説明

車両のパワートレイン配設構造

【課題】車両の衝突時に排気系補機が悪影響を及ぼすこと等を防止しつつ、パワートレインを車両の後方側に配設して操縦安定性を向上させることができるようにする。
【解決手段】車室1とエンジンルーム2を区画するダッシュパネル3に、車体の後方側に凹入する凹入部5が設けられるとともに、この凹入部5内に、車輪を駆動するパワートレイン11の一部が配設された車両において、上記パワートレイン11の前方に、パワートレイン冷却用の熱交換器18と、エンジン本体12から車体の前方側に延びる排気管22とが配設され、この排気管22に設けられた排気系補機27が上記熱交換器18の前方に配設されるとともに、車両の衝突時に前方から入力される荷重に応じて上記排気系補機27を下方に移動させるようにその挙動を規制する挙動規制部を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室とエンジンルームを区画するダッシュパネルに、車体の後方側に凹入する凹入部が設けられるとともに、この凹入部内に、車輪を駆動するパワートレインの一部が配設された車両のパワートレイン配設構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に示されるように、車室と、その前方にダッシュパネルにより区画されたエンジンルームとが設けられ、上記エンジンルーム内に配設されたエンジン本体等を有するパワートレインにより後輪が駆動されるように構成された後輪駆動車両において、エンジン本体の排気管をエンジンの前方を経由して後方に延びるように配設するとともに、この排気管に設けられた排気ガス浄化用のキャタライザー(キャタリスト)からなる排気系補機を上記パワートレインの前方側において車幅方向に延びるように配設し、かつ上記キャタライザーの前方側にラジエータと冷却ファンとを有するパワートレイン冷却用の熱交換器(クーリングユニット)を配設することが行われている。
【特許文献1】特開2003−326981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に開示された発明では、エンジン本体の排気管に設けられた排気ガス浄化用のキャタライザーからなる排気系補機を、上記パワートレインの前方側において車幅方向に延びるように配設したため、上記排気系補機をパワートレインの後方側に配設した場合に比べ、パワートレインを車体の後方側に位置させることができ、これにより車両の走行時におけるヨー慣性モーメントを低減して操縦安定性を向上させることができるという利点がある。しかし、上記のようにラジエータ等からなる熱交換器とパワートレインとの間に排気系補機を配設した場合には、限られたスペース内に排気管を導入して上記排気系補機を設置する必要があるため、レイアウトの自由度が制限されるとともに、大型化の排気系補機を設置することが困難であり、かつ排気系補機が上記パワートレインおよび熱交換器の熱影響を受け易い等の問題がある。
【0004】
なお、上記熱交換器の前方側に排気系補機を配設することも考えられる。この場合には、エンジンルーム内の前方部に設けられた広いスペースを利用して大型の排気系補機を自由にレイアウトすることができるため、従来、車室フロアのトンネル部内またはフロアパネルの下方等に配設されていた下流側のキャタライザーを省略し、あるいは小型化することが可能であり、その熱影響が車室内に及ぶのを防止できるという利点ある。この反面、エンジンルームの前方部に配設された上記排気系補機が車両の衝突時に悪影響を及ぼす可能性があり、その対策が必要になる等の問題がある。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、車両の衝突時に排気系補機が悪影響を及ぼすこと等を防止しつつ、パワートレインを車両の後方側に配設して操縦安定性を向上させることができる車両のパワートレイン配設構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、車室とエンジンルームとを区画するダッシュパネルに、車体の後方側に凹入する凹入部が設けられるとともに、この凹入部内に、車輪を駆動するパワートレインの一部が配設された車両において、上記パワートレインの前方に、パワートレイン冷却用の熱交換器と、パワートレインから車体の前方側に延びる排気管とが配設され、この排気管に設けられた排気系補機が上記熱交換器の前方に配設されるとともに、車両の衝突時に前方から入力される荷重に応じて上記排気系補機を下方に移動させるようにその挙動を規制する挙動規制部を備えたものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の車両のパワートレイン配設構造において、上記挙動規制部が、熱交換器の前方に配設されたクロスメンバに設けられたものである。
