説明

車両のブレーキ制御装置

【課題】部品点数の増加やコストアップを招くことなく、停車時のリヤブレーキからの異音の発生を防ぐことができる車両のブレーキ制御装置を提供すること。
【解決手段】本発明に係る車両のブレーキ制御装置は、ブレーキ操作を検出するブレーキスイッチと、ブレーキペダルによるブレーキ操作開始後の時間を計測するタイマーと、車速を検出する車速検出手段と、マスタシリンダ15からリヤブレーキ6に連なる液圧ライン(ブレーキ液圧回路)39,48を断接するバルブv5,v11と、を含んで構成され、前記タイマーによって計測されるブレーキ操作開始後の時間が所定値を経過し、且つ、車両が停止していることが前記車速検出手段によって確認された場合に前記バルブv5,v11によって前記液圧ライン39,48を遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にリヤブレーキにドラムブレーキを採用する車両の停止時のブレーキ液圧を制御するブレーキ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両には、車輪のロックを防止して高い操舵性と方向安定性を確保するためのABS(アンチロック・ブレーキ・システム)を備えたものがあり、このABSを備えた車両では、後輪のスリップ傾向に応じてリヤブレーキへのブレーキ液圧を制御する(具体的には、リヤブレーキへのブレーキ液圧をカットする)ことによって車両の姿勢を安定させるためのEBD制御が可能である。
【0003】
ところで、運転者によってブレーキペダルが踏み込まれたときには、EBD制御が開始されるまではフロントブレーキとリヤブレーキには同じ大きさのブレーキ液圧が供給され、EBD制御が開始されるとリヤブレーキへのブレーキ液圧がカットされる。
【0004】
ところが、車両の停止状態では車輪はスリップ傾向とはならないため、フロントブレーキとリヤブレーキには同じ大きさのブレーキ液圧が作用することになる。このような場合、運転者がブレーキペダルを強く踏み込むと、特にリヤブレーキにドラムブレーキを採用する車両にあっては、ドラムブレーキに過大なブレーキ液圧が作用して異音が発生し、運転者に不快感と不安感を与えるという問題が発生する。
【0005】
そこで、特許文献1には、液圧を所定範囲内に維持しながら蓄圧する液圧発生源と、該液圧発生源に蓄圧された液圧を調整する調圧弁とを備えたブレーキ装置において、車両の停止状態が検出されると、前記調圧弁から出力される液圧を電磁開閉弁によって前記所定範囲よりも低く設定された目標値まで下げるよう制御する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−312368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1において提案された構成を採用するには、調圧弁の他に電磁開閉弁とこれを制御する電磁弁開閉手段が必要となり、部品点数が増えて構造の複雑化やコストアップを招くという問題がある。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、部品点数の増加やコストアップを招くことなく、停車時のリヤブレーキからの異音の発生を防ぐことができる車両のブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1記載の車両のブレーキ制御装置は、
ブレーキ操作を検出するブレーキスイッチと、
ブレーキペダルによるブレーキ操作開始後の時間を計測するタイマーと、
車速を検出する車速検出手段と、
マスタシリンダからリヤブレーキに連なるブレーキ液圧回路を断接するバルブと、
を有し、前記タイマーによって計測されるブレーキ操作開始後の時間が所定値を経過し、且つ、車両が停止していることが前記車速検出手段によって確認された場合に前記バルブによって前記ブレーキ液圧回路を遮断することを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記ブレーキペダルの踏み込みが解除されると前記バルブによる前記ブレーキ液圧回路の遮断を終了することを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記バルブによる前記ブレーキ液圧回路の遮断が所定時間継続したときは前記バルブによる前記ブレーキ液圧回路の遮断を終了することを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