説明

車両のブレーキシステムのためブレーキブースタシステム及び車両のブレーキシステムの作動のための方法

本発明は、ブレーキシステムの第一のピストンに伝えられるドライバー制動力に関して生み出された第一の情報を考慮しながら支援力を決定する様に設計されている制御装置と、支援力をブレーキシステムの第二のピストンに対して加える様に設計されている第一のアクチュエータ装置とを備え、その際制御装置がそれに加えて、ブレーキシステムの作動モードに関して生み出された第二の情報を考慮しながら、推定変位力に対する補償力を決定する様に設計されており、又ブレーキブースタシステムの第二のアクチュエータ装置が、補償力をブレーキシステムの第一のピストン(12)に対して加える様に設計されている、車両のブレーキシステムのためのブレーキブースタシステムに関する。更に本発明は車両のブレーキシステムの作動のための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両のブレーキシステムのためのブレーキブースタシステムに関する。更に本発明は車両のブレーキシステムの作動のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のドライバーに、例えばブレーキペダル等の、ブレーキシステムの操作要素の快適な操作を可能にするために、ブレーキシステムには一般にブレーキブースタが備えられている。このブレーキブースタは、車両のドライバーによって操作要素の操作を通じて生み出されるドライバー制動力に加えて少なくとも一つの車輪の制動を行う支援力を生み出す様に設計されている。それにふさわしいブレーキブースタは、例えば独国特許出願公開第10 2005 024 577号明細書、独国特許出願公開第10057 557号明細書、及び独国特許出願公開第103 27 553号明細書に記載されている。
【0003】
図1A及び図1Bは従来のブレーキブースタの機能様態の説明のための略図を示している。
【0004】
図1Aの中に部分略図によって示されているブレーキシステムは操作要素10を備えており、この操作要素は例えばブレーキペダルとして作られている。操作要素10の操作を通じてドライバーはドライバー制動力Ffと第一の変位ストロークs1とをブレーキシステムの伝達コンポーネントに対して、例えば入力ピストン12に対して、加えることが出来る(図1Bの代替回路図参照)。追加としてドライバー制動力Ffは図には示されていない操作要素センサ装置を通じて把捉されることが出来る。操作要素センサ装置は、例えばドライバー制動力Ffの測定のための力センサを含んでいる。力センサの代わりとして或いは補足としてこの操作要素センサ装置は又、第一の変位ストロークs1、及び/又は第一の変位ストロークs1と(後に説明される)第二の変位ストロークs2との間の差ストロークの把捉のためのストロークセンサを持つこともある。
【0005】
ブレーキシステムは追加としてブレーキブースタ14を備えている。ブレーキブースタ14は、支援力Fuを生み出す様に設計されており、この支援力によってドライバーは車両の制動のために必要な力を全てドライバー制動力Ffとして生み出さなくても良くなる。
【0006】
ブレーキブースタ14によって生み出された支援力Fuはドライバー制動力Ffの、第一の変位ストロークs1、及び/又は差ストロークの関数となり得る。ブレーキブースタ14は支援力Fuと第二の変位ストロークs2を支援ピストン16に伝達するが、この支援ピストン16は入力ピストン12と共に、図示されている反応ディスク(Reaktionsscheibe)18の様な結合要素に対して結合されている。図1Bの代替回路図の中では入力ピストン12は第一のポイントP1に対して又支援ピストン16は反応ディスク18の第二のポイントP1に対して作用する。当業者には自明であるが、ポイントP1とP2は反応ディスク18の表面に対応している。例えばポイントP2は支援ピストン16が管形である場合にはリング面となる。
【0007】
操作要素10とブレーキブースタ14はブレーキシステムの中に、少なくともドライバー制動力Ffと支援力Fuが全制動力Fgと第三の変位ストロークs3を生み出し、この力とストロークが結合要素の出力側に配置されているコンポーネント、例えば出力ピストン20、に伝達される様に配置されている。その際出力ピストン20は第三のポイントP3の上或いはそれに対応する面の上に接触している。
【0008】
反応ディスク18が弾性的である場合には反応ディスクはドライバー制動力Ffがゼロでないか、又/或いは支援力Fuがゼロでない場合には変形する(図1B注には示されていない)。反応ディスク18の屈曲性は弾性eとして示すことが出来る。
【0009】
出力ピストン20は力圧力変換要素(Kraft-Druck-Umwandlungselements)、例えば主ブレーキシリンダ、の調節可能のコンポーネント21の上に結合されている。力圧力変換要素の上には少なくとも一つの車輪ブレーキシリンダを備え、ブレーキフルードを満たされた(図には示されていない)少なくとも一つのブレーキ回路が接続されている。少なくとも一つの車輪ブレーキシステムの中のブレーキ圧力を変化させることによって、対応している少なくとも一つの車輪を制動することが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国特許出願公開第10 2005 024 577号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10057 557号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第103 27 553号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら図1Aと図1Bに基づいて示されている従来のブレーキシステムの操作要素10を操作する際には、ドライバーはしばしば外部誘起された(fremd induzierte)操作要素10の変位を感じる。ここで外部誘起された操作要素10の変位とは、ドライバーによって操作要素10に対して与えられた運動、操作及び/又は力に直接帰すことの出来ない、操作要素10の動きであると理解されたい。ドライバーにはこの外部誘起された操作要素10の変位を例えば操作要素10のチャタリング及び/又はガタツキとして感じられる。その様な外部誘起された操作要素10の変位はドライバーにとって非常にしばしば苛立たしく感じられ、従って操作要素10の操作快適性が著しく損なわれる。
【0012】
それ故、操作要素の改善された操作快適性を持つブレーキシステムを使える様にすることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は請求項1のメルクマールを持つ車両のブレーキシステムのためのブレーキブースタシステムと請求項7のメルクマールを持つ車両のブレーキシステムの作動のための方法とを作る。
