説明

車両のブレーキ制御装置

【課題】エンジンを自動停止した後にエンジンの再始動に失敗し、その後のポンピングブレーキ操作等によってエンジンの吸気負圧が減少した場合であっても、制動力の低下を防ぐことができる車両のブレーキ制御装置を提供すること。
【解決手段】エンジン自動停止・再始動制御手段と、作動中のエンジン1の吸気負圧を利用して運転者のブレーキ踏力をアシストするブースタ(踏力アシスト手段)14と、電動モータ26によって駆動されるポンプによって所要のブレーキ液圧を発生する加圧制御ユニット21と、を備えた車両のブレーキ制御装置(ECU)13において、再始動条件の成立後にエンジン1の再始動が確認できない状態で車両が走行している場合であって、且つ、ブースタ14の負圧が設定値以上(負圧不足)であるときには加圧制御ユニット21によってブレーキ液圧を加圧してブースタ14によるアシスト力の不足を補うようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の停止条件(アイドルストップ条件)が成立するとエンジンを自動停止(アイドルストップ)させ、所定の再始動条件が成立すると自動停止しているエンジンを再始動させる車両のブレーキ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃費の向上、排気エミッションや騒音の低減等を図るため、所定の停止条件が成立するとエンジンを自動停止させ、所定の再始動条件が成立すると自動停止しているエンジンを再始動させるエンジン自動停止・再始動制御手段を備えた車両が出現している。
【0003】
又、車両には、作動中のエンジンの吸気負圧を利用して運転者のブレーキ踏力をアシストする踏力アシスト手段や、例えば凍結した路面上を走行している場合に急ブレーキを掛けても車輪がロックしないようにするためのABS(アンチロック・ブレーキ・システム)が設けられている。
【0004】
ところで、斯かる車両においては、エンジンが自動停止している状態で、運転者がブレーキペダルの踏み込みと開放を繰り返すポンピングブレーキ操作を行って車両を停止させようとすると、踏力アシスト手段の駆動源である負圧が減少するためにアシスト力が不足し、ブレーキペダルを強く踏み込む必要があり、運転者にブレーキ操作上の違和感を与えるという問題がある。
【0005】
上記問題を解決するため、特許文献1には、エンジンの自動停止中にブースタの負圧が低下すると、停止制御を中止してエンジンを再始動させてアシスト力の低下による影響を事前に防止する提案がなされている。
【0006】
又、特許文献2には、踏力アシスト手段のアシスト力を検出し、エンジンの自動停止中に検出されるアシスト力の単位時間当たりの減少率が第1の設定値を超えるとエンジンを自動始動させる提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−104586号公報
【特許文献2】特開2002−070605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1,2において提案されているように踏力アシスト手段によるアシスト力が低下するとエンジンを再始動させる場合、エンジンの再始動に失敗する可能性があり、このような場合に運転者が再度ブレーキペダルの踏み込みと開放を繰り返す所謂ポンピングブレーキ操作を行って車両を停止させようとすると、踏力アシスト手段の駆動源である負圧が減少するためにアシスト力が不足する。このため、制動力が低下して車両が停止するまでの制動距離が長くなり、所定の制動距離で車両を停止させるためには運転者がブレーキペダルを強く踏み込む必要があるという問題が発生する。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、車両の走行中にエンジンを自動停止した後にエンジンの再始動に失敗し、その後のポンピングブレーキ操作によって踏力アシスト手段の負圧が減少した場合であっても、制動力の低下を防いで運転者によるブレーキペダルの強い踏み込みを要することなく所要の制動力を発生させることができる車両のブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、
所定の停止条件が成立するとエンジンを自動停止させ、所定の再始動条件が成立すると自動停止しているエンジンを再始動させるエンジン自動停止・再始動制御手段と、
作動中のエンジンの吸気負圧を利用して運転者のブレーキ踏力をアシストする踏力アシスト手段と、