明において、車両の傾斜を検出する前後Gセンサを設け、該前後Gセンサによって検出される車両の傾斜が所定値を超えた場合には前記バルブによる前記ブレーキ液圧回路の遮断を行わないことを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記バルブによる前記ブレーキ液圧回路の遮断制御を、ブレーキに対してそれ以外の制御が実施されているときには行わないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、運転者がブレーキペダルを踏み込んでから所定時間が経過して車両が停止するとバルブによってブレーキ液圧回路を遮断するようにしたため、その後、運転者がブレーキペダルを強く踏み込んでもリヤブレーキに過大なブレーキ液圧が作用することがなく、リヤブレーキからの異音の発生が防がれる。そして、ASBを備える車両にあっては、ブレーキ液圧回路を遮断するためのバルブとしてABSに既設のバルブをそのまま使用することができるため、部品点数の増加やそれに伴う構造の複雑化やコストアップを防ぐことができる。
【0015】
又、リヤブレーキにはブレーキ液圧回路を遮断したときのブレーキ液圧が作用しているため、リヤブレーキに発生する制動力によって車両の停止状態が維持される。そして、この場合、リヤブレーキへのブレーキ液圧の供給を遮断するため、その後に運転者がブレーキペダルを強く踏み込んだ場合には、フロントブレーキには大きなブレーキ液圧が作用し、運転者の更なる強力な制動の要望に対応することができる。
【0016】
更に、ブレーキ液圧回路を遮断した後に運転者のブレーキペダルの踏み込み力が低下しても、ブレーキペダルの踏み込みが完全に解除されるまでリヤブレーキのブレーキ液圧が保持されているため、該リヤブレーキに発生する制動力によってAT車のクリープが抑制され、運転者の負荷を軽減することができる。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、ブレーキペダルの踏み込みが解除されるとバルブによるブレーキ液圧回路の遮断を終了するようにしたため、運転者の操作に応じてバルブが動作し、運転者に違和感を与えることなく遮断制御を終了することができる。
【0018】
請求項3記載の発明によれば、バルブによるブレーキ液圧回路の遮断を所定時間経過後に終了するようにしたため、バルブの動作時間を制限することができ、該バルブの耐久性を高めることができる。ここで、バルブを通常状態(非通電時)で開状態にあるノーマルオープンタイプとした場合、遮断時の通電時間を短くすることができ、省電力を実現することができる。
【0019】
請求項4記載の発明によれば、車両が坂道等で停止している場合であって、ブレーキを緩めて車両を移動させる等の運転操作がブレーキ液圧回路の遮断によって阻害されることがなく、運転者はブレーキ操作を違和感なく行うことができる。
【0020】
請求項5記載の発明によれば、EBD制御等の他の制御が実施されているときにはバルブによるブレーキ液圧回路の遮断制御を行わないようにしたため、制御の煩雑さを解消して不具合の発生を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る車両のブレーキ制御装置の基本構成図である。
【図2】本発明に係る車両のブレーキ制御装置の液圧回路構成図である。
【図3】本発明に係るブレーキ制御装置の制御手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係る車両のブレーキ制御装置による制御のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は本発明に係る車両のブレーキ制御装置の基本構成図であり、本ブレーキ制御装置を備える車両は、踏力アシスト手段及びABSを備え、エンジン1を駆動源として走行するものである。又、本車両に設けられた後述のブレーキ装置3には、加圧制御手段としての加圧制御ユニット21が備えられている。
【0024】
車両に設けられた前記ブレーキ装置3は、上端を中心として車両前後方向に揺動するブレーキペダル8を備えており、このブレーキペダル8は、ブレーキ操作時の運転者の踏力を軽減するための踏力アシスト手段を構成するブースタ14を介してマスタシリンダ15に連結されており、マスタシリンダ15は、運転者によるブレーキペダル8の踏み込み量に応じたブレーキ液圧を発生する。
【0025】