【0014】
本発明は、ドライバーにとって苛立たしく感じられる、ブレーキシステムの操作要素の外部誘起された変位はしばしば、力圧力変換要素によって第一のピストンに対して与えられる変位力に帰せられるとの知見に基づいている。ブレーキシステムの少なくとも一つのブレーキ回路が接続されている力圧力変換要素はブレーキシステムの主ブレーキシリンダとすることが出来る。変位力は例えば、少なくとも一つのブレーキ回路から力圧力変換要素の中へのブレーキフルード量の移動の際に呼び起される。ブレーキフルード量のその様な変位は、とりわけドライバー制動力と支援力から成る全制動力の減少の際に、ブレーキ回路のポンプの起動の際に、弁の切換えの際に、又/或いはEV起動の際に発生する。生み出された第二の情報を通じてブレーキシステムのその様な作動モードを検知することが出来る。
【0015】
本発明は更に、第二のアクチュエータ装置を用いて、定められた補償力をブレーキシステムの第一のピストンに対して加えることが出来る、との知見に基づいている。
【0016】
とりわけ、上記の定められた補償力は(推定)変位力に対抗して働く。この様にすることによって本発明は外部誘起された操作要素の変位を阻止し且つそれによってドライバーのために操作快適性を向上させる。とりわけこの補償力の作用は第二のアクチュエータ装置を通じてドライバーのために改善されたペダル感覚をもたらす。
【0017】
第一のピストンとは力圧力変換要素に対する操作要素の機械的/油圧的結合のための装置であると理解される。これに対応して第二のピストンとは、力圧力変換要素に対する第一のアクチュエータ装置の機械的/油圧的結合のための装置を意味している。本発明はかくして、狭い意味における第一のピストン及び/又は第二のピストンの作用に限定されていない。第一のピストン及び/又は第二のピストンは、それらが力圧力変換要素を介して少なくとも一つのブレーキ回路の中へのドライバーの直接制動を可能にするように作られていることが好ましい。第一のピストン又/或いは第二のピストンとは、とりわけ油圧的な力伝達のための装置であると理解することが出来る。
【0018】
ここに記載されているブレーキブースタシステムとそれに対応している方法は、簡単な構造を持つ低コストのブレーキシステムに対して適用可能である。一般に、このブレーキブースタシステムの使用のため又この方法の実施のためにはブレーキシステムの何らの追加のセンサ装置も必要ではない。かくして本発明の低コストの利用が保証されている。
【0019】
とりわけ本発明に基づくブレーキブースタシステムは少なくとも一つの従来のブレーキブースタを使用してアクチュエータ装置として作ることが出来る。かくして従来からのブレーキブースタの作動上の利点は本ブレーキブースタシステムの場合にも保証されている。
【0020】
一つの好ましい実施態様では作られた第二の情報が第二のブレーキトルクの時間的変化に関するブレーキトルク情報を含んでおり、このブレーキトルク情報は第一のブレーキトルクに加えて少なくとも一つの車輪に対して作用することが出来る。それに対する補足として制御装置は更に、ブレーキトルク情報を考慮しながら、支援力を第二のブレーキトルクの時間的変化に対応する差だけ変化させる様に作られることが出来る。例えば第二のブレーキトルクが増加する際には支援力はその増加に対応する差だけ減少される。同様にして第二のブレーキトルクが減少する際には支援力はその現象に対応する差だけ引き上げられることが出来る。この様にすることによってとりわけ、第二のブレーキトルクの時間的変化にも拘らず第一のブレーキトルクと第二のブレーキトルクから成る時間的にコンスタントなブレーキトルクの保持が容易に行える様になる。
【0021】
従来のやり方によればドライバーによるブレーキシステムの操作要素の操作が同じままであるにも拘らず車両の全体的減速にはしばしば変動が生じる。それ等の変動はしばしば第二のブレーキトルクの増加或いは減少に帰せられる。その様な状況はとりわけ、車両の制動の間にジェネレータトルクが車載バッテリの充電のために起動される時に現れる。
【0022】
技術水準によれば第二のブレーキトルクの減殺は一般に、操作要素をブレーキシステムの少なくとも一つのブレーキ回路から切り離し且つ、さもなければドライバーによって操作要素の操作を通じてもたらされる制動力を生み出すために追加のアクチュエータコンポーネントを用いることによってしか行うことは出来ない。しかしながらブレーキシステムの少なくとも一つのブレーキ回路からの操作要素のその様な切り離しは、アクチュエータコンポーネントが故障した場合にドライバーが直接少なくとも一つのブレーキ回路に働き掛けて、故障したアクチュエータコンポーネントを迂回することが最早出来なくなってしまう、と云う危険性と結び付いている。かくして少なくとも一つのブレーキ回路からの操作要素のその様な切り離しはブレーキシステムの安全性の低下をもたらす。
【0023】
これに対して先に説明された本発明の実施態様は、操作要素と少なくとも一つのブレーキ回路との間に機械的結合がある場合でも適用可能である。かくして第二のブレーキトルクの減殺に加えてブレーキシステムの良好な安全性も保証される。
【0024】
別の有利な実施態様では制御装置は更に、ブレーキトルク情報を考慮しながら、第一のピストンに対する力圧力変換要素の推定変位力に関する補償力(この推定変位力は上記の差に対応している)を定める様に設計されている。かくして従来のブレーキシステムの場合にしばしば見られた、第二のブレーキトルクの減殺がブレーキシステムの入力量を変化させ、且つこれによって操作要素の運動を生じさせると云う欠点を取り除くことが出来る。かくして単に全ブレーキトルクが第二のブレーキトルクの時間的変化に適応されるだけでなく、減殺の際に操作要素が外部誘起された運動をしないことも保証される。従って、ドライバーは操作要素の外部誘起された運動を通じて第二のブレーキトルクの減殺を感じることさえ無くなる。このことが追加的に操作要素の操作快適性を改善させる。
【0025】
更に制御装置は追加として、定められた補償力を追加として考慮しながら支援力を定める様に、設計されることが出来る。例えば、定められた補償力は支援力から導き出される。従って、補償力の生成は何らの追加のブレーキトルクも生じさせることが無く、唯一レバートルクも第二のブレーキトルクの減殺の際の力圧力変換要素の圧力変化及び/又は容積変化によって相殺されてしまう。この様にすることによってペダル感覚を更に改善することが可能となる。
【0026】
上に説明された様々な利点はその様なブレーキブースタシステムを備えたブレーキシステム、及びその様なブレーキシステムを備えた車両でも保証される。
【0027】
上に説明された利点は又車両のブレーキシステムの作動のための対応する方法によっても実現可能である。
【0028】