【0008】
請求項3に係る発明は、上記請求項2に記載の車両のパワートレイン配設構造において、上記クロスメンバに設けられた後下がりのガイド面により上記挙動規制部が構成されたものである。
【0009】
請求項4に係る発明は、上記請求項1に記載の車両のパワートレイン配設構造において、上記挙動規制部が、熱交換器と排気系補機との間に配設された遮熱部材に設けられたものである。
【0010】
請求項5に係る発明は、上記請求項4に記載の車両のパワートレイン配設構造において、上記遮熱部材に設けられた後下がりの傾斜部により上記挙動規制部が構成されたものである。
【0011】
請求項6に係る発明は、上記請求項1に記載の車両のパワートレイン配設構造において、上記挙動規制部が、排気系補機の後方に配設された熱交換器により構成されたものである。
【0012】
請求項7に係る発明は、上記請求項4に記載の車両のパワートレイン配設構造において、上記熱交換器が前傾姿勢で設置され、その前壁面により上記排気系補機を下方に移動させる案内面が構成されたものである。
【0013】
請求項8に係る発明は、上記請求項1〜7のいずれか1項に記載の車両のパワートレイン配設構造において、上記パワートレインが、エンジンルーム内に縦置き式に配設されるエンジン本体と、その後方に接続されたトランスミッションとを備えたものである。
【0014】
請求項9に係る発明は、上記請求項1〜8のいずれか1項に記載の車両のパワートレイン配設構造において、上記排気系補機が排気ガス浄化用のキャタライザーからなるものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、排気ガス浄化用のキャタライザー等からなる排気系補機をパワートレインの前方側に配設するとともに、このパワートレインの一部をダッシュパネルの凹入部内に配設することにより、エンジンルーム内に配設された重量物である上記パワートレインを、可及的に車両の後方側に位置させることができるため、車両の重心を車体の中心部側に位置させることにより、車両の走行時に作用するヨー慣性モーメントを効果的に低減して操縦安定性を向上させることができる。そして、車両の衝突時に前方から入力される荷重に応じて上記排気系補機を下方に移動させるようにその挙動を規制する挙動規制部を設けたため、上記排気系補機をエンジンルーム内の前方部に配設した場合においても、車両の前端部が障害物または他車に衝突する前突事故の発生時における衝撃吸収作用を損なうことなく、上記パワートレインの後方移動を抑制してその影響がエンジンルームの後方側に及ぶのを効果的に防止できるという利点がある。
【0016】
請求項2に係る発明では、熱交換器の前方に配設されたクロスメンバに、上記排気系補機の挙動を規制する挙動規制部を設けたため車体の強度を維持するために設けられた既存の部材(クロスメンバ)を利用して車両の衝突時に上記排気系補機の挙動を規制することができ、車体重量を増大させることなく、上記パワートレインの後方移動を抑制できるという利点がある。
【0017】
請求項3に係る発明では、クロスメンバに後下がりのガイド面を設け、このガイド面により上記排気系補機の挙動を規制するように構成したため、この排気系補機を車両の衝突時にスムーズに下方に移動させて上記パワートレインの後方移動を効果的に抑制できるという利点がある。
【0018】
請求項4に係る発明では、車両の衝突時に上記排気系補機が後方に押圧されると、その挙動が上記遮熱部材によって規制されるため、上記排気系補機に入力された衝撃荷重が排気管を介してパワートレインに伝達されるのを効果的に防止できるという利点がある。
