説明

車両のフロント下部構造

【課題】シンプルな構成でありつつ、走行時に生じる空気抵抗を最小限に抑制し、燃費特性を向上させることが可能な車両のフロント下部構造の提供を目的とした。
【解決手段】フロント下部構造10は、車両Aの前方下部に設けられたバンパ12からさらに下方に向けて突出するようにフラップ20が取り付けられている。フラップ20には、車体Bの下面Fより下方において前方側から後方側に向けて通気可能な通気口22が形成されている。通気口22は、車幅方向全体に亘って一列に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフロント下部構造に関し、特に走行時に生じる空気抵抗の抑制に効果的なものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1あるいは特許文献2に開示されているように、自動車における空力構造について様々な方策を施すことにより、燃費等の特性を改善する試みがなされている。具体的には、下記特許文献1に開示されているバランスパネル構造は、車両前方下部においてバンパよりも下方に配設されるものであり、車幅方向に延びかつ地面側に向けて延びるように形成されている。このバランスパネル構造は、半月上の断面形状を有するものであり、前後方向に空気を導通させる通気路を形成し、車両に作用する揚力を抑制することにより空力特性の改善を図っている。
【0003】
また、下記特許文献2に開示されている自動車の整流装置は、走行時の空気抵抗を低減させることを目的としたものである。この整流装置は、翼状整流板支持部と、この下面部に複数の隔壁を介して連結された翼状整流板を備えており、翼状整流板の下降及び上昇により翼状整流板支持部の前面部が伸縮する構造とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−121172号公報
【特許文献2】特開2011−68240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1のバランスパネル構造においては、車両に作用する揚力を抑制することができるものの、車体の下部を通過する気流の流速の抑制には配慮がなされていない。そのため、特許文献1のバランスパネル構造においては、車体下部における空気抵抗を十分抑制することができないという問題がある。また、下部を半円弧状にしたパネルを設置しなければならないため、構成が複雑であると共に重量が増大し、その分だけ燃費特性が低下してしまうという問題がある。
【0006】
また、上記特許文献2に開示されている整流装置においては、走行時の空気抵抗を抑制することを目的としたものではあるが、構成が複雑であり、製造コストが高く付くという問題がある。また、構成が複雑であることにより重量が増大し、その分だけ燃費特性が低下してしまうという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、シンプルな構成でありつつ、走行時に生じる空気抵抗を最小限に抑制し、燃費特性を向上させることが可能な車両のフロント下部構造の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決すべく提供される本発明は、車両の前方下部に、車体下面より下方において車両前方側から後方側に向けて通気可能な通気口が設けられており、前記通気口が、少なくとも車幅方向中央部に設けられていることを特徴とする車両のフロント下部構造である。
【0009】
本発明のフロント下部構造のように、車両の前方下部に通気口を設けた場合、車両下面を通過する気流の流速を低減することができる。このような効果が得られる理由は、概ね以下のような原理によるものと想定される。すなわち、図2に示すように、走行時に車両の前方から後方に流れる気流が、車両前方下部において通気口をなす縁面に衝突する。これにより、気流の流速成分のうち、図中下方への流速成分が相殺され、水平後方(前後方向)への速度成分のみの気流に変換され、車体下部へと流入する。従って、本発明のフロント下部構造を採用することにより、車体下部を通過する気流による空気抵抗を抑制し、車両の燃費特性を向上させることが可能である。
【0010】
また、本発明のフロント下部構造においては、上述した通気口が少なくとも車幅方向中央部に設けられている。これにより、本発明のフロント下部構造を採用した場合には、少なくとも車幅方向中央部を車両前方から後方に流れる気流の流速を抑制することができる。また、車体下面に露出している構造物の多くは、車幅方向中央部近傍に配置されている。従って、本発明のように、少なくとも車幅方向中央部に通気口を設けることにより、車体下面に露出している構造物と車体下面側を通過する気流との衝突に伴う空気抵抗を最小限に抑制し、車両の燃費特性を向上させることが可能である。
【0011】
本発明のフロント下部構造は、車両前方の下部に通気口を形成したものであり、構成が極めてシンプルである。そのため、本発明のフロント下部構造は、作製が容易であり、製造コストを抑制することができる。また、本発明のフロント下部構造は、シンプルな構成であるため軽量である。従って、本発明のフロント下部構造を採用することによる車両重量の増加、及び燃費特性の低下を防止することができる。
【0012】