本発明は追加としてブレーキ設備、とりわけブレーキシステムの反応ディスク、の監視を保証する。その際には停車中の較正(In-Stopp-Kalibrierung) 及び/又はエージング過程の補償を行うことが出来る。
【0029】
本発明のその他のメルクマール及び利点が以下に図面に基づいて説明される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1A】従来技術のブレーキブースタの機能様態の説明のための略図及びその代替回路を示す。
【図1B】従来技術のブレーキブースタの代替回路を示す。
【図2】ブレーキブースタシステムの一つの実施態様の略図を示す。
【図3A】図2のブレーキブースタシステムの機能様態の説明のための略図を示す。
【図3B】図2のブレーキブースタシステムの機能様態の説明のための略図を示す。
【図3C】図2のブレーキブースタシステムの機能様態の説明のための略図を示す。
【図3D】図2のブレーキブースタシステムの機能様態の説明のための略図を示す。
【図3E】図2のブレーキブースタシステムの機能様態の説明のための座標系を示す。
【図4】車両のブレーキシステムの作動のための方法の一つの実施態様示すための流れ図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図2はブレーキブースタシステムの一つの実施態様の略図を示している。
【0032】
ここに示されているブレーキブースタシステムは既に説明されたコンポーネント10,12、及び16から22までを備えたブレーキシステムの上に配置されている。このブレーキシステムの操作要素10は、例えばブレーキペダルとすることが出来る。少なくとも一つのブレーキ回路が主ブレーキシリンダ22として作られた変位可能のコンポーネント21を備えた力圧力変換要素に接続されている。
【0033】
次に説明されるブレーキブースタシステムの適用可能性はブレーキガス或いはブレーキフルードを満たされたブレーキ回路の特定の実施例に限られてはいない。例えばブレーキシステムの中における容積管理については様々な代替可能性を考えることが出来る。このことは以下の説明に基づいて当業者にとっては容易に想到可能であるから、ここではこれ以上これについて触れない。
【0034】
ブレーキブースタシステムの適用可能性の対象は、入力ピストン12、(例えば管状の)支援ピストン16、及び反応ディスク18からなる図に示されている結合メカニズムだけに限られる訳ではない。例えば反応ディスク18の代わりに他のブレーキブースタと操作要素との結合要素をドライバー制動力Ffと支援力Fuとを加えて全制動力Fgとするために用いることも出来る。その際全制動力Fgは更に少なくとももう一つの追加の力、を含むことが出来るが、この追加の力については後述する。
【0035】
ブレーキブースタシステムは少なくとも第一のアクチュエータ装置30、第二のアクチュエータ装置32、及び制御装置34を含んでいるが、これ等の装置の機能様態については以下で詳しく説明する。
【0036】
制御装置34は、操作要素10の操作の際に入力ピストン12に対して伝達されるドライバー制動力Ffに関して生み出された第一の情報を考慮しながら、(効果的な)支援力Fuを確定する様に設計されている。この(効果的な)支援力Fuの確定の後制御装置34は対応する第一の制御信号36を第一のアクチュエータ装置30に対して送り出す。
【0037】
好ましくはこの支援力Fuはドライバー制動力Ff及び/又は操作要素10の(図中には示されていない)第一の変位ストロークs1の関数として定められる。その際ドライバー制動力Ff及び/又は操作要素10の(或いは入力ピストン12の)第一の変位ストロークs1は図中には示されていない操作要素センサ装置を通じて把捉された後、制御装置34に対する第一の情報として準備される。これに適した操作要素センサ装置には好ましくは力センサ及び/又は、例えばペダルストロークセンサの様な、ストロークセンサが含まれる。操作要素センサ装置は制御装置34のサブユニットとすることも出来る。同じく操作要素=センサ装置は制御装置34から分離されて配置されていることが出来、そこでとりわけ、制御装置34に対する車両の母線(Fahrzeugbus)に関する第一の情報を生み出すことが出来る。
【0038】
第一のアクチュエータ装置は、第一の制御信号36を受け取り且つ受け取ったこの第一の制御信号36に対応する支援力Fuを支援ピストン16に対して与える様に設計されている。これによって、少なくともドライバー制動力Ffと支援力Fuから成る全制動力Fgが、力圧力変換要素として働く主ブレーキシリンダ22に対して伝達されることが保証される。その際(主ブレーキシリンダ22の)力圧力変換要素は、全制動力Fgに対応したブレーキ圧力がブレーキシステムに接続されている少なくとも一つのブレーキ回路に対して伝達されるように作られている。このブレーキ圧力は結合されている少なくとも一つのブレーキ回路の少なくとも一つの車輪ブレーキシリンダを通じて油圧ブレーキトルクとして、対応する少なくとも一つの車輪に対して作用する。
【0039】
支援力Fuを作り出すことによって、ドライバーが車両の制動のためにより小さなドライバー制動力Ffを加えるだけで良いことが保証されている。かくして車両の制動がドライバーにとって容易化される。ブレーキブースタシステムの使用によってブレーキシステムの操作快適性が改善される。
【0040】
制御装置34は追加として、ブレーキシステムの操作モードに関して作られた第二の情報を考慮しながら補償力Faを定めるように設計されている。その際、この補償力Faは、補償力Faが推定変位力(この変位力は第二の情報に対応した作動モードの際に主ブレーキシリンダによって入力ピストン12に対して働くことが出来る)に対抗して働く様に定められる。推定変位力と云うのは高い確率で作動モードの下で現れる力であると理解される。その際この推定変位力は入力ピストン12に対して、入力ピストン12が変位される様に働く。推定変位力は力圧力変換要素/主ブレーキシリンダ22の内部での圧力変化によって、力圧力変換要素/主ブレーキシリンダ22の容積変化によって、又/或いは変位可能のコンポーネント21の変位によって生み出される。
【0041】
補償力Faの確定の後、制御装置34はそれに対応した第二の制御信号38を第二のアクチュエータ装置32に対して送り出す。第二のアクチュエータ装置32は、第二の制御信号38を受け取り、これに対応した補償力Faを入力ピストン12に対して加える様に設計されている。
【0042】
これによって、入力ピストン12が、作動モードの下で期待される入力ピストン12に対する主ブレーキシリンダ22の変位力によっては変位されないことが保証される。かくして主ブレーキシリンダ22の圧力変化又/或いは容積変化(この変化は従来技術によれば外部誘起された入力ピストン12と操作要素10の変位を生じさせる)が阻止出来る様になる。それ故例えばポンプの起動が、弁の開閉が又/或いは主ブレーキシリンダ22と少なくとも一つの(図中には示されていない)ブレーキ回路との間のブレーキフルード量の移動が、ブレーキブースタシステムによって、操作要素10の外部誘起された運動も起こらないように対抗される。