【0019】
請求項5に係る発明では、車両の衝突時に上記排気系補機が後方に押圧された場合には、その背面を上記遮熱部材の傾斜部に当接させ、この傾斜部に沿って斜め下方側にスムーズに移動させることができるため、上記排気系補機に入力された衝撃荷重が、排気管を介してパワートレインに伝達されてこのパワートレインを車体の後方側に押動する方向に作用するのを効果的に防止できるという利点がある。
【0020】
請求項6に係る発明では、車両の衝突時に、上記排気系補機が熱交換器によって下方に案内されることにより、上記排気系補機の挙動が規制されるため、上記パワートレインの後方移動を防止できるという利点がある。
【0021】
請求項7に係る発明では、車両の衝突時に、上記排気系補機が熱交換器の前壁面に沿って下方に案内されることにより、上記排気系補機の挙動が規制されるため、車体重量を増大させることなく簡単な構成で上記パワートレインの後方移動を防止できるという利点がある。
【0022】
請求項8に係る発明では、エンジンルーム内において縦置き式に配設された重量物であるエンジン本体およびトランスミッションを有するパワートレインを可及的に車両の後方側に配設することができるため、車両の重心を車体の中心部側に位置させることにより、車両の走行時に作用するヨー慣性モーメントを効果的に低減して操縦安定性を向上させることができる。
【0023】
請求項9に係る発明では、温度変化に応じて活性状態が顕著に変化するとともに、高温に加熱されると熱劣化を生じ易く、かつ活性状態で熱を発生する傾向がある上記排気ガス浄化用のキャタライザーからなる排気系補機を、パワートレイン冷却用の熱交換器の前方側に配設したため、上記キャタライザーがパワートレイン等の熱影響によって早期に熱劣化するのを防止できるとともに、上記キャタライザーが適正反応温度よりも高温に加熱されて排気ガスの浄化性能が低下するという事態の発生を効果的に防止できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1〜図3は、本発明に係る車両のパワートレイン配設構造の第1実施形態を示している。上記車両には、車室1とエンジンルーム2を区画するダッシュパネル3が設けられるとともに、このダッシュパネル3の下端部にフロアパネル4の前端部が接続されている。上記ダッシュパネル3の車幅方向中央部には、車体の後方側に凹入する凹入部5が形成され、かつ上記フロアパネル4の車幅方向中央部には、上方に向けて膨出するトンネル部6が形成されている。
【0025】
上記エンジンルーム2の上面部には、ボンネット7が開閉可能に設置されている。このボンネット7の前端部下方には、走行風取入用の開口部を有するフロントグリル9が配設されるとともに、その上部後方に、バンパレインフォースメント10が車幅方向に延びるように設置されている。また、上記エンジンルーム2の後方部には、図外の後部車輪を駆動するパワートレイン11が配設されている。このパワートレイン11は、縦置き式に配設されたロータリエンジン等からなるエンジン本体12と、その後方に接続されたトランスミッション13とを有している。そして、上記エンジン本体12の後部が、ダッシュパネル3に形成された凹入部5内に配設されるとともに、上記トランスミッション13およびこれに接続されたプロペラシャフト14と、パワープラントフレーム15とが上記トンネル部6内に配設されている。
【0026】
上記エンジン本体12の前方には、ラジエータ等からなる熱交換器本体16と、その後方側に位置する冷却ファン17等とを備えたパワートレイン冷却用の熱交換器18が、上記エンジン本体12の前面に近接した位置において所定角度の前傾姿勢で設置されている。上記熱交換器18の下方には、サスペンションクロスメンバ19が車幅方向に延びるよう設置され、このサスペンションクロスメンバ19により熱交換器18の下端部が支持されている。また、熱交換器18の上端部は、上記バンパレインフォースメント10の設置部から車体の後方側に延びるように配設されたフロントサイドフレーム20にブラケット(図示せず)等を介して支持されている。
【0027】