電動モータによって駆動されるポンプによってブレーキ液圧を加圧する加圧制御手段と、
を備えた車両のブレーキ制御装置において、
再始動条件の成立後にエンジンの再始動が確認できない状態で車両が走行している場合であって、且つ、踏力アシスト手段の負圧が設定値以下であるときには、前記加圧制御手段によってブレーキ液圧を加圧して前記踏力アシスト手段によるアシスト力の不足を補うことを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記加圧制御手段は、ホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧に対して所定量だけ加圧することを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記加圧制御手段によるホイールシリンダ圧の加圧動作による昇圧速度をマスタシリンダ圧に応じて変更し、マスタシリンダ圧が閾値以上の場合は閾値未満の場合よりも昇圧速度を高く設定することを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3の何れかに記載の発明において、前記加圧制御手段によるホイールシリンダ圧の加圧動作による昇圧量を踏力アシスト手段の負圧に応じて変更し、踏力アシスト手段の負圧が閾値以上の場合は閾値未満の場合よりも昇圧量を大きく設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、車両の走行中にエンジンが自動停止した後にエンジンの再始動に失敗し、その後のポンピングブレーキ操作等によって踏力アシスト手段の負圧が減少した場合には、加圧制御手段によってブレーキ液圧を加圧して踏力アシスト手段によるアシスト力の不足分を補うようにしたため、制動力の低下を防いで運転者によるブレーキペダルの強い踏み込みを要することなく所要の制動力を発生させることができる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、加圧制御手段によってホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧に対して所定量だけ加圧するようにしたため、加圧制御手段におけるポンプの吐出量(電動モータの回転数)によって制動力を容易に制御することができる。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、運転者の希望減速度(減速要求度)をマスタシリンダ圧によって検知し、マスタシリンダ圧が閾値以上であって運転者の希望減速度が大きい場合にはホイールシリンダ圧を迅速に高めるようにしたため、車両を運転者の希望に従って早く減速させることができる。
【0017】
請求項4記載の発明によれば、加圧制御手段によるホイールシリンダ圧の加圧動作による昇圧量を踏力アシスト手段の負圧に応じて変更するようにしたため、踏力アシスト手段の駆動源であるエンジンの吸気負圧不足を適正に補うことができ、運転者に過度の踏力を強いることなく、運転者の要望を満足する大きさの制動力を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る車両のブレーキ制御装置の基本構成図である。
【図2】本発明に係る車両のブレーキ制御装置の液圧回路構成図である。
【図3】本発明に係るブレーキ制御装置を備える車両のエンジン自動停止(アイドルストップ)の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係るブレーキ制御装置を備える車両のエンジン再始動の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明に係る車両のブレーキ制御装置による制御のタイミングチャートである。
【図6】本発明に係るブレーキ制御装置におけるホイールシリンダ圧の昇圧パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。尚、以下の説明中において、負圧に関して「以上」、「未満」の表現を使用しているが、単純に圧力の大小を示すものとする。
【0020】
図1は本発明に係る車両のブレーキ制御装置の基本構成図であり、本ブレーキ制御装置を備える車両は、エンジン自動停止・再始動制御手段と踏力アシスト手段及びABSを備え、エンジン1を駆動源として走行するものである。又、本車両に設けられた後述のブレーキ装置3には、加圧制御手段としての加圧制御ユニット21が備えられている。
