説明

車両の下部車体構造

【課題】この発明は、クロスメンバを大型化して車体剛性を向上させるとともに、大型化したクロスメンバによる振動を抑制することができる下部車体構造を提供することを目的とする。
【解決手段】車室内の底面を形成するフロアパネル1と、フロアパネル1に段上がり状に設けられたキックアップ部7と、キックアップ部7の左右側部において車室内に突出して配設されたリヤホイールハウス24とを備えた車両の下部車体構造において、キックアップ部7において車室内に突出させて配設した第1クロスメンバ46を備えるとともに、第1クロスメンバ46のメンバ上側部材48の前面部48аにメンバ膨出部52を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、下部車体の後部にクロスメンバを設けた車両の下部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下部車体構造として、リヤシートが設置される水平面部を有する車室内フロア部と、車室内フロア部の後方で車室内フロア部よりも一段高い位置に設けられた略水平なリヤフロア部と、車室内フロア部とリヤフロア部との段差部分に設けられたキックアップ部と、キックアップ部の左右両端に車室内に突出して設けられたリヤホイールハウスで構成する構造がある。
【0003】
しかし、このような下部車体構造においては、車体剛性が低いと下部車体が変形するおそれがあった。特に、リヤサスペンションの上端を支持するダンパ支持部をリヤホイールハウスに設けた場合、リヤサスペンションからの荷重の入力によるリヤホイールハウスの内倒れが生じるおそれがあった。このように内倒れ等による車体の変形が生じると操縦安定性が悪化するという問題があった。
【0004】
そのため特許文献1では、リヤサスペンションからの入力によるリヤホイールハウスの内倒れを防止するため、フロアパネル後端において車幅方向の全体にわたるクロスメンバと、左右のリヤサスペンション近傍におけるクロスメンバの上に、サス補強ブラケットと呼ばれる補強部材とを設けた下部車体構造が提案されている。これにより車体剛性を向上することができるとされている。
【0005】
しかし、特許文献1に開示されているクロスメンバは、燃料タンクのほか様々な足回り部品等が備えられたフロアパネルの下側に配置されているため、空間的制限によって、断面を大きくすることはできず、特許文献1の下部車体構造では車体剛性のさらなる増大を図ることができなかった。
なお、クロスメンバを大型化することで、走行振動による共振等によりクロスメンバの振動が激しくなるという新たな問題も懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−13052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこでこの発明は、クロスメンバを大型化して車体剛性を向上させるとともに、大型化したクロスメンバにおける振動を抑制することができる下部車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、車室内の底面を形成するフロアパネルと、該フロアパネルに段上がり状に設けられたキックアップ部と、前記キックアップ部の左右側部において車室内に突出して配設されたリヤホイールハウスとを備えた車両の下部車体構造であって、前記キックアップ部において前記車室内に突出させて配設したクロスメンバを備えるとともに、前記クロスメンバの前面部に断面変化部を備えたことを特徴とする。
【0009】
上記断面変化部は、上記クロスメンバに対して1つの断面変化部あるいは複数の断面変化部とすることができる。
また、上記断面変化部は、クロスメンバの前面部の断面を膨出させた断面や肉厚を厚くした断面とすることができる。なお、上記断面変化部の肉厚を厚くする場合、板材等の別部材をクロスメンバに貼り合わせて厚くする構成であってもよい。
【0010】
また、上記段面変化部は、クロスメンバの前面部のみでなく、クロスメンバの前面部と他面部とをまたいで設けてもよいし、クロスメンバの全体にわたって設けてもよい。
上記リヤホイールハウスはリヤサスペンションの上端を支持するダンパ支持部を備えることができる。
この発明により、クロスメンバを大型化し、車体剛性を向上させるとともに大型化したクロスメンバによる振動を防止することができる。