【0043】
例えば、生み出された第二の情報は追加ブレーキトルクの時間的変化に関するブレーキモーメント情報を含んでおり、この追加ブレーキトルクは油圧によるブレーキトルクに加えて車両の少なくとも一つの車輪に対して加えられる。ブレーキシステムの作動モードに関するこの第二の情報は、例えば追加ブレーキトルクの起動、起動停止、増加、及び/又は減少に関するブレーキトルク情報である。後でより詳しく説明されるように制御装置34はここでは、追加ブレーキトルクを減殺すると同時に、減殺された追加ブレーキトルクに基づく操作要素10の外部誘起された変位を阻止する様に設計されることが出来る。この追加ブレーキトルクはジェネレータブレーキトルク又/或いはエンジンブレーキトルクとすることが好ましい。
【0044】
アクチュエータ装置30及び32は例えばメカトロニクス的なブレーキブースタ、電気的なブレーキブースタ、バキューム式のブレーキブースタ、及び/又は油圧式のブレーキブースタとすることが出来る。勿論三つ以上のブレーキブースタをアクチュエータ装置30及び32として使用することも可能である。又アクチュエータ装置30及び32は全ブレーキブースタのサブユニットとすることも出来る。場合によっては制御装置34も又全=ブレーキブースタのサブユニットとすることが出来る。かくして当業者には、このブレーキブースタシステムの適用可能性がアクチュエータ装置30又は32としての特定のタイプの(全)ブレーキブースタに限定されない、と云うことが理解されるであろう。
【0045】
ここでアクチュエータ装置30又は32は別々に制御可能であると云うことが指摘される。このことは、アクチュエータ装置30又は32によって生み出される力Fu及びFaは互いに独立に決定することが出来又生み出すことが出来ると云うことを意味している。
【0046】
第二のアクチュエータ装置32は又、補償力Faが入力ピストン12の変位の際の追加の摩擦力として生み出され或いは作用する様に設計されることが出来る。第二のアクチュエータ装置32のそのような設計は容易に実施可能である。その際には入力ピストン12と第二のアクチュエータ装置32は自己増強ブレーキシステムの構成部分として作られることが出来る。
【0047】
一つの好ましい実施態様では制御装置34は、補償力Faを、作動モードの際の推定変位力が補償力Faによって相殺されるように、定めるよう設計されている。それによって、ドライバーは操作要素10の操作の際に何らの外部誘起された変位も感じることは無いことが確実に保証される。
【0048】
一つの有利な拡張例では制御装置34が追加として、支援力Fuを、ブレーキトルク情報を追加的に考慮しながら決定する様に設計されている。この場合には支援力Fuは追加ブレーキトルクの起動、起動停止、増加、及び/又は減少に関して適合される。
【0049】
とりわけ、追加ブレーキトルクの時間的変化は、その時間的変化に対応した差の分だけの支援力Fuの新規決定を行わせることが出来る。好ましくはこの支援力Fuの新規決定は、油圧的ブレーキトルクと追加ブレーキトルクから成る全ブレーキトルクが追加ブレーキトルクの時間的変化にも拘らず一定に保持されるように、行われる。
【0050】
追加として制御装置34は、補償力Faが推定変位力(この推定変位力は支援力Fuの新たな決定の元となる差の分に対応している)に対抗して働くように、補償力Faを決定するよう設計されることが出来る。この場合には、補償力Faは推定変位力に対抗して働くが、この推定変位力は、差の分だけ変化された支援力Fuがその差の分だけ全制動力Fgを変化させ、又従って油圧的なブレーキトルクの変化させることに起因している。油圧的なブレーキトルクの変化は一般に主ブレーキシリンダ22の内部に圧力変化をもたらし、且つそれによって主ブレーキシリンダ22の変位可能のコンポーネント21の移動をもたらす。それによって、支援力Fuの新たな決定の元となる差と推定変位力との間に一つの関係が成り立つ。ここで説明された実施態様について云えば従来技術と同様この関係に基づいて生じる欠点があるが、その欠点はしかしながら簡単なやり方で取り除くことが出来る。その際補償力Faが、差に対応している推定変位力を相殺すると有利となる。
【0051】
更に制御装置34は、支援力Fuが補償力Faの決定の後で、決定された補償力Faに適合される様に設計されることが出来る。好ましくは、制御装置34は補償力Faの決定の後で新しい支援力Fuを決定するが、この新しい支援力Fuは補償力Faの分だけそれまで働いていた支援力Fuからずれている。かくして補償力Faの決定は全制動力Fg或いは油圧的なブレーキトルクに何らの変化ももたらさない。
【0052】
このブレーキブースタシステムの機能様態については、図3Aから3Eまでを参照しながらより以下で詳しく説明する。
【0053】
図3Aから3Eには図2のブレーキブースタシステムの機能様態の説明のための四つの略図と座標系が示されている。
【0054】
図3Aはドライバー制動力≠0且つ支援力Fu≠0の時の反応ディスク18の変形を示すための代替モデルを示している。補償力Faは分かり易くするために図3Aではゼロとされている。当業者にはわかるように、ドライバー制動力Ff、支援力Fu、及び補償力Faに加えてもっと他の力が全制動力Fgに加わることがある。しかしながら以下の例では分かり易くするために考えないことにする。
【0055】
反応ディスク18は“制御された弾性”(geregelte Elastizitat)を示すことが出来る。点P1からP3までは反応ディスク18の上の表面に対応している。商xは点P2とP3の間の第一の間隔と点P3とP1の間の第二の間隔との比を示している。点P1が点P3に対して反応ディスク18の曲がり大きさΔだけ変位されると、式1が成り立つ。
【0056】
(式1) s1=s3+Δ
第三の変位ストロークs3だけの出力ピストン20の変位は一般に第一の変位ストロークs1だけの入力ピストン12と操作要素10の変位を生じさせる。図中には示されていないが好ましくは差ストロークセンサが反応ディスク18の上に配置されており、このセンサによって曲がり大きさΔが直接測定される。
【0057】
反応ディスク18の上でのトルクバランスから次の式が得られる。
【0058】
(式2) Δ*e=Ff−x*Fu
それ故、式2を式1に代入することによって次の式が得られる:
(式3) s1=s3(Ff−x*Fu)/e
操作要素10の第一の変位ストロークs1と出力ピストン20の第三の変位ストロークs3との間の式3に対応する関係は従来のやり方ではしばしば操作要素10の操作快適性の低下をもたらす。例えば上記の関係に基づく力圧力変換要素(主ブレーキシリンダ22)の中及び/又はブレーキ回路の中の圧力変化が従来のやり方によればドライバーにとって苛立たしく感じられる外部誘起された操作要素10の変位をもたらすことがある。ブレーキブースタシステムを用いれば従来からのこの欠点は除去することが出来る。