【0021】
上記エンジン自動停止・再始動制御手段は、所定の停止条件(アイドルストップ条件)が成立するとエンジン1を自動停止(アイドルストップ)させ、所定の再始動条件が成立すると自動停止しているエンジン1を再始動させるものである。
【0022】
又、車両に設けられた前記ブレーキ装置3は、上端を中心として車両前後方向に揺動するブレーキペダル8を備えており、このブレーキペダル8は、ブレーキ操作時の運転者の踏力を軽減するための踏力アシスト手段を構成するブースタ14を介してマスタシリンダ15に連結されており、マスタシリンダ15は、運転者によるブレーキペダル8の踏み込み量に応じたブレーキ液圧を発生する。
【0023】
ここで、車両の左右の前輪4L,4Rと左右の後輪5L,5Rにはディスクブレーキ16がそれぞれ設けられており、各ディスクブレーキ16は、ディスクロータ16aと該ディスクロータ16aの両面を挟持可能なブレーキパッド及びキャリパ16bによって構成されている。そして、それぞれのディスクブレーキ16の各キャリパ16bは、ブレーキ配管ライン17,18,19,20と前記加圧制御ユニット21及び該加圧制御ユニット21から延びるブレーキ配管22,23を介して前記マスタシリンダ15に接続されている。
【0024】
上記加圧制御ユニット21は、運転者によるブレーキペダル8の踏み込みによるブレーキ操作とは無関係に所要のブレーキ液圧を発生させるものであって、これには電磁弁である後述の各種バルブv1〜v12、油圧を発生させるポンプ24,25(図2参照)、これらのポンプを駆動する電動モータ(ポンプモータ)26等が設けられており、各種バルブv1〜v12と電動モータ26はコントロールユニット(以下、「ECU」と称する)13によって制御される。尚、加圧制御ユニット21の構成の詳細は後述する。
【0025】
上記ECU13は、本発明に係るブレーキ制御装置を構成するものであって、このECU13には、前輪4L,4Rと後輪5L,5Rにそれぞれ設けられた車輪速センサ27、ブースタ14の負圧(ブースタ負圧)を検出する圧力センサ28、マスタシリンダ15の圧力を検出する圧力センサ29、ブレーキペダル8が踏み込み操作がなされているか否かを検知するブレーキスイッチ50等が電気的に接続されている。
【0026】
ところで、前記ABSは、車輪速センサ27によって検出される前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各回転速度と圧力センサ29によって検出されるマスタシリンダ15のブレーキ液圧(マスタシリンダ圧)に基づいて前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各最適回転速度を算出し、算出した前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各最適回転速度に基づいてバルブv1〜v12を開閉制御するものであり、その機能はECU13が担っている。
【0027】
次に、前記加圧制御ユニット21の構成の詳細を図2に基づいて説明する。
【0028】
図2は加圧制御ユニット21の液圧回路図であり、図示の加圧制御ユニット21は、前記電動モータ26によって駆動される2つのポンプ24,25を備えており、一方のポンプ24の吸入側にはリザーバ30から延びる液圧ライン31が接続され、前記マスタシリンダ15から延びる一方のブレーキ配管22はポンプ24の吐出側に接続されている。そして、液圧ライン31にはチェックバルブ32が設けられており、ブレーキ配管22にはチェックバルブ33と第1カットバルブv1が設けられている。又、ブレーキ配管22に第1カットバルブv1をバイパスして接続されたバイパスライン34にはリターンチェックバルブ35が設けられている。
【0029】
そして、ブレーキ配管22から分岐する液圧ライン36には前記圧力センサ29が接続されており、液圧ライン36から分岐する液圧ライン37は液圧ライン31のチェックバルブ32とリザーバ30の間に接続されており、この液圧ライン37には第1サクションバルブv2が設けられている。
【0030】