【0011】
詳しくは、フロアパネルに段上がり状に設けられたキックアップ部にクロスメンバを設けることで、この段差を有効利用して車室空間を損なうことなくクロスメンバの高さを高く形成することができる。
【0012】
また、クロスメンバの高さを高く形成したことにより、クロスメンバの断面2次モーメントを大きくすることができ、クロスメンバの曲げ剛性を向上することができる。したがって、クロスメンバを配置した車体の剛性も高くなり、車両の操縦安定性を向上することができる。
【0013】
なお、クロスメンバの高さを高く形成したことにより、クロスメンバの前面部は高さ方向に幅広くなるため面剛性が低減するとともに共振しやすくなる。しかし、クロスメンバの前面部に断面変化部を適宜配置することで、走行振動に対してクロスメンバの固有振動数をシフトさせることができ、前面部における共振の発生を防止することができる。
【0014】
さらには、クロスメンバの前面部に断面変化部を設けることで、クロスメンバにおける前面部の面剛性が向上するため、クロスメンバに生じる振動を抑制することができる。
詳しくは、面剛性が高いため走行振動によるクロスメンバの前面部の振動における振幅を、面剛性が低い場合に比べて低減することができる。したがって、振動騒音も低減でき、走行時における車室内の快適性を向上させることができる。
【0015】
このように、この発明により、走行振動による共振の発生を防止するとともに、前面部の振動を低減できるため、膨出部を備えていないクロスメンバに比べて発生する振動を抑制することができる。
【0016】
この発明の態様として、前記断面変化部を、前記クロスメンバの車幅方向の略全幅にわたって備えることができる。
上記クロスメンバの車幅方向の全幅にわたって配置した段面変化部は、1つの段面変化部あるいは所定の間隔を隔てて配置した複数の断面変化部とすることができる。
【0017】
この発明により、前記クロスメンバの前面部に生じる振動をより抑制することができる。
詳しくは、段面変化部を車幅方向の全幅にわたって配置したことにより、車幅方向の一部にのみ設けた場合に比べ、前面部の面剛性が高くなり、振動の振幅をより抑制することができる。また、クロスメンバの固有振動数を、断面変化部を一部にしか設けていないクロスメンバと比較して、より大きくシフトさせることができる。したがって、クロスメンバの前面における共振の発生をより抑制することができる。
【0018】
また、この発明の態様として、前記クロスメンバの前面部に、リヤシートを支持するシート支持部を備えるとともに、前記断面変化部と前記シート支持部とを離間して配設することができる。
【0019】
この発明により、前記クロスメンバにシート支持部と断面変化部とを両方設けることができる。
したがって、シート支持部を介してクロスメンバにリヤシートを支持することができる。
【0020】
また、上述したように、大型化された曲げ剛性の高いクロスメンバに支持部を介してシートを支持することにより、例えばフロアパネルに設けた支持部に支持させる場合と比較して、リヤシートをより安定して固定することができる。
【0021】
さらに、例えば、リヤシートをキックアップ部のすぐ前方に配置する場合、リヤシートのすぐ後方であるキックアップ部にクロスメンバを配置したため、容易にシート支持部でクロスメンバにリヤシートを支持できる。したがってリヤシートを安定して設置することができる。
【0022】
また、この発明の態様として、前記リヤシート上にチャイルドシートを固定するためのチャイルドシート支持部を前記クロスメンバの前面部に備え、前記断面変化部と前記チャイルドシート支持部とを離間して配設することができる。
【0023】
この発明により、前記クロスメンバにチャイルドシート支持部と断面変化部とを両方設けることができる。
これにより、チャイルドシート支持部を介してクロスメンバにチャイルドシートを取り付けることができる。
【0024】
また、上述したように、大型化された曲げ剛性の高いクロスメンバに支持部を介してチャイルドシートを支持した場合、例えばフロアパネルに設けた支持部に支持させる場合と比較して、チャイルドシートをより安定して固定することができる。
【0025】
さらに、例えば、キックアップ部のすぐ前方に配置したリヤシート上にチャイルドシートを配置する場合、リヤシートのすぐ後方であるキックアップ部にクロスメンバを配置したため、容易にチャイルドシート支持部でクロスメンバにチャイルドシートを支持できる。したがってチャイルドシートを安定して設置することができる。
