角度を調整し、前記傾斜面の角度を調整して装着し得るようにすることが良い。
【0034】
装着角度は、装着部のブラケットの構造、或いはパワートレインマウントが装着される部分のパワートレインまたは構造物の構造を調整することにより可能である。
【0035】
前記ゴム収容部と、このゴム収容部に収容されるゴムとは、前記傾斜方向に長い辺を持つ長方形の形状をしていることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0036】
上述した本発明に係るパワートレインマウントは、一般なパワートレインシステム(powertrain system)だけでなく、燃料節減のための可変起動システム(multi-displacement system)が装着されたパワートレインを用いる車両でのNVH(Noise, Vibration & Harshness)性能の改善に大きい効果がある。
【0037】
また、低周波振動(low-frequency vibration)の絶縁(isolation)だけでなく、特に過渡期(transient)振動及び高周波振動(high-frequency vibration)に対する振動絶縁(vibration isolation)効果が卓越している。
【0038】
上述した効果を持つ本発明に係るパワートレインマウントは、作り難くて維持保守が難しい短寿命の流体封入式マウントを代替して使用することを可能にし、大きい費用節減効果を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、添付した図面に基づき、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。
【0040】
図3及び図4に示した本発明に係るパワートレインマウント200は、車両のパワートレインと、このパワートレインを支持する前記車両の構造物との間に設置され、パワートレインと構造物との相互間の振動伝達を絶縁させるためのものであって、ブラケット210を備える。
【0041】
図3及び図4に示した本発明に係るパワートレインマウント200の傾斜支持具240などは、ブラケット210を介してエンジンなどに、傾くように設置される。このため、本発明に係るパワートレインマウント200の座標系は、図5から分かるように、車両の座標系とは異なり、一方に偏っている。これにより、本発明に係るパワートレインマウント200が車両のエンジンなどに装着された状態で、マウント200の座標系の側方向(lateral direction in mount local coordinate)は車両の前/後方向(fore/after direction in vehicle coordinate)、すなわち車両の水平方向に対して一方に偏っており、マウント200の座標系の垂直方向(vertical direction in mount local coordinate)は車両座標系の垂直方向(vertical direction in vehicle coordinate)に対して偏っている。
【0042】
傾斜程度は、ブラケット210の構造、またはブラケット210に形成されるフランジ部212の構造と、締結孔214、215の位置などを変更して調整でき、また、ブラケット210が装着される部分の構造物またはエンジンの形状に応じても調整できる。図3に示したパワートレインマウント200のブラケット210は、エンジンやトランスミッションなどのパワートレインに装着されるものであって、内側にゴム収容部220を備える。ゴム収容部220は、ゴム230を収容して支持するためのもので、その内部の断面形状は図4から分かる。
【0043】
このゴム収容部220は、車両の水平面に対して傾くように配置され、前後の両側に開放されている。このゴム収容部220の内面に沿っては、ゴム230が前後の開放された部分に逸脱することを防止する凹溝222が設けられており、ゴム収容部220の内面、すなわち凹溝222の表面はその横方向に沿って屈曲されている。これは、ここに圧縮された状態で収容されるゴム230が外方にさらに逸脱しないようにすることを助ける。
【0044】
ゴム収容部220は、正面視長方形の形状をしており、車両の水平方向に対して傾くように配置されている。このゴム収容部220は、必ずしも長方形に形成されなければならないのではなく、また必ずしも傾くように形成されなければならないのではないが、図3に示すように、車両の水平面に対して傾くように、且つ傾いた方向に長辺を持つ長方形の形状に形成されることが好ましい。
【0045】
このようなゴム収容部220の傾斜角度は、パワートレインまたは車両シャーシの振動特性に応じて必要な角度に調整される。ゴム収容部220の傾斜角度は、車両の水平面に対して25°〜45°の範囲が適当である。
【0046】
ブラケット210は、ゴム収容部220の一方の外側面に形成されたフランジ部212を備えている。このフランジ部212は、ゴム収容部220の外側面から外方に延長された面212aと、その端部から垂直に延長された面212bとからなることが好ましい。
【0047】
このフランジ部212は、エンジンなどに結合して固定するための締結孔214、215が設けられている。このフランジ部212と締結孔214、215は、エンジンまたはトランスミッションなどのパワートレインに結合して固定し得るようにするためのパワートレイン装着部216であって、パワートレインの、装着部分の構造に応じて様々に変形できる部分である。