【0059】
図3Bはブレーキブースタシステムを用いた時点t0におけるブレーキシステムの代替モデルを示している。分かり易くするために以下の説明ではドライバーが時点t0から操作要素10に対して時間的にコンスタントなドライバー制動力Ffと時間的にコンスタントな第一の変位ストロークs1を加えたと仮定するものとする。それに対応して時点t0に時間的にコンスタントな支援力Fuと時間的にコンスタントな第二の変位ストロークs2が第一のアクチュエータ装置30によって生み出される。支援力Fuと第二の変位ストロークs2は制御装置34による第一のアクチュエータ装置30の制御を通じて知られている。補償力Faは時点t0ではゼロに等しい。
【0060】
ここで説明されているブレーキブースタシステムの適用はドライバーによる時間的にコンスタントな操作要素10の操作の場合に限定されている訳ではない、ことをここで指摘しておこう。操作要素10の時間的にコンスタントな操作の場合についてブレーキブースタシステムの機能様態を説明するのは単に分かり易くするためと云うだけのことである。
【0061】
かくして時点t0にはブレーキ回路に割当てられている少なくとも一つの車輪に対してコンスタントな油圧的ブレーキトルクMhが加えられ、このブレーキトルクMhは次の式で表される様に主ブレーキシリンダ22によって生み出されたブレーキ圧力p(全制動力Fgに比例している)と定数Cから成立っている。
【0062】
(式4) Mh=C*p
時点t*>t0で、追加ブレーキトルクMz(ゼロではない)が起動される。しかしながら後で説明されるブレーキブースタシステムの適用は追加ブレーキトルクMzが増加されるか、減少されるか、或いは起動停止される場合でも実施可能である。この追加ブレーキトルクMzは例えばジェネレータブレーキトルクとすることが出来る。しかしながらこのジェネレータブレーキトルクの代わりに別の追加ブレーキトルクMzでもブレーキブースタシステムを用いて減殺することが出来る。
【0063】
かくして時点t* における全制動トルクMg(t*)は次の式で表される様に油圧的ブレーキトルクMhと追加ブレーキトルクMzから構成される。
【0064】
(式5) Mg(t*)=Mh(t*)+Mz(t*)
追加ブレーキトルクMz(t*)≠0であるにも拘らず、ドライバーによる操作要素10の操作が一定である時には全ブレーキトルクMgが一定に保持されることが望ましい。即ち、
(式6) Mg(t>t*)=Mg(t0)
コンポーネント30から34までを備えたブレーキブースタシステムは、追加ブレーキトルクMz(t>t0)の起動にも拘らず全制動トルクMgの一定の保持が保証されるように設計されていることが望ましい。
【0065】
図3Cは、時点t1>t* における代替モデルを示している。時点t* と時点1との間に制御装置34が追加ブレーキトルクMzを考慮しながら新しい支援力Fuを決定した。その際、決定された差Dには時点t0における支援力Fu(t0)と時点t1における支援力Fu(t1)との間の差が適用される。すると次の式が成り立つ。
【0066】
(式7) Fu(t1)=Fu(t0)+D
かくしてドライバー制動力Ffが一定に保たれている場合には次の式が成り立つ。
【0067】
(式8) Fg(t1)=Fg(t0)+D
好ましくはこの差Dは追加ブレーキトルクMzを相殺するので、式6が成立ち、時点t1における車両の全減速は時点t0における車両の減速に対応する。即ち、
(式9) D=Mz* A/C
但し、Aは主ブレーキシリンダ22の面積とする。あるいは、
(式10) D=α×Mz
但しαはブレーキシステムの定数とする。
【0068】
ドライバーはかくして追加ブレーキトルクMzの起動の際に車両の減速力の鈍化によって苛立たしく感じさせられることが無くなる。
【0069】
しかしながら差Dの分だけの支援力Fu或いは全制動力Fgの変化は主ブレーキシリンダ22とブレーキシステムの少なくとも一つのブレーキ回路との間におけるブレーキフルード量の移動をもたらす。この移動によって出力ピストン20の第三の変位ストロークs3がストローク差Δs3だけ変化される。それに対応して反応ディスク18の位置も、鎖線24で示されている様に変化されるが、この鎖線の位置は時点t0における反応ディスク18の位置に対応している。更に、反応ディスク18の位置が変化すると入力ピストン12の位置が変化され、又それによって外部誘起された操作要素10の変位がもたらされることがある。外部誘起された操作要素10のそのような変位はドライバーにとって非常に苛立たしく感じられる。
【0070】
しかしながらここで説明されているブレーキブースタシステムは独立に制御可能の二つのアクチュエータ装置30及び32を備えている。これらの二つのアクチュエータ装置30及び32を通じて、第一のアクチュエータ装置30による追加ブレーキトルクMzの減殺に加えて、第二のアクチュエータ装置32を次のように、即ち(推定)変位力が対抗されるように、制御することを可能にする第二の自由度が存在しており、その際その(推定)変位力は差Dだけ変化された支援力Fu或いは全制動力Fgとそれに対応して変化された油圧的ブレーキトルクとに帰することが出来る。
【0071】
図3Dは、推定変位力に対抗して働く補償力Faの生成と、生み出された補償力Faに対する支援力Fuの適合の後の時点t2における代替モデルを示している。補償力Faは好ましくは、第一の変位ストロークs1に対して次の式が当てはまる様に定められる。
【0072】
(式11) s1(t2)=s1(t0)
但し、(式12) Ff(t2)=Ff(t1)=Ff(t0)の場合に。
【0073】
かくして第一の変位ストロークs1(t2)は時点t2でも再び時点t0における第一の変位ストロークs1(t0)と同じである。従って、追加ブレーキトルクの減殺と結び付いている、主ブレーキシリンダと少なくとも一つのブレーキ回路との間におけるブレーキフルード量の移動が操作要素10の何らの変位運動をもたらさないことが保証される。
【0074】
推定変位力が車両の変化された全体的減速と結び付かない様にするためには、次の式が成り立つ様にすることが有利である。
【0075】
(式13) Fg(t2)=Fg(t1)
但し、(式14) Fg(t2)=Ff(t2)+Fu(t2)+Fa(t2)
これによって全制動力Fgに対応している油圧的ブレーキトルクMhも一定に保持される。
【0076】
式13を保証するために支援力Fuは第二のアクチュエータ装置32によって生み出される補償力Faに適合されることがある。その場合には次の式が成り立つ。
【0077】
(式15) Fu(t2)=Fu(t1)−Fa=Fu(t0)+D−Fa