本発明の車両のフロント下部構造は、前記通気口が、車幅方向に複数形成されていることを特徴とするものであることが望ましい。
【0013】
本発明においては、通気口が車幅方向に複数形成されているため、通気口を通過することによって車体下面側を流れる気流の流速が低下する領域を、車幅方向に向けて広域に亘って形成することが可能となる。これにより、車体下面側において広域に亘って空気抵抗を最小限に抑制することが可能となる。従って、本発明によれば、車両の燃費特性をより一層向上させることが可能となる。
【0014】
上述した本発明の車両のフロント下部構造は、前記車両前方に設けられたバンパから下方に向けて突出するように設けられたフラップを有し、前記フラップに前記通気口が形成されたものとすることが可能である。
【0015】
かかる構成とすることにより、既製の車両に対してフラップを取り付けることにより、上述したフロント下部構造を形成することが可能となる。従って、本発明によれば、新規に製造する車両に限定されることなくフロント下部構造を形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シンプルな構成でありつつ、走行時に生じる空気抵抗を最小限に抑制可能な車両のフロント下部構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るフロント下部構造を採用した車両を示す斜視図である。
【図2】図1に示すフロント下部構造における通気状態を説明するための説明図である。
【図3】(a),(b)はそれぞれ変形例に係るフロント下部構造を採用した車両を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
続いて、本発明の一実施形態に係る車両のフロント下部構造10について、当該フロント下部構造10を採用した車両Aを例に挙げ、図面を参照しつつ詳細に説明する。車両Aは、図1に示すように車体Bの前方部下方側にフロント下部構造10を有する。車両Aの車体Bの前方部下方側には、バンパ12、及びこれに装着されたフラップ20が設けられている。
【0019】
フラップ20は、樹脂製であって、車両Aの車幅方向の略全幅に亘って延びるように形成されている。フラップ20は、上端部をバンパ12の下端部に固定することにより、片持ち状の状態で支持されている。また、フラップ20は、車両Aの車体下面Fよりも下方側に向けて突出している。
【0020】
フラップ20の長さ(車幅方向の長さ)は、車両Aの車幅と略同一であることが望ましい。また、フラップ20の高さは、下端部が車両Aへの取り付け状態において地上から50mm〜300mmの範囲内になるように形成することが望ましい。また、地上から50mm〜200mmの範囲内になるように形成することがより一層望ましい。本実施形態では、フラップ20の下端部が地上から110mmの高さになるようにフラップ20が形成されている。
【0021】
フラップ20には、車幅方向に複数の通気口22がされている。通気口22は、少なくとも車幅方向略中央部に設けられている。本実施形態において、通気口22は、車幅方向中央部だけではなく、車幅方向略全域に亘って一列に並ぶように形成されている。また、通気口22は、略矩形の開口形状を有している。
【0022】
通気口22の開口領域の大きさは、車両Aの走行時に、前方から後方に流れる気流が通気口22をスムーズに通過できる大きさであればいかなる大きさであっても良い。具体的には、通気口22は、高さ(縦)が5mm〜60mmの範囲内であり、幅(横)が5mm〜600mmの範囲内であることが望ましい。また、高さ(縦)が10mm〜30mmの範囲内であり、幅(横)が10mm〜300mmの範囲内であることがさらに望ましい。本実施形態においては、通気口22の高さ(縦)が15mm〜20mmであって、幅(横)が30mm〜100mmとされている。
【0023】
上述したようなフラップ20を設けた場合、概ね次のような原理により、車両Aの走行に伴い発生する前方から後方に向けて発生する気流の流速が低減される。すなわち、図2に示すように、車両Aの走行に伴い発生する気流が、矩形状の通気口22を構成する上下左右の縁面24に衝突する。ここで、仮に走行に伴い発生する気流が層流であってフラップ20に対して垂直、すなわち水平方向に流れる場合には、縁面24に衝突することなく通気口22を通過すると想定される。
【0024】
しかしながら、通常の走行状態において走行に伴い発生する気流は、前述した層流で水平な流れではなく、乱流であって、図2に矢印で示すようにフラップ20に対して90度未満の角度で交差する方向に速度Vで流れるものと想定される。従って、走行により発生する速度Vの気流の大部分は、縁面24に対して鈍角(90度未満)の入射角で衝突するものと想定される。
【0025】
ここで、縁面24に衝突する気流の速度Vは、縁面24に対して垂直な方向、すなわち車両Aの上下左右方向への流速成分V1と、車両Aの前方から後方へ向かう水平方向への速度成分V2とに分解することができる。また、速度Vの気流が縁面24に衝突すると、縁面24に対して垂直な方向への速度成分V1の大部分が相殺され、水平後方への速度成分V2のみの気流に変換され、車体Bの下部へと流入するものと想定される。従って、走行により発生する気流は、通気口22を通過することにより大幅に減速され、車体Bの下部に沿って略水平に流れる。
【0026】