更に、ブレーキ配管22の第1カットバルブv1とチェックバルブ33の間から分岐して前記リザーバ30に接続された液圧ライン38にはFL昇圧バルブv3とFL減圧バルブv4が直列に設けられており、液圧ライン38に並列に接続された液圧ライン39にはRR昇圧バルブv5とRR減圧バルブv6が直列に設けられている。そして、液圧ライン38のFL昇圧バルブv3とFL減圧バルブv4の間からは前記ブレーキ配管ライン17(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管ライン17は左前輪(FL)4Lのディスクブレーキ16のキャリパ16bに接続されている(図1参照)。又、液圧ライン39のRR昇圧バルブv5とRR減圧バルブv6の間からは前記ブレーキ配管ライン20(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管ライン20は右後輪(RR)5Rのディスクブレーキ16のキャリパ16bに接続されている(図1参照)。
【0031】
他方、他方のポンプ25の吸入側にはリザーバ40から延びる液圧ライン41が接続され、前記マスタシリンダ15から延びる他方のブレーキ配管23はポンプ25の吐出側に接続されている。そして、液圧ライン41にはチェックバルブ42が設けられており、ブレーキ配管23にはチェックバルブ43と第2カットバルブv7が設けられている。又、ブレーキ配管23に第2カットバルブv7をバイパスして接続されたバイパスライン44にはリターンチェックバルブ45が設けられている。
【0032】
そして、ブレーキ配管23から分岐する液圧ライン46は前記液圧ライン41のチェックバルブ42とリザーバ40の間に接続されており、該液圧ライン46には第2サクションバルブv8が設けられている。
【0033】
更に、ブレーキ配管23の第2カットバルブv7とチェックバルブ43の間から分岐して前記リザーバ40に接続された液圧ライン47にはFR昇圧バルブv9とFR減圧バルブv10が直列に設けられており、液圧ライン47に並列に接続された液圧ライン48にはRL昇圧バルブv11とRL減圧バルブv12が直列に設けられている。そして、液圧ライン47のFR昇圧バルブv9とFR減圧バルブv10の間からは前記ブレーキ配管ライン18(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管ライン18は右前輪(FR)4Rのディスクブレーキ16のキャリパ16bに接続されている(図1参照)。又、液圧ライン48のRL昇圧バルブv11とRL減圧バルブv12の間からは前記ブレーキ配管ライン19(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管19は左後輪(RL)5Lのディスクブレーキ16のキャリパ16bに接続されている(図1参照)。
【0034】
次に、通常のブレーキ操作時(ABS非作動時)の加圧制御ユニット21の作用を図2に基づいて以下に説明する。
【0035】
車両の走行中に運転者がブレーキペダル8を踏み込むと、その踏力が踏力アシスト手段であるブースタ14によって倍力されてマスタシリンダ15に伝達され、マスタシリンダ15に所定圧のブレーキ液圧(マスタシリンダ圧)が発生する。このとき、バルブv1,v3,v5,v7,v9,v11が開かれ、バルブv2,v4,v6,v8,v10,v12が閉じられる。すると、マスタシリンダ15のブレーキ液は、図2に太線にて示す経路、即ち、ブレーキ配管22,23からバルブv1,v7、液圧ライン38,47,39,48、バルブv3,v5,v9,v11及びブレーキ配管17,20,18,19を経て前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各ディスクブレーキ16のホイールシリンダ(不図示)に供給される。このように前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各ディスクブレーキ16のホイールシリンダにブレーキ液がそれぞれ供給されると、各キャリパ16bが駆動されて各ディスクロータ16aがキャリパ16bによって挟持され、該ディスクロータ16aとこれと共に回転する前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの回転に制動が加えられ、車両が減速又は停止する。
【0036】
ところで、ECU13は、例えば車両が凍結した路面上を走行しているときに前述のブレーキ操作によって前輪4L,4Rと後輪5L,5Rがロックする可能性を前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各回転速度及びブレーキ液圧に基づいて判断し、その可能性がある場合には次のようなABS制御を実行する。