かくして時点t1から追加の自由なトルク(回転モーメント)が反応ディスク18に対して加えられる。これは、二つのアクチュエータ装置30及び32によって生み出された力Fu及びFaが次の様に、即ち少なくともドライバー制動力Ff、支援力Fu、及び補償力Faから構成されている全制動力Fgが時点t1から時間的にコンスタントに留まるように、変化されることによって行われる。力FuとFaの変化は、好ましくは商xに対応して行われる。
【0078】
当業者には理解できるが、ここで説明されている方法では車両の減速の一定保持と第一の変位ストロークs1の一定保持が切り離され且つ互いに独立に行われている。特に商xは、有利なレバー比が得られるように決定される。
【0079】
このようにすることによって、反応ディスク18のトルクは油圧的ブレーキトルクMhに対して影響を与えることが無くなる。このトルクは反応ディスク18の追加の変形だけを生じさせる。この変形は、入力ピストン12の時点t2における第一の変位ストロークs1(t2)を、追加ブレーキトルクMzの時間的変化の前の時点t0における変位ストロークs1(t0)と等しくなる様に調節するために利用することが出来る。この様にすることによって、ドライバーが外部誘起された操作要素10の変位を感じることが無く又従って追加ブレーキトルクMzについて何も気付かないと云うことが保証される。
【0080】
曲がり大きさΔは、負となる様に変えることが出来る。この様にすることによって、比較的大きなブレーキフルード量が主ブレーキシリンダと少なくとも一つのブレーキ回路との間で移動される時でも、操作要素10の位置に対する反作用を、ドライバーに気付かれることが無い様に相殺することが可能となる。
【0081】
当業者には理解できるとおり、上で説明されたプロセスステップは、時点t0と時点t2との間の時間間隔がゼロに接近する程迅速に実行される。それによって第一の変位ストロークs1は時間的に一定である様にドライバーには感じられる。
【0082】
このブレーキブースタシステムの機能様態を具体的に説明するために以下に数値による例が示される。
【0083】
或る小型車が例えば弾性eが 1.8×10−5N/mで、商xが 0.25の反応ディスク18を備えていたとする(この商xは第一のアクチュエータ装置30の増力係数5に相当している)。ペダル比は例えば3.15とする。主ブレーキシリンダ22の直径は20.62とすることにしよう。
【0084】
ドライバーはブレーキペダルとして作られた操作要素10の操作を通じて、上に説明された例の場合には、全減速0.3gに等しい全ブレーキトルクを加える。この全ブレーキトルクはペダル力53.5N、ペダルストローク28.4mmに相当している。主ブレーキシリンダ圧力は19バールである。
【0085】
かくして支援力Fuは580.6Nとなる。これに対応して曲がり大きさΔは、−0.5mmから−1mmまでの間の範囲にある。以下の説明では、−0.5mmの値を採用することにしよう。式2によって第三の変位ストロークは8.5mmとなる。
【0086】
時点t* では追加ブレーキトルクが0.15gの減速に対応して起動される。それゆえ油圧的ブレーキトルクMzは時点t1までに減速0.15gに等しい値まで引き下げられる。この引き下げは生み出された支援力Fuの適合を通じて行われる。
【0087】
0.15gの減速に等しい追加ブレーキトルクMzの減殺のために第一のアクチュエータ装置30によって生み出される580.6Nの支援力が42Nへ引き下げられる。第一の変位ストロークが時間的に一定に留まる様にするために、曲がり大きさΔが新たに1.4mmに調節される(この曲がり大きさΔは1.4mmで可能な値の範囲内にある)。第二のアクチュエータ装置32によって生み出される補償力Faは167Nとなる。
【0088】
ブレーキ圧力がもっと大きくなると減殺可能な追加=ブレーキトルクMzも大きくなる。何故なら1バール当たりの所要体積は圧力の上昇と共に減少し、従って相殺されるべきペダルストロークも小さくなるからである。
【0089】
次に、適切な補償力Faの決定のために可能な二つの制御方策を説明しよう。
【0090】
第一の制御方策の場合には追加ブレーキトルクMzの減殺の後で(有利な)曲がり大きさΔが式2からe、Ff、x、及びFuの既知の値を用いて計算される。(有利な)曲がり大きさΔの調節は第一のアクチュエータ装置30を通じて行われる。それに対応して補償力Fa(この補償力は第二のアクチュエータ装置によって生み出される)は、第一の変位ストロークs1に対してs1(t2)=s1(t0)が成り立つように調節される。
【0091】
このような制御方法は、ブレーキシステムが既に、曲がり大きさΔ或いはそれに対応した反応ディスク18に関する情報の確定のために設計されたセンサ装置を備えている限り有利となる。支援力Fuと第二の変位ストロークs2は、既に第一のアクチュエータ装置30の制御を通じて既知であるから、この第一の制御方策はこの場合には追加のセンサを必要とすることなく実施可能である。
【0092】
次に説明される第二の制御方法は、ドライバーの減速意思が第一の変位ストロークs1の測定を通じて確定される限り有利となる。第一のアクチュエータ装置30の制御を通じて第二の変位ストロークs2も生み出された支援力Fuも既知であるから、測定された曲がり大きさΔを用いてドライバー制動力をFf;式2に従って計算することが出来る。かくしてFa=0の時(即ち補償力Faの起動前)の全制動力Fgも次の式により求めることができる。
【0093】
(式16) Fg=Ff+Fu
支援力Fuが差D≠0だけ変化されると、ブレーキシステムの力とストロークとの特性曲線の助けによって(その変化に対応する)変位大きさΔs3を決定することができ、この変位大きさに対しては次の式が成り立つ。
【0094】
(式17) Δs3=s3(t0)+s3(t1)
上記の力とストロークとの特性曲線は例えば制御装置34の中に記憶させておくことができる。
【0095】
かくして、補償力Faを、好ましくは、時点t2までの第一の変位ストロークs1(t2)を第一の時点t0に調節された第一の変位ストロークs1(t0)に調節されるように決定するために必要な全ての情報が得られる。それから先の計算ステップは当業者には上記の説明にもとづいて容易に想到されるであろう。
【0096】
上記の第二の制御方法は、第一の変位ストロークs1の変化を閉ループ制御によってではなく開ループ制御によって行わせることができるという利点を持っている。このようにすることによって制御サイクルの間の変動を阻止することが出来る。
【0097】
第二のアクチュエータ装置32の補償力Faは固定値として与えられていることが好ましいのに対して、第一のアクチュエータ装置30に関しては、曲がり大きさΔを有利な値に調節する制御が用いられることが好ましい。これによって、ドライバーによって操作要素10に対して更に力が加えられた時に制動力が更に増加されると云うことが保証される。
【0098】
図3Eは、適切な力とストロークとの特性曲線50を備えた座標系を示している。その際横軸は全制動力Fgを示している。縦軸はそれに対応する第三の変位ストロークs3を示している。