上述したように、本実施形態において例示したフロント下部構造10においては、車両Aの前方下部にフラップ20を設け、これに通気口22を形成することにより、車両Aの下面を通過する気流の流速を低減することができる。これにより、車体Bの下部を通過する気流による空気抵抗を抑制し、車両Aの燃費特性を向上させることが可能である。
【0027】
また、車両Aのフロント下部構造10は、通気口22が、車幅方向全体に亘って複数形成されている。そのため、通気口22を通過することによって車体Bの下面側を流れる気流の流速が低下する領域を、車幅方向全体に亘って形成することが可能となる。従って、本実施形態のフロント下部構造10を採用することにより、車体下面側における空気抵抗を車幅方向全体に亘って最小限に抑制することができる。
【0028】
本実施形態においては、通気口22を車幅方向全体に亘って設けた構成を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば図3(a)に示すように、車幅方向両端部あるいはこの近傍に通気口22を設けない構成としても良い。このような構成とした場合、通気口22を設けた部分においては十分な気流の減速効果及び燃費改善効果が得られる。
【0029】
また、本実施形態のフロント下部構造10は、車両Aの前方下部に設けられたフラップ20に通気口22を形成したものであり、構成が極めてシンプルである。そのため、フロント下部構造10は、容易に作製可能であり、製造コストも最小限で済む。また、フロント下部構造10は、樹脂製のフラップ20に通気口22をなす開口を設けたシンプルな構成であるため、極めて軽量である。従って、フロント下部構造10を採用することによる車両Aの重量増加、及び燃費特性の低下等の問題が発生しない。
【0030】
また、上述したフロント下部構造10においては、通気口22が少なくとも車幅方向中央部に設けられている。ここで、車体Bの下面において通気抵抗となりうる構造物の多くが、車幅方向中央部あるいはこの近傍に露出している。従って、本実施形態において示したように、少なくとも車幅方向中央部に通気口22を設けた構成とすることにより、走行に伴う気流が構造物と衝突することによる通気抵抗の上昇を最小限に抑制し、燃費特性を向上させることが可能となる。
【0031】
本実施形態のフロント下部構造10は、車両Aの前方に設けられたバンパ12から下方に向けて突出するようにフラップ20を取り付け、フラップ20に通気口22を形成したものである。そのため、既製の車両に対してフラップ20を取り付けることにより、新規に製造する車両Aに限定されることなくフロント下部構造10を構成することが可能である。
【0032】
なお、本実施形態においては、バンパ12に対してフラップ20を別途取り付けることによりフロント下部構造10を形成する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。具体的には、フラップ20を設けず、バンパ12の下部に通気口22に相当する開口を形成したものとしても良い。また、フラップ20以外の構造物を別途バンパ12の下部に取り付け、この構造物に対して少なくとも車幅方向中央部に通気口22を形成した構成としても良い。
【0033】
上述したフラップ20に形成した通気口22は、車幅方向に向けて一列(一段)に形成されたものであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、図3(b)に示すように上下方向に複数段(図示状態では二段)に亘って通気口22を形成しても良い。また、通気口22の開口形状は、矩形(長方形、正方形)に限定されるものではなく、円形、楕円形、多角形等、様々な形状とすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る車両のフロント下部構造は、車体の下部を通過する気流の流速を低下させ、通気抵抗を抑制し、燃費特性を改善するために利用可能である。本発明に係る車両のフロント下部構造は、通気口が形成されたフラップを取り付けることにより形成することも可能であるため、既存の車両についての通気抵抗の抑制及び燃費特性の改善のためにも利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
10 フロント下部構造
12 バンパ
20 フラップ
22 通気口
A 車両
B 車体
F 車体下面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方下部に、車両下面より下方において車両前方側から後方側に向けて通気可能な通気口が設けられており、
前記通気口が、少なくとも車幅方向中央部に設けられていることを特徴とする車両のフロント下部構造。
【請求項2】
前記通気口が、車幅方向に複数形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両のフロント下部構造。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−112253(P2013−112253A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261619(P2011−261619)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)