【0026】
また、この発明の態様として、前記クロスメンバを、前記フロアパネルより上方に突出して配設される上側フレームと、前記フロアパネルの下部に配設される下側フレームとで構成し、前記上側フレームと前記下側フレームとで閉断面を形成することができる。
【0027】
前記上側フレーム及び前記下側フレームは、溶接あるいはボルト締めなど適宜の方法によりキックアップ部に取り付けるものとすることができる。
この発明により、クロスメンバの板厚を厚くせずとも、クロスメンバの断面2次モーメントを大きくできる。したがって、重量増加を抑制しながら車体剛性を向上することができ、車両の操縦安定性を向上させることができる。
【0028】
また、この発明の態様として、前記断面変化部を膨出部とすることができる。
この発明により、成形加工が容易である膨出部でクロスメンバの剛性を向上させることができ、車体の操縦安定性を高めることができる。
【発明の効果】
【0029】
この発明により、クロスメンバを大型化して車体剛性を向上させるとともに、大型化したクロスメンバによる振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】下部車体の後部斜視図。
【図2】下部車体の後部縦断面図。
【図3】図2におけるI−I線断面図。
【図4】下部車体の分解斜視図。
【図5】上側フレームの前面部斜視図。
【図6】図5におけるA−A線の一部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳述する。
図1は本発明に係る車両の後部車体構造の斜視図を示し、図2は後部車体構造の側面断面図を示している。詳しくは、図2は車両左側の車体側壁部3及び車体後壁部5について車室内側から見た側面断面図を示している。
【0032】
図3は図2におけるI−I線断面図を示し、図4は下部車体の分解斜視図を示している。
【0033】
また、図5は第1クロスメンバ46の前面部斜視図を示し、図6は図5におけるA−A線の一部断面図を示している。なお、図6は図5におけるA−A線断面のうち正面視右側のチャイルドシート支持部54及びメンバ膨出部52を含む部分についてのみ示している。
【0034】
この後部車体構造は、底面部を構成するフロアパネル1と、図示省略するサイドドアが開閉可能に設置される乗降用開口部2が設けられた車体側壁部3と、トランクルームの側壁部分を構成する車体後壁部5とを有している。
【0035】
フロアパネル1は、リヤシート50が設置される車室内フロア部6と、その後端部から斜め上方に延びるキックアップ部7と、その上端部から車両の後方側に延びるリヤフロア部8とで構成している。このリヤフロア部8の左右両側辺部には、車両の前後方向に延びるリヤサイドフレーム10を設置している。
【0036】
また、図1及び図2に示すように、リヤフロア部8の下方には、ロアアーム11、サスペンションダンパ12及びコイルスプリング13等を有するリヤサスペンション14と、このリヤサスペンション14を支持するサブフレーム15とを配設している。
【0037】
リヤサイドフレーム10は、図3に示すように、フロアパネル1の上方へ膨出した段部を形成する上側部材16と、フロアパネル1の下方に配置された断面コ字状部を有する下側部材17とからなり、これらの上側部材16及び下側部材17により車両の前後方向に延びる閉断面を構成している。そして、左右のリヤサイドフレーム10の車幅方向内側辺部にフロアパネル1を固定している。
【0038】
車体側壁部3は、図3に示すように、アウタパネル21及びインナパネル22とで構成し、その間にはリヤピラーレインまたはクォータパネルレイン等の外面側補強材23を配設している。
【0039】
そして、インナパネル22の下方部には、車室内に膨出するリヤホイールハウス24を設けている。このリヤホイールハウス24の上面中央部には、サスペンションダンパ12の上端部を支持するダンパ支持部25と、このダンパ支持部25を裏面側から補強する補強部材26とを備えている。
【0040】
なお、図1に示すように、リヤホイールハウス24の車室内側壁面を、第2ブレース30が配設された車両後方部分に比べ、後述する第1ブレース29が配設された前方部分を車幅方向外方側に位置するように車幅方向に傾斜させている。