【0099】
ブレーキブースタシステムの使用に間にエージングプロセスが力とストロークとの特性曲線50の移動をもたらすことがある。その様なエージングプロセスの原因は例えば蒸発或いは摩擦に帰すことが出来る。
【0100】
それらのエージングプロセスは第三の変位ストロークs3の対の値のための測定ポイント52とブレーキブースタシステムの使用の間の全制動力Fgを求めることによって補正することが出来る。好ましくは、測定ポイント52は追加ブレーキトルクMzの上昇の際に決定される。この様にして決定された少なくとも一つの測定ポイント52を用いることによって後較正された力とストロークとの特性曲線54を決定することが出来る。このように制御装置34は、少なくとも一つの測定ポイント52を用いて後較正された力とストロークとの特性曲線54を決定するように設計されている。例えば力とストロークとの特性曲線50は定められた少なくとも一つの測定ポイント52を考慮しながら移動される。この様にすることによってエージングプロセスは補正可能となる。
【0101】
反応ディスク18の弾性eもエージングの下に置かれているから、弾性eをブレーキブースタシステムの使用の間に新しく決定することが有利である。これは例えば、車両の静止時に操作要素を操作した時にドライバー制動力Ffから生じた反応ディスク18の変形を第一のアクチュエータ装置30の起動によって確定することによって、行うことが出来る。
【0102】
とりわけ、その様な測定の際にはドライバーがドライバー制動力Ffを高めないことが有利となる。このことは、第一の変位ストロークs1(ta)が測定の初めに又第一の変位ストロークs1(te)が測定の終わりに確定されることによって追検証可能となる。測定の間にドライバーがドライバー制動力Ffを高めなければ、次の式が成り立つ。
【0103】
(式18) s1(te)−s1(ta)
=s3(te)−s3(ta) −x(Fu(te)−Fu(ta))/e
図4は車両のブレーキシステムの作動のための方法の一つの実施態様を示すための流れ図を示している。
【0104】
方法のステップV1でドライバー制動力(このドライバー制動力は車両のドライバーによるブレーキシステムの操作要素の操作の際にブレーキシステムの第一のピストンに対して伝えられる)に関する第一の情報が伝達される。この第一の情報には例えば、第一のピストンに対して加えられたドライバー制動力、第一のピストンの第一の変位ストローク、及び/又は差ストロークを含むことができる。次いで方法のステップV2で支援力が、求められた第一の情報を考慮しながら決定される。決定されたこの支援力は、ドライバー制動力及び/又は第一の変位ストロークの関数であることが好ましい。
【0105】
次の方法のステップV3では第一のアクチュエータ装置が定められた支援力をブレーキシステムの第二のピストンに対して加えるために制御される。その際には、少なくともドライバー制動力と支援力から構成されている全制動力がブレーキシステムの力圧力変換要素に対して伝えられる。少なくとも一つのブレーキ回路が力圧力変換要素に結合されている。全制動力に対応したブレーキ圧力が第一のブレーキトルクとして車両の少なくとも一つの車輪に対して加えられる。力圧力変換要素は例えば主ブレーキシリンダとすることができる。
【0106】
方法のステップV1からV3或いはそれ以下までの間にブレーキシステムの作動モードに関する第二の情報が求められる(方法のステップV4)。例えば、この第二の情報として、第二のブレーキトルク(このブレーキトルクは第一のブレーキトルク(油圧的ブレーキトルク)に加えて車両の少なくとも一つの車輪に対して加えられる)の時間的変化に関するブレーキトルク情報が求められる。
【0107】
方法のステップV5ではオプションとして支援力を、ブレーキトルク情報を追加として考慮しながら、新しく決定することが出来る。これは、第二のブレーキトルクが時間的に変化した際に支援力を第二のブレーキトルクのその時間的変化に対応する差の分だけ変化させることによって行うことが出来る。続いて方法のステップV3を改めて実行することが出来る。この様にすることによって、第二のブレーキトルクの起動、起動停止、増加、或いは減少にも拘らず車両の時間的に一定な全減速が保持されることを保証することが出来る。
【0108】
方法のステップV6では補償力が、求められた第二の情報を考慮しながら、決定される。その際補償力は、作動モードの際に力圧力変換要素から第一のピストンに対して加えられる推定変位力に対抗する様に決定される。補償力は推定変位力を相殺することが好ましい。一つの有利な実施態様では補償力は推定変位力に関するブレーキトルク情報(これは差に対応している)を考慮しながら決定される。
【0109】
次の方法のステップV7では第二のアクチュエータ装置が、第一のピストンに対する定められた補償力を生み出すために、制御される。このようにすることによって、例えば第二のブレーキトルクの時間的変化の減殺の際に行われた力圧力変換要素の中へのブレーキフルードの移動に対して、定められた補償力を生み出すことによって対抗することができる。既に説明されたように、このようにすることによって、操作要素の外部誘起された変位を阻止することが可能となる。
【0110】
この方法の中ではオプションとしてもう一つの方法のステップV8が実行することができるが、そのステップV8では支援力が、定められた補償力に適合される。これは例えば、補償力の新規決定後の補償力と支援力との和が、補償力の新規決定前の補償力と支援力との和に等しくなる様に行われる。
【0111】
上に説明された方法はとりわけ、車両の運動エネルギーの一部が電気的に変換される、回生ブレーキの場合に有利となる。車両の追加の制動をもたらすジェネレータトルクは一般に車両の速度に依存している。従ってジェネレータトルクは制動の間に変化する。従来技術によれば、ブレーキペダルが一定に操作されていても、車両の大きく変動する減速をもたらし、これがしばしばドライバーを苛立たせることになる。
【0112】
従来技術から、ジェネレータトルクに対する全ブレーキトルクの適合とペダルストロークの一定保持が知られており、その際には操作要素は完全に主ブレーキシリンダから切り離される。この場合、操作要素はペダルストローク・シミュレータに接続される一方、油圧ブレーキ装置の中の圧力の発生は全て外的に準備された制動力によってもたらされる。しかしながら、主ブレーキシリンダからのブレーキペダルの完全な切り離しは危険である。何故ならドライバーは、制動力を生み出すコンポーネントが故障した時に、失われた制動力をドライバー制動力によって切り抜けることが出来なくなるからである。
【0113】
上に説明された(本発明に基づく)方法は操作要素が主ブレーキシリンダに対して機械的に結合されている場合でも実施可能であり、且つそれによってこの方法を通じて作動されるブレーキブースタ付きのブレーキシステムの改善された安全水準を保証する。
