説明

車両のホイールハウス内構造

【課題】ホイールハウス内に進入した空気流と、タイヤ付きホイールの回転に伴い発生した空気流とを分離して、整流下にホイールハウスの外へ速やかに排除し得るようになす。
【解決手段】走行中、ホイールセンタCよりも前方位置から後方位置に亘って延在するよう設けた溝状気流通路6は、ホイールセンタCよりも前方および上方にある気流入口6aから、ホイールセンタCよりも後方にある気流出口6bへ向かう気流を生起させる。この気流は、車両前方からホイールハウス5内に流入した後、滞留傾向となる気流入口6a近辺の空気を、αで示すように気流入口6aから気流通路6および気流出口6bを経て、リヤバンパ8の下方へ導く。気流通路6の気流出口6bがホイールセンタCよりも後方に位置するため、気流出口6bからの空気流αは、タイヤ付きホイールの回転に伴い発生した空気流をβにより示すごとく、その発生後の流速が未だ比較的低い段階において引き連れつつホイールハウス5の外へ排除することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ付きホイールを回転可能に収容した車両のホイールハウス内の発熱部を効率的に冷却し得るホイールハウス内構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ付きホイールは、ブレーキユニットなどの発熱部を有し、このタイヤ付きホイールを収容したホイールハウスは、その内部における発熱部を効果的に冷却し得るものであることが肝要である。
【0003】
特に、タイヤ付きホイールを個々の電動モータにより駆動して走行可能な電気自動車のホイールハウス内は、タイヤ付きホイールごとのインホイールモータユニットの発熱量が多いことから、これによっても高温となることのないよう発熱部であるインホイールモータユニットを一層効果的に冷却し得るものである必要がある。
【0004】
これらの要求に鑑み、上記に例示したような発熱部を確実に冷却し得るようホイールハウス内における発熱部の冷却性能を向上させるためには、ホイールハウス内の空気の入れ換えが効率的に行われるよう、ホイールハウス内に流入した車両走行風などがスムーズにホイールハウスの外に排出されるようにする必要がある。
【0005】
ちなみに、ホイールハウス内に流入した空気流がホイールハウス内で撹拌されるような状況だと、ホイールハウス内に同じ空気流の長時間に亘って滞留する傾向となり、ホイールハウス内(発熱部)の冷却が効果的に行われ得ず、上記の要求を満足させ得ない。
上記の要求を満足させるべく、ホイールハウス内における発熱部の冷却が効率的に行われるようにするためには、ホイールハウス内に流入した空気流がスムーズにホイールハウスの外に排出されるようにホイールハウス内の空気流を整流する必要がある。
【0006】
かようにホイールハウス内の空気流を整流する技術としては従来、例えば特許文献1に記載のようなものが提案されている。
この提案技術は、タイヤ付きホイールの回転に伴って発生した空気流と、車体床下走行風がタイヤ付きホイールの前方外周面およびホイールハウス間に進入して発生した空気流との衝突箇所で、これら空気流を車体床下走行風により吸引してホイールハウス内から車体床下に向けて排除するダクトを設けたものである。
【0007】
かかる提案技術は、上記した2つの空気流の衝突による空気の撹拌を低減することができ、タイヤ付きホイール内における空気流の整流に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平06−227436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし上記した従来の提案技術にあっては、
タイヤ付きホイールの回転に伴って発生した空気流がタイヤ付きホイールの前方で上記ダクトに吸引されることになるため、また、
ホイールハウス内に進入した走行風に対して流れが逆流する方向に上記のダクトが設けられているため、
車速によっては、タイヤ付きホイールの回転に伴って発生した空気流と、ホイールハウス内に進入した空気流とが逆向きとなることがある。
【0010】
このため、これら空気流が相互に衝突することがあり、これによりホイールハウス内の空気流が乱れて、ホイールハウス内の空気流を狙い通りに整流することができないことがあった。