【0037】
即ち、図2に示す状態からロックする可能性のある車輪のブレーキ装置(キャリパ16b)に接続されている配管ラインのバルブv3,v5,v9,v11を閉じ、バルブv4,v6,v10,v12を開くとともに、電動モータ26を起動してポンプ24,25を駆動する。すると、前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各ディスクブレーキ16のホイールシリンダからブレーキ液が排出されてリザーバ30,40にそれぞれ貯留され、各リザーバ30,40に貯留されたブレーキ液は、各ポンプ24,25によって汲み出されてバイパスライン34,44及びブレーキ配管22,23を通ってマスタシリンダ15へと戻される。この結果、前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各ディスクブレーキ16のブレーキ力が下がり、前輪4L,4Rと後輪5L,5Rのロックが防がれる。
【0038】
その後、ブレーキ液が排出されて車輪のロック傾向が解消すると、図2に示すようにバルブv3,v5,v9,v11のうちでABS制御のためにとじられていたバルブが開かれ、バルブv2,v4,v6,v8,v10,v12のうちでABS制御のために開かれていたバルブが閉じられ、前述のようにマスタシリンダ15のブレーキ液が前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各ディスクブレーキ16に再び供給されて前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの回転に制動が加えられる。
【0039】
以後、以上の動作が複数回繰り返され、前輪4L,4Rと後輪5L,5Rは回転ロックが防がれ、これによって操舵性や車両の安定性が保たれる。つまり、ABS制御中は、ロック傾向の車輪の昇圧バルブ(v3,v5,v9,v11)と減圧バルブ(v4,v6,v10,v12)の開閉を制御して、ホイールシリンダのブレーキ液圧の増減保持調整を行い、車輪のロック傾向の解消を行う。
【0040】
次に、本発明に係るブレーキ制御装置の要旨を図3〜図6に従って以下に説明する。
【0041】
図3は車両のエンジン自動停止(アイドルストップ)の処理手順を示すフローチャート、図4は同車両のエンジン再始動の処理手順を示すフローチャート、図5は本発明に係る車両のブレーキ制御装置による制御のタイミングチャート、図6は同ブレーキ制御装置におけるホイールシリンダ圧の昇圧パターンを示す図である。
【0042】
本発明に係るブレーキ制御装置を構成するECU13は、再始動条件の成立後にエンジン1の再始動が確認できない状態で車両が走行している場合であって、且つ、ブースタ負圧(踏力アシスト手段を構成するブースタ14に作用する負圧)が設定値以上(設定値よりも大気圧に近い)であるときには加圧制御ユニット21によってホイールシリンダ圧を加圧してブースタ14によるアシスト力の不足を補うことを特徴とする。
【0043】
ここで、車両のエンジン自動停止(アイドルストップ)の処理手順を図3及び図5に基づいて説明する。
【0044】
図5に示す車両が走行しているとき(図3のステップS1)、ECU13は車速が所定値以下であるか否かを判定し(ステップS2)、車速が所定値以下である場合(ステップS2での判定結果がYesである場合)にはブレーキ関係以外の停止条件(アイドルストップ条件)が成立しているか否かを判定する(ステップS3)。
【0045】
所定のアイドルストップ条件が成立すると(ステップS3での判定結果がYesであると)、次に運転者によってブレーキペダル8が踏まれたか(ブレーキONか)否かが判定される(ステップS4)。尚、アイドルストップ条件の成立は、所定値以上のバッテリ容量が確保されていること、水温が所定値以上であること、路面の勾配が所定値以下であること、シフトレンジがD(ドライブ)レンジにあること、シートベルトが装着されていること、ドアとボンネットが閉じていること、ECU13が故障検出をしていないこと等を条件になされる。
【0046】
而して、アイドルストップ条件が成立した後に、図5に示すように時間t1において運転者がブレーキペダル8を踏み込むと(ステップS4での判定結果がYesであると)、圧力センサ28によって検出されるブースタ14の圧力(ブースタ負圧)が閾値未満(ブースタに十分な負圧が確保されている)であるか否かが判定される(ステップS5)。尚、運転者がブレーキペダル8を踏み込むと、図5に示すように各ディスクブレーキ16のホイールシリンダ圧が上昇して所定の制動力が発生し、車速が次第に低下するとともに、ブースタ内の負圧が消費され、ブースタ負圧は徐々に減少(大気圧に近づく)する。