上記パワートレイン11を構成するエンジン本体12の一側面部には、排気ポートに連通する排気管22が接続されている。この排気管22は、エンジン本体12の一側面部から車体の前方側に延びる前方延長部23と、その前端部から上記バンパレインフォースメント10の下部後方において車幅方向に延びる第1側方延長部24と、その側端部においてU字状に折曲げられることにより熱交換器18の他端部側に向けて車幅方向に延びる第2側方延長部25と、その側端部から車体の後方側に延びる後方延長部26とを有し、この後方延長部26が上記トンネル部6内に導入されている。また、上記排気管22の第1側方延長部24には、排気ガス浄化用のキャタライザー等からなる排気系補機27が、上記熱交換器18の前方側において車幅方向に延びるように配設されている。
【0028】
上記熱交換器18の前方側であって上記排気系補機27の後方側には、クロスメンバ28が車幅方向に延びるように設置され、その左右両端部がフロントサイドフレーム20の下面に固定されている。上記クロスメンバ28の車幅方向中央部における上記排気系補機27の背面に対向する位置には、図4に示すように、後下がりのガイド面29が形成され、このガイド面29により、車両の衝突時に前方から入力される荷重に応じて上記排気系補機27を下方に移動させるようにその挙動を規制する挙動規制部が構成されている。
【0029】
すなわち、車両の前端部が障害物または他車に衝突する前突事故が発生した場合には、上記バンパレインフォースメント10に入力される衝撃荷重に応じ、図5に示すように、フロントサイドフレーム20の前部が圧縮されて変形しつつ上記衝撃荷重が吸収される。さらに、前突時の衝撃荷重に応じて上記排気系補機27が後方に押圧されると、その背面が上記クロスメンバ28のガイド面29に当接し、このガイド面29に沿って斜め下方に移動するように上記排気系補機27の挙動が規制されるとともに、これに対応して排気管22の前端部(第1側方延長部24)を斜め下方に移動させるようとする荷重が作用する。この荷重に応じて上記エンジン本体12の一側面部に固定された排気管22の後端部を支点に前方延長部23を変形させる曲げモーメントが作用し、この前方延長部23が曲げ変形してその前端部が下降するため、上記排気系補機27に入力された衝撃荷重が排気管22の前方延長部23を介してパワートレイン11を車体の後方側に押動する方向に大きな応力が生じることが防止され、これにより上記パワートレイン11の後方移動が抑制されることになる。
【0030】
上記のように車室1とエンジンルーム2を区画するダッシュパネル3に、車体の後方側に凹入する凹入部5が設けられるとともに、車輪を駆動するパワートレイン11の一部が上記凹入部5内に配設された車両において、上記パワートレイン11の前方に、パワートレイン冷却用の熱交換器18と、パワートレイン11を構成するエンジン本体12から車体の前方側に延びる排気管22とを配設するとともに、この排気管22に設けられた排気系補機27を上記熱交換器18の前方に配設した場合には、上記排気系補機27がエンジン本体12の熱影響を受けるのを抑制しつつパワートレイン11を車両の後方側に位置させて車両の走行時におけるヨー慣性モーメントを効果的に低減できる等の利点がある。
【0031】
すなわち、上記排気ガス浄化用のキャタライザー等からなる排気系補機27をパワートレイン11の前方側に配設するとともに、このパワートレイン11の一部をダッシュパネル3の凹入部5内に配設することにより、エンジンルーム2内において縦置き式に配設された重量物である上記エンジン本体12およびトランスミッション13等からなるパワートレイン11を、可及的に車両の後方側に配設することができるため、車両の重心を車体の中心部側に位置させることにより、車両の走行時に作用するヨー慣性モーメントを効果的に低減して車両の操縦安定性および走行安定性を向上させることができる。
【0032】