この場合、ホイールハウス内に流入した車両走行風がスムーズにホイールハウスの外に排出され得ず、ホイールハウス内の空気滞留時間が長くなって、ホイールハウス内における発熱部の冷却性能を狙い通りに向上させることができず、発熱部の冷却が不十分になるという問題を生ずる。
【0011】
本発明は、ホイールハウス内に進入した空気流と、タイヤ付きホイールの回転に伴い発生した空気流とを分離して、整流下にホイールハウスの外へ排除し得るようなホイールハウス内構造を提供し、
これにより、上記の両空気流が衝突してホイールハウス内発熱部の冷却性能が低下するという前記の問題を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的のため、本発明による車両のホイールハウス内構造は、以下のごとくにこれを構成する。
先ず、本発明の要旨構成の基礎前提となるホイールハウス内構造は、発熱部を有するタイヤ付きホイールを収容した車両のホイールハウス内構造である。
【0013】
本発明は前記目的のため、上記ホイールハウス内に流入した空気流を車両前後方向後方へ指向させる気流通路を、上記タイヤ付きホイールのホイールセンタよりも車両前後方向前方位置から後方位置に亘って延在するよう、ホイールハウス内に配して設け、
上記気流通路の車両前後方向前方位置における気流入口を、上記ホイールセンタよりも上方に位置させた構成に特徴づけられるものである。
【発明の効果】
【0014】
かかる本発明のホイールハウス内構造にあっては、以下の作用効果が奏し得られる。
上記の気流通路は車両の走行に伴って、タイヤ付きホイールのホイールセンタよりも車両前後方向前方位置にある気流入口から、当該ホイールセンタよりも車両前後方向後方位置に至る気流を生起させる。
【0015】
この気流は、車両前方からホイールハウス内に流入した空気流を、気流入口から気流通路に沿って車両前後方向後方へ指向させる。
ところで気流通路の気流入口を、上記ホイールセンタよりも車両前後方向前方位置で、且つ当該ホイールセンタよりも上方に位置させたため、ホイールハウス内に流入した後この位置に滞留する傾向にある空気を気流入口から気流通路を経て車両前後方向後方へ確実に指向させ得て、ホイールハウス内に流入した空気を速やかに車両前後方向後方へ向かわせつつホイールハウスの外へ排除することができる。
【0016】
また気流通路を、上記ホイールセンタよりも車両前後方向前方位置から後方位置に亘って延在するようなものとしたことで、気流通路の車両前後方向後端がホイールセンタよりも車両前後方向後方に位置することになるため、
ホイールハウス内に流入した後、気流通路により車両前後方向後方へ指向される空気流は、タイヤ付きホイールの回転に伴い発生した空気流を、その発生後の流速が未だ比較的低い段階において引き連れつつ車両前後方向後方へ向かうことができ、タイヤ付きホイールの回転に伴い発生した空気流を伴ってホイールハウスの外へ排除される。
【0017】
これにより、ホイールハウス内に進入した空気流と、タイヤ付きホイールの回転に伴い発生した空気流とは、両者が気流を乱し合うように衝突するすることなく相互に分離して、整流下にホイールハウスの外へ排除されることとなる。
【0018】
上記したように本発明によれば、ホイールハウス内に流入した空気を速やかに車両前後方向後方へ向かわせてホイールハウスの外へ排除することができること、また、ホイールハウス内に進入した空気流、および、タイヤ付きホイールの回転に伴い発生した空気流を相互に分離して、整流下にホイールハウスの外へ排除することができることから、
ホイールハウス内における空気の滞留時間が短くて当該空気の入れ替えがスムーズであり、ホイールハウス内における発熱部の冷却性能を向上させることができ、前記の問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施例になる車両のホイールハウス内構造を、ホイール軸線方向に見て示す側面図である。
【図2】図1に示したホイールハウス内構造を、車両の上方から見て示す平面図である。
【図3】図1,2に示したホイールハウス内構造を、車両の前方から見て示す正面図である。
【図4】図1〜3に示したホイールハウス内構造を、図3のA矢視方向に見て示す斜視図である。
【図5】ホイールハウス内に進入した後の空気流と、タイヤ付きホイールの回転に伴う空気流との発生状況を示す説明図である。
【図6】図1〜4に示したホイールハウス内構造を構成する気流通路の気流入口および気流出口に関した配置領域を示す説明図である。