【0048】
場合によって、前述したようなブラケット210は、パワートレイン装着部216なしにパワートレインに一体に形成できる。
【0049】
本発明に係るパワートレインマウント200は、傾斜支持具240を備える。この傾斜支持具240は、サブフレームなどパワートレインを支持する構造物に設置された支持部材に結合する部分であって、支持部材の結合のための、孔状の支持部材結合部242を備える。この傾斜支持具240は、後述するゴム230の支持を受けながらゴム収容部220の内側に配置される。この傾斜支持具240は、車両の水平面に対して傾くように配置される。この傾斜支持具240の上側面には第1傾斜面244が設けられている。第1傾斜面244の傾斜角度は、車両の水平面に対して25°〜45°の範囲が適当である。第1傾斜面244がある場合には、傾斜支持具240の傾斜角度は第1傾斜面244を基準として定められる。
【0050】
この第1傾斜面244は、マウント200の側方向への動剛性を低めることができるようにする。第1傾斜面244としては、平面が好ましいが、場合によって傾斜支持具240の長さの約1/10範囲内で中央部に行くほど少しずつ高くなるか低くなる曲面であってもよい。
【0051】
傾斜支持具240には、その外側の表面に第1傾斜面244が形成されていることが好ましいが、その表面形状が平面ではなく、突出部が設けられているか不定形からなっており、その表面を第1傾斜面244と見難い場合には、その長手方向の中心線を基準として傾斜支持具240の傾斜角度が定められる。
【0052】
図3及び図4に示した本発明に係る傾斜支持具240は、その下側面の中央部位に凸部246を備える。この凸部246は、第1傾斜面244の反対側に配置され、傾斜支持具240の下側部とその下側のゴム230間の結合力を増加させ、また、振動によってパワートレインの運動エネルギーがその下側のゴム230に圧縮力を作用させるとき、傾斜支持具240が安定的に支持できるようにする役割を果たす。この凸部246が必ずしも必要なのではないが、図3に示すように、第1傾斜面244の反対側に形成しておくことが好ましい。
【0053】
前述したような傾斜支持具240は、好ましくは耐磨耗性の高い金属で作られる。
【0054】
図示したように、本発明に係るパワートレインマウント200は、ブラケット210と傾斜支持具240との間に配置されるゴム230を備える。ゴム230としては、合成ゴムなどの弾性重合体が好適に用いられる。このゴム230は、傾斜支持具240の外周面に接着され、傾斜支持具240を取り囲んでいる。このゴム230は、図4に示すように、その外周面が凸設されており、ブラケット210とは接着されずに圧縮された状態でゴム収容部220に収容されている。ゴム230が圧縮されていない状態の外郭線は、一点鎖線で表示されている。
【0055】
このゴム230は、傾斜支持具240とブラケット210との間を弾性的に支持しており、傾斜方向の傾斜支持具240の両端の周りに傾斜方向の動剛性(dynamic stiffness)を低めるための通孔232が設けられている。
【0056】
前述した本発明に係るパワートレインマウント200は、一種の初期圧縮ゴムブッシュマウント(pre-loaded rubber bush mount)であって、ゴム230をブラケット210に直接接着(bonding)せず、ゴム230が強制圧入されるようにしてパワートレインマウントの垂直方向に荷重または変位が加えられるとき、ゴム230の外周面がブラケット210と接着されていないため、圧縮静剛性のみが荷重を支持する役割を果たす。
【0057】
また、動荷重作用の際には圧縮動剛性のみが動荷重を支持する役割を行い、また傾斜支持具240が傾くように配置されているため、マウントの側方向(lateral direction)に低い動剛性を実現し得るようにする。
【0058】
同一種類のパワートレインを支持するためのものであれば、静剛性はマウントの種類を問わずに同一の水準を維持しなければならない。図3に示したようなパワートレインマウント200は、車両に装着された状態で、傾斜支持具240の第1傾斜面244の上方のゴム230が圧縮された状態でパワートレインの支持に必要な静剛性を担当する。
【0059】
マウントの静剛性が同一の場合、低い動剛性を実現し得ることが、パワートレインを正位置に支持しながら振動絶縁(vibration isolation)をするのに有利であり、過渡期振動及び高周波振動の絶縁効果が向上する。
【0060】
本発明に係るパワートレインマウントは、車両装着の際に車両に垂直な方向の静剛性特性に影響を及ぼすことなしに、側方向(lateral direction)の特性を相対的に低めることができるので、過渡期振動及び高周波振動の絶縁効果に優れる。
【0061】
図6に示すように、場合によって、傾斜支持具240の下側面に凸部を形成せず、第1傾斜面244に対して平行に第2傾斜面247を形成してパワートレインマウント200を構成することができる。この場合、傾斜支持具240の下側面の表面に凸凹を形成してゴム230と傾斜支持具240の下側面間の結合力を高めた方がよい。
【0062】
残りの事項は、図3〜図5を参照して説明したとおりである。
【0063】
図7に示したパワートレインマウント200は、車両のサブフレームなどにブラケット210が結合して固定され、傾斜支持具240の支持部材結合部242に、エンジンまたはトランスミッションなどに形成された支持部材を挿入して結合できるように構成したものである。