また、上記パワートレイン11を車両の後方側に位置させることによりスペース的に余裕が生じたエンジンルーム2内において、大型のキャタライザーからなる排気系補機27を自由にレイアウトすることができるため、従来、車室フロアのトンネル部6内またはフロアパネル4の下方等に配設されていた下流側のキャタライザーを小型化し、あるいは省略することができる。したがって、上記下流側のキャタライザーにおいて発生した熱の影響が車室内に及ぶのを阻止するために断熱部材を設置する等の手段を講じることなく、上記キャタライザーの反応熱に応じて乗員の足元部分が加熱されること等を効果的に防止できるという利点がある。しかも、車室1内に配設された乗員用シートの下方に上記排気ガス浄化用のキャタライザーを配設した場合のように、乗員用シートを上方に位置させる必要がないため、車高を低くすることが可能である。
【0033】
さらに、上記ラジエータ等からなる熱交換器本体16と冷却ファン17等を備えたパワートレイン冷却用の熱交換器18の前方側に、排気ガス浄化用のキャタライザー等からなる排気系補機27を配設したため、車両の走行時に高温状態となるパワートレイン11の熱影響が上記排気系補機27の設置部に及ぶのを上記熱交換器18によって阻止することができる。したがって、車両の走行時に、上記排気系補機27がパワートレイン11の熱影響によって早期に熱劣化したり、あるいは適正反応温度よりも高温に加熱されて排気ガスの浄化性能が低下したりするのを効果的に防止することができる。しかも、従来は車体の前端部近傍に配設されていた重量物である上記熱交換器18をパワートレイン11の前方位置まで後退させて配置することにより、車両の走行時に作用するヨー慣性モーメントを、効果的に低減することができるため、さらに顕著な操縦安定性の向上効果が得られるという利点がある。
【0034】
そして、上記のように車両の衝突時に前方から入力される荷重に応じて上記排気系補機27を下方に移動させるようにその挙動を規制する上記クロスメンバ28のガイド面29等からなる挙動規制部を設けたため、上記排気系補機27をエンジンルーム2内の前方部に配設した場合においても、車両の前端部が障害物または他車に衝突する前突事故の発生時等に、上記フロントサイドフレーム20の前部を変形させることによる衝撃吸収作用を損なうことなく、上記前突事故の影響がエンジンルーム2の後方側に及ぶのを効果的に防止できるという利点がある。
【0035】
すなわち、上記前突事故の発生時に入力された衝撃荷重に応じ、フロントサイドフレーム20の前部が変形することによる衝撃吸収作用が発揮された後、上記排気系補機27が後方に押圧されて、その背面が上記クロスメンバ28のガイド面29に当接することにより、このガイド面29に沿って斜め下方に移動するように上記排気系補機27の挙動が規制されるため、上記排気系補機27に入力された衝撃荷重が、上記排気管22の前方延長部23を介してパワートレイン11に伝達されてこれを車体の後方側に押動する方向に作用するのを効果的に防止することができる。したがって、前突事故の発生時に上記パワートレイン11が後方移動してダッシュパネル3を変形させたり、あるいは上記排気系補機27が熱交換器18に当接してこの熱交換器18を損傷させたりする等の事態が発生するのを効果的に防止することができ、上記前突事故の発生時における修理費用を安価に抑えることができる。
【0036】
特に、上記第1実施形態に示すように、パワートレイン冷却用の熱交換器18の前方に配設されたクロスメンバ28に後下がりのガイド面29を設け、このガイド面29により上記排気ガス浄化用のキャタライザー等からなる排気系補機27の挙動を規制するように構成した場合には、車体の強度を維持するために設けられた既存の部材(クロスメンバ28)を利用して、車両の衝突時に上記排気系補機27をスムーズに斜め下方側へ移動させることができるので、車体重量を増大させることなく、上記パワートレイン11の後方移動を効果的に防止できるという利点がある。
【0037】
なお、上記クロスメンバ28に設けられた後下がりのガイド面29により上記挙動規制部を構成してなる上記実施形態に代え、クロスメンバ28の下面に後下がりに傾斜したガイド板を有する別体のブラケットを取り付け、車両の衝突時に、上記排気系補機27を下方に移動させるようにその挙動を規制する挙動規制部を上記ガイド板により構成してもよい。このように構成した場合には、上記ガイド板の大きさおよび傾斜角度等を容易かつ任意に設定可能であるという利点がある。
【0038】