【図7】図1〜4に示すホイールハウスにおいて、冷却構造を成す気流通路が無い場合における空気流の発生状況を示す、図2と同様な平面図である。
【図8】本発明の第2実施例になる車両のホイールハウス内構造を、ホイール軸線方向に見て示す、図1と同様な側面図である。
【図9】図8に示したホイールハウス内構造を、車両の上方から見て示す、図2と同様な平面図である。
【図10】本発明の第3実施例になる車両のホイールハウス内構造を、ホイール軸線方向に見て示す、図1,8と同様な側面図である。
【図11】図10に示したホイールハウス内構造を、車両の上方から見て示す、図2,9と同様な平面図である。
【図12】図10,11に示したホイールハウス内構造を、図3の矢Aで示すと同じ方向に見て示す、図4と同様な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<第1実施例の構成>
図1〜4は、本発明の第1実施例になる車両のホイールハウス内構造を示し、図1はその側面図、図2はその平面図、図3は、車両前方から見て示すその正面図、図4は、図3のA矢視方向に見て示す斜視図である。
【0021】
本実施例における車両は、タイヤ付きホイール1を個々の電動モータにより駆動して走行可能な電気自動車とする。
この電動モータを含む、タイヤ付きホイール1ごとのインホイールモータユニット2と、タイヤ付きホイール1とは一体物として構成し、
かように一体化したタイヤ付きホイール1およびインホイールモータユニット2は、ホイールハウスインナパネル3およびホイールハウスアウタパネル4により画成されたホイールハウス5内に収納する。
【0022】
ところで、タイヤ付きホイール1ごとのインホイールモータユニット2は発熱量が多い発熱部であり、このインホイールモータユニット2を有するタイヤ付きホイール1を収容したホイールハウス5内は、インホイールモータユニット2の存在によっても高温となることのないよう、発熱部であるインホイールモータユニット2を確実、かつ効果的に冷却し得るものである必要がある。
【0023】
そのため本実施例においては、タイヤ付きホイール1と軸線方向に対面するホイールハウスインナパネル3の側壁面3a、つまりホイールハウス5を画成するホイールハウス内壁面のうち、タイヤ付きホイール1よりも車幅方向内方(車室側)におけるホイールハウス側壁面を加工して、気流通路6をホイールハウスインナパネル3の側壁面3aに一体成形する。
【0024】
かようにしてホイールハウス5内に設けた気流通路6は、タイヤ付きホイール1の車幅方向内側面に向け開口する溝状として、タイヤ付きホイール1のホイールセンタCよりも車両前後方向前方位置から、当該ホイールセンタCよりも車両前後方向後方位置に亘って延在させる。
そして、気流通路6の車両前後方向前方位置における気流入口6aを、ホイールセンタCよりも上方に位置させ、気流通路6の車両前後方向後方位置における気流出口6bを、タイヤ付きホイール1の回転軸線方向に見て、ホイールセンタCよりほぼ斜め45度下方に延在する線よりも上方の領域内に位置させる。
【0025】
他方で、車両走行中に走行風(空気流)をホイールハウス5内に導くためのエアガイド7を、タイヤ付きホイール1の前方に配してホイールハウスアウタパネル4に設ける。
また、気流通路6の気流出口6bから出た出口気流をリヤバンパ8の下方(車体外側造形面の外側)へ導くエアガイド9を設ける。
【0026】
ここで、前記のごとく気流通路6の気流入口6aをホイールセンタCよりも車両前後方向前方で、且つホイールセンタCよりも上方に位置させた理由を説明する。
【0027】
図5は、車速60km/hでの走行中、ホイールハウス内に進入した後の空気流、およびタイヤ付きホイール1の回転に伴って発生した空気流をそれぞれ示す。
前者のホイールハウス内に進入した空気流は図5に矢Bで示すごとく、レベルLまで整流状態を保ってタイヤ付きホイール1の前方をタイヤ外周面に沿い上昇し、
後者のタイヤ付きホイール1の回転に伴って発生した空気流は、図5に矢Gで示すごとく、タイヤ付きホイール1の接地面後方からタイヤ外周面に沿い上昇する。
【0028】
しかし、ホイールハウス内に進入した空気流Bは、その後、図5に矢Dで示すごとく、ホイールセンタCの直上位置近辺で滞留傾向となり、しかる後に同図に矢Eで示すごとく、再びタイヤ付きホイール1のタイヤ外周面に沿いホイールセンタCの直上位置近辺から下方へ向かう。
【0029】