【0041】
また、インナパネル22は、図3において略逆L字状に形成し、断面円弧状の底辺部分を、リヤホイールハウス24の車体外側部分であるリヤホイールハウスアウタ24bとしている。
【0042】
図1及び図2に示すように、ダンパ支持部25は、リヤホイールハウス24の車室内側上部に配設し、鋼板材を折り曲げる等により形成された前後一対の取付フランジ25aと、車幅方向外方側が開口したコ字状の本体部25bとを有する断面ハット型に形成している。
【0043】
そして、本体部25bには、後述するサスペンションダンパ12の上端の取り付け操作を行う取付開口25cと、本体部25bの前辺部及び後辺部には、車室内側(上方及び車幅方向の内方側)に膨出した膨出部27,28を形成している。
【0044】
また、リヤホイールハウス24の車内側壁面には、ダンパ支持部25の前方部に設けられた膨出部27から下方に延びる第1ブレース29を設置し、ダンパ支持部25の後辺部に設けられた膨出部28から下方に延びる第2ブレース30を設置している(図1及び図2参照)。
【0045】
詳しくは、ブレース29,30は、図4に示すように、ダンパ支持部25の車幅方向内側辺部から下方に延びる上方部材31,32と、リヤサイドフレーム10の上面部から上方に延びる下方部材33,34とで分割構成している。
【0046】
上記構成において、上方部材31,32の下端部と、下方部材33,34の上端部とを接続することにより、ダンパ支持部25の前辺部及び後方部とリヤサイドフレーム10とを連結するように上下方向に延びるブレース29,30を構成している。
【0047】
ブレース29,30の上方部材31,32は、鋼板材を折り曲げる等により形成した前後一対の取付フランジ35,36と、車幅方向外方側が開口したコ字状の本体部37とを有する断面ハット型に形成している。
【0048】
そして、上方部材31,32の上端部を補強部材26の車内側壁面上に重ねるとともに、その上にダンパ支持部25を重ねた状態で、これらを一体的にスポット溶接等により結合している。
【0049】
また、上方部材31,32をリヤホイールハウス24の車内側壁面に固定するとともに、ダンパ支持部25の前辺部及び後辺部に形成された膨出部27,28と、上方部材31,32の本体部37からなる膨出部とを一体的に連結することにより、上下方向に延びる補強部を形成している。
【0050】
また、図4に示すように、ブレース29,30の下方部材33,34は、それぞれ鋼板材を折り曲げる等により形成した前部フランジ38及び断面L状の本体部39を有する前側部材40と、リヤサイドフレーム10の上面等に固定される後部フランジ41及び断面逆L状の本体部42を有する後側部材43とにより構成している。
【0051】
そして、前側部材40及び後側部材43を一体に結合することより、車幅方向外方側が開口した断面ハット型の下方部材33,34を形成している。
また、図4に示すように、車両の前方側に配設された下方部材33を、その本体部39,42が前面視で下広がりの略台形状に形成するとともに、下端部の車幅方向寸法をリヤサイドフレーム10よりも大きく設定している。
【0052】
そして、下方部材33の車幅方向内側端部を、後述する第1クロスメンバ46のメンバ上側部材48に固定している。一方、車両の後方側に配設された下方部材34を、下端部の車幅方向寸法がリヤサイドフレーム10と略同一寸法に設定し、その下端部をリヤサイドフレーム10の上面に固定している。
【0053】
上述のように、リヤホイールハウス24に予め固定されてサブアッシーされた上方部材31,32の下端部と、リヤサイドフレーム10に予め固定されてサブアッシーされた下方部材33,34の上端部とを、車体の組立時において接着または溶接することにより、ダンパ支持部25の前辺部及び後辺部に形成された膨出部27,28と、上方部材31,32の本体部37からなる膨出部と、下方部材33,34の本体部39,42からなる膨出部とで上下に連続した補強部を形成している。
【0054】
また、フロアパネル1には、車幅方向に延びる第1クロスメンバ46と、第2クロスメンバ47とを配置している。
詳しくは、図2に示すように、第1クロスメンバ46をキックアップ部7に沿って配置し、第2クロスメンバ47を車体後壁部5の後端と第1クロスメンバ46との前後方向における略中間位置に配置している。
【0055】