そして、車両の左右の前輪4L,4Rにはフロントブレーキ16がそれぞれ設けられ、後輪5L,5Rにはリヤブレーキ6がそれぞれ設けられているが、本実施の形態では各フロントブレーキ16にはディスクブレーキが採用され、各リヤブレーキ6にはドラムブレーキが採用されている。ここで、フロントブレーキ16は、ディスクロータ16aと該ディスクロータ16aの両面を挟持可能なキャリパ16bによって構成され、リヤブレーキ6は、ブレーキドラム6aとその内側に配された拡開可能な不図示のブレーキシューによって構成されている。そして、フロントブレーキ(ディスクブレーキ)16の各キャリパ16bとリヤブレーキ(ドラムブレーキ)6の不図示のブレーキシューを拡開させる不図示のアクチュエータ(ホイールシリンダ)は、ブレーキ配管ライン17,18,19,20と前記加圧制御ユニット21及び該加圧制御ユニット21から延びるブレーキ配管22,23を介して前記マスタシリンダ15に接続されている。
【0026】
上記加圧制御ユニット21は、運転者によるブレーキペダル8の踏み込みによるブレーキ操作とは無関係に所要のブレーキ液圧を発生させるものであって、これには電磁弁である後述の各種バルブv1〜v12、液圧を発生させるポンプ24,25(図2参照)、これらのポンプ24,25を駆動する電動モータ(ポンプモータ)26等が設けられており、各種バルブv1〜v12と電動モータ26はコントロールユニット(以下、「ECU」と称する)13によって制御される。尚、加圧制御ユニット21の構成の詳細は後述する。
【0027】
上記ECU13は、本発明に係るブレーキ制御装置を構成するものであって、このECU13には、前輪4L,4Rと後輪5L,5Rにそれぞれ設けられた車輪速センサ27、車両の減速度(車両の前後の傾斜)を検出する前後Gセンサ28、マスタシリンダ15の圧力を検出する圧力センサ29、ブレーキペダル8の踏み込み操作(ブレーキ操作)がなされたか否かを検出するブレーキスイッチ50等が電気的に接続されている。又、ECU13には、運転者によってブレーキペダル8が踏み込まれるブレーキ操作が開始されてからの経過時間を計測するタイマー51が内蔵されている。
【0028】
ところで、前記ABSは、車輪速センサ27によって検出される前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各回転速度と前後Gセンサ28によって検出される車両の減速度及び圧力センサ29によって検出されるマスタシリンダ15のブレーキ液圧(マスタシリンダ圧)に基づいて前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各最適回転速度を算出し、算出した前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各最適回転速度に基づいてバルブv1〜v12を開閉制御するものであり、その機能はECU13が担っている。又、ECU13は、車輪速センサ27によって検出される前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各回転速度に基づいて車速を算出する。
【0029】
次に、前記加圧制御ユニット21の構成の詳細を図2に基づいて説明する。
【0030】
図2は加圧制御ユニット21の液圧回路図であり、図示の加圧制御ユニット21は、前記電動モータ26によって駆動される2つのポンプ24,25を備えており、一方のポンプ24の吸入側にはリザーバ30から延びる液圧ライン31が接続され、前記マスタシリンダ15から延びる一方のブレーキ配管22はポンプ24の吐出側に接続されている。そして、液圧ライン31にはチェックバルブ32が設けられており、ブレーキ配管22にはチェックバルブ33と第1カットバルブv1が設けられている。又、ブレーキ配管22に第1カットバルブv1をバイパスして接続されたバイパスライン34にはリターンチェックバルブ35が設けられている。
【0031】
そして、ブレーキ配管22の第1カットバルブv1とマスタシリンダ15の間から分岐する液圧ライン36には前記圧力センサ29が接続されており、液圧ライン36から分岐する液圧ライン37は液圧ライン31のチェックバルブ32とリザーバ30の間に接続されており、この液圧ライン37には第1サクションバルブv2が設けられている。
【0032】