図5に矢Dで示す空気流の滞留は、ホイールハウス内の空気の入れ換えをスムーズに行い得なくし、ひいてはホイールハウス内における発熱源(インホイールモータユニット2)の冷却効率を低下させる。
【0030】
発熱源(インホイールモータユニット2)の冷却効率を向上させるためには、図5に矢Dで示すごとくに滞留している空気流を、速やかに車体外側造形面の外側へ導出するのが良い。
この観点から本実施例においては、気流通路6の気流入口6aを、図6にFで示す上記空気流の滞留領域、つまりホイールセンタCよりも車両前後方向前方で、且つホイールセンタCよりも上方に位置させる。
【0031】
次に、気流通路6の気流出口6bを前記したごとく、ホイールセンタCよりも車両前後方向後方で、且つ、タイヤ付きホイール1の回転軸線方向に見て、ホイールセンタCよりほぼ斜め45度下方に延在する線よりも上方の領域内に位置させた理由を説明する。
【0032】
図5に矢Gで示すごとく、タイヤ付きホイール1の回転に伴ってタイヤ接地面後方からタイヤ外周面に沿い上昇する空気流は、図5に矢Eで示す空気流の流速が車速相当分だけ速くなることもあって、レベルH(タイヤ付きホイール1の回転軸線方向に見て、ホイールセンタCよりほぼ斜め45度下方に延在する線)くらいまでしか上昇し得ない。
【0033】
タイヤ付きホイール1の回転に伴って発生した、図5の矢Gで示す空気流は、その発生直後であって流速が未だ比較的低く、この段階なら、気流通路6の気流出口6bから出た出口気流によって引き連れつつ車両前後方向後方へ向かわせ、ホイールハウス5の外へ排除することができる。
【0034】
そして、かように気流通路6(気流出口6b)からの出口気流(走行によりホイールハウス内に進入した空気流)が、タイヤ付きホイール1の回転に伴う空気流Gを引き連れてホイールハウス5の外へ排除されるようにする場合、
走行によりホイールハウス5内に進入した空気流と、タイヤ付きホイール1の回転に伴い発生した空気流とが、相互に気流を乱し合うように衝突するすることなく分離して、整流下にホイールハウス5の外へ排除され、ホイールハウス5内の空気の入れ替えを促進してホイールハウス5内の冷却効率を高めることができる。
【0035】
この観点から本実施例においては、ホイールセンタCよりも車両前後方向後方に配置した気流通路6の気流出口6bを、図6にJで示す領域内、つまり、タイヤ付きホイール1の回転に伴って発生する空気流Gの上限レベル(タイヤ付きホイール1の回転軸線方向に見て、ホイールセンタCよりほぼ斜め45度下方に延在する線H)よりも上方の領域内、好ましくはホイールセンタCよりも下方の領域内に位置させる。
つまり気流通路6の気流出口6bを、ホイールセンタCよりも車両前後方向後方で、且つ、タイヤ付きホイール1の回転軸線方向に見て、ホイールセンタCよりほぼ斜め45度下方に延在する線Hよりも上方(好ましくはホイールセンタCよりも下方)の領域内に位置させる。
【0036】
<第1実施例の作用効果>
上記した第1実施例の作用効果を説明する前に、図7に示すごとく第1実施例の対策を施さなかった場合(気流通路6を設置しなかった場合)の問題点を先ず説明する。
車両の走行中、ホイールハウス5内にはエアガイド7によって走行風(空気流)が矢Yで示すように導かれる。
他方で車両の走行中は、タイヤ付きホイール1の回転に伴って、上記の空気流Yと逆向きの空気流Zが発生する。
【0037】
何らの空気流制御も行わない場合、ホイールハウス5内に流入した空気流Yと、タイヤ付きホイール1の回転に伴って発生した空気流Zとは、ホイールセンタよりも前方および上方の位置で相互に衝突し合う。
この衝突により、ホイールハウス5内の空気流が乱れて、ホイールハウス内に流入した車両走行風をスムーズにホイールハウス5の外へ排出し難くする。
これにより、ホイールハウス5内の空気滞留時間が長くなって、ホイールハウス5内の冷却性能が低下し、発熱部であるインホイールモータユニット2の冷却が不十分になるという問題を生ずる。
【0038】
図1〜4につき前述した第1実施例は、以下の作用により、この問題を解消することができる。
車両の走行に伴って気流通路6は、タイヤ付きホイール1のホイールセンタCよりも車両前後方向前方位置にある気流入口6aから、ホイールセンタCよりも車両前後方向後方位置にある気流出口6bへ向かう気流を生起させる。
【0039】