第1クロスメンバ46は、図2のа部の拡大図に示すように、キックアップ部7の上面側に配設されるメンバ上側部材48と、キックアップ部7の下面側に配設されるメンバ下側部材49とで構成している。メンバ上側部材48の前面部48аを車室内に露出している。
メンバ上側部材48とキックアップ部7とは溶接で固定されており、同様に、キックアップ部7とメンバ下側部材49とも溶接で固定されている。
【0056】
メンバ上側部材48及びメンバ下側部材49は、前後一対のフランジ部を備えた断面ハット型の部材で構成され、第1クロスメンバ46は、フロアパネル1のキックアップ部7を挟んで、メンバ上側部材48とメンバ下側部材49とで閉断面を構成している。
【0057】
第1クロスメンバ46のメンバ上側部材48は、図1及び図2に示すように、その左右両端部の略全体が、側面視で第1ブレース29の下端部と車両の前後方向にオーバラップした状態で、リヤサイドフレーム10を構成する上側部材16の車内側壁面に固定している。
【0058】
そして、上述したように、メンバ上側部材48の上面及び前面部48aに第1ブレース29の下端部をスポット溶接して構成している。また、第1クロスメンバ46のメンバ下側部材49を、側面視においてその略全体がメンバ上側部材48と車両の前後方向にオーバラップした状態で、リヤサイドフレーム10を構成する下側部材17の車内側壁面に固定している。
【0059】
第2クロスメンバ47は、リヤフロア部8の下面側に配設され、前後一対のフランジ部を備えた断面ハット型の部材で構成している。
詳しくは、第2クロスメンバ47は、第1クロスメンバ46の後方側において、第2ブレース30とリヤサイドフレーム10との結合部近傍において、左右のリヤサイドフレーム10を連結している。
【0060】
そして、リヤフロア部8の下面に固定される前後一対のフランジ部を備えた断面逆ハット型の部材からなる第2クロスメンバ47は、その前辺部が、第2ブレース30の下端後辺部と車両の前後方向にオーバラップした状態で、リヤサイドフレーム10を構成する下側部材17の車内側壁面に固定している。
【0061】
なお、上述のサブフレーム15は、第1クロスメンバ46のメンバ下側部材49及び第2クロスメンバ47に略対応する車幅方向外側位置でリヤサイドフレーム10の下側部材17の下面に取り付けられている。
【0062】
また、メンバ上側部材48の車室内に露出している部分である前面部48аには、メンバ膨出部52を設けている。メンバ膨出部52は、正面視横長の略長方形状に前面部48аを膨出させて車両後方側に突出するように形成している。
【0063】
図5に示すように、メンバ膨出部52を前面部48аにおける高さの2/3程度の高さで構成し、前面部48аにおいて車幅方向に3つ備えている。これらのメンバ膨出部52は、隣り合う各メンバ膨出部52間の車幅方向の間隙を変化させて配置している。
【0064】
また、メンバ上側部材48の前面部48аには、図5に示すようにメンバ膨出部52から離間してシート支持部53及びチャイルドシート支持部54も備えている。
シート支持部53は、リヤシート50のシートクッション51(図2参照)をメンバ上側部材48に支持固定する部材である。
【0065】
チャイルドシート支持部54は、リヤシート50に載置するチャイルドシート(図示省略)を支持固定する部材である。図5に示すように、前面部48аを正面視略正方形状で車室側に膨出させたチャイルドシート膨出部57、チャイルドシート固定用フック55及びナット56で構成している。
【0066】
詳しくは、略U字形のチャイルドシート固定用フック55の曲線部分を車室側に突出させるとともに、チャイルドシート膨出部57を貫通する2本の脚の部分を背面側でナット56で固定してチャイルドシート固定部54を構成している。
【0067】
このように構成した第1クロスメンバ46を、車室内の底面を形成するフロアパネル1と、該フロアパネル1に段上がり状に設けられたキックアップ部7と、該キックアップ部7の左右側部において車室内に突出して配設されたリヤホイールハウス24とを備えた車両の下部車体構造におけるキックアップ部7において、車室内に突出して配置しているため、第1クロスメンバ46を大型化し、車体剛性を向上できるとともに、大型化した第1クロスメンバ46に生じる振動を抑制することができる。
【0068】