【0064】
図示したように、ブラケット210には、その下側部にフランジ部212と締結孔215が設けられており、傾斜支持具240の第1傾斜面244は、その下側面に形成されており、凸部246は、傾斜支持具240の上側面に形成されている。
【0065】
図7に示したパワートレインマウント200にパワートレインを装着するとき、傾斜支持具240の下側のゴム230が圧縮された状態でパワートレインの荷重を支持してマウントの静剛性を担当する。
【0066】
ここで、第1傾斜面244及びこの第1傾斜面244に対向するブラケット210のゴム収容部220の内面は、互いに平行に配置されることが好ましい。
【0067】
残りの事項は、図3〜図5を参照して説明したとおりである。
【0068】
図8に示したものは、図7のマウント200において、傾斜支持具240の上側に第2傾斜面247を形成した以外は、図7のものと同様である。
【0069】
図9は、車両のフレームに、周波数及び振幅を測定するためのセンサーを取り付けて走行時の周波数変化による上下方向の振幅の変化(加速度の変化)を対比して示したもので、実線で表したのは本発明に対するものであり、破線で表わしたのは従来の技術に対するものである。
【0070】
図9を参照すると、本発明が適用された車両におけるフレームの振幅は、5〜25Hzの低周波数の全体帯域で従来のマウントが適用された車両におけるフレームに比べて振幅が小さく、特に5〜14Hzで振幅が著しく減少することが分かる。ここで、振幅は加速度の大きさで表示される。
【0071】
図10は、図9のような条件で、シートにおける周波数変化による上下方向の振幅を対比して示したもので、19Hz〜25Hzなどの一部区間以外は全般的に本発明が適用された車両のシートの振幅は減衰し、特に6〜12Hzで振幅が著しく改善されたことを示す。
【0072】
図9と図10のグラフより、本発明に係るパワートレインマウントは、低周波振動におけるシェイク及びハーシュネス(shake and harshness)を著しく改善する効果を持つことが分かる。
【0073】
図11と図12は、走行の際の、エンジンの回転数(rpm)の変化によるシート及びフレームの上下方向の振幅変化(加速度変化)を示す図である。
【0074】
図11から分かるように、シートの振幅は、約3,900rpm未満では本発明の製品が適用されたものと従来の製品が適用されたものとが類似の性能を示すが、約3,900rpm以上では本発明の製品が適用されたものがより優れる。
【0075】
図12を参照すると、フレームの振幅は、3,500rpm未満では従来の製品が適用されたのが多少優れるが、3,500rpm以上では本発明の製品が適用されたのが一層優れる。
【0076】
図13は、走行時のrpm変化による運転者の耳に聞こえる騒音の変化を示すもので、1,600rpm付近と5,250rpm付近などの一部の区間以外は、本発明のパワートレインマウントが適用された場合が多少優れることを示す。
【0077】
図14は、空回転時の周波数変化によるシートにおける車両の水平方向の振幅変化を示すものである。図14によれば、振幅絶縁効果は、20Hz未満では本発明のパワートレインマウントが適用されたものが従来のパワートレインマウントが適用されたものより著しく、それ以上では両者がお互い類似の性能を示す。
【0078】
図15は、空回転時の周波数変化による運転者の耳に聞こえる騒音の変化を示すものである。図15によれば、騒音改善効果は、本発明のパワートレインマウントが適用されたものが、従来のパワートレインマウントが適用されたものに比べて全般的に優れ、特に60Hz以下で卓越していることを示す。
【0079】
図14及び図15より、本発明に係るパワートレインマウントが空回転時の車両の側方向の著しい振動絶縁効果及び空回転時の騒音減衰の効果を持つことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】改善された従来のパワートレインマウントの正面図である。
【図2】図1のパワートレインマウントの座標系と車両の座標系を説明するための図である。
【図3】本発明に係るパワートレインマウントの一例を示す正面図である。
【図4】図3のI−I線による断面図である。
【図5】本発明に係るパワートレインマウントの座標系と車両の座標系を示す図である。
【図6】図3のパワートレインマウントの変形例を示す図である。
【図7】本発明に係るパワートレインマウントの他の例を示す正面図である。
【図8】図7の変形例を示す図である。
【図9】振動振幅の変化
【図10】振動振幅の変化
【図11】振動振幅の変化
【図12】振動振幅の変化
【図13】騒音の変化
【図14】振動振幅の変化
【図15】互いに同等な静剛性を持つ図1に示したような従来のパワートレインマウントと、図3に示した本発明に係るパワートレインマウントを用いてパワートレインを設置した車両で測定される騒音の変化を対比して示すグラフである。
【符号の説明】
【0081】
200 パワートレインマウント
210 ブラケット
220 ゴム収容部
230 ゴム
240 傾斜支持具
242 支持部材結合部
244 第1傾斜面
246 凸部