【0047】
ブースタ負圧が閾値未満である場合(ステップS5での判定結果がYesである場合)には、ABS制御がなされているか否かが判定される(ステップS6)。このとき、ABS制御がなされていない(ステップS6での判定結果がNoである)ときには図5に示す時間t2においてエンジン1を自動停止(アイドルストップ)させる(ステップS7)。これに対して、ABS制御がなされているとき(ステップS6での判定結果がYesであるとき)には、エンジン1の自動停止(アイドルストップ)はなされない(ステップS8)。これは、エンジン停止によるABS制御への影響(トルク変動等)を防止するためと、ABS制御時には前述のように電動モータ26が駆動されているために消費電力が大きく、エンジン1によって発電する必要があるためである。尚、ステップS6に関し、ABS制御がなされるときにエンジン1が既に自動停止(アイドルストップ)している場合は、自動停止状態が維持されて再始動は行われない。
【0048】
又、ブースタ負圧が閾値以上(ブースタの負圧が不足し、大気圧に近い)であって、ブースタ14によるアシスト力が小さい場合には、エンジン1をそのまま駆動して十分な吸気負圧(ブースタ負圧)を得る必要があるためにエンジン1の自動停止(アイドルストップ)はなされない(ステップS8)。
【0049】
次に、走行中の車両においてエンジン1の自動停止(アイドルストップ)がなされた後にエンジン1を再始動する場合の処理手順を図4及び図5に基づいて以下に説明する。
【0050】
エンジン1が自動停止(アイドルストップ)している状態(図4のステップS11)において、ブレーキ関係以外のアイドルストップ条件が崩れた場合(ステップS12での判定結果がNoである場合)には、スタータモータ2を駆動してエンジン1を再始動させるためにクランキングを開始する(ステップS18)。
【0051】
他方、ブレーキ関係以外の所定のアイドルストップ条件が成立している場合(ステップS12での判定結果がYesである場合)には、ブレーキ操作状態(運転者によるブレーキ操作がなされたか否か)が判定される(ステップS13)。運転者によるブレーキ操作がなされないとき(ステップS13での判定結果がNoであるとき)には、エンジン1を再始動させるためにクランキングがなされる(ステップS18)。例えば、図5にホイールシリンダ圧の低下として示すように、運転者がブレーキペダル8から足を離すと(ステップS13での判定結果がNoである場合)には、スタータモータ2を駆動してエンジン1を再始動させるためにクランキングを開始(時間t3)する(ステップS18)。これに対して、運転者がブレーキ操作を行うと(ステップS13での判定結果がYesであると)、ブースタ負圧が閾値(エンジン再始動閾値)未満(負圧が確保されている)であるか否かが判定される(ステップS14)。
【0052】
ブースタ負圧が閾値未満である場合(ステップS14での判定結果がYesである場合)には、ABS制御が介入し、且つ、そのときの車速が第1の設定値以上であるか否かが判定され(ステップS15)、その判定結果がYesである場合にはエンジン1の再始動はなされず、アイドルストップを継続する(ステップS16)。又、ステップS15での判定結果がNoである場合には、車速が第1の設定値よりも高い第2の設定値以上であるか否かが判定され(ステップS17)、その判定結果がNoである場合にはエンジン1の再始動はなされずアイドルストップを継続する(ステップS16)。これに対して、ステップS17の判定結果がYesである場合にはエンジン1を再始動するためのクランキングがなされる(ステップS18)。
【0053】
他方、ブースタ負圧が閾値(エンジン再始動閾値)以上である場合(ステップS14での判定結果がNoである場合には)、負圧が不足しており、ブースタ14によるアシスト力が不足するため、その不足分を補うためにエンジン1を再始動するためにクランキングがなされる(ステップS18)。
【0054】