詳しくは、フロアパネル1に段上がり状に設けられたキックアップ部7に第1クロスメンバ46を設けることで、この段差を有効利用して車室空間を損なうことなく第1クロスメンバ46の高さを高く形成することができる。
【0069】
第1クロスメンバ46の高さを高く形成したことにより、第1クロスメンバ46の断面2次モーメントが大きくなり、第1クロスメンバ46の曲げ剛性を高くすることができる。したがって、第1クロスメンバ46を配置した車体の剛性が高くなり、車両の操縦安定性が向上する。
【0070】
また、第1クロスメンバ46を構成する前面部48aにメンバ膨出部52を備えているため、第1クロスメンバ46の曲げ剛性が向上し、ダンパ支持部25介してサスペンションダンパ12から車体に荷重が加わることによる車体の変形をより抑制することができる。しかも、メンバ上側部材48の前面部48aメンバ膨出部52を備えたことによる第1クロスメンバ46の高剛性化により、第1クロスメンバ46の振動を防止することができる。
【0071】
また、メンバ上側部材48の前面部48aにメンバ膨出部52を備えたことにより、第1クロスメンバ46の固有振動数をメンバ膨出部52を設けていないクロスメンバの固有振動数に対して、シフトさせることがでる。したがって、メンバ上側部材48の前面部48aにおける共振の発生を抑制することができる。したがって、走行時における車室内の快適性を向上することができる。
【0072】
さらに、第1クロスメンバ46をキックアップ部7に備えているため、車室内空間を損なうことなく使用できる。しかも、キックアップ部7の段差を有効利用することで従来よりも大型の第1クロスメンバ46を配置することができる。
【0073】
さらに、メンバ膨出部52を車幅方向全体わたって配設しているため、第1クロスメンバ46の一部のみにメンバ膨出部52を配設した場合に比べ、第1クロスメンバ46の振動をより抑制できる。
【0074】
詳しくは、メンバ膨出部52をメンバ上側部材48の前面部48aにおける車幅方向全体にわたって配設することにより、第1クロスメンバ46の面剛性が高くなり、振動の振幅を抑制することができる。また、メンバ膨出部52を車幅方向全体にわたって配設することにより、クロスメンバの固有振動数を、メンバ膨出部52を車幅方向の一部にのみ設けているクロスメンバの固有振動数と比較して、より大きくシフトすることがでる。したがって、第1クロスメンバ48の前面部48aにおける共振の発生をより抑制することができる。
【0075】
また、サスペンションダンパ12からの荷重が最も作用するダンパ支持部25に対して、第1ブレース29及び第2ブレース30を介して、第1クロスメンバ46及び第2クロスメンバ47を連結しているため、ダンパ支持部25、第1ブレース29及び第1クロスメンバ46、並びに、ダンパ支持部25、第2ブレース30及び第2クロスメンバ47で正面視凹型の骨格を形成することができる。
【0076】
したがって、ダンパ支持部25を介して作用するサスペンションダンパ12からの荷重によってリヤホイールハウス24が内倒れすることを防止することができる。このように、正面視凹型骨格により車体剛性、特に車体のねじれ剛性を向上することができる。なお、上述したように、第1クロスメンバ46を大型化しているため、凹型の骨格による剛性をより向上している。
【0077】
さらに、第1クロスメンバ46の前面部48аに、リヤシート50を支持するシート支持部53を備えるとともに、メンバ膨出部52とシート支持部53とを離間して配設しているので、第1クロスメンバ46にシート支持部53とメンバ膨出部52とを両方備えることができる。
【0078】
また、上述したように、大型化された曲げ剛性の高い第1クロスメンバ46にシート支持部53を介してリヤシート50を支持しているため、例えばフロアパネル1にシート支持部53を設けた場合と比較して、リヤシート50をより安定して固定できる。
【0079】
さらに、リヤシート50上にチャイルドシートを固定するためのチャイルドシート支持部54を第1クロスメンバ46の前面部48аに備え、メンバ膨出部52とチャイルドシート支持部54とを離間して配設しているため、第1クロスメンバ46にチャイルドシート支持部54とメンバ膨出部52とを両方備えることができる。
【0080】
また、上述したように、大型化された曲げ剛性の高い第1クロスメンバ46にチャイルドシート支持部54を介してチャイルドシートを支持するため、例えばフロアパネル1にシート支持部54を設けた場合と比較して、チャイルドシートをより安定して固定することができる。