この気流入口6aから気流通路6を経て気流出口6bに至る気流は、車両前方から主にエアガイド7で案内されホイールハウス5内に流入した空気流を、図1,2に矢αで示すように気流入口6aから気流通路6に沿って気流出口6b(車両前後方向後方)へ指向させ、
この気流出口6bから出た出口気流は、エアガイド9による案内下でリヤバンパ8の下方(車体外側造形面の外側)へ導かれて車外へ排除される。
【0040】
ところで気流通路6の気流入口6aを、ホイールセンタCよりも車両前後方向前方位置で、且つホイールセンタCよりも上方に位置させたため、
図5の矢Dにつき前述したごとく、ホイールハウス5内に流入した後この位置に滞留する傾向にある空気を気流入口6aから気流通路6を経て車両前後方向後方へ確実に指向させ得て、ホイールハウス5内に流入した空気を速やかに車両前後方向後方へ向かわせつつホイールハウス5の外へ排除することができる。
【0041】
また気流通路6を、ホイールセンタCよりも車両前後方向前方位置から後方位置に亘って延在するようなものとしたことで、気流通路6の車両前後方向後方における気流出口6bがホイールセンタCよりも車両前後方向後方に位置することになるため、
更に、気流通路6の気流出口6bを図6につき前述したとおり、タイヤ付きホイール1の回転軸線方向に見て、ホイールセンタCよりほぼ斜め45度下方に延在する線Hよりも上方の領域内(好ましくはホイールセンタCよりも下方の領域内)に位置させたこととも相まって、
ホイールハウス5内に流入した後、気流通路6により車両前後方向後方へ指向される空気流αは、タイヤ付きホイールの回転に伴い発生した空気流を矢βで示すごとく、その発生後の流速が未だ比較的低い段階において引き連れつつ車両前後方向後方へ向かうことができ、タイヤ付きホイール1の回転に伴い発生した空気流βを伴ってホイールハウス5の外へ排除され得る。
【0042】
これにより、ホイールハウス5内に進入した空気流αと、タイヤ付きホイール1の回転に伴い発生した空気流βとは、両者が気流を乱し合うように衝突するすることなく相互に分離して、整流下にホイールハウス5の外へ排除されることとなる。
【0043】
上記したように本実施例によれば、ホイールハウス5内に流入した空気αを速やかに車両前後方向後方へ向かわせてホイールハウス5の外へ排除することができること、また、
ホイールハウス5内に進入した空気流α、および、タイヤ付きホイール1の回転に伴い発生した空気流βを相互に分離して、整流下にホイールハウス5の外へ排除することができることから、
ホイールハウス5内における空気の滞留時間が短くて当該空気の入れ替えがスムーズであり、ホイールハウス5内の発熱部であるインホイールモータユニット2の冷却性能を向上させることができ、上記の問題を解消することができる。
【0044】
第1実施例においては更に、車両走行中に車両前方からホイールハウス5内へ走行風(空気流)を導くエアガイド7を設けたことで、
ホイールハウス5内への走行風(空気流)の導入量が多くなって、ホイールハウス5内(インホイールモータユニット2)の冷却性能を更に高めることができる。
【0045】
なお本実施例においては、かようにホイールハウス5内への走行風(空気流)の導入量が多くなっても、気流通路6が上記の作用により、ホイールハウス5内に進入した空気流α、および、タイヤ付きホイール1の回転に伴い発生した空気流βを相互に、整流状態のまま分離し続けることができ、これら空気流の衝突により気流が乱れて上記の作用効果が得られなくなるという弊害を回避することができる。
【0046】
また本実施例においては、気流通路6の設置に際し、タイヤ付きホイール1と軸線方向に対面するホイールハウスインナパネル3の側壁面3a、つまりホイールハウス5を画成するホイールハウス内壁面のうち、タイヤ付きホイール1よりも車幅方向内方(車室側)におけるホイールハウス側壁面を加工して、気流通路6をホイールハウスインナパネル3の側壁面3aに一体成形したため、
気流通路6を安価に設置し得るのに加えて、以下の作用効果をも奏し得る。
【0047】
つまり、気流通路6を当該ホイールハウス側壁面(ホイールハウスインナパネル3の側壁面3a)に一体成形する場合、
このホイールハウス側壁面(ホイールハウスインナパネル3の側壁面3a)に近接配置されるインホイールモータユニット2(発熱源)の近くに気流通路6が位置することとなり、
この気流通路6を通る空気流αがインホイールモータユニット2(発熱源)との熱交換を効率的に行って、その冷却性能を更に向上させることができる。