更に、ブレーキ配管22の第1カットバルブv1とチェックバルブ33の間から分岐して前記リザーバ30に接続された液圧ライン38にはFL保持バルブv3とFL減圧バルブv4が直列に設けられており、液圧ライン38に並列に接続された液圧ライン39にはRR保持バルブv5とRR減圧バルブv6が直列に設けられている。そして、液圧ライン38のFL保持バルブv3とFL減圧バルブv4の間からは前記ブレーキ配管ライン17(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管ライン17は左前輪(FL)4Lのフロントブレーキ(ディスクブレーキ)16のキャリパ16bに接続されている(図1参照)。又、液圧ライン39のRR保持バルブv5とRR減圧バルブv6の間からは前記ブレーキ配管ライン20(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管ライン20は右後輪(RR)5Rのリヤブレーキ(ドラムブレーキ)6の不図示のアクチュエータに接続されている(図1参照)。
【0033】
他方、ポンプ25の吸入側にはリザーバ40から延びる液圧ライン41が接続され、前記マスタシリンダ15から延びる他方のブレーキ配管23はポンプ25の吐出側に接続されている。そして、液圧ライン41にはチェックバルブ42が設けられており、ブレーキ配管23にはチェックバルブ43と第2カットバルブv7が設けられている。又、ブレーキ配管23に第2カットバルブv7をバイパスして接続されたバイパスライン44にはリターンチェックバルブ45が設けられている。
【0034】
そして、ブレーキ配管23の第2カットバルブv7とマスタシリンダ15の間から分岐する液圧ライン46は前記液圧ライン41のチェックバルブ42とリザーバ40の間に接続されており、該液圧ライン46には第2サクションバルブv8が設けられている。
【0035】
更に、ブレーキ配管23の第2カットバルブv7とチェックバルブ43の間から分岐して前記リザーバ40に接続された液圧ライン47にはFR保持バルブv9とFR減圧バルブv10が直列に設けられており、液圧ライン47に並列に接続された液圧ライン48にはRL保持バルブv11とRL減圧バルブv12が直列に設けられている。そして、液圧ライン47のFR保持バルブv9とFR減圧バルブv10の間からは前記ブレーキ配管ライン18(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管ライン18は右前輪(FR)4Rのフロントブレーキ(ディスクブレーキ)16のキャリパ16bに接続されている(図1参照)。又、液圧ライン48のRL保持バルブv11とRL減圧バルブv12の間からは前記ブレーキ配管ライン19(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管19は左後輪(RL)5Lのリヤブレーキ(ドラムブレーキ)6の不図示のアクチュエータに接続されている(図1参照)。
【0036】
ところで、本実施の形態では、FL保持バルブv3、RR保持バルブv5、FR保持バルブv9及びRL保持バルブv11は、通常状態(非通電時)で開状態にあるノーマルオープンタイプのバルブであって、これらに通電されると閉じ動作する。
【0037】
次に、ブレーキ操作時の加圧制御ユニット21の作用を図2に基づいて以下に説明する。
【0038】
車両の走行中に運転者がブレーキペダル8を踏み込むと、その踏力が踏力アシスト手段であるブースタ14によって倍力されてマスタシリンダ15に伝達され、マスタシリンダ15に所定圧のブレーキ液圧(マスタシリンダ圧)が発生する。このとき、バルブv1,v3,v5,v7,v9,v11が開かれ、バルブv2,v4,v6,v8,v10,v12が閉じられる。すると、マスタシリンダ15のブレーキ液は、ブレーキ配管22,23からバルブv1,v7、液圧ライン38,47,39,48、バルブv3,v5,v9,v11及びブレーキ配管17,20,18,19を経て前輪4L,4Rのフロントブレーキ16と後輪5L,5Rのリヤブレーキ6にそれぞれ供給される。このようにフロントブレーキ16とリヤブレーキ6にブレーキ液がそれぞれ供給されると、これらのフロントブレーキ16とリヤブレーキ6がそれぞれ駆動されて前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの回転に制動が加えられ、車両が減速又は停止する。
【0039】
次に、本発明に係るブレーキ制御装置の要旨を図3及び図4に従って以下に説明する。
【0040】
図3は本発明に係るブレーキ制御装置の制御手順を示すフローチャート、図4は同ブレーキ制御装置による制御のタイミングチャートである。
【0041】