【0081】
さらに、第1クロスメンバ46を、フロアパネル1より上方に突出して配設されるメンバ上側部材48と、フロアパネル1の下部に配設されるメンバ下側部材49とで構成し、メンバ上側部材48とメンバ下側部材49とが閉断面を形成しているので、第1クロスメンバ46の板厚を厚くしなくても第1クロスメンバ46の断面2次モーメントを大きくでき、したがって、重量増加を抑制しながら車体剛性を向上することができ、車両の操縦安定性を向上させることができる。
なお、メンバ膨出部52は単純な形状であるため、容易に成形加工することができる。
【0082】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明のクロスメンバは、実施形態の第1クロスメンバ46に対応し、
以下同様に、
上側フレームは、メンバ上側部材48に対応し、
下側フレームは、メンバ下側部材49に対応し、
断面変化部及び膨出部は、メンバ膨出部52に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施形態を得ることができる。
【0083】
例えば、断面変化部としてメンバ膨出部52を第1クロスメンバ46のメンバ上側部材48の前面部48aのみに設けているが、メンバ上側部材48の前面部48aから上面部48bにわたって設けてもよいし、第1クロスメンバ46の全体にわたって設けてもよい。
【0084】
また、例えば、前面部48aの一部をキックアップ部7側に膨出させてメンバ膨出部52を形成したが、前面部48aの振動防止及び面剛性向上を目的として、前面部48aの表面や裏面に板材を貼り合せて断面変化部を構成してもよい。これにより、上述したようなメンバ膨出部52と同じ効果を奏することができる。
また、第1クロスメンバ46をメンバ上側部材48とメンバ下側部材49とで構成したが、メンバ上側部材48のみで第1クロスメンバ46を構成してもよい。
【符号の説明】
【0085】
1…フロアパネル
7…キックアップ部
24…リヤホイールハウス
46…第1クロスメンバ
48…メンバ上側部材
48a…前面部
49…メンバ下側部材
50…リヤシート
52…メンバ膨出部
53…シート支持部
54…チャイルドシート支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内の底面を形成するフロアパネルと、
該フロアパネルに段上がり状に設けられたキックアップ部と、
前記キックアップ部の左右側部において車室内に突出して配設されたリヤホイールハウスとを備えた車両の下部車体構造であって、
前記キックアップ部において、前記車室内に突出させて配設したクロスメンバを備えるとともに、
前記クロスメンバの前面部に断面変化部を備えた
車両の下部車体構造。
【請求項2】
前記断面変化部を、前記クロスメンバの車幅方向の略全幅にわたって備えた
請求項1に記載の車両の下部車体構造。
【請求項3】
前記クロスメンバの前面部に、リヤシートを支持するシート支持部を備えるとともに、
前記断面変化部と前記シート支持部とを離間して配設した
請求項1または2に記載の車両の下部車体構造。
【請求項4】
前記クロスメンバの前面部に、前記リヤシート上にチャイルドシートを固定するためのチャイルドシート支持部を備え、
前記断面変化部と前記チャイルドシート支持部とを離間して配設した
請求項1から3のいずれか1つに記載の車両の下部車体構造。
【請求項5】
前記クロスメンバを、
前記フロアパネルより上方に突出して配設される上側フレームと、
前記フロアパネルの下部に配設される下側フレームとで構成し、
前記上側フレームと前記下側フレームとで閉断面を形成した
請求項1から4のいずれか1つに記載の車両の下部車体構造。
【請求項6】
前記断面変化部を膨出部で構成した
請求項1から5のいずれか1つに記載の車両の下部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−6544(P2012−6544A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146122(P2010−146122)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】