【符号の説明】
【0114】
10 操作要素(例えばブレーキペダル)
12 入力ピストン
14 ブレーキブースタ
16 支援ピストン
18 反応ディスク
20 出力ピストン
21 調節可能のコンポーネント
22 主ブレーキシリンダ
30 第一のアクチュエータ装置
32 第二のアクチュエータ装置
34 制御装置
36 第一の制御信号
38 第二の制御信号
50 適切な力とストロークとの特性曲線
52 測定ポイント
54 後較正された力とストロークとの特性曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドライバーによるブレーキシステムの操作要素(10)の操作の際にブレーキシステムの第一のピストン(12)に対して伝えられるドライバー制動力(Ff)に関して生み出された第一の情報を考慮しながら支援力(Fu)を決定し、且つ決定されたこの支援力(Fu)を考慮しながら第一の制御信号(36)を生み出すように設計された制御装置(34)と、
第一の制御信号(36)を受け取り、且つ受け取られたこの第一の制御信号(36)に対応した支援力(Fu)をブレーキシステムの第二のピストン(16)に対して加え、それによって少なくともドライバー制動力(Ff)と支援力(Fu)から成る全制動力(Fg)をブレーキシステムの力圧力変換要素(22)に対して伝達し、それによって全制動力(Fg)に対応するブレーキ圧力(p)を第一のブレーキトルク(Mh)として車両の少なくとも一つの車輪に対して加えることができるように設計された第一のアクチュエータ装置(30)と、
を備えた車両のブレーキシステムのためのブレーキブースタシステムであって、
制御装置(34)が、さらに、ブレーキシステムの作動モードに関して生み出された第二の情報を考慮しながら、決定可能の補償力(Fa)を決定し、且つ決定されたこの補償力を考慮しながら第二の制御信号(38)を生み出すように設計されており、
ブレーキブースタシステムの第二のアクチュエータ装置(32)が、第二の制御信号(38)を受け取り、且つ受け取られたこの第二の制御信号(38)に対応した補償力(Fa)をブレーキシステムの第一のピストン(12)に対して加えるように設計されていること、
を特徴とするブレーキブースタシステム。
【請求項2】
補償力(Fa)が、作動モードの際に、力圧力変換要素(22)によって第一のピストン(12)に対して作用することのできる推定変位力に対抗して働くように決定されることを特徴とする、請求項1に記載のブレーキブースタシステム。
【請求項3】
生み出された第二の情報が、第一のブレーキトルク(Mh)に加えて少なくとも一つの車輪に対して働くことのできる第二のブレーキトルク(Mz)の時間的変化に関するブレーキトルク情報を含んでおり、
制御装置(34)が、さらに、ブレーキトルク情報を考慮しながら、支援力(Fu)を第二のブレーキトルク(Mz)の時間的変化に対応する差(D)だけ変化させるように設計されている、
請求項2に記載のブレーキブースタシステム。
【請求項4】
制御装置(34)が、さらに、ブレーキトルク情報を考慮しながら、第一のピストン(12)に対する力圧力変換要素(22)の推定変位力に関する補償力(Fa)を決定する様に設計されており、
前記推定変位力は差(D)に対応している、
請求項3に記載のブレーキブースタシステム。
【請求項5】
制御装置(34)が、さらに、定められた補償力(Fa)を追加として考慮しながら、支援力(Fu)を決定するように設計されている、請求項1から4のいずれかに記載のブレーキブースタシステム。
【請求項6】
請求項1から5に記載のブレーキブースタシステムを備えたブレーキシステム。
【請求項7】
請求項6に記載のブレーキシステムを備えた車両。
【請求項8】
車両のドライバーによるブレーキシステムの操作要素(10)の操作の際にブレーキシステムの第一のピストン(12)に対して伝えられるドライバー制動力(Ff)に関する第一の情報を把捉するステップ(V1)と、
把捉された第一の情報の考慮の下での支援力(Fu)を決定するステップ(V2)と、
ブレーキシステムの第二のピストン(16)に対して定められた支援力(Fu)を加えるための第一のアクチュエータ装置(30)を制御するステップであって、少なくともドライバー制動力(Ff)と支援力(Fu)とから成る全制動力(Fg)がブレーキシステムの力圧力変換要素(22)に対して伝えられ、且つ前記全制動力(Fg)に対応するブレーキ圧力(p)が第一のブレーキトルク(Mh)として車両の少なくとも一つの車輪に対して加えられる、ステップ(V3)と、
を含む車両のブレーキシステムの作動のための方法であって、
ブレーキシステムの作動モードに関する第二の情報を把捉するステップ(V4)と、
把捉された第二の情報の考慮の下での、決定可能な補償力(Fa)を決定するステップ(V6)と、
決定された補償力(Fa)を第一のピストン(12)に対して加えるための第二のアクチュエータ装置(32)を制御するステップ(V7)と、
を、さらに含む方法。
【請求項9】
決定可能な補償力が、作動モードの際に、力圧力変換要素によって第一のピストン(12)に対して作用される推定変位力に対抗して働くように決定されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第二の情報として、第一のブレーキトルク(Mh)に対する追加として車両の少なくとも一つの車輪に対して加えられる第二のブレーキトルク(Mz)の時間的変化に関するブレーキトルク情報が把捉され、且つその際このブレーキトルク情報を考慮しながら支援力(Fu)が第二のブレーキトルク(Mz)の時間的変化に対応する差(D)だけ変化させるステップ(V5)をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
補償力(Fa)が、第一のピストン(12)に対する力圧力変換要素(22)の推定変位力に関するブレーキトルク情報を考慮しながら決定され、且つ、
前記推定変位力は差(D)に対応する、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
支援力(Fu)を、決定された補償力(Fa)をさらに考慮しながら決定するステップ(V8)をさらに含む、請求項8から11までのいずれかに記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−523991(P2012−523991A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506410(P2012−506410)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052177
【国際公開番号】WO2010/121848
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】