図6および図7は、エンジン本体12の前方側に配設された上記排気系補機27と熱交換器18との間に遮熱部材30が設けられるとともに、バンパレインフォースメント10の設置部からボンネット7の下面に沿って車体の後方側に延びるようにガイド板31が設けられた本発明の第2実施形態を示している。上記遮熱部材30は、排気系補機27の上面部を覆う水平部32と、その後端部から斜め下方に延びる傾斜部33とを有し、所定の剛性および断熱性を有する板材等で上記排気系補機27の上面部および背面部を覆うように構成されている。そして、車両の衝突時には、上記遮熱部材30の傾斜部33が排気系補機27を下方に移動させる挙動規制部として機能することにより、図6の仮想で示すように、上記排気系補機27が傾斜部33に沿って下方に案内されるようになっている。
【0039】
上記構成によれば、上記前突事故の発生時に、上記排気系補機27が後方に押圧されると、その背面を上記遮熱部材30の傾斜部33に当接させ、この傾斜部33に沿って上記排気系補機27を斜め下方に向けてスムーズに移動させるようにその挙動を規制することにより、上記排気系補機27に入力された衝撃荷重が、排気管22の前方延長部23を介してパワートレイン11に伝達されてこれを車体の後方側に押動する方向に作用するのを効果的に防止できるという利点がある。
【0040】
しかも、車両の走行時に、上記熱交換器18においてエンジン冷却水の熱交換が行われることにより発生した熱の影響が、上記排気ガス浄化用のキャタライザー等からなる排気系補機27に及ぶのを上記遮熱部材30によって効果的に阻止することができるとともに、上記フロントグリル9の下方部からエンジンルーム2内に導入された走行風を上記遮熱部材30により排気系補機27の設置部に効率よく供給することができるため、上記排気系補機27が熱交換器18の熱影響を受けて早期に熱劣化し、あるいは適正反応温度よりも高温に加熱されて排気ガスの浄化性能が低下するのを効果的に防止できるという利点がある。
【0041】
図8は、本発明に係る車両のパワートレイン配設構造の第3実施形態を示している。この第3実施形態は、上記排気系補機27の後方に、熱交換器本体16および冷却ファン17等からなる熱交換器18が前傾姿勢で設置され、その前壁面、具体的には上記熱交換器18の前壁面により、車両の衝突時に上記排気系補機27を下方に移動させる案内面が構成されたものである。この第4実施形態によれば、車両の衝突時に、図8の仮想で示すように上記排気系補機27を熱交換器18の前壁面に沿って下方にスムーズに案内することにより、上記排気系補機27の挙動を規制することが可能であり、車体重量を増大させることなく、上記パワートレイン11の後方移動を防止できるという利点がある。
【0042】
なお、熱交換器本体16の前壁面により上記排気系補機27を下方に移動させる案内面を構成した上記第3実施形態に代え、車両の衝突時に上記排気系補機27の挙動を規制するガイド部材を上記熱交換器18に設けた構成としてもよい。この場合には、別体のガイド部材が必要であるため、その分車体重量が増大することが避けられないが、車両の衝突時に上記排気系補機27が熱交換器18に当接してこの熱交換器18が損傷するのを効果的に防止できるという利点がある。
【0043】
また、上記各実施形態では、エンジンルーム2内に縦置き式に配設されるエンジン本体12と、その後方に接続されたトランスミッション13とを備えたパワートレイン11の一部を、ダッシュパネル3に形成された後方側への凹入部5内に配設したため、重量物である上記エンジン本体12およびトランスミッション13を、可及的に車両の後方側に配設して車両の重心を車体の中心部側に位置させることにより、車両の走行時に作用するヨー慣性モーメントを効果的に低減して操縦安定性を向上させることができる。
【0044】
なお、上記排気系補機27としては排気ガス浄化用のキャタライザー以外に、ターボチャージャー用の排気タービン等が考えられる。しかし、上記排気ガス浄化用のキャタライザーは、温度変化に応じて活性状態が顕著に変化するとともに、高温に加熱されると熱劣化を生じ易く、かつ活性状態で熱を発生する傾向がある。したがって、上記実施形態に示すように、パワートレイン冷却用の熱交換器18の前方側に、排気ガス浄化用のキャタライザーからなる排気系補機27を配設することにより、この排気系補機27がエンジン本体12の熱影響によって早期に熱劣化するのを防止できるとともに、適正反応温度よりも高温に加熱されて排気ガスの浄化性能が低下するのを効果的に防止できるように構成することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る車両のパワートレイン配設構造の第1実施形態を示す側面断面図である。