上述のようにエンジン1を再始動のためにクランキングする場合、クランキングに成功したか否か(エンジン1の再始動に成功したか否か)が判定され(ステップS19)、クランキングに成功した場合(ステップS19の判定結果がYesである場合)にはエンジン1がそのまま再始動される(ステップS20)。これに対して、クランキングに失敗してエンジン1が再始動しなかった場合(ステップS19での判定結果がNoである場合)には、その後にブレーキ操作がなされたか否かが判定される(ステップS21)。ここで、運転者がブレーキペダル8を踏み込むブレーキ操作を行うと(ステップS21での判定結果がYesであると)、ブースタ負圧が所定の閾値未満(ブースタに負圧が確保されている)であるか否かが判定され(ステップS22)、ブースタ負圧が所定の閾値未満である場合(ステップS22での判定結果がYesである場合)には、エンジンストールモードによって運転者がエンジン1を手動で再始動させる(ステップS23)。つまり、再始動に失敗した場合でも、ブースタに負圧が確保されている状態のため、ブースタ14によるアシスト力を利用した制動力にて安全に車両を停止させることができる。
【0055】
他方、ブースタ負圧が所定の閾値以上(ブースタ負圧の不足)である場合(ステップS22での判定結果がNoである場合)には、ブースタ14によるアシスト力が不足するため、加圧制御ユニット21による加圧制御が実行されてアシスト力の不足分が補われる。
【0056】
即ち、加圧制御ユニット21においては、図2に示す状態からバルブV1,V7が閉じられるとともにバルブV2,V8が開かれた状態で、電動モータ26によってポンプ24,25が駆動され、液圧ライン37,46を通じてマスタシリンダから吸い出されてポンプ24,25によって昇圧されたブレーキ液は、チェックバルブ33,43を通過して液圧ライン38,47,39,48、バルブv3,v5,v9,v11及びブレーキ配管17,20,18,19を経て前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各ディスクブレーキ16のホイールシリンダ(不図示)に供給され、図5に示すように時間t4においてホイールシリンダ圧が高められるため、制動力の低下が防がれ、運転者によるブレーキペダル8の強い踏み込みを要することなく所要の制動力が発生し、この制動力によって車両が図5に示す時間t5において停止する。
【0057】
本実施の形態では、ホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧に対して所定量だけ加圧する。つまり、ポンプ24,25によって予め定められた所定量だけ加圧するようにしたため、加圧制御手段におけるポンプの吐出量(電動モータの回転数)によって制動力を容易に制御することができる。
【0058】
ここで、本実施の形態の加圧制御におけるホイールシリンダ圧の昇圧パターンを図6に示すが、本実施の形態では、加圧制御ユニット21によるホイールシリンダ圧の加圧動作による昇圧速度をマスタシリンダ圧に応じて変更しており、運転者のブレーキペダル8の踏み込みに対応して増大するマスタシリンダ圧に応じて多段階(図6に示す実施の形態では、2段階)にホイールシリンダ圧の昇圧速度を変更している。具体的には、マスタシリンダ圧が所定の閾値を超える時間t1において昇圧速度をマスタシリンダ圧が閾値未満の場合よりも高く設定し、ホイールシリンダ圧が所定値に達する時間t2以後はホイールシリンダ圧を一定値に保つようにしている。つまり、ブレーキペダル8が踏み込まれて加圧制御・加圧動作が開始すると、電動モータ26が所定の低速の回転速度でポンプ24,25の駆動を開始する。そして、マスタシリンダ圧が所定の閾値を超えると、電動モータ26が所定の高速の回転速度でポンプ24,25を駆動し、昇圧速度を速くして早期に目標ホイールシリンダ圧に到達させる。これにより、運転者がブレーキペダル8を強く踏み込んで強い制動力(より早い減速)を要望している場合に対応して、車両をより早く安全に停止させることができる。
【0059】
又、図示しないが、本実施の形態では、加圧制御ユニット21によるホイールシリンダ圧の加圧動作による昇圧量を、ブースタ負圧の大きさに応じて変更し、ステップS22の所定の閾値よりも大きなブースタ負圧の第2の閾値以上(より負圧が不足している)の場合は第2の閾値未満の場合よりも昇圧量を大きく設定するようにしても良い。こうすることによって、より緊急性を要するアシスト力が大きく不足するときには、大きく昇圧して不足分を補うようことができ、制動力の低下を防いで運転者によるブレーキペダルの強い踏み込みを要することなく所要の制動力を発生させることができ、車両を容易且つ迅速に停止させることができる。又、緊急性が少ない場合(或る程度ブースタのアシスト力が期待できる場合)は、昇圧量を小さくして加圧手段の負荷を軽減することができて耐久性が向上する。