車両の走行中において、本発明に係るブレーキ制御装置を構成するECU13は、ブレーキスイッチ50がONされたか否か(運転者によってブレーキペダル8が踏み込まれたか否か)を判定する(図3のステップS1)。運転者が図4に示す時間t1においてブレーキペダル8を踏み込んだためにブレーキスイッチ50がONすると(ステップS1での判定結果がYesであると)、次にブレーキスイッチ50のON時間(運転者がブレーキペダル8を踏み込んでいる時間が所定値以上であるか否かが判定される(ステップS2)。運転者が図4に示す時間t1においてブレーキペダル8を踏み込むと、マスタシリンダ15から前述の経路を経てフロントブレーキ16とリヤブレーキ6にそれぞれブレーキ液が供給されるが、その液圧はフロントブレーキ16とリヤブレーキ6において図4に示すように時間の経過と共に次第に上昇する。
【0042】
ブレーキスイッチ50のON時間が所定値以上であると(ステップS2での判定結果がYesであると)、次にABSやESB制御の介入があるか否かが判定され(ステップS3)、ABSやESB制御の介入がない場合(ステップS3での判定結果がYesである場合)には、車速が0km/h以下、つまり車両が停止したか否かが判定される(ステップS4)。
【0043】
車両の停止が検出されると(ステップS4での判定結果がYesであると)、次に前後Gセンサ28の検出値が図4に示すーa〜bの範囲(図4の黒塗り範囲)であるか否か(車両が停止している路面が平坦か否か)が判定される(ステップS5)。
【0044】
以上の判定結果(ステップS1〜S5の判定結果)が全てYesである場合、即ち、運転者がブレーキ操作したためにブレーキスイッチ50がONし、そのブレーキスイッチ50がONしてから所定の時間が経過し、その間、ABSやEBD制御の介入がなく、車両が比較的平坦な路上で停止した場合、図4に示す時間t2においてRR保持バルブv5とRL保持バルブv11に通電されてこれらが図2に示すように閉じられる(ステップS6)。すると、液圧ライン39,48が遮断され、マスタシリンダ15からリヤブレーキ6へのブレーキ液圧の供給がカットされ、図4に示すようにフロントブレーキ16へのブレーキ液圧はP1まで高められるのに対して、リヤブレーキ6へのブレーキ液圧は途中でカットされ、フロントブレーキ16へのブレーキ液圧P1よりも低い値P2(<P1)に抑えられる。
【0045】
その後、ブレーキスイッチ50がOFFされたか否か(ブレーキペダル8の踏み込みが解除されたか否か)、又はバルブv5,バルブv11による液圧ライン39,48の遮断が所定時間継続したか否かが判定され(ステップS7)、少なくともその何れ一方が満足されると(ステップS7での判定結果がYesであると)、バルブv5,v11への通電が遮断されてこれらのバルブv5,v11が開けられて液圧ライン39,48の遮断が終了し(ステップS8)、一連の制御が終了する(ステップS9)。例えば、図4に示すように時間t3においてブレーキスイッチ50がOFFされると、バルブv5,v11への通電が遮断されてこれらのバルブv5,v11が開けられ、マスタシリンダ15とリヤブレーキ6とが再び連通する。そして、運転者がブレーキペダル8の踏み込みを解除した後は、図4に示すようにフロントブレーキ16とリヤブレーキ6のブレーキ液圧は時間の経過と共に共に次第に低下する。
【0046】
以上のように、本発明に係るブレーキ制御装置によれば、運転者がブレーキペダル8を踏み込んでから所定時間が経過して車両が停止するとバルブv5,v11によって液圧ライン39,48を遮断するようにしたため、その後、運転者がブレーキペダル8を強く踏み込んでもリヤブレーキ6に過大なブレーキ液圧が作用することがなく、ドラムブレーキであるリヤブレーキ6からの異音の発生が防がれる。そして、ASBを備える車両にあっては、液圧ライン39,48を遮断するためのバルブとしてABSに既設のRR保持バルブv5とRL保持バルブv11をそのまま使用することができるため、部品点数の増加やそれに伴う構造の複雑化やコストアップを防ぐことができる。
【0047】
又、リヤブレーキ6には液圧ライン39,48を遮断したときのブレーキ液圧P2(図4参照)が作用しているため、リヤブレーキ6に発生する制動力によって車両の停止状態が維持される。そして、この場合、リヤブレーキ6へのブレーキ液圧の供給のみを遮断するため、その後に運転者がブレーキペダル8を強く踏み込んだ場合には、フロントブレーキ16には大きなブレーキ液圧が作用し、運転者の更なる強力な制動の要望に対応することができる。
【0048】