【図2】上記パワートレイン配設構造の第1実施形態を示す平面断面図である。
【図3】上記パワートレイン配設構造の第1実施形態を示す正面図である。
【図4】クロスメンバの具体的構成を示す斜視図である。
【図5】車両の前突事故が発生した状態を示す説明図である。
【図6】本発明に係る車両のパワートレイン配設構造の第2実施形態を示す側面断面図である。
【図7】上記パワートレイン配設構造の第2実施形態を示す平面断面図である。
【図8】本発明に係る車両のパワートレイン配設構造の第3実施形態を示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 車室
2 エンジンルーム
11 パワートレイン
12 エンジン本体
13 トランスミッション
18 熱交換器
20 排気管
27 排気系補機
28 クロスメンバ
29 ガイド面
30 遮熱部材
33 傾斜部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室とエンジンルームとを区画するダッシュパネルに、車体の後方側に凹入する凹入部が設けられるとともに、この凹入部内に、車輪を駆動するパワートレインの一部が配設された車両において、上記パワートレインの前方に、パワートレイン冷却用の熱交換器と、パワートレインから車体の前方側に延びる排気管とが配設され、この排気管に設けられた排気系補機が上記熱交換器の前方に配設されるとともに、車両の衝突時に前方から入力される荷重に応じて上記排気系補機を下方に移動させるようにその挙動を規制する挙動規制部を備えたことを特徴とする車両のパワートレイン配設構造。
【請求項2】
上記挙動規制部が、熱交換器の前方に配設されたクロスメンバに設けられたことを特徴とする請求項1に記載の車両のパワートレイン配設構造。
【請求項3】
上記クロスメンバに設けられた後下がりのガイド面により上記挙動規制部が構成されたことを特徴とする請求項2に記載の車両のパワートレイン配設構造。
【請求項4】
上記挙動規制部が、熱交換器と排気系補機との間に配設された遮熱部材に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の車両のパワートレイン配設構造。
【請求項5】
上記遮熱部材に設けられた後下がりの傾斜部により上記挙動規制部が構成されたことを特徴とする請求項4に記載の車両のパワートレイン配設構造。
【請求項6】
上記挙動規制部が、排気系補機の後方に配設された熱交換器により構成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両のパワートレイン配設構造。
【請求項7】
上記熱交換器が前傾姿勢で設置され、その前壁面により上記排気系補機を下方に移動させる案内面が構成されたことを特徴とする請求項6に記載の車両のパワートレイン配設構造。
【請求項8】
上記パワートレインは、エンジンルーム内に縦置き式に配設されるエンジン本体と、その後方に接続されたトランスミッションとを備えたことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の車両のパワートレイン配設構造。
【請求項9】
上記排気系補機が排気ガス浄化用のキャタライザーであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の車両のパワートレイン配設構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−29150(P2009−29150A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191871(P2007−191871)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】