232 通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のパワートレインと、このパワートレインを支持する前記車両の構造物との間に設置され、前記パワートレインと前記構造物との相互間に振動が伝達されることを絶縁させるパワートレインマウントにおいて、
前記パワートレインまたは前記構造物に装着でき、内側にゴムを収容して支持するためのゴム収容部を有するブラケットと、
前記ゴム収容部の内側に配置され、前記構造物または前記パワートレインに設置された支持部材を結合できる支持部材結合部が形成され、前記車両の水平面に対して傾くように配置された傾斜支持具と、
前記傾斜支持具の外周面に接着されて前記傾斜支持具を取り囲み、前記ブラケットに接着されずに圧縮された状態で前記ゴム収容部に収容され、前記傾斜支持具と前記ブラケットとの間を弾性的に支持し、前記傾斜支持具の傾斜方向の両端の周りに、その傾斜方向の動剛性を低めるための通孔が設けられているゴムとを含むことを特徴とするパワートレインマウント。
【請求項2】
前記傾斜支持具の外周面に前記車両の水平面に対して傾いた第1傾斜面が形成され、前記ゴム収容部は前記車両の水平面に対して傾くように配置されて両側に開放され、内面に沿っては前記ゴムが側面に逸脱することを防止する凹溝が設けられ、前記ゴムの外周面は前記凹溝に圧入できるように凸設されていることを特徴とする請求項1に記載のパワートレインマウント。
【請求項3】
前記ブラケットは、前記パワートレインまたは前記構造物に一体に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のパワートレインマウント。
【請求項4】
前記ブラケットには、前記パワートレインに着脱可能に装着するためのパワートレイン装着部が形成され、前記傾斜支持具には、前記構造物に設置された支持部材を結合できる支持部材結合部が形成され、前記傾斜支持具の外周面に、前記車両の水平面に対して傾いた第1傾斜面が形成され、前記第1傾斜面は前記傾斜支持具の上側面に形成され、前記第1傾斜面とは反対側の前記傾斜支持具の下側面には凸部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のパワートレインマウント。
【請求項5】
前記ブラケットには、前記パワートレインに着脱可能に装着するためのパワートレイン装着部が形成され、前記傾斜支持具には、前記構造物に設置された支持部材を結合できる支持部材結合部が形成され、前記傾斜支持具の外周面に、前記車両の水平面に対して傾いた第1傾斜面が形成され、前記第1傾斜面は前記傾斜支持具の上側面に形成され、前記第1傾斜面とは反対側の前記傾斜支持具の下側面には前記第1傾斜面と平行な第2傾斜面が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のパワートレインマウント。
【請求項6】
前記ブラケットには、前記構造物に着脱可能に装着するための構造物装着部が形成され、前記傾斜支持具には、前記パワートレインに設置された支持部材を結合できる支持部材結合部が形成され、前記傾斜支持具の外周面に、前記車両の水平面に対して傾いた第1傾斜面が形成され、前記第1傾斜面は前記傾斜支持具の下側面に形成され、前記第1傾斜面とは反対側の前記傾斜支持具の上側面には凸部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のパワートレインマウント。
【請求項7】
前記ブラケットには、前記構造物に着脱可能に装着するための構造物装着部が形成され、前記傾斜支持具には、前記パワートレインに設置された支持部材を結合できる支持部材結合部が形成され、前記傾斜支持具の外周面に、前記車両の水平面に対して傾いた第1傾斜面が形成され、前記第1傾斜面は前記傾斜支持具の下側面に形成され、前記第1傾斜面とは反対側の前記傾斜支持具の上側面には前記第1傾斜面と平行な第2傾斜面が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のパワートレインマウント。
【請求項8】
前記第1傾斜面及び前記第1傾斜面に対向する前記ゴム収容溝は、平行に配置されていることを特徴とする請求項2に記載のパワートレインマウント。
【請求項9】
前記傾斜支持具は、前記車両の水平面に対して25°〜45°の範囲内で傾くように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のパワートレインマウント。
【請求項10】
前記パワートレインまたは前記構造物に装着される前記ブラケットの装着角度を調整し、前記傾斜面の角度を調整して装着し得るように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のパワートレインマウント。
【請求項11】
前記ゴム収容部と、このゴム収容部に収容されるゴムとは、前記傾斜方向に長い辺を持つ長方形の形状をしていることを特徴とする請求項1に記載のパワートレインマウント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−105654(P2008−105654A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302970(P2006−302970)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(506213946)ディーティーアール カンパニー リミテッド (2)
【Fターム(参考)】