【0048】
また、気流通路6を図1に明示するごとく、後方へ向かうにつれレベル低下するように傾斜させれば、溝形状の気流通路6内に泥などが溜まるのを防止して防錆性能を高めることができる。
なお、気流通路6の溝形状を成す側壁のうち、下側における側壁に、前記の作用に支障を来さない程度の透孔を穿つことで、気流通路6の防錆性能を更に高めて耐久性を向上させることができる。
【0049】
<第2実施例の構成>
図8,9は、本発明の第2実施例になる車両のホイールハウス内構造を示し、図8は、図1と同様な側面図、図9は、図2と同様な平面図である。
本実施例においては、気流通路6の車両前後方向後方位置における気流出口6bに整列させて出口気流導出路11を車体(バンパ9)に設け、気流出口6bから遠い出口気流導出路11の後端を車体外側造形面(バンパ9)の外側(後方)に開口させる。
【0050】
かくして出口気流導出路11は、気流通路6の気流出口6bから出た出口気流を車体外側造形面の外側(後方)へ導く用をなし、
従って本実施例では、図1,2に示すごとく第1実施例で設けていたエアガイド9を省略する。
【0051】
<第2実施例の作用効果>
第2実施例は上記以外、図1〜4に示す第1実施例と同様な構成とするため、前記した第1実施例の作用効果を全て奏し得るほか、以下の作用効果をも達成可能である。
【0052】
つまり、気流通路6の気流出口6bに連通し、車体外側造形面(バンパ9)の外側(後方)に開口するよう設けた出口気流導出路11は、ホイールハウス5内に流入した後、気流通路6によりガイドされた空気流αを、その動圧と、車体外側造形面(バンパ9)の外側(後方)に発生した負圧との差圧により、ホイールハウス5の外側へ排除するため、
ホイールハウス5内の空気の排除効率が高まり、その分だけホイールハウス5内の空気の入れ換えを更に高速に行うことができ、ホイールハウス5内(インホイールモータユニット2)の冷却性能を更に向上させることができる。
【0053】
<第3実施例の構成>
図10〜12は、本発明の第3実施例になる車両のホイールハウス内構造を示し、図10は、図1,8と同様な側面図、図11は、図2,9と同様な平面図、図12は、図4と同様な斜視図である。
本実施例においては、溝形状に成形した気流通路6の溝開口部を、例えば樹脂で作ったカバー12で塞ぐことにより、気流通路6を閉断面形状のダクト通路となす。
【0054】
しかしてカバー12は、気流通路6の車両前後方向前方位置における気流入口6aおよび車両前後方向後方位置における気流出口6bをそれぞれ塞ぐことのない大きさおよび形状となし、
これにより、ホイールハウス5内に進入した空気流αが、前記した各実施例と同様に気流入口6aから気流通路6に入り、この気流通路6を経て気流出口6bから出るようになす。
【0055】
そして、気流通路6の気流出口6bに近いカバー12の端部に開口13を設け、タイヤ付きホイール1の回転に伴って生じた空気流βを、気流通路6(ダクト通路)内の空気流αにより開口13を経て気流通路6(ダクト通路)内に吸い込み得るようにする。
【0056】
<第3実施例の作用効果>
第3実施例は上記以外、図8,9に示す第2実施例と同様な構成とするため、前記した第2実施例の作用効果を全て奏し得るほか、以下の作用効果をも達成可能である。
【0057】
つまり、溝形状に成形した気流通路6の溝開口部をカバー12で塞ぐことにより、気流通路6を閉断面形状のダクト通路に構成したため、
気流通路6に通過する空気流αを、ホイールハウス5内の空気流と些かも緩衝しないようにし得て、空気流の乱れによりホイールハウス5内における空気の入れ替え効率が低下されるのを極限まで抑制することができ、ホイールハウス5内(インホイールモータユニット2)の冷却効率を最大限高めることができる。
【0058】
なお本実施例においては、気流通路6の溝開口部をカバー12で塞いで気流通路6をダクト通路に構成したと雖も、
気流出口6bに近いカバー12の端部に開口13を設け、気流通路6(ダクト通路)内の空気流αがこの開口13を経て、タイヤ付きホイール1の回転に伴う空気流βを気流通路6(ダクト通路)内に吸い込み得るようにしたため、
タイヤ付きホイール1の回転に伴う空気流βが、ホイールハウス5内の空気流と衝突して滞留することがなく、この滞留空気によりホイールハウス5内(インホイールモータユニット2)の冷却性能が低下するという弊害を生ずることはない。
【0059】
<その他の実施例>