【0060】
以上のように、本発明によれば、車両の走行中にエンジン1を自動停止した後にエンジン1の再始動に失敗し、その後のポンピングブレーキ操作等によってブースタ負圧が減少した場合には、加圧制御ユニット21を動作させてホイールシリンダ圧を加圧して踏力アシスト手段によるアシスト力の不足を補うようにしたため、制動力の低下を防いで運転者によるブレーキペダル8の強い踏み込みを要することなく所要の制動力を発生させることができる。
【0061】
そして、本実施の形態では、加圧制御ユニット21によってホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧に対して所定量だけ加圧するようにしたため、加圧制御ユニット21におけるポンプ24,25の吐出量(電動モータ26の回転数)によって制動力を容易に制御することができるとともに、必要なときにだけホイールシリンダ圧の加圧動作を行うことができる。
【0062】
又、本実施の形態では、運転者の希望減速度をマスタシリンダ圧によって検知し、マスタシリンダ圧が閾値以上であって運転者の希望減速度が大きい場合にはホイールシリンダ圧を迅速に高めるようにしたため、車両を運転者の希望に従って早く減速させることができる。
【0063】
更に、本実施の形態では、加圧制御ユニット21によるホイールシリンダ圧の加圧動作による昇圧量をブースタ負圧に応じて変更するようにしたため、ブースタ14の駆動源であるエンジン1の吸気不足を適正に補うことができ、運転者に過度の踏力を強いることなく、運転者の要望を満足する大きさの制動力を発生させることができるという効果が得られる。
【符号の説明】
【0064】
1 エンジン
3 ブレーキ装置
8 ブレーキペダル
13 ECU(ブレーキ制御装置)
14 ブースタ(踏力アシスト手段)
15 マスタシリンダ
16 ディスクブレーキ
21 加圧制御ユニット(加圧制御手段)
24,25 ポンプ
26 電動モータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の停止条件が成立するとエンジンを自動停止させ、所定の再始動条件が成立すると自動停止しているエンジンを再始動させるエンジン自動停止・再始動制御手段と、
作動中のエンジンの吸気負圧を利用して運転者のブレーキ踏力をアシストする踏力アシスト手段と、
電動モータによって駆動されるポンプによって所要のブレーキ液圧を発生する負圧助勢手段と、
を備えた車両のブレーキ制御装置において、
再始動条件の成立後にエンジンの再始動が確認できない状態で車両が走行している場合であって、且つ、踏力アシスト手段の負圧が設定値以上であるときには前記加圧制御手段によってブレーキ液圧を加圧して前記踏力アシスト手段によるアシスト力の不足を補うことを特徴とする車両のブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記負圧助勢手段は、ホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧に対して所定量だけ加圧することを特徴とする請求項1記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記負圧助勢手段によるホイールシリンダ圧の加圧動作による昇圧速度をマスタシリンダ圧に応じて変更し、マスタシリンダ圧が閾値以上の場合は閾値未満の場合よりも昇圧速度を高く設定することを特徴とする請求項1又は2記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記負圧助勢手段によるホイールシリンダ圧の加圧動作による昇圧量を踏力アシスト手段の負圧に応じて変更し、踏力アシスト手段の負圧が閾値未満の場合は閾値以上の場合よりも昇圧量を大きく設定することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の車両のブレーキ制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−60164(P2013−60164A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201286(P2011−201286)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】