更に、運転者によるブレーキペダル8の操作に関し、液圧ライン39,48を遮断した後に運転者がブレーキペダル8の踏み込みを緩めても(ブレーキペダル8の踏み込み力が低下しても)、ブレーキペダル8の踏み込みが完全に解除されるまでリヤブレーキ6のブレーキ液圧がP2(図4参照)に保持されているため、該リヤブレーキ6に発生する制動力によってAT車のクリープが抑制され、運転者の負荷を軽減することができる。
【0049】
又、本発明に係るブレーキ制御装置によれば、ブレーキペダル8の踏み込みが解除されるとバルブv5,v11による液圧ライン39,48の遮断を終了するようにしたため、運転者の操作に応じてバルブv5,v11が動作し、運転者に違和感を与えることなく遮断制御を終了することができる。そして、バルブv5,v11による油圧ライン39,48の遮断を所定時間経過後に終了するようにしたため、ノーマルオープンタイプのバルブv5,v11の動作時間を制限することができ、該バルブv5,v11の耐久性を高めることができるとともに、遮断時のバルブv5,v11への通電時間を短くすることができ、省電力を実現することができる。
【0050】
更に、本発明に係るブレーキ制御装置においては、前後Gセンサ28によって検出される車両の傾斜が所定値を超えた場合にはバルブv5,v11による油圧ライン39,48の遮断を行わないようにしたため、車両が坂道等で停止している場合であって、ブレーキペダル8の踏み込みを緩めて車両を移動させる等の運転操作が油圧ライン39,48の遮断によって阻害されることがなく、運転者はブレーキ操作を違和感なく行うことができる。
【0051】
そして、本実施の形態では、EBD制御等の他の制御が実施されているときにはバルブv5,v11による油圧ライン39,48の遮断制御を行わないようにしたため、制御の煩雑さが解消されて不具合の発生が防がれるという効果も得られる。
【符号の説明】
【0052】
3 ブレーキ装置
6 リヤブレーキ
8 ブレーキペダル
13 ECU(ブレーキ制御装置)
15 マスタシリンダ
16 フロントブレーキ
21 加圧制御ユニット
27 車輪速センサ(車速検出手段)
28 前後Gセンサ
39,48 液圧ライン(ブレーキ液圧回路)
50 ブレーキスイッチ
51 タイマー
v5 RR保持バルブ(バルブ)
v11 RL保持バルブ(バルブ)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作を検出するブレーキスイッチと、
ブレーキペダルによるブレーキ操作開始後の時間を計測するタイマーと、
車速を検出する車速検出手段と、
マスタシリンダからリヤブレーキに連なるブレーキ液圧回路を断接するバルブと、
を有し、前記タイマーによって計測されるブレーキ操作開始後の時間が所定値を経過し、且つ、車両が停止していることが前記車速検出手段によって確認された場合に前記バルブによって前記ブレーキ液圧回路を遮断することを特徴とする車両のブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記ブレーキペダルの踏み込みが解除されると前記バルブによる前記ブレーキ液圧回路の遮断を終了することを特徴とする請求項1記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記バルブによる前記ブレーキ液圧回路の遮断が所定時間継続したときは前記バルブによる前記ブレーキ液圧回路の遮断を終了することを特徴とする請求項1又は2記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項4】
車両の傾斜を検出する前後Gセンサを設け、該前後Gセンサによって検出される車両の傾斜が所定値を超えた場合には前記バルブによる前記ブレーキ液圧回路の遮断を行わないことを特徴とする請求項1記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記バルブによる前記ブレーキ液圧回路の遮断制御を、ブレーキに対してそれ以外の制御が実施されているときには行わないことを特徴とする請求項1記載の車両のブレーキ制御装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−112246(P2013−112246A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261510(P2011−261510)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】