なお、図示例ではいずれも、ホイールハウス5内に発熱源としてインホイールモータユニット2が存在する電気自動車に対し、本発明のホイールハウス内構造を用いる場合について述べたが、このような電気自動車でなくても、一般的に車両は、各車輪のディスクブレーキユニットユニットやドラムブレーキユニットなどのブレーキユニットをホイールハウス5内に収納しており、このブレーキユニットが摩擦熱を発生する発熱源であるから、その冷却効率を高めるのに本発明のホイールハウス内構造は有用であることは言うまでもない。
【0060】
また、各図示例では走行風を効率よくホイールハウス5内に導くためにエアガイド7を設けたが、このエアガイド7は必須ではなく、これがなくても走行風はホイールハウス5内に導かれ、図5に付き前述したと同様な空気流となるため、エアガイド7がない場合でも前記した諸々の作用効果がそのまま奏し得られること、勿論である。
【符号の説明】
【0061】
1 タイヤ付きホイール
C ホイールセンタ
2 インホイールモータユニット(発熱源)
3 ホイールハウスインナパネル
3a ホイールハウスインナパネル側壁面(ホイールハウス側壁面)
4 ホイールハウスアウタパネル
5 ホイールハウス
6 気流通路
6a 気流入口
6b 気流出口
7 エアガイド
8 リヤバンパ(車体外側造形面)
9 エアガイド
11 出口気流導出路
12 気流通路カバー
13 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱部を有するタイヤ付きホイールを収容した車両のホイールハウス内構造において、
前記ホイールハウス内に流入した空気流を車両前後方向後方へ指向させる気流通路を、前記タイヤ付きホイールのホイールセンタよりも車両前後方向前方位置から後方位置に亘って延在するよう、前記ホイールハウス内に配して設け、
前記気流通路の車両前後方向前方位置における気流入口を、前記ホイールセンタよりも上方に位置させたことを特徴とする車両のホイールハウス内構造。
【請求項2】
請求項1に記載された車両のホイールハウス内構造において、
前記ホイールハウス内に空気流を導くためのエアガイドを設けたことを特徴とする車両のホイールハウス内構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載された車両のホイールハウス内構造において、
前記気流通路は、前記ホイールハウスを画成するホイールハウス内壁面のうち、タイヤ付きホイールよりも車幅方向内方におけるホイールハウス側壁面を加工して、該ホイールハウス側壁面に一体成形したものであることを特徴とする車両のホイールハウス内構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された車両のホイールハウス内構造において、
前記気流通路の車両前後方向後方位置における気流出口からの出口気流を車体外側造形面の外側へ導く出口気流導出路を設けたことを特徴とする車両のホイールハウス内構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載された車両のホイールハウス内構造において、
前記気流通路は、閉断面形状のダクト通路であることを特徴とする車両のホイールハウス内構造。
【請求項6】
請求項5に記載された車両のホイールハウス内構造において、
前記気流通路を成すダクト通路の途中に、前記タイヤ付きホイールの回転に伴って生じた空気流をダクト通路内の空気流により吸い込むための開口を設けたことを特徴とする車両のホイールハウス内構造。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載された車両のホイールハウス内構造において、
前記気流通路の車両前後方向後方位置における気流出口を、タイヤ付きホイールの回転軸線方向に見て、前記ホイールセンタよりほぼ斜め45度下方に延在する線よりも上方の領域内に位置させたことを特徴とする車両のホイールハウス内構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−131669(P2011−131669A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291659(P2009−291659)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】